【皆本光一5 賢木修二4 蕾見不二子1】
皆本と賢木は選抜する5人の人選を相談する。
まず皆本。これは本人が頑として譲らない。
賢木と『ザ・ダブルフェイス』のサイコメトラー組はバックアップ。何が起こるかまったく予測ができない事態だ。彼らは万が一の際、精神ダイブをした者達の救助をしなくてはならない。それができるのはサイコメトラーだけなので必然的に残ることになる。また、薫たちの体のことも心配だ。後を託せるのは賢木達しかいない。
次に考えた人間は蕾見管理官だ。レベルは不明なものの彼女は間違いなく、バベル最強のエスパーだ。いざと言う時には皆本に代わって指揮も取れるだろう。うってつけの人材だ。しかし・・・・
『ザ・ダブルフェイス』の2人が必死に起こしに行ったのだがまったく起きてきてくれないらしい。
「こんな時に!!」
怒った皆本が直接乗り込んだものの、彼はサイコキネシスで壁にめり込まされてあっさりと敗退。寝ぼけたままの管理官にすら、ノーマルの彼はなすすべが無い。
「しんぱいな〜〜〜〜〜〜〜い・・・・・・・・ムニャムニャ・・・・・」
それが皆本が聞いた寝言だった。何が心配無いんだ?自分の睡眠か?こんな時の管理官はまったくアテにできない。時間の無駄だ。
しかたがない・・・・・他の人物を選ばなくてはならない。
次に選抜したのは『ザ・ハウンド』の2人。犬神初音と宿木明。皆本が『ザ・ハウンド』の指揮をした際は『ザ・チルドレン』すら散々苦しめた。『ザ・ハウンド』の指揮を皆本が執る。着任した直後の小鹿圭子一曹は経験不足により除外する。
4人目は『ワイルド・キャット』梅枝ナオミ。レベル6のサイコキノ。安定した戦力でありムラが無く汎用性が高い。性格も穏やか。『ザ・チルドレン』と蕾見管理官が眠り続けている今、バベルで最も頼りにできるエスパー。
最後の1人で皆本と賢木は困った。他の育成途中のエスパーを連れて行くか?しかしそれは危険すぎる。バベルのノーマル武装隊員の隊長を連れて行くか?それもダメだ。彼らは異常な事態に対応できる存在ではない。
困ったものの『ワイルド・キャット』現場運用主任、谷崎一郎を選んだ。どーにもならない問題というか癖というか・・・を抱えた人物であるが、それ以外の点は優秀な現場運用主任でもある。
経験も実力も問題無いということ。本来ならもう一人ぐらい戦力になるエスパーを連れていきたいところだが、この事態はまったくもって不測の事態だ。皆本たちはもし途中で皆本に何かあった場合『ザ・ハウンド』と『ワイルド・キャット』の指揮を執るものがいなくなってしまうことを懸念した。頭脳と指揮が無ければエスパーチームの効率はかなり落ちる。それどころかさらに厄介な不測の事態を引き起こしかねない。
ために、最後の1人は谷崎を選んだ。ナオミちゃんは喜んで協力してくれるだろう。ナオミちゃんが協力すれば必ず谷崎主任も協力する。『ザ・ハウンド』の2人も薫たちのためなら苦労を厭わない。
これでメンバーは決まった。
結論から言えば、皆本と賢木のこの人選は正解を引き当てた。ただし・・・・彼らの想定とはまったく違った形によるものであった。
【タマモ5】
西暦にして1140年頃・・・・・現代から約870年前、平安時代末期・・・・・
鳥羽上皇の勅令により白面金毛九尾の狐、玉藻前(たまものまえ)討伐に差し向けられた軍勢実に8万余。
最高指揮官にあたる将軍は三浦介義明と上総介広常の2人の武士。
討伐軍はここ那須野の地で白面金毛九尾の狐、玉藻前と戦端を開いた。
しかし恐るべきことに8万余の軍勢は白面金毛九尾の狐の前に一度敗北し、かなりの戦力を失い撤退を余儀なくされた。
一度撤退した討伐軍はしかし諦めることは無く、十分な白面金毛九尾の狐の対策を施し猛訓練ののち再び九尾の狐に対し戦端を開く。
対策と猛訓練によって強化された討伐軍は白面金毛九尾の狐、玉藻前を追い詰めていった・・・・・
「三浦介殿、上総介殿・・・貞信でござる」
「これは須藤権守様。いかがなされました、今じぶん・・・・どうぞ、こちらへ」
深夜遅くまで陣中で対白面金毛九尾の狐に対する追討作戦を練っていた三浦介義明と上総介広常のもとに那須野領主須藤権守貞信が訪れ、2人は陣中の上座を勧めた。権守は介より上位にある。
須藤権守貞信は宮中を脱走した玉藻前こと白面金毛九尾の狐が那須野の地で婦女子をさらうなどの悪行を行っていることに業を煮やし、白面金毛九尾の狐の退治を朝廷に要請していた人物である。
那須野における軍勢もこの討伐軍に協力している。しかし今じぶん、何用であろう?
「先ほど早めに床に入ったのだが、不思議な夢を見た」
「・・・夢?」
須藤権守貞信は先ほど自分が見た不思議な夢を説明する。
夢の中に若い女性が現れ、自分が玉藻前であると言う。全てのことは濡れ衣で、自分に戦う意思はまったく無い。どうか許して欲しい。人間に逆らったり危害を加える気などまったく無い、と。
「・・・・・・・なんと白々しきことか」
三浦介義明は憤慨する。目前で彼の指揮する軍勢は大被害を受けたのだ。
「三浦介殿、上総介殿・・・・白面金毛九尾の狐はかなり弱っていると見るべきです。最後に命乞いのためにくだらぬ賭けに出たと見るべき」
「小賢しきかな九尾の狐・・・・・いよいよそのそっ首を叩き落とす刻が来たか!」
と忌々しげに上総介広常はつぶやく。三浦介義明は重々しく頷く。
「明日、総攻勢を仕掛けん」
三浦介義明の言葉に上総介広常と須藤権守貞信も頷く。
「明日で全ての決着を付ける。白面金毛九尾の狐の最後だ!」
【美神令子4 六道冥子1 横島忠夫3 氷室きぬ3 犬塚シロ3 タマモ3 皆本光一6 賢木修二5 犬神初音1 宿木明1 梅枝ナオミ1 谷崎一郎1】
迷子になっていた六道冥子はバベルの総力を挙げ探索され、有楽町で身柄を保護された。
コメリカ西海岸あたりで迷子になっていたらどうしようと美神は心配したが、さすがの冥子もそこまでワールドワイドではなかったらしい。しかしなんでまた有楽町なのよ?
「あのね〜〜〜〜令子ちゃ〜〜ん〜〜〜〜〜イターシャちゃんがね〜〜〜〜〜有楽町で〜〜〜最終決戦なの〜〜〜〜〜」
・・・・・・・・・冥子の言っていることはいつもわからない。昔からわからない。きっと不思議電波にでも誘われたのだろう。
しかし冥子は今回の自分の役割をちゃんと理解している。冥子はバックアップだ。万が一の際にはハイラに助けてもらわなくてはならない。
「イターシャちゃん〜〜〜〜〜〜〜かわいかったの〜〜〜〜〜〜〜」
・・・・・ほんと、大丈夫なんだろうか?美神は軽い頭痛を感じた。
エスパーチームの5人もすべて揃っている。ナイトメアに関する資料は読んでいるだろうから説明不要だが一応簡単な説明を済ませる。
「ナイトメアって馬?馬肉?うまそうだ!!!」
と初音。
「・・・・・頼むからおかしな物を食うなよ。腹を壊すぞ」
と明。
「精神世界ですか・・・・・少し、不安かも・・・・」
とナオミ。
「ナオミ・・・・私が一緒だ・・・・何も心配は無いさ・・・・」
と谷崎。どさくさまぎれにナオミの肩に手を回す。
「気安く触んなって言ってんだろぉ!!!!!!」
谷崎はお決まりどおりサイキックで壁にめり込む。この瞬間だけは梅枝ナオミはレベル7程度の出力を出しているのではないかと思う。
「そんな照れ隠しもカワイイよ・・・・・ナオミ・・・・・♪」
この人達も大丈夫なんだろうかと美神は頭を抱える。私の判断ミスだろうか?
「用意はいいかしら〜〜〜〜〜〜〜いくわよ〜〜〜〜〜〜ハイラちゃ〜〜〜〜〜〜〜〜ん」
ハイラは次々に10人を夢の中に送り込む。
《みんな、頼んだぞ!》
賢木は医局の仲間と共に眠りに付いた10人を次々とベットへ運んだ。
【横島忠夫12】
横島は意識を失う直前、あのわけのわからぬ男が消える直前に言った言葉を思い出していた。
《心があるなら本物、か・・・・・》
まいったな・・・・どう考えても変態だったのに・・・・・・
横島は、深い眠りに落ちた。意識を保つのは限界だったのだ。
彼女はいとおしそうに、幸せそうに横島の髪を撫でた。
この一瞬は、永遠・・・・・・・
たとえうまくいかなくても、このまま消えることになっても・・・悔いなんて、これっぽっちも無い・・・
私は本物以上だ。この想いは本物の私すら及ばないだろう。
ああ・・・困った・・・・私は本物の私に、負けたくないと思っている・・・・
奇跡なのだ。神が生み出したもう奇跡ではなく、悪魔が生み出した奇跡。けれど、それでも。
神様、私は・・・・この奇跡に、感謝します・・・・・・・
<横島 忠夫 TRUE END?>
【美神令子5 横島忠夫4 氷室きぬ4 犬塚シロ4 タマモ4 皆本光一7 犬神初音2 宿木明2 梅枝ナオミ2 谷崎一郎2】
《な!?!?》
子供達の精神の世界の中に入った瞬間、美神にとって予想外の事態が起こった。
轟々と荒れ狂う力の奔流。霊能力と超能力の交じり合わない力の嵐!
巨大なハリケーンに飲み込まれたかのように、ナイトメアを倒すために子供達の心の世界に入ろうとしていた10人は散り散りに吹き飛ばされる!
《しまった!!!》
以前倒したナイトメア戦の経験が逆に災いした。これは予想していなかった。敵がこちらの戦力の分断を図ってきたに違いない!やられた!!
各個撃破は戦術の基本。今回の敵は以前戦ったナイトメアよりも賢い!!
美神から見て横島が右、おきぬとナオミが左、シロと初音が下左、タマモが下、皆本が右上、谷崎が上、明が左上とバラバラに吹き飛ばされる!
《チィッ!!!》
これは1人でナイトメアと戦わねばならないか、と考えた瞬間巨大な力の奔流が美神を飲み込んだ。
【皆本光一17】
東京有明、国際展示場。コ○ケ2日目。
夏の凶悪な太陽は、一切の容赦も無くコンクリートの砂漠に照りつける。
気温は34℃以上だろうか。絶望的に、暑い。
風は湿気を伴った熱風。しかも潮風。大自然は敵だ。
皆本がこのどうしようもなく長い列に並んでから、5時間が経過しようとしている。
西館4階企業ブースから続くその長い行列は、なんと4階の広場を埋め尽くしても収容しきれず、車用の搬入用のスロープすら利用し、恐るべきことに1階の搬入用エリアにまで延々と続いていた・・・・
とある魔法少女のブースの行列も強烈だが、この女騎士大活躍な行列はコミケの歴史に残らんとするものだった。
皆本はある1つの歴史のある1ページの只中にいたのだ。
・・・・・・もちろん彼はちっとも望んではいなかった。
体力的には軍事訓練の経験がある皆本にとっては平気だが・・・・精神的にキビシイ。
・・・・・・・悪夢だ・・・・・・
暑い。とにかく暑い。汗が止まらない。
皆本から滴り落ちる汗はコンクリートの地面に落ちると瞬く間に蒸発する。時間をかければ目玉焼きも作れるかもしれない。太陽に良心の呵責はない。ただただその核融合により発生した熱と光を送りつけてくるのみだ。
行列の中である者は救護室へ運ばれた。ある者は己の運命に絶望し脱落した。ある者は友に全てを託した。
・・・・・・ああ、ここは戦場なんだ。戦いの場所なんて望めばどこにでもあるんだ。この平和な日本にも。
行軍は続く。漢たちの戦いは続く。性別など関係ない。困難に挑む漢たちの背中。
その流れる汗と涙は役割を終えるごとに蒸気となり夏の空へと還っていく。
いつか雲となりそして雨となり、あなたの頬を濡らすかもしれない。
そうだ、その雨は・・・・漢たちの戦いの涙なのかもしれないのだ。
ブースにたどり着けたなら、終わるんだ。この戦いは終わるんだ・・・・
そうだ!時間は夢を裏切らない!!!努力は報われるのだ!!!
皆本はついに視界に運命で月っぽいブースを捉える。この長い戦いのフィナーレはもうすぐだ。
そう思った瞬間、最後の審判のラッパが吹き鳴らされた。
「本日分はすべて完売しました〜〜〜〜〜〜完売で〜〜〜す!!!!」
空に響く漢たちの嗚咽、後悔、神を呪う声。この戦場で敗北者に与えられるものは一つも無い。
夢など!!努力など!!甘っちょろいわと過酷な戦場は漢たちに突き付けているかのようだった。
だが皆本は夏の蒼穹を見上げて思いを馳せるのだった。僕はまた、明日も並ぶのだ・・・・
【宿木明3】
「ハッ!!!!」
ガバッと明は体を起こした。確か嵐のようなものに巻き込まれて吹き飛ばされたんだ。みんなはどうしたんだろう?
・・・・・・・・ここ、どこ?
明は自分の周りの風景をグルリと見渡した。
乳白色の砂地のような地面が地平線までずっと続いている。山も無い、平坦な砂漠のようだ。
空は雲も無いのにただ、一面の灰色。色やアクセントの無い、何も無い、と言う表現が一番しっくりする世界。
「おーい!!・・・・みんなー!!初音ーーー!皆本さーーーん!!」
シーーーーン・・・・・とまったく反応は無い。
えーと・・・・・つまりあれかな、この広い世界で、俺1人?月の砂漠をはるばると的な?
・・・・・・・・・・・・・・・
ちょっと待ってくれ!!初音も動物も何もいない世界じゃ俺まったく役に立たないじゃん! ただの1少年じゃん!どーするんだぁ!!!
宿木明は途方に暮れた。
【タマモ17】
我に返ったタマモは、異常な、信じられない方法で消えた男のいたあたりの地面を、ただジッと見つめていた。わけがわからない。
・・・・あの人は、神様なのか?・・・・神様なら、あんなことも起こり得るのではないか?
神様が白い髭を生やした老人だなんて、誰が決めた?その人は見たことがあるのか?
神の姿なんて、誰も知らないんだ。
もしかしたら、電車の隣に座っている新人サラリーマンが神様かもしれない。
公園でサンドイッチを食べているOLが神様かもしれない。
路線バスの運転手が、動物園の飼育員が神様かもしれない。
誰にも、わかりはしないのだ。
なら、あの人が神様で無いと誰が断言できる?
あの人は助けを求めた私の元にやって来てくれた。
これからどうしたら良いか、教えてくれた。
そして何より、このバカを・・・・・・
どう考えても神様じゃないか・・・・神様なら、常識を無視しても不思議ではない・・・・
タマモは不思議な男が消えたあたりの地面に手を合わせ、深々と頭を下げた。
【皆本光一8】
「グ・・・・」
皆本は頭を押さえながら跳ね起きた。僕は何を・・・・・
・・・・思い出した。爆風に煽られて転倒して意識を失ったんだ、しまった・・・
皆本は慌てて自分の体を調べる。よかった、ケガはしていない。
自分の体を調べていた皆本の手にホルスターと金属の冷たい感触が手に伝わる。
「・・・・・・・・・」
皆本は感情をグッと押し殺した。
・・・・・無人偵察機による情報によれば彼女はあのありきたりなビルの屋上にいる。まだいてくれ。たのむ、僕がたどり着くまでまだいてくれ・・・
その都市のそこかしこから爆炎と煙が上がる。
銃声と叫び声も聞こえる。今の爆発は手榴弾が炸裂したものだろうか。
都市の大通りを完全武装した歩兵小隊が走り抜けていく。
戦車のキャタピラの音まで聞こえてくる。
テロなんて生易しい光景ではない。クーデターでも生ぬるい。
この都市で起こっていることを表現するなら、市街戦・・・・『戦争』が相応しい。
AH−64アパッチが低空飛行でビルの間を駆け抜け、やおらAGM−114 ヘルファイア空対地ミサイルを発射する。
しかし哀れにもそのヘリは空中で突如グニャリと不自然な形に曲がり、コントロールを失って2つ星のレストランに墜落する。
また爆煙が上がる。あの下で何人の人間が死んでいるのか。
ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・
ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・
まだエレベーターは動いていたがこの混乱の中エレベーターを使うのは自殺行為だ。皆本は一瞬も迷うことなく非常階段を屋上めがけて駆け上がっていく。そして屋上の扉を蹴り開く。
「動くなッ、『破壊の女王』!!!!」
そのビルの屋上で、皆本は無用心にも背中を向けるまだ若い女にホルスターから取り出した銃を構え、叫ぶ。
彼の持つ銃は高出力熱線銃、通称『エスパー・ハンター』。銃の効かない危険なエスパーを殺すためだけに造られた、悲しい武器だ。
皆本に背中を向けていたショートカットのうら若き女は、ゆっくりと振り返る。
「いや・・・・・薫ッ!!」
エスパー・ハンターはヴ・・・ゥゥゥンと低い駆動音を響かせている。引き金を引けばいつでも撃てる。エスパーを殺せる・・・・薫を、殺せる。
薫を・・・・殺せる?
ズキリと皆本の頭が疼いた。カオルヲコロスノカ?ボクガ・・・・
その低音の駆動音はさながら猟犬の唸り声のようだ。撃てと、解き放てと。殺せ、と。エスパー・ハンターは皆本に命じるかのようにその耳障りな駆動音を、止めない・・・・・
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