「必殺技が欲しい」
「なんだ? いきなり……」
ここは妙神山 『静時之間』で、その一角にある休憩所。 修行も一段落して休んでる最中、雪之丞の唐突に放った一言に俺は戸惑いながら聞き返すと、奴は更に熱っぽく語りだす。
「この前にみてぇに、いきなり魔族と戦うことだってあり得るんだ! そいつらと渡り合う手段は多いに越したことはねぇ」
「……うん」
…………まぁ、正論だな。いや、正論ではあるんだが、なんか釈然としねぇな。
「ま、まぁ……技のレパートリー増やすのは良いことだと思うけど、どうすんだ?」
「技じゃねぇ! 『必殺技』だ! 出したら必ず相手を殺れる、読んで字のごとく『必殺技』だ!!」
「定義はいいよ。具体的にどうするか聞いてんだ」
俺が先を促すと、こいつは当たり前のように答えてくれた。
「それを二人で考えんだよ!」
「そっからかよ!!」
アホか! 期待して損した。そもそも、必殺技って色々やってる内に何となく閃くもんだろ? 今みたく、いきなり言い出して考えるもんなのか?
「俺たちゃ、コンビだぞ。二人の合体技が在ったって、いいだろ?」
「合体技か……」
確かに二人いんだから、上手く連携出来れば大きな力が出せるかもな。『必殺技』がいつまにか『合体技』にすり替わってるが、気にしたら負けなんでスルーする。
「俺の魔装術とお前の文殊、二つ合わせればデッカイことが出来ると思わねぇか?」
「面白いとは思う……」
こいつの魔装術に、文殊の反則的な特性を組み合わせれば、鬼に金棒って感じだよな。
「ドーピングでもするか」
「ドーピング?」
怪訝な顔をする雪之丞に更に説明する。
「文殊でお前の霊気回路を一時的に強化するんだよ。そうすりゃ、魔装術のパワー、スピード、防御全部上がる」
ぶっちゃけ、自分で試そうか考えてたやつだけどな。俺よりコイツにやった方が効果的な気がする。
「パワーアップか、悪くねぇな♪」
「ただ、どうしても回路に負担が掛かるから慎重にやんねぇとな」
調子に乗って、いきなり上げたら普通に死ぬしな。
「悪くはねぇけど〜……」
なんだよ? なんか、これじゃない感出し始めたけど、普通にありだと思うぞ。
「それだとお前が文殊投げて終わりだろ? 他の奴に立って出来るし、二人の連携技って感じがしねぇんだよなぁ〜」
うん、『合体技』が、今度は『連携技』に変わったぞ。始めから結構ズレてる気がすんだが、ここが終着点だよな?
腕組みして、なんか難しそうな顔してるけど、お前は本当に何がしたいんだ?
「投げて終わりって……文殊は基本そういうもんだ」
「地味だな」
「ああ、地味だよ! 地味で悪かったな」
そりゃ、お前の霊波砲みたいに溜めも、ポーズも必要ねぇからな。予め凝縮した霊気を投げて、解凍するだけで華も迫力もあったもんじゃねぇさ。
「う〜ん、それでも何か二人やってる感は出したい。いっそ合体してパワーアップなんて出来ねぇか?」
「無茶言うな!」
漫画じゃねぇんだぞ! 複数のラスボスが合体してパワーアップなんて展開よくあるど、俺達でどうやってやんだよ。
失敗したら、どうなる? 二人共死ぬんじゃねぇか?
よしんば合体出来たとして、お互いの自我はどうなる? 統一出来なくて、発狂するのか? もしくはどっちかが消えるのか? あるいは両方……
そもそも合体して、パワーアップする保証もないし、もっと言えば戻れる保証だってないぞ。新しい自分として人生やりなおすか? なんにしても恐すぎる……
「無理か?」
「何が起こるか解んねぇよ。リスクが高すぎる」
動物で実験でもしてみるか? でも、何か可哀想だな……
「面白いけど、これは保留だ。 他にないか?」
「そうだなぁ……よく考えれば、俺達の友情技なんだし別に文殊に拘る必要もねぇか」
おいおいおい!『連携技』が『友情技』に変わったぞ。お前は一体何がしたいんだ? いいかげん、次はねぇよな?
「お前、あの霊気の盾を爆発させて跳んでるだろ。あの力、俺に転用出来ないか?」
「カタパルトみたいに加速させるのか?」
そういや、最近『サイキック・ソーサー』の応用を色々考えてたからな。雪之丞も出せるけど、そこまでコントロールは出来ない。それにコイツなら、俺より強い力で押しても耐えれそうだしイケんじゃねぇか?
それとは別に『サイキック・ソーサー』も長ったらしいから、この際『霊盾』(れいじゅん)にでも変えるか。『ハンド・オブ・グローリー』を『霊手』に変えたんだし、一つだけ横文字ってのも統一感ないしな。
だから、『サイキック・ブースト』も『霊盾跳躍』に…………余り、格好よくない。なら『霊盾爆破』……いや、何か意味合いが違う。
「忠夫っ」
「あっ、悪ぃボーッとしてた……」
いかん、いかん、つい自分のことに思考が傾いてた。
「いいんじゃねぇか! お前をミサイルにして敵にぶっ込みゃ、すげぇ威力だ!!」
霊盾を推進力にして、魔装術を纏った雪之丞を敵のど真ん中に撃ち込む。その後、コイツが暴れ回ってくれりゃ、敵は内部から大損害だ。
「……もっと、オブラートに包めよ。親友を鉄砲弾扱いって…………」
何やらジト目で抗議してきたが、この際、無視だ。原始的だが、この “突貫” 結構イケるぞ!
俺の霊盾と、雪之丞の魔装術……名付けて『雪之丞ミサイル』!!
ダサっ!!
まぁ、いいや無難に『霊盾加速』とでも呼べゃいい。
「友情だ!『友情技』完成だぜ!!」
「違う……こんなの友情じゃねぇ…………」
ブツブツ言うなよ、お前の言う “引き出し” が一つ増えたんだ。もっと喜べ!
「二人共、いつまで休んでるんです?」
やべっ、俺達が戻らないんで小竜姫様が迎えに来ちまったよ。
腰に手を当てて、お姉さんが小さい子に叱るような……なんていうか、「めっ」みたいな表情をしてる。
何百年(?)も生きてる神様から見りゃ、俺等なんて小さい子と変わんねぇよな。
う〜ん、何回見ても可愛い……
雪之丞はまだブツブツ言ってる。
「すみません。おい、行くぞっ雪之丞」
かと言って、あんまり見惚れてると本当に怒り出しそうなんで急いで雪之丞を促す。怒った、あの人も少し見てみたいけど……
「違う……なんか違うぞ」
まだ、言うかお前は。
そうして、修行場に戻る最中に小竜姫様が聞いてきた。
「何だか、夢中になってたみたいですけど何を話してたんですか?」
なので俺は__
「ああ、雪之丞を弾に……」
「弾じゃねぇ! 友情だ!!」
「 ??」