食中毒の原因菌として

サルモネラ菌、腸炎ビブリオ、病原大腸菌、黄色ぶどう球菌、ウェルス菌、セレウス菌、カンピロバクター、ボツリヌス菌、エルシニアなどがあげられます。昭和50年代までは腸炎ビブリオ、黄色ぶどう球菌、サルモネラ菌が3大食中毒菌としてほとんど全てを占めていましたが、最近、黄色ぶどう球菌が減り、カンピロバクター、病原大腸菌による食中毒が増えてきました。粘液便や血便には注意しましょう。

●サルモネラによる食中毒
夏から秋にかけて多いとされます。人獣共通感染症の代表的疾患。サルモネラ菌で汚染された食品を摂取し、菌が体内で増殖し食中毒になります。30種類ほど種類があります。鶏卵や鶏肉をはじめとする肉食で発症することが知られていますが、汚染された調理器具から二次的に汚染されることがあります。普通の環境温度でも生存可能ですので生卵、保存食肉の調理時には注意して下さい。またイヌ、ネコ、ミドリガメなどのペットも保菌しておりペットから発病することもあります。ペットをさわった後は十分な手洗いをしましょう。症状がなくなっても、体内から菌は消失していず、自然に除菌されるには10日から3ヵ月かかります。乳幼児では髄膜炎、免疫抑制状態の患者では骨髄炎や関節炎を合併することがあります。

潜伏期間 6〜72時間
症  状 悪心、嘔吐、発熱、腹痛、下痢。血便も。
経過期間 5〜7日で改善
感染源 食肉、鶏卵、ペット(イヌ ネコ ミドリガメ)

●カンピロバクターによる食中毒
年間を通して見られます。人獣共通感染症の一つであり、カンピロバクターで汚染された食品を摂取し、菌が体内で増殖し症状が出ます。原因食品としては調理が不十分な鶏肉であることが多いです。これはニワトリ腸内にカンピロバクターが定着していることが多いためです。鳥類、ネコ、イヌがカンピロバクターを保菌し、排出していることがあるので、これらの動物に触れたあとでは、十分な手洗いをしましょう。神経症状を認めるギランバレー症候群を1−2週間後にごくまれに認めることがあります。

潜伏期間 2〜5日
症  状 下痢、腹痛、発熱、血便など
経過期間 2〜7日
感染源 鶏肉 また、鳥類、ネコ、イヌに触れて

●腸炎ビブリオによる食中毒
海水細菌であるために塩分の多い環境でも発育できます。夏から秋にかけて魚介類特に貝類を生食して中毒することが多いです。冷凍条件下では長期間生存できるので汚染された冷凍食品を解凍した後不適切な保存をすると菌が増殖して食中毒を起こすことがあります。冬場は少ないとされてきましたが輸入食品の増加により発生が報告されています。

潜伏期間 4-24時間
症  状 上腹部痛、嘔吐が強く下痢(多くは水様便時に血便)発熱軽度。
経過期間 ほとんど1週間以内(2〜3日)に回復
感染源 海水魚介類、またはその加工品

●腸管出血性大腸菌感染症 いわゆるO157(ベロ毒素を作ります)
ベロ毒素を産生する腸管出血性大腸菌感染症です。平成8年に堺市で大発生がありました。全く症状のない人から軽い腹痛や下痢のみで終わるもの、さらには頻回の水様便、激しい腹痛、激しい血便とともに重篤な合併症を起こし時には死に至るまで様々です。約6-7%は下痢などの初発症状から数日から2週間以内に溶血性尿毒症症候群または脳症などの重症合併症が発症します。飲食物からの経口感染で少量の菌量でも起こします。牛が保有動物であると言われています。75度1分の加熱で菌は死滅します。

潜伏期間 3−5日
症  状 上記。
経過期間 約6-7%は数日から2週間以内に溶血性尿毒症症候群または脳症合併。
感染源 ハンバーガーや牛肉の生肉、生レバーなど。その他の病原大腸菌による腸炎もあります。

●エルシニアによる食中毒
年間を通じて見られます。多くの哺乳動物や鳥類が保菌しており、人獣共通感染症の原因菌の一種です。感染源として重要なのは保菌ブタにより汚染された食肉です。本菌を保菌しているイヌやネコもいるので、ペットに触れたあとの手洗いが不十分であると、発症することがあります。また虫垂炎の症状、発疹(結節性紅斑)、関節炎、腸重積、血管性紫斑病を合併することがあります。また川崎病の症状を訴えたり、心筋炎、腎疾患もあり症状は多彩に出ることはあります。菌は4℃の低温でも増殖でき、冬でも集団発生することがあります。

潜伏期間 2〜11日
症  状 腹痛、発熱、下痢など
経過期間 2〜7日
感染源 ブタ、野生動物の糞便で汚染された山水や井戸水 ペット

●ウェルシュ菌による食中毒
原因食品は食肉、魚介類で、調理後室温に長時間放置したものが多いとされます。これは、ウェルシュ菌が調理の熱に芽胞を形成して耐え、その後食品の熱が下がる過程で増殖するためです。食品とともに摂取されたウェルシュ菌が腸管で増殖する際に、腸管毒(エンテロトキシン)を産生するため、中毒が起こると考えられています。

潜伏期間 8−16時間
症  状 腹痛、水様便など
経過期間 1−2日
感染源 加熱後放置された食肉、魚介類

●黄色ブドウ球菌による食中毒
記憶に新しいところでは雪印乳業のぶどう球菌食中毒事件があります。食物に付着した黄色ブドウ球菌が増殖する際に、毒素(エンテロトキシン)を作り、毒素が含まれる食品を摂取した人に中毒を引き起こします。感染型の食中毒に比較して、潜伏期が短いことが特徴です。原因食品としては、おにぎりが大半を占めます。特にサケを入れたおにぎりによる中毒事件が多いようです。これは、焼いたサケの切り身を手でほぐすときにブドウ球菌に汚染され、その後の保存が不適切であるため、ブドウ球菌が増殖して毒素を産生し、中毒を起こすためと考えられます。しかし最近減少傾向です。また和洋菓子にもブドウ球菌が付着していることがあり、保存が不適切であれば、保存中に菌が増殖して食中毒を起こすことがあります。毒素は耐熱性で調理による加熱でもこわされにくいと言われています。

潜伏期間 1−6時間
症  状 嘔吐腹痛下痢で発熱はなく回復が早い
経過期間 1−2日
感染源 調理者の化膿創により汚染した食品 にぎりめし 卵焼き 弁当 洋菓子

●ボツリヌス菌による食中毒
食品に付着したボツリヌス菌が増殖する際に作られる毒素を、食品とともに摂取して症状が出ます。ボツリヌス中毒の原因となる食品としてはソーセージ、自家製缶詰、いずしなどが以前から知られています。近年真空パック食品(辛子蓮根食中毒)、オリーブオイル、焼きジャガイモ、真空パックハヤシライスによるボツリヌス中毒も発生しています。汚染された蜂蜜が原因となった乳児のボツリヌス中毒も報告され、乳児は蜂蜜を与えないように勧告されています。ボツリヌス毒素は神経毒(易熱性神経毒)であり、原因食品を摂取したのち、平均12〜24時間の潜伏期ののち、めまい、頭痛、視力障害、複視、散瞳などが生じます。重症例では呼吸不全が現れて、死亡することもあります。特異的治療には抗毒素血清が用いられます。

潜伏期間 12-24時間
症  状 神経症状
経過期間 2-3週間
感染源 ソーセージ、自家製缶詰、いずし、真空パック食品(辛子蓮根食中毒)、 オリーブオイル、焼きジャガイモ、真空パックハヤシライス

●セレウス菌による食中毒
加熱調理した食品中でも芽胞を形成して生き残ります。食品温度が下がる過程で増殖して、毒素を出して食中毒を起こす場合(毒素型:易熱性エンテロトキシン)と、汚染食品とともに体内に入ったのちに増殖し、毒素を作って食中毒を起こす場合(感染型)があります。すなわち、30分から4時間の潜伏期で、嘔気、嘔吐が現れる嘔吐型食中毒と、潜伏期が8-12時間で腹痛、下痢を主症状とする下痢型食中毒の2型です。発生件数では前者が多いです。原因食品は、焼飯、ピラフ、スパゲッティであり、炊き上げた米飯やゆでたスパゲッティを長時間室温に放置したため発症します。

嘔吐型食中毒
潜伏期間 30分から4時間
症  状 嘔気、嘔吐
経過期間 1-2日
感染源 調理後放置された米飯、焼飯、スパゲッティ

下痢型食中毒
潜伏期間 8-12時間
症  状 腹痛 下痢
経過期間 1-2日
感染源 調理後放置された米飯、焼飯、スパゲッティ