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ナイトメア計画(修正版)

ナイトメア計画1


投稿者名:NOZA
投稿日時:17/ 9/12

【美神令子26】

《・・・・・さてと、これで依頼達成だけど・・・・・》

美神はガランとしたその洞窟のような空間の虚空をじっと見つめる。
「・・・・・もう出てきてもいいでしょ?ここまで茶番に付き合ってあげたのよ・・・・出て来ないつもりなら」
美神はヒュンと神通棍を振り下ろした。

「極楽へ、逝かせてあげるわ!!!!!」


【皆本光一15】

猛烈な突貫作業で魚雷に換装した九七艦攻、250キロ爆弾を搭載した急降下爆撃機九九艦爆はまさに発進直前であった。
攻撃目標はコメリカ機動部隊。
皆本は空母『赤城』甲板上にいた。

・・・・・この状況はつまり、あれか。

皆本の予感は的中する。

「敵、急降下!」
見張員が叫ぶがもう遅い。
はるか上空から振り下ろされる死神の鎌のように、ドーントレスが急降下してくる!
その光景はまさに悪夢そのものだ!

やっぱりミッドウェー海戦だ!!

皆本は甲板から慌てて海へダイブする!
赤城の甲板が味方機の爆弾の誘爆と同時に大爆発を起こしたのはまさにその直後だった。


【ナイトメア計画0】

・・・・・つまるところ現在においてもなお、超能力と霊能力のどちらが上位能力であるか、ハッキリとした結論は出ていない。
しかし、現在の学説においては超能力が霊能力の上位能力であろうと仮定されている。霊能力はある程度超能力で説明をつけることができるからだ。
特に獣化などの合成能力、超能力を鎧のように纏う魔装術などがもっとも説明しやすいものとしてあげられよう。
だが、説明しきれない部分もかなりあることも事実だ。
このナイトメア計画の副次的な着眼点もそこにある。
もしも超能力と霊能力が別のものであるならば、加算的、あるいは累乗的な能力の向上の可能性がある。
もし同質のものならば共振的な効果による能力の向上の可能性がある。
超能力と霊能力の融合。同質でも異質でも得られる結果が同じであれば問題は無い。
しかしこれはあくまで副次的な目的に過ぎない。この計画の主たる目的は・・・・・


【美神令子1】

美神は受けた依頼に関しての様々な情報を情報屋に調べさせ、そのレポートを受け取り素早く目を通していた。
なにせ時間が足りないのでたいした情報は集まらない。
もっともその点について彼女は期待していなかった。今回の依頼は政府機関が絡んでいる。
時間をかけたところで核心に触れる情報は集まるまい。
しかし彼女は用心のために得られる限りの情報を依頼してみた。意外と何の役にも立たなそうな情報が役に立つこともよくあることだ。
「・・・・・・わかってたけど、胡散臭い・・・・・」
集めた情報を吟味して彼女はそう結論を下した。
・・・・・もっとも、国の機関が関わってて胡散臭く無かった時なんて無かった。だからいつもと同じ結論ということになる。
事件そのものは単純だ。過去、彼女が関わった事件と基本的には変わらない。
美神令子はレポートをデスクの引き出しに放り込むと、横島、おきぬ、シロ、タマモの4人に声をかけた。

「みんな、仕事よ」


【皆本光一1】

「出張、ですか?」
皆本はバベル局長、桐壷帝三に呼び出されていた。脇には柏木一尉が控えている。
「そうだ。霊能力研究分室研究所だ。超能力現場運用指揮官の有能な指揮官として、君への直々のご指名だヨ」
皆本は腕を組んで考える。霊能力研究分室・・・?
「・・・・・霊能力研究分室・・・ああ、まだあったんですか?」
「ま、そう思うのも当然だネ。私も久しぶりに聞いて驚いたヨ・・・・世界の国家の関心は超能力にある。
我が国もしかりだ。有効性が乏しく、汎用性も無く謎が多い霊能力は細々と研究されているだけだからネ
・・・・・民間にはゴーストスイーパー、国際機関としてオカルトGメンがいるが国家としては霊能力に本腰を入れている国は無い。もちろん我が国もネ」
「その細々とした霊能力研究分室の研究所が自分に一体何を?」
「ふむ・・・・・霊能力の超能力への応用だとか・・・・詳しいことは私にもよくわからんのだヨ。ただ、これは上からの命令だヨ」
「上から?」
「うむ。何か有用な発見でもあったのかもしれんネ。期間は一週間だヨ」
「一週間ですか・・・・」
ここでようやく柏木一尉が口を挟んだ。
「あの子たちの面倒はまた私と賢木先生で見ます。『ザ・チルドレン』の任務は一週間お休みと言うことになります」
そうですか、と皆本はにこやかに短く答える。

やれやれ、またあの子達ぶんむくれるのかなぁ・・・・・困ったもんだ。
しかし皆本はまんざらでもない表情を浮かべていた。子守りからしばらく解放されることが嬉しかったのか、自分が好かれていることを喜んだのか・・・それは本人にしかわからない。


【タマモ11】

「御照覧あれ天照大神!この矢導き給へ八咫烏よ!!」

馬上から三浦介義明は大音声で叫び、空中に向けて蟇目鏑矢を引き絞る。

「荒魂和魂幸魂奇魂・・・・一霊四魂鏃に宿りて悪狐うち滅ぼしたもう!!!」

空中の一点を睨み付けた三浦介義明は引き絞られた弦を吐き出す呼吸と同時に手放す。
ピィィィィィィィ!!!と放たれた蟇目鏑矢は鋭い破邪の音を立てながら飛ぶ。雄叫びのように、悲鳴のように、断罪の叫びのように。

白面金毛九尾の狐、玉藻前を殺すために。


【小笠原エミ1】

日本最強の呪術師、小笠原エミは自身の事務所の椅子に座りながら、依頼主の男が突如消えたあたりの空間をジッと見つめていた。変わった有名人がやって来たものだと彼女は思う。

《予想通りやらかしたワケね・・・・忠告はやっぱり無駄だったワケ》

・・・・・・バカな奴らだ。愚かとしか言いようが無い。だから別の鬼まで招きよせることになる。

《ああ・・・・でもあの男GS免許持ってないんだっけ・・・・この行為は法律違反か》

まぁいいか、とエミは思う。今回の件が表に出ることは絶対に無い。バレなきゃかまわない。
バレたって誤魔化すことなんかいくらだってできる。

《しかし私を頼ってきたのは正解だったワケ・・・》

エミは視線を自身のデスクの上に戻す。

デスクの上にはうず高く積まれた金塊の山。いったいいくらぐらいになるのか。

《念のため用意をしておいて良かったワケ・・・・泣きついて来るのはどうしようもなくなったあいつらだと思っていたけど・・・・・いや、よく考えたら依頼を拒否した私の元に来るはずは無いワケか・・・となると奴らの行き先は・・・・・・》

チッ・・・・・たぶんあの時代遅れの強欲ボディコンクソ女のところか・・・・・・・・


【皆本光一2 賢木修二1】

「これはどう言う事だ賢木ィ!!返答しだいではお前でも許さないぞ!!!」

「だーかーら落ち着け皆本ォ!!俺がやるわけ無いだろお!!実行犯ならとっくにふんづかまえて拘置所に放り込まれてるわぁ!!!」

そこでやっと皆本は賢木の襟首から手を離した。
おとなしい奴を怒らせるととんでもないことになる。俺は完全な被害者じゃないか。
いや・・・・・完全な被害者とはいえないか。連中の侵入をバベル医局に許した責任は、ある。
とはいえ、正式なルートで入り込んだ医局員だ。賢木に防げなかったとしてもそれはしかたのないことだ。

正式なルート・・・・・つまりは最悪だ。敵は身内だ。

「とにかく落ち着け。いいか、落ち着くんだ。子供たちは眠っているに過ぎない・・・命にも健康にも問題は無い。今すぐにどうなることではない、時間は、ある」
「時間はある、だって?!どんな影響が起こるか、医者のお前ならよくわかるだろう!!」
「だから落ち着け!!!子供たちの状態は俺とバベル医局が総力を持って守る!!絶対だ!!」
「・・・・・・・・」
皆本はガラスの壁の向こうの3台のベットを凝視する。

3人の子供たちが、白雪姫のように眠っている。
普段の姿から比べたら、まるでその事実そのものが御伽噺であるかのように。

『ザ・チルドレン』の3人、薫、葵、紫穂は皆本の留守中に、何者かの手によって深い昏睡状態にさせられ現在どのような治療をおこなっても目を覚まさない状態に陥っていた・・・・


【谷崎一郎4】

ワイルド・キャット現場運用主任、谷崎一郎は人間だ。
間違いなく人間なのだ。人間は神ではなく、ゆえに谷崎も神ではない。人間は矛盾と不条理を抱え込む。
マーフィーの法則にこんな言葉がある。
「どんな無能な人間でも、一つは有用な考えを持っている。どんな有能な人間でも、一つはどうしようもない考えを持っている」、と。

谷崎一郎は優秀な人間だ。彼は皆本の先輩であり、意外な人望もあったりする。
たった一つのことを除いては。

だがたった一つのことが、恐ろしい結果を招くこともあるのだ。


【皆本光一3 賢木修二2】

「今、局長と柏木さんが政府上層部へ殴り込みに行っている・・・・・死人が出ないといいけどなー。局長も子供たちの事となるとお前以上だしなぁ」
「いーから説明しろ!!この事態を!!!」
賢木は肩をすくめる。まったく子供たちのことになると本当にお父さんかお前は。
「まず、パンドラの黒巻の念写能力はまったく関係ない。実行犯はハッキリしている。この事態にパンドラは関わっていない。ブラックファントムもだ。普通の人々についての関連性はまだ不明だが・・・手際がいい。証拠の無い憶測に過ぎないが奴らが関係していると俺は思う・・・・・・確実に関わっているのは身内だ。政府上層部と政府機関だ。困ったことにな」
「政府上層部と政府機関?!どこの機関だ?!」
「だから、いいかげん落ち着け。そんなの決まってるだろ。お前はどこに呼び出されていたんだよ?」
「・・・・・・・霊能力研究分室か!」
「あんな斜陽な部署にどうこうできるはずがないが・・・・まぁこの一件を企んだのは間違いなくそこだろう。研究立案ってやつさ。それに乗っかったお偉いさんがいる」
「・・・・・・・・・」
「最初から仕組まれていたってことさ。お前が出張に行かされていたのは子供たちからお前を引き離すためだ」
皆本は自分を呪った。なぜ疑わなかった?霊能力研究分室研究所への出張だなんて。
「もっとも、俺も子供たちから一時引き離されたんだがな・・・・その間に医局に潜り込んだ政府機関の手先が子供たちにロクでもないことをしでかしちまったのさ」
「・・・・・何をしたんだ?」
「実行犯を徹底的に精神捜査をしてみた。結果得られた情報が『ナイトメア計画』だ」
「『ナイトメア計画』?」
皆本の問いかけに賢木は渋い顔をした。なんと説明したものか・・・
「ああ・・・まぁなんだ・・・・お前はナイトメアって悪魔を知っているか?」
「・・・・・悪魔だって?」
「『悪魔みたいなもの』って解釈でいいんじゃないか。一人歩きした合成能力か・・・・言いにくいが超能力を保持した残留思念のような。そんな存在が『悪魔』と呼ばれている。そんな解釈でよいと思う・・・・・とにかく、ナイトメアってのがいるらしい。それは霊能力のカテゴリーに属するものらしく、人の精神に取り付き、支配する」
「それこそ夢みたいな話だ、馬鹿馬鹿しい」
「まぁ俺もそう思う。しかし現実はどうだ?子供たちはこの有様だ。薫ちゃんや葵ちゃんはともかく、紫穂ちゃんまでだぞ?」
「・・・・・・・・・」
「『ナイトメア計画』は子供たちにそのナイトメアを取り付かせることが目的だった」
「なんでそんなマネを!!」
「超能力と霊能力の融合、または増幅。同質なら共振、異質なら加算による能力の増強」
「・・・・・・・ハァ?」

「ぶっちゃけて言うと、子供たちにナイトメアの力を付加しさらなる力を与える。レベル8、レベル9エスパーを生み出す」

「な・・・・・!」
皆本は言葉を詰まらせた。レベル8、レベル9エスパーだって?
超度・・・・レベルは7までしかない。それ以上のカテゴリーは必要無い。レベル7でもベラボーな力。そしてレベル7ですら極めて能力者の数が少ない。人間の超能力には限界がある。人間は神様ではない。
「馬鹿馬鹿しい!」
皆本は吐き捨てる。しかし賢木はジッと皆本を見つめる。
「・・・・確かに馬鹿げている。しかし理には適っている面がある。そんな真似が可能ならばと仮定すればだが・・・レベル2の人間をレベル4にしてもたいした価値は無い。しかし絶対的な1枚のカード、レベル8や9となったらどうだ?」
「・・・・・・・・・・・」
「そいつはたった一人で小国の一つ位消し飛ばしてしまうだろう。まさに人間核兵器さ。しかも放射能汚染もない優れもの」
「・・・・・子供たちを、そんな物に、しようというのか?」
賢木はジッと皆本の顔を見つめる。
「・・・・・皆本、お前らしくないな」
「なんだと?!」
「お前はまったく冷静さを欠いていると言ってるんだよ・・・・アホらしい。何度言わせる。頭を冷やせよ。クールになれ」
「お前こそ何を言ってるんだ!」
よっこらしょと賢木は椅子に座りなおす。
「・・・・今の話は実行犯を精神捜査した結果わかったことだ。奴らはそれしか知らない。と言うかそう信じていた。今のお前みたいに・・・・そして『ナイトメア計画』は失敗した。子供達は眠り続けたままだ。国家にとって重要なレベル7の3人を一度に失うことになりかねん・・・普通の人々あたりにとっては素晴らしい結果だろうがな」
「まだ、裏があると?」
「あったりまえだろ皆本・・・・今の話、お前はおかしいと思わないのか?」
「さらに力を与えるために薫たちにナイトメアってのを取り付かせたってところか?」
「違う・・・・・いいか、今のあの子達ですら政府上層部は神経質になっている。レベル7ですらだ」
「・・・・・・・」
「それをお前・・・・馬鹿馬鹿しい問いかけだが核兵器が自意識を持ったらどうなると思う?核兵器にAIを組み込むって思考実験でもいい。お前だって腹の立つことや落ち込むことだってあるだろ?核兵器が『人類の五分の一ぐらいを道連れに自爆します。こんな世の中イヤです』って昔のSFにありそうなことを言い出したら困るだろ?」

そこまできてやっと皆本は賢木の言わんとしている事に気が付き、力の限り壁を蹴っ飛ばした。
「クソ!!!!!!なんて!!なんて事を!!!それじゃブラックファントムと何が違うって言うんだ!!!」
「アプローチのやり方かな・・・・ヒュプノを必要としない。霊能力者とナイトメアとやらをコントロールする技術か何か・・・・・アンチエスパー派の奴らにとってはある程度妥協ができる選択肢かもしれん。霊能力は超能力ほど危険視されていない。目の前で車を持ち上げたりしないしな」

皆本は部屋を飛び出して行こうとして慌てた賢木に取り押さえられる。
「だから何度同じ事を言わせる!たかが現場運用主任が暴れたって無意味なだけだ!下手すりゃ逮捕されるぞ!!!」
「だからってジッとしていられるかぁ!!!」
「だぁぁぁれがジッとしていろって言ったか!!そっちは局長と柏木さんにまかせろ!!お前にできることだってあるかもしれんだろ!!!」
その一言で皆本は少し冷静さを取り戻した。
「そんな言い方をするってことは・・・・何かいい方法があるんだな?!」
「・・・・・どう転ぶかはまだわからないが、すでに政府上層部から一つの手が打たれている」
「いやに手回しがいいな」
「自分たちの失敗を揉み消すことには熱心なんだろ・・・・それに自分達の失敗でレベル7を失ってみろ。失脚だけでは済まない・・・・今、こちらに専門家が向かっているそうだ。さっきそう連絡を受けた」
「専門家?馬鹿な。僕たち以上のエスパーの専門家がいるもんか!」
「エスパーのじゃない・・・・・・ナイトメアとやらの専門家だそうだ」
「それってもしかして・・・・霊能者?・・・・・」
「そうだ。日本最強のゴーストスイーパーらしい。かつて他のナイトメアとの戦闘経験もあるそうだ・・・えーと名前は・・・・」
賢木はポケットからメモ用紙を取り出した。

「名前は、美神令子。22歳・・・・女性だ」


【犬塚シロ10】

《あの珍妙な御仁、突如現れ、いずこかへ消えた・・・・》

あからさまにココはおかしいでござる・・・・とシロは腕を組んで考える。
次に何を思ったかガバリと乳白色の砂漠に四つん這いになり、クンクンと地面のニオイを嗅ぎ回る。
次にやおら両手で地面に穴を掘り始め、開いた穴に頭を突っ込み、またクンクンとニオイを嗅ぎ始める。
・・・・・・端から見ていると、頭がちょっとかわいそうな状態になったのではないかと心配になる光景だ。
突然今度は逆立ちをして地平線を見つめる。
・・・・・・やっぱりどうかしてしまったのではないかと心配になる。
次にクルリと体を反転させると地面を蹴って高く灰色の空に跳躍し再び着地する。

《なるほど・・・・・そうでござったか》

これで今後どうすべきかシロは理解した。美神殿や先生と合流しないと。

          《助けて!!!!》

ピクリとシロの動きが止まった。今の思念波は、もしや・・・・・

《あのあたりか》

シロは再び霊波刀を発生させると同時に、乳白色の砂漠を駆けた・・・・・


【美神令子2 横島忠夫1 氷室きぬ1 犬塚シロ1 タマモ1】

首都高速を美神が操るポルシェ911SCカレラカブリオレが弾丸のようにすっ飛んでいく。
乗員が5人なのでもう一台の本来の愛車、シェルビーコブラ427は使えない。もっともこの車もスポーツタイプのオープンカーなので後部座席はかなり狭いが、無理矢理5人乗せている。
シェルビーコブラよりパワーは無いがカレラカブリオレは飛ぶように走る。
そして後部座席に座る横島とシロとタマモは座席の狭さに耐えなければならなかった。横島はシロとタマモの間に座っている。2人の緩衝材の役割だ。
タマモはあからさまに不快そうであるがシロは楽しそうであった。もっともシロはいつも楽しそうだ。

「今回の除霊対象は・・・ナイトメアよ」

その美神の言葉を聞いた横島はウンザリとした顔をする。

「ナイトメアって・・・・・あのウマヅラっすよね?」
「そう。あのウマヅラ」

カレラカブリオレはウネウネと曲がる首都高をなんなく走り抜ける。美神はまったくスピードを落とさない。
「と言うと、また夢の中に入り込むんですか?それとも霊波を送り込んでいぶりだしですか?」
助手席のおきぬが質問する。
「冥子とは現地で落ち合う約束になってるわ・・・・霊波送り込みもやってみるけど・・・・たぶん厄介なことになると思うから、乗り込むことになるでしょうね」
「でも美神さん、あのウマヅラは退治したハズじゃ・・・・」
後部座席から横島が質問する。
「また何者かが復活させたって類でないのなら当然、ナイトメアは一匹では無いってこと・・・どれぐらいいるかわからないけど、そんなにはたくさんいないはずだけど・・・・また魔界から湧いて出てきたのかしら・・・・それとも・・・いや多分誰かが召喚しちゃったのかしらね・・・・こちらの商売的にはありがたい話なんだけどね」
ナイトメアがいっぱいいたら世界はパニックだ。
「じゃあ、あのウマヅラとは違うウマヅラってことっすか?」
「そうね・・・・・新ナイトメアなのかナイトメアセブンなのかはたまたナイトメアネクサスあたりかもしれないけど、能力に多少の差はあるかもしれないわ」
「ナイトメア8兄弟とかっすか?・・・・最低っすね」
「それはいいんだけど・・・・さっきも言ったけど今回はちょっと厄介な仕事になりそうだから覚悟してね」
?横島とおきぬは首をかしげる。『厄介』を何度も使うなんて美神さんには珍しい。
「ナイトメアが今取ついている人間が問題なのよ」
「はぁ・・・・どなたか偉い人とかですか?」
おきぬの疑問に美神は首を振る。
「そんなたぐいだったら平気なんだけど・・・ナイトメアが取ついた相手は超能力者・・・しかもレベル7」
横島は驚き、おきぬは首をかしげる。
「レベル7って・・・たしか日本の特殊機関に3人しかいないとかなんとかって聞いたことあるっす」
「・・・・まさにその3人なのよ」
あーあと美神は溜息を漏らす。相当厄介な人物たちに取り付いたものだ。
「すごいんですか?その・・・れべるせぶんさんって」
「レベル7一人当たり空母1隻相当と言われているわ」
そうなんですかーとおきぬはほのぼのと返事をした。
「拙者、精神世界に入るのは初めての体験でござるよ!!初体験でござる!!!」
退屈だったのかシロはワクワクと話題に割って入った。当然シロのセリフに他意はまったく無い。
「なんで私までが・・・・・」
タマモはブツブツと文句を垂れる。
「タマモ、あなた今まで油揚げ特盛きつねうどん何杯食べたと思ってるの?食費ちゃんと払う?」
ジロリとバックミラー越しに美神に睨まれる。
「・・・・・・しかたないわね。手伝ってあげたくて手伝うんじゃないんだからね」
「ツンデレはいらないから。別に」
シロは叱られてザマーミロと言う様にタマモをあざ笑う。
この犬いつか必ずギャフンと言わせてやる、と懐かしさが漂う前時代的表現でタマモが睨み返す。

間に挟まれた横島はまたかと天を仰いだ。


【皆本光一13】

深夜突然襲ってきたテロリストから身を守るために皆本は命からがらこの小屋に逃げ込んだ。
外ではテロリスト達と家人が戦っているが圧倒的不利だ。
こちらは警戒してはいたものの、敵は多勢でしかも完全武装をしていた。敗北は確実だ。
なぜこんなことになった。あいつが必要な資金を出さなかったからこんなことになったんじゃないか。
逆恨みだ。こっちは被害者だ。こっちだって大変なんだ!上は無茶ばかり言うし金は出さないし!おかげでこっちがどうにかする羽目になったんだ!空気読めよ空気!これだから田舎者は!シロウトが!!口を出すな金を出せ!!!
皆本は神と仏を呪い悪態をついた。
まったくもって悪夢だ!
突然テロリストが小屋に押し入り皆本を発見、皆本を小屋から引きずり出す。
呼子の笛が鳴らされる。続々とテロリスト達が集まってくる・・・と皆本には感じられた。
火消し装束の姿をした中年の男が皆本の前に進み出る。

「・・・・拙者、大石内蔵助と申す。貴殿は吉良上野介とお見受けいたす」

「僕は皆本光一だぁぁぁぁ!!!!!!」


【美神令子3 横島忠夫2 氷室きぬ2 犬塚シロ2 タマモ2 皆本光一4 賢木修二3】

美神令子はバベル本部に到着すると、まだ戻ってきていない局長の代理の皆本と賢木との挨拶もそこそこに、今回の事件の新しい情報を求めた。情報はいつだって大切なものだ。
だがやはりと言うか、役に立つ目新しい情報は無い。この一件は完全にGSの仕事だ。もっとも超能力側から有益な情報が出てくるとは美神は最初から期待していなかった。
「私が受けた依頼内容はナイトメアの駆除。捕らわれた子供達の救出。この2点です」
極めて簡潔に美神はバベル側の2人の男に説明する。
冥子はまだバベルに到着していないらしい。道に迷って時間がかかっているようだ。
「別のあのお嬢様じゃあるまいし・・・・あのお嬢様には大変な時期にお世話になったけど」
まぁじきに到着するだろう。それまでやるべきことをやっておこう。

美神は眠り姫の子供達に手をかざし霊波を探る。バベルの2人の男が胡散臭そうに見ているが気にしない。

以前超能力の研究者とやらが事務所にやってきて、霊能力は超能力で説明できるから研究に協力してくれとのたまったので彼女は神通棍で事務所から叩き出した。
あの手のやからは全ての怪奇現象はプラズマで説明できる、と信じている奴と変わらない。

わかったことは、この3人は精神的にシンクロして眠っている。3匹のナイトメアがそれぞれに取り付いているわけではないことが確認できて美神はホッとした。手間が増えなくて済む。
1匹のナイトメアが3人を同時に眠らせているのに間違いない。
恐らくナイトメアを取り付かせようとした者は3人の中でもっともナイトメアと相性の良い者を選んで、1人に取り付かせようとしたのだろう。
しかし失敗しナイトメアはコントロール不能となり、3人はスリーピングビューティーとなってしまった。
胡散臭い背景が沢山ありそうだがとりあえずどうでもいい。彼女は依頼を果たし、大金を受け取る。クールでシンプルだ。

美神は横島、おきぬ、シロ、タマモに円陣を形成させる。
あとは美神が燻り出し、一斉攻撃。
はっきり言って現在の美神チームの戦力は凄い。文珠使い、死霊使い、人狼、最強の妖狐、最強のGS。
燻り出して集中攻撃。ナイトメアはひとたまりも無い。3人は目覚めてめでたしめでたし。
・・・・・・・それで終わればぼろ儲けなんだけどなー
美神は精神を集中し霊波を送り込む
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・?
かなりの霊波を送り込んだものの、まったく手ごたえと反応が無い。

これは・・・・・

ナイトメアは確実にいる。しかし姿を現さない。ナイトメアが美神の霊波に逆らっている感じもしない。
この反応、この手ごたえの無さ、感覚のおかしさ・・・・
美神はある仮定を考え付いたが、それを横島たちに話すのはやめた。まだ根拠のまったく無いただの推察だ。
余計な情報は混乱の元だ。特にこの仮定は良くない。チームによる行動はシンプルでなくては混乱を招き、良いことは一つも無い。

「・・・・・・やっぱりダメね。冥子が到着したら直接この子達の精神にダイブしてナイトメアを倒します」
美神は皆本と賢木に向き直りそう伝える。
「この子達の精神の中に乗り込められるんですか?!」
生真面目そうな現場運用主任・・・・皆本と言ったっけ・・・の方がえらく真剣に詰め寄ってくる。
「僕も!・・・・いや僕達も連れて行ってください!!」
「お・・・おい皆本!」
白衣を着た軽薄そうな今風の男・・・・賢木だっけ・・・・が皆本を押さえつける。
「残念ですけど・・・・・シロウトは足手まといです」
美神はあっさりと却下。しかし皆本は食い下がる。
「僕達はエスパーのエキスパートです!この子達もエスパーで僕達の大切な仲間なんです!絶対に足手まといなんかになりません!お願いします!!」
拒否されたら噛み付かれかねない勢いで皆本は美神に詰め寄る。それを必死に賢木が押さえつける。

「まぁとにかく落ち着いて」

一度は断ったものの美神は改めて考えなおした。つまりなにか彼らが役に立つと思いついたからに他ならない。
ただのシロウトではないプロのエスパーと専門家。役に立てそうなことがある、と美神は結論付けた。

「・・・・わかりました。私達と一緒に来ることを認めます。ただし、私達と同じ5人まで。精鋭を選抜してください。
あまり人数が多いのは子供たちの精神に負担がかかりすぎる恐れがあります」


【美神令子12】

美神はしばらくの間、礼儀正しく去った男のいた辺りの空間をバカみたいに見つめていた。
玄関のドアが閉まる音を聞く。きっとあの男がドアを閉め、出て行ったのだ。
彼女は黙ってうつむいた。

「・・・・フ・・・・ウフフ・・・・フフ・・・・・フフフフフフ」

美神はうつむいたまま肩を小刻みに震わせて・・・・・笑い始めた。

「フフフ・・・フフ・・・アーーーーハッハッハッハッハァ!!!!!!」

美神はやおら天井を向き、我此処にあり、とばかりに哄笑を放つ。

「そういう事!そういう事なのね!なんて事なのよ!この私が!!この私を!!褒めてやるわよウマヅラァ!!
負けを認めてやるわよ!!!でもね!!!!!」

美神はやおらベットから跳ね起きると神通棍取り出す!!

そして手当たり次第に彼女の周りの物を破壊した!!!

ありとあらゆる物をだ。オーディオ、天井の照明、暖かな家庭、テーブル、ありえるかもしれない世界、カレンダー、ベッド、カーテン、本当は夢見ているかもしれない世界、花瓶・・・そして!

神通棍は彼女の目の前に立つ彼女を真っ二つに切り裂いた!!!!
その瞬間にすべてはまさに夢のように打ち砕かれた。残りの2人を叩き切る前にだ。やはり中心になっていたのは私だったのだ。ふざけやがって!!!

彼女のいた世界は綺麗サッパリ打ち砕かれた。今彼女は乳白色の何も無い砂漠、ただ灰色の空の世界、茫漠とした寂寥の世界にただ1人立っている。そして世界を揺るがさんばかりの心からの叫びを放つ。


    「ウマヅラァ!!!あんたは絶対にコンビーフにしてやるわ!!!!!!!!」

 ***NEXT【ナイトメア計画2】***


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以前投稿したSSを再投稿させてください。問題があったため管理者さんに削除していただきましたが修正しました。その節はご迷惑をおかけしました。もう一度こちらを見ていただいている方に読んでほしいと思います。クセのあるSSですがそれもSSの楽しみということで・・・・


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