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GSメドヨコ従属大作戦!!

メドヨコ大地に立つ!


投稿者名:まじょきち
投稿日時:12/ 5/ 8




無限に広がる大宇宙。
銀河系内太陽系にある第三惑星である地球の軌道上。
幾世代も前の宇宙船の熱遮蔽板に女の子が座っている。



「―――あー、美神令子は打ち損じたか。よくよく悪運の強い女だよマッタク。」



熱遮蔽板は確実に地球の引力に引かれており、止まる気配を見せない。
地球には大気が有り、宇宙からその圏内に突入する際に膨大な摩擦力を発する。
いまだその効果は出ていないが、一旦その洗礼を受ければ生物は確実に焼却される。



「ま、無理は禁物ってね。霊力はまだまだタンマリあるし、そろそろ……ん?」



彼女の名はメドーサ。月面での作戦に失敗した悲しいプロのお姉さんである。
いつもはひじょーに乳が大きい、大変イカした30代近辺の美人さんなのであるが、
ひじょーに悲しいことに横島くんを使った月の内部潜入の際に若返ってしまったのだ。
ただ、その副産物として彼女はポテンシャル以上の霊力を得るに至った。



『横島さん・どこに・落ちたい?』

「いやああああ!死にとうないいい!美神さん!おキヌちゃん!誰でもいいから助けてー!」



自分の視界上方でコントを繰り広げるロボットと少年。
若返ってしまった竜神の女は、その光景を見て思案していた。
何か人道的な行為等とは一切かけはなれた、悪巧みの表情を浮かべる。



「おーい、そこのバカ面のハゲ猿の童貞の横島忠夫ー。」

「げ、め、メドーサ!お前まだ生きてんのか!頼む見逃してくれ!いや!助けてください!」



先ほどまで自分を苦しめた少年が泣き叫ぶ姿を眺めて溜飲を下げるメドーサ。
なぜ彼女は生命を脅かしかねない大気圏突入の瀬戸際にこうも平静でいられるのか。

原作ファンの皆様は既にご承知とは思うが、彼女は軌道上まで自力で来たとされている。
その後、軌道上に放置されていた宇宙船に乗り月面まで辿り着いているのである。
霊力を失ってしまったならまだしも、横島により霊力に満たされた彼女である。
同じ事をするのはコーラを飲んだ後にゲップをするより容易なのだ。



「別に助けてやらなくもないさ。でもね、あたしもプロなんで見返りがないとね。」

「金は無いが何だってする!ウン■だって食べちゃう!さんべん回ってワンする!」

「ええー?そんなのマッタクあたし興味ないしー?みたいなー?キャハハハハハ!」



腹を抱えてサディスティックに笑い転げる、ミニスカートの少女メドーサ。
横島を支えていたマリアは既に先に落下、遥か下方で光の筋になっている。
横島くんは、必死の平泳ぎで何とか逆らって宇宙遊泳しているに過ぎない。
先ほどはメドーサの上方に居た彼だったが、今は遮蔽板の横まで来ている。



「あちち、ちょ、ま、焦げる焦げる!ほんとに何でもするからっ!望みを言えって!」

「何でもする、ねえ。…………そうだ。あんた、あたしの眷属になってみないかい?」

「け、ケンゾク?言葉の意味は全くわからんのだが、なんとなーく嫌な予感が………」

「説明するのが難しいね。主構成要素の意思で動かす事が出来る従構成要素――――」

「あちちち!もうなんでもなる!だから助けて!ハリアップドクター!冒険百連発!」

「おっけー。じゃあ今から横島はあたしの眷属だからね。」



やがて、二人の周りの風景が段々と朱を帯びてくる。それは大気圏突入を意味していた。
しかし、少女メドーサが段々と光を帯びてくるのは理由が違った。それは神族の力の解放。
その後2人の姿は消え、遮蔽板はその主を失いキリモミ回転を始め、姿を光に変えて消えた。













そのころ、寒風吹き荒ぶシベリアの大地のどこぞ。
星の町バイコヌールから指示を受けた落下予定地点から、たった2000km先。
美神令子を乗せた帰還カプセルは、パラシュートも無事に開き着陸に成功していた。



「ええい、邪魔ッ!!」



宇宙服のままカプセルの扉を蹴り飛ばし、外に出る美神さん。
ヘルメットを宇宙服の固定具から器用に外すと、そのまま投げ捨てる。
考えられない行動を取るが、やはりここは流石の日本最高GSという所だろう。

一応、大気圏突入後のことにあまり興味がない方も居るかもしれないので補足をしよう。
大気圏突入は凄く大変なのだ。普通は、地上に降りたら訓練された軍人でもマトモに歩けない。
ハリウッド映画のクライマックスで、ヘルメット小脇に抱えて歩いているのは演出の為なのだ。



「もう、横島クンたら勝手に飛び出して……死んじゃいないとは思うけど……」



真っ赤な髪をさっとヒト撫でし、大気圏突入で乱れていた御髪が一気に日常のそれに戻る。
数度まわりを探すそぶりをした後、目当ての物が見つからなかったのか、ため息をつく。
そして、突入の衝撃で倒れたであろう針葉樹の倒木に、そっと腰掛けた。

その時、美神令子の頭頂部の髪が重力に逆らい針のようにそそり立った。
それはちょうど、メドーサさんと横島くんが口約束をした瞬間であった。




「――――――!!こ、この悪寒は!」

「ど、どうしたんですか美神さん!」

「私の横島クンに悪い虫が!!」

「美神さんの横島さん?」

「そうよおキヌちゃ……って!おキヌちゃん!いつからそこに?!」

「美神さんを探すのに幽体離脱してたんですけど……そうか、横島さんは美神さんの……」

「ば、ばっ、バカね!横島クンは私の荷物持ちの丁稚の奴隷の人形のデクのマルタなの!」



ひどい言われようである。正直、放送波には載せられない単語すらチラホラと見える。
雇用主であろうと許される言い草ではない。相手によっては裁判も起こされかねない。
たとえ顔を首まで真っ赤に染め上げながら、手元のバンダナでモジモジとしてようと。



「そーいえば美神さん、横島さんはどこなんですか?」

「そ、それがその、気がついたら居なかったのよね。」

「ええ?じゃあ横島さんは一緒じゃないんですか?!」

「あはは、ごめん。」



目を吊り上げて美神さんに詰め寄るおキヌちゃん。
彼女は横島くん絡みの行動では、かなり大胆になる。
少年誌ヒロインでありながら、飲酒にまで手を出してしまうほどだ。
本来なら絶対服従の上司であり、いたわるべき宇宙飛行士に容赦なく詰問する。

その時、美神とおキヌの遥か頭上に曳光線が横切った。
やがてそれは地平線の彼方に吸い込まれ、そこで消える。
そして数秒後、衝撃波と共に大音響が二人に襲来した。



「アレ……多分横島クンよね……」

「ええええええ?!美神さん!わ、私、ちょっと様子を見てきます!」

「バカね!幽体じゃ助けられないでしょ!戻って救援を呼びなさい!」

「わ、わかりました美神さん!」



おキヌの姿がそう言い残して姿を消した。
美神は周囲を確認すると、先ほど頭上を横切った物体の墜落地点に向かう。
彼女の予想では、そこに横島少年が居るはずなのだ。



「うわ、クレーターできてんじゃない。横島クンだから大丈夫だとは思うけど。」



常識で考えれば、そんなわけがあるはずもない。
衝撃波を発しながら落下しているのだ。その威力は半径200mのクレーターを作る程。
だが、彼女は全く自分の説を信じて疑っていない。普通にクレーターを滑り降りる。



「ミ―――、―――――――――、カ、―――――――――。」



中心部には、下半身を失い黒焦げになった、髪の短い人型が居た。
彼女は普通にその傍に座り、焼け残っている髪をそっと撫でる。
そして周囲に人影が居ないのを何度も確認し、耳元に顔を寄せた。



「しょうがないわね横島クン。ほら、いつもみたいにパンツ見に起きなさい?」

「―――――― 、ミ――――――、カ、―――――――――ミ。」

「これ以上なんてちょっと調子に乗りすぎだぞ?……じゃあ、少しサービス。」



だが、彼女は我々の期待に反し、服も脱がなければ卑猥な行為に及んだりもしない。
もっとも規約でアダルトめいた描写は堅く禁じられているので、期待には応えられないのだが。
彼女は何度も周囲を見渡し、少し赤面しながら、うつ伏せに倒れる短い髪の上半身に向き直る。



「横島クン、…………だいすk――――――――――――」

「ここじゃ!マリアの信号が消えた場所は!マリアああ!」

「ダイスダガーを食らえ!インスタントキル!死ね横島!」

「や、やめんかー!ワシのマリアに何をするんじゃああ!」



ちなみにダイスダガーとはゲーム『リネージュ』の短剣である。
効果が色々あり、バージョンによってレア度が変わったりする。
詳しくはお知り合いでプレイ中の廃人にでも聞いてみて欲しい。
だが、ダイスダガーの綴りに『K』が入らないのは間違いない。



「え?うそ、これってマリアなの?じゃあ、あの、よ、横島クンは?」

「確かマリアが先に落ちた筈じゃ……今頃は上手に焼けとる頃かの。」

「ちょ、ま、マリア!何で横島クン助けてないのよ!このポンコツ!」

「――― 、メ――――――、サ、―――――――――ん。」




鬼のような形相でボロボロになったマリアの胴をがくがくと揺する美神。
マリアは目を回しながらも必死に何かを伝えようとしていた。
無論、情報の重要さは美神も十分過ぎる程に知っている。
だが、この時は些か冷静さに欠いていたといえる。



「み、美神さん!人を呼んできました!横島さんどこです?!」

「横島クンまだ上で焼けてる最中よ!マリアが失敗したのよ!」

「えええ?!何で横島さん助けてないんですか!マリアさん!」

「お前らー!マリアをちょっとはいたわらんかー!」



鬼のような形相でボロボロになったマリアの頭をがくがくと揺するおキヌ。
何かを伝えようとしていたのだが、耳から蒸気を出しリセットが始まった。
これが後にドクター・カオスが述懐する『わしもビビった』の顛末である。
こうして横島くんは生死不明のまま、シベリア荒野は大混乱となっていた。







一方、メドーサの両手に抱えられた横島くんは傷つく事も特に無く、地上に舞い戻っていた。
降りた先は工事現場。シートで覆われた建築資材に重機やダンプカーが闇の中に佇んでいる。
その看板には『施工主:新大塚不動産 新シャングリラビル近日着工予定』と書かれていた。
そんな中、メドーサは片膝を付き、周囲を窺っている。



「ヒャクメ様んときみたいだな!つか、大丈夫か?また乳が戻ったみたいだけど。」

「あたしも人間抱えて宇宙から瞬間移動とか初めてだしね。ちょっと疲れたのさ。」



ちなみに横島くんの言う『ヒャクメ様んとき』とはドキドキ平安時間旅行コロリもあるよ!を指す。
ちなみに横島くんの言う『乳が戻った』とは、メドーサの姿が以前の状態によみがえった事を指す。

そしてお姫様抱っこ状態の横島少年は、その戻った極上の感触を楽しもうと頬擦りを敢行する。
しかし当の本人は特に感慨が無いのか、抵抗も攻撃もすることなく胸元の少年の顔を見ている。



「あ、あのさ?俺が言う事じゃないのかも知れんが、何故怒らんの?」

「美神の相棒なら細胞単位で刻むけど、今はあたしの眷属だからね。」

「え?そ、そーすると、俺ってばもしかして、メドーサで槍隊砲台?」



調子に乗って失敗するのは誰しもある。皆も一度や二度なら経験はあるだろう。
しかし、こと横島くんに関しては少々数も多すぎるし度も過ぎている感はある。
幸せそうな表情を浮かべ双球を揉みしだく様は、容易に次の展開を予想できる。



「さて、そろそろ躾の時間か。犬は棒に当たらないと散歩を覚えないって言うからね。」

「ふえ?し、しつけですとぉ?!」



左掌から彼女の得物である刺叉を引き出すメドーサ。2回ほど振ると、風圧で砂が舞う。
頭上で数度回転させた後に、無造作に横島くんの右側の地面にその棒切れを叩きつける。
かなりゆっくりに見えたその動きだが、その衝撃で約60cmほどの窪みができる程だ。



「な、なんちゅーしつけ!そんなん喰らったら俺のベビーフェイスがミンチになるわ!」

「そんな顔がどこに有るのさ。ま、どっちにしろ結果はスカーフェイスだろうけどね。」



スカーフェイスといっても、奥さんの尻に敷かれる57代修練闘士のハイセヴァールさんではない。
一般的な『キズのある顔』という意味だ。もっとも、この威力でキズだけで済むかは少々疑問だが。
流石に無限再生能力疑惑のある横島くんでさえ、顔は青ざめ膝が笑っているかのように震えていた。



「あたしはね、馬鹿にするのは好きだけど馬鹿にされるのは嫌いなんだよ。」

「わ、わかった!これからは敬意を払って二度と馬鹿にしない!約束する!」

「判ればいいさ。……で、いつになったらこの手はどけてくれるのかねえ?」

「さ、最大限に尊敬しながら胸を揉ませていただいておりますメドーサ様。」

「………じゃあいいか。その代わりイラついたら気が済むまでどつくから。」



横島くんは極めて真面目な表情で3分ほど乳房を揉みしだき、刺叉で10分ほど叩かれた。
全身から流血しながら幸せそうな表情で余韻に浸る少年を脇目に、メドーサは空中に浮く。
何かを探しているようなそぶりであったが、やがて諦めたのか横島の隣に着地をする。



「おかしいね。あんたらの事務所ってこの辺だった気がしたんだけどね。」

「結構前に引っ越したよ。たしかメドーサが壊したんじゃなかったっけ?」

「あ、火角結界か。結構色んな所で使ってるから忘れてたよ。」

「しょーがねえなあ。あの後にけっこう色々とあったんだぜ?」



嬉々として『あの後』を語りだす横島くん。彼の良い所の一つに切り替えの早さがある。
東京湾の橋が増えただの、成田のアクセスが良くなっただの、墨田区に電波塔が立つだの。
地域ミニコミ誌びっくりの情報量に、最初はメモも取っていたメドーサが音を上げる程だった。



「わかった、道案内は今後あんたに任せるよ。さて、この後どうしようかねえ。」

「まかせとけ!俺に超すげえ名案がある!ちょびっとだけ目ぇつぶっててくれ!」



言われたとおりに素直に目を閉じるメドーサ。
するとどうにも鼻の辺りがこそばゆい。何か生暖かい風が規則的に当たる。
薄目を開けると、そこでは唇を思いっきり突き出した横島くんのどアップがあった。



「言っておくけど、あんたの騙まし討ちは少々腹に据えかねてるからね。」

「むむむ!ま、まさかメドーサさんってば目を開けてらっしゃいます?!」

「じゃあ開けていない事にしとくよ。さ、この後いったいどうすんだい?」



そこで横島少年の動きが止まる。開けていないと言いながら、彼女の目は見開かれている。
不意打ち騙まし討ちが得意技の横島くんだが、正攻法での攻防には苦手な感がある。
のこり3ミリの距離が動かない。ここで動かせないところが彼の弱点である。
この一押しが出来ていたならば彼はもっとモテていた、と筆者は考える。



「う、うはは、うはははははははは!騙されたなメドーサ!これは逃げるための布石!」

「それで?」

「この宇宙的ヒーローであり池袋の六大英雄、横島忠夫は華麗に去るぜ!サラダバー!」

「逃がすか。」



渾身のダッシュを決めようとした我らが横島くんであったが、超加速も可能な神には勝てない。
バンダナからちょっとだけ伸びた結び目の先の布を掴まれて、後頭部から一気に引き戻される。
バランスを崩した少年は危険な角度で転倒しそうであったが、柔らかいクッションに守られた。
そして、その横島大好きクッションの上にある竜神様の顔を、若干あおり気味に見上げていた。



「………ボク、悪いヨコシマじゃないよ?」

「信用できないねえ。従順ならいい目も見せてやろうかと思ったけど、予定通り殺そうか。」

「ま、まってくれ!そのイイ目って奴によっては本気で何でもする!特に女体関係ならば!」

「ああー、あんたそういう奴だっけね。……じゃあすごい気持ちのいいことしてやろうか?」

「本当?!嘘ついたらハリセンボン飲ますんだぜ?特にハルナはすっげえ大変なんだから!」

「わかったわかった。じゃあご褒美の前に、ちょっとやる事やらせてもらうとするかねえ。」



胸の上で頭を預けてる横島に、メドーサの顔が覆いかぶさらんとしている。
横島はちょっと気分を出して目を伏せて唇をちょっと尖らせたが、
メドーサは、そのおでこにそっとキスをした。



「――――ふう、これでよしと。これからこのバンダナが―――――」

「あー!俺知ってる!バンダナに心眼が宿ったんだろ?!懐かしー!」



バンダナの中央部に横線が入り、その線がやがて瞼となり、ゆっくりと開いていく。
ただ、その目は黒目が殆ど無く、しかも瞳孔がよく見えない状態で濁っていた。
いわゆるレイプ目に近いかもしれないがちょっと毒々しさが強い。



『ギュゲゲゲゲゲ!逆らう奴は皆殺し!逆らわない奴は半殺し!逆立ち出来た子全殺し!』

「見張り役だから。使い魔とはいえ横島の10倍以上は強いからね、逆らえば即死だよ。」

「そ、そんにゃー!何かこう、うれしはずかし新必殺技伝授って展開じゃねえのこれ?!」

『ギュゲゲゲゲゲゲ!必殺は必殺でも!必ず死ぬのはヨコシマだけどなぁ!よかったな!』

「うわああああああ!ひ、ひどいいい!あんまりだァァァァァ!やり直しを要求するッ!」



もし、やり直しをするなら何処からがベストだったのだろうか。
メドーサの誘惑に乗らず燃え尽きない事を祈って大気圏に突入するべきだったか。
他の都合のいい救世主の登場を祈って時間稼ぎに足掻くべきだったのか。
しかし、分岐点は既に過ぎた。あとはその先に向かい進むしかない。



「じゃ、これからよろしく頼むよ。眷属ヨコシマ。」



意地の悪い笑みを浮かべながら甘い吐息が鼻にかかる程に頭を寄せ、
横島の顎をその細く白い人差し指でそっと支えるメドーサ。
そして二つの顔が斜めに重なる。その軸は、2人の唇。

やがてその軸点から横島方面に強力な霊波動が送られる。
それは凶悪な蹂躙の霊力。彼の魂魄すら侵す服従の呪詛であった。
当然その効果は受けている横島本人にも強烈なショックとなっている。



「ご希望通り最高に気持ちのいいキスをしてやったよ!ただし!呪いのキスだけどね!」



高笑いという名の勝ち鬨を上げ、満面の笑みで眷属に成り果てた少年を見るメドーサ。
しかし彼女の予想に反し、恐怖どころかこちらも満面の笑みを浮かべている横島少年。
その頬をほんのりと染め、手を口に当てながら跳ね回り浮かれまくっていた。
流石に百戦錬磨のメドーサとはいえ、状況が把握できない。



「………あのさ、今ので完璧な眷属契約した筈だけどね……なんで笑ってるんだい?」

「俺って奴隷扱い平常運転で問題ないし、今のキス、本当にすげー気持ちよかった!」

「はあ?そ、そーなんだ。まあ、喜んで眷属になるってんなら嫌がる理由はないか。」



雇用者である美神さんの名誉の為に言及しておくが、別に奴隷扱いをしてはいない。
ただ、ちょびっとだけ平均時給を下回ってて危険な業務が多くて無理をさせるだけ。
皆さんも、仕事をしていると横島くんみたいな状態になる事も多いと思う。たぶん。

そんな横島くんを眺めていたメドーサであったが、ふと表情を変え問いかける。



「そういやアバズレビッチの美神令子、あいつが何処にいるか知ってるかい?」

「あ、あばずれびっちって……美神さんなら多分ロシアじゃねーかな。何で?」

「今回も美神のせいで仕事は失敗だったしね。腹いせにバラバラにするのさ。」

「ちょ!駄目だ!あの女は俺の!バラバラじゃ乳もフトモモも楽しめんだろ!」



メドーサの瞳孔が縦に窄まり、獰猛な野獣の雰囲気を周囲に放ちはじめる。
とっさに飛びのき土下座する横島くん。その間わずか0.1秒は新記録だ。
しかし彼の予想に反して、メドーサは決して怒っていたわけではなかった。



『――反抗のオーラは感じない。本気であの女が自分のモノになると信じてる?』



彼女は眷属儀式を済ませた目の前の少年が、法術をレジストしたのかと思ったのだ。
しかし、術式の構成は完璧なまま維持されていた。綻びは何処にも見受けられない。
感情を色で見ることが出来るセンシングを駆使しても、反抗の色は出ていなかった。



「わかったよ、美神は横島に任せるさ。奴もあたしよりあんたの方が屈辱だろうしね。」

「おおー、わかってらっしゃる!うへへ、あのスケは俺に任せてくだせえメドーサ様!」

「ただし、あたしは裏切りにはチャンスをやらない主義だからね。覚えときなよ横島。」

「ぅわっかりましたあああああ!キッスにかけて絶対に裏切りなんかしませんですだ!」



感情を色で見れるモードを続けていたことをメドーサは後悔した。
周囲200mに溢れるピンク色のオーラ。横島くんのエロい妄想が溢れたものだ。
彼女の知る中で一番大きい、ソリコミ戦闘民族の怒りオーラですらここ迄は無かった。



「ま、お互い立場がこれではっきりした事だし、これからどうするかねえ。」

「あっそうだ!俺が日本に戻ってるの美神さん知らねえんだ!どうしよう!」

「あたしが連れ戻したって連絡入れりゃいいじゃないか。不都合ないだろ?」

「だってメドーサが生きててぴんぴんしてるって、美神さんに言えねえよ!」



今度はじわじわと『不安』のオーラがあふれ出す。
特に眷属の強制力が起因している気配は感じられない。
自分のことを心配していると判り、メドーサは薄く微笑む。



「うーん、じゃあ『好きな女を思ってたら美神事務所に着いてた』って言いな。」

「はあああ?!美神さんをなんだと思ってんだよ!そんなんじゃ無理だっての!」

「確実に納得するさ。特に美神が納得しなかったら、なんだってしてやるから。」



なんだってする―――ぜったいに女性が横島くんに言ってはいけない条件の一つであろう。
彼は恐らく本当になんだってする。その為には地球や宇宙だって笑って犠牲にするだろう。
横島少年は鼻血を噴出しながらメドーサの手を引き、現在無人の美神事務所に駆け込んだ。



「人工幽霊1号!ロシアにいる美神さんに電話!大至急で頼むぜ!」

『わ、判った。……ところで、君の横の神族はいったい何者だね?』

「俺がなんだってできちゃう女だっての!いいから急げええええ!」



横島くんがファックス兼電話機の受話器を取って、待つこと2分30秒。
ノイズ交じりの電話口に、まるで鶴ひろみのような美しい声が現れる。
もちろん艦長に禁煙を促したり黄色いビーグル犬を呼んだりしない方の。



『横島クン?!今どこにいるの!みんな探してるのよ!』

「あ、あのー。今、………池袋です。」

『はぁ?!なに勝手に帰ってんのよ!!理由を言いなさい理由を!!』



メドーサが意地悪い微笑みで、横島少年の脇を肘で突く。
さすがにこの期に及んで少し恥ずかしいのか、メドーサを睨む横島くん。
しかし、条件が条件であるため、意を決して声を張り上げる。



「す、好きなヒトの事を考えてたら、なんでか事務所に着いてました。な――――」



この後、彼は照れて『なんちゃって』と続けようとしたのだ。
しかしメドーサはその気配を察知、一瞬早く口を塞いだ。
その効果は絶大であった。



その効果の爆心地は、やはりシベリアであった。
クレーター脇に駐車するロシア軍の指揮統制車が、無線で近隣の駐屯基地に接続。
その基地が電話交換局と接続するという荒業で、美神たちは横島からの電話を受けた。
ただし軍事無線は大半が半複信、交互にしか話せない片側一車線交互通行みたいな方式だ。
それを解決すべく基地から二系統で発信し、一本はスピーカー用、もう一本はマイク用とした。

判りやすく言うと、受話器の耳の部分を別回線にし大音量スピーカーに繋いだのだ。



『好きなヒトの事を考えてたら、なんでか事務所に着いてました』



そんな音声が周囲1kmに響き渡る。
周囲にいた神族も魔族も人間も、長い赤髪の女性と長い黒髪の女性を見る。
美神令子は、首どころか手先まで肌をピンクに染め上げていた。
氷室キヌに至っては、手で口を隠しながら、うずくまっていた。



「あ、そ、そう、じゃ、じゃあ、無事なのね?怪我は無い?脳みそ煮崩れたりしてない?」

『え?あ、はい。無事っス。……あの、その、俺が言ったこと、納得してもらえてます?」



大音量のスピーカーから流れる声はノイズ混じりながらも鮮明だ。
さすがは核戦争も想定している世界屈指のロシア陸軍の技術である。
その威力はおキヌちゃんが妄想の向こう側に旅してしまっている程だ。
もちろん日本最高GSたる美神令子も、ロシア軍の威力に圧倒されている。



「―――――馬鹿ね、そんな風に言われたら、納得できないなんて言えっこないじゃない。」

『そ、そうなんスか?!あ、あの、俺てっきり、納得できるかボケー!って言われるかと。』

「あーもう!とにかく元気なら他に聞くこと無いわ!さっさと帰って寝なさい!判った?!」

『は、はいぃぃぃぃぃぃ!おやすみなさい美神さん!』

「おやすみ横島くん。じゃあね。」



薄く笑みを浮かべ、すこし俯きながら無線送話機を置く雇用主。
振り向くと、ヒャクメが、小竜姫が、ワルキューレが、ジークが、変な表情で美神を見ていた。
どれくらい変かというと、祝福する様な表情と茶化す様な表情を足して、2で掛けた様な顔だ。



「ああもう散った散った!これ以上は神族でも悪魔でも見物料とるわよ!」

「ジーク、魔界の金塊をもっと持って来い。美神令子の弱みが握れるぞ。」

「だぁぁ!たっ足りないっての!これ以上茶化すなら宇宙全部頂くわよ!」

「ふふ、つまり横島さんとの逢瀬は宇宙に匹敵するくらい大事なのねー。」

「おまえら全員滅ぼす!もしもし第七艦隊?今すぐICBM打ち込んで!」



クレーター内では物騒な言葉が次々と飛び交っていた。
しかし、その雰囲気は言葉とは裏腹に、非常に和やかであった。







そして池袋の美神事務所では横島少年がメドーサの周りを回っていた。
その表情に慙愧の念は浮かんでいない。むしろ敬意といってよかった。
なんでもするという条件も忘れ、美神を手玉に取った事に驚いていた。



「すげえ!メドーサの言ったとおりだ!美神さん納得してた!信じられん!」

「ざっとこんなもんさ。どうだい、眷属になって良かったって思っただろ?」

「こりゃ俺にも運が向いてきたぜえ!メドーサ利用してナオンにモテモテ!」

「モテモテは縁結びの神じゃないから厳しいんだけどね。ま、期待してな。」



こうして、奇妙な運命が紡ぐ糸は、メドーサと横島を絡めとり始める。
本来であれば組み込まれていた筈の歯車は、砕けて転げ落ち始めた。
新しい糸は、どのような物語を紡ぐのか。
その行き着く先は、地獄か極楽か。



メドーサさんと横島くんが織り成す奇妙な物語に、乞うご期待。






つづく。


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