椎名作品二次創作小説投稿広場


GSメドヨコ従属大作戦!!

テロの脅威(後編)


投稿者名:まじょきち
投稿日時:12/ 7/ 3

(前編より続き)





一方、GSメドヨコの面々は浅草に居た。
新旧の住宅街繁華街観光地が並び人通りも激しく、そして千代田区中央区からも程近い。
観光客は国内外から押し寄せる。潜伏場所に以前メドーサが目をつけていた場所である。



「腹が減っては地域限定核戦争は出来ぬっていうのぜ?どっかメシいかね?」

「確かに補給は取れるときに取るのが真理だね。手持ちは幾らあるんだい?」

「ゑ?お、俺の財布?その、にひゃくごじゅうえんと、クーポン券7まい。」

「しょうがないね。小鳩、ちょっと貸してやんな。多少は持ってるんだろ?」

「あの、お部屋でメドーサさんが暴れた時に、どっかに……すみません……」



顔を見合わせる3人。
儲かっているとアレだけアピールをしておきながら、この体たらくである。
確かに儲かっている。平均的中企業の口座より資金はストックされている。
だが、所詮は数字上の話。その殆どは銀行の残高になっているに過ぎない。



「あのねえ……急な入り用が出来たりしたらどうするつもりだったんだい?特に横島。」

「だ、だってさ!おかね持ち歩くのって危険だなんだぜ?!落としたらどうするよ?!」

「す、すみません!私がしっかりしてればこんな事には!横島さんは悪くありません!」

「………ったく、しょうがないねえ。いいかいよく見てな。プロのっ準備ってのをさ。」



メドーサが雷門のど真ん前でスカートの裾を大胆に持ち上げ始める。
横島くんは当然その前面に陣取り神秘の光景を独り占めせんとする。
小鳩ちゃんは咄嗟に背面に陣取り恥辱の光景を他に漏らさんとする。
奇しくも少年少女の2人によってディフェンスは完璧となっていた。



「物を隠す時はパンツが一番って、昔知り合いになった映画俳優に教えてもらったのさ。」

「ぬおおおおお!うらやましすぎるぜ夏目漱石!俺もメドーサのパンツに収納されたい!」

「あ、あの、物理的に横島さんは入りませんけど……でも、どうしてもって言うなら……」



パンツ丸出しで千円札を握ったメドーサ嬢、赤面しつつ横島に向く小鳩嬢。
鼻血を出しながら悶える少年とあいまって、周囲に野次馬が集まってくる。

ちなみに小鳩ちゃんの提案がその後にどう続くのかは永遠の謎となる。
何故なら、3人の前に現れた色黒の女性に話題が移ってしまうからだ。
波打つ黒髪セミロングの異国女性は、少年の頭を掴み強引に向かせた。



「ワタシのチチを襲ったのはアナタでありますね?よくぞヤってくださいましたデス。」

「俺が君の乳を?!そんな嬉し恥ずかしイベントがいつ?!何故俺は思い出せんのだ!」

「あー、この女は確かザンスの王女だよ。横島、あんた手を出す相手を間違えたねえ。」

「た、たぶん日本語が上手く話せないだけじゃないですか?英語で通じますかね彼女。」

「よっし、アタシが万国共通語で話してみるよ。あー……キエテ、コシ、キレキレテ。」

「メドーサ、それは宇宙語だって!しかも判りにくいって駄目出しされてた方だから!」



ちなみにメドーサの宇宙語は『君、僕、友達』という意味である。
40代前後なら耳にした人も多いであろうとても有名な宇宙語だ。
なお、最近の人でもリメイクを見たという人もいるかもしれない。

そんな三人のやりとりに取り残された王女は、業を煮やし指輪を胸元に掲げる。
すると、そのリングにはめられた宝石から閃光が奔り人型のなにかが飛び出す。
まるで石像と生物の中間のような、それでいて滑らかに動く巨大物体であった。



「お前には色々とキキタイ事がありマス!ラチカンキンしてでもお連れするです!」

「おおー!なにやらよーわからんが、ねーちゃんが飛び出してきたぞ!すっげえ!」

「ザンスお得意の精霊獣かい。横島、精霊獣は……そのバカ面じゃあ知らないね。」

「確かに俺は馬鹿だがコレは初対面だ!よって今回は勉強不足だと言って欲しい!」



王女の出した精霊獣は体長およそ4m。一方のメドーサは2m弱ほどだ。
だが、横島を挟んで両者は睨み合い、互いの両手を出しがっぷりと組む。
判りやすく例えると、プロレス業界で言うところの『力比べ』の格好だ。



「おおー!さっすがメドーサ!こんなデカイ相手に正面から受け止められるのかよ!」

「馬鹿だね、こいつも霊力体だからさ。ナリはでかいけど使う奴の霊力によるのさ。」

「え?そ、それじゃ、あの女の人がメドーサさんと同じ位凄いって事、なんですか?」



小鳩は、王女と呼ばれた浅黒い肌の女性に目を向ける。
表情は真剣そのもので確かにものすごい気迫も感じる。
だが今まで彼女が見てきた竜神の凄さには見劣りする。



「そこはちょっと説明がしたいんだけどね。……しょうがない、遊びはここまでか。」



メドーサの身体に薄く光が纏いはじめる。グラヴィトン戦で見せた気合の合図だ。
無論あの時よりはかなりセーブされているが、半石像の巨身には十分だった様だ。
やがて腕が軋みを上げ、段々と膝も下がっていく。無表情の筈の顔も苦しそうだ。



「あ、い、イケマセン!精霊石をカキュウテキスミヤカに召しあがるデス!」

「横島!その石一個10億だよ!もらっちまいな!」

「よっしゃああああああああああああ!」



王女が投げたピンポン玉大の石を横島くんはジャンプ一番、見事にキャッチした。
その次の瞬間に女性型の半石像は突如として煙となり、その姿を消してしまった。
美しい黒髪をもつ浅黒肌の美人は、よろめき膝をついて手を力なく地面に落とす。



「ま、まさか精霊のカゴを受けるワタシが負けるなんて……信じられまセーン。」

「相手が悪かったってだけさ。ところで勝ったご褒美にメシ奢ってくれないか?」



勝ったから食事。これほど唐突な提案なぞ王女にも経験はないだろう。
しかしそこは王女と呼ばれる彼女、為政者らしく民の声に耳を傾ける。
人の上に立つ者は常に足元に気を配ることが長続きするコツだからだ。



「そ、それなら大使館がありマス。ガイコーカン用のキッチンも用意されてますデス。」

「よし、じゃあソコ行こうか。横島、小鳩、移動するよ。ちょっと目立ち過ぎてるし。」



既に周囲には取り囲むように、無数の人だかりが出来ていた。
老いも若きも人種の差も無く手に持つ撮影具で記録していた。

白昼の往来で指名手配犯を挟んでの美女と巨人のガチバトルである。
撮影するなというのが無理というもの。このピンチを打破したのは、
やはり我らが天下無双の超主人公である、横島忠夫その人であった。



「騒がせてすみませーん!俺ら学祭の映画撮影してたんス!」

「そういうワケなんでさ、みんな納得してくれないかねえ?」

「「「「「「「「「それじゃあ納得。」」」」」」」」」」」



騒ぎを聞きつけて周囲に集まった約100人ほどの観衆全てが、一斉に納得した。
そんな馬鹿なと思われる読者諸兄もいらっしゃるかもしれないが、事実は事実だ。
実際には横島くんの後に続いたメドーサさんの『力ある言葉』のおかげなのだが。



「よ、よくあれで騙せましたね横島さん……」

「俺も自分で言ってみてびっくりした!俺って指導者とかに向いてるのかもしれんな!」

「きっとそうですよ!小鳩も最近、横島さんの言う事何でもしちゃってる気がします!」



もちろん小鳩ちゃんに影響を与えてる力は霊力などとは別物であろう。
だがそれを真っ向から否定するほど強面の女神様も野暮ではなかった。
メドヨコ一同は歩いても程近い台東区にあるザンス大使館に向かった。



「うわぁ、な、なんだか、すごく普通の家、ですよね……」

「確か外国公館はその国の領土って聞いた事があったけどねえ。どっからだいコリャ?」

「そこのツバキのイケガキからわが領土、上の柿の実の所有権は現在国際紛争中デス!」

「なんかご近所同士トラブルみたいな領土争いじゃなー。」



ごく普通の木造モルタル建て売り一戸建てにしか見えないザンス王国大使館。
その国境を守る金属製の門が軽い軋みをあげて開く。高さは約60cmだが。
そしてGSメドヨコの損壊中の扉に比べればであるが、その立派な扉が開く。



「おお、王女!どこに行ってらしたのです!」

「大使、実は色々あって客をショータイムしました。言わば国賓デス。丁重にもてなしなサイ。」

「王女の判りにくい日本語でここまで来てくれるとは……ん?この少年は、どこかで見た気が。」

「チチの上をキズモノにしようとした男デス。ジンモンに失敗しましたので、連れてキマシタ。」

「ちょ!ちがうって!俺は決して乳房の突起に悪戯しようとなんかしてないぞ!誤解じゃよー!」

「はは、ご安心を。王女の日本語が変なのは判ってます。……で!ドコを悪戯しようとしたか!」

「わかってねーじゃねーかコンチクショー!」



ザンスの民族武器である湾曲したナイフを突きつける浅黒い男。
この大使は軍属だ。いわゆる外交武官の一面も持っているのだ。
そのナイフは一秒間に10回の刺殺が可能という、歴戦の勇士。



「さて、小鳩、精霊獣の講座するからそこに座りな。横島は………まだ遊んでる最中か。」

「ちょっ!助けてくれないのかよ!俺を無視しないでー!先に行かないでー!俺主役ー!」

「王女さん、悪いけどあの指輪をさ、ちょっとだけ貸してくれないかね?すぐ返すから。」

「いいでショウ。」



王女が持つ精霊獣の指輪は非常に高価である。コメリカの最新鋭戦闘機が10機ほど買える。
だか、王女はすぐに渡した。理由の一つは彼女自身あんまりその価値が良く判っていない事。
もう一つは、素手で精霊獣を倒した目の前の長身の女性に敬意を払っているという事である。



「中身は美神が馬鹿の一つ覚えみたいに使う精霊石さ。精霊石は横島も知ってるよね?」

「うぎぎぎぎぎぎぎ!あ、ああ!美神さんが耳にはめてる奴だろ!知ってる知ってる!」

「中に集まる霊力を偏向させて出す特殊効果ってのが精霊獣だね。あってるだろ王女?」

「あ、あってマース。だけど、ナゼあなたは我が国の国家機密を知っているのデスカ?」

「慌てなさんな、こっからが講座の本題なんだからね。……いいかい、よく見てなよ。」



先ほど王女がやったのと同じポーズで、胸元に指輪を掲げる気合を入れるメドーサ。
先程とは顔とプロポーションこそ違うが、半石像の女性が指輪から飛び出してくる。
召喚する者により若干姿形が変わるというのも、精霊獣の特質の一つであるらしい。



「持ち主の魔力に精霊石の魔力を上乗せして召喚をする、精霊獣の強さの秘密だよ。」

「な、なるほど……じゃあ、持ち主の霊力が低くても強さが保証されてるんですか?」

「そこの説明が難しかったのさ小鳩。確かにそうと言えるし、違うとも言えるのさ。」



メドーサが閃光を発し本気モードに入る。すると召喚された精霊獣も同様に発光しだす。
しかし次の瞬間、精霊獣は跡形も無く四散した。次の瞬間、メドーサの発光も納まった。



「この精霊獣ってのは精霊石を燃料に動く兵器、ガスが無けりゃ何も出来ないのさ。」

「ふぐぐぐぐぐぐ!精霊石ってすげえ高いんだぞ!そんなん美神さんでも使えんぞ!」

「だけどね、精霊石をより多く消費すれば、力は更に増す。自動車に近い感覚だね。」



メドーサは指輪を何故か愛おしそうに撫でた。すると、心なしか発光する。
眼を見張り驚く王女とは裏腹に小鳩ちゃんはこめかみに指を当て発言した。



「精霊獣って精霊石から出て来るんですよね?なのに精霊石を求めるんですか?」

「さすが小鳩、飲み込みが早いね。そう、何故、精霊石が精霊石を求めるのか。」



今度はメドーサは指輪を外して、慈しむ様に両手で作った籠にそれを入れる。
すると指輪は発光を増していき、その上方に半石像とは違った姿を投影した。
それは白い服に白い羽を4枚背に負った、頭に光の輪を浮かせた人型だった。



「これがこの精霊石の正体。精霊石ってのはね、消滅した神族魔族の亡骸なんだよ。」



メドーサさんの精霊石歴史講座が始まるのだが、このSSタダでさえ長いと苦情が出ている。
こっから掻い摘んで説明するので、流して読んで納得した気になってもらえるとありがたい。

ザンスのある地域はアフリカ中部である。そこは人類の起源の候補と呼ばれている地域だ。
だが、地球上で同条件の地域は幾つかあった。極論すれば何処でも説明はこじつけられる。
では何故アフリカか。それは神族が地球という土地を見つけ殖民を開始した地点だからだ。
ザンスは最初の拠点として数多くの精霊や神族を受け入れた。まずその亡骸が埋められた。
更にその気候に適応した幾つかの動物の中から自分たちに近い類人猿を見つけ、改造した。
それが人類の始まりである。改造された猿は気性も大人しく従順に命令をこなし重宝した。
ちなみに、この成功した類人猿の最終進化系が、我ら無抵抗効率性の極限である日本人だ。
だが長く続けていくに従い、やがて粗悪な改造が蔓延し一部洗脳を解かれた猿たちは脱走。
それが世界中に広がり人類は世界に広がった。氷河が覆うよりも早く人類は地球を覆った。
その爆発的な人類増加により満ちた霊力に、これまで無視を続けていた魔族がやってくる。
既得権を持つ神族と簒奪を目論む魔族で地球を舞台に争いが発生、聖書級大崩壊が起きた。
その時に巨大な神族コロニーを形成していたザンスは激戦となり、神族の大勢が消滅した。
この時の遺骸も重なり、地球上では類を見ない程の精霊石の産出地となっているのである。



「という訳で化石になっても友を心配し、仇敵を憎み、何とか出会おうと足掻いてるのさ。」

「だらっしゃああああああ!俺の勝ちだな大使!でさ、このねーちゃんは天使さんなのか?」

「ああ、四枚羽根だし上の方だね。……ん?小鳩、あんたに何か言いたい事があるってさ。」

「ええっ?!わ、私に、ですか?!あの、その、な、なんなんでしょうか、天使さん………」



慈愛を溢れさせた笑みを浮かべながら、四枚羽の女性は小鳩の上空をホバリングする。
そして、笑みを崩さぬままに顔を小鳩の横顔に近づけ、耳元にそっと言葉を吹き込む。
4枚天使は数秒ほど口を開け閉めしたかと思うと、またメドーサの上に戻っていった。



「な、なんだって?小鳩ちゃん良い子だから天国行き決定よとか言われたんじゃね?」

「え?あ、あの、良く判りませんけど、『子は父に』って。どういう意味ですかね?」

「あー、昔の神族はそういう言葉遊びが好きだね。文学マニア同士で笑う感じかね。」

「よ、よく判りませんけど、怒られてる感じじゃあなかったんで、よかったです……」



そんな会話をしている三人組だったが、王女は驚愕の表情を張りつかせ固まっていた。
メドーサの講義の内容は後半が国家機密の最重要事項で、前半が未発見の新説である。
因みにそれは大使にとっても同様で、その動揺から横島に後れを取ってしまったのだ。



「メドーサさん。アナタ、タダのオッパイ大きい人じゃないです。何者でございマス?」

「え?ああ、あたしはね……精霊石にちょびっと詳しいだけの……ただの遊び人だよ。」

「オオー!アソビニン!サクラのモンモンが眼球に入ったり出たりするやつデスネ?!」

「そんなもんが目玉に出入りしてたまるかー!想像しただけで痛くて身もだえるわー!」



横島少年会心のツッコミに、外交武官が再びナイフを目にも留まらぬ速さで繰り出し始める。
王族へのツッコミはザンスではタブー中のタブーなのだ。たとえ明らかに待ちのボケでもだ。
寸分狂わぬ絶命の急所への刺突を必死に避け続ける横島。メドーサによる訓練の賜物である。



「さ、こんな所であたしの講義はおしまいだよ。何か食わせて貰うとするかね。」

「ちょ、ま、お、俺も食いたいってばよ!このオッサンをなんとかしてくれー!」

「ふははははははははははははは!少年、私はオッサンではない!ハッサンだ!」

「名前の問題じゃねえええええええええ!」



こうしてお尋ね者のGSメドヨコであったのだが、なんとか一宿一飯を確保した。
ちなみに大使と死闘を繰り広げた横島くんは、3時間52分後に引き分けとなる。
横島くんの驚異的なスタミナと生命力に、さすがの歴戦の軍人もネを上げたのだ。







一方、ザンス国王暗殺未遂対策本部では再度大騒ぎが起きていた。
なんと逃亡中のはずの横島忠夫が迎賓館での式典に乱入したのだ。
今度はなんと3人もの横島忠夫が会場に現れ、大暴れしたらしい。
国王についていた護衛をすべて倒し、またもや逃げられたようだ。



「しかも精霊獣を使ったらしい。……率直に聞こう、横島クンが精霊獣を使えると思うかい?」

「そりゃ無理でしょ。あたしだって見たことないのに。横島クンなら文珠使った方が早いわ。」

「だろうねえ。……ここで令子ちゃんの意見に乗っかるとして、『何故』横島クン、なのか。」

「ソコがどーにも引っかかるのよね。正直、適当にドロップアウトしたGSでもいい筈よね。」



その時、質素なスチールテーブルの上にある西条のノートパソコンが軽快な音を発する。
画面には封筒が舞う様なアニメーションが現れ、『ゆーがっためーる』の声が上がった。
ハイテク島流し状態のGSメドヨコとは違い、必要なものは公費で幾らでも購入される。



「おっ、ICPOに問い合わせてた情報が返ってきたようだな。……うーん、進展はなしか。」

「ケータイ使わないんだ?まぁ、そう言うあたしもあんまし得意じゃないんだけどね、アレ。」

「経費削減は公務員の永遠の課題だからね。あとデータベースにも繋げられるってのもある。」



その時、美神令子の脳内に一つの疑問符が浮かぶ。だが、疑問符の正体がわからない。
体重のかけ方を変えて椅子を斜めにして遊びながら、彼女はその疑問の違和感を探す。
やがてドロドロとした違和感に理性の棒が差し込まれ、まわすうちに形になっていく。



「―――そういえば、横島クンって国際的に目立つ様な事したかしら?この前の月の騒動?」

「あれは確かに大事件だった。でも功労者はドコ見ても令子ちゃんの名前しか出てないね。」

「そーねー。でもそうすると、横島クンに目をつけて準備した奴がいるの、おかしくない?」

「確かに、一般高校生を犯人に仕立て上げるのにアレほど準備をする、その動機がないな。」

「つまり犯人は以前から横島クンの事を知ってて、しかも一定以上の評価をしてる人物よ。」

「そうすると横島クンが相手をした魑魅魍魎の類がテロリストの中にいる、ということか。」

「それも無いわね。自慢じゃないけど美神事務所に歯向かった奴は皆殺しがモットーだし。」

「令子ちゃん、そういう事は嘘でも言わない方がいい。自慢どころか変なリストに載るし。」

「大丈夫よ、概ね真実だし。……しっかし、そうなると今度はウチの依頼人も怪しいのか。」

「勘弁してくれ!次のテロだって今起きるかもしれないのに膨大な依頼人まで洗えないよ!」



疑問符が疑問符を呼ぶ。暗闇で針を探すかのような気の遠くなるような思考実験。
英国の片田舎の名探偵は、何気ない会話の中に真実への光明を見出してきている。
しかし東京都豊島区池袋のミスマープルには、まだその光明は見えていなかった。



時を同じくしてザンス大使館ゲストルームでは、メドーサと小鳩が床に就いていた。
メドーサはいつもワンセグテレビで暇をつぶす癖がついていたのか、寝れずにいた。
そんな女神さまが寝返りを打つと、隣の布団に入っていた小鳩ちゃんと目が合った。



「なんだ、まだ起きてたのかい小鳩。コンディション整えるのも仕事のうちだからね。」

「あの、私、なんだか寝付けなくて。何かお話しませんか?せっかくのお泊りですし。」

「あー、確かに隣同士だけど夜はあんた帰るからね。そうだ、昔話でもしてやろうか?」

「あ、あの、それはそれで興味あるんですけど、その、それって今夜中に終わります?」

「無理だね。生い立ちから始めたら、端折っても40000字くらい軽く超えるから。」



投稿制限文字数の問題で1アップに二万字が限界なんで、そいつは勘弁して欲しい。

それはさておき、布団を被ったままの2人はくすくす笑いながら日常を色々話した。
やれ新宿二丁目のナンバーワンゲイバーのホステスが、実は本物の女性だったとか、
やれアメ屋横丁の威勢のいい大将が、実は砂吐きSSの連載を書いてたであるとか。



「そういえば、横島さんが警察に追われている理由の暗殺容疑って本当なんですかね?」

「本当のわけないだろ。最近じゃ横島は、自分だけで部屋から出たりしてないからね。」

「ですよねえ……それにこう言っちゃなんですけど、そんな有名じゃないですよねえ?」

「まー正直なとこ、横島にそれほどの価値があるって知る奴は大勢はいないだろうさ。」



男物のパジャマに身を包んだ二人が、隣り合った布団の中で見つめあいながら語っている。
大使館が用意した寝巻きには確かに女性用もあった。しかし、サイズ的に不足だったのだ。
いったいどこのサイズが不足だったのかは、明哲賢明な読者諸氏の想像に委ねる事にする。



「やっぱりテロリストさんって、横島さんの事調べるくらいスゴイ人って事なんですかね?」

「それは無いかね。反主流派は常にカツカツだよ。ただし、外部援助があれば別だけどね。」

「外部援助、ですか……やっぱり新聞とかで言ってるみたいに、コメリカとかなんですか?」

「ああ、それも無いね。精霊石こそあれども、他の鉱物資源はからっきしって国だしねえ。」

「精霊石だけじゃ駄目なんですか……じゃあ、その精霊石が凄く重要だって感じる国とか?」

「国単位の貿易総額で見れば、精霊石ごときで内政干渉するなんて事は……いや、待ちな。」



メドーサは胸元をはだけさせ、A4ノートを取り出して、なにやら色々と書き始めた。
彼女だけに限らないが、情報を整理するのにいちいちノートに書き記す人は多いのだ。
見落としを後で見つけることも出来るからだ。SS書きだとノートパッドを良く使う。



「そうか、精霊石、横島、ザンス、反主流派……なるほど、そういう事なんだね!」

「あの、ど、どうしたんですかメドーサさん?!いったい何が判ったんですか?!」

「悪いけど小鳩、寝不足になっていいなら、少しあたしに付き合ってくれないか?」

「え?も、もちろん徹夜くらいは平気ですけど……私なんかで何か役に立ちます?」



メドーサが自分の入っていた布団を大きく開けて、顎で軽く合図をする。
聡い小鳩は女神の意図するところを即座に察知し、その空間に入り込む。
果実系の香水の様な香りに動揺しながらも、身を少し強めに押し込んだ。



『わるいね小鳩。少しでも変だと思ったら変だって言ってくれていいんだよ?』

『ええ?あ、あの、ぜんぜん変じゃないです!その、すごく、綺麗ですし……』

『????まあいいか。精霊石の事は食事の時に話したよね。覚えてるかい?』

『は、はい。……ああ、そ、そういう話なんですね、私ってばてっきり―――』



手をモジモジと組み合わせて赤面する小鳩を、不思議そうに見つめるメドーサ。
小鳩ちゃんが何を想像してたのかは明哲賢明な………おっと、さっき使ったか。
ぶっちゃけ言えば、ユリユリな展開でもあるのかと期待してしまっていたのだ。



『なんで横島なのか、これが判ったのさ。結論から言えば、神族の陰謀だよ。』

『え?神族って?テロリストを神様が?それって悪魔とかじゃないんですか?』

『精霊石の正体は、ほとんど神族の遺骸だって言ったろ?覚えてるかい小鳩?』

『ええと、はい。でも、あと悪魔とか、精霊とかもでしたよね?それが何か?』

『だけどザンスは元々神族のコロニーがあった場所。その遺骸は9割神族さ。』

『それが一体……なるほど!ザンスの人たちが神様の御骨を勝手に使ってる!』



メドーサが柔らかく微笑みながら、小鳩の頭をぐりぐりとかいぐりまわす。
出来の良い生徒への彼女なりの親愛表現なのである。たまに横島にも行う。
ただし少女は少年と違い、鼻の下なぞ伸ばさず嬉しそうに赤面するのみだ。



『そういう事。身内の遺骸を商売に使うザンスを、神族は快く思っていない。』

『でも、それでも横島さんがそんなに神様たちに有名とか、有り得ますかね?』

『そうでもないんだよ。美神の手下として神族連中に結構干渉してるからね。』



妙神山の修行の一件から、大きなトラブルに美神事務所は神族代行として働いている。
神族は人間界にあまり干渉しないようにする協定を結んでいる。代行者が必要なのだ。
もし美神が代行になっていなかったとしたら、メドーサの仕事も成功していただろう。



『だ、だとしてもですよ?一生懸命働いてきた横島さんに、そんな事しますかね?』

『甘いね小鳩。人が思ってるほど神ってのは綺麗じゃない。あたしがそうだしね。』

『あ、あの、わたしは……メドーサさんはすごくキレイだと思っていますけど……』



今度はメドーサは苦笑しながら、小鳩の頭をぐりぐりとかいぐりまわす。
過大な評価をする素直すぎる部下への表現である。やはり横島にも行う。
ただ、目の前の少女は彼とは違い、少し物寂しそうに微笑むのみである。



『神族には人間を失敗作と見る連中もいる。そんな連中の小癪な工作なんだろうさ。』

『それっていけない事じゃないんですか?確かメドーサさんお巡りさんでしたよね?』

『あはは、もうずいぶん昔の話さ……そうか、悪い子は警察に……でかしたよ小鳩!』



布団の中でメドーサは小鳩の頭を抱き、ぎゅうと締め付けた。
無論サブミッション系の技をかけた訳ではない。親愛表現だ。
当の小鳩は人類を超える爆乳の洗礼を受け、酸欠となったが。



『小竜姫にリークして手柄にさせちまえば、手を汚さないで解決できるんだね!』

『――――――――――――――――っ!――――――――――――っっっ!!』

『あ、わ、悪かった、苦しかったかい小鳩?!ガラにもなく興奮しちまったよ。』

『っぷは!――――――こ、小鳩は負けそうです………』



目を回す小鳩にメドーサは、今度はそのおでこにそっと口付けをする。
小鳩の体が薄く光を発すると、朦朧としていた意識が瞬時に回復した。
不思議そうに自分の手と体を見つめる小鳩にメドーサが微笑みかける。



『不思議なもんだね。事務員のつもりで雇ったのに横島よりポテンシャルを感じるよ。』

『神気がどうって言ってましたもんね。でも、多分それはメドーサさんのおかげかも。』

『ほんと人間ってやつは面白いよ。ま、何かの時に横島を助ける位になれるといいね。』



二人は互いにくすくすと微笑みながら、やがて眠りに落ちていった。
ちなみにわれらが最強無敵素敵抱いて主人公の横島くんはといえば。



「い、いでででで!勘弁してくれ!客に休息を与えよーとは思わんのかよオッサン!」

「君のようなポテンシャルを感じる戦士はそうはいない!あと私の名はハッサンだ!」

「名前の問題じゃねえっていってんだろー!」



夜明けまで、ザンス式の徒手戦闘術をみっちりと仕込まれていたのだった。
これで彼の近接格闘術のスキルは、えー、SSSSSSくらいに上がった。
何に比べての基準なのかは良く判らないが、とにかくすごくなったらしい。






一方、池袋のミスマープルとニール警部は事務所隣のビルで朝の帳を迎えようとしていた。
朝の帳という表現をいぶかしむ人も多いかもしれない。一種の言葉遊びと思って頂きたい。



「令子ちゃん、日本警察の勤勉さには頭が下がるよ。依頼主の線は消えたそうだ。」

「じゃあもっと単純な話に戻そっか。ザンス国王を亡き者にして、誰が得するの?」

「あー、それなら調査済みだ。まず過激派、選挙間近のコメリカ、国王外戚だね。」

「外戚が国外で国王暗殺?いくら未開国でも国民にバレバレになるわよ。論外ね。」

「コメリカも親米政権の現国王を暗殺はしないだろう。すると、やはり過激派か。」

「過激派ねぇ。あんな貧乏所帯に誰が資金を出すの?あたしだったら真っ平だわ。」

「つまり過激派への資金の出所が怪しいと。原理主義者も霞を食べてられないか。」

「世の中金よ。正義だの平等だのじゃ誰もついてこないわ。やっぱりお金よお金。」

「令子ちゃんが言うとそんな気になるから恐ろしいな。でも、だとして誰が出す?」

「ザンスなんて精霊石が無きゃ5流の未開国よ。その線で考えていいんじゃない?」

「だけど9割以上がザンス産なんだよ?内情不安で産出が止まって嬉しい国は……」

「需要が供給を大きく上回れば大儲けができる。一割に満たないなら更なりだわ。」

「残りの国といえばナルニアか……まさか、君は国家間の紛争を考えているのか?」



美神も西条も、一睡もせずにこうした会話を延々と続けていた。
そして現れたひどく細い一筋の光明。しかしその光は夜明けと共に力強さを増していく。
目の下のクマを気にしながら、美神除霊事務所の所長美神令子は会心の笑みを浮かべた。



「横島クンのご両親どこいるか知ってる?なんとナルニアよ。政府系企業って奴。」

「ナルニアは政情不安でクーデターの噂もある。なるほど、可能性は十分有るか。」

「……テロリストに揺さぶりをかけられるわね。ナルニア大使をしょっ引くのよ。」

「だが、推理だけで外交特権を持つ人間を逮捕なんか出来るわけない。無理だよ。」

「じゃあテロの標的にされたとかで包囲だけでもいいわ。間違いなく奴らは中よ。」

「……令子ちゃんは確かに公務員向きじゃあなかったね。むしろスパイ向きだよ。」

「それもないわ。ジェームズボンドみたいに忠誠は誓えないもの。自分以外はね。」

「つまり美神令子は美神令子にしかなれないということか。当たり前ではあるか。」



その後の動きは早かった。まずは盗難車がナルニア大使館に横付けされ、爆発する。
更に左翼過激派を名乗る団体が犯行声明を出し、迫撃弾と思しき物が撃ち込まれる。
外務大臣がナルニア大使に謝罪をし、周囲は機動隊と交通警邏隊により包囲された。

無論、ここまでマッチポンプである。誰のかは敢えて伏せる。








一方、朝食を摂ったGSメドヨコの一行はザンス大使館の門に来ていた。
特に大使は非常に横島を気に入ったご様子で、ハグしながら背中を叩く。
微妙な笑顔を浮かべる少年とは裏腹に、王女とメドーサは対峙していた。



「意外だよ。正直こっそり抜け出そうと思ってたんだけどね。見逃してくれるのかい?」

「アナタ本気出せばチチウエも負けるでショウ。それに人を見る目はあるつもりデス。」

「あはは、人を見る目ねえ。そうだ、テロリストもついでに片付けとくから安心しな。」

「ホントウですか?それはタイヘン心強いです。アナタに精霊の加護があらんことを。」



竜神はその王女の贈る言葉に、口角を上げて少々邪悪に微笑んだ。
その高い背を少しだけ屈めて、その耳元でひとことふたこと呟く。
王女は大きく目を見張り、満面の笑みを浮かべると握手を求めた。



「なあメドーサ、王女様とナニ話したん?すっげえ可愛い笑顔だったけど?」

「なあに、出る杭は目立つって話さ。べつに大したことじゃないよ、横島。」

「ん?出る杭って打たれるんじゃなかったっけ?あれ?叩かれるんだっけ?」



メドーサが彼女に言ったセリフは『下手な日本語の練習ってのはタイヘンだねえ』であった。
思い出してほしい。彼女は多少カタカナ交じりであったが、非常に高度な漢字を知っていた。
愚者を装っていると確信できるのが、最初カゴと言っていたのに後に加護と言っている点だ。
これは原作でも同様なので、暇な人は27巻から28巻辺りを読み直してみるといいだろう。



「人の上に立つってのはいろいろ大変なのさ。横島もいずれ判るようになるよ。」

「え?お、俺も?あははははは、無理無理!そういうガラじゃあねえってばさ!」

「だけどアンタ指導者になるんだろ?大変だと思うよー、指導者ってやつはね。」

「あれは言葉の上戸彩というか……やっぱそういうのはお姫様とかじゃないと!」

「そうだ、姫っていえば小竜姫の所に行かないと。二人ともしっかり掴まりな。」



三人はザンス大使館前から姿をかき消し、こうして事件は解決に向かった。











神族が住む世界に『天界』というのがある。俗に言う『天国』とは少々違う。

天国とは人間が輪廻の中で到達できる最上の世界であるが、神になれるわけではない。
天国に住む人間は天人とされて長寿命と様々な特殊能力を得るが、あくまで人である。
人間は神により6つの世界に分類分割されて死後において分類しなおす仕組みである。
天国とて例外はない。天人とていずれ死ぬ。そして審判という名の『分別』を受ける。

悪い言い方をすれば、そうやって人間は高みを目指し昇華する内に霊力を蓄えていく。
それを神がエネルギー源として収穫する。そう、人間世界は畜産システムに近いのだ。
管理される人、そして管理する神、その間柄は友人ではない。人間と動物に近いのだ。




「天界公安妙神山支局の小竜姫です。人界過干渉違反、並びに人間国家騒乱罪で逮捕します。」



ただし、人間であればどのような動物も勝手に虐待して良い訳ではない。
われわれ人間は動物によって『生かされている』という側面もあるのだ。
一部の神が暴走し虐殺しないように神にも法はある。そして番人がいる。



「……犬は飼い主に、ロボットは製作者に、そして子は父に従うのが道理。お前に何が判る!」

「イデオロギーの話なら裁判で釈明すればいいでしょう。もっとも、法は覆りませんけどね。」



神の中には、霊力の主たる供給源のはずの人間を快く思わないグループがいる。
莫大な霊力は確かに魅力的だが、段々と神に近づいているという危機感からだ。
一度間引き、原始的な姿に退化させて管理すべきというのが彼らの主張である。

そんな神族至上主義の神にとっては、ザンスの商売は冒涜にしか映らないのだ。



「くそ、あと一歩の所で公安に嗅ぎ付けられるとは!だから人間とは組みたくなかったんだ!」

「天網恢恢祖にして漏らさず、とは人間の諺です。天網たる天界公安部を侮った報いですね。」



こうして黒幕であった反デタント急進派神族組織は、法の番人により拘束されてしまう。
ザンス転覆計画の最も重要であった、ナルニア大使館へ最後の助力が途絶えてしまった。



「……協力者と連絡が取れん!強力な魔族精霊獣が送られてくる筈だったが、これでは!!」

「大使!本国の将軍から入電です!日本企業が政府側に援助を行い、クーデターは失敗と!」



美神令子嬢の読みどおり、人間側の黒幕はナルニアであった。
ザンスの政情不安の隙にナルニアで軍事クーデターを起こす。
さらにザンス側の内応者によりナルニア軍の介入を依頼する。
これは天界神族が裏で絵を描き、人間たちを操っていたのだ。

彼らもまた、十重二十重の警察包囲網により手も足も出ない。
最後の手段だったニセ横島軍団による博打すら打てないのだ。



「そ、そんな馬鹿な?!腰抜けの日本企業には脅迫をしておいたと言っていただろうが?!」

「それが協力した日本企業に向かった将軍直属の機甲師団が、どうにも全滅した模様で……」



ナルニアに支店を構える日本企業が、何故政府側に助力し機甲師団を殲滅したのか?
その企業の支社長が情報を察知、生贄の羊にされた少年の名を知ってしまったのだ。
誰かは知らぬがどうにもよっぽど怒ったらしい。ちなみに奥さんも手伝ったそうだ。











こうして、ザンス国王暗殺未遂事件は関係各位の努力の甲斐あって無事解決した。
事件の中心であった東京都豊島区池袋にも、つかの間だが平和が再び訪れていた。

その郊外の築年数半世紀以上のアパートに、今日もシェルビーコブラが停車する。



「横島クン、あんたテレビ無かったわよね?処分費惜しいから古いの引き取らない?」



KDL65HX920と箱に書かれた大きめの箱を抱え、壊れた扉を踏み越える美神令子。
そこには19型中国製液晶テレビの前で鼻ちょうちんを出して寝こける少年の姿があった。



「おーおー、貧乏人の癖にいっちょまえに外国製買うなんて生意気だこと。これは没収っと。」



女性では箱から出すのも難しい大型テレビをさっさと設置するあたり、彼女の非凡さが伺える。
器用にアンテナ線を差し替え、二回り以上小さいテレビを持ってきた箱に仕舞う赤い髪の女性。
まったく気付く様子の無い部屋主の寝顔に、美神は目を細めて、そっとその顔を近づけていく。



「ま、あんたがテロリストとか有り得ないけど、どうしてもってなら声くらいかけなさいよ?」



周囲を軽く見渡し、その頬に唇をつける以前の雇用者。その時、階段を上がる甲高い音が響いた。
咄嗟にテレビの箱を掴み壊れた窓枠から身を乗り出し、停めてあった車でアパートをあとにした。
別に今回は逃げる様な事はしていない。プロのGSという意味で現場勘に欠けると言えなく無い。
とはいえ今回彼女は『らしくない行動』をとっている。冷静に振る舞えとは酷というものだろう。



「――――― あーやだやだ。この扉直すかと思うと気が滅入るねえ、マッタク。」

「ただいま戻りました……ああ!あれ!横島さん!起きてください!大変ですよ!」

「こ、小鳩ちゃん?!どうした!悪の女幹部がとうとう俺にホの字でデレたのか?」

「なに言ってるんですか!!そ、その、それ、すっごく大きくなっちゃってます!」

「ち、ちがうんじゃー!男の生理現象ってやつなんじゃよー!やましい訳じゃー!」

「どれどれ……なるほど。こりゃ確かにデカい。底が破れて抜けちまうかもねえ。」

「確かにデカいが女の子を壊すなんて事はせんのじゃよー!優しくするってばー!」



女性陣が大型テレビを眺めて驚いているのに対して、少年は股間を押さえていた。
メドーサは、その横顔に付いたショッキングピンクの花びら形の模様に気がつく。
そして、その模様におもむろに顔を近づけ、やはり同じ位置に自分の紅を重ねた。



「な?メドーサ?!急に何を?!そういうのは、こう、心の準備ってもんがあるってば!」

「ああ、テレビの精霊がそこに居たんでさ、ちょっと挨拶しただけさ。小鳩もしときな。」

「ええ?!あ、あの、それは……ぜひやっておきます!精霊にご挨拶って大事ですしね!」

「そ、そーなんか!?俺は挨拶できんが大丈夫かな?!テレビ様に嫌われたくないぞ?!」

「それなら大丈夫だよ。アンタは何でかモノノケとかには好かれる体質みたいだからね。」



女神たちのキスを受け、飛び回って喜ぶ横島少年。
ただ残念なことに、大型テレビの精霊の跡は彼女たちに塗り替えられてしまう。
もっとも、それを知らない精霊は精霊でにやけながら鼻歌交じりで運転中だが。

そしていつも通りというか、今日もGSメドヨコは平和であった。




つづく。


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