「なぁ、愛子」
休み時間に窓の方を見て黄昏れている愛子に俺は声をかけた。
「何よ」
「お前の本体って改造とか出来ないの?」
正直どうでもいいんだが、以前から疑問に思っていた事をぶつけてみた。
「改造って……いきなり何よ?」
少し……いや、かなり訝しんだ顔で聞き返された。まぁ、当然だよな。
「いや、学校の行き帰りいつも“それ”背負ってくんだろ?脚の部分を畳めるようにすりゃ大分移動も楽になるんじゃね?」
机妖怪の愛子は見た目は黒髪ロングの美少女だが、机が本体でそこから離れられない。さっき“それ”と言ったのは机のことだ。
だから移動するには常に机もセットな訳で教室内くらいなら手で持って運ぶくらいで済むが、登下校時は流石に億劫なので背負っている……めちゃくちゃ目立つ。
聞いた話しによれば電車もそのスタイルで乗ってるらしい。普通に邪魔だろ…………
ちなみにもっとどうでもいいが、こいつは登下校する必要ない。
元々学校の備品なんだからずっとそこに居りゃ良いわけだが、気分を味わいたいと言う事で友達の最寄り駅までワザワザ付いて行っている。青春なのか?
話を戻す。要するに脚だけ畳めればコンパクトになって持ち運びが楽になる。旅行用のカートにでも乗せれば殆ど違和感だってなくなると思う。学生気分を味わいたいコイツならそっちの方が都合が良いと思って聞いてみたわけなんだが愛子の反応は……
「言ってる事は解るけど嫌よ。体をバラバラにされる訳でしょ!何が起こるか解らないわ」
「そ、そうか」
まぁ、そうだろうな……心底嫌そうに答える愛子を見て俺は納得した。
愛子の本体は今の木製の台にスチール製の脚をネジで止めてる物じゃなく、昔の全て木製で材料が複雑に組み合わさっているタイプの物だ。
ネジを外して脚だけ取り替えるような簡易的な改造なんか出来る訳ない。本人が言うように全てバラすような大掛かりな物になるだろうな。そうなった時、コイツの存在を保てる保証なんて何処にもない。
少し配慮が足らなかったか……
そんな風に考えてバツが悪そうにしてると更に愛子が続けてきた。
「でもね、本体をコンパクトにする事は出来るわ」
「マジ?」
「見てて」
戸惑う俺を横目に愛子は立ち上がると、両手で本体の端を掴んだ。そして軽く開いた両手を閉じるように押し込んだ。
「おおっ……」
そうすると、みるみる内に本体が縮んで行く。最終的には両手の上に乗るくらいの大きさにまで縮んでいた。
「どう?」
両手に乗った本体を見せて得意げに笑う愛子を見て俺は素で驚いていた。
「すげぇ!こんな事も出来たのか!?……でも、何でいつもこうしないんだ?」
と、勢いのまま聞きはしたが大体予想はついていた。そして、返って来た答えも予想通りだった。
「大きさを変えるのって結構疲れるのよ。たまになら兎も角、毎日なんて絶対無理。ずっと小さくなってるって訳にも行かないしね」
そう自嘲気味に呟やいた。愛子としても本体の移動に関しては悩んでいるらしい。
体の内部に広い異空間やら、時空にまで干渉する何気に凄い能力を持ってても、質量の縮小に関しては苦手のようだ。(出来るだけで十分凄いが……)
……ただ、それだと新たな疑問も生まれてくる。なので本体を元の大きさに戻した彼女に聞いてみた。
「本体縮めたままにして普通の机使うのじゃ駄目なのか?」
「横島君……私、机妖怪よ。それなのに自分じゃなくて別の机を使うって有り得ないでしょ。私のアイデンティティが消えるわ!」
ジト目でそんな事を言われてしまった……
「なるほど……上手く行かないもんだな」
解ったような、解らないような……意地やプライドの問題か?
……まぁ、流石にこれ以上は他人がどうこう言う事じゃないよな。
そんな事を話しながら俺達の日常は過ぎていく……
………………
…………………………そういや愛子の奴一回も「青春」って言わなかったな。
そういう時もあるか?