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伊達除霊事務所・所属GSアシスタント横島除霊日誌

再就職


投稿者名:wood
投稿日時:23/12/ 6

 夕方の都内のファストフード店は、人々の活気と忙しさが交錯する場所だった。


 店内に入ると、目に飛び込んでくるのは、明るい照明と絢爛な色彩のポスターが貼られた壁面だ。人々がカウンターに並び、注文を取る店員とのやり取りが絶え間なく続いている。注文の待ち時間に、待ち席に座る客たちは新聞を読んだり、友人や家族と会話を楽しんだりしている。


 店内は活気に満ち溢れているが、その一方で、厨房からはシュッと音が立ち上る。フライヤーで揚げられるポテトや唐揚げの香ばしい匂いが店内に漂い、誰もが食欲をそそられる。
 

 そんな店内の一角で俺達は話していた。


 「姐さんの所を辞めた?」


 「ああ……今、マジで金が無い…………」


 問い掛けた男の名は「伊達雪之丞」。背丈は小柄でおそらく160cmそこそこいった感じだが着ているスーツの下は筋肉質で無駄のない体格をしている。特徴的な前髪で顔立ちしておりイケメンと言っても良い程整っていたが、その眼つきの悪さがガラの悪い印象を周りに与えていた。


 そう答えた俺の名は「横島忠夫」。 

 少し前まで美神除霊事務所でアシスタントをしてたが、今はただの貧乏学生だ。



「何か、あったのか?」

 
 雪之丞の問い掛けに俺は少々自嘲気味に答える。


 「……別に。いい加減薄給でこき使われるのに耐えれなくなっただけだよ。」
 


 嘘だ……いつも薄給で喘いでいちゃいたが、それが直接的な理由ではなかった。本当の理由は想いを寄せていた少女(氷室キヌ)と険悪になって、事務所に居られなくなったからだ。

 仕事を失ったのは仕方ないと思っている。そもそも自分の態度に原因があったから。ただ、俺が落ち込んでいるのは彼女との最後が最悪な形で終ってしまったこと。もう、ここから関係修復なんて不可能であろう…………


 しかし、それを眼の前の男に馬鹿正直に話す気にもなれずもっともらしい理由を着けてお茶を濁した。


「これからどうする積りだよ?」


「何か探すしか無いだろ」


 再度、問い掛ける雪之丞に俺は投げやりに答える。


 事務所を辞めてから、大体10日ほどだらうか?それまで何もする気にもなれずアパートの中で腐っていたがそんな精神状態でも腹は普通に減る。だが、金は無い……


 自分の精神的問題を棚上げしてでも、生活費は稼がなくては本当に餓死しちしまう。仕方なくやる気の無い自分に鞭を打って、求人雑誌を買いに街に出て来たがちょうど良く(?)知り合いである雪之丞に会い現在に至るわけだ。


 ちなみにいつもは会えば俺がコイツに“たかられる”のだが、今回はたまたまコイツの懐が暖かかったらしく逆に俺が奢って貰っている。


 「これから俺は本格的に事務所を立ち上げようと思ってんだ」


 と、そんな話の流れを変えるように雪之丞が呟いた。



「ん……?そうか、遂にか……」


 突然話の方向転換に戸惑いつつも俺はそう返す。
 

 雪之丞は、かつては香港でモグリのGSとして活動していたがメドゥーサとの一軒での活動が認められて正式にGSとして認可されたのだ。その後は日本に戻りフリーで動いていたが、遂に腰を落ち着けてスタートする積りらしい。


 俺の気分は変わらず沈んだままだが、友人の新しい門出は素直に嬉しい。ここでスッと気の利いた言葉でも掛けてられれば良いのだが、そもそもそういう事が得意じゃない。何と言ってやれば良いか逡巡してるうちに再び雪之丞が口を開いた。


「お前も一緒にやらないか?」


「は?」


「お前程の腕を腐らせるなんて、勿体無いにも程があるだろ。姐さんとこに居ないなら、丁度いい。一緒にやろうぜ」


 (おいおい、マジかよ…………)


 俺を真正面から見据えるヤツの目は真剣だった。決して冗談で言ってる訳だはなく、本気なのが良く解った。
 
 コイツ(雪之丞)は俺とGS試験で引き分けて以来、俺を『日本でトップクラスのGS』なんてアホな勘違いをしてる。


「いや、事務所の立ち上げって結構金掛かるんだろ?お前今までずっと金欠だったのに人雇う金なんかあんのかよ??」


「事務所の家賃や光熱費だけだから、そんなに掛かんねぇよ。それに俺達のスタイルなら道具なんて殆ど使わないだろ?」


 そう……この業界は除霊道具にとにかく金が掛かるのだ。御札1枚だけでも物にも寄るがウン何千マンもする。それを使って除霊出来れば良いが、失敗すれば当然お金は帰って来ない。除霊出来たとしても、必ずしも利益になるとは限らない。
 

 その点、俺達はそう言った事情には強い。雪之丞は魔装術、俺は霊刃刀だ。二人共霊力を具現化して戦うので高い道具を使わなくて済む。
 上手くすれば依頼料丸々こちらに入ってくる可能性もある……そこに固定給も入るとなれば今の自分の生活は間違いなく一変する。
 寧ろ彼女(美神)の所にいた頃より余裕のある生活が…………


「まっ……それでも金に余裕があるわけじゃないけどな。給与は殆ど出来高払いになる」


 な〜んて、都合の良いこと考えていたら速攻で落としやがった……


「おまっ、そんなんで誘うのかよ……」


 この金欠野郎相手に甘い事を考えた俺を少々呪いたい……これから始める除霊事務所に都合よく依頼が来ることなんてまずねぇだろ。しかも、こいつは元モグリだぞ。普通に考えれば今以上に落ちる可能性がある。


 「ああ…だから余り深く考えず拒否してくれてもいいし、やって無理だと思ったらすぐ辞めてくれても構わねぇよ。どうする?」


 窓の外を見ながらバツの悪そうに答える雪之丞を見ると。来ては欲しくても、そこまで本気で誘ってる訳でもないといったところか……


 ただ、考えようによっては気楽でもあるか。正直他にしたい事があるわけでもない。それなら、まだ自分の特技を活かせる方がマシか?なんにしろヤバそうならすぐに逃げれば良い。


 正直余り前向きな考えとも言えないが、俺はコイツの話に乗る事にした。



「ヤバそうならすぐ手を引くぞ!それでも、いいか?」


 と、まあ深く考えず俺達は組むことにになった。

 

 そんな俺達がGS界を代表するようなコンビなんて言われるようになるとはこの時全く思って無かったよ。



 いや、マジで……
 
 
 

 


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