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GSメドヨコ従属大作戦!!

光るナハト砲


投稿者名:まじょきち
投稿日時:14/ 9/ 5

妙神山の戦闘は未だに混濁している。

天界の援軍は来ない。消耗しているとはいえ10万の天兵は未だ洗脳下にある。
都内で足止め(?)されている自衛隊は別として、米兵と魔界侯爵が参戦した。
決定打はやはりビンス卿の制圧に尽きるが、その前に天界大将が立ちふさがる。



「大竜姫、来た早々で悪いけど何か適当な得物は持ってないかね?生憎手ぶらでさ。」

「適当なのを拾ってきなさいな。最新鋭の火器が下にはゴロゴロ落ちてる筈ですよ。」

「残念だけど飛び道具が苦手でね。この前なんか止まった相手も外しちまったしね。」

「じゃあ少し殿方の相手をお願いできるかしら?兵部省の底力、お見せしますわよ。」



メドーサは大竜姫と入れ替わり、再び八戒の重たい神具を素手で受け止めることになる。
しかも当然のように超加速。まして今は超加速についてこれない横島の手が左手を塞ぐ。
ハンディキャップを見かねて手加減をするほど殊勝な相手ではない。一撃ごとに必殺技。

だが違うものが二つ。一つは打開策が待てる事。もう一つは大事な何かを取り戻した事。



「おーーーーーれーーーーーにーーーーーまーーーーーかーーーーーせーーーーー」

「無駄に動くんじゃないよ。いいかい、アンタは黙ってあたしの雄姿を拝んでな。」



彼女は横から何かを感じる。それは単なる温度でも、人間にしては高い霊力でもない。
だが、その感じる何かが自分の動きを変えているのが判る。より高速に、より強力に。
悠久の時を経て、並の神ですら比肩できぬほど経験を持つ彼女すら惑わせたものとは。



「あのさ、うるさいこと言いたかないんだけどさ、何でアタシは乳揉まれてるの?」

「そーーーーーこーーーーーにーーーーーちーーーーーちーーーーーがーーーーー」

「あーハイハイ。乳をつけてるアタシのせいって言いたいのかい。好きにしなよ。」



セクハラだった。



だが、彼のセクハラ行為は彼女のアンバランスなダイナマイトボディを支える。
それもまた経験値のなせる技。小鳩の乳を押えた一件も無駄ではなかったのだ。
右手のみの固定でさえ結果としてメドーサの動きが格段に上昇し、優位に働く。











一方、事態の打開において急先鋒と期待されていた大悪魔アシュタロスさんはというと。



「美神さん、アシュタロスさん、何で二人とも動かないんです?!横島さん助けましょうよ!」

「駄目よおキヌちゃん。いい?相場は見極めが大事なの。安いうちに売るのは損なのよ。」

「メフィストの言うとおりだシルクワーム。勝負には潮目というものがあってだな。」

「相場とか潮目とか言ってる場合じゃないでしょう?!何考えてるんですか!」



真っ赤になりながら可愛く腕を振り上げ、上司と悪魔相手でも遠慮なしに怒鳴るおキヌちゃん。
その眼にはうっすらと涙すら浮かんでいる。しかし当の上司も悪魔も転向する様子はない。
現在霊力の落ちている美神令子嬢はともかくアシュタロスは十分に戦況を覆せるのにだ。

さすがに見るに見かねたのか、昆虫三人娘がおキヌの肩にそっと手を置いて諭す。



「聞いてシルクワーム。今ここでアシュ様が助けたとして、どうなると思う?」

「そ、そりゃあ、横島さんが助かります。さすがに今回は危なそうですし。」

「でちゅけど、あのままだとヘビオバンに落とされてオシマイでちゅよ?」

「う……いや、でも、横島さんが、死んじゃったら、私、困ります……」

「だから、寸前で助けるさ。そんで横島も誰が一番か気づく。だろ?」



しゃくり上げながらも3人娘の言っている内容を吟味し始めるシルクワーム。
確かに横島は目の前の事に心を奪われがちだし、正直そこまで面食いではない。
彼にとって一番大事な時に隣にさえいれば、誰にでもそのチャンスはあるだろう。

一番のピンチを救う一番のタイミング。そしてそれを実行できる一番の存在といえば。



「でも!私!アシュタロスさんと横島さんの結婚には納得できません!」

「「「なんでやねん!」」」



開いた左手の甲でおキヌちゃんの胸元を同時に叩くルシオラ、パピリオ、べスパ。
綺麗に揃ったその仕草を肴に、大悪魔と元女悪魔は手酌で日本酒を傾けていた。
美神令子に至っては悪酔いからの迎え酒のはずだが、その顔は穏やかである。



「だから国宝級天然ボケのおキヌちゃん相手に含んだ言い方は無駄なんだってば。」

「シルクワームは顕現しつつも霊体を出し入れ出来、神格をも放つ。そのせいか?」

「いやー、そのへんは全部すっ飛ばして、おキヌちゃんは元々ああだったんじゃ?」



もちろん本当のところの結論は原作で出ているので、ここでは割愛する。








一方、戦線を一時離脱した大竜姫は地面に四つん這いになっていた。
その表情は険しく、顔面は蒼白になり脂汗がボタボタと滴り落ちる。
武器を作ると言い放った彼女は、パッと見では吐く前の酔っ払いだ。



「う、お、おぉぉ、おぐぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!ケホッ!ゲェェェェェェェェ!」



喉の霊基を奪われて汚い言葉を吐けないんじゃ?と思われている諸氏がいるかもしれない。
それは誤解だ。悪意に満ちた言葉が吐けないだけで、不快さを誘発する全てでは無いのだ。
気分が悪くて吐いている相手に悪態をつく者もいるが、祝福される嘔吐であれば別なのだ。

例を挙げれば、自分の奥さんが悪阻になって吐いてるからと悪態をつく旦那さんはいない。



「御姉様がんばって!ほら、ヒッヒッフー!ヒッヒッフー!」

「うう、小竜姫、あなた何をやってるの?戦闘はどうしたの?」

「大丈夫です。お師匠様が来ましたんで代わってもらいました。」



背中を擦られて治る苦しみはない。しかし気分は幾分和らぐ。それこそが『手当』だ。
余裕の出来た大竜姫は顔を上げる。そこには猿姿の老神が悟浄と剣戟を交わしていた。
その背後からは遠巻きに新たな天界兵の軍勢も見える。風はまだ吹き続けていたのだ。



「服従装置介入とは厄介じゃな。判っておれば解除呪を出してきたものを。」

「――オヤジか。敵にしか見えねえ。かまわねえ、俺ごと破壊してくれ。」

「そうもいくまい。が、年老いた身で手加減も難しいのう。さてはて。」



斉天大聖は西遊記内でも別格であるが、トリッキーなギミックに頼る記述も多いキャラだ。
そのせいか個体戦闘能力においては低めに神格化された。故に老師は部下を使うのだ。
もちろん雑魚キャラとは比較にならない。しかし仲間の八戒や悟浄とはほぼ同格。
だからこそ彼は二人を重用した。因みに大竜姫は腹心の部下を持っていない。

悟浄と悟空という奇しくも同じ字を使うもの同士が手合わせをしていた。
だが流れこそ変つつあるが、老師は事態を打開する決定打ではなかった。











「5万?たった?ちょっと、話が違うわよ!天界からの通達はどうなってるのよ!」

「中将閣下に申しあげます。『不測の事態を鑑み現状ではこれが限界』とのこと。」

「今がその不測の事態だっての!メドーサ、あんた艦隊参謀には向いてないわよ!」



妙神山外周部で陣頭指揮を執る乙姫中将は、吹いた風の頼りなさに落胆していた。
天界本部の穏健派が未だに渋っているのだ。互角になるかも怪しい増援の量である。
今は隣にいない艦隊参謀に悪態をつく程に、彼女は現在の戦況の打開策を探していた。



「到着した友軍がたった今、妙神山に突入。艦艇から砲撃が出来ぬと通信が。」

「だああああ!勝手に飛び込むんじゃないわよ!で!その馬鹿指揮官の名前は!」

「天界守備軍メルクリウス閣下だとか。高位な御柱であることは間違いないかと。」



不機嫌を隠そうとしない中将閣下に意見を上奏しているのは、我らがドンガメ氏だ。
乙姫とカメの付き合いは長い。そして長い間に具申できるのは彼だけになったのだ。
実は彼は報われない恋心も抱えているのだが、蛇足になるので割愛させていただく。



「あいつソロバン屋じゃない!前に命令違反で軍務から追い出した筈よ!ドンガメ!」

「何でも父親がもっと高位の神だとかで。さすがはオリュンポス12神という所かと。」

「キィィィィ!七光りで勝てる戦争はないっての!その半分霊波でも出せりゃ別だけど!」



増援も決定打ではなかった。天界軍士官専用『ツイ指がすべッター』には同じ単語が並んだ。
中将様お疲れ様です、と。もう誰も中将乙とは書かない。そんなレベルを超えているからだ。
見ていないとは判っていながら、それでも敬語を使わざるを得ない程、彼女は困憊している。












『こちらワイルドキャット2!国籍不明機と遭遇……ジーザス!空飛ぶサメだぜありゃ!』

『プッシーキャットよりワイルドキャット全機へ。その鮫は味方だ、撃つんじゃないぞ。』

『でも隊長、どいつもこいつもデビルじみてるぜ!撃ったって神様は許してくれるって!』




投入された太平洋艦隊所属のFA18は混乱していた。敵味方識別からして既に難しい相手。
そこに艦砲射撃を諦めた乙姫中将麾下の部隊が制空権奪取に任務を変え妙神山上空に飛来。
更に何の為に戦っているのかも聞かされぬままに戦闘に参加しており、士気は高くない。
それは葉巻を咥えていた在日米軍司令官にも窺い知れた。何か打開策が必要である。



「友軍各機に伝える。我々の敵は悪い奴で我々の味方はマリリンモンローだ。奮起せよ。」

『司令官殿!マリリンモンローを我々は知りません!判りやすく例えてもらえませんか!』

「く、これだから今時の若いもんは……AWACSから画像を送る!各自で判断しとけ!」



ここで事実に反する情報が発表された。送った画像は竜宮城指令の乙姫中将ではなかった。
特にサメたちとは直接の関係のない大竜姫の画像だったのだ。しかも普通に記念撮影風だ。
社交的な笑顔を貼り付け引きつっている彼女と、満面の笑みを浮かべる司令の2ショット。

で、パイロット達の士気はというと……



『このくだらない画像がこれを狙っていたのならッ!予想以上の効果をあげたぞッ!』

『神が運命を操作しているとしたら!俺ほどよく操作された兵隊はおるまいッ!』

『こいつはすげえーッ!エロい女のにおいがプンプンするぜーッ!!』



馴染みの顔による現実感と比較対象の醜さによる相乗効果により、キラリ光って急上昇した。

こうして最新鋭機のテストも兼ねたFA18Eの編隊は後世にも比肩し得ない動きを見せていく。
と同時に、帰投後に漫画の読みすぎは良くないよと上官から注意される数少ない経験も得た。
なぜそんな注意を受けたかについては昔のジャンプに詳しい父兄に聞いていただきたい。








「AWACSより情報入ります。敵軍未だ健在。友軍と目された軍勢は目下苦戦の模様。」

「FA18Eは良く守ってくれています。しかし相手が悪い。我々はペリシテ人ですな。」

「我等にも神はついておるよ。しかもとびきり美人だ。そして主イエスにも通ずる、な。」

「ならば『自らを』ですな。地上部隊がMt.ミョージンにつくには時間がかかります。」



ミニッツ級空母インクレーダブル。その艦橋には在日米軍司令官と参謀達が立っている。
地上最強の人間側軍隊、コメリカ陸軍には最新鋭兵器がある。しかし戦場にあれば、だ。
妙神山にはハイカー等が迷い込まない様、人間の知覚に干渉し『迂回する』結界がある。

GS協会が先導し向かってはいるのだが、戦時の為に結界がより強固になっているのだ。



「正直な所を言えば大規模な地上戦は避けたい所だ。そうは思わんかねヘンリーくん?」

「確かに、被害は小さくはないでしょう。緘口令を徹底させるのも無理があります。」

「並の相手なら貴様一人で放り出しておけば安心してコーヒーが飲めるのだがな。」



参謀はOGSOの雑務要員であるヘンリーだった。顔に大きく入った傷が笑みの形に歪む。
合衆国に忠誠を誓い、数多の国家テロと相対して解決した彼でも、今回の件は手に余った。
彼が知る上で個人レベルなら日本GS協会はコメリカ特殊部隊ですら片手であしらわれる。

そんな彼らでも手に負えない事態なのだ。歴戦の第六感がチリチリと生命の危険を伝える。



「ボビーとジョーには地上部隊に同行させております。最悪、情報は得られましょう。」

「それでも若い将兵は犠牲になろう。だが見過ごせば合衆国初の本土防衛戦になるか。」

「州兵で敵う相手ではありません。防衛ではなく、屈服か虐殺かを選ぶのみでしょう。」



もちろんビンス・マクマホンJrに人間を虐殺して楽しむような性分は、今の所は、無い。
しかし侵略者とは得てして虐殺を行う。主に人間世界の歴史では。故に恐れてしまうのだ。
神の視点に立てば人間はただの霊力タンクであり不完全な繁殖性過多の生命体でしかない。



『スーパーホーネット以外の艦載機発進準備完了。先行機と同様に結界護符も搭載完了。』

「全機発進しろ。」

『了解!』



CVインクレーダブルのカタパルトデッキから次々と艦載機が飛び出していく。
艦橋内のアクリルパネルには軌跡が次々と現れ、その先端には三角形が刻まれる。
湾岸戦争でもこれほど多くの艦載機は発進していない。数十年ぶりの総力戦である。

無表情の在日米軍司令官とGS小笠原の雑務。
沈黙の均衡を破ったのは司令官。



「しかし、ダイリューキ様は本当に巣晴らしかった。責務が無ければ襲いかかっていた所だ。」

「責務があって良かったですな将軍。ファランクスを生身で受けるより酷い結果になる所です。」

「あの体に触れられるなら、それくらいは等価交換だろうよ。むしろ安いと言えるかも知れんぞ。」



表情こそ変えずにいたが、ヘンリーは思った。
触れる前にミンチだってのが判らんのか、と。

そこで彼の頭にミンチになってもやる、もう一人の男の顔が浮かぶ。








そんなミンチ願望少年の偽物は、現在どうしているかというと。



『鬼とヤローと鮫しかおらんではないかー!女子はどうしたのだ女子はー!』



メドーサに言われた雑魚の露払いを繰り返すうちに、外縁部まで進んでいた。
横島くんとはいえ体は大悪魔のスペア、エンジンに宇宙処理装置を積んでいる。
ガンダリウム合金は実際には単なるハリボテだが、兵卒鬼ならば十分戦えるのだ。



「落ち着きなさい横島クン2号。そんなデカイなりで女の子見つけてどうするの?」

『この素敵かっこいいスーパー横島に素敵抱いて状態のところで、こう、むちゅーっと!』



セルフ抱きしめ状態、つまり自分の腕で抱き合っている振りをして腰をくねらす巨大横島。
寸分違わぬコピー品の横島っぷりに呆れて腰に両手を当てている、元雇い主の最高GS。
後方支援を決め込んでいた彼女だったが、おキヌちゃんの涙のお願いに勝てなかった。
運良く迷い込んできた巨大横島を発見、リスキーながら美神事務所組だけ突入した。

そこで電球マークが頭の上に浮かぶと、邪悪を込めた笑みで横島のくるぶしをノックする。



『な、なんスか美神さん!今ちょうど美女が俺の元に殺到して重力場が乱れる所なのに!』

「ブラックホールできたら女の子死んじゃうでしょ。それよりさ、ちょっと耳貸して。」



人間とフィギュア以下の身長差ながら、器用に美神に耳を寄せる横島くん。
邪悪な表情を一切隠そうとせず、そのまま小声で耳打ちする元雇い主。
スーパー横島たる2号は、驚いた様な表情で美神の顔を見つめる。



『本物裏切って俺が美神事務所に戻るんスか?!』

「声がでかい!でもさ、この後のこと考えないとでしょ。」

『た、確かに、俺のことだし、偽者は邪魔だとか言いかねんしなー。』

「でしょー?メドーサの代わりとか自分で言いたかないけど、手を打たない?」



横島くん2号には魔界の超技術によって、記憶まで含めた頭脳が積載されている。
美神事務所での記憶が多いのとは裏腹にメドヨコ事務所の記憶はかなり少ないのだ。
それはシルクワーム交尾作戦用に調整されているせい。2号には裏の意図があるのだ。

横島がシルクワームになびかなかった場合、暗殺して本物とすりかわるという意図が。



「おキヌちゃんも私も、結構いい女だと思うけど?どう?」

「そりゃあ知ってますが、その、グビビ、どう、とは……」

「言わないでも判るでしょ。しょうがない、もう一度よ。」



今度は細かく指示もせずに阿吽の呼吸で身を屈めて耳を寄せる横島2号。
少し赤面しながら、ボショボショと言葉を吹き込んでいく美神令子。
言い終わると、耳たぶを張り手で思いっきり叩き終了を伝える。



『ま、マジっスか?!そんな事まで二人でしてくれちゃうんですか!』

「その前に多少障害があるんだけどね。でもまぁ何とかなるでしょ。」

『やべえ、広場にいる場合じゃねえし!いますぐ劇場に戻らねーと!』

「何言ってるの、ここ山じゃない。広場も劇場もなーんにも無いわ。」



彼の言う広場と劇場が何を指しているかは割愛する。
所謂わかる人だけがわかる、という隠語であるとしておく。
ともかく、スーパー横島は創造主の意図にニアミスして陥落した。



「美神さん、私、どっちの横島さんも欲しいんですけど……」

「おキヌちゃん意外と強欲なのね。ま、判らなくもないけどさ。」



ともあれ、最大(物理的に)の戦力である横島2号を手に入れた美神事務所であった。








一方、メドーサが戦っている足元の地上では。



「……んぅ、えほっ……」



ソフトボール大の透明な玉が転がっていた。
それは苦しみぬいていた大竜姫の眼前であった。
一人悦に入る大竜姫とは裏腹に、沈痛な面持ちなのは妹。



「可愛い赤ちゃん出てくるんだって思って綺麗なタオルとお湯と盥も用意したのに。」

「武器を出すと言ったでしょう。これは碧珠。気の遠くなるほど貯めた霊力結晶です。」

「その割には小さいですね。御姉様ほどの神格なら西瓜みたいのが出てきそうですけど。」

「う、まぁ、それは……とにかく!竜姫の名に相応しい相手が現れるまで子は生しません!」

「そーいうの人間の間だと『行かず後家』っていうんですよ。かくいう私も未経験ですけど。」



小竜姫は期待していたがいくらなんでも戦場で出産など言語道断である。
危険だし不衛生だし、無事だとしても将来トラウマにだってなりかねない。
更にそんなどこぞのインカ皇帝の名前みたいな描写が広場で出来る筈もない。



「どんな得物にしましょう。地刹の白蛇に感謝の言葉くらい頂きたいものですけど。」

「武芸百般なんでもござれだと思いまけど、おねーさまには、やっぱりアレですかね。」

「芸がない気もしますが長らく使いこんでいることですし……もしや拘りがあるとか……」

「ありえますよ!『左右のバランスが悪い』とか!『重心が一寸低過ぎる気がする』とか!」

「確か私の兵器省時代のメモに刺叉のレシピが有った気が……小竜姫、貴女もお探しなさい!」

「だぁぁぁぁぁぁ!殴れりゃこのさい棒でもいいから!ふざけてないでサッサと作りなよ馬鹿!」



業を煮やしたメドーサから必死のツッコミが竜神姉妹に降り注ぐ。
横島少年のおかげで調子が良いとはいえ、苦戦は依然変わらないのだ。
急いで文珠に息を吹きかける姉竜。すると中に『具』の文字が浮かび、そして。



「出来ましたわメドーサ!太上老君ほどで無いにしても霊格ならば相手に勝ります!」



出来上がった武具は第七席の細い腕から勢いよく弾き出され、上空の女竜神に届いた。
横島を守りながら、そして八戒の猛攻をいなしつつ、器用に出来上がった得物を手に持つ。
若干飛び退り、縦横にブンブンと音を立てて振り回し、そして最後にピタリと構えて見得を切る。



「で、刺叉なんだ。芸が無いというか。あと重心がいつもより一寸高過ぎる気が……」

「あはは、やっぱりとゆーか何とゆーか、刺叉に拘りがありまくりましたね御姉様。」

「やはりお返しなさいメドーサ!もう一度作り直します!ほんの一刻で済みますよ!」



気丈な振る舞いを見せる大竜姫であったが、その額には玉のような汗が未だ滴っている。
戦闘中であり一瞥しかしていないメドーサであったが、その情報を見逃してはいなかった。
八戒の伝説級の神具の猛攻を受け取ったばかりの武具で何合か往なすと、再び見得を切った。



「ま、今後長い付き合いになりそうだから使いながら覚えるさ。すまないね大竜姫。」



メドーサは初めて、大竜姫にストレートな笑顔を見せた。嘲笑ではなく、苦笑でもなく。
それが証拠に当の大竜姫は愕くほど狼狽していた。もちろん彼女は非生産的な嗜好ではない。
だが、自分の蟠りの象徴たる碧珠が相手の手に渡り、感謝された。そこには大きな意味があった。

投獄された恨みを溜めた純粋な思念の玉。それはいつしか自分を絡め捕る鎖になっていたのだと気づく。
その縛鎖が砕けた。彼女の魂が、幾千年ぶりに解放された。そして歓喜の声を上げているのがわかった。

浮かんだ笑みはもう隠せない。隠そうとする方が馬鹿らしいのだと全身の霊基構造が叫んでいる。





「メドーサ、いささか疲れました。後は天上天下の為に身を粉にして働きなさい。」

「ま、こいつがあれば大丈夫ってもんさ!最高傑作は刺叉だって自慢するといいよ!」

「でも御姉様、どうも座って観戦するって訳にいかないみたいですけど、どうします?」

「どうもこうもありません。戦闘種族たる竜神に弓を引く事の意味を教えてあげなさい。」



斉天大聖の援軍後に一旦は引き気味だった反乱軍の軍勢だったが、また集まり始めていた。
だが、解き放たれた竜に敵う程の兵がいか程いようか。しかも竜王の後継者候補の一角だ。
整った顔に浮かべる笑顔とは裏腹に、妹竜の攻撃には情け容赦がない。正に、相手が悪い。

精神的に高揚している大竜姫も参戦したいところなのだが、霊力がほとんど残っていない。





では、なぜ反乱軍はまた集まり始めたのか。

それはもちろん七光りの馬鹿指揮官ことメルクリウス閣下のせいだ。
彼は元々商売の神様で、軍籍も箔をつける程度でしか考えていない。
そして兵隊さえ動かせば各自が頑張って戦果は転がり込むと考える。



「あの猿、俺じゃ無理だとか言いやがって!ラッキーで席取りに勝てただけの癖に!」

「言葉を慎みなされ。天界の頂点は伊達や酔狂で得られる地位ではありませぬぞ。」

「だけど父上は肩書きは下でもコネは天界一だからな!さすがは俺の父上だぜ!」



本来なら増援軍の指揮をとるべきは斉天大聖。しかし出兵に根回しが必要だった。
天界軍でも予備役に近い5万でせいぜい、しかも条件付。その条件がこれだ。
実力者の息子に指揮を取らせる。目くらましでも兵力は必要と、折れた。

だが斉天大聖でも知らない事はあった。息子とやらがこれほど暗愚とは。
乙姫中将がソロバン屋と揶揄し軍籍から追い出すほど激怒したのも当然であった。




「メルクリウス閣下!敵兵は最新装備の友軍ですぞ!きちんと指揮をなさいませ!」

「僕のことは上級大将と呼べと言ったろ?今はまだ少将だけど、戦果を挙げれば……」

「ではせめて前線に顔をお出しくだされ!当軍は数でも装備でも劣勢、士気だけでも!」

「うるさいぞ、父上の頼みで仕方なく連れてきてやってるのに。僕は結果がほしいんだ。」



参謀には無名ながらも戦上手と覚えの高い古い老将が鎮座している。しかし表情は渋い。
商売の神として信仰ばかりが膨れ上がった、本来戦場とは無縁な神様が総大将なのだ。
用兵も杜撰なもの、右に行け、左に行け、理由を聞けば『なんとなく』というだけ。
天才的な勘でもあれば別だが、ことごとくが裏目。当然だが事態は悪化の一途だ。



「申し上げます!敵陣中央に六枚羽の天使を発見!恐らく敵将かと!」

「たわけ、その様に判りやすい者がやすやすと幕内から出るか!」

「そいつだジジイ!僕の勘がそう言ってる!全軍突撃だー!」



先ほどまで出ろよと言っても出なかったのに、諌めるより早く閣下は動いた。
下士官は忠実に命令を全軍に伝え、その熱が伝播する。もう、止められない。
劣勢とはいえ全軍が一気に殺到した故か、敵は不思議と割れるように避けた。



「ええい、もはや馬鹿には付き合いきれん!勝手に死ぬがいい!」



老将は去り、無能な最高指揮官たる少将と下士官と兵だけが残った。
しかし、メルクリウス閣下は高揚していた。もう戦後処理しか頭にない。
大歓声に包まれる自分。口々に称賛される自分。12席に座っている自分……



「見ろ、ずいぶんと不細工な六枚羽じゃないか!首を獲ったものは褒美をやるぞ!」

「ブサイクとはゆうてくれるやないかバカボンが!小鳩、ナハト砲、発射や!」

「――――――――――――――――――――――――――――――!」



彼女のスピーカーはすでに切られていた。しかし何かを必死に叫んでいた。
首を横に何度も振り、ぐずる子供のように泣きながら拒否を訴えていた。
しかし、創造主の命令に遂に屈する。首が固定され、口が大きく開く。


割れた反乱兵から20センチほどの隙間を残し強烈な光の筋が埋め尽くされる。
ナハト砲。単純な霊波攻撃である。単なる威力が高いだけの芸のない攻撃だ。
しかし威力をもろに受ける兵は消し飛び、数瞬後には少将も吹き飛んだ。



「おーおー、あんまり計算通りすぎて気味悪いで。罠ちゃうやろな。」



味方の被害はゼロ、そして敵は壊滅。辺りには一兵卒たりとも残っていなかった。
骸と化した鬼兵神兵を踏みしめながら、ときおり残骸を掬い上げて感触を確かめる。
戦道具における第一人者である偽貧乏神には馴染みのある感触。決して偽物ではない。

デコイ、すなわちダミーの兵隊で撹乱するための策を弄されていない事は確実だった。



「――僕が―――僕が――――僕の――――。」



消し飛んだ少将閣下の頭だけが言葉を発し続けている。
つまらなそうに傍に寄ると、貧乏神は騒音の元を爪先で蹴る。
そこで騒乱の主は研究者の顔に戻る。首元に竜神文字を見つけたからだ。



「なんやこいつ、偽造神族やないか。偉い奴は戦争ごときじゃ死にとうないんやな。」



無論、兵士全員に偽造神族が作れれば事実上戦死者はゼロに出来る。しかしそれはしない。
原因はコストだ。雑兵に掛ける経費にしては偽造神族は高価すぎるのだ。いわば命の価値。
命は権力で買えるというわけだ。だからこそ神族倫理法違反という法令も出来るのである。



「周りで炭化している御仲間は報われんのう。ま、これも浮世っちゅうやつや。」



ビンスは特に感慨も持たず、死体を踏みしめながら歩数で数を把握していく。
かなりの歩数を数えたところで止まる。その先は死体はなかったからだ。
首を数度横に揺らし、目を閉じて、やがて表情も変えずに踵を返す。





「4万か。これが増援ちゅうやつなら拍子抜けや。ホンマ世界征服したろか?」

「ハッ!本音が出たねビンス!だけどね、そうは問屋がおろしやしないよ!」



ビンス・マクマホンJrが小さな頭に乗った大きなソンブレロをヒョイと持ち上げる。
そこには馴染みの顔。池袋の雑学大賢者にしてザンス救国の英雄、横島忠夫。そして……



「ええ加減しつっこいでメドーサ!仲間がおらんなら時間の無駄や!いね!」

「同期の誼だ、最後にチャンスをやる。反省して縄につけば殺しやしない。」

「だから無駄やてゆうとるんや!それとも何か?も一度援軍でも来るんか?」



メドーサは左手の指を蠢かす。大事な『手』がそこにある。そして暖かい。
名残惜しそうに親指で感触を確かめると、不意に離し、上から手甲を掴む。
そして彼女はおもむろに自分の空いていたもう片方の胸を横島に掴ませた。

そう、数百合の激闘を経てもなお横島くんはメドーサの片乳を離さなかったのだ。



「この横島が最後の切り札さ!こいつがアタシの乳を掴んでれば、絶対勝つ!!!」



未来に絶対は無いというのが彼女の持論。
未来は常に流動的だとメドーサは信じる。
だが、それでもなお絶対と言い放つ根拠。



「それって本当なんかメドーサ?!」

「なわけないだろ。ハッタリだよ。」



ハッタリだった。






つづく。


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