椎名作品二次創作小説投稿広場


GSメドヨコ従属大作戦!!

婚礼は憎しみ深く


投稿者名:まじょきち
投稿日時:12/ 7/23


魔界と聞くと皆さんはどのようなイメージを持たれるであろうか。
まかい、まかい、まかいかめんのブイス―――あぶないあぶない。
悪魔がいて魔物がいてなんだか凄そう、そういうイメージだろう。

では、実際の魔界を少し覗いてみることにしよう。



「安いよ安いよ!産地直送、とれたて人魂が、1マイトたったの980地獄円!」

「ねえおじさん、これ先月たしか800地獄円だったじゃない。また上げたの?」

「やだな奥さん、最近は不作でなかなか魂とれないのニュースで見てるでしょ?」

「わかってるんだけど、うち、下の息子が育ち盛りじゃない。何とかならない?」

「もうしょうがねえな!わかった、じゃあ2マイトで1900地獄円!どうよ!」

「買ったわ!ふふ、おじさんありがと!お礼に呪っちゃう!えーい、くたばれ!」

「よしてくれよ、嫁に見つかったらまた妬かれちまうからさ!またよろしくー!」



地獄新町2丁目にあるマイト屋の若旦那は二代目で、婿養子として入籍した。
お嫁さんは店には出ずに隣町のカルチャーセンターで詐術講座に通っている。
ただ、旦那が奥さんに惚れこんで婿に入った経緯があって、強くは言えない。
ちなみに一般の魔界魔族はアシュタロスの事などまったく知らされていない。

地獄新町2丁目に限らず、魔界全土では慢性的な魂不足がずっと続いている。
人界では魔族情報が出回っているせいで、魂の収穫が難しくなっているのだ。
そして魔界でもやはり不景気には鬱憤がたまるものでして、そうすると……



『ファウス党候補、ブラックデスモアに、汚泥にまみれた一票をお願いします!』

『魔界第一党の我らアンデッ党は皆様の暮らしを楽しく汚らしくしてみせます!』



権力基盤への鬱憤は容易く溜まってしまうものである。
そこで6年に一度の選挙がある。魔界にも魔界なりの秩序があり法もあるのだ。
まず選挙で議員が選出され、その議員が666人集まって悪魔議会を形成する。
悪魔議会では今度総当たりの殺し合いが始まって、生き残り一名が魔王に挑む。
魔王に勝つと次代の魔王になるという、極めて民主的な政治形態を持っていた。

現在『さ』のつく魔王が512回の防衛を果たしており前魔王は忘れられている。
そして流石に魔界中枢では、アシュタロス事件はそれなりには話題になっていた。



「アシュタロスのガキ、地上侵攻だとよ。けど負けるだろうけどなアイツじゃあよ。」

「でも結構地味なわりに鍛えてるらしいぜ?ああいう暗い奴って怒るとヤバイしな。」

「やべ、あれって『さっちゃん』のゲソついてる女じゃねえか?!モク消せよモク!」

「元老院の方々、そろそろ定例議会のお時間です。……あと、敷地は完全禁煙です。」

「秘書官悪魔サン、チューッス!俺らマジ吸ってませんっスよホント、なあアスモ?」

「そっスよ!えーと今日の集会ってなんでしたっけ?『バリバリ魔法兵鬼』の撮影?」

「バッカ、おめえ、それ先週だべ。今週は……えっと……プルトニウムのキメ方か?」



そりこみの入ったリーゼントに膝まである特攻服という出で立ちの集団。
カカトまで地面にべったり付けてしゃがむ例の難しい座り方をしている。
その横には曲がった角が生やし眼鏡をかけたスーツ姿の女性悪魔が立つ。
スーツ姿の女性は、こめかみに人差し指をあてて困惑の表情を浮かべる。



「お若いのは判りましたから早く議場へ。……ちなみに議題は第三次補正予算です。」

「そうじゃったのう。やれやれ、若いオナゴは年寄りをすぐに馬鹿にしよって困る。」

「だいいち、また最近さの字がサボっておるではないか。なぜワシらだけコキ使う。」

「魔王がサボるのは魔王の特権とおっしゃってました。悔しければ挑戦に来いとも。」

「挑戦はいいんじゃがのう、あの気の抜けた笑い顔が、どーもワシには苦手でのう。」



特攻服の若者たちは煙を発して、豪華な燕尾服の老人に変わる。
ぶつぶつと文句を言いながら老人たちが建物の中に戻っていく。
そう、魔族も大物になるに従って見た目は意味を持たなくなる。
先ほどのも暇を持てあました魔界貴族たちの戯れの一種なのだ。

ちなみに元老院とは選挙などをすっ飛ばした実力者が集まる集団だ。
すごく実力はあるが別に魔王になりたくない魔界の貴族たちである。
ちなみに貴族も世襲ではなく、勝負に勝つと襲名する仕組みである。

魔界とは、完璧な自由の地なのである。
過ごしやすいのかは、別の問題として。





そして魔界と対を成すのが天界。
こちらは魔界とは違って、現在の人間界に近い。
殺し合いは原則禁止であり、自由はあまりない。

そして天界を統べる最高決定機関が『天界最高会議』と呼ばれる。
議場机は円卓。12の席と『き』のつく神の指定席の合計13席。
一応の呼び名として第1席から第12席まであるが、権利は平等。
このSSの登場者としては、第4席に斉天大聖、第7席に大竜姫。

こちらは雑談ベースではなく議題として例の問題が挙がっている。



「本日の議長も私、大竜姫が務めさせて頂きます。まずは宣誓を。」



宣誓とは、『やっぱ会議で言ったことナシね』と言うのは禁止という内容だ。
記憶違いだろうと言い間違いだろうと悪意が在ろうと無かろうと、絶対ダメ。
ただし、後で状況が変化したときだけは多めに見てあげてもいい、ともある。



「アシュタロス問題ですが、裏は取れました。拠点破壊の首謀で間違いないそうです。」

「議長、アシュタロスは魔王級だとの情報もあるようですが、それについての続報は?」

「詳細については公安部局統括の斉天大聖殿がお詳しいでしょう。……発言をどうぞ。」



片手を少し上げるそぶりを見せながら、サル顔の老人が席から立ち上がる。
すると室内は暗転、丸く囲まれた席の中央にうっすらと光る板が出てくる。
そこには先日、斉天大聖と小竜姫が見ていた地上拠点の攻略映像が流れる。



「調査では現在動いているのは眷族と魔法兵鬼であり、そのものでは無いようですな。」

「なんと、眷族と魔法兵鬼のみに半数の拠点が落とされたのか。地上責任者は誰かね。」

「私が兼ねておりますが。……これは未確認情報ですが、手引きがあったようですな。」

「手引き、だと?魔族侵攻に人間がか?しかし、拠点結界を人間ごときが易々とは……」

「そう、ご存知の通り拠点結界は神族以外には鉄壁です。つまり、可能性としては……」



その時に円卓の席上のかなりの人数が、議長であり第7席の大竜姫を見据えていた。
彼女の実の妹が妙神山に配置され、かつ彼女に左遷されたのは公然の秘密だからだ。
そして『お家騒動』と報じた報道機関の数名が、ことごとく行方不明になった事も。
大竜姫を見ない残りの人数は、議場の端に立つ少女を見る。こちらは小竜姫本柱だ。
顔は知らないが噂は知ってる者が多数派、その様なところも人間界に良く似ている。



「もしも小竜姫のことを仰っているのならば見当違いも甚だしいですね、斉天大聖殿。」

「まさか!小竜姫はワシの直属、老いさらばえた身といえ気が付かぬ筈もありません。」

「では他に居るのですね?魔界に通じている裏切り者の神族とやらが。それは何処に?」

「どこか、としか判ってはおりません。現状ではこの席含め全員の神族が容疑者です。」

「天界神族だけでも800万は下らんぞ。その全てなどと馬鹿げているにも程がある!」

「ですが事実です。しかし手ぶらで会議の議題には上げません。此方をご覧ください。」



斉天大聖が手を上げると、部屋の隅にいた小竜姫が手元の資料を各席に配っていく。
大竜姫は妹に微笑みと手を振る仕草を送るが、無視され少しショゲてしまっている。
そして、愛妹に渡された資料に目を通し、その悲しげな表情は驚愕に変わっていく。



「凄い戦歴だな。この場でも斉天大聖殿と大竜姫殿以外戦場すら知らん者も多かろう。」

「この者の恩赦を頂きたい。現状において、人界で動ける最も有能な元公安職員です。」

「議長では在りますが発言させていただきます。この者、記憶では指名手配中ですが。」

「ですから特例の恩赦を議題に乗せているのです。それとも、大竜姫殿には他に案が?」

「そ、それは、し、しかし、法を曲げてまで通す程の事件でも……あ、いや、その……」



建前と本音、というものがある。例えば勤めている会社の社長がハゲでチビでデブでも
社長の前に言って『ビビデバビデブー!チビデハゲデブー!』と大声で喚く人は少ない。

たとえ人間の代わりの生命でも作るべきだと思ってても、それは公式の場では言わない。
それは、神族という存在が未だに人間界からの霊力により豊かさを享受しているからだ。
日本風に言えば『中東の奴ら気にくわねえ!石油使うのやめよう!』と発言する感じだ。
そんな個人的信条をおおっぴらに発言してしまえば、政治生命を一気に縮小しかねない。



「最近年のせいか耳が遠くて困りますな。大竜姫殿、アシュタロス事件は、法を……?」

「お、お聞き違えでしょう、斉天大聖殿。ですが、この者が仇を為さぬ保証はどこに。」

「この老いぼれの首と席を賭けましょう。発案は小竜姫ですが彼女は免じて頂きたい。」

「わ、判りました。それでは、決を採りましょう。賛成は赤い札を、反対は白い札を。」



それぞれの席には紅白の札が並べられている。
基本的には棄権はなしなのだが、そこは自由。
さまざまな重鎮の神が、その目前の札を持つ。



「賛成10、反対2、棄権1、よって本案は可決されました。斉天大聖殿、頼みましたぞ。」

「やったあ!これでねーさま放免ね!御姉様ありがと!大好き!やっぱり御姉様は味方ね!」

「こ、これ小竜姫、議長への進行妨害は最高会議法22条で、その、やめなさい!小竜姫!」

「はは、議題は終わりましたぞ大竜姫殿。姉妹の戯れに怒る御仁は此処にはおりますまい。」

「困り顔の大竜姫殿を拝めるとは、議会最大の成果かもしれんのう悟空殿。いや愉快愉快。」



大竜姫の出した札は赤だった。無論ここには権謀術数が幾重にも絡み合う。
しかし妹に首元で抱きつかれて、目尻の下がりきった表情からは伺えない。
分水嶺から流れ出した小さな川は、実の姉妹には良い効果を生んだようだ。










一方、実の姉妹ではない『ねーさま』はかなりの苦境に立たされていた。
アパートの陥落後に逃れた大使館内にて完全に足止めをされていたのだ。



「な、なんであたしがこんな目に!横島、ぼけっと突っ立ってないで助けなよ!」

「ほふぇ?!ふぁらひいふぁんへほーは!ふへーひあっへるふぉ!ふぉんほひ!」

「なにバクバク餌くってんのさ横島!あんたこういう時くらいは役に立ちなよ!」

「ナニを遠慮なさってるんでありマス?これは正式な式典に必要な服装デース!」



式典とは。
実はザンス大使館に逃げ込んだ際に、横島くんがメドーサさんの正体をばらしたのだ。

精霊信仰、特に自然物信仰を掲げるザンス王国では以前国教を作る際に問題が起きた。
施設を作ろうにも崇拝対象が曖昧すぎ、偶像も絵画もなんだか他教の真似になるのだ。
ザンス国王は『精霊っぽい神様が見つかるまでやめようか』と施設の建設中止を指示。
すると名所の建設に期待をしていた国民から大きな失望の声が上がってしまったのだ。
国王は遺跡から何か出てくるかなというつもりだったのだが、まさかの蛇神様ご降臨。




「ギャラはそれなりには出しますし、ネーミングライツも毎年出しますから、頼みますよ。」

「わ、わかった!わかったからせめてこのヒラヒラしたの着させるのを止めさせな大使!!」

「いえいえ、これはザンス国王一族に代々受け継がれる……くくく……伝統衣装でして……」

「あんたら揃いも揃って馬鹿ばっかりかー!どう見たってウェディングドレスじゃないか!」




そう、彼女はレースがこれでもかと付いた、極めて本格的な純白のドレスを身にまとっていた。
その頭上には宝石が散りばめられたティアラ、サテン生地のロンググローブもはめられている。
だが肝心かなめの例の白いベールが出てきた段階で彼女が気づいて、大揉めに揉めているのだ。
ここまで着てから気付くメドーサさんの例の社交界話も、本当にシャコタンなのかもしれない。



「新ろ……じゃなかった、英雄の準備は出来てますよ。いやーザンス王国にもとうとう神話が!」

「あーもう、わかった、逃げない、逃げないから横島と話だけさせてくれないか!頼むから!!」



お針子の女性陣が大使の方を確認し、メドーサの周囲から数歩下がる。
その隙に赤面した竜神様がスカートの裾を持ち上げて少年に近寄った。



「逃げるよ。」

「ちょ、おま、いきなり嘘かよ!」

「バーターにはちょっと条件がきつすぎるんだよ!」

「利用できるものは全部利用するって言い出したのメドーサだろ!」

「馬鹿だね!あんたこれ結婚式になるんだよ?!ちゃんと意味わかってるのかい?!」

「判るも何も、俺は結婚式これで3回目だぜ?つーかむしろメドーサが意味知らねえんじゃね?」



彼は全く嘘をついていない。ただし、前回二回は少々その正当性に疑問符が浮かぶ内容だったが。
その事を全く知らない竜神様は、不思議そうに自分を眺める横島少年をまじまじと見詰めていた。



「し、知ってるさ。知らないわけないだろ。あたしが何年神様やってるのか知ってるだろ?」

「じゃあ大丈夫ってことじゃん。メドーサも意地が悪いな、嫌がる真似してギャラ交渉か?」

「え?!…………あ、あのさ、本当に判ってるんだよね?その、結婚式って、何かってさ。」

「あったり前田のセサミハイツだぜ。ほれほれ、みんな待ってるぜ?行こうぜ、メドーサ。」



そう言いながら手を引く横島の感触に動揺するメドーサ。
そう、実は手を握ることが今までほとんどなかったのだ。

手のひらというのは空けておくべきものだと考えていた。
握っている物を離して別な物に握りかえると時間の無駄。
ならば、初めから持たなければいい。持たない方がいい。
手の中に入れていいものは、本当に大事なものだけだと。

そして握手という習慣は手を預けて敵意を否定するもの。
戦争と戦いと殺し合いとを繰り返す彼女の生活には無い。



「横島。」

「どったの?」

「手、あったかいんだね。」

「基礎体温が上がってんなら妊娠してみっかな!」

「勝手に卵でも産んでな馬鹿!……よし、女は度胸だ!いくよ横島!」



今度はメドーサが横島を追い越し、手を引いて庭に出る。
そこには3列だけ椅子が左右に並ぶ、せまいせまい会場。
そして教会風の荘厳なカキワリを背に王女と国王が立つ。



「で?神様のあたしに祝福でもしてくれるのかい?王女さんが。」

「救国の勇者と守護する竜神を祝福するのは、ザンス国民です。」

「おおー、豊島区の勇者から救国の勇者か!レベルアップだぜ!」

「別にあたしは横島の守護神じゃないんだけどね。まぁいいか。」



そこに台形の冠とザンス王国の紋章の入った貫頭衣のような服を着た大使が現れる。
これは基督教の司教冠と司教服をイメージしているらしいのだが、少し変えている。
横島くんは大使の前に立って、おもむろにその服を開いたり覗き込んだりし始める。



「???ナニやってるんだい横島。」

「花火でも仕込んでないかなーと。」

「伯爵ってガラでもないだろうに。」



小声で行われた非常にどうでもいいやりとりだったが、メドーサは少しだけ肩の力が抜けた。
にこやかに前を見る横島少年の横顔を見ながら、メドーサは大変な事実を発見してしまった。

まだ、自分と横島は手を握っている。

何をばかばかしいと、メドーサは手を離そうとする。しかし離れない。自分の手が動かない。
手の平からじんわりと広がる、横に立つ少年の体温が磁石のように手を引きつけて離さない。
剣と槍と刺叉をずっと握ってきた、ペンと紙とをずっと掴んできた、手が、命令を拒否する。



「救国の英雄でありザンス徒手格闘術師範、横島忠夫、汝は守護神を敬い愛すると誓いますか?」

「このひとチカ……あ、いや。誓います。」



本当はここで横島くんは握っていた手を上にあげて痴漢ネタのギャグをしようとした。
しかし、全く動かなかった。メドーサさんがその手をじっと見つめて呆けていたのだ。
そして動かそうにも地球でも握っているのかと思われるほど、物理的に動かなかった。



「無敵の竜神であり神代からの蛇神、メドーサ、汝はこの大英雄を守護し愛すると誓いますか?」

「…………」

「メドーサ、どした?乳がきつすぎるとか?」

「え?あ、ああ、ちょっと胸が苦しいかね。」

「まじか!大使、メドーサ吐いちゃうかも!」

「ええっ!?だ、大丈夫だよ!これくらい!」



参列していたザンス被服部隊の女性陣が席から立ち上がろうとするのを制する竜神。
二三度深呼吸を繰り返し、自らの頬を軽く両手で叩いて活を入れて、また手を握る。
そして、自分がごく自然に横島少年の手を握ったことに気づき、さらにおどろいた。



「あー、繰返しは式典の性質上あまりよろしくないので省略します。メドーサ殿、誓いますか?」

「………………あの、うん、誓うよ。」

「では勇者と守護神の輝かしい伝説の成就の為と、ついでに二人の愛の成就の為、指輪交換を。」

「ゆ、指輪?!サウロンに借りれば良いのかい?!」

「あ、それはこちらで用意しています。まずは大勇者横島、私に続いて誓いを立ててください。」



横島くんが大使による祝福と宣誓の台詞をオウム返しする。
メドーサさんは聞いているのかいないのか手ばかりを見る。
大使の咳払いで我に帰ると指輪を構える少年の姿に気づく。

ちなみにメドーサの利き手は現在おおよそ右手である。実戦ではどちらも使える。
ただ、彼女は書き物の数が多いため、右の多用が増えて、という理由があるのだ。
左側に立つメドーサの右手は横島の左手を握るのに忙しい。よって、左手が出る。
左手の人差し指で横島の構えてる指輪を指差す。



「横島、これって、あたしの分?」

「ま、まあ、メドーサの分かな。」

「それで、横島の分はどこだい?」

「横に置いてあるだろメドーサ。」



視線を少しずらすと、確かに台に乗った箱の中央に指輪が一個取り残されている。
彼女は不思議そうにその小さな指輪を摘まみ、リングの向こう側の横島を眺める。



「ああ、交換だったっけ。悪いね。」



横島くんの手の中から横殴りのように強奪するメドーサさん。
そして少年の手に向けて、彼のリングを親指で弾いて入れた。
まさに交換である。意味に間違いはない。式典での意味以外。
呆然と手の中に納まった指輪を眺める少年が、大使を向いた。



「あのさ、大使…………なんだかさ、すごくゴメン。」

「気にするな少年。今後ザンスの交換はコレでいく。」



ちなみにこの式典のカメラ撮影は今まで全く口を出していない国王の手により行われている。
SOMY製の特売ハイビジョンムービーがHDMI経由でPCに繋がれ、ザンスに生中継中。
本国TV局の編集部局は、急いでテロップに『ザンス式指輪交換が決定!』と入れていった。



「では、地球の救世主横島、宇宙の守護神メドーサ、誓いのキスを。」

「おっけー!ささ、良い子のみんなお待ちかねのキッスの時間だぜ!」



横島少年がメドーサの目前に半歩だけ寄る。そしてかなりの角度を見上げる。
さもありなん、彼女は装飾のついた白いウェディングシューズを穿いている。
そしてあのサテンパンプスは例外無く、かなり高いヒールがついているのだ。



「おーいメドーサ、頭を下げてくれー。」

「はあ?何であたしが横島に謝るのさ。」

「ちげーよ!キスするんだよ!キ・ス!」

「何で今なのさ。まぁ別にイイケドね。」



メドーサは横島少年の顎の付け根を左手で掴み、下にさげる。
すると小気味良い音がして横島くんの顎がカクンとハズれる。
痛みと仕打ちに彼は暴れるが、彼女の左手が逃亡を許さない。

彼女の左手の指先は横島くんの垂涎と涙にまみれ、シルク地の手袋から地肌が透けて見える程だ。
だが、メドーサは一切気にせずその手を更に持ち上げる。少年から上がる絶叫も全く無視をして。
そして横島少年は見る。絶望的に楽しそうなメドーサさんが先の割れた紅く長い舌を伸ばす姿を。
閉じられない横島少年の口とほぼ同じ大きさに開いたメドーサさんの唇が、斜めに被さっていく。



「お、王女!撮影を止めさせてください!流石にコレは刺激が強すぎます!」

「気にすることありまセーン!これからのザンスのキスはコレにしマース!」

「いけません!コレをフォーマルにしたら世界中から変態が押し寄せます!」



もはや宙に浮いてしまった横島くんのかかと。かろうじて先だけが着地している爪先。
彼の右手は弱々しくメドーサの左腕を何度か叩いていたが、やがて垂れ下がっていく。
なぜメドーサは以前は普通に(?)キスしていたのに今回に限って乱暴なキスなのか。
それは、パンプスにより身長差が大きくなったことと、片手で済まそうとしたせいだ。



「さすがの勇者も神には勝てないか……さて、守護神よ、後の世に伝える言葉を。」

「あんたらも、たいがい大馬鹿なんだけどさ、この横島が一番馬鹿なのかもねえ。」

「ま、まあ英雄という生物は知性派ではないのが通説ですが、何ゆえに一番かと?」

「あたしみたいな女と結婚しようなんて馬鹿は、2万年で、こいつだけだからね。」



雑草の生えた、決して広大とは呼べない庭の教会。青いビニールシートで作られた床。
パイプ椅子を並べただけの参列席。横にはカツオ計算機の自動演奏可能な電子ピアノ。
そしてカキワリの祭壇と奥行きとステンドグラス。本を積んで布で隠しただけの段差。

全てがいわば急ごしらえ。全てがいわば偽物。
しかし、段差に腰掛け、英雄を膝に乗せ、片手の指を絡ませ、微笑む女神は本物。
空いた左手をそっと横島くんの頭にのせて髪を梳く仕草は、ザンスで大流行した。

そうしたまったりとした時間がどれほど過ぎたであろうか。銀河英雄が目覚めた。



「おろ?!メドーサ、俺、寝てた?!」

「ああ、普通に爆睡してたよあんた。」、

「大使、そんじゃもう結婚式おわり?」

「つつがなくな。良い式であったわ。」



横島くんはメドーサの膝から身を起こすと、右手を上にあげて伸びをした。そして手は離れた。
立ち上がりに何度か腰を回すようなストレッチを行い、更にジャンプしたり脚を上げたりする。
起床時すぐにストレッチをするのは意見が分かれるだろうが、コーチのメドーサは薦めている。
だがそのメドーサは自分のコーチングを実行する横島を喜ぶかと思いきや、何故か呆けている。
空いた右手をじっと眺めて、無表情である。



「あ、あのさ、横島、その、こ、こ、これからの事なんだけどさ……」

「ああそうだな!これでザンス大使館を足がかりに一気に反撃だぜ!」

「そ、それはそうなんだけどさ、横島、儀式、しちゃった訳だし……」



なにやらモジモジとしながら煮え切らないメドーサさん。
横島くんはそんな彼女を、不思議そうにじっと見ている。
そして合点がいったように、頭から電球を飛ばした。



「こんなん、ただのまねっこだろ?」



にこやかにメドーサに言いはなつ横島。
呆然と横島の言葉を反芻するメドーサ。
二人の間に、再び緩慢な時間が流れる。



「はやく次のこと考えようぜメド――――」



ここで横島くんの頬に、乾いた軽い打撃音が響く。
そして彼は叩かれた姿勢のままで硬直してしまう。
それは強烈過ぎる打撃で脳をやられたのではない。
唇を噛み締めて、涙を浮かべた竜神様がそこに居たからだ。



「眷属横島忠夫に命令する、金蛇眼女蜴叉の眷属の任を解き放ち、全ての禁則を解除する!」



竜神は大声でそう宣言すると、白いドレスのままに、空中にふわりと浮いた。
頭上のベールとティアラをひとまとめに掴みあげて、少年の顔に投げつけた。
そして一度だけ、地面に立ち尽くした少年の顔を見て、その姿をかき消した。



「あれ?何で怒ってんの?」



この後、千年もの長きに亘りザンス王国はこの国教を続けていくこととなる。
そして女心が解らぬ朴念仁をザンスでは『ライクア横島』と使われたという。













そしてヘラクレスオオカブトムシ。
一見小さそうだが中はすごく広い。
昆虫悪魔娘にも個室があるほどだ。

そんな個室の中でも比較的すごしやすいのがルシオラの部屋だ。
ペット関連のグッズと裁縫用具でごったがえす蝶の子の部屋や
アシュタロス私製グッズであふれかえる蜂の子の部屋はせまい。
それに比べ色気なし素っ気なし男っ気なしの部屋は快適なのだ。



「なんだか凄く失礼なナレーションが聞こえるような……」

「気のせいだろルシオラ。……で、いつ来るんだい奴は。」

「もしかして、パジャマ持ってないんじゃないでちゅか?」

「そういえばあの子あの格好以外してるの見てない様な。」

「おいおい、あいつココ来てからけっこう経つんだけど。」

「おまたせしました!お部屋が多くて迷っちゃいました!」

「あ、Talk of the devil and he will appearって奴ね。」



ちなみにこの英語は『悪魔の話をすると悪魔がやってくる』という意味で、噂をすれば影の英語版。
そして注目のシルクワームのパジャマであるが、襟元のリボンが可愛らしいドット柄の入ったもの。
ホットパンツにキャミのルシオラやタンキニにショーツのみのべスパよりも露出度の低いカッコだ。



「さすがベスパさん、凄まじいですね……ルシオラさん、パピリオちゃん、私たちはコッチで。」

「ちょ、シルクワーム!なんでわたしがそっちの仲間なのよ!ちょっと失礼でしょーそれって!」

「そうでちゅよシルクワーム。将来有望組と成長オワタ組はキッチリと分けるべきでちゅねー。」

「成長終わってないわよ!それにXXXのXXX具合だったらXXXXXXで男はメロメロよ!」

「いや、ルシオラさん、いきなりそれをアピールしても男の人は引いちゃうと思いますけど……」



なにやらいきなり下世話な話題から始まった夜のパジャマパーティ。
悪魔だからなのか女性の本質だからなのかは皆の想像にお任せする。
ただし誰も男性経験が豊富ではないのか、あんまり話が膨らまない。



「そうだ、シルクワームってさ、けっこう長く生きてるんでしょ?オトコの話とかは無いの?」

「確かに普通の人よりちょっびっとだけは長くこの世にいますけど……そのぉ、Hとかは……」

「あーいやいや、それでなくてもイイから。ベスパも寝たふりしてないでコッチ来なさいよ。」

「ば、馬鹿!バラすやつがあるか!その、どうしてもって言うんなら、聞いてやらんでも……」

「はいはい、どうしてもどうしても。……パピリオ、こっからは大人の話だから寝てなさい。」

「同じ誕生日でナニ言ってるでちゅ!パピリオの将来は『ないすばでぃ』サキュバスでちゅ!」

「馬鹿ね、将来も何もわたしたち1年もしないうちに寿命なくなるじゃないの。まったく……」



彼女の寿命についての言及にシルクワームは頭に疑問符を浮かべる。
そして質問をルシオラにぶつけて、蛍の女の子がその質問に答える。
強力な魔力を得るために寿命が犠牲になった事、服従装置の事など。



「だから私達、オトコってどういうもんなのか興味津々なのよ、ぶっちゃけるとね。」

「特にパピリオみたいな成熟した女は体がオトコを求めちゃって大変なんでちゅよ。」

「やめなパピリオ。あんたが言ってもこれっぽっちも説得力の無いセリフだよそれ。」



わいわいと楽しそうに騒いでいる三人の昆虫娘に、シルクワームは困惑していた。
彼女らは悪魔だ魔族だと言ってても、初心な女学生たちとなんら変わりないのだ。
とある霊能者養成学校に通っていたシルクワームに、寿命の二文字がのしかかる。

彼女は般若面と花魁衣装の見た目と違い奥ゆかしい控えめで古風な女の子である。
だが、目の前の彼女らの期待に満ちたまなざしが、その価値観を打ち砕いていく。



「…………で、スケベでだらしなくて、でも、優しくて、変にまじめな人なんです。」

「うーん、聞けば聞くほどその、ヨコシマだっけ?とんでもないヘタレ駄目男よね。」

「ルシオラちゃんオトコに幻想を抱きすぎでちゅ。オトコなんて野獣でちゅよ野獣。」

「あ、で、でも、アシュタロス様に乱暴されるんだったらさ、ちょっといいかも……」

「知性派がウリのアシュ様がそんなのするワケないでしょベスパ。よく考えなさい。」

「だいたい魔王候補のアシュ様がついてるかどうかだって怪しいもんでちゅけどね。」

「ば、馬鹿いうなパピリオ!アシュタロス様くらいになれば、その、膝上までの……」

「あ、横島さんも膝上5cmです、チラ見ですけど。……オンバシラみたいでした。」

「「「ま、まじで?!」」」



非常に下世話な話である。話題がいくら進めども、なかなか脱線しない。
これが乙女たちの話題なのかと幻滅してしまう方々もいるやもしれない。
ただ、悪魔三人娘と裏切り神族の話題であって、女性全般の話ではない。



「で、その膝上5cmにシルクワームは心を奪われたのだった、というわけなのね?」

「あのお、別に横島さんのソコだけに惹かれたというわけじゃあないんですけど……」

「応援せざるを得ないでちゅね。そして後学の為に見学もせざるを得ないでちゅね。」

「しかしさ、ヨコシマが出てきて『膝上』とか叫んだら、あたしらのイメージが……」

「柱みたいなチ●コを持つ男ということで、今後ヨコシマは『ポチ』と呼ぶでちゅ。」

「どストレートねパピリオ。でもそのアイディアは頂きましょ。今後は『ポチ』で。」



傷心の少年のあずかりしらぬ所で、なぜか愛称まで決まってしまった。
そして、昆虫の魔族三人娘と元神族の女の子による同盟が締結された。
ちなみに御柱まつりの木は、英語でも『ONBASHIRA』である。
日本人でもよく知らぬ風習をスラングにする程コメリカも暇ではない。









そして、現在ヘラクレスオオカブトムシの行方を必死に追う乙姫様。
ただ、どうにも消息がつかめない。無論、池袋に居るせいなのだが。
目の下のクマは広がる一方、イライラは募りまくり爆発寸前である。
そんな中に彼女だけにしか聞こえない呼び出し音が頭のなかに響く。
チャンネル2HIME。そう、このホットラインを知るものは……



『CQCQ、乙姫、聞こえるかい?こちら……メドーサ。』

「はいはーい、清く正しい乙姫ちゃんよ。早かったわね?」

『あ、あのさ、そのさ、迷惑じゃなかったらさ、その……』

「あーもう、来るんでしょ?!3人ならドンガメでいい?」

『あの、あたし一人なんだよ。その、忙しいなら別に……』

「はぁ?!なによあんた、あの子にボウヤとられたの?!」

『…………………………あ、うん。』



一気に乙姫指令の目の下のクマが消え去り驚愕の表情を浮かべる。
手元のパネルを物凄い速度で打ち始め、目前のモニターが変わる。
どうやら異空間内の竜宮城と周辺空域の艦艇類の配置図のようだ。



「現在展開中の乙号全艇、竜宮本部の前面および背面に鶴翼陣にて展開!!」

『りょ、了解!乙号全艇は鶴翼陣に展開!』

「ドンガメ各艇緊急コード承認!目標地点へ強襲上陸後にターゲット回収!」

『了解しました。緊急コード発動します。』

「メドーサ、2分で行かせるわ。可能なら被害の少なそうな所にいて頂戴。」

『いや、門さえ開いてくれれば自分で……』

「そんな面白そうな話を待てるほど神格できてないわよ!いいから動くな!」



鶴翼の陣とは攻勢よりも防御に適している陣形である。
突破してくる敵を中央で受け止め翼部で包囲する陣だ。
単騎か少数であると判る現状では最適の防御と言える。

ただし、あくまで防御陣形。つまり基地指令が攻性展開による捜索を中断したことを意味する。
部下たちは『おそらく捜索よりも何か重要な事態が発生したのではないだろうか』と判断した。
まさか旧友と世間話するためだけに自分たちに命令が下っているなどとは誰も思いもよらない。














そしてアシュタロス一派を追うのは、なにも乙姫たち神軍だけではない。
小竜姫の後見人であり天界公安警察総管轄のおサル、斉天大聖もである。
地上では妙神山に陣取っているが、天界では公安部の庁舎に入っている。

丸く小さな老眼鏡をかけてスチールデスクに向かい本を読む猿顔の老人。
その机に大小二つの影が近寄ってきて、分厚い紙束をその上に投げ込む。



「ほいこれ報告書。いやー頑張ったぜオレ。有給休暇ありすぎて地球滅んじゃうかも。」

「……おお、八戒か。さっそくで悪いが今から別件で動いてもらう。無論、例の件だ。」

「おいおい勘弁してくれよ!休まず働いて1年だぜ?労災起きてもしらねえからなー。」



大きなシルエットを持つ男は軽口を叩きながら、老人の前にある机に尻を乗せる。
小さいほうのシルエットを持つ男は、入り口の扉前で壁に寄りかかり寛いでいる。



「そう愚痴るなよ八戒。……でも、いいのか親父?下手に動くと例の7席が面倒だろ?」

「なに、鈴ならもう付けておるよ。その切り札がこの女じゃ。頭に叩き込んでおけよ。」

「どれどれ………うわお、目つきの可愛らしいオネータマだこと。悟浄も見てみろよ。」

「おいおい八戒、しっかりしろよ。そりゃ黒便覧13号手配のメドーサ少佐だっての。」



八戒と名乗る男は筋肉の塊のような体で、シャツの背中には大きく『はっかい。』とプリントされている。
悟浄と名乗る男は少し痩せた感じの体で、モスグリーンがかった黒いコートと長く生えた不精髭が特徴だ。

その二人が手元の資料に目を落としている。それは最高会議にも出されたメドーサの情報だ。
添えられた写真は小竜姫のSP時代の物。その顔の並びには本来、小竜姫と斉天大聖が居る。
ちなみに悟浄が言った『少佐』とは軍退役前の階級である。同期の乙姫とそこまでは同階級。



「なるほどな、確かに白ヘビ少佐なら例の裏切り神族にピッタリだ。じゃ、早速行こうぜ悟浄。」

「早まるな八戒。お前達に頼むのはむしろその逆、メドーサを『ここに連れて来る』任務じゃ。」

「だーかーらー、オネータマのヤサを探して、ふん縛って尋問するんだろ?まさかヤリたいの?」

「まだ解らんか。合流してチームを組めと言っておるんじゃ。特例の恩赦は既にとりつけ済だ。」



ポカンと口を開けて自分の顔と写真を横に並べて、交互に指差す八戒。
上司である斉天大聖はなんら表情を変えることなく、うなづくばかり。
同僚たる悟浄に助けを求めようと向りかえるが、肩をすくめるばかり。



「特例恩赦って、まさか最高会議にまで出しちゃったの?責任問題になるのが目に見えてるぜ?」

「奴は上級神族100人よりも貴重な『経験』を持つ。受け持つリスクは十分承知の上じゃよ。」

「年甲斐も無く女に入れこんじまうとは、若いねえ。こっちは仕事なんで命令聞くダケだけど。」

「ワシも仕事じゃよ。そうそう八戒、有給の申請書類が間違っとるぞ。日付が来年になっとる。」

「うわーひでえ。そういう嫌がらせはパワハラって言うんだぜ。労働争議にかけるしかねえな。」

「あと日数が規定の倍じゃな。それでも書類を通す事は出来るが仕事好きの八戒には辛かろう?」

「日数が倍……なーんか俄然ヤル気出てきたなボク!首洗って待ってろよ白ヘビのオネータマ!」



鼻歌を交えて意気揚々と部屋を出るマッチョ男。
苦笑しながらその後ろを歩くコート姿のヒゲ男。
猿顔の老人は溜息を吐き書類に目を通し始めた。











そしてザンス大使館では、放心状態であった横島少年がやっと再起動した。
しかし彼の横には無敵の竜神の姿は無く、彼を慕い励ます女の子も居ない。
駐日ザンス大使ハッサン氏と国王がそんな哀戦士に優しげに微笑みかける。

ちなみに王女と大使館家事手伝いであるザンス被服部隊は中に戻っている。
女性陣は横島くんよりメドーサさんの方に肩入れをしてしまってるようだ。




「ザンスの英雄横島よ、安心したまえ。幸い流れた映像はザンスだけの放映だよ。」

「国王!大使館職員が『ツイ指が滑ッター』で式の模様を全世界に発信してます!」

「おや、ホントじゃな。フォロワーが一気に5000万人超えたか。すまん英雄。」

「安心しろ!世の中には女なぞ星の数ほどおる!星と同じで手は届かんのだがな!」



「お前ら本気で慰めるつもりねーだろ!!もういい!俺だけでナントカする!」



白いタキシードから横島忠夫正式ユニフォームであるジーンズ上下に着替える。
そこでふと、頭に巻こうとしたバンダナを再び手に持ちかえてじっと見つめる。
そこで赤いバンダナは視線に耐え切れずに、その視線をプイと逸らしてしまう。



「おおおおお!お前がいたかバンダナぁぁぁぁぁぁぁ!今じゃ俺の仲間はお前だけなんじゃよー!」

『ギュゲゲゲゲゲ!貴様なぞ最初から仲間と違うわ!なぜメドーサ様は俺を置いていったのだ?!』

「決まってるだろ、俺とお前の仲を認めてくれたんだよ!もしくは完璧に忘れ去られてるだけか!」

『ギュゲゲゲゲゲゲゲ!どっちにしろヒドすぎますメドーサ様!ええい離せ!離さんかこのおー!』

「嫌じゃああああ!協力すると誓うまで俺は頬ずりするのをやめない!ほーれスリスリスリスリ!」

『ギュゲギィアァァァァァァ!理解した了解した納得した!協力してやるからソレを止めろ横島!』



こうして横島忠夫に新しい仲間が加わった。いや、以前から居たといえば居たのだが。
そして腰を上げようとしたとき、少年の左手の中から丸めで硬いものが転がり落ちる。
穴の開いた綺麗で小さな宝飾を、何も言わずにじっと見つめ続ける横島。そして……



『……おっと。縁というのは小さな綻びから無縁に変わる。何気ない些細な所からだ。覚えておけ。』



少年はどこかで見たような仕草でソレを弾き飛ばしたが、バンダナから放たれた一筋の光が受け止めた。
物を掴む奇妙な光はそのまま持ち主である彼の手の中に再び戻した。ソレは、彼が交換した約束の指輪。



『俺様が貴様に残された理由は、もしかしたらメドーサ様の未練なのかもしれん。そうは思わんか?』

「バンダナ……」

『確かに俺様は忘れ去られた存在なのだろう。しかし、メドーサ様への忠義は未だ残っているのだ。』

「……ひとつ、きいていいか?」



少しうなだれたような姿勢で、ある筈のない地面の向こう側を見つめる横島。
バンダナにはたった一つの目しか付いていない。だが、その表情は哀しげだ。



「――――――――おまえさ、ギュゲゲゲって言わないでも喋れるのな。」

『え?!あ、そ、その!ギュゲゲゲゲゲ!つまんない事思い出すな貴様!』

「やっぱりか!そのめんどくせえキャラ付けのせいで忘れられるんだよ!」

『ギュゲゲゲゲ!うるせえ!気に入ってやってんだからとやかく言うな!』

「ただの中二病じゃねえか!可愛い妹とかじゃないと許されん行為だぞ!」



こうして横島忠夫の死闘が始まった。
頼れるのは己自身と、バンダナと、大使館で調達した食料と、式典のギャラと、ネーミングライツ料と。
とりあえず小金の入った横島くんは、なんら迷うことなく何でも揃う例のあの店に向かい走りはじめた。











そして本作品で忘れ去られがちなキャラの双璧であるところのあの方。



「ふあー、よく寝た。……あれ?横島くんち随分と風通し良くなったわね。」



布団から身を起こす美神さん。その部屋は既に完全に壁も屋根もない。
そして隣の部屋には、知っているのと違う小鳩ちゃんと貧乏神が居た。
6枚羽根を背から生やし無表情で立つ小鳩、少々目つきの悪い貧乏神。



「やけに背中が重そうね小鳩ちゃん。お、貧乏神じゃない!ひさびさね!」

「誰かと思えば美神はんやおまへんか。なんや、隣で寝とったんかいな。」

「いやー、なんだか2週間くらい寝てたよーな気がするわ。横島クンは?」

「あの少年ならメドーサと一緒に消えよったで。ワイの小鳩を置いてな。」

「へー、メドーサと一緒なんだー。……?なんで横島クンとメドーサ?!」

「なんや知らんかったのかいな。あの少年ああ見えて三又だったんやで。」

「あー、ごめん。あたし芸人さんってさ、そんなには詳しくないのよね。」

「そら三▼▼三や!つかそんな外角低めギリギリの芸人よーしっとるな!」




ついに語られてしまった真実!実は横島くんは■又又■―――――ではなく、
メドーサと同棲していてしかも小鳩も交えた三又状態だったと知ってしまう!
どうなる美神令子!どう動く美神令子!そんなまさかの引きで、お話は……











つづく。


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