【皆本光一14】
クソ!!!!!!!
皆本は宇宙空間で戦い続けていた。彼の搭乗する人型可変戦闘機は超人的な戦いを繰り広げている!!
敵は虫型宇宙生物。集団で行動し、賢く、薬剤耐性でも持っているかのようにこちらの武器が効かなくなってきてるってオマケ付だ。
まるで悪夢のように、次々と襲いかかってくる!!
ここを突破されたら移民コロニー船団がやられる・・・・・人々が危険に晒される!!
ここを突破されるわけにはいかない!!
さっき敵の体当たりを喰らった影響だろうか。首の辺りがバックブリーカーを喰らったかのように痛む。しかし泣き言なんて言ってられない!!
ここを突破されたら、クラスメートが、友達が、みんなが危ない・・・・アイドルを目指すあの子も。
ここから先は絶対に通さない!!
皆本は搭乗機を人型に変形させると同時にミサイルを一斉発射して中○○一ボイスで叫ぶ!!!!!!!!!!!
「俺の歌を聞けぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」
柿・・・いや皆本ぉぉぉぉぉぉ!!!シリーズが違うぅぅぅぅぅ!!!!!
【美神令子10】
美神には昔のような怒りが沸いて来なかった。
もー色々あった。前世のこととか、アシュタロスのこととか。
もう認めるしかないのかもしれない・・・・・・
だって、未来の私はあんなに幸せそうだ。横島君もとても優しそうだ。
ああ、もう!顔が赤くなる。私のママもそうだけど美神家は変な男が好きな家系なんだろうか?
美神は布団を頭からかぶり首をひっこめた亀のようになる。どうリアクションを取っていいかもわからない。
・・・・・・なんかちょっと渋めでいい男だし・・・・優しそうだし・・・・包容力ありそうだし・・・・
うっわーーーーどうしちゃたの美神令子!こんなハズでは!
「令子・・・・とまだ呼ぶべきではないんだよな・・・・・あの、とにかく自分のうちだと思ってゆっくりしていって」
と未来の横島が声をかけてくる。
「まぁほんとに自分のうちなんだけどね♪」
と未来の美神。
「なんだけどねーーー」
と美神の娘。
ああ、悪く無いなぁ・・・・ちょっとこの暖かさの中で、ゆっくりさせてもらおうかな・・・・・・・
未来の美神はニヤッと笑ったが美神は気が付かなかった。
その時!まったく唐突にピンポーン♪とありふれたドアチャイムが鳴った。
お客さんだろうか?
美神は布団から顔を上げる。
しかし不思議なことに未来の私も未来の横島もまったく無視している・・・・ああ、新聞の勧誘か何かなのだろう。
「食事を用意するから、ゆっくり休んでね」
と未来の私が言う。
と、玄関のドアが開くような音がした。
それに続く「失礼する」との礼儀正しい男の声。やっぱりお客さんではないのか?
ドカドカと足音が近づいてくる・・・・・・・
【氷室きぬ7 梅枝ナオミ8】
さて、めでたくエスパーチームとGSチームの2人が合流を果たしたものの・・・・どうしたものか?
果て無き乳白色の砂漠、灰色の空の世界・・・・・何も起こらない。なんの異常も無い。なんの違和感もない。
ナオミはおきぬを地上に残して再び空から地上を調べたが、今度は何も発見できない。
おきぬは死霊使いの力も幽体離脱の力も、怪我人のいないこの状況ではヒーリングの力も意味は無い。
う〜〜〜〜〜〜ん、と2人は困った。現状、何がどうにもならない。
しかたないので2人はテクテクと歩きながらそれぞれが通学する学校の話やおすすめの甘味処の話などをした。
何か状況に変化が生まれないと、どうにもなりそうもなかった。
【横島忠夫9】
方法はある。
ルシオラは横島に霊基構造を与えすぎたため、自己を保てなくなったのだ。あと少しルシオラの霊力が足りていれば、べスパのような形で存在を保てたはずだ。
運命の天秤は悪い方へ傾いたのだ。それは本当にささやかな差。どちらであっても不思議ではなかった運命の選択肢だ・・・・つまり、変えられる未来であることが示されている。
あの時、ルシオラは横島を助けるために問答無用で横島に必要な霊力を分け与えたのだ。
自己を省みなかった。横島のいる世界を守るためには、そうする以外なかった。
ならばその必要が無かったら?
この世界はその必要の無い世界。アシュタロスはいない。横島のいる世界に影響は無い。世界は滅びない。であるなら横島に与えられたルシオラの霊力は多すぎるのだ。
横島は横島を維持できるだけの霊力を残し、ルシオラに霊力を戻す。天秤に重りを加えて運命をひっくり返す。
それをすると横島は行動不能に陥るだろう。形は違えどナイトメアの目論見通りになる。結果は変わらない。
・・・・・・・GS失格だな、これは。
とりあえず横島はルシオラが消えないようにわずかながら霊力を戻した・・・・・・・・優しいキスで。
「・・・・ありがとう、ヨコシマ。とても嬉しい。その気持ちだけで私は十分・・・・」
ルシオラは薄く笑う。
「あなたは怒るけど、私は幻、夢なの・・・・ニセモノなのよ・・・・・何も変わらない。私はこの夢の世界が終われば、消える運命なの」
運命、か・・・・・・美神さんは鼻で笑い飛ばして神通棍で叩き潰してきた言葉だ。そんなところはホント、尊敬する。
「夢は意味が無いのか?夢では・・・・存在してはいけないのか?」
「・・・・・・・・・・・」
「君が夢なら、方法はある・・・・この世界は3人の女の子の誰かの夢の上に成り立っているのだと思う。夢の上に成り立つ存在なら、俺の夢の上でも存在が許されるはず」
!!!
あなたは、私にも居場所を与えようと言うの?私を救おうと言うの?
私はニセモノなのに。ただの、夢幻なのに。
夢は夢でしか存在が許されない、気に留める必要も無い存在だ。なのに・・・・・・
あなたは手を差し伸べるのか、この私にすら。わかっているはずなのにあなたは!!!
「ルシオラの霊力に俺の霊力を混ぜてリンクさせる。君を俺の夢の世界に引張りこむ」
ヨコシマの夢の世界か・・・・・どんな天国よりも、私は嬉しい。でも・・・・無理。
「ごめんなさい・・・・・ヨコシマ。それはうまくいかない」
「何故?」
「私は、この世界、この夢の中心なの・・・・私と精神接続して創造主はこの世界を構築している。あなたが拒否しなければこの世界は維持されたまま、世界は創造主と繋がっている・・・・ 私自身は創造主に操られているわけではないの。それは私が絶対に拒否したから・・・・でも世界構築の精神接続だけは切断できない。私は捕らわれた存在・・・・紐でつながれたホタルかしら?」
彼女は自虐的に笑った。バカみたいだ。ヨコシマは一生懸命なのに、私はそれに答えられない。
悪魔が生んだ小さな奇跡。だが代償は必ず求められる。
「なんとかならないか?その精神接続は切れないのか?」
「・・・・・・創造主によほどのことが起きれば途切れるかもしれない。それどころでは無くなるようなこと・・・・・・でも、私にそんな真似は無理」
「俺の力でも無理なのか?」
「ここから私を介しても、ヨコシマの力では難しい・・・・・それに、私が保てないわね」
ルシオラは自分の無力を笑う。横島はそんな笑顔は見たくない。
ナイトメアを倒しに行けば、この世界は消える。ルシオラは消える。
しかしこの世界に留まる限り、ルシオラの精神接続は切断できない。
精神接続されたルシオラを介してナイトメアへの攻撃は可能のようだ。しかし、ナイトメアにダメージを与えるほどの文珠を使えば、ルシオラも無事ではすまない。
詰んでいる。打つ手が思い浮かばない・・・・
【美神令子11 谷崎一郎11】
突然部屋に入ってきたのは、土足のちょび髭の背広姿の男。
「やーーーーこれはGSの・・・・・えーと、そうそう、美神さん!!バベル所属現場運用主任の谷崎一尉です!あ、自己紹介はここに来る前にやりましたね。これは失礼!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ビシリ!!と世界は派手な音を立てた。
「ところでこちらに外面似菩薩内面如菩薩な私のナオミはおりませんか?」
谷崎以外の誰も動かない。美神本人は驚きと記憶の統合、事態の把握状況の解析、あらゆる可能性を脳内で計算とあらゆることが彼女の頭の中で起こっているため。
未来の美神と旦那様と娘はまったく動けない。とんでもないバグが入り込んで動きを止めたプログラム。イレギュラーに対応しきれない機械人形。例えるならそのような感じを受けた。
そんな存在に谷崎はまったく興味を示さない。くだらないニセモノに用は無いのだ。ナオミじゃないし。
谷崎はキョロキョロと周りを見回す。小さな狭い世界だ。玄関の外は何も無い砂漠だし・・・・ ナオミがいないことはすぐにわかった。もう用は無いか。
谷崎は美神に助言めいたことを言わなかった。聞かれなかったし、話をすること自体忘れていたのだ・・・・・・しかし美神に助言などまったく必要は無かった。谷崎の乱入。ただそれだけで充分だった。
エスパーチームを連れて来た価値は十二分にあった。美神にかけられたナイトメアの強力な呪縛、谷崎の愛の力?はそれを打ち破るきっかけをつくった。愛の力はバカにできない。この一瞬がエスパーチームを連れてきた全ての価値だと断言していい。
気が付きさえすれば・・・・彼女にはどうということは無いのだ。
谷崎はそれでは失礼しますね、と礼儀正しく美神に頭を下げ、部屋から去り玄関のドアノブに手をかける。
この扉の向こうにナオミがいますように!!!!ドアよ!!この瞬間秘密道具と化せ!!ナオミのいるところへつながれ!!!!!できればナオミの入浴中とか希望!!キャーーー!谷崎さんのエッチ!!!でも谷崎さんなら・・・私・・・・・ポッ・・・・みたいな感じで!!!
谷崎はロクでもないことを強く念じ、ドアをくぐると同時に世界からかき消えた。
しかしドアを開けた人間の思考とは反比例に玄関のドアは紳士的にパタンと閉まった。
玄関ドアが閉まる音は、ベッドに腰かけて座る美神にも聞こえていた・・・・
【皆本光一16】
皆本はとある漫画雑誌の編集部にいた。皆本の目の前に編集長が碇ゲ○○ウのごとく両肘をデスクに立てて座っている・・・・・ (書いた人注※当然であたりまえですがこのSSは完全なまでにフィクションです。実在の人物、団体、組織、事件等とは一切関係ありません。書いた人はまったくのシロウトであり編集長どころか編集者なる職業の人すら見たことありません。完全なる想像でこのSSは書かれています。いかなる人物とも無関係です。断言します)
皆本のペンネームはメープルペンペン・・・・インパクトを狙ったのかもしれない。謎のペンネームだった
「・・・・増刊用に読み切りを3本必要だ」
ギラリと編集長の目が光る。
(書いた人注※くどいですがまったくのフィクションです。漫画どんなふうに発注されるかとか知りません。声のイメージは立木○彦さんでお願いします) ・・・・・・悪夢だ・・・・・・・・・・・
いや読み切り3本って。物語3本ですよ。
「描くなら早くしろ・・・・描かないなら・・・帰れ!!」
(書いた人注※くどい略・・・まったくの略・・・完全なフィクションです)
皆本ことメープルペンペン先生は右手を握りしめた。
「やってやる・・・・見せてやりますよ・・・この俺の、作品ってやつを!その3本から未来を生み出してやる!!」
手で隠した編集長の唇がニヤリと吊り上がる。
(書いた人注※くどいですがまったくの想像の元に書かれているデタラメです。エンターテイメントです)
こうして漫画家メープルペンペンこと皆本光一の悪夢・・・いやマンガ道は続いていく。がんばれ皆本光一!負けるなメープルペンペン先生!
「もう一つ、伝えねばならない事がある」
・・・・・・・・・・
「先生のカラー原稿無くした」
「それ別の先生だ!!!」
(書いた人注※1000%フィクションです。いかなる現実とも全くの無関係です)
【美神令子13】
・・・・・・ミスった。やってしまったか・・・・・・・・・
美神は徹底的にナイトメアが仕掛けた夢の世界を破壊してしまった。常に計算高い彼女が珍しい。 よほど頭にくることでもあったのだろう。人間、認めたくないことはある。
私が世界の中心だと気がついた。私からはナイトメアにつながっている気配が感じ取れた。
気が付きさえすればすぐわかるぐらいたいしたことは無かったのだ・・・・だが気が付かなかった。負けを認めるしかない。腹が立つったらありゃしない。
クソッ・・・・・ありったけの精霊石をブチこんでやればよかった!!
・・・・・・・・・まぁいい。そんなことはささやかなつまらないミス。
決着はもうついてしまったのだ。美神は気が付いた。ナイトメアはもう終わり。
美神は気が付いたのに捕らわれるような甘い人間ではない。もはや夢の世界は武器にならない。
あとは直接対決で美神を倒すしかない。
そしてそれは無理なのだ。もうナイトメアごときでは美神は倒せないほど彼女は強くなっている。
しかし・・・・・と美神は思う。今回、今までのことはとても不自然だ。
何か目的と意図があるはずだが・・・・・その2つがまったく読めない。
こちらを分断したり初手から夢に閉じ込めたりと今回のナイトメアは頭のいいナイトメアと思っていた。
しかし奇妙なイレギュラーに進入を許し、そのイレギュラーを排除できなかった。
そして私に気づかれた。
しかも夢の世界は脆く薄く、あっという間に破壊できた。
どうにもバラバラだ。不自然だ・・・・
とりあえず考えられることはいくつかある。
この世界には霊能力者、超能力者、妖怪、普通の人間と一気に10人が送り込まれてきた。
人間は集団になれば個々の合計の戦力よりさらに大きな力を発揮する。
もっともそれにはチームワークが良いことが大前提だ。足を引っ張り合えば戦力は逆に低下してしまう。
GSチームとエスパーチームの連携には不安があったが、それぞれのチームが独立して協力しつつ行動すればかなりの戦力であったはずだ。しかも集団ならよりこの世界の仕組みに気が付きやすい。だから分断したのだろう。それは正しい判断。
正しい判断ではあるが同時にその作戦は諸刃の剣でもある。10人全てには対応しきれないのだと思う。全てに対応すれば一人に割り当てられる力が減って当然。
たぶんこの乳白色の砂漠の世界が力の消耗を押さえている基本となる悪夢の精神世界なのだろう。
戦力の集中と一斉投入は戦術の基本。最初の美神の目論見とは大きく違ったが、結果の賽の目は良い数字が出た。
おそらく私とあと何人か・・・・危険そうな奴に夢の力を集中させているのだと思う。でなければさしものナイトメアも力を使いすぎることになるだろう。キャパが大きいとしても無駄な力の使用は本能的に避けるはずだ。
ナイトメアはやっかいな能力の高い悪魔ではあるが魔神ではない。力のキャパが無尽蔵とは思えない。
エスパーは夢の攻撃に関してはナイトメアの敵ではあるまい。ナイトメアはエスパーチームに力を振り分けはしないだろう。
私以外に誰を選んだか。たぶん横島と・・・・・タマモかシロ。あるいは両方。
素直にサイコメトラーを連れてきていたら状況はわからなかった。
しかしバベルはサイコメトラーは人材が少ないらしい。バックアップに差し向けるのは適切だ。 しかもサイコメトラーの代表格が眠り姫の3人のうちの1人以外となるとあの軽薄そうな男みたいだしなぁ・・・・・・正直どうなのかしら?
あの美神の世界に乱入した現場運用主任・・・・たしか普通人のはずだが・・・谷崎とやらは謎だ・・・・・何かおかしい。
だがそれがいったいなぜなのか、何が変なのか美神にはわからない。その何かが敵を混乱させ妨害しているのではないかと彼女は考えた。
あと霊力の送り込みのときに感じた違和感とその時に感じ、考えたこと。それもまた現状の説明の根拠になるだろう。
まだ確証が無い以上、信じ込むのは危険だ。今はシンプルにナイトメアの打倒のみを考えるべき。
私の仮説が正しいなら・・・・目的と意図。それを知りたい。
《敵は他にも思いどおりにできない事情がある。または思いもよらない目的と意図がある、などだろうか》
わからないことを考えても仕方の無いことだ。前進するのみだ。
「さてと・・・・・」
美神は乳白色の砂漠を見回す・・・・・あそこか。
美神はごく普通の足取りでその位置までスタスタと歩いてくると、無造作に神通棍を地面に突き立てる!!
ドカン!!と音がして彼女の立っていた大地が割れる!
美神は落下し、その世界からかき消えた。
【タマモ19】
ゴゴゴゥゥ・・・・
?
馬上の武者、三浦介義明はいぶかしんで空を見上げる。空は蒼穹、果て無き空。
《雷鳴?》
ありえぬ・・・・雲ひとつ無い空に雷鳴など。そう思った瞬間だった。
目も開けられないほどの豪雨が討伐軍に襲いかかった!
《莫迦な?!晴天に豪雨だと?!》
てんき雨。狐の嫁入り・・・・そんなおだやかな哀愁を誘う状況ではなかった。
《ハッ・・・・妖狐め、くだらぬ悪あがきよ!!》
「皆のもの怯むな!!これは妖狐のまやかしにすぎぬ!!最後のあがきだ!!!」
大将の叫びに動揺していた軍は落ち着く。雨ごときいかほどのものか。
しばらくすると豪雨はやんだ。やはりどうということもなかったのだ。
雨の後に雲が来た。人のあたりまえの常識をあざ笑うかのように。
黒雲は太陽に襲いかかる。沸き立つ黒雲は闇夜よりさらに黒い。覆われた太陽はすぐにその輝きを失う。黒雲は瞬く間に空を覆いつくす。一面の闇。その闇の中で閃光が走る。
幾筋もの閃光が黒雲を走る。不気味な雷鳴が不快げに鼓膜を震わせる。
突然閃光の一筋が地上めがけて落ちてくる!!
耳を覆いたくなるような大音響とともに地上に落ちた稲妻は大木を真っ二つに引き裂き燃え上がらせ、巨大な松明のごとく漆黒の空を照らし出した。
それはまるで思い上がった人間達の末路を示すかのようだった。
《クッ!!・・・・》
三浦介義明はその燃え上がる大木を見て歯噛みをする。
突然、燃え上がる大木ではなく黒雲を見上げていた雑兵の1人が意味不明の悲鳴をあげて槍を放り出して逃げ出した!
三浦介義明は空へ振り返る!
?!
三浦介義明は自身の目を心底疑った。それはまったくもってありえない光景だった。
そこには漆黒の空をさらに覆う、金色を纏う白い巨大な妖狐がいた。
・・・・・・あれこそ我らが敵、白面金毛九尾の狐の真の姿か?!
三浦介義明は恐れた。誰でもその姿を見て恐れぬものはいないだろう。
巨大だった。ありえないほど大きい。尾まで含めれば半里にも及ぶかもしれない。九つのひるがえる尾は輝き、まるで旭日のようだ。
時折吐く息は白い炎。闇より黒い雲をさらに黒く焦がす。
その唸り声は大地を揺るがす。金色の目は一睨みで人を殺しかねない。その牙は山一つを喰いちぎりかねない。その口は村一つを飲み込みかねない。その爪は大地に渓谷を穿ってみせるに違いない!!
討伐軍はパニックを起こして逃げはじめた。さすがにあまりの異常事態だった。負け戦に遭遇してしまったどころの状況ではない。目の前、彼らの頭上のすぐそこにいるソレをどうしろと言うのか?
「怯むなぁ!!矢を!!矢を放て!!放て!!!」
それでも勇敢な侍たちは九尾の狐目掛けて矢を放つ!!
だが九尾の狐はまったく意にも介さない。金色を帯びた白毛は羽毛のようにしなやかでハガネより硬い。ミサイルですら効果がないかもしれない。
傾国の化け物・・・・それはなにかの比喩表現ではなく、目前のソレは文字どうりに物理的に成し遂げてしまう化け物だ。
しかし白面金毛九尾の狐は何かを探すように首を廻らしていた。
そしてついに・・・・・ピタリと馬上の武士、三浦介義明と目が合った。
ニヤァァァァと白面金毛九尾の狐は笑ったように見えた。
三浦介義明とそれにつながっている存在は、樹氷のごとく魂が凍り付いた。
【横島忠夫10 谷崎一郎12】
その光景はあまりにも常識外だった。
突然、何も無い空間からドアを開けて入ってくるように背広姿のちょび髭の男が現れたのだ!
横島は素直に驚いた!!自分が・・・いや自分たちが脱出することばかり考えていたので誰かがこの世界にやって来るなどとまったく考えていなかったのだ。
しかもやって来るのが美神さんやおきぬちゃんなら納得できるのだが・・・・
やって来たのはなぜか背広姿のナイスミドル・・・・・外見はまともである。
いったい誰なんだ・・・・・いや待て、この人はエスパーチームの人ではなかったか?となるとエスパー?世界を乗り越えてきたのか?
「・・・・・・ナオミの入浴シーンじゃない・・・・・」
《いやいや何を言ってるんすかこの人?》
・・・・・・・横島にまでつっこまれてしまった。
「む?君はGSチームの人だね。自己紹介をしたと思うが私はバベル現場運用主任の谷崎一尉です」
「あ・・・どうも。横島忠夫、GSです」
互いに自己紹介した後で谷崎は周囲を見回して仰天した。
ここは東京タワー特別展望台の屋根の上。地上223メートルで仰天するシチュエーションではあるのだが谷崎が驚いたのはまったく別のことだった。
遠くに見えるキノコのような不自然な建造物。あれは・・・・・
谷崎は横島とすぐ側で横たわる奇妙なコスプレをした少女を見つめる。
もしかして・・・・・この少年、『ア号事件』と関係があるのか?
『ア号事件』・・・・超能力者が関わったにもかかわらず、バベルですら真相のわからない、本当に何がなんだかわからない事件。
バベルどころか誰一人真実を知るものはいないとまで言われている一年半ほど前に起きた謎の怪事件だ。
一部の超能力者と霊能力者が起こしたクーデター騒動。あのキノコのような建造物と海上で奇怪な巨人が目撃されたがそれはヒュプノのせい、と説明されている。
不自然な説明の多い謎の事件。だがア号事件はあらゆる記録、情報が抹消されあらゆるメディア、インターネットにまで規制がかけられていると噂されている。真偽のほどはわからないがア号の謎に迫ろうとしたものが何人も行方不明になっていると囁かれていた・・・・・・・
アシュタロスの一件は神族魔族にとって起きてはいけない事件だった。
魔神の一柱が起こした事件の影響は大きかった。人間界に影響を与えすぎたのだ。
神族魔族の存在が公になれば人間は自立進化をしなくなってしまう。進化の高度な多様性を求める彼らに不都合なのだ。
神族魔族は積極的にこの一件を揉み消すことにした。
破壊された建物等は常軌を逸する速さで再建された。あらゆる記録、必要なら人間の記憶すら彼らは改竄した。
それでも巨大都市東京で起こった大事件だ。揉み消しきれるはずが無い。そこでこの事件は一部の超能力者と霊能力者が引き起こした奇妙なクーデターとでっちあげられた。
そのせいで反超能力者感情は一時高まったが、その後にデタラメな金をかけた超能力者擁護キャンペーンでその反感もあっさり元に戻った。バベルにも大量の資金が流れたらしい。
その金の流れもまったく謎だった。いったいどこから沸いてきたのか。当時は誰かがカバンから大量の金の延べ棒を取り出した、なんて小学生レベルのヤケクソ的噂話まで流布していた。
事件は人為的な風化を強制され、それは成功した。
そして残ったものは『ア号事件』の隠語と闇に包まれた謎。ア号のアは主犯者の頭文字と言われるがそれすら定かではない。
触らぬ神にたたり無しだ、と谷崎は思う。この横島くんとやらにア号事件の事を聞くのはやめておこう。命は惜しい。
「横島君、ここは精神世界、言ってみれば『夢』の世界なんだ。脱出は困難ではない」
「・・・・・・知っています」
「気が付いていたのか」
横島は何のきっかけも無く、ただ1人でナイトメアの呪縛を破ったのだ。その点においては美神を上回っていた。
・・・・・・気が付いてなお、この世界は消えないのか。谷崎は横島の側で横になっている少女・・・・ルシオラと目が合う。
この少女は・・・・・自我を持っている?
奇妙な事も起こる。しかしここでは常識が通用しない。そんなことも起こりえると谷崎は思う。
なにせ彼はバベルの現場運用主任の一人、非常識な事態も慣れっこだ。
「横島君、その子は幻、実体の無い『夢』のような存在だ」
「それも、わかっています・・・・でも俺は救いたいと思っています。でも彼女はナイトメアと精神接続されています・・・・超能力でなんとか助けられないでしょうか?」
超能力はなにも万能な神の力ではない。それは無理だ。
しかし谷崎は考え込んで押し黙っている・・・・・・ように見えた。
???
横島は谷崎の異常に気が付く・・・・・立ったまま寝ているのかこの人?器用な真似を。
ぱちりと谷崎は目を覚ました。そして横島にではなくルシオラに話し始める。
「残念だけど超能力でも無理なの・・・・・あなたを破壊する以外には。でも私には予知できる。何か大きな変化がもうすぐ起こるわ!その機を逃さないで!私は恋する乙女の味方なのよ!!」
・・・・・・・・・・なんだこの人?!急に女口調になって?!オカマ?!変態?!キモ!!
横島はおののく。見かけはナイスミドルだったのに変態だったのか!!
だがルシオラはなぜか動じない。ありがとう、と短くつぶやく。
「ああ!君ホントにいい子!!愛ってスゴイ!!!皆本君のボンクラにも見習わせたい!!」
谷崎は横島の背中をバンバン叩くと胸の前で手を合わせ腰をクネクネと動かした。
ちょび髭のナイスミドルが。男の声で。マジでキモイ。なんなんだコイツは?!
「おっとっと・・・あまり長い時間介入すると私が支配されちゃう。なるほど強敵ね、しかしあく」
谷崎は言葉の途中でカクンと意識を無くした様にぶっ倒れた後、ムクッと起き上がる。
「うーむ・・・・私は何を?」
横島は自分以上におかしな奴を見たのははじめてかもしれない。
谷崎はナオミのいない世界に興味を失っていた。とても小さな世界だ。ナオミがいないのはすぐにわかる。ここもハズレだった。
谷崎は懐からタバコを取り出すとその一本を口にくわえ火をつける。紫煙が東京タワーの特別展望台の屋根の上でたなびく・・・・・ここからの景色はいい眺めだ。あのキノコと立ち上る火災の煙はなるべく見ないようにしよう。
谷崎は右手に吸いかけのタバコを持ったままスタスタと歩き出した。ナオミが待っている。ならば・・・・・行かねばならぬ!!!
そしてふと横島とルシオラに振り返った。
「心があるなら幻なんかじゃない。それはそれで本物だ」
谷崎はルシオラに笑いかけた。ニセモノの幻にまったく興味を示さなかった男が、ニヤリと。
谷崎は右手を軽く上げるとスッと消えた・・・・・まともに消えることができるなら最初からそうすればいいのに。
横島はボーゼンとしたまま谷崎を見送った。
「ヨコシマ・・・・・あの人は、おかしい」
「ああ・・・・・確かにおかしい・・・・・・」
噛み合っているようで噛み合ってないような気がした・・・・・・・・・・
【蕾見不二子4】
蕾見不二子はフカフカの大きなベッドの上で幸せな睡眠を貪っていた。眠りながら皆本抱き枕にアイアンクローをしかけている。抱き枕の皆本の顔が苦しそうに歪む。
「う〜〜〜〜〜〜〜〜ん・・・・・ムニャムニャ・・・・・・おりゃああ〜〜〜〜〜〜〜・・・ふにゃあ・・・・・・まけないわ〜〜〜〜〜〜〜・・・ムニャァ・・・・こりゃさあああ・・・・・・・・グーグー〜〜〜〜〜〜〜にげろ〜〜〜〜・・・・・・・フヒィ・・・・・・」
彼女が何と戦っているかは、まったくわからない。
***NEXT【ナイトメア計画8】***