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GSメドヨコ従属大作戦!!

時間は止まらない(後編)


投稿者名:まじょきち
投稿日時:12/ 7/ 9

(前編の続き)






紀元前のはるか前、文明が黎明期どころか曙をも迎えられない、混沌としていた大昔。
人間たちは増え、しかし科学もなく自然と未知に畏怖し信仰は極度に肥大化していた。
神々はその文明の進化を調整し、信仰を吸い上げ神族にとっての黄金期を迎えていた。

そこに魔界からの魔族の流入が始まる。その植民地を奪いにきたのだ。
これが神と悪魔の最終戦争『聖書級大崩壊』と呼ばれるものの正体だ。
少々俗っぽく表現するなら『ハルマゲドン』とか呼ばれた事変である。



「あーCQCQ。こちらメドーサ……まだるっこしい!乙姫!聞こえんだろ!返事しな!」

『はいはーい、こちら乙姫。箱舟は無事だけど味方が減りすぎてる。メドーサ来れない?』

「あちゃあ、逆をお願いしたかったんだけどね。このままじゃザンスはもう持たないよ。」

『非戦闘員の天使どもも槍くらい使えるでしょー?なんとかだまして焚きつけられない?』

「無理無理、こっちにいるのは2枚羽根のヒヨコばっかりだよ?出しても無駄死にだね。」



この頃の乙姫とメドーサはかなり若い。神々の争い『ラグナレク』がおきる前の時代だ。
そこまで乳も大きくない。人間年齢でいえば未発達な中学生くらいの体型の二人である。
ただし、それぞれの実年齢は、すでにこの段階で人間には想像もつかないほどではある。



『あー、割り込んですまんの、こちら箱舟作戦司令部。お嬢さん方、戦況はどうじゃな?』

「向こうさん本気も本気、兵鬼の湧き方が尋常じゃないよ。サル親父もいいから来なよ。」

『ば、馬鹿!お許しください閣下!メドーサは根性は腐ってますけど根はいい奴でして!』

『よいよい。教え子の次席と三席が現場に出ているのだ、これ以上の布陣はあるまいて。』



兵学校とは兵隊さんになる為の学校である。日本にも昔はあったそうだ。
士官育成の士官学校と違い、ほぼ現場での実戦想定の戦闘のみを教える。
それでも徴用される兵隊さんとは違い座学も行い成績もちゃんと付ける。
彼女らはそこでどうやら2番目と3番目の成績だったという事のようだ。



「だいたい徒手格闘なら乙姫が成績上だったじゃないか。なんでそっちがコパイなのさ。」

『美人は手を汚さないものなのよ。しかし閣下、確かにメドーサの言う通り戦況は―――』

『そうじゃな。間もなく正式に命が下るが、ザンスは放棄、残兵で箱舟の警護に当たる。』

「やっとかい。じゃ、ヒヨコの退却見たらあたしもそっちに向かうよ。期待してな乙姫。」

『いや、メドーサも今すぐ現地部隊と共に引き上げて箱舟に向かえ。そっちが優先じゃ。』

『はあ?!』

「はあ?!」



タイプこそぜんぜん違うメドーサと乙姫だが、奇しくも同じ声を上げる。
特にメドーサは、ヘアバンドを何度もずらして混信を疑っていたほどだ。
しかし、その後に続いた斉天大聖の言葉は、もっと過酷なものであった。






『非戦闘員は各自の判断で逃げるよう指示が出る。まぁ、結果は見えているがの。』

「あたりまえだろ!ヒヨコなんか下級魔族にだって追いつけるさ!本気なのかい!」

『じゃが今作戦のフラッグは箱舟であり土地ではない。本質を見誤るなメドーサ。』

『恐れながら閣下、魔界は総攻撃と聞いております。しかし当方は未だ予科を……』

『下士官が口を挟む話ではない!……と言いたいが、二人には話しておこうかの。』



メドーサの周囲では、禍々しい姿の昆虫型や爬虫類型悪魔が次々と殺到している。
手に持つ剣と矛槍を交互に使い、彼女は次々とそれらの敵対者を叩き落していく。
その周囲の空間に敵が見えなくなったのを確認すると、寂しげな笑顔を浮かべる。



「……奇襲なんだろ、魔界に。今日だけでもあたしの部隊から腕利きが抜けてるからね。」

『さすがに現場は騙せんな。既に戦闘用箱舟が1千ほど異空間に兵を積み待機しておる。』

『閣下!それだけの軍勢があれば、人間たちの箱舟の護衛にもいくつか割けませんか?!』

「奇襲は最高のタイミングで最大の兵力を投入しなければ成功しない、って言うんだろ?」

『ほほう、老いぼれの講義を未だに覚えておったのか。今でもその信念は変えておらん。』

「だけど、人間なんて増えるしか能の無いハゲ猿じゃないか!むしろ箱舟よりこっちに!」

『メドーサ!人間は、神族より純粋で正しくなるわよ!人間は導けるって信じてるもの!』



乙姫と呼ばれる少女は、箱舟の艦橋で霞むほどの手捌きで箱舟を操りながら叫んだ。
彼女は戦争前、怪我をして仲間とはぐれ迷い込んだ原始的な人間を飼うことにした。
ヴラシュマーと名付けられた人間はやがて元気になり一人と一柱は仲良く暮らした。
だがヴラシュマーは神気の浴びすぎにより強制進化が発生、失敗し消滅してしまう。
懐いた人間との営み、その経験が彼女を人寄りの考えに導いていたのかもしれない。



「――判った。HQに逆らったりはしないさ。だけど今回で軍は降ろさせてもらうよ。」

『メドーサ!なに言ってるの?あんたみたいな戦闘馬鹿、軍以外じゃ殺人鬼で逮捕よ!』

『すまんなメドーサ、再就職は手配しよう。それまでは軍人として働いてもらうがの。』

「こちらメドーサ、1200をもって箱舟援護に向かう。交信終わり。……じゃあね。」

『こちら乙姫、了解した。貴官の援護に感謝する。交信終わり。……期待してるわよ。』

『こちら箱舟作戦司令部、ザンス全部隊に通達、転進し箱舟の援護に向かえ。以上だ。』



この後、箱舟は異空間に収容され、残兵は更に過酷な異空間戦闘に突入する。
魔界側は完全に裏に回られた格好にはなったが、それでも即座に転進し応戦。
5度ほどの戦いを経て人界、異空間を天界が掌握した段階で講和が成立した。

その時に橋頭堡、いわゆる激戦区の基地として設営されたのが現在の竜宮城だ。
その名は竜神の少女達の活躍に敬意を払い、指揮官が名付けた物であるという。
皆さんもご存知とは思うが、城とは軍事拠点なのだ。決して慰安施設ではない。




「…………とまぁ、そんな昔話があったんだよ。悪いね小竜姫、仕事の邪魔しちまってさ。」

『い、いいえ、お師匠様からねーさまの公安以前の経歴は聞かされてませんでしたので……』

「なるほどー。だからメドーサってば時々こーんな目ぇして怒るんだ。ランボーみたいに。」

「あはは、言ってやりなさいな少年、だからいつまでたっても結婚ができないんだよって。」

「え?か、神様って結婚できるんですか?そ、それって本当ですか?初耳なんですけど……」

「出来る出来る。人間とだって正式に婚姻すれば子供も作れるわよ。やり方難しいけどね。」



小鳩ちゃんが横島くんの目を盗み、恐る恐るメドーサさんの表情を追っていた。
その視線に気がついたメドーサさんであるが、苦笑しながら左右に首を振った。
小鳩ちゃんもメドーサさんのその仕草を見て、安心したように笑みを漏らした。



「馬鹿言ってないで仕事に戻りな乙姫。ほれ、サル親父そろそろ老衰でくたばりそうだよ?」

『まぁ老衰が出来ればそれはそれで気が楽じゃがの。乙姫、敵側の規模はどの程度と読む?』

「ええ、最新鋭の潜行型魔法兵鬼だとは思いますが、多くて二鬼、私の読みでは単独かと。」

『単独ですか。そうすると内通者の線が濃くなってきますね。お師匠様、指示出しますか?』

『動けんな。余裕があるか切羽詰れば別じゃがの。メドーサ、貴様ならこの状況どう見る?』

「サル親父に一票だね。結界は神族因子があれば通れる。神族全員拘束するなら別だけど。」



小鳩が首をかしげる。この会話は何かが足りない。
その足りない何かが、もやもやと小鳩の頭を巡る。
隣でやはり理解が出来てないような少年の顔を見て、彼女は手を上げる。



「あの、魔族さんたちは何がしたいんです?やっぱりその……世界征服、なんですかね?」

『決まってます!魔族の悲願は地上の制圧!余りある霊的資源の占有しかありませんよ!』

「あたしが受けた魔族の依頼もその線ばっかりだよ。小鳩にゃあ難しい話だろうけどね。」

「でも、お話だと数は少ないんですよね?それで世界中を征服なんて可能なんですかね?」



正直小難しい会話が続いており、我関せずで思考をシャットアウトしていた横島くん。
だが、隣の少女がたまにこちらを見ながら必死に会話に参加しているのに気がついた。
彼女なりに頑張っているのをなんとなく感じた横島は、とにかく参加しようと思った。



『魔法兵鬼は搭載量も火力も大きい。だが、確かに単騎では戦線を維持は出来んかのう。』

「簡単だよ小鳩ちゃん。アシュタロスって超悪魔復活させて後はそいつが征服すっから。」

「なるほどー!さっすが横島さん!小鳩もやっとそれで納得ができました!すごいです!」

「だろだろー?俺を恐れ敬い蔑んで!そしたら俺が小鳩ちゃん辱め……ん?どったの皆?」



モニターの中の小竜姫と斉天大聖、そして傍らに立つ乙姫とメドーサが横島を見つめる。
神族3人がそれぞれが目を大きく丸く見開いて、口をあんぐりと丸く開けて呆けている。
特にメドーサさんの表情が、コミカルなほどに大きく崩れていた。



「あ、あんたアシュタロス知ってるのかい!名前知ってるだけでも命狙われるんだよ?!」

「知ってる悪魔で残ってるのアシュタロスだけだし。美神さん逆らう奴は皆殺しだから。」

『で、ですけど!ヒャクメの報告では今しばらくは安泰だと言ってました!早すぎます!』

「じゃあ違うんかな。メンゴメンゴ。いや、実は当てずっぽうで言っただけなんだって。」



にこやかに否定する横島くん。
筆者も経験があるが、考えなしのなにげない一言で周囲が騒ぎ出す事が稀にある。
あげくにスゴイとか持ち上げられ始めると、考えなしだったので非常に困るのだ。
そういう時は素直に白状すれば大丈夫。ただ、稀にそれでも止まらない時がある。



『アシュタロス程になれば崇拝者も多かろうて。坊主の意見、なかなかに無視できんな。』

「アシュタロスの旗艦が異空間に居るんじゃ旧式のドンカメ程度じゃ役に立たないわね。」

『判りました。とりあえず打電して対異空間潜航艇部隊の派遣を要請しておきましょう。』

「まかせたわよー小竜姫ちゃん。……メドーサさ、あんたモチロン残ってくれるのよね?」



少しだけ期待を込めた乙姫の問いに、メドーサは目を瞑り黙るのみであった。
竜宮の責任者が、天界の地上責任者が、過去の上官が、そして現在の同僚が、
その中心にいるメドーサの開くであろう口を、何も言わずにじっと見ていた。

そして、口が開く。



「悪いけどあたしはもう軍属じゃないし。このメドーサ様の相棒は横島と小鳩なんだよ。」

『そうか、ならこちらが口を出す問題じゃないのう。これ小竜姫、そうふくれるでない。』

『この顔は元々です!ですけど、ちょっとガッカリしました!お師匠様、行きましょう!』

『すまんのうメドーサ。小竜姫も決して悪気がある訳ではない。察してやってくれんか。』

「あはは、お姫さまらしくていいじゃないか。長い付き合いなんだ、承知はしているさ。」

『では、お主の平和な生活とやらが長く続く事を祈っておるぞ。……達者でなメドーサ。』



老いた猿の一言に苦笑しながら手を振るメドーサの前で、三次元モニターの灯火が落ちる。
その向こう側には、小竜姫様と違い可愛さを一切排除した表情の乙姫が怒りを湛えていた。



「ねえメドーサ、この戦友の乙姫様に、なにか言うべきことがあるんじゃなくて?!」

「……忙しそうみたいだしさ、残念だけど海水浴は今度にするよ。また会えるだろ?」

「神族も魔族も、輪廻の輪には入れないわ。次は、もう会えないかもしれないわね。」

「まぁココが陥ちる様なら地上も大して変わりゃあしないってもんさ。だろ?乙姫。」



おどけた様子で肩をすくめるメドーサ。
それにつられて、怒りの表情だった乙姫も笑顔を浮かべた。
小鳩は心配そうに注視していたが、彼女らなりの付き合い方のようだ。



「まあね。しかし意外だわ、人間嫌いのメドーサがよりによってこんな男の子と組むなんて。」

「あんたに言われたかないよ。お猿のヴラシュマーだったっけ?あれと変わらないだろうに。」

「猿じゃなくて原始人。でもほんとヴラシュマーそっくり。もしかして戻ってきてくれたの?」



乙姫の回想。
明らかに現代人と違う毛むくじゃらで背中の曲がった垂涎が止まらぬ半猿半人。
芝生の上を楽しそうに走り回る彼。首の鉄輪も、それに繋がる鉄鎖も軽やかだ。
たまに発情するのか腰を振りながらイヤラシイ目つきで飛びかかってくる猿人。
しかし幼くとも竜神、笑顔を浮かべ即撃墜し表情を崩さぬまま鉄拳制裁が続く。



「ちょ、ちょい待ち!この(↑)どう見ても文化的じゃないのが、もしかしてヴラシュマー?!」

「そうよ?ホントにボウヤにそっくりで瓜二つなの!ねね、やっぱりおねーさんと暮らさない?」

「どーせこんな事だと思ったよー!俺はサルあつかいかよコンチクショー!うわあああああん!」



嘘泣きしながらもギリギリ水着の小鳩の胸に抱きつこうと駆け寄る横島少年。
ギアスのせいでギリギリの位置で止まる横島をそっと抱き寄せる小鳩ちゃん。
その感触で笑みを浮かべている事を悟られない様にする程度に彼はクレバー。
小鳩ちゃんはその辺もっとクレバーで、それを知っていながらも頭を撫でる。



「回線空けとくわよメドーサ。悲鳴を聞かせてトラウマにしてあげるから。」

「おっけー。回線は……乙姫のは、えっと、チャンネル/90だったかね?」

「それって魔界軍用の回線でしょ?違うわよ、チャンネル2HIME、よ。」



どうやら割る九零とは、とある魔族士官の戦友と約束した回線であるらしい。
それはさておき、GSメドヨコは残念なことに泳ぎつつポロリなイベントや
その他モロモロの読者と筆者の期待も虚しく帰宅することとなってしまった。



「そうだ、あの箱出しとくれよ乙姫。長居したわけじゃないけど、一応さ。」

「タイムアップデート?いらないでしょ。364徹してたの覚えてるわよ?」

「馬鹿だね、あたしにじゃないよ。ウチのチビッ子たちには必要だろうに。」



漆塗りの箱に朱色の紐で縛られた箱が乙姫の手からメドーサに渡る。
その姿を見た横島と小鳩が、一気に3メートルほど後ろに下がった。
そう、おとぎ話の伝承が正しければ、それは恐怖の箱のはずなのだ。



「???何逃げてるんだい二人とも。こっから煙が出てくるから、それを……」

「だ、駄目じゃあああ!それを開けてはならぬううう!開けたら死んじゃう!」

「なに言ってるのさ横島、こりゃあ異空間ボケを治す乙姫発明の経口薬だよ?」

「い、異空間ボケ?経口薬?な、なにそれ?おじいさんになるんと違うんか?」



異空間と外界では時間の流れが違う。早く進むこともあれば遅く進むこともある。
例えば異空間で一ヶ月滞在した場合、外界では10年以上も進むこともあるのだ。
そうなった場合、外界の時間軸に晒されて体内時計が大幅に狂うと最悪発狂する。
10年間で必要な睡眠時間28000時間が一気に240時間に圧縮されるのだ。
それを防ぐために過ごした時間を調整する『タイムアップデート』が必要となる。

ちなみに、玉手箱の正式名称は『タイムアップデートボックス』と呼ばれる。
昔の日本人には聞き取れなくて、それっぽい当て字にされたのかもしれない。



「メドーサさんを信じましょう!おじいさんになっても横島さんの事嫌いません!」

「俺だってメドーサ信じてるし!そっちもおっぱい大きい可愛いおばあちゃんだ!」

「大げさだね二人とも。ちゃんと肺の奥まで吸い込むんだよ?いちにの……さん!」



玉手箱と呼ばれる薬箱から煙がもうもうと立ち上る。
言われたとおりに胸いっぱいに吸い込む小鳩と横島。
やがて煙が落ち着くと、いつもの小鳩と横島が居た。



「おおー!小鳩ちゃんぜんぜん変わってない!これなら普通にイケる!むしろ大好物!」

「横島さんも普通に素敵です!小鳩もぜんぜんイケちゃいますから!私も大好物です!」

「言う通りにすりゃ大丈夫さ。もっとも、中途半端に吸い込むと加齢するんだけどね。」

「そ、そ、そういう大事なことは最初に言えええええ!殺す気かあああああああああ!」



泣き笑いしながら、メドーサに食ってかかる横島くん。
少し頬を染めながら、光景を優しく眺める小鳩ちゃん。
玉手箱の持ち主である乙姫様は、少し考え込んでいた。



「そういえば昔つまみ食いした人間の子が失敗してたっけ。あれは悪い事したわねー。」

「そ、それだー!それが浦島伝説の正体だろがどう考えても!なんちゅーめーわくな!」

「……まあまあ、横島さんは助かったわけですから、別にそれでいいじゃないですか。」

「……そだね。」



意外とあっさりしている小鳩ちゃんだが、彼女の優先順位のヒエラルキー的には問題ない。
簡単に不等号で表すと、横島>>>>>>>>>>>>宇宙の全て>小鳩、という感じだ。
こうして『ドッキリ三浦海岸ギリギリ水着大冒険、ポロリはなかった』事件は幕を閉じた。
帰り道ではさすがに懲りたのか、メドーサさんたっての希望で瞬間移動を使って帰宅した。

ちなみにメドーサが行きに瞬間移動を使わなかったのは、彼女なりの理由があった。
横島くんが父親と再会した際、電車に乗っていたのを皆さんは覚えているだろうか。
あれを聞いて、正確無比な電車とやらに性格的に共感し、乗ってみたくなったのだ。
だが、二度とメドーサさんは電車に乗ろうと思わなくなった、と付け加えておこう。










そしていつもの廃墟寸前のアパートに戻った3人は、いつもと違う光景を目にする。
いつもと同じ姿見、いつもと同じ流し台、いつもと同じコタツ、いつもと同じTV。
そしていつもと同じ美神令子。しかし違うのは、彼女がうつ伏せに倒れている点だ。



「み、美神さん?!なにしてはるんですか!?イタズラしちゃいますよ?ほれほれー!」

「……………………」

「え?あれ?おーい?これ以上は投稿広場に居れなくなっちゃうんだぜ?美神さーん?」



横島くんはうつ伏せの美神さんに近づき、スカートを大胆にめくり上げた。
さらに、接触禁止命令の限界まで顔をスカート内に近付けつつ覗き込んだ。
以前の美神ならば、間違いなく頚椎損傷に追い込む蹴りが来るはずなのだ。



「よ、よ、横島さん、ま、ま、まさか、し、し、しし、ししぃ、死んで、る、んじゃ……」

「スーパーエロエロタイム前に肉奴隷が絶命だと?!そんなの仮りにでもアリエッティ!」



混乱しながらあらぬことを口走る横島、その腕にすがりついて震える小鳩。
昏倒する赤い長髪の女性をひっくり返し、その口元に手を当てるメドーサ。
更にそのまま薬指を唇の中に差し込み、数秒後にそれを自分の口に入れた。
そこまできて、メドーサの表情から幾分かではあるが険が取れる。



「死んじゃいない。……しかし妙だね。アバズレビッチの魂、かなり欠けてるよ。」



横島くんもメドーサの真似をしようと美神さんの口に殺到する。
さすがにそこまではやりすぎ、と小鳩ちゃんに制されてしまう。
交渉の末、後日小鳩の足の指を横島が舐める条件で落ち着いた。

そんな中、メドーサが部屋を見回していると、見覚えのない球体が落ちていた。



「鞠?」



それを手に取ると、部屋の中空に花魁装束を纏った般若面が浮かび上がる。
咄嗟に小鳩と横島を庇い、手から刺叉を出して防御の構えを取るメドーサ。
しかし即座にその構えは解かれた。般若面に全く殺気を感じなかったのだ。



『横島さん聞こえますか?美神さんは、エネルギー結晶を失いました。』

「だ、だれじゃー!俺のすーぱー肉奴隷になんてコトさらすんじゃー!」

「落ち着きな横島、こりゃあ立体映像だよ。デブ悪魔のとき見ただろ?」



般若の面の脇からは鴉羽よりも黒く美しい、真っ直ぐに伸びた長髪が零れ落ちていた。
高圧的な見下ろしのアングル、派手な衣装も花魁下駄も般若の面も、全てが光を放つ。
表情も体型も全く見えない。しかし何故か少しだけ悲しげな雰囲気を感じさせていた。



『横島さん、美神事務所に戻ってきてください。……そこで、決着を付けましょう。』

「やらいでかー!この横島忠夫のスーパーモードでっ!貴様なんぞ返り討ちじゃー!」

「そんなモード無いだろ横島。それに相手の準備してる場所に飛び込んだって―――」



そこまで沈黙を守っていた小鳩が、不意に横島に抱きついた。
今はもうギリギリ水着は着てない。しかし、横島は驚愕した。
気弱な小鳩ちゃんが眉を吊り上げ歯を食いしばっているのだ。



「行ってはいけません。な、何故だか判りませんが、その、小鳩にはわかります……」

「な、なに?どうしたん?小鳩ちゃん?その、多少の罠なら受け切る自信はあるぜ?」

「大丈夫さ小鳩。心配しないでも、横島にゃあたしがバックアップするから安心――」



―――しな。そう続くはずだった。
しかしメドーサは不覚にも混乱して、その次の言葉が紡げずにいた。
原因は小鳩に差し伸べた手についた焦げ目。そして流れ込んだ霊力。



「小鳩には判ります。アレは、あの女は、唾棄すべき、忌まわしき、裏切り者です。」

「小鳩………」



咄嗟に手を隠し、目の前の少女を見つめるメドーサ。
必死に抱きつき、目の前の少年を守ろうとする小鳩。
呆然と立ち尽し、目の前の光景が把握できない横島。
気絶し突っ伏し、目の前の出来事を感知できぬ美神。

それぞれが混乱している。そして、何かが転がり始めたことを気付かずにいた。
しかし、気付こうが気付くまいが、転がり始めたものは容易に元には戻らない。
足元に転がる鞠がそうであるように。

GSメドヨコ、そろそろ佳境というわけである。










つづく。


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