ある女の悪意が形を成して『毒虫』
となった。
毒虫は、誰もが隠しもつわずかな心
の闇をも見つけだし、次から次へと
潜り込んでゆく…。
愛の解毒剤とは?
毒虫の辿り着く先とは?
因果応報の物語…

著者:月森砂名による、
    デジカメPhotoつき小説
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―――昔の男は、いま、どうしているだろうか?
 平穏であることに慣れきった一人の女が、ふと抱いた悪趣味な好奇心…。
 それが、この物語の始まりである。
 そしてそれは、果てしない「毒虫」の旅路の始まりでもあった。

 「あの人はいま…」

 どうして人は、「過去」の人が今、どうしているのかを知りたがるのだろう。
 単に懐かしいからか?
 本当は、人の凋落を眺めて、平凡ながらも今の己に満足しようという浅まし い魂胆なのではないか?
 いずれにせよ、多くの人は、「あの人はいま…」が好きだ。

          **************************

 今日は夫が、出張先から帰ってくる。
 とはいっても、どうせまた午前様に決まっている。
 あと丸一日、自由な時間が満喫できるのだ。

 いつものように、カフェオレとワイドショーとメールチェックで、朝 のひとときをゆっくりと過ごす。
 午後。簡単に掃除を済ませ、歩いて10分の食料品店に買物に出掛け る。
 そして夕方は推理小説を読む。
 一人でボソボソと夕飯を食べ、インターネットをしながら夫の帰りを 待つ。
 それが日課だった。
 自由な時間など、あり余っているマチだった。
 そんなとき。
 「あの人はいま…」という好奇心が、ふと頭をもたげたのである。
 ひょっとするとその好奇心とは、退屈から生まれた「慢心」だったの かも知れない。
 平穏であることが当たり前になると、人は「平和の池」に、つい「悪 心」という小さな石を投げ入れてしまうものである。
 マチもそうだった。
 毎日同じことの繰り返し…それこそが幸せの証であることを忘れて、 「昔の男」の名前を、検索エンジンに入力してみたのである。
 心のどこかで、そのくだらなさにげんなりしながらも…。

 588件ヒットした。
 同姓同名がいるらしく、著書の多いその学者についてのサイトがほと んどだった。
 しかしついに、発見した。
 458件目に、その男を…。
 それは、インテリア・デザイナーとして成功した男のサイトではなく、 こじんまりとしたフレンチ・レストランのサイトだった。
 どうやら、男の妻が運営しているホームページで、レストランのオー ナーを務めているらしい。
 店のすべてを、その妻がプロデュースしている。
 シェフはいるが、メニューはすべて自分で決め、自ら腕も奮っている …といったようなことが書いてあった。
―――ふん、どうだか…
 「オーナー自らがプロデュース」といえば聞こえはいいが、店の内装 すべてが、夫の手によるものであることは、マチにはお見通しだった。
 輝くような笑顔で写っている女性オーナー。
 カルバン・クラインのスーツに身を包み、ヘアメイクは、おそらくプ ロが担当したのだろう。
 以前、「今もっとも輝いている女性」というタイトルで、雑誌に取り 上げられたこともあったようで、そのときの記事が掲載されていた。
 「お優しいご主人と、可愛らしいお子様二人に囲まれて、仕事に家庭 に、幸せ一杯の…」という、女性記者のお決まりの社交辞令を目にし たとき、マチの心の奥で、カチッと音を立ててスイッチが入った。

 と同時に、女の素顔がフラッシュバックした。
―――あのときの女…

 それは、その男とまだ付き合っていた頃のことだった。
 男のマンションに合い鍵で入って、先に待っていたマチは、チャイム の音に玄関まで飛んでいった。
―――何で、チャイムなんか鳴らしたんだろう?
 という疑問が湧いたのと、玄関の三和土(たたき)に降りたのとが同 時だった。
 新聞の勧誘か?
 そうっと、ドアの覗き穴から外を窺う。
 人影はなかった。
―――あれ?
 またチャイムが鳴る。
 もう一度覗いてみる。
次の瞬間、マチは「ひっ!」と短く叫んで、のけぞった。
 覗き穴の向こうに、目玉があったからだ。
 目と目が合った。
 といっても、向こうからコチラは見えない…ハズだ。
 またチャイムの音。
 マチはそうっと後ずさりして、呼吸を整えた。
 遠ざかる気配…。
 三たび、覗き穴から外を窺う。
 人影が角を曲がり、ようやくしてから扉を開けると、玄関脇に花束が 置かれてあった。
「おたんじょうび、おめでとう!」
 カードが刺さっていた。
 その花束を黒いビニール袋に放り込み、すぐに隣の雑居ビルのゴミ用 コンテナーに捨てに行ったのは言うまでもない。
 田舎から出てきたばかりといった風体の女の子だった。
 おそらく男の誕生日に、花束をそっと置いて帰るのが精一杯の告白だ ったに違いない。

―――あのときの、あの女が…
 それから13年…。
 人は変わる。
 しかしマチには、釈然としない思いだけが残り、それはどんどんと膨 れ上がっていった。

 突然パソコンに向かうと、すごい勢いで、何かを入力し始めた。

 マチの悪意は、みるみるうちに形を成した。
 『毒虫』の誕生である。
 毒虫は、ネットに潜り込み、どんどんその中を這って行った。
 もちろん生みの母マチは、そんなこととは知る由もないが…。
 こうして、マチの取った浅はかな行動が、思わぬ波紋を広げてゆくこ とになるのである。

 こうして毒虫は、今日も人間界を彷徨う。「やれやれ…」。  To be continued.

【砂名のだ・そ・く】
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 昨年末、久々の書き下ろし小説【ヌード最前線】を配信し終えたばか りですが、また新たに、メルマガ小説をスタートさせることになりまし た。
 次々と創刊するエネルギーが湧いてくるのも、みんな、読者のみなさ まのおかげです。

 かねてよりずっと、文章とビジュアルで表現できるものをと思ってい ましたが、今回はその第一歩を踏み出したというところでしょうか。
 文章同様、未熟な撮影技術ではありますが、読者のみなさまに、少し でも楽しんでいただけたら…。
 そんな思いで、デジタル写真を掲載いたしました。
 つたない写真をご覧になって、「これなら私にも撮れる!」と、みな さまのデジタルライフのお役に立てれば幸いです。
 今回、物語は次々と新しい登場人物へとリンクしてゆきます。
 いったいラストには、何が待っているのか?
 どうか、最後までお付き合いいただきますよう、お願いいたします。

By Sana Tsukimori  月森 砂名
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