椎名作品二次創作小説投稿広場


GSメドヨコ従属大作戦!!

ヨカッタネ横島


投稿者名:まじょきち
投稿日時:14/ 9/ 5


一卵性双生児ならずとも近親者に生命の危機が迫った時に何か感ずることがある。
これを『虫の知らせ』などと呼んだりもする。では、クローンの場合ではどうか。



「やべー、美神さん、俺の本体が死んだっぽいんですけど。」

「おかしいわね。ベルゼブルの時は確かクローン死んだわよね。」

「そ、そういえば……うわぁぁぁ死にとうない!死ぬのは嫌じゃー!」

「お、落ち着いてください横島さん!深呼吸しましょう!ヒッヒッフー!」



その呼吸法は出産時の妊婦がするものだが、落ち着くという一点では間違いではない。
横島くん二号は未だもって存在している。それは彼が本体に依存していないからだ。
計算機も筐体も全てアシュタロスとルシオラによって造られた完全な別物である。

単に精神と記憶を共有させるために横島と繋いであるので知っただけなのだ。



「も、もう駄目だー!童貞で昇天してしまうー!先っちょだけでもー!」

「だから落ち着けって言ってるでしょ横島クン!無理だって判るでしょ!」

「美神さん、なんとか二人で頑張れば先っちょくらい何とかできるかも……」

「おキヌちゃんまでナニ言ってんの!あんな橋脚入れたら破裂するでしょーが!」



橋脚とは橋を支える柱の意味で、橋柱とも言う。木製橋の場合には丸太を加工して造られる。
しかし現代日本に観光目的以外の木製の橋は殆ど無い。あるのはコンクリ製の橋ばかりだ。
その平均的な片側二車線道路用の太さは2m以上で、長さも8m近くあるというものだ。



「とにかく落ち着いて考えましょう。いい?まず、今するべきなのは状況把握よ。」

「わ、判りました!横島さん、立ったままじゃ測れないんでしゃがんでもらえますか!」

「むむ、正確な数字を測られるとなると少し恥ずかしいな。男子の沽券にかかわるしさ。」

「そんなこと言ってる場合ですか横島さん!サイズが判らないと出来るものも出来ませんよ!」



横島くんとおキヌちゃんはまったく落ち着いていない。
自分が何とかしなければ、そう美神令子は決意する。
とりあえず今すべきことを思考しはじめるのだが。



「見てください美神さん!よく見るとピンク色でちょっと可愛いです!」

「え、うそ、もっと横島クンってば遊んでるのかと思ってたんだけど。」

「失敬な!この横島忠夫、遊ばれはしても遊んだりはしてないんだぜ!」


興味津々といった表情で、ジーンズのジッパーから覗き込む女性陣。
少し自棄になりながらも、なんだか見られる事に高揚する横島二号。
結局3人は本体の危機とは全然別な話題で盛り上がるだけであった。








防衛大臣率いる陸自のパレードは新宿から北上こそしてるがまだ都内にいた。
一応有事出動という形はとっているが、沿道には家族連れまで出て来ている。
さらに軍楽隊も合流しており、こちらも当初の目的を完全に忘れ去っていた。



「大臣、ツイ指がすべッターの速報来ました!ツイート数10万を超えた模様!」

「落ち着きたまえ幕僚長。ツイートは中身が問題だ。批判数はどうなっている。」

「9割以上が好感のツイートです!本社や地本にも応募の問い合わせが殺到中!」

「よし、状況変化に伴い作戦を一部変更する!立川に迂回して目的地に向かう!」



上空ではF−15Jが色とりどりの煙を吐きながら比較的安全な演目を演じている。
地上部隊では大臣号令の下で全員がにこやかに手を振りながら行進を続けている。
更に何年も各基地で埃をかぶっていた広報用の商品を、女性隊員が配っている。



「12時の方向距離2km、デモ隊が発生!現在警官隊と談判中です!」

「どこの国もやってるだろこれくらい。何が気に入らないと言ってるんだ?」

「それが……道路が傷むから戦車を止めろというデモらしいです。どうします?」



さもありなん。74式戦車の重量は36t、90式に至っては50tである。
大型ブルドーザーですら30tも無い。キャタピラでこの重さでは道路は砕ける。
比較的高い強度で作られている高速道路でもアスファルトを使用しているのは同じだ。

そこで大臣はふと、悪巧みを思いついた。



「幕僚長、確か次期MBT(主力戦車)は純国産で軽いって噂を聞いたんだが。」

「巻菱重工が完全国産化に成功したと。見た目ちっちゃいM1らしいですけど。」

「チハたんの再来だな。道路事情も考えれば小さい方がいい。お披露目可能か?」

「あそこは相模原ですし立川にも近いです。ですが重工がすぐに出すかどうか。」

「出せないなら建機会社に仕事は回すぞと伝えろ。量産は重工以外でも出来る。」



都市迷彩の兵隊が兵員輸送車の窓から手を振る。
74式戦車の爆音に沿道の人々は驚き眺める。
背嚢を手渡されて重さによろめく若い男性。

肌で感じられるほど自衛隊に追い風が吹いている。
ここに最新型戦車が走れば更に効果は上がるだろう。
政治家らしい打算に一人ほくそ笑む防衛大臣であった。

ちなみに新型戦車が軽いといっても44t、道路は凹む。









そして元祖M1エイブラムスを持つコメリカ陸軍は、妙神山中腹に居た。
だが向かっているのは歩兵だけであり非戦闘車両すら一切随行していない。
その屈強な歩兵たちも結界の霊気に中てられ、一人また一人と脱落していく。



「GPSどころかコンパスすらまともに動かんとは。Mr唐巣、まだ着かんのか。」

「GSでも妙神山に入れるのはごく一部です。一般人にはやはり無理なのでは。」

「ふん、まだ先だと判ればそれでいい。鍛え抜かれたコメリカ軍人は無敵だ。」

「それじゃ後ろの人たちは鍛えそこねたコメリカ軍人って事で……ムググ。」

「つ、疲れてるのかねピート君!さ、早く先に進もうじゃないか!な!」



真っ青な顔色で、よろめいて歩き続けるアゴ先の割れた濃い顔の司令官。
師匠に両手で口を塞がれ、非難がましく視線を送るGS暫定会長の弟子。
見えないように悪い笑みを浮かべながら弟子を引っ張り歩き始める師匠。

そこで師匠と弟子だけに判る異変が起きた。



「こ、これは……なんという波動!これは結界なんて生易しいもんじゃないぞ!」

「まずいですよ先生、コメリカの人たちが波動に影響され始めてます!」



青白い顔の司令官の瞳が、四方八方に激しく動き回り始める。
口からは泡沫が溢れ、首がガクガクと左右に大きく震えだす。
そして、予備動作なしに右手がガンホルダーに素早く伸びた。



「当て身。」

「ちょ、ピート君!なんて事を!」

「だって先生、このひと今、銃を抜こうと……」



ピートは手刀を司令官の首筋に当てた。

気持ちよさそうに昏倒して倒れこむ濃い顔の司令官。
3人で来たピクニックであるなら状況判断としては正しい。
しかし随行者は他にもたくさん居るのをピートくんは忘れていた。



「し、司令官が倒されたぞ!」

「カラーテだ!カラーテチョップだ!」



脱落者が多いとはいえ屈強な男たちの大半が未だ後ろで行軍していた。
その先頭の兵隊が見た光景。それは司令官がチョップで倒される様だった。
思考能力が落ちた兵が下した結論。それは長らく待っていた敵との遭遇である。



「きるじゃっぷ!!さのばびっち!!コメリカの敵はこいつらだったんだ!」

「やっぱ爺ちゃんが正しかった!ここはニイタカヤマだ!登らされたんだ!」

「そうだそうだ!トヨタのせいで親父は失業した!日本人は皆殺しにしろ!」



手に手に銃を構え、何の躊躇も無く銃弾が師匠と弟子に浴びせられた。
弟子はとっさに霧になって逃げたが、師匠にはその能力は備わってはいない。
殺傷能力を持つさまざまな種類の弾丸の半分が、霧になれない師匠にも殺到する。

しかし、彼はGS協会でも高位の存在である。決して伊達や酔狂で居れる所ではない。



「先生!よくご無事で!」

「よく見ておきたまえピートくん。これが『アイギスの盾』だよ。」



唐巣の前には銃弾の形を精巧に模した石が数多く転がっていた。
そしてその前面にもコメリカ陸軍の兵を模した石像が鎮座していた。
よく見れば、うっそうと茂る森も、下生えの草々も、全て石であった。



「この技だけは使いたくなかった……」

「こ、こんな事が出来るなんて、さすが、せんせ……あれ?先生、ですよね?」



女神の怒りを買い頭髪を蛇に変質させられ醜い姿となった怪物メデューサ。
その討伐を果たしたペルセウスは首を刈り女神アテーナーに献上した。
女神はその首を盾に嵌めて様々な敵を石化させる無敵の盾を造る。

これをアイギスの盾、という。



「アイギスの盾は、術者の一部を神に捧げて広範囲を石化する。」

「ぶははははは!せ、せんせい、つ、つるつる!つるつるですよせんせい!」



別に東京都日の出町の生涯青春の温泉とは関係ない。
つるつるなのは施設名ではなく唐巣の見た目だ。
頭髪がまったく無い。いわゆる無毛状態だ。



「ええい、言われなくともわかっとるわー!だからやりたくなかったんだチクショウ!」



こうして妙神山から出た波動により、結果としてコメリカ陸軍は戦闘不能に。
また同様に向かっていたGS協会の首領も人目を避けるように去っていった。

状況を好転させると思われていた追い風がまた一つ、止んだ。











大田区の小笠原除霊事務所では、除霊が一段落つこうとしていた。
通常業務の20倍もの除霊ではあったが、三人とも息をしている。
部下の三人は青色吐息であったが、雇用主は意気揚々としていた。



「いやー、令子じゃあないけどさ、やっぱ儲けると気分いいモンなワケ。」

「ラストがきつかったですな。強いのを残すとは所長も人が悪いですな。」

「失礼なこと言ってんじゃないわよ。最後は楽なのにしたはずなのよね。」



やはり遠く離れた大田区でも妙神山の異変は影響していた。
大事にしていたフィギュアが引越し業者に壊され自殺した男の除霊。
そんな色々な意味で非常に駄目そうな幽霊でさえ、高難易度になったのだ。



「そういえばさ二人とも、ヘンリーから返事あったワケ?」

「それが陸戦隊の連絡が途絶えたとかで混乱してるとか。」

「やっぱ令子がらみで何か起きてるってワケか。ふーん。」



ふーん、で終わらせるとは親友の危機を知ったにしては薄情に思われるかもしれない。
だが小笠原エミと美神令子は好敵手である。決してただの仲良しな友達ではない。
互いに相手を強敵と感じ、時には対決しながらも認め合うという間柄である。



「所長、我々も美神令子と合流して状況だけでも把握しませんか?」

「いやよ。なんだって令子に合流しなきゃいけないの。それより。」

「うげ、まさかそれは……いけません所長!それだけは駄目です!」

「そのまさかよ。令子の顧客から特急で除霊の依頼が来てるワケ。」



携帯電話のメール欄に目を奪われるボビーとジョー。
確かにそこには依頼を示すメールが未読で並んでいた。
不適に微笑む黒き女豹とは裏腹に、男二人は倒れこんだ。

だが彼らは知らない。今までの仕事の細やかな仕様を。
今までもこれからも、彼女は一切自分を名乗っていない。
美神令子除霊事務所として、ひたすら遠隔で除霊している。

まるで美神令子が除霊をしていると錯覚させているかの様に。









天界では妙神山での騒動に気づいた最高会議が一部不在のままで集合していた。
派遣軍5万が全滅。反乱軍精鋭10万は一部欠けながらも未だ健在という状況だ。
魔界からは天界急進派による人間界の制圧を目論んでいるのではと抗議が来ている。



「人界責任者の斉天大聖殿も不在、今回議事進行の筈の大竜姫殿も不在か。」

「状況は悪化していると見て宜しいのではないですかな。どうしたものか。」

「天界軍総力で反乱分子を殲滅するしかないと思うのだが、皆はどう思う。」



会議は始まっている。だが、会議は進んではいなかった。
人間擁護派の事実上のTOPである斉天大聖がここにはいない。
人間排除派の事実上のTOPである大竜姫もまた、ここにはいない。

残された中間層の議員たちは強く自分の意見を持っていない為に牽引しない。



「これが魔界による作戦だとしたら、天界を守る兵をこれ以上割いては……」

「魔界に潜入しているインテリジェンスからはその兆候はないと言うが……」

「いやいや、嵐の前の静けさとも人間どもも言うではないか。はたして……」



人界の情報は斉天大聖が独自の組織を擁して収集していた。
悪く言えば、誰もが格の低い未開の世界に関わりたくないのだ。
排除する方も擁護する方も人間の事を知った上で持論を展開できる。

真剣に世界と人間について思いを馳せていない神々では結論は出ない。



「少々霊力を多く使いましたな。さて、今日はお開きとしましょう。」

「実は私、新しく出来た珍しい般若湯を出す店を見つけましてな。」

「それは興味深い事で。きっと良い功徳で知恵も出ましょうぞ。」



人間に比べて非常に寿命の長い上位の神々。
だがそれ故に、時の流れに対する感覚が非常に鈍い。
今まさに世界の命運を分ける重要な局面にもかかわらずだ。
一刻を争う事態の一刻でさえ、事態の進展に比べて、非常に長い。

『会議は踊る』ならぬ『会議は飲み明かす』と洒落込む神々。
もっとも、『されど進まず』という所も同じなのだが。











そんな中で奮闘中なのが竜宮城司令官の乙姫様である。
司令官姿から戦闘員姿に装束を換え、本来の蛇尾も露に戦っていた。
彼女も邪悪な霊気を感じていた。そしてその発生源も何となく把握していた。




「ええい、邪魔よ雑魚ども!メドーサの所に通しなさい!」



彼女もメドーサ同様、古の世界から生きる神の一柱である。
ことイライラが募ったヒステリックな時の戦闘能力には定評がある。
そんな彼女をもってしても、雲霞の如く湧き上がる神兵には梃子摺っていた。



「ドンガメ、状況確認!メドーサはどのへんにいるの?!」

「乙姫様から見て10時の方向、およそ20里。しかし……」



10時も12時も敵ばかり。それでも地上だけである。
上空はドンガメ氏と精鋭の亀部隊により制空権を保っている。
ちなみに彼らは人間の姿では横島くんの大嫌いなイケメンばかりだ。



「長いわねー20里。一応聞いとくけど味方の援軍の情報は?」

「今の所は何も。何でしたら降りて露払いを手伝いましょうか。」

「駄目よ。方向見失って寄り道したくないし。上空で待機してて。」



待機などという簡単な状況ではない。空を飛ぶ神兵達も数多く居る。
乙姫の薫陶を受けて訓練された一騎当千のドンガメたちだからこそだ。
幾重にも殺到する兵を叩き落し、しかし誰も文句を言わずに控えている。



「それにしてもさ、メドーサ、どうしちゃったんだろうね。」

「恐らく何か嫌なことでもあったんでしょう。かなり怒ってます。」

「怒ってる、ねえ。……陣を変えてきたわね。面白い、教育してあげる!」



不規則に押し寄せていた兵隊だったが、不意に規則性を帯びてくる。
手に持つ武器に応じて隊を組み、それぞれが役割を持つようである。
飛び道具は後ろに、斬り込み隊は前に、盾を持つ兵が視界を塞いだ。

しかし彼女を倒すには至らない。彼女には陣組みこそが本業である。



「そんな陣、2000年前にやってたわよ!乙姫司令をなめんじゃない!」



左右に挙動し盾同士の衝突を引き起こし、斬り込み隊を長い尾で薙ぎ払う。
そして飛び道具だけが集まるスペースに入り込めば手出しは一切出来ない。
撃てば同士討ちになりかねない。しかし得物が接近戦には不向きな集団だ。



「ご機嫌な所で申し訳ございません。9時の方向から新手です。」

「ち、こっちがデコイか!なかなかやるじゃないの向こうさん!」

「大型の鬼騎兵による突撃隊です。その後ろから迫撃砲列一隊。」

「なーる、ナポレオン式かぁ。いいじゃない、のってやるわよ!」



かえすがえすも増援で来た5万の兵が消えたのが恨めしい乙姫。
あれを自分が指揮出来ていたら、状況は好転していた筈なのだ。
だが過去を悔やんでも未来は変わらない。今は、やるしかない。



「メドーサ、あたしが行く前に諦めたら絶交だからね!」

「いいんですか乙姫さま。絶交されて困るのは恐らく。」

「前言撤回!諦めても友達だけどちょっと怒るからね!」



友情とは難しいものである。











そして我らが主人公、横島くんとメドーサさんはと言えば。




「メドーサ、やっと本気っちゅうわけやな。マイト計測器が振り切れたで。」

「ビンス、アンタは結局何がしたいんだい。遊びにしちゃあやりすぎだよ。」

「なんぞやりすぎな事あるかいな。さて、こっちも本気出させてもらうで。」



首があらぬ方向に曲がって倒れている横島くん。
真っ白な肌に黒い筋が触手の様に纏わりついているメドーサ。
そして、背の低い中年ソンブレロから金髪の八頭身に姿を変えた元貧乏神。



「一応訊いとくでぇ。命乞いして這いつくばったらな、楽に消滅させたる。」

「意外とやさしいんだねビンス。アタシは絶対に楽に殺すつもりはないよ。」



金髪男の背中に鱗模様の様々な武器が浮かび上がる。剣、銃器、投擲機、etc。
それらは彼の愛する我が子であり、彼の手によって生み出された死の伝道師たち。
対するメドーサの右手には最近手に入れた神具が一つ。潜在能力は折り紙つきだ。



「いくで。」

「はいよ。」



投擲機が予備動作なしで射出される。刀剣槍矛が意思を持ったかの様に空を舞う。
ビンス自体は腕をだらりと下げたまま。視線もただ一点、角無しの竜神をにらむ。
メドーサも視線はまったく動かさない。ただただ、右腕だけが縦横無尽に舞った。

爆音が轟き、剣撃が響く。互いの周囲が騒がしくなるも、二人は醒めた表情のみ。



「こら押し切るには数が足りんわ。デベソも余計な事しくさるのう。」

「そりゃ残念だったね。」



メドーサが一歩、ビンスに近づく。
すると殺到する兵鬼が二倍に増える。

さらにもう一歩、ビンスに近づく。
すると殺到する兵鬼が四倍に増える。

さらにもう一歩、ビンスに近づく。
すると殺到する兵鬼が八倍に増える。




「あー、こらあかんわ。こら負けるかもしれん。弱ったでホンマ。」

「よく言うね。いつのまに小細工仕込んでたのかって感心するよ。」



小細工とは。それは殺到する武器の法則。
彼に得物を当てるには、あと12歩分の距離がある。
しかし計算上、最初の65536倍の攻撃に晒されるのだ。



「力押しでこんのか?さっきの威勢はどないしたんや。」

「楽に勝ちたい訳じゃないけどね、負けたくはないさ。」

「そらええけど、手早くやりたいんはソッチちゃうか?」



メドーサは表情一つ変えない。無論、全く意識していない訳ではない。
横島忠夫が首を折られてまだ時間が浅い。通常なら無論即死の状況だ。
しかし彼女には根拠のない希望があった。彼ならまだ大丈夫では、と。

横島忠夫とて人間だ。頭を打ち抜かれれば死ぬし、胴体を穿てば死ぬ。
だが死んでもおかしくない状況で、なぜか死ななかった事もまた事実。
もちろん保証は無いし、時間が経つことで手遅れになる可能性も高い。



「さて、そんじゃご期待に応えて動くとするかね。」

「せやな。こんなんで降参されるとやる気のうなるわ。」

「別にアンタのやる気なんざ知ったこっちゃ無いんだけどね。」



メドーサが動く。それは歩みではなく開けていた左手だった。
左手の人差し指を鼻先にチョンと当てると、横一文字に引く。
すると小さな白い紐状の物が無数に浮かび上がり、滑走する。



「かー、まだビッグ・イーターなんぞ使っとるんかいな!」

「原理が解ってるんだ、同じ効果の攻撃で相殺すればいい。」



歩を進める度に、ビンスの武器が殺到する。
そこにビッグ・イーターが同じように殺到し、打ち消される。
16倍は16倍に、32倍は32倍に、65536倍は65536倍に。



「残念だけどね、今のアタシは負ける気がしないんだよ。」

「そのようやな。せやけどな、そらワイも同じやメドーサ。」



周囲では武器と蛇が全くの互角で打ち消しあっている。
その結果、手の届く範囲だけがぽっかりと空間になっている。
女は武器を振り上げ、男は素手を振り上げ、互いに撃ちかかる。



「大竜姫に貰った得物で互角とはね。」

「降参はいまさら無しやで。」

「なんで降参するのさ。」



目にも留まらぬ攻撃だが決して単調ではない。
寄せては返し、押しては引き。押して押して返し。
しかし全てが彼に届かず、気を抜くと不意に撃たれる。

そこで白蛇は偽貧乏神を見つめた。その瞳までも凝視した。



「ビンス、実力って何だと思う?」

「結果やな。勝った方が実力が上や。」

「じゃあ、綺麗汚いは言いっこ無しだよ!」



満面の笑みを浮かべるメドーサ。これは虚勢ではないとビンスは悟る。
だがなぜ彼女が笑みを浮かべているか、そこを彼は悟る事ができない。
唯一つ言える事は、彼女は何かを知ったのだ。勝利を確信する何かを。
















横島少年は、行列に並んでいた。

明らかに崩れた顔の人間もいれば、人の良さそうな老婦人もいる。
何の行列に並んでいるのかを知りたくなり、彼は後ろに声をかける。



「ねぇねぇ彼女、この俺と一夜限りのアバンチュールを楽しまない?」

「鏡見て出直せボケ!」



残念だが情報収集活動による収穫は皆無であった。
その後も列からはみ出し何度も収集活動に勤しむ横島くん。
気がつけば屈強な男に摘み上げられ、列とは別な所に連れ込まれた。



「おめー、あスこが何処かわがらねーのか!このダラズ!」

「あー、おっさんに興味ないんだよね俺……む、でも、待てよ……」



全体的に肌の部分が赤く、頭頂部に独特の突起がある男を眺める横島。
そこで合点がいったのか、地面に指でサッサカと何かを描き始めた。
屈強な大男もそれにつられて地面に描き出されるものを見つめる。



「おっさんさ、こんな女の子知らない?何か雰囲気似てるんだよ!」

「おー、こらアニギの娘の夜叉鬼ちゃんだべ。なんでおめえしっとるだ?」

「彼女ってば俺のレコだぜ!レコ!いやー、あのお尻の痣がキュートだよね!」

「そーだっただか?!鬼っ娘は人間に惚れるんが多いもんだが、あの子がなあー!」



客観的に見れば、そのような事実は無い。彼女は弟ラブなだけだ。
しかし横島の中ではそうなのだ。拒否しない美人は全て横島の彼女だ。
いや、拒否したとしても美人の度合いによっては永遠に横島の彼女とも言える。

しかし残念な事に、夜叉鬼の叔父さん獄卒には情報がほとんど無い。



「すかすなぁ、未亡人とは夜叉鬼ちゃんも可愛そうだべ。なんで死んだんだ?」

「え?どゆこと?」

「おめぇ、ここはよもづひらさがだ、よもづひらさが。名前くれ知ってっぺ?」

「八重洲の近く?」

「ちがうっぺ!これだから東京もんはスカしてて嫌いだで!地獄の手前だど!」



ここでクレバーな横島少年の脳内で状況判断が始まる。

まず目の前の訛りの酷い鬼はミニスカが似合う夜叉鬼の叔父。
あの逆さ釣りから眺めたスカートの中は非常に感慨深いものがあった。
そして先ほどいたのは八重洲駅中スイーツの行列ではなく地獄の手前だという。



「てことはさ、行列の先には食い物とか、美人コンテストとか、全然無いの?」

「そもそも並んで入る美人コンテストなんか見た事ねーだが、まぁそうだべ。」

「じゃあさじゃあさ、この先にムチムチボインな美人が待ってもいないんか?」

「並んでたのジジババが多かったっぺ?どう考えてもおかしいって気づくべ。」

「いや、すっげえ業の深い女好きとレズビアンがたまたま集まっただけかも。」

「それごそ確率低すぎんべ!待ってるのは髭ぼうぼうの閻魔様と鬼たちだで!」



横島は恐怖した。
まさかこの宇宙一モテモテで行く先々で美人が待ち構える筈の自分が。
よりにもよって一番嫌悪する髭オヤジと対面する為に歩いていたとは。
これは大事件の予兆だ。このままで行けば宇宙が滅びかねないほどの。



「帰る!東京に帰る!池袋に帰る!俺には待ってる女がいるんだ!」

「残念だけんどもな、ここに来てるんじゃ無理だべ。もう手遅れだぁ。」

「手遅れじゃねえ!俺はここで立っている!立ってるって事は乳が揉める!」



横島忠夫は自分の手を見つめ、握る。非常に鈍いが、確かに力を感じる。
きっと、ここに「アレ」が収まれば、自分が自分である為の物が取り戻せる。
アレ。その単語がおぼろげに浮かぶが記憶の焦点が定まらない。アレとは何か。

しかし彼は魂の組成から特別だった。薄れた魂の残滓に、アレを残していたのだ。



「メドーサの乳が揉めれば!横島忠夫は!絶・対・無・敵・だぁぁぁぁぁ!」










ここで事態は一転する。







「や――――――――め―――――――――――――――貧――――――――」





偽造天使ナハトこと花戸小鳩は泣きながら手を広げて浮かんでいた。
ビンス・マクマホンによる強制呪により彼女は延々と口を開いている。

その周囲には十重二十重の部隊が配置されている。重要性は計り知れない。






「かわいそうな新しい妹。」

「そして今こそ報恩の時。」




声を聞いた空飛ぶ天兵が更に上空を仰ぎ見るほどの遥かな高さ。
音を聞いた地の鬼兵が反射的に筒を上げるも照星の先に影無く。

だがその声はその場の誰もが聞こえる。それは祝福されし言葉。




「生え揃いし羽の数に畏怖せよ。」

「背に負いし光輪の輝きに屈せよ。」

「主に慈悲あれど遣いに慈悲は無し。」




偽造天使ナハトを護っていた兵力。その数およそ4万。
ビンス・マクマホンは戦いの分水嶺が何処かを熟知していた。
しかし、彼の失策は愛娘から離れた事。自らの過去に固執した事。

彼がもし花戸小鳩の元を離れずにいたら状況は違っていたかもしれない。



「光あれ。」



天界軍の中でも古参である天使兵。
羽を複数持つほどに、その力は強大とされる。
一朝一夕で強くなれぬ成長の乏しい長寿の種族である神族。

彼女らは、遥か昔に起きた聖書級大崩壊のときに生き延びた、ヒヨコ天使。



「最高会議では、きっと我らは糾弾されるでしょうね。」

「それでも良いのです。主は仰られました、やったらやりかえせと。」



メドーサが救ってから幾星霜。乏しい成長も見事に積み重なった。
彼女らは自分の弱さを知り、いつか恩に報いんと待っていたのだ。
悪魔に組している時ならいざ知らず、今は天に味方している彼女。




「あー、スッキリした!やっぱり私たちってば強くなったわよねー!」

「ちょっと、地が出てるわよ。天使は上品に韻を踏まないと駄目よ。」

「あ、いっけなーい。でもさ?ここだったら主も絶対見てないって!」

「言えてるかも!ていうかさ、ぶっちゃけイメージ戦略古すぎよね!」

「そうそう!今時ならさ、身近で会える天使って絶対流行ると思う!」



天界軍中枢にいる大天使で、メドーサに救われたのは48柱にも及ぶ。
射程外から浴びせられた祝福により花戸小鳩の周囲100mが消え去った。
そして彼女らは豊満な新参天使を囲むと、代わる代わる頬にキスをしていった。



「――――――こ、声が出せる!体が普通に動く!」

「可愛い妹。新しい妹。全ては思し召し。全て貴女の信じるがままに。」

「え、で、でも、貧ちゃんは、それでも家族だし、横島さんは、その、ゴニョゴニョ。」



48柱のうち8柱がナハトに向き合い、残り40柱が外を向いている。
それは説得班と戦闘班の位置づけ。未だナハトの強制呪は解除されていない。
あくまで説得の為に会話能力を復活させたに過ぎず、周囲にも反乱兵が集まりだす。


「父母の愛は偉大です。ですが、正しき道に導くのもまた愛なのです。」

「あの、えと、たぶんお仲間さんが言ってたんです。子は父にって。」

「子は父に?……ぶ、ぶはははははは!マジで?!そりゃ酷いわ!」



泣きそうな少女の周りで品無く笑い転げる8人の天使たち。
何が起きているのかが解らず、キョトンとした表情で佇む小鳩。
息が苦しくなりながらも一人の大天使が小鳩の肩を叩き耳元で囁く。



「それね、隠語なのよ!この乳で彼氏ゲットしちゃえって言われてたのよ!」

「―――――え?ええ?!えええええええええええええええええええええ!」

「すっごい古いスラングだから一瞬判らなかったけど、超ウケるわマジで!」

「大丈夫、このおっぱいなら落ちないオトコいないわよ!天使が保証する!」



そこで花戸小鳩に今までの記憶が去来する。
苦しい時に声をかけてくれた母と人生を諭す貧乏神。
時に泣き、時に笑い、苦しいながらも楽しかった少女時代。

彼女は即座に決断した。



「そうですね!やっぱり私、横島さんが世界で一番大事です!」

「あ、でもさ、天使って恋愛禁止よ?男バレは即引退がルールだし。」

「じゃあ引退します!私、宇宙が滅んでも横島さんの為になら何でもします!」

「おっけーよく言った!じゃあ天使は引退!思う存分お嫁さんしてきちゃいなさい!」



こうして、偽造天使ナハトは主の代行である大天使公認の下、天使職を解かれた。
権限は剥奪され、強制呪は正二位熾天使級から高校中退女子級に格下げとなった。
ごく一部のマニアックな天界兵を除き、ビンスによる支配は事実上消滅したのだ。












メドーサが見た勝利を確信した光景とは。

それは、ビンスの瞳。
その瞳の中に移る自分。
更に自分の瞳に映る光景。

ギリギリの戦いで周囲の見えなくなっていた彼女が見た光景。
それは、平時ならば見えているはずのビンスの後ろに現れた人影。



「ハッタリなんぞ、らくしないで?」

「安心しな、あたしもそう思ってるよ。」

「次で決着や!奥の手って奴を見せたるで!」



そこで真打が復帰する。
最大の追い風を持ってきた彼。
われらが主人公、元祖横島忠夫である。



「いててて、せ、背中が見える!どうなってるんだ!ていうかメドーサどこだよ!」

「げ、なんや少年!きもちわる!普通人間やったら首回ったら死んどくもんやで!」

「馬鹿いうな!そこに美人がいる限り俺は死なん!たぶん!きっと!なんとなく!」





いつもの寝起きのように不意に起き上がる横島。
求めていた乳の気配を感じ向き直るが、見えない。
体の向きは正しい。だが首が180度回転している。



「メドーサ、いるんだろ?!意地悪しないで出てこいよ!」

「馬鹿だね、さっき、から、ずっと、ここに、いるよ。」

「声はすれども姿は見えず!ほんにあなたは屁の……」

「ヨコシマ、それ以上言ったら、首を捻り切るよ。」







メドーサはゆっくりと歩いた。
横島はゆっくりと彼女に抱きしめられた。

二人は安堵する。
求めていた手の温もりを得て。
求めていた乳の柔かさを得て。



「よかったのうメドーサ、ワイは優しいさかいな。」

「確かにね。本当によかったよ。横島が戻ってね。」

「ほな、ワイの奥の手で、二人仲良う往生せいや!」



ビンスの奥の手とは宇宙を瓦解させかねない超スゴ技である。
メドーサどころか上級神でも対抗できる手段は存在しない。

だが48柱の大天使が、傷だらけの旧友と側近が、古くからの上司が、
その部下たちが、不敵な笑みを浮かべてビンスの後ろに腕を組んでいる。
文字数にして58万字を超える程の表現が必要なその技に出番は無かった。






「「「「「「「「確保ー!」」」」」」」







そしてビンス・マクマホン・Jrは非凡な実力を持ちながらも捕縛された。
それは非凡ではない集団により背後から完全なる不意打ちを受けたためだ。
天界の最高位たる12席のうち2席、天界一軍の長、特殊工作員、大天使。

それはあたかも堰き止められていた流れが一気に襲い掛かる土石流が如く。



「ま、まちーや!卑怯やで!ズルやズル!それでもオマイら正義の味方かいな!」

「これも因果じゃの。元公務員の反逆罪はつらいぞビンス卿。のう、大竜姫殿?」

「これまた意地の悪い物言いですね斉天大聖殿。でもまぁ、その通りですけど。」

「メドーサ、これで少年と思う存分添い遂げられるわね!親友の私のおかげよ!」

「乙姫様、たぶん今は耳に入らぬ状況かと。先方には文書で提出しておきます。」

「よっしゃ、大金星で有給有給!悟浄、パーっと3ヶ月くらい飲み明かそうぜ!」

「さっき不吉な紙切れ受け取ったぞ。魔情(魔界情報部)と交流訓練だとか……」

「偽者の天使とか許されないわよ!メンバー交換くらい話通してれば別だけど!」

「やっぱり戦いは数なんですね御姉様。そーいえば、おねーさまは一体どこに。」








小竜姫がふと視線を移すと、そこには横島忠夫最後の試練が展開されていた。

横島の右の腕はメドーサが、左の腕は花戸小鳩が、しっかと絡み付いていた。
あらぬ方向に曲がる彼の頭部は動かないものの、その視線は泳ぎきっていた。
だが表情は、悲痛でも激痛でもなかった。感触が痛みを凌駕しているからだ。



「横島さん、私を、横島小鳩にしてください!そしたら好き放題ですよ!」

「残念だねぇ小鳩、あたしは横島メドーサって名乗れって言われたのさ!」

「ちょ、あの、何か、意識が、ちょびっと、遠くなってきたかなー、と。」




















その頃、妙神山外周部で待機していた美神部隊にも異変が。



「これでいいのか?小さくしたあとに大きくするのは出来んのだぞ?」



作業着姿のルシオラと腕を組んだイケメンマッチョな大悪魔が小首を傾げる。
大悪魔の依代に宇宙処理装置を詰め込んだ中型神族魔族級の実力を持つ筐体。
それをダウンサイジングするように言われ、実力は何百分の一にも落とした。

どう見ても無意味。どう見ても不可解。だがおキヌの希望でもあった依頼だ。




「じょーできじょーでき。じゃあ横島クン、あんたは美神事務所ね。」

「そりゃあ別にいいんですけど、本物、生き返っちゃってる感じで。」

「あー、乳オバンにベタ惚れ横島クン?あんなのほっぽっとけばー?」




思い出してほしい。

出来立ての悪魔の転生と大悪魔用の電池の漏電もどきで日本最高GSの霊力。
ダウンサイジングで大幅に下がったとはいえ、その実力は計り知れないのだ。
もちろん知恵と勇気と努力と根性と忍耐と我慢が重要だが、そこは問題ない。

これからは霊力がない分だけサポートに徹してくれる人材が確保されている。



「でも、同じ名前って協会的にまずくないスか?向こう事務所持ちだし。」

「唐巣先生に頼めば大丈夫よ。なんだったら明日から美神忠夫にしとく?」

「駄目です!そしたら私も美神キヌに名前変わっちゃうじゃないですか!」

「言うわね。ま、その辺も含めてさ、事務所で今後の相談しましょっか。」



わいわいと話しながら妙神山に一瞥もくれずに山を降りる美神一派。
取り残されたのは復活せし大悪魔と愛娘3人組。(自家製彼女含む)



「帰るか。」

「そうでちゅね。」

「そういえばベスパさ、この後どうするの?」

「まず親に紹介して、アシュ様がお嬢さんをください的な……」

「そのアシュ様が親でちゅから!本人に本人紹介してどうするんでちゅか!」

「あーあ、ツッこんじゃった。今のは絶対スルーする流れだと思うわよー、パピリオ。」




大悪魔一行は魔界に戻り、悪く爛れた模範的な悪魔家族を末永く続けたという。
















こうして貧乏神の起こした事件は各方面に影響は残しつつ、一応の解決を見た。

























そして時は経ち、11ヵ月後。





「憲法9条さえ遵守していれば!非常事態は起きないんですよ!」

「いや、憲法の一文で攻める国が攻めなくなるって、そりゃ無理だ。」

「無理じゃない!9条さえ守ってれば天下泰平万民安泰国家安康です!」

「本当にそうだといいんだけどよ?実際無理だって判るだろうが、貝枝。」




第二次アザブ政権が発足し、日本は平和憲法の解釈変更で話題となっていた。
アンパンマン顔の防衛大臣も幹事長に格上げされ、政務と党略に大忙しである。
大悪魔の予言は外れた。しかし状況が変われば未来は変わる。未来とは不確定だ。

コメリカ陸軍の濃い顔の司令官もつつがなく任期を全うし、ステーツに戻った。
この件について新司令官に引き継がれたのは一言。妙神山には近寄るな、である。







「DTS48でーす!みんな、元気してるー?」

「みんなの信仰心、すっごい感じてるよー!」

「それじゃー、今度出るアルバムから……」



天界では情報伝達の遅さにより混乱を招いた反省から駐留軍の派兵を決定。
妙神山を中心とした小規模なインテリジェンスとは別に大天使を派遣した。
秋葉原に劇場を構え、表向きには天界布教活動として48柱常駐している。

気軽に会える大天使の降臨とあって、一種の聖地としてあがめられている。










「以上をもって本人不在ではあるが、被告人を天獄刑とする。」

「なお被告に関しては現在捜索中の為、逮捕しだい即執行とする。」



今回の事件の主犯であり実行犯であるビンス・マクマホン・Jrこと貧ちゃん。
斉天大聖と部下二名から天界軍に引き渡された後、なんと逃亡を許してしまう。
天界中枢への復帰も噂されていた斉天大聖であったが、再び地上勤務となった。








「でもそれっておかしくありませんお師匠様?逃がしたのあっちですよ?」

「わしが邪魔というだけじゃ。今頃別の課が処理しとる。そうだな悟浄?」

「そーゆーこと。この件で外事が動いたらしい。行き先は魔界だろうさ。」

「で親父、研修も終わったしさ、そろそろ計算違いの休暇ってやつを……」

「そうじゃ八戒、魔界のコネができたろう。ビンスのヤサを抑えて来い。」

「……はい?!?!待てよ、俺3ヶ月分飲み屋の予約取ってんだけど?!」

「安心せい、飲み屋には違約金を渡しておる。わしは部下思いだからな。」




肩を落とす八戒、首を竦める悟浄、頬を緩める小竜姫、口角を上げる斉天大聖。
妙神山がこの度の事件により変わったのは、装備が新しくなったという程度だ。
そこに猿神がいて竜神族の少女がいる。たまに猿神の部下が訪れるというだけ。









「ほー、お前が竜神のビンスやな。ちっこいのー。」

「なんやワレ。誰に向かってメンチきっとんのや。」

「下がりなさい下神。こちらの方を一体誰だと……」

「あー、それはええんや。でな、モノは相談や……」



小さい体に大きなソンブレロの貧ちゃん。もはや長身金髪のイケメンではない。
それは天界の外交特殊部隊、外事6課により強力なギアスをかけられたせいだ。
そしてその目の前には、長身金髪の角の生えたニヤケ顔の青年と美人の秘書官。



「てなわけでな、ワシ専用兵鬼母艦の設計を頼みたいんや。でけるやろ?」

「そらまぁ。……でも、これだけのモンやと使うマイトもハンパ無いで。」

「そこは大丈夫や。でな、名前は『大ゼスパーゼ』や!これは譲れんで!」

「ゼスパーゼ?……なんやけったいな名前やな。ま、好きにしたらええ。」



今回の事件で魔界はあらぬ疑いをかけられた上に、天界は地上駐留を強行した。
くさびとして地上にいた大悪魔アシュタロスさえ魔界に帰還する事態となった。
天界中枢部と魔界中枢部では秘密裏に会合を開き、とある条件を天界に課した。

犯罪者であり兵器開発のエキスパートであるビンスを、魔界に移籍させたのだ。



「ところでな、あんさんナニモンや。ただのニーチャンちゃうやろ。」

「判らんのか?どう見ても激シブなイケメンニーチャンやないかい!」

「どこがやねん!百歩譲ったかてバイト中の売れないお笑い芸人や!」



魔界は天界奥義である文珠を含めた最新兵器のノウハウを手に入れた。
こうしてパワーバランスは更に拮抗し、小競り合いすら起きなくなった。
この冷戦状態は人類が滅びた後に破られるが、この先の説明は不要だろう。

このSSの読者はすべからく人間の筈だから。無論、断言は出来ないのだが。






そして。




「いい加減にしろよ俺!いちいちバッティングするんじゃねえっての!」

「そっちこそ!俺が受けた受注だぞ!何で俺が出しゃばってくるんだよ!」

「俺じゃなくて美神さんが受けたんだよ!だから俺はひっこんでろっての!」



横島忠夫が、豊島区池袋駅前の再開発に伴う幽霊ビル除霊で言い争いをしていた。
数ヶ月の間は以前と同じようにクライアントの住み分けがされており平和だった。
メドヨコが小規模クライアント、美神事務所が大規模クライアントという具合に。

しかし、メドーサの根気によって元祖横島が評価を上げると、美神令子が動いた。
美神側の横島を「本家横島」と銘打ち、美神横島除霊事務所と名称変更したのだ。



「おー、横島君たち、頑張っとるのー。」

「「うへへ、こりゃ社長、また合コン連れてってくださいよ!」」

「うーむ、見れば見るほどそっくりだのー。ま、仕事が早くて助かるがの。」



メドヨコだけを使うのは新大塚不動産、逆にミカヨコだけは公共機関のみである。
他は多少割高になっても両者に依頼していた。別に面倒だからというだけではない。
美神側はGS協会とのパイプ、特に唐巣派閥による後々のフォローが期待できる為だ。

そしてメドヨコ側は圧倒的な地の利、そして神社仏閣への適切なアプローチが出来る。



「そうだ二人とも、内祝いを包んできたんだがの。」

「「うは、マジっすか!ありがとございまーす!」」

「貰い物の時だけ仲良くなるとは、流石だのう……」



ちなみに。
メドヨコ組はザンスに、美神一派はナルニアに、それぞれ3人が国籍を移していた。
それは日本にある「とある刑法上の罪」が問題となるせいだが、敢えて特筆しない。
メドーサを国教としたザンスは二人の移籍は無論大歓迎。パレードも行われた程だ。
ナルニアでは、美神を気に入っていた横島百合子の暗躍により半ば強引に成立した。

もちろん生活実態の無い国籍移動が問題なのは、どこの国であろうと一緒なのだが。





「今、何ヶ月なんですか?」

「もう6ヶ月なんですよ。おキヌちゃんは?」

「えへへ、おんなじです。案外、誕生日も同じだったりして。」

「そしたら仲良くなれるといいですね。そうだ、同じ名前とかどうですかね?」



以前の巫女服姿を覚えているものからすると違和感が大きく感じられるおキヌちゃん。
そして、同様に制服を私服代わりにしていた小鳩ちゃんも同じく違和感があった。
それは下腹部の盛り上がり。あきらかに不摂生とは違う体型となっていた。



「やめときな。ただでさえ紛らわしいんだ、子供もなんてぞっとしないよ。」

「そうよーおキヌちゃん。その子は横島家の正式な跡取りになるんだから。」

「言うねえ美神。横島が許せば今ミンチにする事だって出来るんだからね。」

「お生憎様、どっちの横島クンも私は殺せないわ。そっちは知らないけど。」



対して美神令子とメドーサの体型は以前と同じ、まるでフェミニンの塊の様である。
両者とも決して子供が嫌いというわけではない。想い人の分身となれば尚更だ。
しかし意地が彼女らを支えている。想い人の支えに。無論口には出さない。




「さ、こんな貧乏臭い現場とっとと終わらせましょ横島クン。次があるわよ。」

「そこで社長が見てるのに良く言うもんだね。ま、こっちも圧してるけどね。」



GSメドヨコが台頭してきた影響は少なくなかった。

GS美神とOGSOことGS小笠原が業務提携をしたのだ。
昨日の敵は今日の友である。無論、罵り合いは続いているが。
これにより縮小するかと思われたGS美神の影響力は存続した。
台頭するメドヨコと美神連合はGS業界を席巻しつつあったのだ。

そんな暗躍をあまり判っていない実務担当の横島くんズは、空気が読めない。




「「えー!今日はこの仕事の後『ラブラブ★デート』するって言ったのに!」」



器用に声を合わせて抗議する横島くんズ。
白く固まるメドーサ。頬を染める美神。




「ば、馬鹿!!そんなことを大声で言う奴があるかい!」

「へぇー、奇遇じゃない?いっそ合同でやっちゃう?!」

「馬鹿言ってんじゃないよ!こ、小鳩が困るだろうが!」

「小鳩は困りませんけど。おキヌちゃんは困りますか?」

「夜には帰りますよね?……メドーサさん、まさか……」

「馬鹿ばっかりじゃないか!もう今日は帰って寝るよ!」

「うわ、めっちゃお盛んだわ。流石神様、エロいわね。」

「い、意味が違う!あたしそういう系統じゃないから!」



冷静さを失い横島の手を引き飛び立つメドーサ。
超一流のプロであった彼女にしては重大な見落としがあった。
しかし彼女とて新婚さんである。プライベートに恥じ入って混乱しても仕方が無い。














「あのー、メドーサさん?」

「さんとか他人行儀じゃないかヨコシマ。二人だけの時はハニーなんだろ。」

「あの、気づいてないの?」

「判ってるよ。手をつなぐの恥ずかしいんだろ?いいだろ、好きなんだよ。」

「申し上げ難いんですが。」

「なんだい煮え切らないね!アタシだってね、シたい時くらいあるんだよ!」

「俺、本家横島ですけど。」





手を離すメドーサ。実力を得たとはいえ飛べない横島(本家)。
だんだん小さくなっていく美神専用横島くんを見ながら、メドーサが呟く。






「……いっそ記憶が無くなる位に脳みそ崩れてくれるといいんだけど。」










ともあれ、今日もGSメドヨコは平和であった。






ちなみに唐巣神父だが、髪の毛は8割がた復帰したという。




















めでたし、めでたし。
















「いや!ぜんぜんめでたくない!ものすごい後退してるんだぞ!」



めでたし、めでたし。



「ちょ、待って、せめて現状復帰!失われしものに慈悲を!」



めでたし、めでたし。



「ハッピーエンドのはずだー!やり直しを要求するー!」



めでたし、めでたし。



「当て身。」

「ピ、ピート君、まさか君がブルータスとは……」

「いや、どう見ても蛇足ですから先生。では皆様、またお会いしましょう。」



めでたし、めでたし!



(完)















原作:GS美神極楽大作戦!!

製作:蛇と林檎のオリキャラを成仏させる会

執筆:まじょきち



今までの評価: コメント:

この作品はどうですか?(A〜Eの5段階評価で) A B C D E 評価不能 保留(コメントのみ)

この作品にコメントがありましたらどうぞ:
(投稿者によるコメント投稿はこちら

トップに戻る | サブタイトル一覧へ
Copyright(c) by 溶解ほたりぃHG
saturnus@kcn.ne.jp