椎名作品二次創作小説投稿広場


GSメドヨコ従属大作戦!!

重力加速度より脱出せよ


投稿者名:まじょきち
投稿日時:12/ 6/18

みなさんごぞんじ東京国立博物館。
上野公園のそばに聳え立つ深緑に囲まれた荘厳な建物である。
OFF会が上野駅集合で早着の時間潰しに見た人も多かろう。



「吸………引っ!」



最高級GSかつ最高級ギャランティの美神令子が、保管庫で除霊をしていた。
なにせ国立の施設。金額の寡多なぞより信頼と実績と知名度を重んじるのだ。
彼女にとっては、そのような場所はもはや固有のエサ場であると言っていい。



「まいどありー!じゃ、あたしはこれで失礼するわね。バーイ。」



単身のりこみ瞬く間に除霊を済ませた後、即座にエサ場を後にする。
彼女自身は、オカルト関連以外の歴史にも過去にも全く興味がない。
また、依頼する方にとっても、そのほうが何かと面倒がなくて良い。
これがプロフェッショナルの美神令子による仕事の日常なのである。





一方GSメドヨコには、当然だがそんなリッチな仕事などは来たりしない。
上野でも昭和通りに面した雑居ビル4F『つぶれ屋商事』の事務所にいた。
耐震基準なぞぶっちぎりで違反した古い建物。塗り替えた外壁が痛々しい。
そのフロア奥にある倉庫スペースに、メドヨコの二人と社長が立っていた。



「この奥にオバケちゃんがいるんでさ、イッチョ頼むわ。あ、在庫は壊さないでくれよ?」

「ふふん、まかしときな。………横島、昨日出した宿題はもちろん出来てるんだろうね?」

「うはははは!俺にまかせとけー!昨日考えた究極奥義、よーこーしーまーミサイルッ!」



横島くんがそう叫びながら両手の指を倉庫の奥に向ける。
その指先の全てから、1cm程の小さな霊波動の玉が無数に飛び出す。
光の玉は、四方八方に散らばりながら、ターゲットを探して飛び回る。



「GYOGYO?…………GYO?!――――GYOEEEEEEEE!」



一つの玉と亡霊がニアミスした。次の瞬間に近くの玉もそちらに飛び、他の玉も向かう。
亡霊は何とか物陰に隠れやり過ごそうとするが、駄目。執拗に光球は獲物を追い詰める。

やがて逃げきれずに光球の一個が亡霊に被弾。続けざまにその周囲の玉もぶつかりだす。
一度被弾しはじめるとコンボ状態となり、態勢が崩された霊は避けることも儘ならない。
しかも霊にとっては絶望的な事に、今も横島の指先からはミサイルが出続けているのだ。



「やめな横島、もう亡霊消えちまってるよ。……悪くない技だけどさ、無駄が多いねえ。」

「うーん、やっぱ駄目かー。急に遠距離系とか術系の戦術を考えろって言われてもなー。」

「ま、政治的ジェスチュアって奴だから。不向きってのが判ったし、良しとしとくかね。」



肩を竦めながらおどける様に笑いかける竜神様。
弾幕を収めた横島少年は彼女の意図するところを掴めず、少し困惑している。
クレバーな戦術には定評がある彼なのだが、タイプ的には近接戦闘型なのだ。

ともかく、小さな会社の小さな除霊は完了した。そしてやはり小さな社長が、
態度と身振りだけは大きく構え、用意していた除霊費用の封筒を横島に渡す。



「うへへ、まいど!お代はもう貰ったんで俺らは帰るけどさ、この会社ってば大丈夫なんか?」

「心配御無用ゴム着用触らぬ亀にアタリなしってなもんよ!来月は知らんが今月は大丈夫だ!」

「俺らが言うのもなんだけど、本気でやばい時には除霊しないで引っ越したほうがいいかも。」

「こちとらな、先祖代々上野でつぶれ屋の屋号守ってんだ!ケツまくって逃げれるかっての!」

「代々つぶれ屋かよ!そりゃ先祖に文句の一つも言ったほうがいいと思うぜ?じゃ、またな!」



横島くんは大阪で一時期を過ごしてはいたが、生まれも育ちも東京都である。
大阪で培ったコミュニケーション能力もあって、人付き合いが非常に上手い。
特に23区内の『あまり高級ではない住まい』の人々とは即座に打ち解ける。
新大塚不動産から始まった仕事だが、下町界隈の顧客は既に200を超えた。

少し膨らんだ茶色の封筒を手に上機嫌でビルをあとにする横島くん。
そんな彼を横目に見つつ帰社の準備を始めようとするメドーサさん。
そこで、つぶれ屋事務所の壁にあるポスターが彼女の視線を奪った。
『歴史あるものは素晴らしい…』と書かれたアオリの文が目に付く。



「……横島、そこの博物館で『失われた文明展』だってさ。ちょっと寄っていこうか。」

「別に今日はもう仕事ないからいいけどさ。めずらしいな、メドーサから誘うのって。」

「文明の出来たり消えたりなんか生で見てるからね。あんたに歴史の先生してやるよ?」

「あはは、そりゃ贅沢な先生だな!じゃあメドーサせんせーよろしくお願いしやーす。」



ちなみに瞬間移動を頻繁に使うメドーサではあるが、この日は徒歩で博物館に向かう。
昭和通りから東京国立博物館はそれほど近いのだ。だいたいゆっくり歩いても5分程。
もうすぐOFF会の集合時間なのに道が判らないと半べそで歩いててもすぐの距離だ。



「こいつツタンカーメンって書いてるけど、本当はイトコのツカンタンメンだよ。」

「これ宗教上の儀式の道具ってなってるけどさ、ただの子供の作った壷だからね。」

「あはは、男女平等の先進的な文明だって!あいつら普通にDVし放題だったよ!」



恐らく高学歴の学芸員がつけただろう説明文を楽しそうに論破する竜神様。
未来から来た主人公がメタ知識で過去で活躍するのと根っこは同じである。
非常に楽しそうでなによりな竜神を横目に横島はとある展示に目を留めた。



「お、これ『悪魔グラヴィトン像』だってさ!メドーサの知り合いかも?」

「悪魔グラヴィトンねえ。悪いけど聞いたことないよ。どれどれ…………」



悪魔グラヴィトン。
紀元前アフリカ、もしくは南大井方面で栄えたフトール帝国で崇められた邪神である。
フトール帝国は大半が成人病で、救済を求め考え出したのではないか、と推測される。
奇跡には、身体を軽くする、痩身に効く、美肌に良い等があり生贄も捧げられていた。



「ねえ横島、フトール帝国ってのは知ってるかい?」

「うんにゃ。」

「あたしだって知らないよ。ま、その程度って事。」



次の展示に向かおうとする竜神だが、ふと立ち止まり再びグラヴィトン像に戻る。
意地の悪い笑顔を浮かべながら、その展示用のガラスケースに顔を近づける竜神。
聞こえるか聞こえないかほどの小さな声で、そのガラスケースに、数秒つぶやく。
すると。



「のわ!な、なんだあ?!この像、動くぞ!?」

「あはははははははははは!三下魔族の癖にいっちょまえに怒ってるよ!」

「な、何言ったんだよメドーサ!な、なんか地震みたいになってきたぞ!」

「聞きたいのかい横島。しょうがないねえ、ちょっとその汚い耳貸しな。」



今度はメドーサが横島の耳元に口を寄せる。
少年の鼻腔に、ふわっと果実系の香料のような匂いが入り込む。
耳元の香りと感触を楽しむ少年に、女はわざと小さく話し出す。




「フトールだか知らないけどそんな僻地の原住民騙すとか、子供の魔族でも普通しないだろ?
恥ってものを勉強しとくんだったね三下。2万年以上前だってそんな事する奴いなかったよ。
しかも作ってもらったのがこのちんけな像一個だけとかアンタよっぽど人気なかったんだね。
ふつう魔族とか神族とかは畏れられて芸術家の題材にされるのが普通なのに、アンタはコレ?
ちょっとした名物の食い物だって少しはマシなもん作られるってのにさ。お可哀想と言うか。
その点あたしは中東から北欧地中海一帯の蛇神信仰の大元なんでね。そりゃあ石像だらけさ。
歴史の手引書でもいちいち出されるもんで正直面倒になったくらいでね。アンタはどうだい?
あ、そっか、こんな石像一個だもんね、出ようがないか。ごめんごめんあたしが悪かったよ。
えっと、アフリカだか羽田大鳥居だかのフトール君たちにだけすごく大人気なんだったっけ?
あーでもこの石像見てもあんまり尊敬されてた感じしないよね。コレジャナイ感が凄いしね。
おおかたチョットした手品みたいなチンケな術で驚かして、信仰させただけなんだろ?ええ?
しかもこんな像に入り込んで生きながらえるとか常識を疑うよ。あたしなら即抜けるけどね。
あ、3千年経ってもこれ以上の信仰も恐怖も得られなかったからここにいるって事なんだね。
悪い事言わないからさ、魔界に戻って教習所で一から勉強し直した方がいいかと思うけどね?
次の卒業はいつになるかわかりゃしないか。あんた奇跡で魔族一種貰ったって感じだしねえ。
一つだけ言える事はあんたみたいな三下は二度と人間界に出ないで魔界で篭ってるべきだね。
それか不細工な像の中で思い出に浸りながら他の魔族達の活躍を見とくといいさ。じゃあね。」



無邪気にニコニコと笑うメドーサ。
全部聞き終えた横島が少し間をおき頭の中で反芻する。
そして少年は、今言うべき言葉を見つけ、声を発した。



「さっきのちょっとした時間で、そんだけベラベラしゃべれるワケ無いだろーが!」

「あたしは高速真言使えるからね。鉄道唱歌だって息継ぎしないで唄えるんだよ。」

「そ、そーなんかー。まあでも、あれだけ言われりゃ幾ら悪魔だって怒るわなー。」

「こんな奴が怒っても、たかが知れてるさ。楽しんだ事だし、そろそろ帰ろうか。」

「はーい。」



やがて女神と下僕の2人は楽しそう語り合いながら建物を後にした。
しかし、悪魔グラヴィトン像を怒らせた真の恐怖はここからである。
実はこの悪魔像の真の能力とは………いや、ここで多くは語るまい。
追って状況がその恐怖を説明してくれよう。











「てなわけでさ、メドーサが博物館好きなんだって今日は判ったんだぜ小鳩ちゃん!」

「へー、そーだったんですかー。それにしても、その悪魔って大丈夫なんですかね?」

「なにが?!言っとくけどね、三下に後れを取る程あたしも落ちぶれちゃいないさ。」



コタツに並んだ夕食を前に、三人が談笑している。
儲かっているはずのGSメドヨコだが、その食事内容はあまり豪華絢爛ではない。
基本的には一汁三菜のスタイルをとる。これはメドーサが小鳩に指示したものだ。
すこし昔に、メッシュの入ったグルメ陶芸家に奢られた時に感銘を受けたらしい。



「小鳩、ちょっとそこで立ってみな。」

「あ、はい。……これでいいですか?」

「ああ、悪いね。」



急に立席を促され、コタツからそっと足を抜き立ち上がる小鳩ちゃん。
箸を置き、小鳩の頭から足の先までをじろじろと眺めるメドーサさん。
一瞬たりとも箸を休めずその光景を見守る横島くん。



「そうだね………小鳩は………だいたい97くらいかね。」

「え?な、なんですかいきなり?」

「いや、小鳩ちゃんは102だろ!俺の目に狂いはない!」



箸を手にごはん粒を飛ばし力説する横島くんと、正面に居ながら見事に避けるメドーサさん。
小鳩は何故か急に意見を闘わせ始めた横島とメドーサを見つめて、オロオロしているのみだ。
さもありなん、なにせ急に自分が得体の知らない基準で品定めをされはじめているのである。



「ま、案外それくらいかもね。横島は……バカヅラしてるときはだいたい90くらいかね。」

「まあな!俺もけっこう鍛えてるしな!それくらいあるかもしれんのう!うはははははは!」

「褒めてる訳じゃないんだけどね……で、あたしは2万。三下魔族にゃあ負けやしないさ。」

「2万?!盛るってレベルじゃねえぞ!そりゃ人類以上と思うけどさ、2万はひどいって!」

「なんだい、あたしがもっとチンケだってのかい?横島でもちょっと聞き捨てならないね。」



一気にメドーサの表情が険しくなり、空気に緊張感が俄かに混ざりはじめる。
しかしきょとんとする横島。小鳩は、ここで2人の話がなんとなくわかった。
彼女は気弱ながらも、いや、気弱だからこそ、流れを読むことができるのだ。



「ちょっと待ってください!……あの、こ、小鳩には謎が全て解けました!」

「???」「???」

「2人とも、『せーの』で今の話題の単位を言ってください。……せーの!」

「センチ!」「マイト!」



センチとはメートル法の単位だ。1センチメートルは1メートルの100分の1。主に長さに使われる。
情緒的なという意味で使われる『おセンチ』というのは全く関連がない。あれはセンチメンタルである。

一方マイトとは、神族や魔族が霊力を計るときの単位である。約100ジュールで1マイトに相当する。
ダイナマイトを基準に算定したであるとか、単に力強さの英語mightを使ったものだ等と諸説ある。
だが真相は神にも悪魔にも不明なのである。神族も魔族もあると便利なので使っているに過ぎないのだ。



「つまり、横島さんは、その、私の、どこかが102センチなんだって言いたいんですよね?」

「いくざくとりぃ!小鳩ちゃんのおっぱいはトップ102アンダー72センチ!間違いねえ!」

「……で、メドーサさんは霊力を言っていたと。えっと、たしか97……マイトでしたっけ。」

「はいはい!メドーサおっぱいってばトップ110センチ!で……むむむ?ちょっと待って。」



頼まれもしないのに芸術品の鑑定士のように執拗に乳周りを眺める横島くん。
怪訝そうな顔をしながら、多少は興味があるのか見るに任せるメドーサさん。
異様な空気に呑まれながらも、久々の横島の真面目な顔を見入る小鳩ちゃん。



「このタッパでアンダー68?!絞りすぎだろ!ちょっと肥えた方が絶対可愛いってば!」

「馬鹿を言うんじゃないよ。いざって時に重くちゃ戦闘にならないだろ。常識で考えな。」

「肥えた方が可愛いのにーもったいないーあな口惜しやー小鳩ちゃん位がベストだよー。」



さりげなく褒められて赤面する小鳩だが、横島は至って真面目に分析しているに過ぎない。
間違いなく言えることは、メドーサの実力がサイズ的にも霊力的にも凄いという事である。
ただ、筆者もどちらかというと、おっぱいマイスターたる横島忠夫氏の意見には同意する。



「とにかくこの話はもうおしまい。あたしは先に寝るからね。あんたらもカラダ休めな。」

「ううー、今からでも遅くないからさー、もうちょっとやわこくなろうよー。ねーねー。」

「あ、あの、横島さん?……その、ダイエットって女の子の永遠のテーマなんですよ……」



三者が三様の思いを胸にしながら、その日の食事は終わる。
小鳩がエプロンをかけ洗い物を始め、横島が流し台に低い姿勢でにじり寄っていく。
メドーサは少年のぶれない行動に嘆息交じりで微笑みながら、押入れの戸を閉める。
いつもの夜の光景が、特に何事も無く繰り返されていく。







翌朝。
この日は定休日により仕事がないので、既に6時をまわろうとしていた。
いつもの朝の光景であればこの辺りで小鳩が起床するところから始まる。
しかし、この朝は違うスタートを切った。



「い、いたた!」



なんとも情けない大声と共に、木の裂ける様な大音が横島の部屋にこだまする。
爆睡したら食事か暴力以外では目覚めないはずの部屋主が声に驚き飛び起きる。
なんと情けない声を出したのは横島くんではなかったのだ。それはつまり……



「ど、ど、どしたー!敵かー!隠れろめどーさ!俺の女に手を出す奴は誰じゃああ!」

「あ、ち、ちがうんだよ、その、ちがうから!」

「違わん!なにひとつ違わんぞ!出てこないなら俺からいくぞ!横島レーダー発射!」



寝ぼけ眼のトランクス少年の指先から、ちいさな光の玉が10個ほど放出される。
昨日の除霊で見せた横島ミサイルに非常に似ているが一個一個の大きさは5mm。
やがてその光球が玄関の扉に動き出すのを確認した横島が、霊波刀を振り上げる。



「そこかー!全力全開ぶっちぎりスーパー横島バーニングスラッシャー!」

「おはようござ……い……ま―――――――――」



安普請の扉を開けて現れたのは、騒ぎを聞きパジャマ姿にどてらを羽織った小鳩。
横島の10個のレーダー達は霊気に反応する。そして97マイトの小鳩を追った。
横島レーダー、まだまだ改良の余地のある技といえよう。



「うげ!お、俺の腕がいうことをきかねえ?!小鳩ちゃん、避けろー!」



小鳩を発見し認識したと同時に横島の腕は、ギアスにより意識どおり動く事を拒否。
しかし、ギアスは女人との胴体の接触を禁じている。胴体以外の接触に関与しない。
手刀はかなりの勢いを残した状態で、小鳩の脳天を直撃するコースに向かっていた。
彼女も急に横島が覆い被さってきた事をうまく理解できていないようだ。



「ぬあめるぬあああああああ!」



寸での所で横島は足をわざと絡ませ自分の重心を崩し、何とか小鳩の横に手を逃がす。
小鳩からのコースから外れ開放された肉体は、その直前の命令に従い再起動を始める。
当初の力が戻り、霊波刀ごと腕は加速度を増し、下へ下へと向かい、そして……



「?!○×△■☆!・ソ譁・ュ怜喧縺代@縺ヲ縺・∪縺・!!」



すり抜けた手がそのままの勢いで、横島の体の軸線下側にある器官に激突した。
口から、まるで文字化けを読みあげたかのような意味不明の叫びが湧き上がり、
顔には、この世の全ての罰を引き受けたかのような苦悶の表情を浮かべていた。



「よ、横島さん?!だ、だ、大丈夫ですか?その、凄い音しましたけど……」

「……っ!……ぃっっ!っあ、安心して!ちょびっとだけ峰打ち!大丈夫!」

「痛いんでしたら、その、私が手当てしますから!どのへんなんですか?!」



横島は目の前にある白い手で、患部をマッサージされる様子を想像した。
その想像があらぬ興奮を呼んで、その興奮が更なる激痛を呼んでしまう。
少年は青褪めながら精一杯の笑顔で微笑み、小鳩にやさしく話しかける。



「ボクハモウ大丈夫ダヨ小鳩チャン。ソレヨリめどーさヲ調ベテクレルカナ?」

「わ、わかりました!」



小鳩が部屋を見渡すと、押入れの前でメドーサが尻餅をついて両足を天に投げ出していた。
その目は大きく見開かれ中空を見つめ、口も半開きで一向に閉じようという気配すらない。
ただただ放心し、その自分の無様な格好を是正しようとすることすらなく、硬直していた。



「メ、メドーサさん?あの、どこか痛いんですか?」

「………………………」



メドーサは戦闘のプロとして苦戦は有っても無防備に背中から転げたりしたことは無かった。
無論こどもの頃は別であろうがここ数百年来に、戦乙女にそのような記憶は存在しなかった。
自分からバランスを崩し、背中から転んで倒れた、その事実に彼女は思考から硬直していた。



「こ、小鳩ちゃん、俺は今凄く困難な状況でそっちが見れない!メドーサは無事か?」

「ええと、た、たぶん大丈夫です。押入れの床板が抜けて転んだだけみたいですね。」



横島の中のメドーサ像もメドーサ本人が自認しているものと、ほぼ同じであった。
激痛も押しのけ、横島は押入れに視線を向ける。そこには確かにメドーサがいた。
両手足を宙に上げ放心してる竜神。押入れの床板には、見事な大穴が開いていた。



「おお!肥えてくれたかメドーサ!あんだけ嫌がっておきながら!このツンデレ!」

「ち、ちがう!あたしは肥えてなんかいない!…………はず…………だけど………」



なぜか嬉しそうに囃したてる横島に異を唱えるべく、起き上がろうと床に手を突く女神さま。
すると、今度は床板がミシミシと悲鳴を上げ始める。彼女は咄嗟に霊力を開放し1m程浮遊。
そして、手を、体を、まじまじと見つめて吟味をする。



「こ、これは、重力干渉魔術!このあたしにこんな小癪な真似、いったい誰が……」



その次の瞬間、彼らの頭上に出来の悪い石像が現れる。もちろん本体ではない。
霊能力の応用で作成された立体映像。悪のラスボスが夜空に浮かぶ例のアレだ。
千里眼と空間転移能力を併用し正面の空間にある光の反射を飛ばしているのだ。
その表情は心なしか薄く笑いっているかのようである。



「こいつ、昨日のアフリカだか西糀谷だかの悪魔像じゃねーか!大丈夫なんか?!」

「ば、馬鹿にするんじゃないよ!こ、この程度の相手!…………むぎぎぎぎぎぎ!」

『ぐっふっふっふ!この術は、持ち主の霊力を重力加速度に加算するんだよおお!』



横島はメドーサの周囲が少しだけ、歪んだ様な霞んだ様な風に見え始める。
目を何度も擦り視野を調整しようとするがその光景は一向に改善されない。
ちなみに横島の視力は非常に良い。つまり目の錯覚や疲れなどではなく……



「め、メドーサ、その、すこし身体の周りがモヤモヤってしてきたんだけど……」

「ああ、そうだろうね。光の粒子があたしの重力に負け始めているみたいだね。」

「光の粒子?光って粒なの?で、そ、それってさ、その、大丈夫なんメドーサ?」

「平気に決まってるだろ。あたしを誰だと思ってるんだい。もう平気の平左さ。」



メドーサが目を閉じ、口を真一文字に結ぶ。
すると身体の周囲に気流が発生し、やがてその絞り上げた身体から光の奔流が出始める。
不敵な笑みを浮かべる竜神。しかし彼女の姿は表情とは裏腹に、一段と歪みを強くする。



「いいかい横島、霊力戦闘の基礎は霊力の多いほうが勝つって教えたの覚えてるかい?」

「な、なんだよ、やぶからぼうに。あとは勝った気になったほうが勝つんだったっけ?」

「そういうこと。ただし、こういう能力系とかで特定の法則がある場合は別なんだよ。」

「い、今教わらなきゃいけないことなんかソレ?メドーサ、ほんとに大丈夫なんかよ?」



更に彼女の輝きが増す。平方センチあたりで100W電球相当の120カンデラを突破した。
ちなみにカンデラとはキャンドルと同じ意味である。つまり蝋燭一本分が1カンデラである。
直視をすると紫色っぽいモヤモヤが視野に残る状態で、かなり明るいな、と思って頂きたい。



「いいから聞きな。例えば相手の攻撃を99%返す鏡があれば、相手には無敵に近くなる。」

「そ、そーだろーな。だったら別な方法で鏡を壊せば…………そっか、壊せばいいんだな!」

「それも正解の一つ。じゃ、もう一つの正解を考えな。実戦じゃその時の方が多いからね。」



横島は思考する。
ほぼ完璧に攻撃を跳ね返す鏡に、壊さずに勝利する方法とは何か。
しかし彼の頭に浮かぶのは、やはり鏡を壊す方法ばかりであった。



「わかんねー!てっとりばやく答え教えろってばよー!余裕かましてる場合かっての!」

「良い勉強の機会じゃないか。……じゃあ小鳩、あんたがこのナゾナゾに答えてみな。」

「……まさかとは思いますけど、1%が跳ね返せないから、その1%を極大に上げる?」

「そういうこと。長所は短所、利点は弱点になる。戦場じゃその考え方が重要なのさ。」



弾道ミサイルを例にとってみよう。弱点としては発射に時間がかかり発射前は壊しやすい。
長所としては、発射してしまえば撃墜率は25%を切りほぼ防げない。短所と長所である。
では発射前に壊せば良いかといえば、相手も知ってはいるので、場所は秘密にされている。
判りきっている弱点を突けるほど現実の戦闘は甘くはないぞ、と彼女は言いたいのである。
メドーサ流の正解で言うなら、25%の撃墜率を上げる工夫をするべき、といった具合だ。



「そこで2人にあたしからお願いがある。横島は今から二礼二拍一礼を繰り返すこと。」

「えーと、お参りする時のアレ?おっけー、わかった。あとでなんかご褒美くれよな!」

「小鳩、あんたはフトールの情報を集めてきな。特に人口。向こうの実力が知りたい。」

「わ、わかりました!!」

「頼んだぜ小鳩ちゃん!」




小鳩はメドーサのお願いを聞き、自室で最低限の着替えを済ませ部屋を飛び出した。
目指すのはやはり、豊島区立中央図書館。豊島区最大の蔵書を誇る大図書館である。
経済的に非常に苦しかった時代の長い小鳩にとって、いきつけの勉強部屋でもある。



「………小鳩は走ります。メドーサさんを救う為に走るのです。」



自分にそう言い聞かせながら、小鳩は下を向き走り続ける。
アパートを出て住宅街を抜けると、そこは猥雑な繁華街だ。
小鳩は運動が得意ではない。だが、息を荒げ懸命に走った。



「私きっと見られてる、見られると判っていても走るのです、メドーサさんを救う為に!」



彼女の走る姿は男性の目を異様に惹きつける。彼女の運動離れの大きな要因でもある。
彼女の上半身には同性の大半にとって比肩するべくも無い程の持ち物が備わっている。
特殊な装身具で押さえつけているが、少し動いても砲弾型の装備は縦横無尽に揺れる。
男には非常に蟲惑的に映り、好奇と奇異を綯い交ぜにした視線で、彼女を射抜くのだ。

だが、彼女はそのような唾棄すべき欲情の目線を、百も承知で走っているのだ。
自分を認めてくれた上司を救うために、思いを寄せる異性の願いに答える為に。










「横島!礼の角度が悪い!背中は曲げない!手はしっかり叩く!」

「おう!えっと、ペコペコパンパンペコ!こんな感じでどうだ!」

「上目遣いでこっちを見る奴があるかい!目はちゃんと閉じな!」

「うへえええ!」




宙に浮くメドーサ。それを必死に拝む横島。
竜神は先ほどまでは1mほどの上空で浮いていたが、現在30cmの位置まで下がっている。
発する光はHID電球レベル、センチあたり10000カンデラをすでに突破しているのだ。
つまり判りやすく言うと、けっこう状況は悪化しているのかもしれないね、という事なのだ。



「横島、もうちょっとたくさん信仰してくれないと、あたし消滅しちゃうかもねえ。」

「ちょ!さっきと言ってることちげーじゃん!……ちなみにその時の周囲の被害は?」

「無いさ。人間は好きじゃないが地球は好きだしね。宇宙でくたばるから安心しな。」



意外な一言に驚く横島。ちなみに彼女の請けてきた悪の仕事も地球を滅ぼすものは無い。
そういう依頼も舞いこんで来なくは無かったが、彼女の嗜好と合わず拒否をしたらしい。
そんな彼女の覚悟を聞き少年は表情を引き締め、先ほどよりも懸命に儀式を進めていく。









一方、小鳩は汗だくになりながら池袋駅東口に面する大通りを走り抜けて、
東京メトロの地下通路6番出口そばにあるビル中階の図書館に飛び込んだ。
向かうは4階歴史図書コーナー。検索機に頼らず背表紙をひたすらに追う。



「太いくて長い男の歴史文学……太った女のモテカワ古代史……フトール帝国史!」



奪うようにして本を手に取り、目的の資料を探して必死にページをめくる。
通常このような本の場合、数字資料などは巻末などに表で纏められている。
しかし見当たらず。著者が凡庸なのか、落丁なのか、閲覧者の悪戯なのか。



「え?これ、別冊付録小冊子!?購入者特典?!」



彼女の見ていた8cmの分厚い本は付録だったのだ。どうやら資料自体は本編の方。
『超マイナー王国全て見せちゃうビックリ古代史オモシロ大研究!』にあるらしい。
大英帝国博物館の貴重な学術研究用資料を、て○びくん編集部が翻訳した意欲作だ。



「カテゴリー………じ、児童文学?!」



不慣れな検索機を使い小鳩が驚く。
図書館の分類は時々突拍子も無いところにされていたりすることが多いのはご承知の通り。
そんな経験は私も確かに多いが、今回はタイトルがタイトルだけに、司書の人に同情する。
しかも本の表紙も、子犬と少年のマンガ絵が写真に重なっている、いかにもなデザインだ。
適温に調整されている図書館ではあるが、本にすら振り回される小鳩に休息地はなかった。
大きな胸を揺らしながら大きな図書館を縦横無尽に走り、汗だくのまま奮闘は続いていた。










「ぬおおおおおおお!こうなったら手札は全部出す!ラストトレジャーの出番だぜ!」



一方、横島くんは目の前でどんどん光りながら衰弱するメドーサに焦り、賭けに出た。
拝礼を中断しトイレに駆け込み手洗い付き水タンクに足を掛け、その天井の板を外す。
そこには30cm四方の段ボールが隠されていた。それはメドーサが来る前からの物。
あのギアス掃除から難を逃れた彼の『最後の宝物』だ。



「美神さんの洗濯前ぱんてぃ、着衣中だったぶらじゃあ、隠し撮り写真……」



その一つ一つをまさに宝玉を愛でるが如く、懐かしそうに手に取り頬を寄せる。
やがて少年のその表情に緊張感が漲り、苦い汗が額に浮かび、口元が震えだす。
だが次の瞬間、そんな彼の表情は一転して澄み渡り、毒気が完全に抜けていた。



「うはははは!これが俺の最後の切り札じゃあああ!さようなら俺の純情!」



秘宝のはずの美神さんのパンツを穿き、ブラを着け、隠し撮り写真を股間に詰める。
彼はその思い出と引換えに、それを身につけ汚す事で一気に霊力を充填させたのだ。
コレを持ってる時点で果たして純情と呼べるのかという問題は、置いておくとして。



「よし、イイ感じだよ!押し返せば術式は相手に反射できる!もっと上げな!」

「こ、これ以上ですとー?!もう無理もう無理!せめて乳でも触らせてくれ!」

「こっちだってね、ギアス解除式とか悠長な事出来る余裕なんか無いんだよ!」

「じゃあせめておっぱい見せるとかしてくれよー!むしろおっぱい見たいし!」

「くそ、ホントは余裕あるんじゃないだろうね……上手くいくといいけど……」



メドーサの体を包んでいた光が弱まる。すると、イチゴ柄のパジャマに亀裂が走る。
周囲を覆っていた保護バリアが少し弱まって、着衣のみが重力に引かれ始めたのだ。
やがて着衣は四散、大振りにカップを覆うブラジャーと股上の深いパンツが現れる。



「おおー!モデル顔負けなメドーサがこんな地味下着を!ミスマッチにリビドー急上昇!」

「……なんだい、あたしみたいなオバハンでもまんざらじゃないんだ?この見境なしが!」



ちょっとおどけるように、髪をかきあげ、手で乳房を持ち上げるように挑発するメドーサ。
非常に単純な挑発に乗り、更に霊力を上げる横島少年。彼の体も少しだけ光り始めている。
しかし、当のメドーサはといえば、すでにもう床から3cmの位置まで下がってきている。
供給状況は確かに改善しつつありながらも、全体の状況としては確実に悪化しているのだ。



「あと本当にもう少しなんだけどねえ。あのさ、全部見せたらもっと頑張れそうかい?」

「全部って、どこ見てもいいの?あとで怒らない?目ん玉抜き出して食べたりしない?」

「あたしをなんだと思ってるのさ横島……手を借りてる方だからね、金は取らないよ。」



メドーサは目を閉じると、維持に使っていた霊力を絞り、気合と共に下着を吹き飛ばす。
横島は正面に回り、老若男子全ての興味の的であり注目の的である、あの部分を探した。
その時、横島少年は自分を見下ろす女神様と目が合う。彼女は呆れ顔で笑みを浮かべた。

光に包まれなが微笑みかけるメドーサに対し、横島少年は硬直していた。
それは暗雲の中から差し込む帯状の陽光に吉兆を感じる人間と同じ感覚。
それは星の影により黒くなる太陽に不吉の前兆を感じる人間と同じ感覚。



「…………………………」



無言のまま少年は二礼二拍一礼を再開した。厳かに、ゆっくりと、しかし真摯に。
決して動きに無駄が有る訳ではない。怠けている訳でもない。畏怖と尊敬と謙虚。
その霊波動は、拝礼を受け霊力を供給される側のメドーサにも当然伝わっていた。



「あ、あのさ、もっといつもみたくエロガキっぽい視姦したって今日は怒らないよ?」

「メドーサってば神様なんだって、なんか判った気がする。スゴイ存在っていうか。」

「ば、馬鹿言ってるんじゃないよ!何を今さら!おっぱいおっきいだろ?ほれほれ!」

「神々しいって言うんだっけ?今、メドーサすげえって気持ちが止められないわ俺。」



首元まで真っ赤に染まり、必死の挑発を続ける竜神様。
脚を上げたり、ウィンクしたり、尻文字を書いたりと有らん限りの技を駆使する。
しかし、彼女に流れてくるのは『真摯で清廉な』信仰。霊力も今迄の比ではない。



「ああーもう!ヨコシマ!あんた自分のしてる事がどういう意味か判ってんのかい!」

「え?そ、そりゃ、メドーサ助けるためにやってる事だけど?ほかに意味があるの?」



神族は精神生命体に近い。霊力の充足度で姿を変えるなど、体は大した意味を持たない。
マイトと呼ばれる力に固執するように、霊力魔力といった精神エネルギーが意味を持つ。
横島が今やっている信仰礼拝は、神族にとって愛に満ちた交合をしているに等しいのだ。
もちろん横島くんがそれを知るはずも無く、無意識にやっている事は彼女も無論承知だ。



「だ・か・ら!その霊力が足りないって言ってんだよ!もっとパワー上げな!」

「い゛い゛?そ、そんな馬鹿な!?今すっごい霊力出てたって思ってたのに!」

「そ、それは気のせいだよ!ほれ、もっと妄想膨らませて、霊力出すんだよ!」



しかし既にメドーサを覆っていた眩しい光は収まって、両足も普通に床についている。
そう、横島の清らかな霊力が必要十分量チャージされ、彼女を満たしてしまったのだ。
彼女は悪魔グラヴィトンの呪いにより重力干渉を受けていた状態からは、脱していた。



「ああもう全然駄目だよ!全然駄目!もっとぐっとしてドカーンとやってみな!」

「え?なんだよそれ全然わかんない!なんだかちょっとおかしいぞメドーサ!?」

「ああもう、こっちに来な横島!」



己の全裸の肉体を押し付け、顔から覆い被さるように顎を手で固定する。
流石の少年も肉体の刺激には敵わず、濁った霊力がメドーサに流れ込む。
ほくそ笑みながらも余裕の笑みを崩さず、細い舌をチロチロと覗かせる。



「やれば出来るじゃないか。ふふ、ご褒美にキスの真髄を見せてあげるよ。」

「おおおおお!マジですか?!うはははは!大人の階段がもうすぐそこに!」

「これを味わったら、人間なんかじゃ満足できない体になっちまうかもね?」

「ああー!なんだか一気に悪い子になっちゃった気分!何故こんなことに!」



メドーサの長い舌が、何度目かの横島の唇への侵攻を始める。しかも今回は本気だ。
少年の舌にメドーサの長い舌がズルリと巻きついて、舌先同士が口腔内で責め合う。
そして巻かれた舌が一気に動き出し、その異様な摩擦の快感に横島少年は脱力する。

その時、玄関先で大きな音が、三つした。
一つは安普請のドアが勢いよく開いた音。
一つは高さ60cmから冊子が落ちた音。
そして最後の一つは、少女の悲痛な叫び。



「お、温厚な私もしまいにゃ怒りますよ!!!!!!」



さもありなん。恥を忍んで顔を紅潮させながらも全力疾走し、全身は汗だく。
その規格外れの乳がシャツにぴたりと張り付いて、下着がくっきりと浮かぶ。
それもこれも、女神様の存命に役に立てばと思えばこその努力であったのだ。

しかし戻ってみれば、自分の想い人相手に頬を染めて口吻している女神。
男の格好は全裸の上に誰の物だか判らない女の下着の上下。女神は全裸。
そして情熱的に抱き合っており、男の興奮度合いは傍から見て判る程だ。
さらに女上位でのディープキスであり、想い人は桃源郷を彷徨っている。



「おお?おおおおおお?!汗だくウェッティ巨乳女子高生竜虎乱舞状態?!」



小鳩の声で正気に返った横島くんは、さらに霊力を上げる結果となった。
咄嗟に目線を向けた先には、汗によりブラウスが濡れて透けている小鳩。
無論、下着ははっきりと見え、輪郭は全裸よりもむしろ強調されている。
ここで少年の体を光が包み始める。迸る霊力の濁流が限界を超えたのだ。



「よ、横島さん?何をいったい?見苦しいから脱げってことですか?!」

「ちがう!透けブラが俺のディスティニー!小鳩ちゃん素晴らし過ぎ!」



今まで自分の艶姿に欲情していた、見知らぬ有象無象どもの濁った情欲の意識。
しかし、数百人もの忌まわしき視線の合計以上の欲望が横島一人から殺到した。
だが、彼女に不快感は全く無かった。やはり相手によりその効果は変わるのだ。



「さ、さすがはセクシー部長!と、ところで、フトールの人口はどうだった?」

「え?ええ?えっと、フトール帝国の人口は4500人位だそうですけど……」

「ああそう、判った!さ、小鳩も早く横島に抱きつきな!あと少しなんだよ!」

「あ、は、はい!わかりました!」



小鳩ちゃんには何が何やら全く状況が把握できていなかった。
だが、何となく目前の女神が苦労しているようだと認識した。
横島の清廉霊波で照れた頬の赤らみを、苦戦と判断したのだ。



「のほほほほ!前から後ろから!男子の本懐ここに極まれりー!」



横島くんは相変わらず状況に流されやすい。それは欠点でもあり弱点でもあり。
ただ、相手にする方とすれば便利であると同時にチャーミィでもあるといえた。
体の前面から冷たい肌のメドーサ、背後から強く押し付けられる熱い肌の小鳩。



「め、メドーサさん、あとどれくらいで大丈夫なんです?これ以上何をすれば……」

「え?!あ、ああ、もうあと一押しだよ!うん、その、あとほんの少しなんだよ!」

「は、はあ……」



メドヨコ除霊事務所のセクシー部長である小鳩は困惑していた。
自分の昇進は今まさにこの状況での打開を求められているはず。
しかし、身をなげうってもまだ状況は改善されていないらしい。

そこに、いつもながらと言うか、不意の珍客がまたも横島くんの部屋の戸を開いた。



「横島クン、小鳩ちゃんが血相変えて走ってたけど何か事件?なんなら私も―――」

「え?!み、美神さん?!ううう、…………ご、ごごごごごご、ご無礼!!!!!」



玄関先の美神令子に小鳩は飛びかかり、そのボディコンを一気に踵まで下ろした。
彼女のボディコンシャススーツは元々体の線を強調するような作りになっている。
密着していたブラは腹までずり落ち、ショーツも小鳩の指に掛かり膝まで下がる。



「―――――ふ、ナプキンが無ければ即死だったわね。」



美神令子はそう呟くと、鼻血を出しながら白目をむき硬直する横島の元にその格好のまま歩み寄る。
メドーサのキスで翻弄され、小鳩の透けブラに興奮し、更に両者が抱きつき、極限状態に近かった。
その上で自他共に認めるセックスシンボルたる美神の裸身。そこで一気に精神が崩壊してしまった。
万一ナプキンで最後の秘宝を防げなかった場合、最悪横島くんは興奮で昇天していたかもしれない。
美神は彼の着ている自分の古い下着を回収すると、そのまま自分の着衣中の下着の上下を着させた。



「横島クンが私の裸で喜ぶのはいいとして、小鳩ちゃん、貴女はどういう目的で脱がせたの?」

「え?!あの、その、女性にも興味が有るとか無いとか……そんな理由でどうでしょうか……」

「なるほど、バイね。……性癖を咎めるほど野暮じゃないつもりだけど、ちょっと意外だわ。」



美神が今度は自分のボディコンを小鳩に着せ、汗だくの服を代わりに着替えて部屋を去っていく。
今回もメドーサを確認できていない。プロのGSという意味で現場勘に欠けると言えなくも無い。
とはいえ彼女は全裸に剥かれてバイに告白されている。冷静に振る舞えとは酷というものだろう。



「メ、メドーサさん?そろそろ大丈夫ですか?これ以上はもう横島さんが無理ですよ?」

「あ、ああ。ちょっと待ちな……。おいグラヴィトン、聞こえてるんだろ?返事しな。」

『お、お、俺は大英帝国の秘宝なんだぞ!壊したら国際問題になっちゃうんだからな!』



再び空中に現れる不細工な像。しかし、先ほどの余裕の雰囲気は既にない。
一方、苦戦続きだった女神様はこの連載一番の凶悪な笑みを浮かべている。
そしてグラヴィトンの不細工な声に彷徨っていた横島くんの精神も醒める。



「残念だけど、今なら証拠も残さずにあんたを破壊できるよ。ブラフだと思うかい?」

『う、い、いや、俺も魔族の端くれ、それくらいは判る………な、何が望みなんだ!』

「知っての通り、神ってのは慈悲深いが仏ほどじゃない。供物によっちゃ水に流す。」

『く、供物?!悪魔が神にだと?!馬鹿も休み休み言え!そんなの聞いた事ないっ!』

「あっそう。」



メドーサが空中に浮かぶ像に向かって、その白い手をそっと開く。
やがて開ききった手のひらを、ほんの少しだけ、閉じようとする。
その途端に空中の映像は乱れだして、ノイズが左右に走り始める。



『ぎあああああああ!お、お前、像ごと俺を消滅させる気かああああああ!』

「そうだけど?」

『わ、判った!好きなだけ体重を減らしてやる!体めっちゃ軽くなるぞ?!』



その悪魔からの講和条件を聞きだし、少年と少女のいる方向を向く女神様。
少女は少し考えている様子だ。さすがに女の子、その提案は魅力的らしい。
しかし少年は首が折れんばかりに拒否を示す。その提案には否定的らしい。



「よしわかった、じゃあ体重を減らす相手を伝えるからね。」



メドーサが口をほんの一瞬小さく開いた。しかし、小鳩と横島には何も聞こえない。
これは例の高速言語。空中の像の安堵した雰囲気から、内容は伝わっているようだ。



「いかん、いかんぞー!2人とも体重減らすとか全然必要ない!むしろメドーサは肥えろ!」

「あたしは今がベストなんだよ。小鳩も悪魔の手を借りる程じゃないし。もっと別な奴さ。」

「もっと別な奴ぅ?!小鳩ちゃんとメドーサ以外で?!俺でもないだろうし、だ、誰なん?」

「今回は功労者がもう一人居たのを思い出したのさ。言わばそいつにご褒美って感じかね。」



懐に秘めた自分だけが知る事実に、ほくそ笑むメドーサさん。
そんな彼女の意図するところが読めずに知恵を絞って考える横島くん。
小鳩も小考し、こちらはメドーサの真意をすぐに汲み取り、優しく微笑んだ。



「???」



横島くんにはその正体が判らず不満を口にしようとした矢先、腹部より異音が響く。
浴槽から栓が抜けて水が抜け出すかのような、鼻詰まりのいびきの様な独特の低音。
簡単に言うと、おなかが鳴ったのだ。



「あ、もう夕方なんですね。横島さん、なにかリクエストあります?」

「え?あ、う、うん。何でもいいけど、コロッケとか食べたいかな。」

「じゃ、あたしも小鳩を手伝うとするかね。留守番は頼んだよ横島。」



買出しに出てしまう女性陣。残された横島くんはモヤモヤした気持ちのまま残される。
だが小鳩とメドーサが帰宅する頃には、テレビに向かって寝転がる少年の姿があった。
不要であれば無駄な考えは行わずにさっさと切り替える。それもプロの条件であろう。
メドーサは感心し、小鳩は苦笑し、そして横島はテレビの入浴シーンに集中している。


その夜、横島くんのお部屋。
いつものように炬燵に並ぶ一汁三菜。新聞を読むメドーサ。料理を並べる小鳩。
その時、部屋主の少年は何を思い出したのか、大きな声を上げて立ち上がった。



「そ、そうだ!俺のラストトレジャー!」



ダッシュでトイレに駆け込み、手洗い付水洗タンクに足を掛け、その天井の板を外す。
そこにはまだダンボールがあった。だが中には秘宝は殆ど無く、下着が3セットのみ。
何故か残り香が新しい美神の上下、汗の香りが残った素朴ながらサイズが弩級の上下。
そして最後の一つは………



「なんだこれ!?メドーサの匂いがするモモヒキだと?!なぜ俺の宝箱にこんなものが!?」

「失礼だね。それはあたしのドロワーズさ。使い古し好きなんだろ?だから入れといたよ。」

「メドーサがこんなババ臭いの穿いちゃいかん!もっとキュッとしてドーンなのだろ普通!」

「博物館に書いてただろ?歴史あるものは素晴らしいって。ババ臭いのが一番ってことさ。」

「二人とも、早く食べないとご飯冷めますよ。あと横島さん、手を洗わないと駄目ですよ。」

「「はーい。」」



こうしてGSメドヨコ横島成長ノートの1ページ
『超マイナー悪魔グラヴィトン完敗!余裕のメドーサさん危機脱出大成功!』は幕を閉じた。
いつもは題名など一切付けず事実を並べるノートなのだが、この日は少々違ったようである。
ちなみにこの一件で、横島と小鳩は貧乏神の存在は絶対に洩らすまいと誓いなおしたという。





そして、日本最大かつ池袋界隈最大の除霊事務所との呼び声も高い美神さんち。



「お、体重が2kg減ってるわ、らっきー。」



なぜかセーラー服姿の美神さんが、ルームランナー横の体重計で喜んでいた。
ちなみにその胸元は、若干だぶついているものの、不自然なレベルではない。
彼女はGS業界のみならず、そのサイズ的にも人類最強のレベルに近いのだ。






つづく。 


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