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GSメドヨコ従属大作戦!!

お給料上昇す(後編)


投稿者名:まじょきち
投稿日時:12/ 6/11





昔語りは最後に、こう締めくくられた。



「………本柱抜きで冤罪は証明できませんでした。せめてメイサさえ居てさえくれれば。」



小竜姫はそこまで語ると、その後に言葉を紡げなくなった。

メドーサは『黒きメイサ』としても竜神籍を持っている。小竜姫もその情報を追っていた。
彼女は特殊任務につくことも多く、竜神国だけで16の籍と居を個人的に持っているのだ。
それ以外にも他の天界他国籍、人間界の国籍を幾つか持っており、それぞれを使い分ける。
プロのインテリジェンス相手に立ち回るのに経験の浅い彼女の能力では足りなかったのだ。



「じゃあじゃあ、小竜姫様ってば今でもメイサに会いたいとか思ってるわけなん?」

「当たり前です!メイサは、正義というものの意味を教えてくれた存在なんです!」



ここから小竜姫さまの熱血正義話が続くのだが、かなり長くなるので要点をかいつまもう。

正義とは合理性に拠っているだけで、神の見えざる手による天秤の操作に過ぎないと言う。
例えば同属殺しは正義ではない。問題解決に同属殺しが肯定されれば種が滅ぶからなのだ。
例えば詐欺窃盗は正義ではない。利益追求に横取りが肯定されれば経済は破綻するからだ。
つまり『その行為がもたらす未来は建設的ではない』ものを排除する為の概念でしかない。



「法とは、倫理とは、そして正義とは不合理を排除するシンプルな考えでしかないのです!」

「おおー、なんだか凄いような凄くないような。でも、本当にメイサが正義の話をしたの?」

「当たり前です!メイサは一分の隙も無く合理と倫理をこよなく愛した正義の人ですから!」



横島くんと小鳩ちゃんがニヤニヤしながらメドーサのほうを横目で見る。
当のメドーサは片手で頭を抱えながら、頬を赤く染めてうつむいていた。
ただ、どうにも盛り上がり過ぎてしまったのか、小竜姫様の演説は続く。



「だいたいメイサの罪状がおかし過ぎるのです!あんなこと絶対に有り得ませんから!」

「ああ、それはあたしも気にはなってたんだよね。いったいどんな罪状だったんだい?」

「なんと公共料金滞納100年分です!メイサはずうっと私の家に暮らしていたのに!」

「料金滞納100年分か……あ、もしかして家賃と電話とエネルギー炉じゃないかね?」

「そ、そうです。なぜか住民税とかはキチンと払われて……なぜメドーサがそれを?!」

「ぎく!……一人暮らし竜族女性はそこを滞納するって竜族AGEHAに書いてたよ。」

「なるほど。竜族女性マストバイの竜族AGEHAだったら納得です。」



納得する小竜姫様。胸を撫で下ろすメドーサ。
にぶすぎる竜神たちにモヨモヨする少年少女。
やがて人間2人はしゃがみこみ相談を始める。

少々和やかムードの二柱の竜神であったが、メドーサがベッドから足を下ろす。
そして年下の竜神に向かい、顎で扉を指す。無言のまま扉に向かう小竜姫殿下。
妙神山の上空は横島達が来ていた時から一転、暗雲たれこめ雷鳴も轟いていた。



「では改めて。……メドーサ!黒便覧逮捕状に従い捕縛、抵抗するなら殺します!」

「小竜姫、抵抗を確認するなら構えてるその剣は出さなくても良いんじゃないか?」

「もとよりメドーサが捕縛に甘んじる等とは思っていません!あくまで儀礼です!」

「そういう現実と理想の使い分けは嫌いじゃないよ小竜姫……さあ、始めようか!」



メドーサが刺叉を構え一気に突進、小竜姫が刃の無い幅広の剣で受けきる。
小竜姫が無刃剣を薙ぎ一気に後退、メドーサが刺叉を空振りし構えなおす。
押し、引き、突き、薙ぎ、叩き、弾き、そして互いの得物が火花を散らす。



「あはははは!やっぱりあんたはお姫様だよ!上品で真面目で殺し合いですら可愛いよ!」

「兵に奇道なし!王道は傍道に先んじられることなし!貴女にこの意味を教えましょう!」

「このメドーサに教練とは大きく出たもんだね!いいさ、どっからでも来な小竜姫殿下!」



この戦いを下からじっと見つめている一人の人間がいた。その名は花戸小鳩。
彼女は人類には追尾不可能と思われる神々の戯れを、必死で目で追っていた。
その脇に横島少年がうずくまり、目は閉じ足は構え、手を地面に着けていた。



「まだです……まだです……あ!……だめ、違う……まだです……まだです横島さん……」



上空では戦闘が更に過熱。速度もどんどんと上がっていき、散らす火花の光輝も強くなる。
ただでさえ怖いメドーサの眼光はもはや一般人には正視できないレベルまで上がっていく。
いつもはあどけなさが残る妙神山管理者たる小竜姫も、戦神の表情を隠せなくなっている。



「メドーサ!これが人類を研究した成果です!奥義、風魔ダブル烈風剣!」

「あはははは!隙しか見えないじゃないか!この勝負もらったよ小竜姫!」



大上段に振り上げられた刃無しの剣を、メドーサがその刺叉の柄で横に払いのける。
だが小竜姫は流れるような動きで相手の首元に腕を絡ませ、長物の利を殺したのだ。
ステージは槍剣を使った近接戦から、徒手格闘の肉弾戦となっていこうとしていた。
ここで何かを計っていた花戸小鳩が左腕を振り合図した。



「今です!」

「いくぜ100万ミクロン!横島、いっきまあああああす!」



今まで跳躍力を溜めに溜めた横島くんが、小鳩ちゃんの合図で一気に飛翔した。
その軌道は上空10mで絡み合う女竜神の二柱に、ほぼ一直線に向かっていく。
ちなみに100万ミクロンは計算すると1mなのだが、まぁ横島くんですので。

普通の人間が道具の補助なしに10mの跳躍なぞ不可能である。それは間違いない。
しかし小鳩には秘策が有った。それは横島忠夫という存在の根幹に関わる特殊能力。



「よ、横島さん?!」

「何やってる横島!」

「うははははははは!女体サンドイッチいただきます!!」



お姫様の控えめな胸が、元女官吏の豊満すぎる胸が、横島の胴の前後に密着する。
そう、彼はこの桃源郷をめざしていたが故に、人類に不可能な領域に踏み込めた。
ゆるみきった少年の笑みからも、動機に足りるだけの感触を得ていることが判る。



「前人未到の快楽じゃあ!ひゃっほう!」

「横島さん!落ちる前にアレを!早く!」

「おっと、そうだった!メドーサ覚悟!」



彼はズボンから取り出した『とある袋状のもの』をメドーサの頭頂に投げつける。
それこそが小鳩と横島がしゃがみこんで画策していた真の目的の為のアイテムだ。
それは墨汁袋。ナハト・コバルトのベタ塗り用の液体を袋に入れたものであった。
墨汁は横島少年の驚異的なコントロールで頭頂部中心で破裂、彼女の髪は濡れた。



「………………」

「………………」

「みっしょんこんぷりーと!」



満足そうに笑いながら、受身も取らず頭を下に落ちていく横島。
目の前の黒髪になったメドーサに硬直してしまう竜族のお姫様。
状況が上手く把握できないままにその手を止めてしまう元官吏。



「……メイサ、ねーさま?!」

「え?!あ!いや、これは。」



メドーサは小竜姫をチラチラと見ながら、口を何度か開こうとする。
しかし開けない。喉まで出ている真実が何かに阻まれ押し戻される。
2柱はいつしか直立の姿勢で静止しているだけの状態となっていた。



「あ、あのさ、小竜姫、その、なんていうかさ。」

「聞こえません!言うべきことがあるでしょう!」



耳や頬どころか鎖骨に至るまで染め上げるメドーサ。
そこで小竜姫はメドーサと目が合う。その瞳は美しい金色で、優しげである。
遠い過去の記憶から抜け出してきたその表情が、彼女の最後の堤防を崩した。



「………ただいま、お姫様。」

「おかえりなさい、メイサ。」



再び小竜姫がメドーサの首元に飛びつく。しかし今度は徒手格闘ではない。
親愛のハグ。長い長い時のあいだに積み重なった甘い怒りの顕現としての。
今その腕を引き剥がそうとする者がいれば、逆鱗以上の仕置きを受けよう。



「ねーさま、だいすき!だいだい、だーいすき!ずっと、ずっと、ずっと好き!」

「………………あ、あのさ………その、あの………………うん、あ、ありがと。」



ちいさな女の子と若い女の交わした他愛もない記憶。
しかし、女の子はその記憶に苦悶し仕事に挟まれた。
若い女は約束ゆえ身に被った謂れもない苦行に耐え。
幾星霜ののちに、呪のないその言葉が真言となった。



「えーはなしやないかー!うんうん、やっぱり美人は仲良くせんといかんのう!」

「横島さん、すっごいグッジョブです!!ちょっとだけヒヤヒヤしましたけど!」



逆立ち状態で肩まで地面にめり込んだ横島少年が、腰に手を当てて威張っている。
そんな少年をなんとか引き出そうと努力しながらも、賞賛を止めない小鳩ちゃん。
気恥ずかしさで居場所の無かったメドーサが、そんな下の騒ぎを聞いて着地した。



「ほら横島、遊んでるんじゃないよマッタク!…………小鳩、後で覚えてなよ。」

「え?忘れなくてもいいんですかメドーサさん?私も忘れる気は無いですけど。」

「ああもう!しゅ、修行するよ横島!小竜姫、修行場出しな!これは脅迫だよ!」



箍が外れるという表現がある。堰を切るという表現がある。
押さえ込まれていたものが一気に開放されるという意味を持つ。
秘密にしていた現在が開放され、わだかまっていた過去が開放された。

小竜姫はメドーサが地面に下りていっても、その横を離れてはいなかった。
上空にいると思っていたメドーサは、不意に真横に現れた双眸に仰天した。




「ふふ、勿論いいですよねーさま。じゃあ私が修行場まで案内しますね。こっちですよこっち!」

「あ、そ、その、腕は組まないでいいからさ。サル親父いるんだろ?あいつに頼みたいんだよ!」

「残念ですけどお師匠様には先客がいますから。今の妙神山で修行場作れるのは、私だけです。」

「ああもう!横島、小鳩、なに笑ってんだい!生きるのが嫌になる様なキツイ修行するからね!」

「「はーい!」」



羞恥心で染め上がった色が一向に引かないメドーサさん。
責務で縛られていない無防備な笑顔でその腕をつかむ姫。
最上級のニヤニヤでその光景を眺める人間の少年と少女。

やがて、その目の前に大きなドーム状の建物が出現する。



「よーし!こっからは3人で修行するから!ホントに3人だからね!4人じゃないよ!」

「………判りました、小鳩待ってます。横島さん、あとはよろしくおねがいしますね。」

「まかしたらんかい!小鳩ちゃんにはばっちりきっちり余すトコなく報告したるから!」

「え?ちょ、小鳩、何を言って――――――――――――」

「じゃあ行きますよ?」



3人のいる辺りの光景が細かく揺れ、歪む。
小鳩の目の前で竜神の義姉妹と少年は忽然と姿を消した。
皆さんご存知のとおり、ここから小鳩ちゃん含む現実世界とは流れの違う世界になる。

そして広大な地平線が永遠に続く場所に3人は降り立つ。
その背後には木で出来た古めかしい出入り口。この世界唯一の出入り口。
そう、これはインスタントダンジョn………もとい、小竜姫の作った異次元の修行場である。



「……まぁ小竜姫とあたしとで修行すれば、そりゃ確かに効率はいいけど……うーん……」

「あ、横島さん修行続けてたんですね。以前に比べて随分と伸びているのが判りますよ。」

「そーなのー?メドーサは『伸び悩んでるじゃないか』って、こーんな怒ってたんだぜ?」



おどけながら、両目尻を指で思いっきり引っ張り上げる横島。
何かを思い出したのか、赤面しながら彼の頭を叩くねーさま。
その光景をくすくすと笑いながら眺める、妙神山の管理竜神。

話に割り込んでくる横島をとりあえず縛って転がし、離れた位置で作戦会議をはじめる。
どちらもコーチングには幾らかの矜持を持つ。きちんと話し合う重要性も把握している。



「傾向として横島さんは目の前の壁に応じて努力する癖がありますからね。そこが課題ですね。」

「あ、そうそう、あたしも最近そこが気になってたんだよ。やっぱり甘やかし過ぎたのかねえ。」

「いえ、あまり無理をさせると横島さんが壊れちゃいますし。いい判断だったかと思いますよ。」



二柱の竜神はそれぞれの知識と記録からああでもないこうでもないと相談している。
兄弟のいない横島には、姉妹とはこういうもんなのかと妙に納得する感覚があった。
そして二柱は、背を向けていた横島に向きなおり、にこやかに訓練の方針を告げた。



「横島さんの修行の路線が決まりました。基礎霊力大幅アップ大作戦です。」

「これは確かに凄いよ?たぶん人類じゃ横島が初めての修行じゃないかね。」

「あ、そ、そーなんだ。で、具体的には何すればいいの?腕立て伏せとか?」

「なわけないだろ。両手両足ちょんぎってさ、頭だけで敵を倒す練習だよ。」



申し合わせたように同じような表情で微笑む竜神たち。無論、その笑顔に邪悪さは無い。
だが横島少年とて表面上の笑顔で騙されるほど世間には疎くはない。即座に背を向ける。
しかし、やはり相手が悪すぎるため、逃げるよりも早く襟首を掴まれ拘束されてしまう。



「アホか?!俺をジオングと勘違いしてるだろ!そんなんマスもかけんわ!」

「絵を描く趣味があるんですか?大丈夫です、口でも絵は描けるそうです。」

「大丈夫だって横島、あんまり痛くしないから。ほれ、暴れるんじゃない!」

「暴れずにおれるかー!五体満足でやりたいことがいろいろあるんじゃー!」



小竜姫が刃の無い幅広の剣を正眼に構え、目を閉じ集中する。
メドーサは万力以上の力で、横島を完全に押さえつけていた。
そして目を開けた若い竜神が、一気にその剣を数度閃かせる。



ゴトリ。



横島の手足が、その付け根から静かに力なく転がり落ちてしまう。
小竜姫は額に浮かぶ玉のような汗を拭い、爽やかな笑顔を見せる。
メドーサは小竜姫のその腕前に、満面の笑みを浮かべていた。



「ぎゃああああ!ひぎいいいい!ぎょぴいいいい!い、痛………くない?え?なにこれ秘孔?」

「正確には、横島さんの手足の次元を切りました。くっつければ以前と同じように動きます。」

「この芋虫状態で俺に一体何しろと?これじゃ立つ事も出来ん!一部立たす事は出来るけど!」

「大丈夫、バンダナの邪心眼があんたの代わりに敵を倒すのさ。どうだい、簡単だろ横島?!」



例の、横島くんにはちっとも優しくないバンダナこと邪心眼氏である。最近は出番が少ない。
ちなみに邪心眼には99条99項の禁則があり、横島がそれに違反すると即絶命させられる。
なお、彼が横島くんの役に立とうと思えば立たなくはないのだが、本布にその気は全くない。



『ギュゲゲゲゲ!監視条項最終100条!前文全条項に違反しない場合に限り助力可能とする!』

「なんだー、そうだったのかー。そいつはとっても安心。よっし、これから頼んだぜAIBO!」

「ただし、そいつの霊力はそのうち切れるからその後は霊力補給してやらないと駄目だけどね。」

「にゃにぃー!?」




そうこう言う内に、横島の視界の遥か先に、足を引きずり手を力なく伸ばした人影が現れ始める。
リビングデッド、通称ゾンビというやつだ。歩みは亀のように遅いが確実に横島に向かっている。
死人にどのような必要性があるのか例の独特の咆哮を発し、その不気味な存在は歩を進めていく。



「いくつ召喚したんだい小竜姫。確か3万だから一人1万5千のはずだけど、多すぎないかい?」

「え?一人3万じゃあないんですか?……うーん、まぁ修行ですし。そういうこともあります。」

「そうだね、修行だしね。そういうこともあるかね。じゃあ横島、後はなんとかがんばりなよ?」

「え?う、嘘だろ?無理無理無理無理!リタイヤします!確かリタイヤ有りですよね小竜姫様?」

「通常はそうですが、ねーさまがこれで良いって言うんで無しです。ごめんなさいね横島さん。」

「げえええええ?!む、無理やおー!からかったのは謝るからー!お二人とも戻ってプリーズ!」



ニ柱の女神は非情にも横島の前からさっさと姿を消す。
そしてすでに第一陣はすぐ目の前までやってきていた。
バンダナは即座に応戦し怪光線でゾンビを倒していく。



「お、お前そんなに大盤振る舞いでバンバン霊力使うなー!切れたらどうするんだよー!」

『ギュゲゲゲゲ!そん時はオメーは死ぬ!俺は全然気にしない!WinWinって奴だ!』

「1ミクロンもWinなんか無いだろーが!ぬおおおおおおお!せめて手が使えたらー!」



爆炎が修行場に立ち上りはじめ、4万5千のゾンビ軍団と横島の死闘が始まった。

一方その修行場控え室では、コタツに脚を入れてほっこりするニ柱の竜神がいた。
どちらも爬虫類の顕現した神様なので、あんまり寒さに強いというわけではない。



「なにして遊びます?ゲーム機もありますし、人生脱落ゲームとかありますよ?」

「……あ、あのさ、やっぱり横島をちょっとは見に行ったほうがいいような……」

「駄目です。すぐ助け舟を出すのはやめようって決めたばかりじゃないですか。」



メドーサは後ろの修行場をチラチラと気にする。無論、弟子たる横島も気になるのは確か。
しかしどちらかといえば、目も閉じずにニコニコと自分を直視するお姫様が見れないのだ。



「奇しくも私とねーさまがその潜在能力を感じた横島さんですから、大丈夫ですよ。」

「え?!あ、ああ。そうだね、確かに横島はめったに死ぬタマじゃないだろうしね。」

「ですから時間は有ります。いっぱい、いーっぱい、あそびましょうね!ねーさま!」



幼子のときと同じ屈託の無い笑顔を向け、同意を求めるお姫さま。
赤面しながら視線をずらし、ぎこちなく笑顔で肯定を答える官吏。
横島くんの命懸の死闘が続く中、彼女たちは無邪気に遊び始めた。














三日後。
人界のゲーム機が、大型液晶テレビの前で複数散乱している。
その操作用コントローラーは、傍らで無造作に裏返っていた。
現在は『人生破綻ゲーム』が炬燵板で2人をもてなしていた。



「えぇ!ここに来て限定ジャンケンだって?!そんな馬鹿な、おかしいだろ!」

「こっちは吸血マージャン大勝利であがりです!あはは、ねーさまよわーい!」

「期待値はちゃんと計算してたはずなんだけど。うーん、これで20敗だね。」

「あ、横島さんがそろそろ半分超えますね。ちょっと覗きに行きましょうか。」

「そうだね。そろそろ限界のはずだからね。」



一方、描写すら見放されていた修行場では、横島くんの快進撃が続いていた。
目に頼ってすらいないのか両の瞼を閉じ、その表情は凛と引き締まっていた。
10体程のゾンビが横島に喰いつかんと、穢れた牙を首筋に向かわせている。



「見えた!美神さんが小さすぎるスクール水着で俺様を誘惑!うははははははははははは!」

「ギュゲゲゲゲ!霊力充填120%、ターゲットスコープオープン、拡散邪心眼砲、発射!」



バンダナから発せられた拡散光線が周囲のゾンビを一気に消滅させる。
しかし、束の間の安全。またすぐにゾンビが横島の周りを満たしだす。
周囲の状況を確認する横島の目元には、かなり深いクマが出来ていた。



「うむむむ!もうそろそろネタ切れしそうだ!やっぱ想像力だけじゃ限界があるってばよ!」

「ギュゲゲゲゲゲ!お前ずうっと美神と小鳩ばっかりじゃねえか!別なのでもがんばれよ!」

「いやまぁ、それはそうなんだが。その、メドーサとかネタにすると後が怖いって言うか。」

「何が怖いんだい?」

「いや、神様って潔癖っぽい感じするじゃん?エロエロな妄想してましたとか言えるかよ!」

「そういうのは、うーん、本柱に言うのはよくないかもねえ。ある程度までは許すけどさ。」

「しょうがないです、にんげんですもの。神族は皆さんが思ってるよりは寛容なんですよ?」

「そーなんだ。それは一安心――――――って!メドーサ!小竜姫様!いつからそこに?!」

「あー、スクール水着がどうたらこうたら辺りかね。ほれ、また来てるよ。がんばれ横島。」

「本人公認ならば!メドーサおっぱいでXXXしてXXXしてあまつさえXXXX!!!!」




横島の半径30mが一気に吹き飛ぶ。密集していたゾンビおおよそ1500体以上が塵と化した。
今度は目をしっかりと見開いている。もちろんその視線の先は、メドーサの、とある部位である。
どこだかは皆様のご想像にお任せする。その傲慢に張り出した部位が、その衝撃で傲慢に揺れる。
横島の霊力が更にその現象で充実し始める。



「ギュゲゲゲゲゲ!いい感じだぜ!こんくらいの霊力あればイイのが打てるぜ!首上げろ!」

「うおおおおおおおおお!げったああああああああ!びいいいいいいいいいいいいんむっ!」



白い光の筋が、土煙を上げながら地平線の彼方に吸い込まれ、その射線上のゾンビが吹き飛ぶ。
さらに横島がその首を左右に振ると、その射線も左右に揺れ、扇状にゾンビが消滅していった。



「すごいですね。今のでちょうど3万超えました。相変わらず不真面目な分野で強くなりますね。」

「え?どういうことだい?不真面目な分野で強くなるってのは。そりゃあたし初耳なんだけどさ。」

「えーと。………まぁ、こういうことです。」



小竜姫が戦闘装束から人間界用の衣装に瞬時に変化する。
デニム生地のミニスカートである。そして立ち位置は横島の寝転ぶ、すぐ頭の横だ。
その視線は嫌が応にもその中身に注がれる。その瑞々しいフトモモ、そしてその間。



「ふおおおおおおおおお!小竜姫様のミニスカの中があああ!パンツァー!パンツァー!」

「ギュゲゲゲゲゲゲゲゲゲ?お前、霊力放出しすぎだぞ!くそ、拡散邪心眼砲連続発射!」



ダダ漏れで無尽蔵に供給される霊力に今度はバンダナが狼狽する番となった。
供給を無駄にせぬように最大限の溜めの必殺攻撃が横島の周囲に襲い掛かる。
もちろん傍らに立つ竜神にも降り注いでいるのだが、彼女らには被害はない。
ゾンビは次々と消滅しているのだが、竜神にはそよ風以下の抵抗でしかない。



「こ、これが横島急成長の理由……小竜姫、あんたいつもこんな事を?」

「してません!その、これは、いつもは美神さんの担当でしたからね。」

「さすがアバズレビッチの美神だねえ。しかしこれで合点がいったよ。」



小竜姫のパンツァーの威力は限りなく偉大であった。
まもなく、4万5千のゾンビ軍団は完璧に沈黙した。
池袋の英雄たる横島くんの超能力の成せる技である。



「どーだー!疾風怒濤!天下無双!七転八倒!俺様の力を思い知ったか!わははのはー!」

「よかったですね横島さん。美神さんもきっと喜びます。」

「なに言ってるの小竜姫様?なんで、美神さんが喜ぶの?」

「だって、美神さんに言われて修行に来てたんじゃ………」



横島は小竜姫に事情をかいつまんで説明する。
美神に見放され独立したこと、現在メドーサと一緒に仕事をしていること、小鳩が参入したこと。
44053文字分のSSを数分で説明しようとする無茶な事なのだが、横島の才能は偉大だった。



「にわかには信じ難いですが、そういう事情だったんですか。」

「そーいうことなんでメドーサの事は内緒にしててください小竜姫様。俺も今日の事内緒にするんで。」

「悪事の取引ですね?でもその条件は飲みましょう。横島さんのお陰でねーさまと和解できましたし。」

「ま、なんかあってもさ、小竜姫様もうちで雇ったるから安心していいぜ!うはははは!まったねー!」



異次元の壁が歪み、のどかな山と空の光景がメドーサと横島の前に戻る。
そして小鳩が、数日前に別れた時と寸分違わぬ姿勢でそこに立っていた。
置いてけぼりにされたはずの少女は、目を丸くして早すぎる二人の帰還を出迎えた。



「あれ?さっき行ったばっかりですよね………?」

「ああそっか、小鳩ちゃんは知らないのか。ここの修行場ってさ、時間が止まるんだぜ?」

「へー。………あ、メドーサさんどうなりました?小竜姫さんと仲良くなれたんですか?」

「うははは、そりゃもう小竜姫様に押されっぱなしのメドーサがかわゆくてかわゆくて!」

「て、適当なこと言ってるんじゃないよ横島!いたって普通に修行をしてたってだけさ!」



盛り上がる少年少女を尻目に頬を染めながらソッポを向くメドーサ。
その時ふと、先程の横島少年急成長の秘密をを女竜神は思い出した。
その内容を小鳩に小声でそっと耳打ちする。



「……ええ?!……そ、それって、えっちな格好するのが……成長の秘密って事だったんですか?」

「なんだか美神はそんな事してたらしい。どうりでぜんぜん成長しないはずだよ。どうしよっか?」

「どうしようかって……誰かが、その、横島さんの前で、えっちな格好をするって事……ですか?」

「そうなるね。でもウチはあたしと小鳩しか居ないし……ああ、専用で誰か雇うって手もあるか。」

「だ、駄目です!……私……いや、でも、そういうのって、色々まずいのかなって、その、あの。」

「うーん、小鳩が嫌なら、やっぱり他をあたるしかないか……ああそうだ、魔鈴とかはどうかね?」

「……うう、…………わ、私やります!……………その、横島さんが、嫌じゃなければ……………」




目尻を細めて意地悪く微笑む竜神。
横島くんもひそひそ話が気になってしょうがないのだが、流石に首は突っ込まない。
メドーサは、そんなウロウロしていた少年の首根っこを掴み、強引に手繰り寄せる。



「小鳩がね、横島が喜ぶんなら、仕事中にエッチな格好で応援してもいいってさ。」

「うそ!?マジ!?いよっしゃあああああああ!!わが世の春が来たあああああ!」

「あ、あの、その、横島さんは小鳩でいいんですか?その、嫌じゃないんですか?」

「なんでさ!どこに喜ばない要素があるというんじゃ!ひゃっほおおおおおおう!」

「―――――――――――――め、メドーサさんもしてくれるって言ってました!」

「え?こ、小鳩?あんた一体なにを言って………」

「横島さんの修行に一番乗り気なのはメドーサさんですもの!当然です!ね?!」



真剣な眼差しでメドーサを見つめる小鳩。決してふざけての事ではないという視線。
なぜ自分を巻き込むのかの意図が測れなかった女竜神だが、刹那に計算を開始する。
そしておよそ千手以上にもわたる先読みを済ませた後に、女竜神はその口を開いた。



「もちろんさ。そのほうがあんただって嬉しいだろー?ほれほれ!」

「嬉しいに決まってんだろべらんめい!パラダイス!わんわんお!」

「じゃあさ、ちょっと位だったら条件があっても全然構わないね?」

「ちょっとだと?どーんと来いどーんと!腕一本位くれてやらあ!」

「おっけー。じゃ、さっそく詠唱始めるからちょっと待ってなよ。」



真言。それは失われた力ある言葉。戒に縛られている人間に再度襲う律の法術。
おどけて交渉していた悪女の表情は無い。高速で祝詞を唱える目は真剣である。
約15秒の詠唱によりメドーサの周囲には光の粒が幾重にも集い、回転をする。



「主たる我が、従たる者に禁則を設ける!自ずからの女人胴への接触を禁ず!」

「え?!女人胴への接触?それってどーゆー?ちょ、ちょっまっ、メド………」

「緊急発令!本日只今この時間を以って即有効!」



メドーサの指から放たれた光が横島少年を直撃する。
雷撃にも匹敵するほどの苦痛が少年を容赦なく襲う。
その後、口から細い煙を上げ横島は突っ伏していた。



「安心しな。別に毒にもなってないし死ぬようなことも無いよ。」

「げふ、いや、い、今まさに死にそうになったわけなんだが……」

「計算してるって言ったろ。ま、これで霊力アップ間違いなし!」



メドーサはそう言い放つと唇を尖らし、隣にいた小鳩のスカートに向かって軽く息を吹きつける。
盛大にめくれ上がるスカート。その下には、小鳩らしい無地の白いパンティが守りを固めていた。
その光景に即座に飛びこもうとする横島くん。無論あわよくばの事故的な感触も妄想したりする。

しかし………




「ぬお?!か、体が動かん!なんなんだこれ?!メドーサ、また俺に何かやったのか!」

「だから言っただろ?さわれないって。すごいすごい、霊力が上がるのが肌で判るよ。」

「ひ、ひどい!あ、あんまりじゃあああああ!蛇の生殺しかよおおおおおおおおおお!」

「失礼だね。蛇は生殺しなんかしやしないよ。」



変な所で拗ねる蛇神様。そして手を伸ばしたままの姿勢で硬直する横島少年。
小鳩はめくれたスカートを手で押さえて元に戻すと、横島に向かい歩き出す。
血の涙を流す少年に少女は向き合うと、伸ばした手を自分の胸にそっと導く。



「こ、小鳩ちゃん!?」

「………やっぱり。横島さんから触れないってだけで、逆は出来るんですね、これ。」

「さすが小鳩だね。よく真言の本意を理解できたねえ。やっぱりあんたは頭いいよ。」



もちろん小鳩が呪文やギアスに造詣が深いという訳では勿論ない。
メドーサの意図を読んでいるのだ。彼女が何をしたいのか、横島に何を求めたのか。
そしてこの段階で小鳩は横島にかかる大元のギアスの大きな弱点を見抜いてしまう。
しかしこの段階で小鳩はなんらアクションを起こす事もないのでその件は割愛する。



「横島さんが頑張れば、ご褒美はあげられるって言いたいんですよメドーサさんは。」

「なるほど!そーいう事なら限りなくイエス!ガゼンやる気が出てきたぜヘイヘイ!」

「……その、こ、小鳩も頑張りますから、一緒に、その、頑張りましょう横島さん?」

「いったらんかい、まかしたらんかい、やったらんかーい!」



この時、小鳩の乳の感触もあいまって本日最大級の霊力を放出する横島忠夫。
そして同時同分同秒、横島たちの目の前で時空の歪み特有のブレが発生する。
そう、横島たちに先行して修行を受けていた――――



「今回めちゃくちゃ頑張ったわ!これなら横島クン見てくれたら戻りたいって―――」



その直後に、美神は圧倒的な強さの霊波動を体全体で感じることになる。
その正体を探し、美神の表情が固まる。それは、よく知るバンダナ少年。



「―――言う訳ないか。なんか疲れて幻みてるみたいだし、早く帰って寝ようっと。」



無表情のまま施設の出口に向かい、鬼の守る扉を閉め、妙神山を下山していく以前の雇用者。
今回もメドーサを確認できていない。プロのGSとして現場勘に欠けてると言えなくも無い。
とはいえ、彼女は修行後の自分より更に強大な霊力を横島風の男に中てられてしまっている。
冷静に現状を把握しろというのは、いささか酷というものだろう。




「うむむ?今、美神さん風のナイスバディが目の前を通り過ぎていったような?!」

「多分いまどきの流行ファッションなんじゃないかね?小鳩だってそう思うだろ?」

「え?そ、そうですね。今更美神さんが横島さん追いかけてくると思えませんし。」

「だよなー!くそ、あのイケイケ傲慢ボディをいつか陵辱してやるぜチクショウ!」

「あはは、ま、まあ、美神さんがそれに甘んじるとは到底思えませんけどね………」




こうして横島くんは妙神山で三度目のレベルアップを果たした。
だが、何か特別なスーパーギミックを手に入れたわけでもない。
強いて言えば気紛れでバンダナが助けてくれる事が判った位だ。



「じゃ、小鳩には来月から時給プラスお色気手当がつくからね。がっちり期待してな。」

「お、お色気手当?!あ、あの、いくらなんでも、そ、それは、その、ちょっと………」

「そーだそーだ!小鳩ちゃんなら断然セクシー部長だって!いっそ年棒制にしようぜ!」

「なるほど。横島にしちゃあ気の利いた提案じゃないか。それじゃあ年棒でいこうか。」

「え?セクシー?ええ?部長?年棒?えええええええええええええええええええええ?」



こうしてGSメドヨコの守護神、花戸小鳩がついに役に就いた。
セクシー取締役部長。業務内容は以前の事務仕事に加えて、現場での横島の応援である。
非常に過酷かつテクニカルなスキルジョブだが、メドーサもサポートする磐石さである。
セクシー部長は年棒制で、前年の最終利益の33.3%を給金として受け取る歩合制だ。

こうして小鳩ちゃんのお給料は少々上がったのでありましたとさ。







つづく。


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