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GSメドヨコ従属大作戦!!

結界突破作戦


投稿者名:まじょきち
投稿日時:14/ 9/ 5



虚無という概念がある。
全てが無である状態だ。

虚無が存在するとなると虚無と以外の境目が存在する事になる。
境目が有る限り、その接点の大きさ以上が虚無の大きさとなる。
つまり何も無いはずの虚無とは接点以上無限大以下の大きさだ。
例え不確定でも大きさが存在する時点で虚無は成立しなくなる。
つまり虚無は有り得ない。有り得ないがゆえに虚無なのである。

虚無は虚無以外が存在し始めた時点で消えたと言う事も出来る。
虚無は虚無以外何も無い時点でのもので比較が発生し消えたと。

それと同じで、完璧や絶対も無限可能性内の分岐で否定される。
ただし、結果のみを見て現在まで完璧を主張することは出来る。



「絶対なんてのは有り得ないさ。完璧と思っててもね。」

「逃れてみい。『絶対』無理や。『完璧』ワイが勝つ。」



果たしてこの完璧と絶対はどうだろう?
未来の可能性を見る、女竜神の否定か。
過去の確定性を見る、貧乏神の肯定か。







「かー、千客万来やな。おもた以上に天界の動きがええのう。」



そう口に出して、上を見上げる貧乏神。
やはり物語とは未来へと進むのである。

メドーサと姫竜神姉妹の頭上の空にヒビが入り、砕けた。
天界が誇る最新の結界が外圧により負けた瞬間であった。
その破口より、数十メートルはあろう亀の甲羅が現れた。



『トラトラトラ我奇襲ニ成功セリ!メドーサ、待たせちゃった?』

「遅いじゃないか乙姫!あんた確か即応待機中だったはずだろ!」



結界の割れ目より亀に続いて次々と鮫が敷地に乱入してくる。
無論本当の鮫ではない。天界水軍鮫型異空間哨戒艇の部隊だ。
そして亀もまた本物の亀ではない。天界水兵隊強襲揚陸艦だ。



『すみませんなメドーサ殿。結界突破の為には『溜め』が必要でしてな。』

「あんたが謝る必要は無いさドンガメ。遅刻の原因は乙姫の男遊びだろ?」

『さすがは旧友ですな。そこまでご存知なら私から言う事はありません。』

『ちょ、ちょっとドンガメ!そこは主人のあたしをかばいなさいっての!』



鮫型戦闘艇がメドーサの周囲の神兵鬼兵に突入し周囲は戦場と化した。
鮫の顎が開き破壊光線が兵に降り注ぐ。兵も手に持つ兵器で応戦する。
女竜神3柱は、その混乱に乗じてドンガメたる強襲上陸艦に向かった。



「なるほどのう。メドーサ、貴様の切り札は乙姫ちゅうワケかい。」



飛び去る3柱を特に追いもせず、彼もまた表情も変えずに飛び去った。
その先は無論、彼の切り札である偽造天使の浮かぶ妙神山の中心部だ。
そして混乱していた神軍の動きが一気に変わり、戦場は混濁し始める。
















そしてドンガメ内。
危機を脱した3柱と竜宮城司令が対面していた。
姉竜を視界に入れてから乙姫は直立不動である。



「こ、これは関帝閣下!メドーサ、あんたなんで第七席と一緒なのよ!?」

「えーと、話せば長いんだけどねえ。小竜姫、あんた説明してやりなよ。」

「はい、メドーサは私のねーさまで、大竜姫閣下は私の御姉様なんです。」

「……はぁ。メドーサ、やっぱりあんたが説明しないと全然判らないわ。」

「ええと、大竜姫とあたしは、うーん、昔ちょっとした縁があってね……」



そこで大竜姫がメドーサと乙姫の間に割って入り、左手で鼻の頭を2度触った。
そして左手で耳を触ったり髪をなでたりする。無論、どこかが痒い訳ではない。
これは古い竜神族だけが知る由緒正しいサインで会話も可能だという優れ物だ。
今のは(これからブロックサインで会話を始めるぞ)という意味を持っていた。



「私が話しましょう。……メドーサは小竜姫と私を助けてくれたのです。」

「やるわねメドーサ、閣下との縁なんて滅多に持てるもんじゃないわよ!」



語りながらも大竜姫の左手は、せわしなく胸の先を撫でたり唇に触れたりする。
メドーサは神妙にそれを聞いている顔をしながらも、左手で肩に触れたりする。

因みに大竜姫とメドーサに送ったサインもキチンと意味を持っていた。
(つまんねえ事ばらしたらぶっ殺す。特に小竜姫ちゃん悲しませたら)
(いいかげん妹離れしたほうがいいよアンタ。お姫様ウザがってるよ)
そんな意味が、それぞれのサインには込められていた。



「ま、まあね。あたしもホラ、大竜姫閣下は常日頃尊敬してるからね。」



そこまで言うと今度はメドーサが左手を左右に動かし、大竜姫に何かを送った。
その表情は神妙で、まるで崇拝しているかの様な表情で大竜姫を見つめていた。



「昔から天界太平の為を思い良く働いていた事、私は高く評価してましたよ。」

(なわけねーだろ!てめえなんざ地球が割れても出世なんかさせねえ!)

「もったいないお言葉ですわ。このメドーサ、益々お慕いしたくなりました。」

(あんたはあの時に御死体にしとけば良かったって今でも思ってるさ!)

「この大竜姫、天界の為に働いてるに過ぎません。官吏の貴女と同じ様にね。」

(同じなワケねえだろ馬鹿!無量大数倍優れてるに決まってるだろが!)



互いに社交的な笑みを浮かべて語り合う大竜姫とメドーサ。
しかし交換されているシグナルはその表情とは間逆である。



「それにしてもいいお天気ですねメドーサ。」

(だいたいなんでテメエはビンスの味方してたんだ!この馬鹿ヘビ!)

「ああ、本当にいい天気だねえ。まったく。」

(好きで味方したんじゃないっての!服従機には逆らえないんだよ!)

「本当にいいお天気ですわね、御姉様がた。」

(ビンスさんって竜神姿イケメンですよね。どっちか良い仲でした?)

「この天気は、週末まで続くみたいですよ。」

(メドーサって女子には人気有ったけど男っ気ゼロよ小竜姫ちゃん。)

「そのようだね。湿度もなくて丁度いいね。」

(あたしは優等生だったからね。大竜姫はビンスにコマされただろ?)

「まぁお肌のお手入れ的には湿度も重要ね。」

(竜姫の名にかけて下級貴族に肌なんか許すか!常識で考えろクズ!)

「もうすぐ夏ですし、無駄毛のお手入れも。」

(でもビンスって学校じゃMMKだったのはホントよ小竜姫ちゃん。)

「私も思い切って大胆な水着、買おうかな?」

(ビンスさんがMMKですか?MMKってそもそもなんなんですか?)

「いや、小竜姫は控え目の方が映えるかね。」

(MMKってのはね、兵卒の隠語で『モテてモテて困る』の略だよ。)

「それは私もメドーサさんに同意しますわ。」

(それでメドーサ、糞虫ビンスの偽造天使はどう攻略するつもりだ?)

「今度みんなでさ竜宮城に泳ぎに行こうか?」

(偽造天使は戦闘用で組んでなさそうだし、やるなら急襲だろうね。)

「ならばこの乙姫が謹んで歓待しましょう。」

(でもビンス近接も馬鹿強いわよ?色仕掛けが効く相手でも無いし。)

「一緒に旅行って久しぶりですよね御姉様?」

(八戒さま達だって御姉様に匹敵しますし。ちょっと困りましたね。)

「ええ、確か640年359日ぶりですね。」

(中将、艦艇数は幾つだ?いざとなったら注意を引いてもらいたい。)

「お二人の良き思い出に残るよう務めます。」

(200弱です。しかも対地戦闘用ではありませんし厳しいですね。)

「異空間なら天気の心配が無いのはいいね。」

(大竜姫なら瞬間移動で天界に戻れないか?来れたなら帰れるだろ?)

「雨は無くても魔族は来るようですけどね。」

(飛翔申請済んでればな。残念だが席持ちも支配者じゃあねえんだ。)

「いたたた、閣下、それはご勘弁ください。」

(まず関帝閣下がお逃げください。そして、何とか応援を頼みます。)

「魔族なんざ、大竜姫には大した事ないさ。」

(ま、天界軍だけでも何とかしないと偽造天使に辿り着けないしね。)

「私、さっそく下界で水着買ってきますね!」

(でも、来た援軍がどんどんビンスさんの手下になっちゃいません?)

「気が早いわ小竜姫ちゃん、まだ夏は先よ?」

(確かに小竜姫ちゃんの言う通りだわ。指揮官が気付けばいいけど。)

「水着は姉が見繕いますよ。ご安心なさい。」

(安心なさい小竜姫、そこに関してはこの姉にいい考えがあります。)

「良い機会じゃないか、ここは甘えときな。」

(知ってるかい大竜姫?そういうのコンボイの浅知恵って言うのさ。)



ここで乙姫乗艦のドンガメ指揮所に館内放送が流れる。
声の主は旗艦本体、つまり乙姫の従者たるドンガメ氏。



『……あのー、皆さんで手話して何がしたいんですか?』

「「「「あ。」」」」



真っ赤になりながら両手を口に当て赤面する大竜姫。気が付いたのだ。
乙姫も古い竜神族。妹に暗号を教えたのが自分。メドーサも当然判る。
唯一違う所と言えば、喉の霊基を介さずに意思疎通が可能な点だけだ。

苦笑する乙姫、ニヤケるメドーサ、そして優しげに微笑みかける妹君。
三度ほど咳払いをすると、第七席の表情を取り戻し伝声管を手に取る。
先程の手話に結論は出ていない。しかし彼女は、その結論を発表する。



『中将麾下の全将兵よ、お聞きなさい。私は天界議員の大竜姫です。』



竜宮城所属になった異空間迎撃艦隊の全艦内に彼女の流麗な声が響く。
艦橋に陣取る指揮官、砲座で構える下士官、機関士などが耳を傾ける。



『対峙しているのは天界軍派遣部隊10万、友軍であり、精鋭です。』



食事をしていた将兵も、仮眠を取っていた鬼兵も立ち上がり、直立する。
議員と名乗りこそしているが、それを真に受け彼女の事を侮る兵は無い。
彼女は神の中の神、神族を束ねる頂点が一人、最高会議の席を持つ身だ。



『しかし奸賊に操られ賊軍と成りました。正義は我等に有るのです!』



将兵に歓声が沸き起こる。表情に浮かぶのは高揚と興奮と、そして安堵。
命令されるがまま動く機械が兵の理想であっても、やはり機械ではない。
中将の独走または謀反であれば、彼らは一気に正規兵から反乱兵となる。



『目前の敵を討ちなさい。容赦なく叩き伏せなさい。敵は賊軍です!』



艦艇の全て、そして艦艇内の至る所で歓声が沸き起こり続け止まらない。
もちろん彼女の計算である。どうすれば戦意が上がり士気が上がるのか。
そして上がりきった所で最後の通達を告げる。少しだけ不安がる内容だ。



『この大竜姫は援軍を呼びに一旦離れますが皆の奮起を信じています。』



だが歓声の勢いは止まらぬどころか、より大きくなる。これが激である。

感心して演説を眺める乙姫中将。憧憬の眼差しで実姉を眺める小竜姫。
その姉は、少しだけ伝声管を握ったまま数秒止まり、そして手を離す。
そして、メドーサはツカツカと歩み寄って、大竜姫から伝声管を奪う。



『あー、艦隊参謀のメドーサだ。今後の詳細をこれより伝える。』



眼を丸く見開き仇敵を見据える大竜姫。
小竜姫もやはり同様に驚きを隠せない。
旧友の乙姫だけ意地悪く微笑んでいる。



『展開している敵軍の中枢に閣下の兵もいる。諸君の知らぬ兵器も持っているだろう。
 個の突出は大勢に影響が出ないのが軍略の基礎だが、我等は寡兵であり敵は大軍だ。
 しかし敵にも弱みが有る。妙神山以外の兵站も本拠も持っていない、という一点だ。
 艦隊を3つに分け、敵を包囲し突出部を都度殲滅、可能な限りで持久戦を展開する。
 我らは天界に控える総勢30万の本隊を待てばいい。我らの本拠地は本国の天界だ。
 具体的には限りの有る呪術艦を中心とした陣を単位にし、消耗部隊は竜宮城へ帰還。
 可動艦艇を再編し投入を繰り返す事で戦線を維持。最大の味方は時間であるからだ。』




一息にそこまで喋り終えた艦隊参謀は、持っていた伝声管を手放した。
つまらなそうに数度あたまを掻き、大竜姫に歩み寄りその耳元で呟く。



「あんたを慕ってる奇特な子飼いなんだろ?……大事にしてやりな。」



そのまま一瞥もくれずにゆっくりと艦橋を後にするメドーサ。
悔しさと恥ずかしさを綯い交ぜにした表情で後を追う大竜姫。
そんな二人を楽しそうに眺めながら小竜姫もその場を去った。



『作戦は聞いての通りである。この乙姫の手駒として死ね、以上だ。』



そして旗艦には当然の事ながら竜宮司令官である乙姫のみが残った。
機械腕により支えられた椅子に深く腰掛けると、椅子が高く上がる。
そして竜宮の来賓室と同じ様に、ここも指揮所として機能するのだ。



「さてと、軍人と一般人の違いってのをお見せしちゃうわよビンス?」



手元のコントロール装置で彼女の目前の画面が次々と増えていく。
俯瞰での現在の陣形と敵の配置、そして周囲の艦艇のカメラ画像。
そんな数多くの画面の中から、小さく曳光する筋を見つけていた。



「たのんだわよメドーサ。あんたの活躍が流れを変えるんだからね。」



聖書級大崩壊も含めて、数多くの天界戦役に顔を出してきた乙姫。
古強者として天界の要所を任されてきた彼女にも、持論があった。
『用兵とは机上の戦いではない。そして戦場には必ず風が吹く。』
むせ返るような炎の匂いが染み付く戦場には想定外が起きるもの。
メドーサと同じく、乙姫中将も流れを肌で感じていた一人である。
そして信頼する旧友こそが、その流れを引き寄せると信じていた。

そして、ドンガメの甲板上では大竜姫と小竜姫、そしてメドーサが対峙していた。
姉は躊躇っていたが、妹に促されて首元から紐状の装飾品を外して、手に持った。
緑色瑪瑙に似た玉が連なった先には、大きな勾玉と思しき丸い宝石がついていた。



「これは委任状です、メドーサ。これを着けている限り貴女は私の御遣いです。」

「へえ、いいのかい?これ全権委任だろ。あたしゃ遠慮はしないタチだからね?」

「――――は――――けど、小竜姫が、――にどうしてもって言うから――――」

「あはは、伏せてる所が丸わかりだよ。判った、小竜姫の顔を立てるって事で。」



大竜姫の手にあるネックレスを、横殴りに近い形で奪い取るメドーサ。
なんら抵抗することも無く、大竜姫はされるがままに首飾りを手放す。
そして、白蛇を敵と見る姉竜は万年越しに成し得なかった偉業を行う。

ごく自然に、メドーサに微笑んだのだ。



「判ればよいのです。……それと生き残ったら、あとで酒盃でも奢りましょう。」

「なんだ、フラグには禁則が罹らないのかい。少しギアスが弱すぎたのかねえ。」

「ふふ、これは本心です。最近は重鎮すら若輩ばかりで少々愚痴りたいのです。」

「ナニ言ってるんだい、大竜姫はあたしより年下だろ。年寄りくさい事いうな。」

「須弥の存在だからこそですよ。我々は、並神ですら滅ぶ悠久の存在ですから。」



大竜姫は既に神の神として席を持っており、何か起きぬ限り永久の存在である。
メドーサもまた特異な存在として永遠を生きる、古き言い伝えを持つ蛇の神だ。
ネックレスを暫く見つめた後、素っ気無く首に掛け、そして飛び立っていった。








一方、世界の中心東京都豊島区池袋。
夜が明けて、辺りは大混乱となった。



『下がって!下がって下さい!この先は危険です!下がりなさい!』



駅より程近いビルの周囲には警官隊、機動隊、野次馬とが雲霞の如く湧き出していた。
中心部にはビルをはるかに越すほどの高さの巨大な高校生が呆然と立ちすくんでいた。
その周囲には報道機関のロゴを貼り付けたヘリコプタが、遠巻きに旋回を続けていた。



『皆さんご覧になれますでしょうか!?都心に程近い池袋に巨大な少年がいます!』

『内閣官邸よりアザブ総理を乗せた車が、現場に到着したとの情報が入りました!』

『官房長官談話によりますとこの少年が日本国籍である事が確認されたようです!』



包囲されている美神事務所の応接間でテレビを眺める集団。
美神令子、横島(本物)、おキヌ、アシュタロス、昆虫娘。
そして59代内閣総理大臣アザブ太郎、財務大臣中川酒一。



「おどれえたな、GSってのはもうちょっと静かに仕事をするもんだと思ってたぜ?」

「あのー美神さん?そーりだいじんが何故ここに?そんで何故俺は縛られてますか?」

「決まってるでしょ。交渉ってのは平和裏にやるものなの。そうよね?大悪魔閣下?」

「まぁ一般的にはそうであろうな。無論私が少し本気を出せば島国ごと滅ぼせるが。」

「そこがどうにも判らねえな悪魔さんよ。なんでコメリカじゃあなくウチとなんだ?」



総理大臣の手元の資料にはこうあった。

『日ア中立条約』

『ア』とはアシュタロスの事である。史上初めて個人との条約を結ぼうというのだ。
もっとも、大悪魔を個人と呼ぶべきなのかという問題はひとまず置いておくとして。
日本国が攻撃を仕掛けない限りアシュタロスも攻撃は仕掛けないという約束である。



「我々はそこの少年と少女が結ばれるまでの間、この島で活動がしたいのだ。」

「あ、そーですかい。……なあボウズ、おめえさんズイブンと大物なんだな。」

「いや、あの、み、美神さん!どう答えればいいんか判らん!なんとかして!」

「シャンとしなさい横島クン。……総理には超法規的判断を願いたいのです。」

「ザンス国王暗殺未遂の件なら向こうさんから取り下げてるぜ?その事だろ?」

「いえ、実は『妙神山』の件で、どうも神様が日本に攻めてきそうなんです。」



皆さん日本国の宰相たる内閣総理大臣とは誰が任命しているかご存知であろうか。
衆院議長?与党首班選挙?いえいえ、任命式は例の『やんごとなき御方』である。
国事行為の一環として任命をしている。そして、その御方は神道の宗主でもある。

日本の神秘的な秘密も任命の式に前後して秘密裏に伝えられる、と、しておこう。



「で、どうする?わりぃけど自衛隊は出せねえぜ。どうにも分が悪すぎらあ。」

「むしろ逆、『知らぬ存ぜぬ』を貫いて下さい。コメリカにもバチカンにも。」

「……お嬢さん、そりゃあ俺がどういう人間か知った上で言ってるんだよな?」



アザブ首相はクリスチャンとして有名である。洗礼名も持っている程だ。
その御仁にクリスチャンの総本山たるバチカンを欺けと言っているのだ。
クリスチャンにとってはバチカンは果てしなく重く、そして偉大である。



「承知の上です。評価の低い総理だろうと、何を優先するのかはご存知かと。」

「言うねえお嬢さん。ま、総理ってのは悪魔に魂売ってでもやるのが伝統だ。」

「おや、魂を売るかね?クリスチャンの魂なら査定も上がろうというもんだ。」

「馬鹿かおっさん?この人そーりだぞ!えれえんだぞ!売るわけねえだろが!」



身を乗り出して首相に近づく大悪魔。その顔のアップを受けて顔を背ける首相。
日本最大雑用権力者たる彼もその表情から真意を汲み取れない。相手は悪魔だ。
まじめに考えてるようなそぶりを見せつつ、擁護した少年に、彼は向き直った。



「そうでもねえぜボウズ?……そうだな、じゃあ政治生命だったら売れるかい?」

「ふむ、そんな生命があるとは初耳だ。ルシオラ、その生命の査定は出来るか?」

「セイジセイメイ、ですか……大目に見積もって今年の秋までくらいですかね。」



秋には衆議院選挙を控えている。衆議院が優勢の日本国では実質の国政選挙だ。
全能に近い悪魔に『お前ら次の選挙で負けるんだ』と、宣告されたことになる。
額に指を当てて頭を垂れる財務大臣。しかし首班である総理は、笑顔であった。



「そうか、聞いたかシューちゃん。秋まで大丈夫だと。解散はギリまで待つか。」

「元からそのおつもりでしょ。しかし国家の大事を悪魔の宣託に任せるとは……」

「では総理、日本政府は神々の争いに関わらないということで宜しいんですね?」

「わかったぜお嬢さん。だが、国民が犠牲になる事態にゃ自衛隊は動くからな。」



国家の運営には最低条件が幾つかある。その一つが国民の安全の確保である。
首相が言っている事は当たり前すぎて、財務大臣は呆れ顔をしているばかり。
しかし悪魔たちと国民である少年少女は少々感心しているようだ。美神以外。



「で、表のボウズのデカブツ、あれどうすんだ?もう隠せるレベルじゃねえぞ。」

「お台場のモビルスーツの中の人ということに。なんなら本当に着せていいし。」

「ちょ、勝手に俺の二号を中の人扱いとか!だいたいそんなん通る訳ないって!」



では、実際にどうなったかというと。



『●ンダムが動いております!中の人などは断じておりません!●ンダムです!』

『なおこの放送は、日本●ンライズ、ナ●コ、カ●コンの提供でお送りします!』



通っていった。日本国では放送の提供枠を取ることは神となるに同意なのである。
ちなみに自衛隊の未来戦略であるモビルスーツ開発は、この時点で完遂とされた。







妙神山では過酷な戦闘が繰り広げられていた。結界は解かれており乱戦模様である。
その施設の中心には多数の羽根を背に負った少女と、小さなソンブレロの男がいる。
さらにそれを取り囲むように槍鎧の豪奢な神族と、筋骨隆々の男、髭とコートの男。



「小賢しいやんか乙姫、伊達に歳はとっとらんちゅう訳か。……状況はどうや?」

「……現在当方の損害は一割を超えましたが、敵も同様。しかし陣が悪いです。」

「包囲戦は分が悪いっちゅうのは承知やろな。しっかし目障りやなーメドーサ。」



ビンスがどうやら神軍の司令官らしき男と並んで立ち、空を見上げながら話し込む。
本来なら本国の議員以外には敬語を使わぬはずの神軍司令官だが、まるで下士官だ。
もちろん理由はナハトの服従装置への介入によるものだ。その為に言葉が遅く出る。



「ブタ、カッパ、メドーサの相手を頼むで。殺せへんでも装置さえ壊せばええ。」



神格的に天界大将級である沙悟浄と猪八戒にも命令口調。こちらも無論同様である。
彼らは昔に大罪を犯しており神格に似つかわしくない服従装置を埋め込まれている。
元は同様だった斉天大聖だが、現在は罪が許され服従用のヘアアクセサリーは無い。



「……び……貧ちゃ…………も………………や……………………て………………」



もはや親は子のスピーカーを気にしてもいなかった。

『装置』。貧乏神ことビンスが言った『装置』とは。
それはメドーサの胸元に掛かったネックレスを指す。
大竜姫の神気と委任権限を受けた実質上のバリアー。



「あはははははは!来い来い!死にに来い!今日のあたしは機嫌がいいからね!」



これで実質上、大竜姫と同等の権限を持つ代行者となっていた。

命令する事は大竜姫同様できないが、命令される事は無いのだ。
射抜く眼光も裂帛の気合も動きのキレも雑兵とは段違いである。
古い兵がいたら思い出したのかもしれない。彼女の往年の姿を。



「弱い奴らは相手になんないから下がってな!このメドーサ様に平伏すんだよ!」



刺叉をひとたび振るえば、敵兵が扇状に無残に横たわっていく。
髪から飛び出す大蛇が襲い掛かる度に、不気味な石像が増える。
豊満な胸が揺らめき、脂の乗った腰が捻られる度に、敵が減る。



「これだよ!これが戦いさ!どんどんきなヒヨコども!あたしが教育してやる!」



凶悪な目つきと凶悪な体つき、そして凶悪な気迫と凶悪な大声。
しかし彼女の楽しそうな表情が一変する。無双は終わったのだ。
再び敵として立ちはだかるニ柱。斉天大聖たる猿の双璧の部下。



「恨み言は言わないよ。服従装置は絶対だからね。でも、恨み言も聞かないよ。」

「「……」」

「わかっちゃいたけどさ、返事がないってのは寂しいね。ま、しょうがないか。」



メドーサは状況を確認する。自分には出る間際に渡された大竜姫の首飾りがある。
これでかなりの下駄を履けている。しかし目の前の神族の合計にはかなり不足だ。
だがこれ以上の秘策はもう無い。実力本位の自分の最大の弱点、劣勢には不得手。



「結局また一人か。……こんな時に、仲間がいればねぇ。」



彼女は刺叉を握る手を見る。そして、その手の中に有るべき温度を探してしまう。
そして、その温度の持ち主を、そして、その持ち主の顔を、そして、その笑顔を。

そして『メドーサ』は『横島忠夫』を求める自分に気がついた。



「……さて!やるべきまだまだ仕事はあるんだ!プロってのを、教えてやるよ!」



裂帛の気合が再びほとばしる。
その体には光輝が満ち始める。
だがその表情は、曇っていた。














日本GS協会。GSという商売の互助会から発足した。元々は小さな会合である。
だがGS商売がオカルト分野においては独占である事から、その会は大きくなる。
公正を旗印にしながら発言力は決して小さくない。そのトップなら、なおさらだ。

緊急事態に際し出向であった現会長は現場から退き、その指揮を副会長が取った。
急遽副会長に就任した日本GS協会の実質の指導者である、唐巣和宏神父である。



「あー、はろーはろー、はろーわーるど。ふぁいんせんきゅー、えっと……」

「大丈夫ですよ。日本語の訓練もうけておりますから、どうぞご心配なく。」

「よかった、では早速本題に入りましょう。なんで米軍が我々と会おうと?」

「隠し立ては不要ですMr.唐巣。マウントミョージンの件は聞いてます。」



日本GS協会本部でも実は妙神山の異変について、ほとんど情報がなかった。
というのも、妙神山の担当は日本最大の個人GS、美神令子事務所だからだ。
その美神令子が今のところトラブル続きであり、つまり情報はないに等しい。
先日の大好きメール以外は唐巣本人も、全くと言って良いほど知らないのだ。



「買い被ってるようですが我々には情報がない。来る場所を間違えたのでは?」

「わがステーツではネイティブインディアンの遺跡の破壊が確認されました。」

「それは日本でも同様の事案が起きてるので知ってますが。その情報ですか?」

「魔族の侵攻に見せかけた神族の侵入、その際我々はどうするべきでしょう。」

「ははっ、それこそ杞憂です。神は全てを愛し世界は神により作られてます。」

「クリスチャンらしい回答です。我々もそう信じたい。しかし現実は非情だ。」



唐巣は目の前にいる将官に灰皿を差し出した。それを受け取った将軍は卓に置く。
そして胸元から取り出したケースを開けて、葉巻を咥え、その先をねじり切った。
数秒後には会談の席に、葉巻特有の少し甘い香りがする煙が立ち込め始めていた。



「大統領は神に宣誓するし議会だってその筈です。貴方の台詞は問題ですよ?」

「我々軍人は、何があっても合衆国を最優先する。相手が神であろうともね。」

「あーもう!ぶっちゃけますが、何が言いたいのか先に言ってくれませんか?」

「ミョージンの件で何かあれば我々は出動するとミス美神にお伝えください。」

「や、やっぱり、また美神君か……このままじゃ本気で髪が無くなりそうだ。」

「髪ならご心配なく。我々が開発した超毛生え薬『ハエール君』があります。」



目を輝かせた唐巣神父が、葉巻を咥える将軍の手をそっと両手で包んだ。
その初めて耳にする蟲惑的な響きの薬に彼の心は一気に揺り動かされた。
唐巣和宏45歳、横島くんと同様に将来の毛髪に死刑宣告を受けた男だ。



「うはははは!神は我々に中性子爆弾とバンカーバスターを与えたもーた!」

「あ、いや、いきなりそこまでやるつもりは流石の我々も無いのですが……」

「ご謙遜されずとも結構!劣化ウランでもテルミット弾でもドンとこいだ!」

「さ、さすがはミス美神の教導担当たるお人だ。非常によく似ておられる。」

「いやー、それほどでも!ところでハエール君はいつ?あしたにでも是非!」



こうして権謀術数が渦巻く(?)会談は、秘密裏に終了をした。
日本GS協会は妙神山の神族への攻撃を認可、米軍と協調した。

幾多の勢力が入り乱れていき、幾重にも情報が錯綜していく。
メドーサさんと横島くんの物語はあらぬ方向へと進んでいく。

この物語は一体全体どうなってしまうのか、乞うご期待。






つづく。


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