MNESI
シードバージョン

夢を見た
野を制す白い獣毛が血の赤に染まる姿

そして黒い石の空が落ちる・・・・・









 目覚めると、真っ白なシーツをしかれたベッドの上に寝かされていた。
「・・・・ここは・・・・?」
 自分の身体を見ると、真っ白な包帯が身体のいたるところに巻かれている。
 頭に響いてくるような鈍痛を、額を押さえることでこらえ、上体を起こし視線をを上げる。
 見なれない天井、見なれない壁、見なれない窓の景色・・・・・・。
(見なれない・・・・?)
 あたりを見まわしながら、ゆっくりとベッドから這い出す。
 何気なく、あたりにある粗末な調度品などに手を伸ばし触れてみた。
 確かに伝わる物の手触りに、ふと安心感を得る。
 赤い前髪をかきあげて、おかしな事でいわれの無い安堵感を感じた事に自嘲の笑みを浮かべた。
「何なんだろう・・・。ここはどこだ?」
 あたりを見まわしても所在を示すものは何も無く、ただわかるの事はここがどこかの安宿であることくらいである。
 不意に、背後で床のきしむ音が聞こえ、部屋の前で止まった。
「・・・・誰かいるのか?」
 憮然とした態度で扉の向こうの”誰か”に語り掛ける。
 ドアを押し開いて現れたのは、20代後半ぐらいの銀髪で目の鋭い男だった。
「気がついたのか、シード」
 男は、赤髪の青年をシードとよんだ。
「シード?それは俺のことか?」
 青年の反応に銀髪の男はかるく目を見開いた。
「何を訳のわからないことを言っているんだ。ここには俺とお前しかいないんだから、そうに決まってるだろ?お前は自分の名前まで覚えていられないのか?」
 妙になれなれしく、突っ込んだものの言い方をする男に対し、シードは反感の色を顔中に広める。
「ムカツク奴だな・・・。シードなんて名前聞き覚えもねーよ。だいたいそう言うお前は誰なんだよ?名前は?!」
「・・・お前なんだかおかしいぞ?自分の名前に聞き覚えが無いなんて・・・熱でもあるのか?」
 そう言いながらクルガンは、シードの額に手を当てて自分の額との温度差をみる。が、それはシードの手により払いのけられてしまった。
「お前がシードでなければ、お前はなんだ?」
 クルガンは重い息を吐きつつ、近くに置いてあった椅子に手を伸ばし、引き寄せて腰を下ろす。
「俺はだなぁ・・・えぇっと・・・・・・?」
 始めは勇ましく名乗りをあげるつもりで張り切った口調だったが、だんだんそれは力なく、混迷に満ちたものに変わる。
「どうした?」
 シードの変化にクルガンは目線だけを彼に向けた。
 彼は落ち着きなく辺りを見回し、口元を押さえて歩き回る。
「・・・・・・・わかんねー・・・何でだよ・・」
 懸命に思い出そうと記憶の糸を手繰り寄せる。しかしどうしても途中でその糸は切れていて、それ以上を求めると雷鳴のような耳鳴りが頭の中で地響きをおこし、口の中に耐え難い苦みと吐き気を引き起こした。
 シードはそれに耐えつつも何としてもと、過去と自分を隔てる壁を叩く。
「シード・・・・・!?」
 目の前で頭を抱えてくずおれるシードにただならぬものを感じ、クルガンもあわてて彼に手を差し伸べる。
それと同時に、シードの意識はまた深いところへ落ちて行った。









小さいころは、父さんと母さんに見守られてやんちゃ放題に育った。

俺はごく普通の中流貴族の家庭に育ったが、何の不自由もなく少年期を過ごした。

それから俺は父の知り合いの勧めで、ハイランドの王国軍に入った。

最初は慣れないことに戸惑いもしたが、気の良い上司と部下に囲まれ俺は幸せだった。

俺は俺望むままに武勲を上げ、出世の階段をおもいっきり駆け登った。

なにもかもが俺の思いのとうり・・・・・思うがままに・・・・・・・。

・・・・・・・・ホントウニ・・・・・・・・・?

俺は幸せだった。

・・・・・・・・シアワセダッタ・・・・・?















ソレハ真実?






















 痛い・・・・・・・・・・
 シードはじんわりと広がる頭への激痛に、低いうめきを上げながら目を覚ました
 起きてなお頭を締め付ける痛みに、シードは無意識のうちにサイドボードの上の水差しに手を伸ばしす。
 だがバランスを崩して前のめりに倒れた彼の手に押されて、水差しは耳につく断末の声を上げ床に冷たい水と青い破片を散らした。
 記憶の糸を手放してなおシードを襲う激痛・・・・この訳の分からない痛みにシードの手が何かを求めて宙を泳ぐ
 気が付くと外は宵闇に包まれ、上弦の月だけがぽっかりと暗い空に白い穴を開けている。
(何でこんなに苦しいんだよ・・・・・・俺は一体何なんだ・・・今のが俺の過去なのか?俺は・・俺は本当にあの夢の中の俺なのか・・・・・!?)
 シーツの上で握られた拳に更なる力が入り、手の厚めの皮膚を裂いて爪が肉に食い込む。
 白いシーツに赤い海が徐々にその領域を広めて行く。
「シード、具合はどうだ?」
 クルガンの声がシードの鼓膜を緩やかに撫でる。 すると今までの頭痛が少し和らいだような、そんな感じがしてシードは呆然と声の主を見上げた。
「・・・・何をしてるんだ!血が出てるじゃないか。全く、お前はこのベッドに紐でくくりつけておかなければならないほどの重病患者か?」
 素早くシードの手を取り、懐からだした白いハンカチで血に濡れたシードの手を縛る。
(何でこいつは俺にこんな事してくれるんだ?)
 手に巻かれたハンカチと、クルガンの顔を交互に見る。
 シードは手当された手にもう片方の手を添えて握りこむ。
 熱いようなぴりぴりとしたような痛みと共に、先ほどの夢の記憶が脳裏を駆け巡る。








幸せな家庭・・・・・・優しかった父さんと、母さん。

居心地の良い職場・・・・・・・・気の良い上司と気の利いた部下。

・・・・・・ソノ過去ニハ何カ・・・・・誰カ足リナイ・・・・・・












「帰らなきゃ・・・・・・・俺の国に・・・父さんと母さんが待ってる・・・」
 再び沸き起こる頭痛に目を顰めながら、シードはクルガンの肩を支えにベッドからはい出た。
「帰るって・・・・どこに?」
 自分の肩から離れようとする手を捕らえ、クルガンはフラフラと視線を漂わせているシードの顔を両手で包み込み、自分の方に向かせた。
「お前の父と母はもう何年も前に亡くなっている。我々の国も・・・・・・・もう無い。私たちにはもう・・・・・帰る場所など無いんだ」
 とぎれとぎれではあるが、はっきりとした口調でシードに言い聞かせる。
 真っすぐに瞳を見つめ、 その言葉が偽りでないことを知らしめた。
「国が・・・無い?俺に帰る場所は無い?ウソだ・・・・・俺の家族はまだ生きてる!!俺の帰りを待ってるんだ!尊敬できる上司に信頼のおける部下・・・・俺には守るものだってたくさんある!帰らなきゃいけないんだ・・・俺は・・・俺は!
 じたばたとクルガンの手から逃れようとシードはうつむいて腕を振る。が、クルガンはすきをみてそのシードの腕の中に滑り込み性急にその口を閉じさせた。
 自分の唇で
 始めは何が起こったのか全く分からず、シードはぴたりと暴れるのを止めたが、クルガンの熱く柔らかな舌が唇を割って口内に滑り込んできたとき、やっと状況を理解して彼の肩を掴んだ。
「う・・・・んんっ・・・!」
 息苦しいまでの深い口づけに、シードは足元に眩暈にも似たふらつきを感じ、自分から引きはがすために掴んだ肩に必死ですがりついた。










優しい父と母

・・・ソレハ幻・・・

気の良い上司に信頼のおける部下

・・・デモ誰カ足リナイ・・・

・・・誰ガ?・・・<















「あっ・・・・や、テメっ・・・・」
 いつの間にかシードはクルガンのてによってシーツの海に沈められていた
 はじめは、クルガンもこうしてシードを抱く事を目的にしたキスでは無く、ただ大人しくさせようとしたかっただけだったのだが、思いのほか甘く時折見せる初めての時のような初々しいそぶりが、クルガンの情欲をくすぐった。
 逃げるようにして枕に頭を乗せたその赤い髪を追ってベッドに上る。
 底知れぬ危機感を感じてシードは身をよじってベッドからはい出ようとしたが、クルガンの唇でシーツの中に押し付けられるて、失敗に終わる
「・・・・・やっ・・・な・・・何を・・・」
 舌にからめられて力を失った腕が、クルガンの肩に掛かりやんわりと押し返す。
 しかしその手はクルガンに包み込むように取られ、白い波間に縫い付けられた。
「何・・する気だ。正気か!?俺は男でそんなっ・・・」
 うめくような悲鳴を上げながら抗議する。が、その瞳は潤んで妙なほどに艶やかな赤に彩られている。
「幾度も重ねた体だ、忘れたとは言わせないぞ。
しかし・・・お前が仮に忘れていたとしても、 体だけはすべて覚えていてくれていると思うがな。それの証拠にお前は俺を本気で拒もうとしない・・・」
 開け放たれたシャツの前から惜し気なくさらされる均整のとれたシードの体に、クルガンの冷たい指が這う。
 緩やかなそれでいて引き締まった曲線を描いてしなる腰をなであげると、 シードのうめきが甘い嬌声に変わる。
 クルガンは満足げに微笑みながら、部屋の明かりを小さくした。
 こうなるとベッドで蠢く二つの陰を映し出すのは月の明かりだけとなる。
 だがクルガンは、シードの肌が月明かりに映えることを一番よく知っていた。
 胸の突起を舌で押し潰し、軽く歯を立ててもてあそんでから軽く吸い上げる。
 たったこれだけのことで、 シードの体は大きく弓なりに跳ね上がる。
 クルガンは自分の知りえるシードの性感帯をゆっくりと嬲りながらせめあげ、一つ一つに赤い印をつけた。
「はぁ・・・・・んっ、やぅ・・・・・・」
 信じられなかった、自分がここまで淫猥な声を上げこの傍若無人な振る舞いを許し、求めるなんて・・・・・シードは攻められるごとに頭の芯に熱いものを感じ、それがもっと奥にある何かをじんわりと溶かして行くような、そんな錯覚の中たまらずに目を閉じた。
(瞼の奥、最も暗い場所に赤い光が見える・・・)
 ぼぉっと溶けてしまうような意識の中、シードは幻のような夢に見入った。





『ん?どうしたシード、また寝坊か?締まりがないな、
そんなことではハイランドの将軍として立派にやっていけんぞ?

嫌みたらしくて、偉そうで・・・・・

『戦場ではしゃぐな!ここは子供の遊び場じゃないんだぞ?
勝手な行動は控えろと何度言わせるつもりなんだ?シード・・・・』

冷徹で、完璧主義者で・・・・・・・・・

『何だ?どうした、こんな時間に・・・また癇癪でも起こしたか?
しょうがない奴だな。入れ、 今日はうまい酒を飲ませてやろう。
それで少しは落ち着くだろ?』

時々優しくて、俺のこと甘やかしてくれて・・・・・・


・・・・誰ダッケ?コイツ・・・・











クルガンの与える愛撫にも少しなれ、シードにも余裕が出てきてうっすらと目を開く。
 目の前ではクルガンの銀色の髪が、月光に照らされて淡い光を含んで揺れている。
 相変わらず彼の与えてくる刺激にご丁寧に、小さな反応を返す自分の体がウソのようではあるが、クルガンから伝わる体温が妙に心地よかった。
 シードはそっとその目の前の髪を撫でた。
「シード・・・・・・?」
「はあっ・・・・やだ、やめる・・・な・・・・・」
 シードは月明かりに美しい銀髪を抱き締める。
 あまりのシードの変化にクルガンは眉を顰めつつも、いつもの彼らしさを取り戻しつつあることに喜びを隠しきれず、思わず表情をほころばせた。
 クルガンの手がシードの下肢をさぐる。
 新しい刺激にシードは、さらさらと流れるような赤い髪を振り乱しながら喘ぐ。
 クルガンの舌は腹の上を通過して、シードの中心に絡み付いた。
 先のくびれを唇で軽く締め上げてから深々とくわえ込む。舌を使って根元までを丁寧になめあげ吸い上げる。
「・・・・あぁぁっ!」
 シードはかん高い嬌声とともに、クルガンの口の中であっさりと果てた。
 その後すぐにクルガンがそれを飲み下した音が、シードの耳にはっきりと届く。 
 下肢から顔を離し、肩で息をするシードを上から見下ろしながらクルガンは目の前にある彼のご自慢の赤い髪を撫でた。
 シードもクルガンの手に自分の手を添えて、気持ち良さそうに目を薄める。
 そして、再び幻がシードの前に姿を現した。











・・・・赤く燃える街・・・・

・・・・不落と信じていた城の陥落・・・・

・・・・敵軍の誇らしげな勝鬨の声・・・・

敗北シタ俺タチニ、カエル場所ハ無イ


















「本当に・・・俺の帰る場所は無くなっちまったんだな・・・・・」
 シードの閉じられた目から涙がこぼれる、それを押し隠すように彼はクルガンの手に顔をうずめた。
「シード・・・・お前記憶が・・・・」
 クルガンは肩を揺らしながら嗚咽するシードの顔を自分の方に向かせ、優しく両手で包み込み頬をつたう涙を丁寧になめあげた。
「・・・・・俺たちの愛した国も・・・掲げてきた旗も・・・みんな燃えちまった・・・」
 息を詰まらせながら喉の奥から絞り出したようなかぼそい声で話すシードの姿に胸を締め付けられるようで、クルガンは唇をなめあげて舌を口の中に滑り込ませ、深いキスを交わす事によってシード慰めた。
「なぁ・・・最後まで・・してくれ・・・・そうしたらきっと忘れられる・・・お前に溺れてきっと忘れられるから・・・」
 そう言ってシードはクルガンの首にしがみついた。
 涙ながらに続きをせがむ彼の背中を撫でながら、クルガンは自分の唾液で湿らせた指を、シードの後ろに押し当てた。
「慣らさなくていい・・・そのままお前を・・・・・」
「シード・・・・わかった」
 軽い愛撫の後指が離れ、クルガンの猛った中心が徐々にシードの中に埋め込まれていく。
「あ・・・・あぁぁあ!」
 慣らしていないそこは堅く、初めはクルガンを全く受け入れようとはしなかったが、クルガンの与える愛撫によって力を失い、徐々に彼を受け入れて行った。
 完全にクルガンを咥え込んだところで、シードが『待って・・』とつぶやき小刻みに腰を震わせた。
「はぁ・・・いいよ、もう・・・・・・来い・・・」
 シードの甘い誘い声に、クルガンはゆっくりと彼に腰を打ち付け始めた。
「あぁぁぁっっっ!!」
 シードの嬌声が悲鳴のように高くあげられる。
 これまでに無い高ぶりに、クルガンも夢中で腰を振る。
「シード・・・シード・・・!!」
 激しく名を呼び、絶頂へと上り詰めて行く。
シードも全身を揺さぶられながら、 クルガンに合わせて腰を動かした。
「あっ!・・はぁっ!!ク・・・クルガン!!!」
 繋がっているところから、解け合うような熱を感じシードは自分の腹に欲望を吐き出した。
 同じく、クルガンも絶頂を向かえシードの中で吐精を果たした。












死を覚悟したあのとき

かすれる意識の中で、最後まで一緒にいた

同じ国を思い、愛し同じ信念の下に歩んで来た

そして

最後の最後まで俺と一緒にいてくれた












「ありがとな・・・・クルガン・・・」





 クルガンの腕の中で恍惚の表情の上にはかなげな笑みを浮かべ、シードはまどろみの中に落ちていった。

 こいつがいてくれれば良いのかもしれない
 クルガンと出会えたあの国はもう無い
 でも、俺の傍らにはちゃんとクルガンがいる
 本当はそれで良いのかもしれない・・・・・・
 完全に眠りに飲み込まれる前に聞こえた
「シード・・・愛している」
瞼に落とされたキスも・・・・

















・・・・・・俺はお前とともに生きて来た。これまでもそして、これからも・・・・・・

そうだろ?クルガン



















TOP


 
 
 初めてウェブに掲載した小説だったでしょうか。
 しかもなんだかラスト外してるし(爆)
 誤字とか脱字とか今でも探すと出てきます。
 見つけたら知らせてあげてください(爆)
 またガンバろ・・・。
 とりあえず、この小説はお約束道理ねーさんへ捧ぐ!
2000.?.?