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伊達除霊事務所・所属GSアシスタント横島除霊日誌

霊視眼鏡


投稿者名:wood
投稿日時:24/ 6/17

 

 

「やっぱ、夜だと違和感あるな」

 

 

 俺の掛けてる“物”を見ながら雪之丞が呟やいた。

 

 

「結構便利だぞ」

 

 

 確かに夜に“サングラス”なんかしてちゃ普通におかしいよな。サングラスじゃねぇけど……

 

 

 ここは都内の人気のない廃工場。時刻は夜の十時過ぎ。閉めてから何年も経つ内に居着いた怨霊を除霊しに来てる。

 

 

 んで、話は戻るけどさっきサングラスと言ったのは、一見そう見えるだけで実際は『霊視眼鏡』と言う名で確としたオカルトグッズだ。

 

 これは『霊視ゴーグル』のように霊能者でなくても霊が見えるような強力な物じゃない。

 本人の微弱な霊気を媒介に多少霊視の精度を上げる程度の効果しかないが、その副次効果として暗視スコープのように夜でも周りの景色がよく視える(原理は全く解んねぇけど……)。

 

 特別な場合を除いて、除霊ってのは基本夜だ。当然暗い。怨霊、悪霊は奴等の放つ霊気で普通に見えるが、他は電灯が無いと普通に見えない。

 

 今までは連中に遭遇するまでは電灯を持って歩ってたけど、これを掛ければそんな煩わしさから解放される。何より常に手が空くっては大きい。

 

 持ってる時とコンマ何秒の違いしかないだろうが、それが生死を分けることは歴史を振り返りゃ普通にあり得るからな。

 

 勿論見た目通り、昼間はサングラスとして機能もする。地味だが目にゴミが入ってくるのも防げるから俺としちゃ、かなりいい買い物をしたと喜んでる。

 

 値段が『霊視ゴーグル』程高くなかったのもポイントだな。(それでも、サラリーマンの給料一月分くらいしたんで俺には結構痛かったが凹)

 

 これは、いつも着てる対霊障用特殊スーツ(見た目は黒のコンバットスーツ)と同じメーカーが出してる物でカタログを見ていた時に偶然見つけた。雪之丞にも進めたけど「邪魔だからいい」と一蹴しやがった。

 

 電灯持って歩き回る方が普通に面倒だろうが……まぁ、掛けることをストレスに感じる奴もいるだろうから余り強くは勧めなかったけどな。

 

 それにあのバトルジャンキーなら、敵さえ見えてりゃセンスで何とかするか。

 

 とまあ、要は新しい仕事道具を手に…いや、目にして俺はいつもとは違う感覚で仕事に来てるわけだ。

 

 

 

「複数体っても、ここから解るか?」

 

 

「いや、直接確認するしかねぇ」

 

 

 建物の入り口まで来て、いつものやり取りをする。お互い霊感は強くない。気配で何となく居るのは解るが、広い建物だと外からじゃ数までは殆ど解らない。

 

 幸い入り口周辺にはいないみたいなんで、借りて来た鍵を使って中に入る。金属加工をしていた工場らしく、入った瞬間に錆びた金属と工業油の入り混じった悪臭が鼻腔を突いて来やがる。とっとと始末して外に出てぇな。

 

 

 俺はだだっ広い内部を霊視眼鏡を通して眺める。

 

 暗視スコープのように全体的に青み掛かった景色に映る館内は、工作機械こそ無くなってたがベルトコンベアや、クレーンなんかはそのまま残ってる……広さの割に余り自由に動けない。床には結構廃材も散らばってて足元にも注意が必要だ。

 

 昼間のように明るくなんて事はないが電灯の光じゃ、ここまでははっきりとは見えなかった。実戦で使うのは初めてだが、早速役に立ってくれたぜ。

 

 

「足元気をつけろよ」

 

 

 俺は電灯の光に頼ってる雪之丞に声を掛けた。

 

 

「わーってるって!」

 

 

 ったく、コイツは…まぁ、大丈夫だろうが。

 

 そんなやり取りをしながら少しずつ奥へ進んで行くと、すぐに今回の依頼対象に出くわす。

 

 

「いたいた……雑魚が七匹。 今回もしょっぺぇな」

 

 

 小声で雪之丞が示した方向を見ると、30〜40m先に低級霊が七体漂ってる。ちなみに奴等は霊視眼鏡を通しても見え方はいつもと変わらない。

 

 さっき霊視の精度を上げると言ったが、実際は霊視の弱い人間の補助する為のアイテムで、普通に視える人間には殆ど効果がないんだよな。まぁ、その辺は期待してないからいいんだけど……

 

 

「いいんだよ。 しょっぱくて!……文珠は使わないぞ」

 

 

「ああ、要らねぇよ」

 

 

 本気でがっかりしてる雪之丞にやれやれと思いながら、小声で突っ込む。大体、雑魚しかいないのは端から解ってんだろうに……

 

 勿論、事前情報と違うことも想定しなきゃならねぇが、強い敵期待してどうすんだよ? 普通逆だろ? 何で自分から危険を望むんだ? いや、解ってる。コイツはこういう奴だ。

 

 戦いたがる奴と、避けたがる奴……本当に真逆だよな。俺、何でコイツと一緒にいんだろ?

 

 何回考えても解らない…と言うより、どうでもいいような疑問を抱きつつ歩を進める。

 

 相手が弱いだけに今日のコイツも魔装術なしの霊波刃で行くようだ。

 

 ぶっちゃけ『浄』の文珠を使えば一個で行けそうだが、使わずに済むならそれに越したことはない。文珠は貴重で俺……いや、俺達の切札だ。

 

 

 

「反対、頼むぜ」

 

 

「ああ……」

 

 

 途中から二人分かれて雪之丞が左、俺が右から回り込むように奴等に近付く……残り10m…右手の霊手はもう展開してある。いつも通り40〜50cm台の鉤爪だ。

 

 

 そして呼吸を落ち着け、身を低くしながら足音を立てずに更に近寄る……

 

 

 

 9m…………8m……7…「行くぞ!!」

 

 

 

 雪之丞の掛け声と同時に二人逆方向から悪霊達へ突っ込む!

 

 

 近くに居た二体が俺の接近に気づいたが、もう遅い。俺は振りかぶった鉤爪状の霊手を横一閃に振り抜く!! 

 

 

 バシュッ! ザシュッ!!

 

 

 強引に振り切った霊手に裂かれた二体はあっと言う間に霧散する。残り五体……いや、三体だ。雪之丞が既に二体仕留めてる。

 

 

 

『オオォ〜〜!!』

 

 

 

 俺が仕留めたと同時に少し奥に居た一体が俺に向かって来る。だが、遅い上に直線的だ。

 

 

 俺はそのままの体勢で振り切った右手を今度は返して窓を開けるような要領で悪霊を引っ掻いた!

 

 

 

 バシュッ!!

 

 

 

 右手に相手の霊核を潰す時の、独特な感触が走る。

 

 

 ………………“依頼完了”だ。

 

 

 俺が三体目を仕留める時には、雪之丞は四体目を仕留め終わってた…雑魚だけとしても、コイツ速すぎだろ………

 

 

 もっと言えば今回は、戦闘開始から僅か10秒足らずで終了……まぁ、こういのって事前準備(大してしてねぇけど)とかのが長いもんだから、これが普通なのか?

 

 

 

 …………それは、微かな“油断”だった。

 

 

 

 依頼があっけなく片がついて拍子抜けしてたのかもしれない。

 

 

 なんにしても“取り返しのつかないこと”と言うのは何の前触れもなく突然やってくる………

 

 

 

 俺は、何気なく掛けていた霊視眼鏡を外した。邪魔って訳じゃないが、やはり普段付け慣れてないのもあって一旦顔に空気を晒したかったのかもしれない。よく野球選手が試合終了と同時に帽子を取るけど、あんなのと一緒だ。

 

 

 だが、その時に手を滑らせて眼鏡を落としちまった。

 

 

「あっ」

 

 

 一旦、コンクリートの床に落ちた眼鏡は「カッ」と音をさして更に数10cmくらい前に転がり、そして………

 

 

 

「ったく! 今日もつま『バキッ』ん……」

 

 

 

「ぬぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

 

 

 

 おい!おい!おい!おい!おい!おい!!おい!!何してくれてんだテメェ〜〜〜〜〜〜!!!!!!

 

 

「あ、足どけろっ……!!」

 

 

 丁度良く近寄って来た雪之丞の右足に眼鏡が粉砕されちまった!!!

 

 

「えっ!?あっ」

 

 

 慌てて足を引っ込めたが、もう遅い!!

 

 

 さっきまで眼鏡に頼ってた影響で全く見えねぇけど、音だけでレンズが見事に割れてんのが分かる。

 

 

 それでも確認せずにいられねぇ!!手探りで床を調べると霊視眼鏡は粉々……とまでは行かないが見事にバラバラになっちまってた。

 

 

 

「おぉ〜〜〜〜〜〜ぃ、どうすんだ!!これぇぇっ!!!!」

 

 

 

 どうすんだ? ……と言うか、もうどうにもならねぇんだが叫ばずにいられない。

 

 

「悪りぃ……でも、そんなもん止めろって神の啓示じゃねえか」

 

 

 ぶざけんなっ!!!

 

 

「馬鹿野郎!! どこの神だよ!?んな意味の解んねぇ啓示しやがんのは!!!」

 

 

「いや、眼鏡の神とか……」

 

 

「テキトーな事、言ってんじゃねぇ!!!」

 

 

「あのなぁ、そもそもお前が落とすのが問題なんじゃねぇか?」

 

 

「ああっ……!?」

 

 

 

 

 結局、文珠で直せることに気づくまでの10分間そんな感じで罵りあった……

 

 

 

 

 畜生……無駄な文珠と体力を使っちまった。

 

 

 

 ったく、間違いなく有能なアイテムなのに何だか前途不安な出発になっちまったぜ。

  

 

 


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