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GSメドヨコ従属大作戦!!

戦場はカカオ(後編)


投稿者名:まじょきち
投稿日時:12/ 6/26





そして、GSメドヨコ除霊事務所。つまり横島くんの広くないお部屋である。
気性の荒い女神と気弱な少女と気風のいい女鬼の三人がコタツに入っていた。
主役たる横島少年は、体得した逆立ちビールマンスピンをしながら待機中だ。



「あたしも大概の事じゃ驚きゃしないけどね。横島、この鬼娘はいったい何者だい?」

「しらばっくれるでねえ!ウチの弟の勝負に竜神が割り込んだのは判ってるんだべ!」

「ああー……メドーサさん、ほら、同人勝負の時の小鬼ちゃんの事じゃないですか?」



メドーサも娑婆鬼についてのイメージは、横島少年と大して変わらない。
目の前の鬼には邪気は見出せない。何かの行き違いであろうと推測した。
だが、底意地の悪い竜神は、女鬼にわざと侮蔑の表情を投げつけ始める。



「なるほどねえ。子供の勝負に大人が出るなって事かい?ふん、青臭いねえ。」

「な、なんだべ!オメーもオラがイナカモノだと思って馬鹿にしてるだか?!」

「勝負に子供も大人も無いのは太古からの決まりだよ。鬼の癖にウブいねえ。」

「ならオラと勝負するだ!オラが勝ったら竜神だろうが尻子玉をいただくべ!」

「いいよ。ただしあたしは金も財宝も要らないよ?何が出せるのさ鬼風情が。」



夜叉鬼の想定外の事態である。通常、鬼ヶ島の鬼のドロップアイテムは金銀財宝。
伝説の剣やら全ての錠前を開ける鍵やら願いを叶える玉などは用意されていない。
まさかの竜神の問いに、負けず嫌いの姉鬼は絶対に答えてはいけない返答を出す。



「し、使役されてもいいだ……」



使役というのは他人の命令に従うことを強いられる事を指す。
ただし、期限や条件を設けなければそれは奴隷と同じなのだ。
超長寿である竜神との使役契約は、絶命契約といってもいい。
酷い契約では門に埋め込まれ門番を続けさせられる例もある。



「おっけー。前から鬼の眷属って欲しかったんだよ。……さて、勝負はどうやる?」

「ハイハイ!そこはご安心を!みんなのチョコを俺が食べて、俺が勝ちを決める!」

「ふふん、オラはその為に準備してキタだ!このチョコで一気に勝負を決めっぺ!」



大振りのワイングラスに無造作に入れられたチョコレート。そこに瓶から液体を注ぐ。
常温でもチョコは溶け始めるものなのだが、不思議な事に、少しも溶け出していない。
姉鬼はそのグラスを器用に回し、満遍なく馴染ませると横島の前にゆっくりと置いた。



「ではさっそく……………おほ!これ酒か!チョコ独特のクドイ匂いがねえぜ!」

「あ、そ、そりゃありがとな。……どうだ、うめえっぺ?オラのが一番だべ?!」

「一番かは他のも食べんとな!でもこれ100%ウマかったぜ!ナイスチョコ!」



力強く突き出した拳に親指を立て、最大級のサワヤカ笑顔を見せる審査委員長。
彼の食べたチョコにはマリアや石像を狂わせたホレ薬が確かにカケられていた。
だが、一緒に混ぜた洋酒が効果発症時間を遅らせてしまった事を鬼は知らない。



「では次にメドーサのチョコをば……あれれ?メドーサのチョコはどこだ?」

「目の前のカップに入ってるだろ?ふふん、ちょっと今風すぎたのかねえ?」

「ホントは湯煎と湯霜造り間違えてたりしてな!では、いっただきまーす!」



超絶主人公ならではの超人的な勘の鋭さをサラリと披露する横島忠夫。
そして、メドーサの作ったホットチョコのカップを一気に飲み干した。
彼が全て嚥下したのを確かめると、竜神様は何故か小鳩の方を向いた。



「どうだい気分は?なんかこう、横島見て盛り上がったりするんじゃないか?」

「あの、まぁ、それなりには、いつも……ええと、メドーサさん?急に何を?」

「おや?あたしも腕が鈍ったのかねえ?こんな筈じゃなかったんだけどね……」



ちなみにメドーサの作ったチョコは『ハーレムを作る魔法薬』入りである。
周囲の同族雌に向かい、興奮させる霊波動を服用した雄から出す夢の薬だ。
だがしかし、小鳩を見る限りでは、決して大きな変化があった様ではない。
神様も失敗があるということなのか。



「横島さん、もうそのスピンは結構ですから、普通に食べてください……」

「え?いいの?さすが小鳩ちゃん優しい!……では、いっただきまーす!」



まさに鉄板である。Fe関連ではないことは以前に説明したので省略をする。
赤とピンクを基調にしたストライプの包装紙に、銀ラメの入った白いリボン。
中には巨大なハート型のチョコ、ホワイトチョコで書かれた文字はLOVE。
食べると中から硬い棒。それは自宅の扉の鍵。何から何まで鉄板演出である。



「これ!これなんだよ!やっぱりバレンタインはこうじゃなきゃいけないんだよ!」

「うふふ、よかったです。横島さんが喜んでくれて……」

「ただ、三人とも、ヒック!ちょっと不思議な味が、ヒィック!した、よう、な。」



急にしゃっくりをしだす横島くん。するとその頭上に『10』が浮かんでいた。
不思議そうに首を傾げる小鳩とは対照的に、メドーサと夜叉鬼は青褪めている。
特に夜叉鬼は自分の出したグラスを後ろ手に隠して、ゆっくりと下がり始めた。



「オラ、しらねえっぺ!厄珍堂の魔法薬を買ってズルなんてしてねえっぺ!」

「じゃあそのチョコ出しな。おおかた古い魔法薬でも買ったんじゃないか?」

「娑婆鬼!ちょっとこっちさ来い!はやーく!」



外で見張り番をさせられていた弟鬼が、やっと終わったかと部屋の扉を開ける。
次の瞬間見たものは、大きなワイングラスと茶色い物体、そして姉のどアップ。
そして口には一杯のチョコが詰め込まれ、液体も全て少年の喉の奥へと消えた。



「そんなにオメーねーちゃんのチョコが好きか!しょうがねえ奴だなや!」

「……うん、好きだあ。ねーちゃん、オラ、大好きだあ。ねぇちゃぁん。」

「お、オラ、すっげえ急用があったんで帰るだ!勝負は引き分けだっぺ!」



目をトロンとさせる弟の手を引き、慌しく部屋を去っていく姉鬼。
やがて10トンダンプのエンジン音が響くと、遠ざかっていった。
メドーサは呆れるようにその光景を眺めると、横島に向き直った。

ちなみにそのダンプカーだが、その後、北池袋インターから首都高五号線に乗った。
しかし途中で幾度か蛇行を繰り返した後に南池袋パーキングエリアに入っていった。
規約の問題上詳しい描写は避けるが、駐車後その運転席にはカーテンが掛けられた。
そして、姉は自分に似た女顔の弟をずっと憎からず思っていた事も付記しておこう。




一方、部屋に残されたGSメドヨコの面々。
頭に数字の浮かぶ横島の前で、メドーサが手をかざして呪文を唱えていた。
小鳩ちゃんと横島くんはなんの事やら判らず、ただその光景を眺めていた。



「あたしのが効かなかったのはこういうコトか……混合魔法薬の拒否反応だね。」

「……あのさ、良く判らんのだけど、もしかして俺けっこーヤバい感じなの?!」

「ああ、めちゃくちゃヤバい。頭の数字が0になったら、横島は破裂して死ぬ。」

「「えええええええええええええええええええええ?!」」



同時に叫ぶ横島と小鳩。
メドーサはその大声にも何ら身じろぎする事も無く手をかざし続ける。
しかし、そんなメドーサの努力も虚しく、『10』は『9』になった。



「駄目か……よし、ちょっと魔鈴のところに行ってくるから、後は頼んだよ小鳩。」

「え?えええええ?た、頼むって?私はいったい何をしてればいいんでしょうか?」

「……万が一だけどさ、間に合わなかった時に手でも繋いどいてあげておくれよ。」



小鳩と横島の手を握らせ、メドーサは軽く笑いながら瞬間移動で姿を消した。
残された小鳩は言われた通りに手を握り、呆けたように横島を見つめていた。
横島も、例の姿見で自分の頭上の数字を確認、やはり放心状態となっていた。



「ま、まー大丈夫だろ!なんだかんだ言ってもメドーサ頼りになるし!」

「そ、そーですよね!なんたってメドーサさんですもんね!うんうん!」



そうは言いながらも、握る手が震える小鳩に、あぐらを組む膝が震える横島。
2人の脳裏で、女神の先ほどのセリフがずっとリフレインされているからだ。
『間に合わなかった時』という部分。自信家の彼女が可能性を示唆している。

2人はやがて黙りこくり、古い壁時計の秒針の音だけが部屋に響いていく。
そして横島の頭上の『9』が『8』になった瞬間に、小鳩は立ち上がった。



「横島さん!」

「は、はひ、なんでしょう!」

「私、なんでもします!えっちなことでもいいです!言ってください!」

「きゅ、急に何を?!」

「何でもかまいません!横島さんの気がすむまで、なんだってします!」



小鳩は最悪の状況をやはり想定していた。横島は死ぬのかもしれない。
しかも今の横島の前にメドーサは居ない。むしろ自分しかいないのだ。
小鳩はその時が来るまでに、横島の幸福を成就させたいと願っていた。



「都合のいい展開すぐる!!これで俺も最強系主人公の仲間入りだぜ!」



横島による、欲望と怠惰と打算を足して3でかけた様な視線で小鳩を視姦する。
しかし小鳩はそれでも全く姿勢を崩さない。むしろ前に身を乗り出したほどだ。
そして遂に欲望の化身たる横島忠夫から、可憐な花戸小鳩に要求が伝えられる。



「じゃさ、東口の濁龍って居酒屋の田中さんにヤマトカクテル貰ってきて!」

「ヤマトカクテル?……えっと、その、横島さんって、お酒飲むんですか?」

「超良い子の俺は酒呑んだ事ないけどさ、いっぺん呑んどきたいんだよね!」

「わかりました!濁龍ですね?待っていてください、すぐ行ってきます!!」



へらへらと薄ら笑いを浮かべながら、小鳩の後姿に手を振り見送る横島。
小鳩は前回に引き続き、またもやダッシュで走る羽目になってしまった。
横島くんは二つ嘘をついた。一つは酒を飲みたいと思ってないという事。
もうひとつは後述する。




横島くんの頭上の数字はついに『7』になった。
その時、彼の部屋の扉が大きな音を立てて開く。
そこには、毎度というか、赤い髪なびかせる例の女性がいた。



「やっほー横島クン!カカオ補給の時期でしょ?持ってきたわよー!」

「おおお!美神さん!久々じゃないスか!ささ、あがってあがって!」

「あら、今日は誰も女の子がいないのね。そんじゃお言葉に甘えて。」



とうとう女性陣不在時の隙を突き上陸に成功してしまった美神令子。
手には大きな紙袋。赤とピンクの包装紙を金のリボンで縛っていた。
ムードを気にしない彼女らしく、上がって早々にその包みを解いた。



「恩に着なさいよ?お礼に逆立ちビールマンスピンでもしてもらおーかしら?」

「するする!超する!見よ、横島忠夫に不可能という文字はあんまりないぜ!」



練習成果の見事な逆立ちビールマンスピンを見せる横島くん。
美神さんも流石に慣れたもので、普通に手を叩いて評価する。
そんな両者にとって久々の雰囲気をゆっくりと堪能していた。






その頃、『魔法料理店魔鈴』では軽く騒動が起きていた。
別に店内で、というわけではない。例の結界の中である。
メドーサが例の薬棚を次々と開けては金切り声を上げる。



「ない、ないないない、冬虫夏草も壺毒も酸化クロムも、全部無いじゃないか!」

「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい管理表調べますから。他には何が必要です?」

「ああ、すまないね。ちょっと焦りすぎてたようだね。紙に書くからまってな。」



流暢に渡されたメモ帳にペンを滑らしていくメドーサ。
魔鈴はその項目を一つ一つ、台帳から探って確認する。
書き終えた竜神に、管理者は申し訳無さそうに呟いた。



「あの、こ、これ、全部無いです。昨日急な注文で使い切ってしまって……」

「なんだって?!これ全部調合したって出来るのは……単独効能があるか。」

「そうなんです。一応お客さんの名前と住所控えてます。お見せしますか?」



しかし、メドーサはその申し出を手で制した。
第一に、探し出しても手に入れて戻るまでに時間がかかりすぎる事。
第二に、依頼主の情報を他人に知られる事のリスクを知っている事。
こうしてメドーサは、手詰まりの状況で呆然と立ち尽くしてしまう。





小鳩ちゃんはといえば、全速力で走った末にやっと繁華街の一角にある濁龍に辿りついた。
当然午後の早い時間の今は準備中なのであるが、電力の落ちた自動ドアを手でこじ開ける。
そこに居るのは気弱で優しい小鳩ちゃんではない。横島の事が何よりも大好きな花戸小鳩。



「田中さん!田中さんは居ますか!」

「ういうい、田中は俺だけど………君だれ?」

「横島さんの使いで来ました!ヤマトカクテルをください!急ぐんです!早く!」



田中さんはニヤニヤしながら息も声も荒げる小鳩をしげしげと眺める。
小鳩はといえば当然真剣そのものの表情だ。鬼気迫ると言ってもいい。
居酒屋の従業員はおどけるように肩をすくめ、小鳩の問いに首を振る。



「うちも酒の品揃えじゃ池袋随一と思ってるけど、さすがにヤマトカクテルはやれんわ。」

「ええ?!お、お金ですか?お金だったら払います!足りない分は必ずお返しますから!」

「そーじゃなくてさ、ヤマトカクテルはお話上のお酒だから。横島君も人がわりいねえ。」



田中さんが、得意げにヤマトカクテルの正体とやらを講釈しはじめる。
ヤマトカクテルとは宇宙戦艦ヤマトで佐渡酒造という酒豪軍医が発明した闇カクテルである。
どれくらい闇かといえば、消毒用のエタノールを水で割った失明しかねない危険な酒なのだ。

最終決戦時、佐渡酒造のいる区画にも火の手が上がった。残っていたのは若い兵隊と酒造。
酒造は若い兵に「ヤマトカクテルを作って持ってこい」と伝え、若い兵は苦笑し了解する。
しかし若い兵が薬品保管庫に着いた時に背後で大爆発。兵を逃がす為に、嘘をついたのだ。



「ヤマトカクテルってのは言わば優しい嘘って意味の……あれ?!あの子どこいった?」



開店前の薄暗い居酒屋で、従業員の田中さんは一人ぽつんと立っている。
ひとしきり薀蓄が済んで満足をしたのか、再び店の奥へと戻っていった。
そして目の前に立っていたはずの小鳩は、行きより更に速く走っていた。



「横島さんのばかばかばかばか!ばかばかばかばかばかばかばかばか!」



実際に彼は馬鹿なのであるが、彼女が連呼している単語の意味は少しだけ違う。
からかったのでもない。知識不足を蔑んだわけでもない。悪意なぞ欠片も無い。
だからこそ、横島忠夫に頼られなかった自分自身が、花戸小鳩には悔しいのだ。

そして、時間は既にかなり経過してしまっている。






横島くんの頭上の数字は、現在『4』である。こちらもかなり順調に進んでいた。
意味を知らぬ以前の雇用主と、意味を明かさぬ部屋主は、和やかに団欒していた。
挑発的なボディコン衣装でありながらも特に気にすることなく世間話をする彼女。
挑発にすぐに乗ることに定評のある横島くんは、うっかり彼女の肩に手をかける。



「うへへ、この部屋にやってきたってコトは……OKなんすね?エロエロ展開っすね?!」

「馬鹿な事言ってんじゃないの。横島クン程度は武力制圧できる自信があるってだけよ。」

「くううう!俺の事が実は大好きで引き戻しに来たとかじゃないのかー!くっそおおお!」



横島と美神は、いつもの他愛もない遣り取りを楽しんで、そして懐かしんでいた。
少し前はこんな会話を事務所でしていた。終わるとはどちらも思っていなかった。
憎まれ口を叩きながらも美神令子の頬は緩み、横島忠夫の下種な表情も楽しげだ。



「横島クン順調そうで安心したわ。金に困って泥棒に来るんじゃないかって思ってたしね。」

「ひでえ!俺の商売の上手さは知ってたでしょーが!丁稚だってヤルときゃヤルってのよ!」

「何をヤルんだか判ったもんじゃないけど、素直に弟子の成長は祝福しといてあげるわよ。」

「お祝いだったら何かクレ!おっと、金は要らないぜ!何が出せんです?美神さん風情が!」



どこかで聞いたような問いかけをする横島くん。
そうすると、美神令子はするりと立ち上がり、背中に左手を回し、そのまま下側に動かした。
トレードマークといっていいボディコンの締め付けが不意に失われ、胸元からゆっくり傾く。
やがて胸のカップの裏側が見え、スーツ自体が床にバサリと音を立てて、下に落ちていった。



「いいわよ。これっきりでいいなら、わたしのこと抱いてみる?一人前の男なんでしょ?」



彼女の顔はまっすぐ横島に向いている。表情の緩みも消えていた。
その表情には半裸に恥じ入るどころか、頬の赤らみ一つすら無い。

彼女の予想では全体重をかけた少年のタックルが来ると読んでいた。
両足にかなりの力は掛けていたし、後方受身の心構えも出来ていた。
しかし、横島は時折流し台の方向を眺めるのみで、その動きは無い。
やがて膝を折り、その頭を床面に押しつけ、床を大きく叩き始めた。



「ち、ちがう!こうじゃない!こうじゃないんだ美神さん!」

「な、なにがよ。そんなに身体もたるんでない筈だけど……」



予想外の展開に、美神も気丈な表情を崩し横島に手を差し伸べようとしていた。
少年は憤怒の表情を浮かべ、涙を流し、歯を食いしばりつつ低い叫びを上げた。




「俺の予定では美神さんが……………

『横島クンには敵いません!今までゴメン!一生奴隷でいいわ!むしろして下さい!』
『馬鹿だなあ令子、お前みたいなイケイケ馬鹿女、俺の肉奴隷になるしかないだろ!』
『ああーん!今までごめんなさい横島忠夫大明神ご主人さま大閣下!一生弄んでえ!』
『よっしゃ原作崩壊ハーレム作戦大成功!おっとココからは投稿広場から脱出だぜ!』
『アル○ディアでもナイ●●ーカーでも一生ついていきますわ!令子を捨てないで!』
『ぐへへへへへ!いざ往かん18禁エロエロスペース!これぞ速度戦大勝利ナリよ!』

……………となるはずだったのに!」



「なるかボケェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!」



美神令子の十八番である超音速ハイキックがくりだされて、横島忠夫の顔面に直撃した。
体重の乗った高速キックに、少年はキリモミ三回転を経た後、ザシャアと顔面から着地。
横島は思った。こんな事ならビールマンスピンより受身を練習しておけばよかった、と。



「まったく、全然変わってないわね!チョコでも食って頭冷やしなさい!じゃあね!」



真っ赤になって怒りつつ服装を整え、来たときと同様に大きな音を立てて退室する美神令子。
今回は幸運も味方し上陸に成功したが、成果も得ず帰宅。現場勘に欠けると言えなくも無い。
とはいえ彼女も流石に無条件で肉奴隷にはなれない。ヘタレと言うのは酷というものだろう。



一方横島少年はといえば、例の姿見の前で色々とポーズを取っていた。
頭上の数字は『2』から『1』に変わった。つまりもう後は無いのだ。
しかし美神令子も既に『帰した』。危害が及ぶ相手はもう誰もいない。



「つくづく惜しい!この美少年が世界から消えるとは!神はいずこ!あ、魔鈴さんとこか!」



もはやボケてもツッコミする人間すらいない。一人でこなすしかない。
ふと、コタツの上の、美神の置いていったチョコの紙袋に目が留まる。
手を伸ばしつつも若干躊躇したが、やがて奪い取る様に鷲掴みにした。



「うははははは!いい女からこんだけチョコ貰える俺すげえ!我が生涯に一片の悔いなし!」



握りこんだ拳を天に振り上げて、大声で宣言する横島忠夫少年。
言い終えた瞬間に、彼は手のチョコレートを全て口に放り込む。
咀嚼し、嚥下したその瞬間に、顔面から大きな破裂音が響いた。














そして同時刻、魔法料理店魔鈴の結界内。
質素な丸椅子に腰を落とし、何も無い方の空間をぼんやりと眺めるメドーサ。
申し訳無さそうに、その横で立つ魔鈴めぐみ。結局は何も出来なかったのだ。



「……あたしはちょっと、自分の力って奴を過大評価してたのかもしれないねえ。」

「彼には可哀想な事をしましたけど、これも魔法の側面です。仕方ありませんよ。」

「仕方ない、だって?!わかった風な口を利くんじゃないよ!この、人間風情が!」



瞳孔を縦に窄め、凶悪な表情で向き直るや否や魔鈴の首を片手で持ち上げるメドーサ。
無論、本気で締めれば彼女の首くらいは千切れ飛ぶのだが、さすがに手加減していた。
羅刹もかくやと思われるその表情もやがて解れ、無造作に手の中の人間を放り投げる。



「あたしはね、もう二度と仲間を死なせないって決めてたんだよ………」



なんとか胴を起こした魔鈴は、締められていた首を押さえながら立ち上がる。
その時、偶然にもメドーサの研究ノートの『とあるページ』が開かれていた。
それはメドーサが求める原材料を使い切ってしまった魔法薬のレシピである。



『魔法薬拒否反応の解毒剤。単体では【昔に戻りたくなる気分にする薬】となる。』



魔鈴が昨日受けた依頼は、昔の職場に戻りたくなる魔法薬が欲しいというものだ。
そしてこの項目を見つけ、魔鈴は必死に製作をしていたという経緯があったのだ。
赤い髪の依頼主は、それにたいそう満足して、多額の報酬を置いていったという。






























翌日、GSメドヨコ除霊事務所。

慈母神も斯くやというほどの笑顔を貼りつかせて、小鳩が流し台に立つ。
鬼が置いていった大振りのワイングラスにスプーンを入れ、回していた。
工業用無水エタノールと書かれた瓶が、彼女の足元に数本転がっている。



「こ、小鳩ちゃん?あの……あのですね?」

「待ってて下さい、すぐ出来ますから。カクテルって思ったより簡単ですね。」



いつものコタツにはメドーサさんが両足を入れており、やはり新聞を読んでいた。
その正面の板の上には、ロープでぐるぐる巻きにされた横島くんが正座していた。
当然だが小鳩ちゃんだけでこんな芸当は出来る筈もない。彼女も一枚かんでいる。



「め、メドーサ!ちょっと小鳩ちゃん止めてくれ!あんなん呑んだら俺死んじゃうって!」

「はぁ?自分で欲しいって言って頼んだんだろ?飲んでやるのが礼儀ってもんだろうに。」

「なんだよー!昨日は『生きてたんだね!』って半泣きで抱きついて喜んでくれたのに!」

「………………おーい小鳩!横島がね、エタノールはやっぱり濃い目がいいんだってさ!」

「わかりました!そう来ると思って濁龍さんから15本買ってきてますから大丈夫です!」



誰もがイメージする女神のように清らかな笑顔を浮かべる、本物の女神のメドーサ。
横島少年は、もはや彼女は助けてくれないと思い知った。
流し台からはやはり慈母神のような笑顔を浮かべた小鳩が、グラスを持ち歩み寄る。
横島少年は、もはや彼女も助けてくれないと思い知った。
唇を閉じて抵抗するも、女神は鼻をつまみ、やがて開いた口にガラスの冷たい感覚。



「ごめん!許して!あやまる!なんでもする!ねっ?ねっね!?」

「じゃあ……………横島さん、ヤマトカクテル飲んでください。」

「こ、小鳩ちゃあああああああああああああああああん!!!!」





工業機械のような筋力を持つ竜神に固定され、首もろくに振れない横島くん。
視界一杯に大きなワイングラスが広がり、その視界が全てガラス越しに映る。
丸く歪んだ向こうの二人は、笑っている様な怒っている様な不思議な表情だ。



「だ、だめやおおおお!お酒はハタチになってからあああああ!」







築50年オーバーの賃貸アパート上空に、虚しい叫び声が響き渡った。
こうして横島くんのヴァンアレン帯イベントは無事終了したのだった。




教訓:お酒は二十歳までは呑んだら駄目、絶対。あと、チョコ貰う男は全員もげろ。





つづく。


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