第8夜 back number
   
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■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 2001/08/31/Fri. ■■■
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  .:*:・'゜★。 シネマントロプスの百一夜物語  ☆彡
 .:*:・'゜☆。 第8夜-----毒 〜poison〜
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 確かに... 責任ある仕事を投げ出し、家族の反対を押し切ってまで、
ルイの後を追いかけることなど出来ないと、躊躇されるお気持ちはわか
ります。それに少しばかり彼と一緒に暮らしていたからといって、どこ
の馬の骨ともわからない私のことを、信用できないのも当然です。
 そんな不安な気持ちに追い打ちを掛けるようですが、はっきり言って、
私はロクでもない人間です。結婚したばかりの妻を置きざりにし、知人
から借りまくった金で、こうして最果ての地でのうのうと暮らしている、
最低の男です。
 このメールを読まれたらきっと、アドレスごとばっさりと削除されて
しまうでしょう。お怒りはごもっとも。しかしちょっと待って下さい。
 実はかくいう私も、彼の帰りを待っているのです。というより、戻っ
て来てもらわなければ困る、よんどころない事情があるのです。今はま
だお話出来ませんが、そのうちにいろいろと分かってくることがあると
思いますよ。

 ここは一つ冷静になって、映画の話でもしながら、お互い気長に彼の
帰りを待つというのはどうでしょうか?
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 さて... 。1989年度、ピーター・グリーナウェイ監督・脚本の
 【コックと泥棒、その妻と愛人】はご覧になったことがありますか?

 自分がオーナーでもある高級フランスレストランに、毎晩、妻や手下、
取り巻きらを引き連れてやって来ては、マナーや味について講釈を垂れ
る大泥棒アルバート。しかしその実態は、無教養で味音痴の癖に虚栄心
ばかり強く、少しでも気に入らないことがあると暴力三昧。粗野で下品
なだけの男です。
 そんな夫にうんざりしている妻ジョージーナは、いつも独りで読書し
ながら食事をしている物静かな中年の学者、マイケルに惹かれます。二
人はアルバートの目を盗んで、レストランの化粧室や食料庫で逢瀬を重
ねるのですが... やがて残忍な殺人と、世にも恐ろしい復讐劇が始まり
ます。

 かなりショッキングなストーリーなのですが、観るものを圧倒するの
はその映像です。
 豪華絢爛な食卓は、まるでオランダ絵画の静物画に見られる細密描写
のよう。陰影の強い映像は、光と闇のコントラストが絶妙なバロック絵
画を彷彿とさせています。
 またレストランの赤、化粧室の白、厨房のグリーン、駐車場のネイビ
ーに合わせて、J・P・ゴルチェデザインのドレスの色が一変するとい
う凝りよう。さらにグリーナウェイ作品に欠かせないマイケル・ナイマ
ンの音楽が色を添え、総合芸術としての完成度の高さを見せつけていま
す。

 セックスシーンに包丁さばきをだぶらせるといった演出も冴え、性欲、
食欲、名誉欲、支配欲と、人のとめどない「欲」を描き切っています。
キャビアなどの黒い食べ物を食することは、「死」を克服したいという
願望のあらわれであると語るコック長。「死の克服」は人間の究極の欲
望ではないでしょうか。
 新鮮な食材が山と積まれた厨房の傍らで、トラックに積まれたまま放
置され、腐って蛆が蠢く食材。豪奢な食卓から聞こえてくるゲップと吐
瀉音。無惨な死体と芸術的な料理。残酷と慈悲。善と悪。生と死... 徹
底して対比させています。

 不倫相手のマイケルが、次のように語るシーンがあります。
  「主役が初め、一言も話さない映画があった----次に何が起こるか
   ワクワクした----すべて可能だ----しかし----がっかりさ。話し
   始めた。5分で興味を失った」
 グリーナウェイの映画へのこだわりが、この科白に込められているよ
うに思えます。

 グリーナウェイ作品全般にわたって言えることですが、映像における
一部の隙もない構図と高度な質感は、観るものに対して、極度な緊張感
と集中力を強います。また厳選された科白は、暗喩的であるがために常
に難解です。その独特の世界が、一部の観客を困惑させる一方で、彼の
魔術にどっぷりはまってしまうファンを生み出すのです。

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 リバイバル特集が上映されていて、この映画を観るのは二度目でした。
 しかし慣れない異国の土地で、生きることに疲れて身も心もズタズタ
だった私に、この選択は少しヘビーだったようです。映画館を出た途端
目眩がして... どのようにして自分の部屋まで辿り着いたのか。
 扉を開けた途端、激しい嘔吐と吐血。即日入院を余儀なくされたので
した。

 どうやら見事な芸術作品でありながら、人間の残忍な本質に迫る克明
な描写と、耽美の毒気に当てられてしまったようです。

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 もう一本、毒気に当てられた映画をご紹介しましょう。当たったのは
私ではありません。友だちのマチルダです。

 それは【ハムナプトラ】のスティーブン・ソマーズ監督・脚本の海洋
モンスターパニック映画【ザ・グリード】(1998年度)です。
 南シナ海を処女航海中の豪華客船が事故に遭遇。そこへ密輸船の乗組
員と傭兵が通りかかるのですが... 。
 客船内は血塗られ、まるで人影がない。
 どこからともなく聞こえてくる薄気味の悪い咆哮、天井を軋ませ壁を
変形させて近づく正体不明の怪物。
 そしてついに現れた巨大ミミズ!【アナコンダ】(1997年度−ル
イス・ロッサ監督)を凌ぐおぞましさ。
 怪物にエサにされた乗客たちの残骸シーンは、究極のスプラッター。
 ちょうど横でピザを食べながら、一緒にビデオを観てていたマチルダ
は、このシーンを観た直後、突然、恐ろしい勢いで、胃の中の物を吐き
散らかしたのでした。もし、乗客が巨大ミミズに喰われるシーンがあっ
たなら、気絶していたかも知れません。
 しかしCGを駆使し、水上バイクで客船を脱出するアクションシーン
など、その気になって楽しめば、一挙に見せてしまう面白さなのですが
... 。
 彼女はもう、二度とスプラッター映画は観ないと、怒って帰ってしま
いました。しかし、いきなり人前で吐いたりして、自分の方がよっぽど
スプラッターだと思いますがね。
 その後一ヶ月は、海洋生物、いえ海産物が食べられなかったと、電話
で怒鳴り散らしていましたが、物なんか食べながら映画を観るからいけ
ないんですよ。
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 そうそう、入院の話をしようとして、少々横道に逸れてしまいました。
次回をお楽しみに。            シネマントロプスより…

By Sana Tsukimori  月森 砂名
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