椎名作品二次創作小説投稿広場


GSメドヨコ従属大作戦!!

再会、メドーサと……


投稿者名:まじょきち
投稿日時:12/ 7/17









少し落ち着き、心配そうに部屋の中央に並ぶ二人を覗きこむ横島少年。
無論二人とは、既に倒れていた美神令子と、先ほど倒れこんだ小鳩だ。
バタバタと走り回って混乱する横島をよそに、メドーサが場を整えた。



「もう布団も無いし、次に横島が倒れても見捨てるしかなくなったねえ。」

「め、メドーサ!小鳩ちゃんを病院に連れて行こう!例の瞬間移動頼む!」

「え?!あ、ああ。そうだね。そこをどきな横島、小鳩を抱えるからさ。」



竜神は少し躊躇したが、思い切って小鳩の体を抱きかかえる。

実は先ほどからメドーサにはひとつの懸念があった。
横島は気付いていないが小鳩の神力が上がっている。
先ほどの立体映像を見てから、小鳩は変質したのだ。

そして抱え上げたメドーサの腕に刺激が走る。小鳩の体から発した霊力によるものだ。
少し姿勢を揺らめかせた女竜神であったが、その後なにも無かったように姿勢を戻す。
刺激が収まったわけではない。無表情なのも姿勢を崩さないのも、彼女のやせ我慢だ。



「こ、小鳩ちゃん熱でもあるのかな?!ちょっとオデコでも……」

「ば、ばかっ!やめないか横島!うかつに手を出すんじゃない!」

「だいじょうぶだよー、メドーサの前で睡○するわけないだろ?」



本気で焦るメドーサにヘラヘラと笑いながら、小鳩の前髪をかき上げる横島。
そして彼の指が額に触れる瞬間、さすがの竜神様も視線を逸らし片目を瞑る。



「……こ、これはっ!」

「ほら言わんこっちゃない!」

「小鳩ちゃんの眉毛って意外と太い!」



極めて深刻な表情のまま、小鳩ちゃんの眉毛を触り続ける横島少年。
さすがの竜神様も身長差を利用した頭突きでツッコまざるを得なかった。
頭のてっぺんから噴水のよーに血を噴き出しながら、少年は沈んでいった。



「まったく、仕方のない奴だね……どうだったんだい横島?」

「え?!さすがは神様の頭突き、その威力に惚れ直したぜ!」



親指を立てた握りこぶしをメドーサの目前に捧げ、爽やかな笑顔を見せる少年。
それに応えてメドーサも清々しいほどの笑顔を浮かべ、小鳩を抱えて歩み寄る。
そしてその笑顔のまま再び首を振り上げる。少年はもう一発の頭突きを賜った。



「アタシは小鳩はどうだったかって訊いてんだよ!」

「やわこかった!きもちよかった!かわいかった!」

「どこのシーザーだい!……小鳩、熱くないかい?」

「うんにゃ。そりゃあ、こう、あったかいけどさ。」



メドーサの思考内にさまざまな仮定が現れる。
そして、現状から有り得ない事象を排除する。
しかし、導かれた答えは信じがたい物だった。

少し哀しげな表情を浮かべながら、メドーサは再び小鳩を元の布団に下ろした。
不思議がって覗き込んでくる横島少年に、凶悪な女竜神はポツリと吐き出した。



「あ、あたしさ、もしかして小鳩に嫌われてるのかねえ。」

「はあああああああ?!メドーサも休み休み言えよ馬鹿!」



横島くん一流のウィットに富んだジョークであったのだが、竜神には通じなかった。
女神様は上半身を左右に振りながら、手先が霞むほどの速度で横島を殴打し続ける。
振り子の様に揺れる横島くんの脳裏に何故か幕の内コールが延々と響き続けていた。



「げふ、ご、ごちそうさまでふ。」

「次は手加減しないからね横島。」



だが、なんだかんだでメドーサの気持ちも不思議と落ち着いた。
確かに神族同士で拒絶する時には霊力を纏い障壁を出して防ぐ。
しかし、彼女は小鳩。メドーサがからかう程度の人間の少女だ。



「横島、もしかして人間の医者じゃあ解決できない部類の問題かもしれないね。」

「いくら小鳩ちゃんのおっぱいデカいからって動物のお医者さんじゃ無理だろ!」

「なんでそうなるのさ!……ていうか、小鳩のこと、あまり知らないんだよね。」

「ふ、ふーん!しょーがねえひとっぱしり豊島区役所行ってくる!待ってろよ!」

「そういう事じゃなくてさ。……隣に母親いるんだろ?ちょっと挨拶してくる。」



全身から汗やら鼻水やら涙やらを一気に噴き出す横島くん。
さもありなん、それは小鳩とないしょの約束があるからだ。
怪訝そうに覗き込むメドーサに、横島はぎこちなく微笑む。



「あ、あのさ、小鳩ちゃんの母上殿は指定伝染病に冒されてて面会謝絶ナリよ。」

「はああ?!な、なんだって?本当なのかいヨコシマ!そりゃ大変じゃないか!」

「そ、そうなんだ!同じ空気吸ったら10秒で緑色の泡になって消えるんだぜ!」

「それならあたし治せるよ!今すぐ案内しな横島!ったく、小鳩も水臭いねえ!」

「え?えええええ?!治せちゃうのメドーサ?!じゃ、じゃあ水虫だったかも!」

「……水虫は確かに伝染するけどね、伝染病とは普通は言わないね。まさか……」

「じゃ、じゃあじゃあえっと、あの、そう!バルトリン氏病だっけ?あれだよ!」

「…………よく判ったよ、横島が一生懸命に頑張ってるのが。だけど残念だね。」

「な、なにが残念なん?」

「お馬鹿って事がだよ!」



横島くんの目前からメドーサの姿が消える。しかし瞬間移動などではない。
彼女は上半身を低く下げて、地面すれすれにその拳を飛翔させていたのだ。
その拳は、一気に高く舞い上がり、そして横島少年の下顎の正面に着いた。




「ぷげらっ!」



竜神様の御手によるアッパーを賜った横島少年は天井に激突し、やがて着地。
しかしその直後、彼は女神様の美脚にすがりつく。頭から血を噴き出しつつ。
さすがのメドーサも、横島少年の必死の態度にその頬を緩ませ、こう語った。



「大丈夫だよ。あたしはこれでも慈悲深い神だからね、悪いようにはしないさ。」

「ほ、ほんとか?乱闘騒ぎとか小鳩ちゃん悲しむからな!絶対だぞ!約束だぞ!」

「あたしを何だと思ってるのさ。あたしは社交界だって出た事あるんだからね。」

「うー、どう見たって社交界よりシャ■タンブギのアキラじゃねえかメドーサ。」



さらに頭の傷を増やしつつ訂正をさせられる横島くん。
メドーサさんは横島少年を引きつれ、部屋を後にした。
ちなみにアキラくんは非常にかっこいいので誤解なく。










天界妙神山出張所。
アシュタロス現るの報は、天界上層部にも衝撃を与えていた。
出張所にも神軍が次々と到着している。主に粛清派交戦派だ。
三人娘が池袋に向かったおかげで、妙神山が無傷だったのだ。



「お師匠様、あの連中全員追い返しちゃってもいいですかね?」

「ならんぞ小竜姫。まぁ、その気持ちは判らんでもないがな。」

「あらあら、物騒なご相談を立ち聞きしてしまったのかしら?」

「お戯れを大竜姫殿。まさか知の宮殿の主まで来られるとは。」



人間粛清派急先鋒であり天界最高会議の一席を占める天界の重鎮。
通常は天界中枢の知の宮殿<ゼブル>と呼ばれる場所で執務する。
そして小竜姫の実の姉であり、そして彼女もやはりというか……



「小竜姫、指名手配されている例の元警備員とやらにまた接触した、と小耳に挟みましたけど?」

「御姉……関聖帝君睨下、下々の事なぞ天下安寧に忙しい御耳に入れる臣下は如何なものかと。」

「なに、可愛い妹のことに気をかけた程度で乱れる天下太平ではありませんよ。ご安心なさい。」



その傲慢な乳房を左右に振りながら、きびすを返して場を去る姉。
そう、この大竜姫もメドーサと同じ程度に態度と乳が大きいのだ。
そして若干コンプレックスを持つ小竜姫にとっては、姉は苦手だ。
ちなみにメドーサも乳はでかいのだが、小竜姫様は顔しか見ない。



「あーもう!御姉様まで来るなんて!そりゃあ最新装備は欲しいですけど……」

「説到曹操、曹操就到じゃ小竜姫。愛しの姉に会いたいなら止めはせんがな。」



しまったという表情をして手で口を押さえる小竜姫様。
柱の影でこちらを見ていた彼女の姉は、微笑んで去る。
額に滝のような汗をかきながら、妹君は溜め息をつく。
ちなみに『説到曹操、曹操就到』とは、噂をすれば影。



「歪んではおるが、あの御仁もそれなりに妹は可愛いようじゃの。どうじゃ、和解せんか小竜姫?」

「いいんです!私にはねーさまがいますし!それにしてもあの部隊はいつまでここに居るんです?」

「人間界の大戦乱の予兆じゃて、アシュタロス問題にかこつけて戦火を広げるつもりじゃろうな。」

「擁護派は人界の干渉を嫌がるし、来るのは交戦派と粛清派ばかり……これって悪化してません?」

「理想と現実をコントロールせねば打開出来ぬ事は多いぞ。これはワシだけの教えだったかのう?」

「わかってます!ねーさまも同じこと言ってましたから!もう、意地悪が過ぎますよお師匠様は。」



笑いながらその場を後にするサル老人と、頬を膨らませながらついていくお姫様。
その背後では最新型の防空施設や、超長距離誘導兵鬼などが次々と運ばれてくる。
もはや骨董品のカノン砲もどきが一門あるだけの監視施設ではない。最新拠点だ。
背嚢を背負った鬼の兵隊も次々と流入し、右のと左のがその整理に当たっていた。








そしてもう一つの重要軍事拠点である竜宮城。
門前には鮫型をした大きな船舶が並んでいる。
小竜姫が手配した対異空間潜航艇哨戒部隊だ。
その姿は周囲の空間にも幾つも点在していた。



「そこ!乙587号!隊列から外れまくってる!本国の上官にチクるわよあんた!」

『も、もうしわけありません乙姫指令!な、なにぶん、実戦配備は久々なもので。』

「あらそう、じゃあ軍辞めて算盤でも弾いてなさい。佐官の星はいい音するわよ?」

『し、失礼しました!乙587号艇位置修正了解!取り舵いっぱい、ヨーソロー!』

「……メドーサは人間の男と逢引、それに引き換え乙姫様はダメ神族とお遊戯か。」



三次元モニターには無数の光点に矢印が引かれている。どうやら乙姫の手駒の様だ。
いつものきらびやかな正装とはうって変わり、メドーサと同じ戦闘モンペ姿の彼女。
関節のついた金属性のアームの先にある椅子に腰掛けて、肘を突いて溜息を漏らす。

その下には細身ながらも筋肉がしっかりついた男が立つ。その背には、何故か甲羅。



「乙姫様、哨戒程度でしたら我らドンガメでも充分です。少しお休みになられては。」

「いいのよ、愚痴ってみただけ。メドーサがいたら一緒にナンパでもいくのになー。」

「無礼を承知で申し上げますが、メドーサ殿は1万年経ってもナンパはしないかと。」

「馬鹿ね。メドーサみたいな戦闘マニアは、あたしがお膳立てしないと一生独身よ?」

「ははあ、なるほど。竜宮の軍神たる乙姫様でもメドーサ殿にはお優しいのですな。」

「失礼ね、いつもやさしい乙姫ちゃ――そこ!613!逆走するなら撃沈するわよ!」



身を乗り出して怒鳴る乙姫。ちなみに彼女の階級は中将、かなり高位なのだ。
この御仁も性癖さえ直せば今頃辺境の要塞じゃなく家庭を守っているだろう。
と、そうは思いながらも決して口に出さない賢明なドンガメ隊長氏であった。

ちなみに心配性で厳しい乙姫が叱る度に部下達は『中将乙』と報告書に記す。






















現在、美神事務所に程近い池袋西口公園に停泊中のヘラクレスオオカブトムシ。
停泊中とは言っても公園に植樹されている桜の木にしがみついているだけだが。

乙姫様の読みどおりに、最新の異空間潜航機能を有する魔法兵鬼である。
だが異空間に居ないので竜宮の軍神も流石に発見する事が出来なかった。
そんな魔法兵鬼の中でちょっとした口論が起きた。原因はシルクワーム。



「エネルギー結晶も手に入れたんだ、もうイケブクロに用はないだろシルクワーム。」

「……これはアシュタロスさんと約束した事です。べスパさん達に関係ありません。」

「だ、誰に向かって口きいてるんだいこの裏切り神族が!お情けでいさせてるのに!」

「べスパは少し落ち着きなさい!……けど意外ねシルクワーム。口答えするなんて。」

「そうですか?わたしは欲しいものがあれば裏切りもする、そんな女の子ですから。」



ひとつのテーブルを囲んで、4人が語り合っている。
べスパとルシオラが並んで座して、シルクワームとパピリオが逆側に座る。
不機嫌そうにガツガツと食べるべスパと、静かにゆっくり食べるルシオラ。
食べかすをこぼすパピリオの口元を、そっとナプキンで拭くシルクワーム。
ちなみに挟んだ先の主賓席には土偶羅の席もあるが、なぜか不在のようだ。



「もぐもぐ、べスパちゃんもルシオラちゃんもシルクワーム苛めちゃだめでちゅよ?」

「しかしパピリオを餌で手懐けるとは、そこは感心するね。確かに料理はうまいよ。」

「ふふ、わたしがいた村は飢饉が多かったんで、なんでもおいしく料理できますよ。」

「特にこの白くてクニュクニュしたのが美味しいわ。これは何かしらシルクワーム。」

「ああ、ハチノコですね。なぜか格納庫の奥のほうにたくさん巣があったんですよ。」

「ちょ、ソレあたしの妖蜂のマンションだよ馬鹿!!てめえはやっぱりぶっ殺す!!」



殴りかかろうとする蜂のお姉さんを苦笑しながら抑える蛍のお姉さん。
ちなみに土偶羅はといえば、操縦席でさびしそうに光景を眺めていた。
なにせあのチン……男子局部風の口である。お食事会には混ざれない。



「とにかくさ、理由すら言えないんだったら手伝いも出来ないわよ?それでもいいの?」

「かまいません。それにエネルギー結晶が手に入れば用済みだって言ってましたよね?」

「……勘違いしてるようだけど、魔族は魔族なりに義理とかあるのよ。べスパにもね。」

「ば、馬鹿なこと言うんじゃない!あたしはね、素直じゃない馬鹿女は嫌いなんだよ!」

「もぐもぐ、じゃあべスパちゃんは自分が嫌いなんでちゅね。難儀な悪魔でちゅねー。」

「あ゛あ゛?!もういっぺん言ってみなパピリオ!6本足で立てなくしてやろうか!!」

「べーっだ!パピリオちゃんはそしたらずっと飛んでるから、大丈夫でちゅよーだ!!」



向かい合う席で口論を始めるべスパとパピリオ。無論本気の喧嘩ではない。
どちらかといえば、他愛もない姉妹ゲンカと言う方がしっくりくるだろう。
苦笑しながら隣を諌めるルシオラ。その時に向かいの小さな異変に気付く。




「二人ともよしなさいよ、みっともないわね。……あら、シルクワーム、泣いてるの?」

「……いいえ、その、こういうのって、なんだか懐かしいなあって思ったら、急に……」



ルシオラがおもむろに立ち上がると、食べ終わった食器を次々と積みはじめる。
無論その中にはまだ食事中のパピリオの食器もあったのだが、容赦なく下げた。
その汚れた食器を抱えてすたすたと歩き出し、シルクワームの前に積み上げる。



「今日の皿洗いの当番はあなたよ、シルクワーム。やらないとは言わせないわ。」

「……はい、別にそれくらいはかまいませんけど。どうしたんですかいきなり?」

「ここにはここのルールがあるの。洗濯と炊事洗濯皿洗いは持ち回り、それと、」



シルクワームの耳元で、聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟くルシオラ。
シルクワームは困惑する。それは匂い。とても懐かしい、水辺の香りだった。



『女の子の内緒話はパジャマ着てお布団の中でするの。みんなで待ってるわよ。』



目を見開き驚くシルクワーム。ルシオラはそんな彼女の表情にウィンクをして返す。
そして素早くその場を離れると、残り二人の魔族を引き連れて早々に部屋を去った。
取り残されたシルクワームは、少し微笑み、楽しげに皿を持って流し場に向かった。



「さて、そろそろエネルギーでも……おーい、操縦代わってくれー!べスパー?ルシオラー?」



管理職とは悲しい仕事である。部下に食事はさせても自分が食事できるとは限らないのだ。
あんまり無茶をやってると魔界労働基準監督署がやってきて是正勧告を受けてしまうのだ。

ちなみに般若面のシルクワームがどうやって食事をしていたのか、皆さんに判るだろうか。
口の隙間から啜ってた?仮面の半分から折れるギミックがついてる?そもそもペイントだ?
実は食事中は普通に外して食べていたのだ。別に仮面は身内に正体を隠す為ではないのだ。
被服の得意なパピリオが彼女の為に仕立てたに過ぎず、来た当初には普通に素顔であった。
キン肉マン以外の漫画であればここで正体がばれるシーンだが、残念な事にここはSSだ。










そしてその夜。
小鳩の部屋では案の定というか、やっぱりというか、予想通りというか。
メドーサの鉄拳で、メキシコ帽子の貧乏神が部屋の隅に吹っ飛んでいた。
さて、どうしてこうなってしまったのか。時間を少し巻き戻してみよう。


メドーサと横島は小鳩の母に会うべく、神妙な面持ちでその部屋を後にした。
そして着いた。なにせアパートのお隣さん。詳細描写もあったもんじゃない。
少しだけ扉前で躊躇した竜神であったが、すぐに表情を引き締めノックする。



「ど、どちらさまですか?」

「ヘビ山と申します。夜分遅く申し訳ありませんが、娘さんのことでお話を。」

「どうぞ、お入り下さい。」



メドーサが扉を開けると、そこには布団に半身を埋めた中年の女性がいた。
その顔色は相変わらず悪く、苦しそうに背を丸く曲げて、咳き込んでいた。
メドーサに気付くと、申し訳なさそうな表情を浮かべて布団から一礼する。



「こんな場所からごめんなさいね、その、どうも立つ気力が無くって。」

「失礼ですけど、私は医学に心得があります。どこがお悪いのですか?」

「え?!あの、その、緑色の泡になる指定伝染病と、水虫なんです……」

「ええええええ?!……あ、そ、そうですか、それは難儀な事ですね。」



非常に愉快な表情で困惑するメドーサさん。そして大きく胸を張る横島くん。
そんな彼の肝臓の位置にジャブを数発入れた後、メドーサは話を切り出した。



「それで小鳩さんの事なんですが、その、神隠しとかされた事はないですか?」

「いいえ、小鳩はずっと私と一緒で、そんな事は一度もありませんでしたよ。」

「……失礼ですけど、ご主人様はご在宅ですか?話を伺いたいのですけれど。」

「ご、ご主人さま?!あ、あの、そういうお店とかには私はとんと疎くて……」

「いえ、あの、別にメイド喫茶的な話じゃなく、旦那さんはいないのですか?」

「ダンナサン……ええと、いたような、いないような。どうなんでしょうね?」



何故か煮え切らない小鳩母。成人女性ウェルカムの横島ですら若干イラついている様子である。
しかし、そんな横島くんが恐る恐る隣の竜神様に視線を移し、その表情に少しだけ驚いていた。
非常に優しげに微笑んでた。この時『さすがメドーサ!そこにしびれる(以下略)』と感じた。




「では質問を変えましょう。失礼ですが、貴女のお名前はなんとおっしゃるのですか?」

「え?あの、な、名前?!その、それは……こっ、小鳩の母ですっ!依然変わりなく!」

「面白い事をおっしゃる。コバトノハハが名前なら、苗字は?貴女の苗字は何ですか?」

「お、おい、さっきからナニ言ってるんだよメドーサ!小鳩ちゃんちの苗字は――――」




小鳩の部屋に入っての第一声がこれであったが、残念な事にここで途切れてしまう。
メドーサが横島の横隔膜を裏拳でおもいっきり殴打をして、呼吸困難になったのだ。
体をくの字に曲げてピクピクと痙攣する少年を無視して、竜神は質問を続けていく。



「あ、そうそう!ハナト!ハナトです!私はハナトコバトノハハという名前ですよ!」

「そうですか、では最後に『真名』を教えていただけますかね、コバトノハハさん。」

「あ、ああそれなら。私の真名は偽造天使4649ご――――――――――――――」




そこで今度は小鳩母の声が途切れた。しかし今回はメドーサの裏拳は小鳩母に飛んでいない。
そして途切れさせた原因のメキシコ帽が、せまい押入れの中からモソモソと這い出してきた。
硬直している小鳩母風の女の頭を軽く小突くと、そのままの姿勢で彼女は倒れこんでしまう。




「なんやメドーサ、底意地が悪いやんけ。チューリングテストなんぞしてからに。」

「横島たちが異様に隠すから何があるのかと思えば、あんたが出てくるとはねえ。」

「やっぱり知り合いなんか……こ、こいつ確かに貧乏神だけど悪いヤツじゃあ……」

「はあ?!こいつが貧乏神だってえ?あたしにとっちゃそうかもしれないけどさ。」



メドーサは笑いながら部屋を横切ると、貧乏神の隣にあぐらをかいて座りこんだ。
思いっきりパンツが見えているのだが、なんとも珍しい事に横島くんは動かない。
それほどまでに今の状況が把握できないのだ。

ちなみにチューリングテストとはイギリスのチューリングさんが考えたテストで、
人工知能を判定するものである。人工知能の出来や存在等もこれでわかるらしい。



「こいつの名はビンス・サー・マクマホンJr。貧乏どころか貴族のボンボンで兵学校の主席さ。」

「へ、兵学校って、あの、メドーサとか乙姫様とかが行ってた兵隊さんの学校?こんな二頭身が?」

「昔はこうじゃなかったさ。ただ横島と正反対で、モテモテなのに女共になびかなかったけどね。」



メドーサは胸元から一枚の写真を出す。そこには4人の男女が敬礼をしながら写っている。
目つきの悪い銀髪の少女、たれ目で優しそうな黒髪の少女、背の低い壮年の軍服姿のサル。
あと一人は、背が高くて彫が少し深めで笑顔の眩しい、曲がった角の生えた金髪の美少年。



「え?!ちょ、この美形がどこをどーまちがえたら、そのチンチクリンの帽子中年になるんだよ!」

「少年、神魔族かて老化はするんやで。そう、毎朝抜けていくあんさんの髪のよーに確実になあ!」

「い、いやあああああああああ!!それは言わんといてえええええ!!超絶気にしてるのにいい!」



頭を押さえながら取り乱す横島くん。そう、彼は悲しいことに将来はハゲ確定なのだ。
未来は変えられると信じて苦しいながらも銭湯にはちゃんと通うものの、朝に抜ける。
貧乏も金持ちも正義も悪もヒーローも雑兵も関係ない。ハゲる人はハゲてしまうのだ。



「ビンスの娘だったら確かに小鳩の神気も納得だよ。ただ、ホモだと思ってたビンスが所帯持ちとはねえ。」

「あいっかわらず目つきと口の悪いオナゴやな。……せやけどなメドーサ、小鳩はなワイの娘とちゃうで?」

「まさか研究馬鹿が高じてとうとう誘拐したのかい?!神族相手の誘拐は重罪だって知ってるだろビンス!」

「なわけあるかいっ!造ったんや小鳩は!はなっからワイの手でぜえんぶな。こいつかてその試作品やで。」



硬直して寝転がっている小鳩の母役の女性を、その短すぎる足で蹴る貧乏神。
すると病弱母風だったほつれた髪型も、貧しい衣装も、顔色も不意に消える。
背中には純白の羽の生えた、慈愛に満ち溢れた天使の姿がそこにあらわれた。



「お、おおお、おおおおおお!すげえ、こんなん作れるのかよ!お、俺にも一個ください!!」

「なんや少年、そういう趣味は業が深すぎるからお勧めせえへんで?それに無茶苦茶高いで?」

「う、や、やっぱ高いですよねー。興味はあったけど、すげえ値段であきらめたんだよね……」

「こんくらいの自立型偽造天使でもな、信仰単位でいえば正味4500人分は必要なんやで。」

「じゃ、じゃあ、あの可愛くて完璧な小鳩ちゃんだとどんくらい?やっぱ万単位いっちゃう?」



貧乏神の表情がくしゃりとゆがんだ。人間風にいえば意地悪な微笑というやつだ。
今ちょっと思ったのだが、このSSは意地悪な笑みのシーンが少々多い気がする。



「イチや。」

「イチ?!」

「小鳩の成長霊基はな、あんさんの煩悩を食ってるんや。」



急に話題に上り、自分を指差しキョトンとする横島少年。
貧乏神ことビンス・マクマホンは帽子の鍔前を少し上げて、ニヤリと微笑む。
そして天使の傍らに行き何かしているメドーサを横目に、横島の顔に近づく。



「あんさん意外と男前やし煩悩チャンピオンやさかいな、小鳩の成長にぴったりやったんや。」

「ま、まあな。俺も自分で男前だとは思ってたけどさ!しかし、煩悩だけで成長ってするの?」

「人類っちゅうのは増えて死んでが激しいよって、生殖欲求に霊力が一番反映されるんやで。」

「な、なるほどお。じゃあさじゃあさ、俺ってもしかして人間で一番優れた霊能力者じゃね?」

「そらそうや。現に霊力ほしさのオナゴどもは小鳩だけじゃないやろ?よう思い出してみい?」

「う、うーん……いや、その、モテたかって言われても、そんなうれしい記憶って俺には……」

「ああ、人間はダメやで?霊力センサーがめっさ低いし霊力の直接吸収が出来ひんよってな。」

「え?なにそれ?それじゃあ俺って化け物にしか好かれないってことかよ!ひどすぎるって!」



そこでビンスの表情はいやらしい笑みから一変する。
その眼光は細く鋭利に変わり、口元の微笑も消える。
眉が中央に寄せられ、ハの字に強く結ばれていった。



「なんやワレ、ワイの小鳩が化け物やっちゅうんかいコラ?ああ?」

「いや、その、めっそうもない!小鳩ちゃん超可愛い!超最高!!」

「せやろせやろ。小鳩はワイの最高傑作、化け物のわけあるかい。」

「で、ですよねー!いや、確かに小鳩ちゃんに好かれるなら本望!」



今度は恵比寿のような満面の笑みを浮かべるビンス。
そう、これは一部暴力組織構成員の方々が使う手だ。
恐怖を植え込んだあとに警戒を解く、一種の洗脳だ。
その界隈の方にめっぽう弱い少年には効果は絶大だ。



「せや、そろそろ小鳩も羽化する頃なんやがな、何かおきてへんか?」

「う、羽化?!そ、そういえば小鳩ちゃん、さっき急に倒れてさ……」

「ジャストタイミングちゅうやっちゃな。完成した小鳩が見れるで。」

「か、完成ー?!へえ、その、よかったですねビンスさん、あはは。」

「いやー、あんさんのおかげやで。お礼に小鳩バーガーでもやろか。」

「ちょ、あ、あの、それは、お気持ちだけで結構でございますです。」

「心配せんでもええがな。本物の小鳩バーガーはムッチャ旨いでえ。」



そう言い放ち、横島の口元に強引にハンバーガーを押し込むビンス。
そのとき横島に電撃が走る。チーズ、餡子、〆鯖が口の中に広がる。
しかし〆鯖には炙りが施されて酸味が程よく消え、餡は甘さを抑え、
チーズには、匂いの無いミモレットチーズをふんだんに使っていた。



「う、う、うんめぇぇぇぇぇぇぇ!これがほんとに小鳩バーガーかよ!!」

「兵学校じゃレーション製作かてあったんや。料理も得意なんやでワイ。」

「なんだよだったら最初からコレ作れよ!大儲けマチガイナシだったぜ!」

「儲けたったら意味が無いんや。小鳩の魂の精錬の一環やったさかいな。」

「た、たましいのせいれん?なんだかよくわかんねえけど、どゆこと?!」



よく考えてみてほしい。そもそも輪廻転生とはどういうものなのか。
魂には罪が載り続ける、だから低い層の生命に宿り反省し浄罪する。
それには数多くの神仏閻魔などが関与し、公正公平を期すべく裁く。
たとえ神とは言えども、一存で転生後も憑き纏えるレベルではない。

つまりは、嘘。
そもそもこの貧乏神と名乗ったビンスという神族の芝居だった。
小鳩に苦労をさせること、そして乗り越えることが目的だった。



「横着の土には破滅の花が咲き、苦労の土には成功の花が咲く。そういうこっちゃ。」

「小鳩ちゃんさ、それで幸せになれるんだよな?こんなの食べて笑ってくれるよな?」

「せやけどな、小鳩は小鳩の存在意義があるんや。そんで、あんさんの存在意義も。」

「な、そ、それってどういう……」



倒れている偽造天使の顔や舌を調べていたメドーサが、そのとき不意に顔を上げた。
屈んだ姿勢から一気に跳ね上がり、ビンスと呼ばれた中年の首をつかみ持ち上げる。



「ビンス、こいつの通し番は4649号、とてもじゃないが貴族のあんたでも賄える量じゃない。」

「せやな。メドーサの言うとおり、偽造天使には累計で5000万マイトはつこうとるさかいな。」

「兵学校主席で兵器省に入ったあんたが、なぜ人間界に、なぜ横島を的に、なぜ小鳩を作って……」

「なぜなぜ五月蝿いでメドーサ。あとヒトツ言わせてもらうとな、この手を離さんか三下風情が。」



宙に浮く貧乏神が、首元のメドーサの手を何気なく掴む。何気なく捻る。何気なく振り回す。
そして何気ない貧乏神の表情と行動とは真逆に、大きな音を立ててメドーサが壁に激突した。
横島少年は硬直している。無敵だと思っていた女神様が、文字通りに軽く捻られているのだ。

ビンスと呼ばれる高位の神族は、その表情をまた笑顔に戻して横島少年の横にそっと座った。



「存在意義ちゅうんを教えたるわ。小鳩はごっつかわいいやろ?んん?!」

「え?ああ、うん、可愛い。あんな子がいるなんて思わなかったぜ、俺。」

「せやろなあ。さんざん行動計算したおして、お好みに合わせたからな。」

「こ、好みをあわせただって?!じゃ、じゃあ、あの小鳩ちゃんって……」

「計算ずくや。小鳩はな『横島が大好きになる』ギアスの入った人形や。」






横島少年の血中のアドレナリンがこの時に突如急上昇した。さらに血圧も上がる。
そして全身の筋肉が収縮と開放を一気に行う。眼球は目前の中年を見据えている。
だが、その行動はあまり意味を持たなくなる。それより早く動いた者がいたのだ。



「この金蛇眼女蜴叉を三下呼ばわりしやがって!あんたは浪人入学じゃないか!!」



こうして冒頭のシーンに戻るのだ。
メドーサの全身は、既にグラヴィトン戦の輝度を遥かに超えて光っていた。
さらにその後、横島少年は彼女の姿が光の筋でしか追えなくなってしまう。
超加速。そう、地道な戦闘大好きのメドーサが持つ数少ない奥義の一つだ。

部屋の隅で光の渦に巻かれて貧乏神の姿が見えなくなる。
そして約40秒後、メドーサの体からその光が消え去る。



「ちぃっ、やっぱだめか!結局最初の不意打ち一発だけとはなさけないね!」

「え?!ちょ、う、嘘だろ?!あんだけやって駄目だったのかよメドーサ!」

「霊力ゼロ攻撃とはさすがやなメドーサ。せやけど三下は所詮三下やなあ。」



鍔広のメキシコ帽をかぶった小さな中年は、普通に立ち上がった。
その顔には、横島が予想していた外傷の痕などは欠片も無かった。
特に何の感慨もない様に、メドーサと横島が並ぶ方向に首が向く。



「当たり前だろ。ビンスの霊力吸収能力は有名だからね。」

「え?あれ能力だったの?貧乏神だからだとばっかり……」

「馬鹿だね、そんな貧乏神ばっかりいたら世界が滅ぶよ。」

「あ、そ、そうか。貧乏神叩き続けて地球つぶせるのか。」



そう、あのままの意味だと、下手な邪神召喚よりも手軽に地球が滅ぼせる。
どこかにいる貧乏神を探し出して霊波動攻撃を当て続けるだけでいいのだ。
そんな便利な存在が昔からいるのなら、悪の組織の人たちは大喜びである。
幼稚園バスジャックやダムに毒を流すみたいな回りくどい作戦は要らない。



「だけど残念だね、あたしは公安のツテがある。人間界への偽造天使流出は過干渉違反だよ。」

「残念なんはメドーサのおつむの方やな。今は公安も軍も動かせる状況やないで。ちゃうか?」

「……なぜ知ってるんだい。そうか、小鳩をモニター代わりにしてる?!そうだろビンス!!」

「小鳩はほんまによく出来た子やで。こっから世界は小鳩を中心にひっくりかえるよってな。」




その時、狭い部屋の壁が轟々と音を立てて崩れ去る。その壁の先には横島の部屋があった。
粉塵がもうもうと立ちのぼり、やがてそれが収まると、一つの人型のシルエットが現れる。
癖のついた黒い長髪が風に揺れ、その頭上には眩しい光輪、そして白く大きい6枚の羽根。




「うははははははは!みさらせメドーサ!これがワイの最高傑作、偽造天使5963号『ナハト』や!」

「……ろ、六枚羽根とは恐れ入ったねビンス。てっきりヒヨコの改造程度かと思ってたんだけどねえ。」

『よ……よこしま……さん……わたし……こんな……こな……いで……よこ……しま……さ……ん……』

「気にせんでええ、ただのスピーカーや。そのうち消えるさかいな。どや少年、小鳩は、きれいやろ?」




少年は呆然としていた。そこにいるのは確かに花戸小鳩その人であり、まったく別の天使でもある。
以前に横島が言及したとおり、小鳩は神に愛された少女そのものであった。ただし、歪んだ愛だが。
ナハトという存在が、腕を広げて大きく口を開ける。そして、その口を中心に黒い靄が広がりだす。

その次の瞬間、横島の腕に力強い何かが絡みつき、その光景は消えて風景は住宅街に変わっていた。












「あれ?こ、ここって、ザンスの大使館じゃねえか?!」

「……間一髪だったんだよ。あと1秒で吹き飛んでた。」

「ちょ、に、逃げたのかよ!メドーサ、おいメドーサ!」

「すまない、すまないね、本当にすまないねヨコシマ。」



自分の腕を掴んだまま、目の前の竜神は頭を下げていた。
呆然と見守る中、彼の頭の中には、ある思いがよぎった。

『やっべー、美神さん置いてきちゃった。』と。






つづく。


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