深夜の墓地。そこに大量の悪霊達が徘徊して偉いことになってた……
「うあぁぁぁ〜!!!!」
「落ち着いて!護衛してるから大丈夫ですよ」
(しっかりしろよ……あんたのが先輩だろ)
俺は迫りくる低級霊(70〜80cm大の青白い人魂のような形)を鉤爪型にした霊手で蹴散らしながら、40代の住職風のGSを宥める。
今回は俺達2人だけでなく他のGSとの共同作戦だ。ってもやることは、後ろで慌てふためくGSの護衛なんだが……
ここはその住職の寺。
元々地質的に悪霊の温床になりやすい土地で墓地に結界を張って定期的に外から来る悪霊を止めていてらしい。
この結界は優れもので結界さえ張ってしまえば外から来る悪霊だけでなく既に入り込んだ悪霊も浄化してしまうらしいが、古くなった結界を張り替える前に台風で結界の一部が朽ちてしまい気づいた時には大量に入り込んでしまったそうだ……
結界を貼り直すにも悪霊の妨害で手が付けれないので俺達と共同作戦する運びになったわけだが、この男GSと言っても今までしてきたのは結界を張ったり呪いの浄化ばかりで、悪霊や妖怪との戦闘とは無縁だったようで今のような事態になっている。
ちなみに雪之丞は住職放ったらかしにして、とっとと悪霊の殲滅に行っちまった。
まぁ、元々護衛なんてあいつには向いてないし精々暴れてこっちにくる悪霊を減らしてくれればいい。問題はこっちだ……
「目的の場所まで後どれくらいです?」
「あ、ああ……もうすぐだ。あれが見えるかい?」
住職の指し示す場所を見ると数十メートル先に高さ2〜3m程の石柱が建っている。あれが結界の一角か。確かあそこに貼ってあった札が破れて結界そのものが機能しなくなったんだったな。
そこに至るまで結構な悪霊がたむろしてる。皆力の弱い低級霊みたいだが、数にして10〜20体くらいか……?人を守りながらってのが厄介だが何とかなるか。
「よし、それじゃあ急ぎましょう」
「はぁ!?ちょ、ちょっと待ってくれ!あの中を行くのか?」
俺の言葉に住職はこいつ正気か?みたいな顔をして返してくる。おいおい、あんた何しにきたんだよ?
「いや、その為に俺達を呼んだんでしょう?」
「いや!無理だ、無理無理!!大体2人で守ってくれる筈なのに、もう1人はどこにいるんだ?」
「あいつが連中の目を引き付けてくれるんで、この程度で済んでるんですよ。もたもたしてると更に増えてしまいますよ」
……まぁ、ただの出任せだが多分目を引いてくれてるだろうから嘘じゃないはず…多分。
「とにかく、あんなとこ行けない。頼む君が貼ってきてくれ」
と、説得(?)も虚しく住職は泣きそうになりながら結界用の札と縄を俺に差し出してきやがった。こいつマジかよ……
思わず顔をしかめる俺に構わず住職は更に続ける。
「張り方は簡単だ。石の中心に札を貼って周りを縄で囲うだけでいい。なぁ、頼むよ。報酬は上乗せするから」
言いたい事は山程あったが、ここで言い争っても仕方ない……っつうか、こいつ普通に邪魔だな。取り敢えず住職と敷地の外まで出た俺は札と縄を受け取った。
(この場合結界張れば依頼達成だろうが途中で逃げた、この親父(住職から格下げ)は依頼達成とかどうなんだろ?)
と、まあ現時点ではとうでもいい事を考えながらレシーバーで雪之丞に連絡を送る。多分出ねぇな……
案の定、何回かコールしても出る気配がなかったんで1人で行くことにした。結構遠くの方でやりあってるような音が聞こえが、爆音はしない。流石に霊波砲は撃ってないらしいので良しとしよう……
(夢中なり過ぎだ、バカ野郎がっ)
心の中で悪態をつきながら石柱付近まで戻ると変わらずさっきと同じように悪霊がたむろしていた。
(さ〜て、どうやって近づく?一体ずつ処理してりゃあキリがねぇし、文珠は余り使いたくない)
少し考えて俺は霊手を50〜60cm大の鉤爪に変化させて、駆け出した!
バシュッ!バシュッ!バシュッ!
俺の接近に気づいて飛び掛かってく悪霊達を一体、また一体と刈り取っていく。さっきも言ったが一体一体は弱いんで霊手で一掻きだ。
ただ、距離を詰めるにつれ数が多くなる。石柱を守ってると言うより騒いでる俺に反応して来る感じか。まぁ、それが狙いだ……
残り10mくらいになった所で辺りの悪霊が全部俺に集まってくる。石柱付近にいた奴らも来たのを確認して俺は上に“跳んだ”!
高さにして10mは跳んだな。
俺は右足の下にサイキック・ソーサーを展開させ、それを一気に踏み抜いたんだ!
それによって発生するエネルギー(霊気の爆発)を推進力にして跳躍する名付けて『サイキック・ブースター』って所か。
妙神山で編み出した技で力加減に慣れないと、失敗して足に大怪我をする。
そして、ブーストによって高さの頂点まで達した俺は慣性の法則に従って落下を始める。着地点は石柱の前だ。
ズガッ!!
着地の一歩手前、俺は霊手を更に1m大まで巨大かさせて地面を穿つ!
その衝撃で落下によるエネルギーを相殺。石畳の地面が割れちまったがこれくらいは勘弁してくれ。
更に着地した瞬間にポケットにある文珠の一つに『護』の文字を浮かばせ発動!
悪霊達は俺がいきなり視界範囲から消えたことで混乱したのか暫く右往左往してたが、石柱の所にいる俺に気づいた時にはもう遅い。
バチバチバチッ!!!
数体飛びかかって来たが、文珠によって張られた結界によって弾かれる。
「さて、とっとと済ますか……」
言われた通り、石柱に札を貼り縄で括るとすぐさま効果が表れた。自分の体にも辺りに浄化効果のある波動が拡がっているのが解る。周りにいた悪霊達も音もなく消えていった……
(すげぇ効果だな……ってか、こんな簡単なら端から俺達だけでいいだろっ)
一緒に行って戻った分、完全に無駄手間だろうに……何で共同作戦なんかに拘んだよ?
(自分の土地だって言う面子か?それとも、GSとしての実績稼ぎ?どっちも有りそうだし、どっちも逃げた事で潰れちまったな……まぁ、知ったこっちゃなねぇが)
んな事考えてたら、ようやくレシーバーに雪之丞から通信が入る。通信ボタンを押して俺は………………
「お前ずっと何処にいた?」