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GSメドヨコ従属大作戦!!

時間は止まらない(前編)


投稿者名:まじょきち
投稿日時:12/ 7/ 9




時は宵の口。
本日の除霊も終わって、夕食後の団欒にまったりと浸る3人。
ここはGSメドヨコ除霊事務所、兼、横島くんのお部屋……



「ごちそーさましたっ!」

「ごちそうさまでした。あ、食器は私が片付けます。」

「いつも悪いね小鳩。さてと、じゃあさっそく………」

「ああああああ!リモコンもってっちゃ駄目やおー!」



……兼、チャンネル紛争激戦区。
ここでは『食事中にはテレビを見ない』という昭和チックなルールがある。
その為に、テレビ用リモコンは食器が片付くまでは触れてはいけないのだ。
タイミングを見計らっていたメドーサが横島より一瞬早くそれを手にした。



「ちょ!またニュースはヒドイ!次は『ファッション単向通信』の時間だぞ!」

「くだらないね、どーせ『シースルーひゃっほう!』しか言わないくせにさ。」

「ち、違うんじゃー!今日はなんと新作トレンド水着のご紹介なんじゃよー!」

「うるさいねえ。じゃあ、新作トレンド水着とやらを見たらなんて言うのさ。」

「ぎりぎりビキニひゃっほう!」

「やっぱり一緒じゃないか……それじゃあ小鳩、あんたの意見を聞こうかね?」



新兵器の指揮権限を巡って争う幹部たちをよそに、洗い物をしていた小鳩ちゃん。
いきなり自分に発言権を与えられたのに驚き、スポンジを持つ手元を数秒止める。
苦笑しながらも少し考え、そして彼女にとっての最善を答えた。



「うーん、ニュースはさっき見ましたし、水着でもいいのかなって思います。」

「小鳩は相変わらず横島に甘いねえ。まぁ、小鳩が言うんなら今回は従うよ。」

「なんだよそれ!小鳩ちゃんに従うくせに、なぜ俺にはアタリがキツいんだ!」

「あたしに従う横島、横島に従う小鳩、小鳩に従うあたし、循環サイクルさ。」

「うむむむ?そう言われると確かに理にかなってる?ような?よーわからん!」

「ふふ、横島さんそろそろ始まりますよ?なんでしたっけ、ぎりぎりの番組。」



ぎりぎりの番組ことファッション単向通信とはBSジャポンが誇るファッション番組である。
以前は地上波で深夜に放映されていたのだが、何せ最新トレンド、色々出してる女性が出る。
そのせいなのかは知らないが、衛星放送枠に今は落ち着いてしまっている超有名番組である。

ちなみに横島くんのアパートはケーブル局対応ではなく、屋根にアンテナを設置している。
よくある話だが以前の住人が屋根にパラボラを設置して引込をしていた為、BSも見れる。
何故わざわざ屋根に付けて窓枠に付けないかというと、国営放送の徴収員を欺く為らしい。



「おおー、コレはなかなか!この胸元の切れ込みが超素晴らしい!」

「こんなトゲトゲじゃあ泳げないだろうに。本当に水着かいコレ?」

「買った事無いんで良く判りませんけど、幾ら位するんですかね。」

「欲しいんなら俺に言えってば!これでも結構頼りになるんだぜ?」

「じゃあさ、あたしの分も頼むよ。揃ったら泳ぎにでも行こうか。」

「うははははは!よっしゃあ!吐いたツバ飲まんとけよメドーサ!」

「飲みゃしないよ、そんなの。」



他愛も無い会話に花が咲くGSメドヨコの面々。
こうして何事も無く、日常の夜は更けていった。
しかし、女性陣は翌日驚愕する事となるのだが。



「ふーんふふーんふーん。」



翌日、昼。
珍しく一人で外出した横島くんは、膨大な量の紙袋を手に部屋に帰ってきた。
部屋には色とりどり様々な種類の生地が並ぶ。そして負けない程の裁縫道具。



「……あ、あのー、横島さん?お、お洋服屋さんでもはじめるんですか?」

「は?水着水着。昨日言ったじゃんか。やっぱプールより海がいいよね。」

「メドーサさんっ!横島さん本気にしちゃってますよ!どうするんです?」

「やるじゃないか。認知判断操作は素早くが鉄則さ。勉強してるね横島。」



皆さんご存知の通り、横島くんは欲望が絡めば努力を惜しまない人である。
そして手先が器用であり、女体への探究心では常人の256倍以上はある。
そして女性陣はなんだかんだ言ってても、結局は着てくれると踏んでいる。



「言っとくけどね、着れないって判断したら山での修行に変更するから。」

「イイの作るって約束するぜ?まさに約束された勝利の水着なんだぜ?!」

「ま、まあ、横島さんがそこまで言い切るなら大丈夫です……ですよね?」



服を作るときには、寸法を測って型紙を起こして裁断して裁縫する。
しかしセオリーを知らない横島少年は、いきなり生地を切り始める。
子供が切り絵を行うかのような乱雑さで、様々な素材を切り進める。



「あの、絶対大丈夫だとは思いますけど、一応、山に行く準備もしておきますね。」

「じゃああたしは魔鈴にフォロー頼むついでに、海の知り合いに声かけてくるよ。」

「うはははははははは!水着の神が今俺様に降臨中!手がマッタク止まらんわい!」

「へえ?そんな神族がいたのは初耳だよ。やっぱり世の中ってのは広いんだねえ。」



GSメドヨコはチョイチョイ休みすぎでは、とご心配の向きもあったかもしれない。
除霊稼業をする事を禁じられた魔鈴だが、多忙時にメドーサが下請けに出していた。
代行したときの報酬は全て魔鈴のもので、メドーサ魔法ノートもその都度渡される。

小鳩とメドーサが帰宅してもなお、彼は満面の笑みでハサミを振るっていた。
だが二人が出た時と違い、針山には様々な色と太さの糸が針に通されている。
どうやら横島くんは単に布を切って遊んでいた、というわけではなさそうだ。



「ねえ横島、その水着って奴はどれくらいの時間で出来あがりそうなんだい?」

「3日ください!露出度を段階的にご用意します!それでお値段なんとタダ!」

「あー……じゃあ明日出発だね。どうせ最後のなんてほぼ全裸になるんだろ?」

「な、何故にバレもうした!?!?」



打ちひしがれる横島少年。しかしそんな中でもハサミを握る手は一時も休まない。
コタツ板をはみ出し、もはや部屋中に散らばる布生地をメドーサと小鳩は眺める。
色とりどり、大きさの違う様々なパーツが一体どんなものに仕上がるというのか。
それは中学時代に被服を勉強した小鳩にも、神であるメドーサにも判らなかった。









一方、妙神山。あらせられます我らが姫さまこと小竜姫さまとサルが詰める天界出張所。
そんな姫さまだが今日はいつになく真剣な表情を湛えて旧式の操作盤に張りついていた。
どれほど旧式かといえば、映画ナバロンの要塞で使われた位と言えば判り易いだろうか。



「お師匠様、映像を流します。かなりショッキングですので驚かないでくださいね。」

「なに、それなりに現場は踏んでおる。気遣いは無用、それより今は情報が欲しい。」



ボタンを小竜姫が操作すると、部屋にある大き目のブラウン管モニターに画像が映る。
出てきた映像には黒煙と炎に包まれた部屋と傷だらけの人物がノイズ交じりで現れる。
更にボタンが押されると、その映像が分割されて3つの光景が増えて4画面となった。



『こちらジャブロー、応答されたし!上空より敵多数!最終防衛ラインが突破されました!』

『こちらオデッサ、や、やつが来る!黒い、黒い彗星―――――うああああああああああ!』

『こちらキャリホルニアベース!味方が操られて―――!だ、だめだああああああああー!』

『ぬああああ、生き血を啜るのも不埒な悪行も浮世の鬼もここにはありません、助けてえ!』



一つのモニターから流れていた騒音が不意に止まり、白黒が横に乱れるノイズのみになる。
それはまるで申し合わせたかのように、次々と伝播し、やがて4つともノイズのみになる。
無言の部屋の中で響く延々と続く砂嵐のようなノイズ。それらが今度は一斉に黒く消えた。
お師匠様こと斉天大聖が、そのスイッチを切ったのだ。



「お師匠様がお出かけになってる間の映像です。半日ですが主要拠点4つが落ちました。」

「南北米、中央アジア、欧州の拠点か。ふむ、もう少し持ちこたえるかと思ったがのう。」

「地上の天界拠点54が既に陥落し、天界に属さない冥界拠点も多数破壊されています。」



斉天大聖がメガネを掛けなおして、今度は手元の資料をじっと見はじめた。
『ForYourEyesOnly』と書かれており、特殊な情報らしい。
それ以上特に口を開かぬ上官に、しびれを切らせた小竜姫が立ち上がった。



「ここまで出来る相手は魔界しかありません!これは魔界軍の総攻撃ではないんですか?」

「天界最高会議宛に魔界指導部から連絡が入ったそうだ。魔族の一部が突出したらしい。」

「これ程の攻勢をしておき一部と言うのですか!?では何故魔界は傍観しているのです!」



映像を流したカラーモニターには、今度は残る拠点のライブ画像が交互に映し出される。
ちなみについ先日までは、妙神山出張所にある受像機は全てモノクロモニターであった。
その後小竜姫の度重なる申請を経て、『個人用を含む』すべての受像機がカラー化した。



「人界不干渉条約を盾にしておるのじゃよ。魔界は拠点を作る事を禁じられておるでな。」

「つまり出兵をさせたくば人界の利権を差し出せ、という事ですか。……まさか狙いは!」

「そう見る幹部も多いのう。交戦派も粛清派も、良い機会だと私兵を集めだしおったわ。」

「天界まで暴発すれば聖書級大崩壊レベルの戦いになりますよ?何を考えてるんですか!」



声を荒げる小竜姫に、メガネ付の猿が手元の紙束を無造作に投げ渡す。
それは斉天大聖が妙神山を空けてまで手に入れたかった資料であった。
占拠された拠点での資料。攻撃日時、その動き、時間経過、被害状況。
資料作成者の欄には『捲簾大将沙悟浄』『天蓬元帥猪八戒』とあった。

小竜姫も流石にこの情報の重要性を感じたのか無言で目を通し始め、数分が過ぎた。



「それにしても侵攻速度が速すぎます。大型の魔法兵鬼が大量にいるのでしょうか?!」

「いや、情報を見た感じだと特殊部隊のようじゃな。だが結界に潜入するとなると……」

「つまり、裏切り者……しかし、魔族と渡り合えて、さらに協力できる神族なんて……」



神族拠点に入る為には3つの方法がある。
神族霊基コードを持つ、結界管理者か責任者の認証がある、結界破りを持つ、である。
妙神山の場合には総責任者が小竜姫、結界管理者は『右の』と『左の』の彼らである。

そこで2人の脳裏に、とある同じ人物が浮かび上がる。
確かにいる。神族でありながら魔界とのパイプを持ち、更に自由に動けるものが。
だが、片方は親愛から、片方は信頼から、それは有り得ないと考えを振り払った。






翌日、GSメドヨコ除霊事務所では浮かれまくった少年が飛び跳ねていた。
どうやら約束された勝利の水着とやらが本当に完成をしてしまったらしい。
小鳩ちゃんとメドーサさんは出来たてほやほやの水着を着させられていた。

色は上下とも白。
胸が大きく隠れる伸縮素材で出来た筒状の上に、カットジーンズの様なイメージの下。
ただし、2人ともサイズがサイズなので谷間は押さえられている分さらに強調される。
無論白の生地は下が透けるが色付きの生地を間に複数仕込ませている為、問題は無い。
時折ジャンプしたり股割りしたりするメドーサ、水着の縁と肌の隙間を確認する小鳩。



「サイズを合わせたチューブトップは動きやすさを考慮!さらにホットパンツで小悪魔度アップ!」

「い、意外ですね。その、正直色々はみ出ちゃう水着とか出て来るんだとばっかり思ってました。」

「ちょっと若向きだけど、これ位なら別に文句は無いよ。……で、後ろに隠してるのはなんだい?」



後ろ手に持っていた布切れを横島くんはモジモジしながら2人の目の前に晒した。
やはり白なのだが、ゴム紐のような輪、かろうじてパンツっぽい体裁の小さな布。
その面積的には、人形用の水着であると言っても不自然ではないほどの小ささだ。



「これが最終段階の水着なんだが……き、着てくれたりしてほしい、なんて?」

「ふーん?あたしは別に着てもいいけどさ、こりゃあタダじゃあ着れないね。」

「え?えええ?メドーサさんこれ着ちゃうんですか!色々出ちゃいますよ?!」

「ひゃっほう!何でも差し出しますぞおおお!ぜひ着てくだされえええええ!」

「わかった。じゃあ代金は横島の足でも貰うとするよ。もちろん、三本とも。」



以前はあまり人間のことが好きではなかったメドーサだが、流石に何本足かくらいは熟知している。
しかも、奇数の足を持つものは世界にほとんどない。せいぜいバッフクランの重機動メカくらいだ。
では何故に博識な彼女がそんな間違いをしたのか?それは多くの人間にとっても永遠の謎であろう。
だが、超人的能力を持つ宇宙の救世主たる我らが横島くんには、瞬時に理解出来てしまったようだ。



「お、俺が悪うございました!特に三本目は俺にとってはまさに相棒!杉○右京さんレベル!」

「こっちの出来に免じて今回だけは許してやるけどね、今度なめた真似したら承知しないよ。」

「まぁ、その、アンダーショーツとニプレスの代わりだと思えば下に着るのもあり……かも?」



何故か股間を押さえて泣きながら謝る横島くん、その彼をそっと慰める小鳩ちゃん。
メドーサさんはといえば彼の落とした最終段階を拾いあげ、事もなく胸元に入れた。
非常識かつ不埒千万である最終段階水着も、焼却処理などはどうにか免れたようだ。



「じゃ、遊んでないでそろそろ出かけるよ。準備しな。」

「うぇい!」

「はい!」



そしてごく自然な流れで、メドーサの腕にしがみつく小鳩ちゃんと横島くん。
しかし、当のメドーサはきょとんとした表情で二人を見つめるだけであった。
そんな変化に気付かず、笑顔で腕にしがみついて肉の感触を楽しむ横島くん。
小鳩ちゃんはさすがに変化に気付き、姿勢は保ちながらも恐る恐る見上げる。



「???……何してるんだい二人とも。別に抱きつくなとは言わないけどさ。」

「メドーサさん、もしかして今日は瞬間移動で海まで、とかじゃないんです?」

「あ、そうか。ちょっと思う所があってね、海までは普通に電車で行こうか。」

「あ、そ、そうだったんですか。じゃあ部屋に戻って服に着替えてきますね。」

「街歩きも考えたデザインにしてあるぜ?!ちょっと上着を羽織れば大丈夫!」

「なに言ってるんですか!今三月ですよ?!水着で出たりなんかできません!」



小鳩ちゃんの為にフォローしておくが、彼女は横島くんのエロガキさを責めている訳ではない。
暦上は春であるとはいえども肌寒い。低い露出であるとはいえ、それはあくまで水着でのこと。
特に小鳩ちゃんは、未だにメドーサと初めて肌を重ねた時のことが印象に強く残っているのだ。

そんな小鳩と横島のじゃれ合いを眺めていたメドーサが、悪そうな笑顔で小鳩に手招きをする。



「ちょっとイイコト考えたんだよ。小鳩、耳貸しな。」

「あ、は、はい。な、なんでしょうかメドーサさん。」

「―――――――でさ、―――――――だろ?で、―――――――――。」

「な、なるほど。それは、うーん、いい考え、なのかな?と、思います。」



困ったような笑顔のような、非常に微妙な表情を浮かべる小鳩ちゃん。
一方のメドーサさんはといえば、満面の悪そうな笑みを浮かべていた。
そして二人のないしょ話についていけず、呆けている横島くん。



「じゃあ横島、ちょっと準備があるから屋根でリンボーダンス踊ってきておくれ。」

「え?お、俺が?屋根で?リンボーダンス?な、なにゆえそのようなご無体を??」

「嫌なら山に変更するかね。小鳩、山に行く準備ってのはもう出来てるんだよね?」

「あ、はい。それはもう。八ヶ岳登頂するくらいの機材は昨日の内に揃えました。」

「うははははは!超リンボーダンスしてくる!名前も大声で叫んじゃうってば!!」

「素直ってことは良い事だねえ。いい眷属を持ってあたしも鼻が高いってもんだ。」



この後、アパートの屋根で自己紹介をしながらリンボーダンスをする少年が目撃される。
偶然通りがかったイタズラ好きの妖精が、その仕事にひとしきり感心するほどであった。
やがて準備を終えた女性従業員二人は、そんな彼に一瞥もくれずアパートから出て行く。



「ちょ!放置プレイとかマジ勘弁!せめて馬鹿にしてくれないと俺悲しいってばよ!!」

「あ、そ、その、楽しそうだから、そっとしといてあげようって、メドーサさんが……」

「メドーサてめえ!確かにちょっと気持ちよかったが!海には俺も行きたいんじゃよ!」

「さっさと降りてきな。状況判断は戦場のイロハ、最善は用意されるもんじゃないよ。」



一足飛びに屋根からメドーサの隣に飛び降りる横島くん。無論着地に成功するわけもない。
手足を広げて墜落するのだが、そこはやはり横島くん。ローアングルの偵察は欠かさない。
心配そうに覗き込む小鳩と馬鹿にしたように見下ろすメドーサを、下から嘗める様に観察。
そこで何を見たのか、横島少年は感涙を浮かべて素早く起き上がり、女性陣の手を取った。



「おおおおお!その粋な計らいにこの横島、感謝してもし足りませぬ!ありがとう二人とも!」

「あ、そ、その、これはメドーサさんの考えで……でも、海じゃ普通のしか着ませんからね?」

「馬鹿やってないで早く出かけるよ。行き先は三浦海岸らしいんだけどさ、案内頼めるかい?」

「俺にぃぃぃまぁかぁせぇとぉけぇぇぇぇ!そんなもん俺の庭よ庭!港のヨ−コ横浜横須賀!」



すこぶるご機嫌で、鼻歌交じりで二人の手を引いて駅に向かいはじめる横島少年。
彼をここまで元気付けたのは一体何なのか。それはやはりローアングルであろう。
横島くんが見たもの、それは彼が夜なべして繕い上げた最大露出の水着であった。
結局横島くんの未来予測どおりに、なんだかんだいって女性陣は着てくれたのだ。








そして、時を同じくして異空間。
異空間とは、別に真っ白で何もないというわけではない。
雰囲気で言えばICスクリーンのS753な感じである。
そこにヘラクレスオオカブトムシ風のモノが浮いている。



「ルシオラも帰ったか。さすがはアシュタロス様の作戦、思ったよりも簡単だったなー。」

「土偶羅、こんなセコイ手使わないでも私らだけで何とでもなったよ。気に入らないね。」

「べスパ、アシュ様直々の作戦なのよ?急に作戦変更って確かに少し変だとは思うけど。」

「私の作った服、気に入ってくれたでちゅか?シルクワーム。」

「ええ、すごく素敵よ、パピリオちゃん。」



艦橋と思しき部屋の中には、土偶羅と呼ばれた土偶型のロボットのような者、
べスパと呼ばれた乳が大きくすばらしいバディの触覚の生えたキツめの女性、
先ほど帰還したルシオラという名の控えめな乳の触角の生えたタレ目の女性、
そしてパピリオと呼ばれた小さい女の子、その4名がひと塊に集まっている。

そして数歩離れた位置で一人佇む、般若面を被り花魁衣装を身に纏う女がいた。
その般若面が、どうやら小さな女の子に『シルクワーム』と呼ばれた者らしい。



「こんな得体の知れない奴に頼んなくたって、私らだけで拠点潰せばいいじゃないか。」

「神族因子を持つシルクワームのおかげで結界が無視できたからこそ『楽』なんだぞ。」

「わかってる。わかっちゃいるが……どうにも神族の裏切り者なんて信用できないね。」

「で、エネルギー結晶の位置は本当にココ?調査もしないで向かってるみたいだけど。」

「シルクワームの情報は信じろとアシュタロス様のご命令だ。イケブクロに向かうぞ。」



アシュタロスという存在を皆さんはご存知だろうか。
封印されし大悪魔。魔界大公爵。そして、復活した暁には人間に確実に害を為す存在。
美神令子と横島忠夫が、まさに『過去』にその復活を阻止した忌避すべき存在である。
ギャグ漫画を標榜するGS美神のストーリーで唯一のメインストリームと言っていい。
そしてとうとう、その本筋が始まってしまったのだ。








もっとも、そんなシリアス本筋とは大きく離れた我らがGSメドヨコチーム。
ラッシュ時を少々ずらしているとはいえ品川からの京急はすごく混んでいる。
そんな中で小鳩とメドーサに挟まれ、至福の笑みを浮かべる横島くんがいた。



「きゃっ!だ、大丈夫ですか横島さん?ちょっと押されちゃって、一回降りたほうがいいかも……」

「だ、駄目やおおおおおおおお!定時定着は電車の基本中の基本!俺にかまうなあああああああ!」

「うわ、また乗ってきたよ。効率重視とはいえこりゃキツいね。人間ってのは昆虫かなんかかい?」

「むきゅううううううう!昆虫最高おおおお!ゆけゆけハッチみつばちハッチぃぃぃぃぃぃぃぃ!」



非常に苦しそうな横島くんである。メドヨコ女性陣に圧迫されて顔もかなり紅潮している。
また凄く運も良くない。さっきからちょくちょく切符を落としたと言いながら屈んでいる。
その為に頭の位置がその都度変わってしまい、小鳩とメドーサの胸元に交互に圧迫される。

そんなラッシュも蒲田を過ぎればひと段落。あっという間に車内にスペースが出来る。
ほっとする女性陣に対し、何故か表情が一変し舌打ちまで出てしまう我らが横島くん。
長距離渋滞を楽しみに変える人がたまにいるが、彼もその様な感じなのかもしれない。

その後、空いた席に三人は並んで腰掛け、窓の外を見ながら無言で過ごしていた。
外の光景は古い繁華街の光景から、やがて、のどかな田園風景に変わっていった。



『だぁー、しぇりえす、しぇりえす、しゃるどあぃおちぇぃだせぃ』

「よ、横島さん、起きてください!ほら!メドーサさんはもう出てますよ!」

「ふぇ?も、もう着いたの?神奈川だったら12時間位かかるはずだが……」

「なわけないですっ!神奈川県はお隣なんですから!ほらほら!早く早く!」



東京人には良くある事だが、横島くんは神奈川と香川を勘違いしている。
眠い目をこすりつつ、小鳩ちゃんに手を引かれて車両から出る横島少年。
数秒後に、特徴的な丸みがかったシルエットの赤い電車が出発を始めた。
GSメドヨコチームを除けば、ホームに人影はまばらにいる程度である。



「えっと、海水浴場ってのに行けばいいんだけど、ここ、普通に駅前にしか見えないねえ。」

「ふっふっふ、ちょっと待てメドーサ!―――こっちだ!間違いねえ!少々薄いが感じる!」

「え?し、潮の香りとかですか?……ええっと、その、そんな匂いはぜんぜんしませんよ?」

「大丈夫だって!去年の水着のねーちゃんの感じがするんだ!判る、判るぞおおおおおお!」



三浦海岸駅の出入り口からは、普通は遠回りでも右手に出て広い県道から南下する。
しかし嗅覚をあてにする横島くんは住宅街を直進する。無論、標識なぞ一個もない。
普通に住宅街をテクテクと先導する横島くんに、神様も少々心配そうな表情をする。



「いっとくけどね、ここまで来て迷子とか言い出したら承知しな―――――」

「あ、う、海ですよ!すごーい!うわー!やっぱり広いですねー横島さん!」

「どーだぁ!俺にかかりゃG●●gleマップなんざ不要だぜ!のははは!」



住宅と駐車場にはさまれた狭い市街地に、突如として広がる海。
浦賀水道の向こうに見えるは、薄く青みがかった千葉の稜線だ。
そしてすぐそこにはもう、大いなる母なる海の太平洋が広がる。



「うわー!うわー!小鳩感激です!横島さん、私、海水浴って初めてなんですよ!」

「そーだったのかー!じゃあ俺も感激!小鳩ちゃんの初体験は俺とってことだし!」

「さてと、あたしはちょっと知り合いに連絡するかね。ちょっと静かにしてなよ。」



鱗模様のヘアバントを両手で触れながら目を閉じるメドーサ。

メドーサさんも小竜姫様と同じようなヘアバンドをしているのはご存知のとおり。
その神気を纏ったそのアクセサリーを人間がつければ、神力を借りたりもできる。
しかし、神様にとっては自分の物なので、特にそういう効能はあてにしていない。
では何故に、竜神様たちはわざわざオシャレでもないヘアバンドをしているのか。



『あーCQCQ。めんどくさいね、乙姫、聞こえてるんだろ?さっさと応答しな。』

『遅いわよー。あんまりノンビリしてると嫁き遅れに拍車がかかるわよメドーサ?』

『ガツガツしてる万年発情女と一緒にされたかあないよ。さっさと迎え寄こしな。』

『おっけー、3人だっけ?言っとくけど汚さないでよね。一応官給品なんだから。』

『そっちこそウチの眷属タラシこもうとしたら承知しないよ。以上、交信終わり。』



そう、いわゆる便利グッズ。神族同士での交信機としての役割を持っているのだ。
精神感応も持つ神族ではあるが、この便利グッズはそれ以上の用途時に使われる。
何故精神感応を使わずにワザワザ交信機を用いたのか、それは追って説明をする。



「おおー!さすが海!ウミガメが浜に上がってきたぞ!なんとゆーグッドタイミング!!」

「産卵するんですかね?!それに大きい!…………あ、あの、ちょっと大きすぎません?」

「あはは、あれが迎えだよ。二人とも乗った乗った。―――よろしく頼んだよドンガメ。」

『畏まりましたメドーサ殿。しかし本当にお懐かしいですな、この前はいつ頃だったか。』

「竜宮の使いに懐かしいとか言われると本気で年を感じるからさ、やめてくれないかね。」



ドンガメに乗り込む三人。やがて海に潜りはじめ、その光景が段々と薄暗くなっていく。
やがて光が遮られたあたりで周囲の光景が割れて、ICスクリーンのS753に変わる。
つまり異空間である。そう、便利グッズは異空間の相手とも交信できる優れものなのだ。
あのヌイグルミみたいな通信鬼でもいいのだが、携帯性ではヘアバンドに軍配が上がる。



「おお、海がもにょもにょした模様に変わったぜ!?」

「異空間にシフトしたんだよ。なんせ竜宮城ってのはさ、天界の異空間監視拠点だからね。」

「え?りゅ、竜宮城!?もしかして乙姫様が俺らを大歓迎?乙姫様っておっぱいおおきい?」

「嫌われてはいないと思うけど、歓迎ってのは厳しいかもね。あと、乳なんか知らないよ。」



予想外の事態に戦々恐々としないばかりか、踊りながら歓喜する流石の英雄横島くん。
だが、一方の小鳩ちゃんはといえば、さすがに横島くんとは違って、その表情は固い。
鼻歌交じりで椅子に腰掛け足を組むメドーサ嬢に、小鳩ちゃんはそっと耳打ちをする。



「あ、あの、メドーサさんは、乙姫様って会ったことあるんですか?どんな人なんです?」

「あるよ。兵学校の同期なんでね。男好きな上に人間好きってゲテモノで有名だったよ。」

「男好きで人間好き……やっぱり美人だったり、その、おっぱいが大きかったりします?」



さすがのメドーサも小鳩の質問に目を丸くして驚く。
もしかして特殊性癖でも持っているのかと心配したメドーサであったが、その表情を見て払拭した。
横島少年を見ながら少し沈んだような表情を浮かべる彼女に、やはりというか、意地悪く微笑んだ。



「まぁ神族はイデアの結晶だからね、見た目は整うさ。あと、乳もそれなりに大きいかね。」

「あ、そ、そうなんですか……あ、いえ、だからどうしたって訳じゃあないんですけど……」

「でもさ、あたしもそうだけど、羞恥心ってのは持ってないからね。狙い目はそこかねえ。」

「な、なるほど……って、あの、狙い目とか、私、そういうつもりで聞いたわけじゃあ……」

「じゃあ聞き流しておくれ。どうも年とったせいか余計な事に気を回しちまうみたいだね。」



再び視線を前に直して、鼻歌交じりで背もたれに身を深く預けるメドーサ。
小鳩もやはり、先ほどと同じように再び考え込むような表情になっている。
そしてドンガメは歪んだ空間の割れた先にある古い中国風の城に到着した。



「相変わらずババくさいわねメドーサ。もっとオシャレなさい。だから婚期逃がしてんのよ?」

「久々に会ったってのにご挨拶だね。ま、お互い変わってないっちゃ変わってないって事か。」

「あら可愛い人間の男の子がいるわね。ボーヤ、もしかしてナントカシマって名前じゃない?」



横島くんの超人的なセンサーが目の前の乙姫と名乗る女性の走査を開始する。
美人、おっぱいおおきい、現在のところ好感触。そして触っても多分好感触。
彼は『もしかして美味しい事あるかもしれない』という結論をはじき出した。



「ハイハイハイ!俺ナントカ島です!いやー、ナントカの部分も多分あってます!なんとなく!」

「そうなんだ。じゃあ所帯持つしかないわね。そしたら身体全部使って色々尽くしちゃうわよ?」

「おほ、ま、マジすか!?尽くすとか言われちゃうと、非常にあらぬ期待に胸がふくらみんぐ!」

「そーね、本妻にしてくれたら基本おーるおっけー。あと多少の浮気くらいは目をつぶるわね?」

「おーるおっけーですと?!?!んでもって浮気もおっけー?!?!?そんな世界があるとは!」



読者諸氏の皆様は当然、浦島太郎というおとぎ話をご存知であろう。
昔々浦島は、ハ○ヤの亀に連れられて海底温泉に行ってみれば……
おっと、コレジャナイ。亀を助けて太郎が竜宮城に行く物語である。
そこに乙姫様というヒロインが出てきて酒池肉林が展開されるのだ。



「駄目です!よ、横島さんは、横島さんは……横島さんは小鳩と結婚しました!」

「え?ま、まあそうなんだけど、でも!おーるおっけー!胸がテーハミング!!」



ちなみにテーハミングは大韓民国の現地読みで誤用なので気をつけよう。
身もだえする横島少年だが、小鳩ちゃんの方向を見てその動きが止まる。
そして耳と鼻から、一般人ならば致死量を軽く越える血液があふれ出す。
横島くんを止めたもの、そして生命を脅かす出血を起こさせたものとは。



「ぎ、ぎ、ギリギリひゃっほおおおおおおおおおおおおおおおう!」



瞬時に小鳩のフトモモに抱きつく横島。小鳩も決して嫌悪してはいないようだ。
そして、おーるおっけーの誘惑を見事に撥ね退けた秘密は小鳩の服装にあった。
彼女はセーラー服を脱ぎ捨て、まさかの横島式最終段階水着になっていたのだ。



「思ったとおりやああああああ!見えそうで見えないポッチ!隠れそうで隠れない秘密の花園!」

「こ、小鳩だって負けません!その、横島さんが、その、おっけーなら、あの、えーと…………」

「渡しはせん!渡しはせんぞお!このビグザムがあるかぎり!ソロモンは俺のもんじゃあああ!」



なにがビクザムでなにがソロモンなのかは、書き手たる筆者にも皆目見当がつかない。
横島くんは渡したくはないらしい。その宣言は小鳩ちゃんとっても嫌ではないらしい。
そこのところを皆さんもニュアンスでなんとなく納得してくれると非常にありがたい。

メドーサさんは二人に見えないようにウィンクして、片手で拝むようなしぐさをする。
乙姫様は彼女の礼拝にその意を得たのか、肩を軽くすくませて呆れたように微笑んだ。

その時、竜宮城の来賓スペースに甲高い警戒音が鳴り響いた。




『こちら小竜姫、乙姫聞こえますか?暗号回線レベルAAAで開きなさい。』

「はいはーい。こちら乙姫、それじゃ回線暗号ZHでモニター開きまーす。」



空間に画像が浮かび上がる。いわゆる三次元空間モニターという奴だ。
妙神山の古臭い機材と違って、竜宮城の画面は非常に近未来的である。
そこは小竜姫の置かれている立場と竜宮城の重要性の違いなのだろう。



『異空間に正体不明の鬼体が潜伏しているという報告を見ました!本当ですか?!』

「それって100時間以上前の情報ですけどー?小竜姫ちゃん見てないのかしら?」

『ちゃんはやめなさい!私は人界拠点総責任者の小竜姫として話しているのです!』

「一本取られたね乙姫。こちらメドーサ、殿下に於かれましてはご機嫌麗しゅう。」

『ねーさまがなんでそこに?異空間監視拠点は天界中枢でも超極秘なんですよ?!』

「海水浴。乙姫とあたしは同期。第三次異空間攻略戦に猿とココにいたし。以上。」



画面内では小竜姫の傍らから、メガネをかけた猿顔が現れる。
乙姫はリラックスしたポーズから一転、軍隊式の敬礼をする。
脇を締めての敬礼を見ると、以前に船に勤務していたようだ。

一方のメドーサは、足を広げたままで腕を組んで立っていた。



『おお。乙姫、メドーサ、三人で顔をあわせるとあの戦いが昨日のようじゃな。』

「斉天大聖閣下にそう言って頂けるとは恐悦至極!小官にとって身に余る光栄!」

「乙姫はサル親父派だったっけねえ。で?正体不明の鬼体って魔族の兵鬼かい?」

『そうらしいの。人界の拠点が半分もっていかれたわ。コマンドで急襲じゃて。』

「だらしないねえ。前も言ったけど結界に頼るからさ。戦いは数だよやっぱり。」

「口を慎みなさいメドーサ!無敗の軍神たる斉天大聖閣下に無礼は許しません!」



目の前の神同士の会話にまったくついていけない小鳩。
そして、そんなものより目の前の桃源郷に夢中な横島。
そう、この奇妙な神々の立ち位置は、はるか昔に遡る。




(後編に続く)


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