久しぶりの登校……自分のクラスへ行き、自分の席に着く。机は毎日使っていないせいか少々埃っぽい。HRまで時間があるので、特に何もするわけでもなくだらけていると。アイツがいつもの広島弁で話しかけてきた。
「おはようがんす。横島さん」
いかつい体に2mを越す長身、しかしどこか人の良さそうな穏やかな顔つきをしたタイガー寅吉である。そんな奴にいつもの調子で答える。
「タイガーか、おはよう」
そんな俺をまじまじ見ながら
「横島さん。また見た目変わりましたね〜……」
と余り嬉しくない指摘をしてきたんで俺は、
「ソ……ソウカ」
と苦々しい顔をしながら返した。
「また、修行ですかい?」
「ああ……」
自分では気づきにくいが、久しぶりに会う人間から見れば俺は相当変わってしまったらしい。
身体付きは以前のような痩せ型ではなく全体的に筋肉が付いて一回り大きくなっている。先日新調したばかりの制服が既にキツくなっちまってる。
恐らく体重にして5、6kgは増えているだろう。身長も1、2cm伸びてるかな?
顔付きも以前に比べて大人びてきており、タイガーやピートからは精悍になったと言われた。
これだけなら嬉しいが同年代の人間に比べて老けて見えるのか、知らない人間からは留年したのかと勘違いされているらしい……放っとけ!!(見た目の変わらないピートが普通に羨ましいな……)
髪が伸び過ぎなのが原因か?以前から長めだったが更に伸びてバンダナが無いと本当に前が見辛い。後ろは背中に掛かりそうなくらい伸びてる……髪が原因で老けて見えるだとすれば切りゃ良いだけの話なんだが、切ったら切ったで顔立ちの変化がモロに出そうなんで怖くて切れない。
ちなみにここで言う『以前』とは美神除霊事務所にいた頃のことだ。そこから、逆算すると大体3ヶ月前後か?
3ヶ月程度でそんなに変わる訳がねぇとか言われそうだけど、俺の体感時間はもっと長い……多分一年近く経っているんじゃないか?
何故そんな事になっているかと言うと答えは以前から雪之丞と行っている妙神山にある。
伊達除霊事務所に移ってから俺達は暇を見ては妙神山で修行(以前斉天大聖様にしてもらったハイリスクハイリターンのものでなく、基礎的な霊能力の修行や小竜姫様相手に剣技を行う)を付けて貰っているのだが、そこには時間の流れが人間界と異なる空間がありそこで数ヶ月過ごしても人間界では数日しか経っていないのだ。
一度の訪問は精々3日か4日だが、それが数回も重なれば一年くらい普通に過ぎてしまう。
19歳の雪之丞はそんなに変化しなかったが、ちょうど成長期(17歳)真っ只中だった俺は変化をモロに受けてしまったのだ……(身体に関しては以前の安月給で食えなかった事情もある。妙神山では毎日キツかったが飯はたらふく食わせて貰えた)
社会的には17歳でも実際は19歳前後…
(そりゃ、見た目も変わるよな……)
仕方ないと言えば仕方ないが周りの反応を見ると中々“クるもの”がある。
ただ、そんな貴重な若い“時”を投げ打ってもやった甲斐はあった。
イレギュラー的な出来事で霊能力に目覚めた俺は実戦経験こそ腐るほどあったが、霊能力の基礎的な訓練や知識は素人同然だったのでその欠点が大分改善された。
以前より霊気量、出力ともに上がり『サイキック・ソーサー』や『霊手』(以前『栄光の手』なんて格好付けて呼んでいたが恥ずかしいんで止めた)の熟練も格段に上がっている。勿論、文珠も健在だ。
……まぁ、そうそう使えるものじゃないので余りこれに頼る戦いは避けたいが…………
話がそれたが、今の俺は中堅レベルのGSにも引けはとらないだろう。
「最近、随分熱心ですの〜やっぱ試験対策ですかい?」
「そうだな。時間のある内に出来る事をしときたいか
ら……」
そう答える俺をタイガーは関心したように見ていたがそんなもん嘘だ。
いや……GS試験はまた受けるから本当に嘘というわけではないんだが、正直な所ズボラだった自分がここまで熱心に強さを求める理由はハッキリ言ってない。
強いて言うなら不甲斐ない自分を立て直したかった。もっと言えば“心に空いた穴を埋める”為に修行に集中するしかなかったと言った所だ……
その求めた強さで何をするのか、と問われれば今の自分に大した答えなんて出せないだろう。精々一人前のGSになる為と言うのが関の山か…?
(以前ならもっとハッキリした理由があったんだがな……)
好きになった娘を絶対に守りたい!その為に本気で強くなりたいと思っていた。
他人から見ればガキっぽいと鼻で笑われそうだが、それが俺の正直な気持ちだった。
でも、その娘との関係は今では切れてしまっている。(正確に言えば逃げ出したんだが……)
自分の弱さのせいで……この業界にいる限り何処かで顔を合わせるかも知れないが、もう以前のように接するなんて不可能だろうな。
(絶対、軽蔑されてるよな俺……)
強さを求める最大の理由が無くなってから修行にあけくれるなんて、振り返るだけで自分の馬鹿さ加減に嫌気がさす……
でも、それでも止めることなんてもう出来ない。
止めたらそれこそ立ち直れなくなっちまう…………何も考えず遮二無二に走れ!!
今の俺に出来るのはそれだけだ……