【犬塚シロ8 犬神初音5】
「明カエセ!!明喰ッタナ!!明喰ッタナ!!!!」
始末のおえない事に初音は巨大化までした。まるでフェンリルだ。
鋭い爪の右前足がシロを襲う!
シロはヒラリとかわすと跳躍し初音狼の頭を踏み台にしてさらに高く跳躍する!
「明ヲ喰ッタナ!!散々モテアソンダスエ明ヲ喰ッテステタナ!!!!イヤガル明ヲムリヤリクッタナ!!!!!」
弄ぶとか!!ネコなんぞではないでござる!!拙者はオオカミ!!誇り高き狼でござる!!!
「まっっっったくしつっこいでござる!!拙者喰ってないと言ったら喰ってないでござる!!お主のほうがよっっっっぽど喰いそうでござる!!!」
くそっ!!スキが・・・・・隙さえあれば!!!
【皆本光一10 谷崎一郎8】
エスパー・ハンターから打ち出されたエネルギー弾の光を絶望的な気持ちで皆本は見る。一瞬の事のはずなのにまるでスローモーションのように見える。
しかし『世界』にとんでもなく非常識なイレギュラーが起こった!
なぜかエネルギー弾が飛ぶ射線上に突如谷崎が現れる!!
エネルギー弾は谷崎の顔面にクリーンヒット!!
谷崎は「へぶぅ?!」と意味不明の叫び声をあげてひっくり返った。世界は揺らいだ。まったく予期せぬ異質の来訪者。
皆本の精神はその隙を突いた!彼の精神は肉体のコントロールを取り戻す!!
「コンチクショオオオオオオオオオ!!!!!!!」
反射的に皆本はエスパー・ハンターを足元に叩きつける!エスパー・ハンターはコナゴナになって砕けた。皆本はさらにゲシゲシと踏みつけ高価な兵器の息の根を止める!
皆本は自らの行動を制約するため以外に、なぜか本能的にエスパー・ハンターを嫌悪した。黒い思念のようなものが湧き出てくるように感じられたのだ。
世界は突然変質した。
皆本のまわりには何も無くなった。『戦場』も、薫も。機関銃の発砲音も。市民の悲鳴も戦闘機の爆音もなにもかも。
ただただ広がる乳白色の砂漠と灰色の、空。見つめているだけで寂しさが湧いてくるような単色の砂漠・・・・・
そしてひっくり返っている谷崎。多分もっともありえない方法で彼は『予知』を防いだ。
皆本は悪夢でも見ていたかのようにボーゼンと辺りを見回す。
《なんだ・・・・・ヒュプノだったのか?!》
突如谷崎がムクリと起き上がる。
「皆本君・・・・・むやみに銃を使っちゃいかん」
いや正論なんですけど・・・・大丈夫なんですか谷崎主任?
谷崎は起き上がるとパンパンと砂を払い身だしなみを整える。紳士のたしなみである。
「ところでここに私の黄金の女神ナオミはいないのか?」
「お・・・・おうごん?・・・・・・いや、ナオミちゃんですか?いや、僕にもこの状況は何がなんだか・・・・谷崎主任、いったいどこから?ココは一体どこなんです?薫はどこに?」
「ここは3人の精神世界の中らしい。わかりやすく言うと『夢』の世界だ。ヒュプノとは少し違う」
「『夢』?」
谷崎は皆本の質問には答えず、キョロキョロと辺りを見渡す。ピタリと空の一角を見定める。
「あそこか」
「?」
「ここにナオミはいない・・・・・皆本君。私はナオミと合流する。君は君で頑張りたまえ」
「な?!・・・谷崎主任、戦力の分散は危険です!」
「現場運用主任同士で固まっている方が無意味だ」
う・・・・また正論だ・・・・谷崎主任、アレさえなければ・・・・・・・・
「この世界はいわば書き割りの世界だ。突破は困難ではない。君は『ザ・ハウンド』かGSチームの誰かと合流したまえ。ナオミのことは任してくれ。と言うか邪魔しないでくれたまえ」
「ハァ?・・・・・」
「あとね、なんかずっと向こうに何かあるわよ、この世界」
え?と皆本が谷崎の指差したほうを見ると確かに遠くに何かがある・・・あれは・・・扉?
あれ?今谷崎主任変な言葉遣いじゃなかったかな?
「では健闘を祈る。皆本君」
谷崎はそう言うとやおら空の一角に向けて高く高く跳躍した!!!!!!
「谷崎流究極奥義神拳七百三十六之型!!昇竜飛燕円月白虎百裂鳳凰拳!!!!!!!」
谷崎は謎めいた必殺技の名を叫ぶ!!!!!!
ビカーーン!!!と谷崎が輝く!!原理はまったくわからない!!!輝く必要があるのかさえも!!!!
谷崎はとても表現できない技で空間を破壊しかき消えた!!!!
皆本は開いた口が塞がらない!!!!
【蕾見不二子3】
蕾見不二子はフカフカの大きなベッドの上で幸せな睡眠を貪っていた。眠りながら皆本抱き枕にコブラツイストをしかけている。皆本抱き枕はストレス解消用なのだろうか?
「う〜〜〜〜〜〜〜〜ん・・・・・ムニャムニャ・・・・・・ちゅうしん・・・こわしたか〜〜〜〜・・・・・・・・ほ〜〜〜〜お〜〜〜け〜〜〜〜〜〜ん・・・ムニャァ・・・・」
彼女がどんな夢を見ているかは、まったくわからない。
【美神令子16】
彼女は勇者がやってくるまでの間、とりあえず他のメンバーが今どうなっているか考察をしてみることにしてみた。エスパーチームの何人がここまでたどり着けるかはまったくわからない。が、
・・・・・・・間違いなく勇者はエスパーチームの誰かだから、その人物はたどり着く。
美神はエスパーチームに事件解決を期待していたわけではまったくなかった。
違う意図で彼らを連れて来たのだが・・・・・予想外に役に立ってくれた。
あの不思議な男・・・・・・
エスパーチームの戦術的価値は十分あった。ありがたいことだ。これ以上望む必要はない。
今回のウマヅラの手口を見ていると横島は期待できない。横島はこの手の搦め手にはまったく弱い・・・・クソ、もっとも今回は私も批判はできないが・・・・問題は横島の甘さだ。全体的にムラがあり欠点も多い。実力はあっても単独戦力としては問題が多い。まだ半人前だ。
おきぬちゃんは元々単独の戦闘に向いていない。しかし一緒にいてくれると心強い。無事であってくれればそれでいい。
タマモは・・・・予測が難しい。潜在能力はもの凄いのだがどう転ぶかまったくわからない。
一番期待できるのは多分シロだろう。
彼女は楽天家で逆境に強い。彼女の野生のカンは独力でも世界の仕組みに気が付いてくれるかもしれない。
・・・・・・ただあの子の場合、まっすぐこちらに来てくれない可能性が高いのよねー
どこかで誰かが誰かと合流を果たしていればまた話は違うけど、ここからではわからない以上アテにはできない・・・・・今ここを離れるわけにはいかないし。
美神はもう一度いい加減な感じに張り付けられた張り紙を見つめる。
・・・・・・やっぱり私一人でウマヅラを倒さないとダメか〜。
それは問題無い・・・・さて問題はその後だ。
【タマモ9】
ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・
ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・
玉藻前は逃げる。討伐軍から。全ての人間から。
苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。
助けなんて無い。救いなんて無い。そんなことはわかってる。
なのに・・・・私はまだ救いを求めてる。本当は求めてる。救いの手を求めてる。
だから須藤権守貞信の夢に入り込み、許しまで請うた。何も悪く無いのに、ひたすら許しを請うた。まったく無駄だった。なのにまだ私は救いを求めてる。
助けて!!!!
神に届くように。誰かに届くように。心から願う。助けて、と。
無駄なんだろう。きっと無駄なんだろう。誰が答えてくれると言うのか。私は愚かだ!
討伐軍がもう迫ってくる。
疲れた。疲労は限界に近づいている。彼女は距離を稼ぐために空高く飛び上がる。
無用心だった。彼女は本当に・・・・・限界だったのだ。
【犬塚シロ9 犬神初音6 谷崎一郎9】
長い異能の戦いにまったく予想もしない変化が訪れた!!
!!!!!!!!!
初音狼と対峙するシロとの間に突如なんの前触れも無く、背広姿のちょびヒゲの男が現れたのだ!
「お、初音君か!なんか普段よりかなり大きいが・・・いやそれよりここに私の嫁ナオミが・・・・」
谷崎は全てを語ることを許されなかった。初音狼の巨大な左前足の強烈な一撃によって灰色の空高く弾き飛ばされる!!!!
谷崎はキラーーーーーーン・・・・とオノマトペと一緒にお星様になった。
「隙ありぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!」
待っていた!この瞬間を!!予想外の状況に惑わされるなどまだまだ修行が足りん!!!!
シロは霊波刀を両手持ちで初音狼の鳩尾に深々と叩き込んだ!!そして霊力全開!!!
初音巨大狼はピタリと動きを止めると、ズズンッ・・・・と乳白色の砂漠に崩れ落ちる。
そして初音は元の人間の姿に戻った。キュウ〜〜〜〜〜と目を回している。
「峰打ちでござる・・・・クッ、またつまらぬものを斬ってしまった・・・・・」
ああ、一度このセリフを言ってみたかった・・・・渋いでござるカッコイイでござると感じ入りつつシロは霊波刀を消した。
《人の姿は不利とはいえ良き戦いでござった・・・・またお手合わせをしたいでござる・・・・・》
さて、どうしたものでござるか。
初音殿は目を覚ましたらまた暴れる可能性がござる。残念だがこのまま眠らせておく以外に手は無い。ヒーリングで治療などはできないでござろう。怪我や病気ではないし。
シロはキョロキョロと辺りを見回してみる・・・・・
<犬神初音 BAD END>
【横島忠夫7】
「早く行きなさいって言ってるでしょ!!本気で怒るわよ!!」
ルシオラが叫ぶ。
世界は揺らいだ、完全に・・・・なぜならルシオラは『そんな言葉は言わなかった』。
横島はクルリと再びルシオラに向き直った。流れる涙を拭おうともせずに。
「ウソをつくなって・・・・言ったよな?」
「・・・・・・・・・・・・・」
揺らぐ。全てが揺らぐ。しかし世界は消えない。
消えるなと、望んでいるから。消えないでくれと、願っているから。
「・・・・・・ヨコシマは、困るときには鋭いままね・・・・・・」
「ルシオラ・・・・君は・・・・・」
「・・・・・・そう。あなたの考えている通り。私はまぼろし。私はニセモノ。ここはあなたに仕掛けられた夢の世界・・・・あなたは気が付いた。あなたは見抜いた。なのになぜ!・・・・・・私は・・・・消えないのよ・・・・」
ルシオラの頬にも涙がつたわる。
「どうして美神のところに行ってくれないのよ。この世界からすぐに立ち去ってくれないのよ・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「あと一歩を踏み出すだけで、あなたはこの世界から立ち去ることができたのに・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「私の命じられた使命はあなたを殺すこと。この夢にあなたを閉じ込めること。でも創造主は失敗した。私はニセモノでもルシオラなの・・・・・・ルシオラは、ニセモノでも・・・・・・あなたを殺す真似なんて、できない・・・」
「・・・・創造主って・・・・・ナイトメアのことなのか?」
横島は苦し気に言葉を絞り出し、ルシオラは黙って頷く。
「私はあなたの記憶を元に創造されたこの夢限定の私。でも私はルシオラ・・・私が創造主を拒絶した瞬間・・・・・私は私の『自我』を得たの。創造主とつながっているけど心は私のもの・・・・私のことだけどルシオラってスゴイのね・・・・・感心する。私はフフッ、創造主を裏切ることが宿命なのかしら・・・・」
彼女の悲しげな微笑み。自嘲のような微笑み。似つかわしいと思いたくない微笑み。
「・・・・・・・・・・・」
「さすがにこの世界のことを教えてあげる事まではできなかった・・・・私は創造主をそこまでは裏切れなかった」
「・・・・・・・・・・・」
「だって私は・・・・・・・とても感謝しているから。再びヨコシマに、会わせてくれたから・・・・・私にとっては・・・・神様なの・・・・あなたを殺せと命じた、悪魔だとしても」
「・・・・・・・・・・・」
「でももう無意味ね・・・・あなたは気が付いたのだから・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「ヨコシマ、美神のところに行きなさい。この世界を破壊して。『消えろ』と念じればいい。
安っぽい、かりそめの世界なの。気が付きさえすれば平気なの。霊能者であれば、打ち破れる悪夢なの」
『消えろ』だなんて、願えと言うのか?
どれほど自分の愚かさを呪っただろう。何度悔いただろう。それを今度は・・・・
『消えろ』、と願うのか?
「私は十分、感謝している・・・・・私はニセモノ、私はマボロシ、それでも・・・・・もう一度、あなたに、ヨコシマに会えたんだ・・・・・」
流れる涙が止まらない。自分はこんなにも涙もろかったのか。
「私のために泣いてくれるのはとても嬉しい・・・・本当に嬉しい・・・・私の短い生涯に、悔いなんて無い・・・・・」
何を言っているんだ?何を・・・・・
「1つだけ悔いがあるなら・・・・もう一度一緒に・・・・夕日を見たかった・・・・・・」
そんなささやかな願いもかならえられず、俺は無力にもここで涙しているのか?
「私は・・・・欲張りね・・・・今、この瞬間が・・・・・奇跡なのに・・・・・」
奇跡?奇跡?こんなちっぽけな奇跡?
「どのみち私は消えてしまうの。現実は何も変わらないの。だから早くこの世界を破壊して、ヨコシマ!」
現実は何も変わらないから?
「私のために泣いてくれるのは嬉しい・・・・でも私は、あなたの笑顔を望んでいるのよ・・・・」
現実は何も変わらないからすべてを諦めて、すべてを受け入れて・・・・・そして
「私は・・・・私に笑いかけてくれた、あなたの笑顔が大好きだった・・・・・」
『消えろ』と願うのか?
『消えろ』と?
『消えろルシオラ!』
横島の肩が震える。涙がどうしても止まらない。
願えるわけが無いだろ!!!!ふざけんなバカヤロォォォォォォォォ!!!!!!!!!!
横島は強く『ニセモノ』のルシオラを抱きしめた・・・・・・・
【タマモ10】
三浦介義明は背中を晒して空に舞う玉藻前を見逃さない!!
「愚かなり!!」
三浦介義明はすばやく必殺の蟇目鏑矢をつがえる!
三浦介義明は瞬間、ニヤッと笑った。
その顔は武士には見えなかった。
【犬塚シロ11】
シロは狙いをつけたあたりに霊波刀を一閃すると、空間はビシリと『裂けた』。まるで映画用のスクリーンをナイフで切りつけたかのように。
《やはり!安っぽい境界でござる!》
シロはこの世界の仕組みに気が付いた。気が付きさえすればどうということはなかったのだ。
『気が付く』。つまり『認識』だ。これは重要なのだ。気が付かないと人はバカでかい漬物石に足を引っかけて転倒することもある。なぜこんな大きな漬物石に足を取られたのかと転んだ人は首をかしげる。『気が付かなかった』からなのだ。なんだあたりまえだろと思うかもしれない。だが『気が付か』ないと人は大きな漬物石に足を引っかけて転んでしまうのだ。
これがナイトメアのカラクリだった。力をなるべくセーブして薄い蜘蛛の巣で相手を搦めとる。安っぽい世界、脆い世界で充分なのだ・・・・・気が付かなければ。
裂け目は別の誰かの精神世界につながっていた。
シロは裂け目に頭を突っ込んでみる。
!!!!!!!!
シロは裂け目に飛び込んだ!思考より体が先に動いた!!!
【タマモ12】
玉藻前は殺気に気が付き、振り返る!
だが全ては手遅れだ。必殺の蟇目鏑矢は憎しみの叫び声を上げながら、まっすぐ突き進んでくる!!
だが不思議と彼女は安堵した。これで終わる・・・・・・
私は人を憎み続けよう。けっして人を許すまい。あの矢は、私を本物の妖狐へと変えるだろう。
人が招いたことだ。人よ忘れるな!憎しみは必ず自分達に戻ってくるぞ!!
・・・・・ああ、やっぱり、救いなんて・・・・・無かった・・・・
【皆本光一11】
皆本はボーゼンとしたまま、空の一角を見つめている。
非常識な人だとは思っていた。しかしリアルにあそこまで非常識な人だったとは・・・・
いや、さすがにおかしい、と明晰な皆本の頭脳は気が付く。
いやだって異常すぎる。いくらなんだって尋常ではない。
《ナイトメアって悪魔とやらの影響?なんか変な言葉使いだったし?・・・・何が何だかさっぱりだ。あの調子だもんなぁ・・・・ナオミちゃんのことになると人格が変わるというか・・・うーん》
皆本本人も他人さまのことは言えないかもしれないが・・・・・しかしそんなことを考えてみても事態の打開にまったく役に立たない。肝心の谷崎はどこかへ消えてしまった。
そして谷崎主任の言うことももっともなのだ。現場運用主任同士でチームを組んでも意味が無い。谷崎主任にはナオミちゃんでも『ザ・ハウンド』の2人でもエスパーと合流してもらったほうが良い。
皆本はそう考えた。まさか谷崎が『ザ・ハウンド』の明をあっさり置き去りにするとは思ってもみなかったのだ。皆本はまだ谷崎を甘く見ていた。約束された2人の愛の蜜溢るるエデンの新世界のためには明はただただ邪魔な存在でしかなかったのだ。
夢の世界、との話は理解した。信じざるおえない。現実にこんなことが身の回りに起こってしまったのでは・・・・・・・・
皆本は催眠だとかヒュプノだとかは決め付けなかった。彼は柔軟で明晰な頭脳の持ち主だ。
谷崎主任は『この世界は書き割りの世界だ。突破は難しくない』と言っていたが・・・・・
しかし、いったい具体的にどうすればいいのだろう?
谷崎主任は・・・・・思い出したくは無いが・・・・・なにかこう・・・・不条理な技を・・・・
・・・・・・・・・・・・無理だ!!あんなのどう参考にすればいいんだ!!僕は悔しいが何の力も無いノーマルだ!!いや谷崎主任だってそうなハズなんだけど・・・・・・いや、谷崎主任のことを考えるのはやめよう。異常な例を平均と思うとロクなことは無い。
とりあえず周りをキョロキョロ見回して、精神を集中してみる・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
なーーーんにも、感じない・・・・・・・まったく、異常がわからない・・・・・・・
どうやら『突破は難しくない』のはエスパーや霊能者、または谷崎主任のような変態だけなのではないか?
あとは悟りを開いた修験者とか禅僧とか心眼を極めた武道家とか・・・・
僕のようなごく普通のノーマルには突破が難しいのではないか?
それはあり得ることだ。異常な力で区切られているなら、薄く脆くともそれを破れるのは異常な力だけである可能性が高い。通常の力━━━つまりは鉄砲や大砲のような━━━ものに対しては充分以上に強固なのではないか?
・・・・・・・となると手がかりはあの『扉』だけか・・・・・・・・
皆本は乳白色の砂漠を扉に向かって、歩く・・・・・なぜだろう、さっきから体がコブラツイストをかけられたように痛む。
その痛みはしばらくしたら消えた。おかしなこともあるものだ・・・・?なぜコブラツイストなんだ・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その扉は、乳白色の砂漠に悠然と立っていた。
古い洋館に似合いそうな扉。高さは3メートル程だろうか。その扉が映画のセットのように扉だけが悠然と立っている。
ただ奇妙な砂漠に重厚な扉だけが突っ立っている光景というのは実にシュールだ。これは現代アートですと言われればすぐに納得する。
皆本は扉の前に立ってみる。扉にはなにやら張り紙が無造作に張られていた。
皆本はザッとその張り紙を一読する。
・・・・・・・・怒るのは後だ・・・・・落ちつくんだ僕・・・・今はとにかくイロイロ調べるべきだ。
扉の周囲を可能な限り調べたが、まったく異常は見当たらない。ただ謎の聖遺物のように立派な扉があるだけだ。
次に皆本はその扉を少し開けてみることにした。常識的に考えればただ扉の後ろの砂漠の風景が見えるだけのはずである。
予想通り常識はまるで通じなかった。
扉の奥は下へ続く階段が延々と見える。ああ、たしかに夢の世界としか言いようが無いと皆本は肩を落とす。皆本はパタンと扉を閉める。フゥ、と息を吐く。
・・・・・どう考えても罠だ。もう露骨なまでに罠であることを主張している。だって地下へと続く階段だよ?もう舞台設定臭溢れんばかりじゃないか。こんなのに無警戒で飛び込むのはテレビゲームの伝説の勇者ぐらいだ。
しかし進むしかないだろう、子供達を助けるためには。何の超能力も持たないノーマルの悲しいところだ。
それはこのふざけた張り紙にも明確に暗示されている。皆本は腹立たしいがもう一度その張り紙に目を通す。張り紙にはこう書かれていた。
『ナイトメア城ミステリーツアーにようこそ!
我こそはナイトメアである!!
勇者よ!!数々の悪夢を乗り越え、眠れる3人のお姫様を救い出そう!!
我を倒した君には、勇者のメダルをプレゼントするよ!!!』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
皆本はその張り紙をグチャグチャに引き千切ると地面に叩きつけゲシゲシと踏み潰した。ああ!嵌まってやるよこの罠に!虎穴に入らずんば虎児を得ずだ!!でもな!!!
「ナイトメアァ!!おまえは絶対にコンビーフにしてやるぞ!!!!!!!!」
【タマモ13】
突然何者かが玉藻前を真正面から強く抱きしめる!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
なんだ?!誰だ?!
玉藻前は困惑する。突然誰かが何も無い空中から忽然と現れたのだ!!
ドスッ!!!
嫌な音がした。矢が肉に喰い込む音と・・・・ギャア!!という悲鳴・・・・・
自分を正面から抱きしめた誰かの背中に矢が突き刺さっている!
《まさか・・・・・私を庇ったの?!》
玉藻前を掴んでいた腕が力を失くしズルリと落ちそうになる。
玉藻前は慌てて自分を庇った何者かの体を支える!
そして庇ってくれた人の顔を見た!
【タマモ14 犬塚シロ12】
本能のようにタマモノマエに抱き着いた彼女は背中の激痛に叫び声を上げる!
タマモノマエは庇ってくれた人の顔を見た!
ビシリ!!!
音が聞こえた。それはまさに世界にヒビが入る音。自然界では絶対に聞こえない音。
私は知っている!この人を知っている!
私は知っている!コイツを知っている!
私は知っている!このバカを知っている!
私は知っている!このバカ犬を知っている!
「シロ!!!!!!!!!!!!!!」
私は玉藻前なんかじゃない!!!・・・・・私は・・私は・・・『タマモ』だ!!!
【美神令子14】
美神は再び新しい場所に着地すると同時に地面を破壊する!
また落下する!また着地する!また破壊する!!
下へ下へと落ちていく!
地面が破壊できなかったら壁を!空を!手当たりしだい破壊する!!
立ち塞がる世界も気が付いた私にはまったく無意味!!
ゲームの勇者のように一つずつクリアしていく必要などなかった。彼女は最強のゴーストスイーパー。最強の異能の持ち主の一人。チート極まれり、だ。なにせ世界を破壊して進むのだからどうしようもない。ナイトメアも次々世界を繰り出してくるようだが彼女の進撃を遅らせるぐらいの効果しかない。
・・・・やはりおかしい。これはやはりそうなのか。
疑問に感じる必要なんて無い。もうすぐわかる!
【タマモ15 犬塚シロ13】
タマモはシロを抱きかかえたまま慌てて森の中に隠れた。
《なぜだ!なぜバカ犬がここにいる?!》
彼女は周りの『世界』のことに気を回している余裕はまったく無い。
シロを、このバカ犬を手当てしなくてはならない。なんでこのバカ犬は私を庇った!!
「・・・・・タマモ・・・・・・」
地面に降ろしたシロは苦しげにタマモの名を呼ぶ。
「喋るなバカ犬!矢を引き抜く!!耐えて!!」
医学的には良くないことかもしれないがそんなこと言ってられない。誰が助けてくれるというのだ!!矢を抜かねば治療もできない!!!
タマモは一気に矢を引き抜く!時間をかけて抜いていたらただ苦しいばかりだ!
シロはグゥッと苦しげにうめく。ドッと血が吹き出した!
タマモは自分の着物で急いで止血する!・・・・ダメだ、それだけでは止まらない!!
私はヒーリングができない!またヒーリングができない!!どうして!!
タマモにはまだ少し玉藻前の意識が残っていた。彼女の夢の世界は他より強固のようだった。
「タ・・・・・タマモ・・・・・・」
「喋るなって言ってるでしょ!!!」
だがシロは言葉を続ける。
「・・・・人を・・・・・・憎むな・・・・・」
「バカ犬!!喋るな!!薬草を探す!!!」
「・・・人は・・・・・・愚かかもしれないでござる・・・・・でも」
シロはこの世界がどんな世界であるかすぐにわかった。実は白面金毛九尾の狐、玉藻前の伝説を知らない人狼族はいなかった。
なんてこったでござる・・・・知っていたでござるがこの女狐が・・・・・・時代は変わったのでござるなぁ・・・・・・・
タマモはシロの止血をしたまま周囲の草を見渡す。止血の野草・・・・くそ!こんな時にチガヤもヨモギも見当たらない!!!
「今のお主には・・・・美神殿も・・・・・先生も・・・・・おきぬ殿も・・・・いるでござるゆえ・・・・・・」
「黙れ!黙れって!血が止まらない!!!」
まったく・・・・・この女狐があんまりヒドイ顔をしているから・・・・・ガラでも無いことを・・・・・
「・・・・・人を・・・・・恨むな・・・・」
わかっている。私達人狼族も隠れ里でひっそりと暮らしていたから、人の怖さがわかる。
だが人は、歩みは遅くとも良い方向へ歩んでいる。私達の存在こそがその証だ。
手は差し伸べられた。私達はその手を握り返した・・・・・だから私達には居場所がある。信じろ女狐・・・・・・
「黙って!お願い!黙って!!」
そうだ、大切なことを・・・・伝えないと・・・・・・・
「・・・・タマモ・・・・この・・・・世界は・・・・・」
ああ、イカン・・・・・意識が、遠のく・・・・血を失い・・・・すぎたか・・・・・
「ダメ!ダメ!目を開けて!シロ!!」
お主が悪い・・・・そんな・・・・顔をして・・・いる・・・から・・・肝心な・・・ことを
シロは意識を失った。
「ダメよ!目を開けて!死んじゃダメ!シロ!!!」
どうしたら!どうしたら!どうしたら!どうしたら!どうしたらいいの!!!
ヒーリングなんてできない!私には肝心な力が無い!無駄な力ばかり!どうしたら!助けて!誰か!お願い!!神様!!また私は!祈ることしかできないのか!!助けを求めることしかできないのか!助けに来てくれたシロを!!こんな目にあわせて!!なお私は!!助けを求めるのか!!無様にも!!ただ祈ることしかできないのか!!願うことしかできないのか!!
それでもどうか神様!!シロを助けて!!助けて!!助けて!!お願いです!!!
私は殺されてもいいから!!神様!!シロを助けて!!!!!!!!!!!
<犬塚シロ BAD END>
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