「お疲れ様でした」
そう言って、アイツはドアを閉めて帰って行ったのを確認すると私は近くに居た青髪の少女に問い掛ける。
「ねぇ、おキヌちゃん。最近アイツ変じゃない?」
「横島さんの事ですよね?」
私に聞かれて彼女は怪訝な顔をしながら返してきた。
「そうよ、ここんとこアイツ“まとも”過ぎる……私や他の若い女が来ても全くセクハラしないのよ。横島の癖に!」
「私は全然されないんですけど……」
心なしか残念そうに答えるおキヌちゃんは置いとくとして、最近のアイツの様子は明らかに変だ。セクハラもそうだけど、以前はこっちからいちいち言わなくちゃやらなかった仕事の準備を自分から始めるようになった。
それだけじゃない。仕事や霊能について解らない事も自ら聞きに来るようにまでなってる。GSとして積極的に成長する姿勢が見える。
始めは、ただの振りでセクハラする気なんじゃないかと身構えたけどそんな様子もまるでない。
要するに仕事や私生活が真面目になっている。
気に入らない!これじゃ、いつもみたく殴れないじゃない!!本当に調子狂うわ!
アイツが何の理由もなしに真面目になるわけない。必ずウラがある。でも、それが解らない。以前カオスに身体を入れ替えられたとか、何かに憑かれたというわけでもない。
表面上まるで問題ないのに、モヤモヤばかり大きくなる。もう、気持ち悪いったらないわね!!
「……横島さん…………真面目になってくれたのは良いんですけど、私もたまに心配なるんです」
「え!?」
おキヌちゃんの答えに私は敏感に反応する。やっぱりこの娘も何か感じてたみたいね。元々幽霊の時からアイツに『気があった』(あんな奴の何処がいいのかしら?)からひょっとしたらと思ってたけど。
そんな事を考えていると、すると彼女は少し顔を曇らせながら続けた……
「最近一人でいる時に暗い顔をしてる事が多いんですよね。理由を聞いても『大丈夫』とか『平気』とか言ってくれないし……もっと頼って欲しいんですけど…………」
暗い顔?
アイツが……?
全く意味が解らないわ…………あの煩悩しか頭に無い馬鹿が何に悩むの??
女の子に振られたのかしら?いや、そもそもそれが自然だしあり得ないわ。
「本当にぃ〜?何か変な物でも食べておかしくなってただけじゃないの?」
結局考えても全く解らなかったのでそう答えるしかなかった。
「本当です!そんな感じじゃなくて、本気で悩んでる感じでしたよ」
私の返答に心外だと言わんばかりの表情で答える彼女を見るとどうやら本当らしい……
「……まぁ、いいわ。その内また以前のバカで助平なアイツに戻るでしょ♪」
「美神さん……」
これ以上考えても仕方ないので心配そうな顔をした彼女をよそに、私は会話を打ち切ることにした。
どうせ、もう少ししたらいつものアイツに戻るでしょ。そうしたら、以前のようにこき使ってやればいいわ!
呑気にそんな事考えてたけど、事態はそんな安直な方向に行かなかった……
この時もっと彼女の話を真剣に聞いていたらアイツを引き止める事が出来たのかしら?
アイツは私の丁稚。ずっと私の側に居てこき使われるのが当然くらいに考えてた私は甘すぎたのかもね…………