【横島忠夫8】
横島はそのルシオラとの抱擁を解くと、ジッと彼女の顔を見つめる。
・・・・・ああ、また君に会えるなんて・・・・・
横島はGSとしては今回、完敗を喫した。
致命的であった。美神がここに一緒にいなくてよかった。もしいたならば・・・・横島は絶対に見たくない光景を目撃することになっただろう。
この状況を美神が知ればひどく怒られるかもしれない。侮蔑の言葉にさいなまれるかもしれない。けれど・・・・・・
「自分を『ニセモノ』だなんて、もう言うな・・・・・」
「ヨコシマ・・・・・・」
「ここにいるんだ・・・・君は本物だ・・・・・・」
嬉しいな・・・・・ヨコシマはいつも・・・・嬉しいことを言ってくれる・・・・・
不思議な、当たり前の人間世界では起こりえない物語。
「ヨコシマ・・・・今のあなたに私は何もできない・・・・でもいつの日か・・・・あなたが生まれ変わったら、ルシオラは必ずあなたの前に現れる。人間になって現れる。絶対に神や悪魔と喧嘩しても、本物のルシオラは成し遂げるでしょう・・・・・私は、本物の気持ちがわかる」
「ああ・・・・・・」
「その時には、その子も元魔族の人間よ・・・・あの女と同じ・・・・今度は一歩も引かないわ。 誰が相手でも・・・・絶対負けない」
「・・・・・・・・」
「下っ端魔族は惚れっぽくてしつっこいのよ・・・・私達にとっては、そんな未来のことではないのよ」
「・・・・・・・待っている。きっと俺は、待っている」
ルシオラは何も言えなかった。私はきっと、とても幸せなのだろう・・・・・
【氷室きぬ6 梅枝ナオミ7】
おきぬはガバリと跳ね起きた!!
今何か!不必要なまでラブラブで何故か腹の立つ夢を見ていた気がする!!
こうしてはいられない。大体私が一番最初に好きだったのになにやらいつの間にかの大逆転だ。納得いかない!!トンビに油揚げさらわれたとか言われたくない!!
・・・・・・・・・・・・・・・
えーと・・・・・・・何の夢を見ていたんだっけ?あれ?何の夢?一番最初って何が?
あれ・・・・・・私は今まで何を?
そこで初めてあんぐりと口を開けて驚いているナオミと目が合った。
「わ!!!」
おきぬは驚く。今の変なリアクションを見られた!
「あ・・・その・・・初めまして!!氷室きぬと申します!!エスパーチームの方ですよね!」
ポカンとしていたナオミも我に帰る。
「あ・・・・ご丁寧にどうも・・・私は梅枝ナオミと申します。バベル所属特務エスパー、コードネーム『ワイルド・キャット』です」
ナオミも丁寧に返事をしつつもチラリとおきぬの様子を伺う。
悲しいことだが『エスパー』と言うだけで恐れられたり嫌われたりすることも多い。ナオミも慣れているとは言え正直ヘコむ。この子はどうだろうか?霊能者なら多少寛大だと思うが・・・・
「わ!わ!・・・私と同い年ぐらいなのに特務エスパーさんなんですか?!凄いですね!!」
エスパー『さん』・・・・・ナオミはぷっと笑う。天然さんかな?
しかし氷室さんからは嫌な感じはまったく受けない。エスパーに対する差別意識を感じない。
「はい。エスパーさんです。人畜無害ですよ?」
「私は美神除霊事務所でお手伝いをしています!将来はGSになりたいです!!私のことはおきぬと呼んでください!!」
とおきぬは頭を下げた。
ちょっと変わってるかもしれないけど、とってもいい子みたいだ。ナオミは心の警戒を解く。
「私のことも、ナオミと呼んでください」
「ハイ!」
おきぬは相手が良い人なら間違いなく友達になれる才能を有していた。
【美神令子9】
『旦那様』が部屋に入ってきた。
おかえりなさい、あなた、と未来の美神が旦那様の頬にキスをする。
おかえりなさ〜〜〜〜〜〜〜いと美神の娘が父親の足にまとわりつく。
「ただいま、令子・・・・体に障るよ・・・・コラ、危ないよ」
旦那様は妻である未来の美神を優しくいたわると彼の子供を抱き上げた。
ちょっと軽薄そうだけど、ちょっと渋くて優しそうな『旦那様』は・・・・・・
「ああ・・・・また時間移動しちゃったの?」
とベットに座っている美神に優しく声をかける。
「そうみたいなの・・・やーね、昔の私ったら・・・・」
と未来の美神。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これは、やっぱり・・・・・・・・・・・
「今の私の名前は・・・・・・・・・・・・・横島令子よ。昔の私」
ニコッと未来の美神は笑った。とても幸せそうに。
この現実をどう受け止めればいいのか。彼女は心底困った。
【皆本光一12】
「皆本君!!そんなことでは巨○の星にはなれないヨ!!」
桐壷局長はちゃぶ台をひっくり返す。特殊素材でできているため安全にひっくり返すことができる。税金って凄い。
皆本は全身をバネでつながれた謎の養成ギブスを装着させられ、重いコンダラ・・・いや、重い整地用手動式ローラーを引っ張りながら校庭をランニングさせられていた。
現代だったら虐待と言われても仕方のない光景だ。
皆本にとってこれ以上の悪夢も無い。彼にとってはすごい悪夢なのだ。
なんだこの非科学的なトレーニングは!!!ありえない!!!
そっちなのだった。
僕だったらもっと合理的でスポーツ科学に則ったトレーニング方法を考案できるのに!なんの目的でこんな意味不明なトレーニングをしなくちゃいけないんだ!と言うか巨○の星ってなんのことだ!!!こんな意味の分からないトレーニングで何とかなるものなのか?!
「皆本君!あれが巨○の星だヨ!!!」
・・・・局長はノリノリだった・・・・これだから昭和30年代の人は・・・・・・
柏木一尉が木陰から皆本をこっそりと見守っている。
「がんばって・・・光一」
柏木一尉が何故こっそりしているのか皆本にはさっぱりわからなかった。
【タマモ16 谷崎一郎13】
その光景は、あまりにも突然だった。まったく理解不能だった。
神にすがるタマモの目前に、まったく突如として背広姿のヤングミドルが現れたのだ!!
右手には吸いかけのタバコ。彼は紳士的に携帯灰皿にタバコを放り込んだ。
その男はキョロキョロと辺りを見回すと、驚きで声も出ないタマモに目を止めた。
「君はGSチームの子だね?マイ・スウィーーーーートハニ〜〜〜〜〜・ナオミを見なかったかい?」
神はやって来たりはしないのだ・・・・いつだって、神様は都合よくやって来たりはしない。
そうだ!!やって来たのは常識をサクッと無視した愛の戦士!谷崎一郎だ!!!!!
ムッ?と谷崎はタマモが抱きかかえる少女に目を止める。
「怪我をしているのか?見せてみなさい」
谷崎はタマモの前に腰をかがめる。あれ?この子初音君と一緒にいた子じゃなかったかな・・・・・
まぁいいか。
とりあえずナオミのこと以外、谷崎はあまり気にしない。
谷崎はアレな人だが、当然怪我をしている少女を無視したりしない人物だった。
彼はこれでも優秀なバベルの現場運用主任なのである。
谷崎はまだ事態がよく飲み込めないタマモからシロを受け取ると手早く傷を確認する。
《ほう・・・・・》
出血は多かったがもう止まりかけ、傷も塞がり始めている。すごい自己治癒能力だ。
谷崎は人狼族のことなど知らないが、数多くのエスパーを見てきている。このような事例でいちいち驚いたりはしない。
急所も外れている。大きな血管も傷ついてはいない。問題無い。
脈も異常は無い。呼吸も整っている。出血は多いが致命的な量じゃない。見慣れない君は驚いたかもしれないがこれなら大丈夫だ・・・・と谷崎は手短にタマモに説明する。
《このまま治療をしなくても大丈夫そうなぐらいだが、やるべきことはやっておくか》
谷崎は背広のポケットからバベル特製の救急治療キットを取り出す。止血パットを傷口に張る。圧縮包帯を引き伸ばし・・・・む、さすがに携帯用では包帯が足りない。
谷崎は迷わず背広とワイシャツを脱ぐとワイシャツを引き裂いて包帯の代用品を作り、直接圧迫止血法でシロに裂いたワイシャツを巻きつける。外傷はとりあえずこれでよし。
キットに入っている止血剤を投与。破傷風が怖いので抗生物質を投与。
谷崎は人狼族に人間の薬が効く効かないなどの知識は無い。シロを人間と思っているので人間と同じ治療を施しているだけだ。薬は無意味かもしれない。しかし人狼族は人間に近い。ある程度の効果も期待できる。止血は人狼族でも人間でも有効だ。
谷崎はタマモが引き抜いた矢を確認する・・・・
音の鳴る矢か。たしか合戦の合図や神事に使われていたと聞く。日本では毒矢は卑怯とされほとんど使用されなかったらしいし、特殊な矢を毒矢に使ったりはしないだろう。毒の心配はあるまい。 よかった。解毒剤まではキットに入ってないのだ。
「これで大丈夫。この子が死ぬことは絶対に無い。保証する」
その言葉を聞いてタマモはヘナヘナと座り込んだ。
一方谷崎は上半身裸に背広を羽織ると白いネッカチーフをクイッと整えた・・・・いや普通はネッカチーフを先に包帯代わり使うのではないかと思うのだが・・・おそらく彼なりのこだわりなのだろうが・・・・非常時において仕方なかったのだろうが・・・・・・
上半身裸に背広とネッカチーフ。男らしさを必要以上にアピールする黒い胸毛。エレガントなる単語を地平線の彼方までぶっ飛ばしたその姿・・・・
その姿はどれほどの美辞麗句を探してみても・・・・『変態紳士』以上の言葉が思い浮かばなかった。
「ここは安っぽい精神世界。わかりやすく言うと『夢』の世界だ。たとえこの世界で怪我をしたり狼に食われたりしても現実世界の人間に影響は無いと思うが・・・・・私はこの手のことの専門家では無いから断言はできない。君はこの子を連れてこの世界全体から脱出したまえ。賢木君にその子を診てもらいなさい」
「あ・・・え・・・・あの、どうすればよいのですか?」
谷崎の外見はアレだがそれよりも・・・タマモは自分の言葉が敬語になっていることにすら気が付かない。
「この世界は非常に安っぽい書き割りの世界。小学校の学芸会みたいなものよ・・・・・強く念じなさい。『この子を助けたい。そのために世界から逃げ出したい』と。『この子を守りたい』と。そうすれば必ず破れる。私がここにいるのがその証よ」
そう!ナオミへの愛が!奇跡を起こす!!愛ってスゴイ!!!
一方通行な愛なのが問題だが愛に生きる漢、谷崎は強くサムズアップのポージングを見事にキメた。
タマモは何故か急にオカマっぽく喋った谷崎にやや面食らったものの気をとりなす。なにしろ恩人だ。とても不思議な人だ。
「助けたいと・・・・・強く願う・・・・・・守りたいと・・・・・わかりました」
谷崎は頷くと再びキョロキョロと周りを見回す。
「この世界にナオミはいないか・・・・・谷崎ノーズはナオミのかぐわしきアロマを捕らえられない」
デビル○ヤーは地獄耳っぽいことを谷崎はつぶやく。その言葉の意味をタマモは理解できない。
谷崎はスタスタと歩き出し、地面がむき出しになった場所で止まった。
「今度は下か・・・・ちょこざいな」
谷崎はトントンと靴底で地面を蹴る。
その様子を見たタマモが慌てて谷崎に声をかける。タマモは本能的に悟った。この人は突然現れたように、突然消えると。
「あ・・・・・あの!・・・・あ、あ、・・・・ありがとう・・・・ありがとうございました!」
彼女が人間に真正面から頭を下げたのは、多分約870年ぶりだった。
谷崎はニヤッと笑って軽く右手を上げる。ダンディだ。人間だけじゃない・・・・神も不条理だ。
《待っていてくれ・・・・私の究極のアフロディーテナオミ!!!》
谷崎はゆっくりと爪先立ちになり回転を始めた。その姿はフィギュアスケートの高速アップライトスピン。
『変態紳士』谷崎は優美に回る・・・・・回転するごとに胸毛が黒い筋を描く。見ていたくない光景だった。
回る。回る。回る!回る!!回る!!!回る!!!!!!なお回る!!!!!!!!!!!!!!!
谷崎は猛烈な回転を始めた!!!!
回りながら腕をプロペラのように曲げ、回転によって発生する風力を推進力に変える!!!!!! 谷崎の足元から土煙が吹き上がる!!!!!!
谷崎は地面に潜りこみはじめた!!!!
その姿は例えるなら人間地底探険車だ!!!!!!
「私のドリルは天を突くドリルだぁぁぁぁ!!!!!おまえが信じる私を信じろぉぉぉぉぉ!!!!!!」
変態紳士は猛烈な速度で地面に潜りこみ悪夢のように地上から姿を消した!!!!!!!!
タマモはあまりの事に言葉を失った!!!!!!!!!!
【蕾見不二子5】
蕾見不二子はフカフカの大きなベッドの上で幸せな睡眠を貪っていた。眠りながら皆本抱き枕にバックブリーカーをしかけている。皆本抱き枕はプロレス技練習用なのだろうか?
「う〜〜〜〜〜〜〜〜ん・・・・・ムニャムニャ・・・・・・ドリルは〜〜〜〜〜〜〜〜・・・ふにゃあ・・・・・・・・・・・ロマン・・・ムニャァ・・・・」
彼女がどんな夢を見ているかは、まったくわからない。
【梅枝ナオミ9 氷室きぬ8】
また何かおぞましい思念を感じたような気がした。徐々に近づいてきているような、嫌な感覚まで伴う・・・・・・・なにかもうホント・・・・シャレになってないレベルの気味悪さ。
戦おう・・・・・・私の全てをかけて。『ワイルド・キャット』は暗黒面に堕ちた帝王にだって屈しない!
「・・・・どうしたんですか?ナオミさん」
突如天に向かって決然とコブシを突き上げたナオミをおきぬは不思議に思う。
ちょっと変わった人なのかしら?
「おきぬちゃん!!」
「ハ・・・・・ハイ!!」
「もしここに敵が現れたら、私と共に戦ってくれる?!」
え?!敵とは当然ナイトメアですよね!!
「もちろんです!一緒に戦います!私はそのためにここに来ました!!」
私の主な力は死霊使いと幽体離脱とヒーリング。正直ナイトメア相手にどこまでの事ができるかわからない。
だがそれを理由に逃げ出したりはしない!
特務エスパーのナオミさんと一緒に全力で戦うわ!!
「ありがとう!おきぬちゃん!!!」
この精神世界で初めてエスパーとGS(志望者)との共同戦線が構築された。
目指す敵は違っているような気もした。
決戦の日は近い・・・・・・・かも?
【皆本光一19】
スーツ姿がよく似合う柏木一尉が、パンパンと両手を叩いて皆の注目を集める。
彼女はこの斬新なコンセプトのお店のオーナーだ。
「皆さん注目してください!・・・・・紹介します。今日からこの秋葉原の新風、新感覚女装メイド喫茶『バベル』!!の期待の新人、皆さんの新しい仲間の『皆本ハーマイオニ』君です!!!」
沸きあがる拍手。皆彼を待っていたのだ。
「・・・・・・み・・・・・・皆本・・・・・・・ハーマイオニ・・・です・・・・・・・ニャ♪」
皆本はフリフリの多いエプロンドレスを基調としたメイド服を着せられている。一体成型であるかのようにフィットする。確かな技量の職人によって調整されたものに違いない。
腰の辺りに大きな白いリボン、頭には白いカチューシャとネコミミのダブルコンセプト。さらにお尻のあたりに視認性の高い赤茶色のネコのシッポ・・・・
可愛らしさを強調するデザインではあるがそれでいて動きやすさを損なわない絶妙な計算され尽くされたデザイン。
まさにこの新しい地平を駆け抜けるために編み出された人間の英知が凝縮されたかのようだった・・・・・・
さらには柏木オーナーから語尾に「ニャ♪」と必ず付けるように!と厳命されていた。
皆本にとっては・・・・いや皆本以外の大多数の男にとってどう取り繕っても『悪夢』だった。
「よく来てくれた皆本君!!私がメイド長の桐壷帝三だヨ!!!」
メイド長・桐壷帝三はメイド長を意識しているのかシックなヴィクトリアンメイドタイプだ。
皆本のものと違って過度な装飾は無いがシンプルで美しい。クロウト向けだ。
シンプルだがその生地にはなんとも言えない滑らかさがありこちらも安物ではないオーダーメイドの気品を感じさせる。艶と貫録を併せ持つ至高の逸品だ。
まさにメイド長を名乗る者が着るにふさわしい洗練されたデザインである・・・・
新感覚女装メイド喫茶『バベル』柏木オーナー、妥協を許さないこだわりを感じさせる。
・・・・・・・・・悪夢だ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「よお!俺は賢木修二!!よろしくな!!!」
賢木は皆本のメイド服とはまた違った可愛らしさを追求しているのか、ピンク地の俗にいわれるロリータ系のメイド服だ。背中からはキュートな天使の羽が生えている。なんとなくコスプレ的な安っぽさを感じさせるメイド服だがそれが逆にロリータ系のかわいらしさと、ある種の隙のようなものを感じさせるデザインである。まるでちょっと歌が下手なアイドルのような萌えを醸し出し、人々の守ってあげたい本能を刺激する・・・・・まさに人々の心理を読みきったディテールであった。
柏木オーナー、まさにプロフェショナルである。
「賢木・・・・・キモすぎる・・・・・・・・」
ああ、親友のこんな姿は見たくなかった・・・・人のことはちっとも言えないが・・・・たしかに悪夢だ・・・・・・・・
「んまぁイイ男ぉ!!!あたしはマッスル大鎌よ!!!・・・・・ねぇ、今晩一緒にどう?」
マッスル大鎌は一般的なフレンチメイドを基本として、メイド服のあちこちにレザーを多用するまさにハードゲイスタイルとメイド服の融合を目指した革新的なメイド服であった。
癒しと安らぎが真骨頂のメイド服と挑戦的なハードゲイスタイルとの融合・・・・・
見るものに言い知れぬ感情を想起させるそのメイド服は例を見ないものであった。
そしてレザーの深いツヤ・・・使っているレザーは名のあるタンナーが作った最高級のコードバンに違いない。見る者を魅了する妖しいオーラを放つメイド服であった・・・・
柏木オーナー、採算度外視で新たな地平に挑む!!
・・・・・悪夢だ・・・・・・・・・って、おまえはパンドラの所属だろ!!!!!!!
「ビイィィィィィィクマァァァァァグナァーーーーーーーーーーーム!!!!!」
誤魔化すなよ!!!!!!!
「さあさあ、遊んでないでお客様へのご挨拶の練習を始めますヨ!私に続いてネ!!!」
メイド長、桐壷帝三。今日も絶好調である!!
「お帰りなさいませ!ご主人様ぁ!!!!」
「「「お帰りなさいませ!ご主人様ぁ!!!!」」」
・・・・・・・・・・神様・・・・・・お願いですから早く助けて・・・・・・・・・ニャ♪
【賢木修二6 六道冥子2】
みんなはどうなっているだろうか?がんばっているだろうか?
不安と心配が入り混じった表情をして医療室で賢木はウロウロと部屋の中を歩き回る。
霊能者の美神さんから話を聞いたが、俺自身もサイコメトラーであるがゆえに・・・・この事態の重大性は認識している。
夢の世界・・・・それはつまり『なんでもあり』なんだ。つまりどんな非現実な世界が襲ってくるか想像もできない。狂気の世界、恐怖の世界、信じがたい世界、なんでもありだ。そんな夢に人の精神が耐えきれるか?・・・・・・いざとなったら『ザ・ダブルフェイス』の協力を得て俺が助けに行かないと・・・
ベットで眠っている皆本の顔が苦痛に歪んでいる。賢木は友のかたわらに駆け寄り急いでバイタルを確認するが大丈夫、問題無い!
心配そうに皆本の顔を見つめる賢木。だいじょうぶだ皆本!イザとなったら今度は俺が・・・・・俺がお前を助ける番だ!!必ず助ける!!!
皆本は苦し気に寝言をつぶやく。
「賢木・・・・・キモすぎる・・・・・・・・」
だれがキモいじゃだれがあああああああ!!!!!!!!!
心配して大損した!!!どんな夢を見てやがる!!!!
そんな漫才とは無関係に医療室には六道冥子がぽやや〜んと平和に座っていた。『ザ・ダブルフェイス』の2人は無駄とは思うがもう一度蕾見管理官を起こしに行っている。
この部屋には冥子と賢木の2人きりだった。
・・・・・とりあえずは今俺が皆本たちのことを心配しても無意味だ。それよりも今、俺にもどうしてもやらなければならないことがある。
賢木はススッと冥子に近づく。さっと両手で冥子の手を握る。
「冥子さん・・・・・あなたはとても美しい・・・・・どうですか、今度一緒にお食事でも」
冥子は目をパチクリ。
「あの〜〜〜〜〜〜〜いけませんよ〜〜〜〜〜〜危ない〜〜ですよ〜〜〜〜〜〜」
危ないってどういう意味だろう?それより明確に拒否しない。これは脈アリと見た!
「ホント〜〜〜〜〜そろそろ〜〜〜〜〜危ない〜〜〜〜〜ですよ〜〜〜〜〜」
冥子さんは恥ずかしがり屋さんだなぁと賢木が思った瞬間、冥子から『彼ら』が現れた!!!
バカン!!と部屋中に現れた異形の者たち!!その数12体!!!ギチギチと不気味な声を上げ賢木に無遠慮な殺意を放つ!!!
「な、何じゃこりやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
あまりに定番な物真似で賢木はぶったまげる!!!!
あ、あのハイラって変な生き物だけじゃ無かったのか?!
とっさにサーチしてもまったくわからない!!なんなんだこいつら?!!!!
夢か?!悪夢か?!ヒュプノにやられたとか?!そ、それともこれがナイトメア?!
もちろん賢木のカン違いだ。天才の家系、六道家。六道家の女性に宿る12体の式神。しかも並みの式神とはわけが違う。
それぞれの式神が薬師如来の十二の大願に応じた十二神将の名を持つ。
真の異能の力の持ち主、六道家の娘。それが六道冥子である。
12体の式神・・・・彼らは冥子が大好きだ。その冥子によからぬ事を考える男の運命は・・・・・・・決まっているのだ。無知だった賢木はお気の毒だ。冥子の忠告に耳を傾けるべきだったのだ。
「あ〜〜〜〜今の無しです。皆様のお嬢様にナンパだなんてやだな〜〜〜も〜〜〜〜〜〜・・・・ ありえないっすよ、ありえ・・・・・」
いいわけが終わる前に、あわれ賢木は冥子の式神たちにフルボッコとあいなった・・・・・・
冥子はゆっくりと、ポンッと両手を叩いた。
「あなたは〜〜〜〜〜横島君に〜〜〜〜〜似てますね〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
賢木修二22歳、あんまりと言えばあんまりなENDとなった。
<賢木修二 BAD END>
<六道冥子 NORMAL END>
【谷崎一郎10】
乳白色の砂漠、灰色の空。寂しげなつまらない世界。そこに異変が生じた。
空の彼方からチュドーーーン!!!と隕石のように谷崎は落下した。
今度こそ!今度こそは!!
【谷崎一郎 DEAD END】
「まだ終わってない!!終わってなどいない!!ナオミが待っているのだ!!!」
砂塵の中から谷崎が立ち上がる。何故まったく無事なのか全然わからない。谷崎もさすがに不思議に思ったのかジッと自分の両手を見つめた。
「これが・・・・・愛の力か!」
絶対違うと思うが谷崎はそれで納得した。
砂を払いネックタイを締めなおし、身だしなみを整える。紳士のたしなみだ。
《まったく初音君は乱暴だ・・・・・まぁさっきの世界にナオミはいなかった。私のナオミレーダーは何も反応をしなかった》
谷崎はキョロキョロと周りを見渡す。はて、これは誰の世界だろう?誰もいない、何もない・・・・
谷崎はやや離れた場所に異物を見つけた。乳白色の砂漠にまた扉だけが突っ立っている。
ふむ。
谷崎は近づいてみる・・・・・・うーむ。
扉と言うより・・・・玄関ドアだ。普通の玄関ドア。ちょっと高級なマンションで使われていそうな鉄製のドア。ドアチャイムが付いているので谷崎は紳士的に押してみた。
ピンポーン♪
特徴の無い音が響く・・・・・反応は無い。
《この中にナオミがいるのだろうか?》
もっともこんな異常な状況と異常な世界で返事なんて気にしていられない。
谷崎はドアを開ける。ドアの中はこれまた普通のマンション住宅っぽい。
「失礼する」
谷崎は土足のままドカドカと上がりこんだ。
【タマモ18】
「ここにいたか妖狐!!!覚悟ぉぉぉぉ!!!!」
手を合わせ頭を下げるタマモに、長刀を上段に構えた武者が従える武士と共にタマモに襲いかかる!!!
この世界はまだ続いていた。この世界の最重要人物であるタマモはまだ健在であり、彼女自身がこの世界の存続を願っていた。
タマモに切りかかった武者こそは討伐軍大将の1人、上総介広常。
伝説では三浦介義明により矢傷を負わされ、上総介広常の長刀によってトドメを刺されることになっている。
だが、とっくに伝説は変わっていたのだ。
タマモは上総介広常と配下の武士に無言で左の手のひらをピタリと差し向ける。右手はいつのまにか意識を失ったシロを抱きかかえている。
タマモに切りかかろうとした上総介広常と配下の武士は瞬間、ガスボンベが爆発したかのような巨大な火球に包まれる!!!!
それはまるで地獄の劫火。鉄をも溶かす白面金毛九尾の狐がかつて持っていた白い炎。
ここはかつて、彼女がいた世界。ナイトメアは予想しなかったイレギュラーによって失敗した。
タマモにとって最悪の悪夢の世界こそが彼女にとっての最強の世界だった。
叫び声を上げることも許されない・・・一瞬でケシズミと化し上総介広常は灰すらも残らない!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
タマモは無言でシロをーー本人はまったく無自覚だがかなり安全に気を使ってーー抱きかかえたまま地を蹴り、空を舞う。
その顔は・・・・笑っていた。あの者こそ幾つもの国を亡ぼした大妖狐である!!と陰陽師に言われたら誰もが信じる、そんな凄惨な笑顔だった。
《ナイトメアがどんな悪魔かは知らない。しかしよくも私を誑かしてくれたな・・・・なら私もお前に見せてやろう・・・・・これが白面金毛九尾の力だ!!!!!!!!!》
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