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夢オチ

夢オチ


投稿者名:孫彰
投稿日時:23/10/ 9

 夕陽が西の空に美しいオレンジ色の帯を描いていた。東京タワーの頂上に立つ少年、彼の名は横島忠夫。

 風が心地よく頬を撫で、彼は深呼吸をしながら四方を見渡した。まばゆいばかりの眺めに、彼の胸は高鳴る。東京の街が息を吹き返す夕暮れ時は、何か特別な魔法を纏っているように感じられた。

 東京タワーの頂上から一望する景色は、都会の喧騒と静謐さが交錯した風景だった。高層ビルが立ち並ぶ都市の海に、夕陽が優雅に沈んでいく。遠くには富士山の姿も見え、その壮大な風景に圧倒される。

 彼はこの瞬間を大切にしたかった。今は無き恋人が大切にしていた時間だからだ、

 そして、東京タワーの上で夕日を観ながら思いに耽る……

 今まで沢山の事があった……

 同じ職場で働く幽霊娘の蘇り。

 過去へ跳び自分の上司との1000年来の絆があるのを確かめる(いらんけど……)。

 アシュタロスと言う魔神と宇宙の生存を掛けて戦い宇宙と恋人を天秤に掛けた究極の選択を迫られる……結局宇宙を取らざるおえなかった。その時心に空いた穴は未だに癒えてない…………

 夕日に向かって今はいない彼女に問いかける。

「これで良かったのかな?ルシオラ……」


 ――――――――――――――――――――――――――――

 
「横島さ〜ん。起きて下さ〜い♪」
 

 突然、横島の体が優しく揺り動かされた。
 

「んあっ……?」

「もうすぐ仕事です。いつまでも寝てると、また美神さんに怒られちゃいますよ♪」
 
 眠りから覚めると、目の前には仲間の女の子が悪戯っぽく微笑んで立っていた。

 そこは東京タワーではなく事務所のソファで横島はそこでうたた寝していたのだ。

 横島を起こしたのは腰まで届く青髪を持つ清楚、可憐を絵に描いたような和風美少女。着ている巫女服が純心で優しい彼女の性格にマッチするように良く似合っていた。
 
 同じ美神除霊事務所で働く氷室キヌである。

 東京タワーに居た積りだったが、事務所で寝ていたようだ。

「ごめん、ごめん。もう、そんな時間か……」

 眠気を振り払うように彼女に向き直る横島だったが、そこで違和感を覚えた。

 彼女の横に一つずつ漂う青い炎に気づいたのだ……そう『人魂』である。そして、先程「立っている」と表現したがそれは正しくなく正確には「浮いていた」のだ。膝から下を後ろに曲げるようにしてフワフワと……
 

「お……おキヌちゃん!何で幽霊に…………??」


 一瞬、幽体離脱でもしてるのかと思ったがすぐ違う事に気づいた。

 “生きている人間”が幽体離脱しても『人魂』は出ないのだ。

 彼女は以前の妖怪退治の際、『反魂の術』で生き返った筈である。その彼女に人魂に再び人魂が漂っていると言う事は……!?

 一瞬最悪な考えが横島の頭に浮かんできたが、それは彼女のあっけらんかんとした口調であっさりと否定された。

「何でって?私は300年前に死んでから“ずっと”幽霊ですよ。」 

「え!?でも、君は生き返った筈じゃあ……!!」

「何言ってるんですかぁ?夢でも見たんじゃあ…………?」

 さっきまで微笑んでいた彼女が一転して心配そうな表情をして横島の顔を覗き込んでくる。

 (『夢』……??じゃあ、この娘は「氷室キヌ」じゃなくてただの「おキヌちゃん」?彼女の復活が夢なら、この後にあった美神さんとの前世との絆(要らねぇけど)もアシュタロス大戦も死んだルシオラも全部俺の『夢』、あるいは『妄想』か何かって事!?)

 (いやいやいや……!!早まるんじゃない!!!!!冷静になれ。冷静、冷静、冷静、冷静、冷静……)

 冷静と頭に浮かべながら完全にパニクるも、一縷の望みを掛けて右手に意識を集中してみる。


「で、出ねぇ!!!?」


 いくら意識を集中しても文珠はおろか、霊波刀もサイキック・ソーサーも全く作り出すことが出来ないのだ。

「横島さん……大丈夫ですか?具合でも悪いんじゃぁ…………」

 そんな事を言う彼女の表情は挙動不審の横島を怪しむのでは無く、本当に案じている様子だった。

 そんな彼女の優しさに(おキヌちゃんはいい娘だなぁ……)と素直に感傷に浸りながらも横島は

「おキヌちゃん。俺、GSの免許取れだんだよね?いや、霊能力が無いんだから取れる訳ないか……」

「??」

 (おキヌちゃんが幽霊で俺もGS免許取ってないとしたら、一体どこまでが本当にあった事でどこまでが夢なんだ……)


「おキヌちゃんさぁ……君がここで働き始めてからどのくらいになる?」

「ん〜……そうですねぇ。2ヶ月くらい経ちましたからね?」

「……………………本当に?2年を2ヶ月とか言ってない?」

「失礼な!私は幽霊で物は知りませんけど、時間の感覚くらい確かですよ〜だ!!」

 そう言っておキヌは形のよい頬をプゥと膨らませる。

 そんな彼女を見て横島は(本当に可愛いなぁ……)と心の一部で考えながらも、
  
 (2ヶ月じゃ、殆ど夢って事じゃねぇか〜!!!!)

 (じゃあ、何!?俺の今までの苦労や悩み、葛藤、あの断腸の想いでした『決断』も全部夢で始めから『無かった』って事!!!!!?)

 
 と絶望しながら、一方で安心したように心の中で絶叫していた。


 「横島さん!!」

 
 そんな自分の世界に入り込んで一人百面相をしていた横島だったが、再びおキヌの声によって現実に引き戻される。

「もぅ!ボーっとしてないで準備しましょう!本当に美神さんに怒られちゃいますよ。」

「あ……ああ、そうだね…………準備しなきゃね。」

 混乱から立ち直った訳では無かったが、おキヌに手を引かれながら横島は何とか言葉を絞り出した。 

 そんな横島を不思議そうに見ながらおキヌは、

「本当にさっきはどんな夢を見てたんですか?」

 と問いかけてきた。それに対して横島の口に答えは……

「いや……アレだよ。俺達には『無駄』にシリアスで重い設定が着けられるより何も無い軽いノリのが皆見てて安心するって事じゃない?」


―――――――――――――――――――――――――――――――

 終了
  
 

 


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