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横島のいない世界

第十四話 魔女たちの教室です!


投稿者名:あらすじキミヒコ
投稿日時:11/ 9/11

  
 大きな屋敷の広い庭。
 その一角の草地に、今、三人のGSと一人の幽霊が集っていた。
 美神令子、六道冥子、小笠原エミ、そしておキヌの四人である。
 空は青く、日差しも明るい。しかし彼女たちが囲む丸テーブルには、漆黒のテーブルクロスがかけられており、三人のGSもまた、真っ黒なローブを羽織っている。

「いにしえに失われし魂よ……」
「地上より消え失せし
 王国の主にして魔性の者……」
「今ここによみがえり
 我らの前にあらわれいでよ!」

 美神が地下ルートで入手したヤマタイの鏡。
 同じくエミが持って来た精霊石のマガタマ。
 そして、ここ六道家にあったヒミコの金印。
 それら三つに、三人のGSが霊力をこめて……。

「エロイムエッサイム……。
 我は求めうったえるなり!
 黄泉の世界より降り来たれヒミコよ!」

 古代日本にあったヤマタイ国の、女王ヒミコ。強力な魔性の力で国を治めていた、日本史上最大の力を持った魔女。
 ……その魂が、現代に降臨する!

『わらわを眠りからさますのは誰じゃ!?』

 ヒミコの出現に、表情を明るくする美神たち。

「やったわ!」

 そんな彼女たちに対して、宙に浮かぶヒミコが、毅然とした言葉をかける。

『神や悪魔に等しい力を持つ、
 このヒミコを呼び出すとは、
 なかなかあっぱれな術を使う者たちよな。
 何用か!? 申せ!!』

 しーんと静まり返る一同。
 美神たちは顔を見合わせて、

「用? 用なんかある?」
「わ、わかんない! あんたは?」
「どうするの〜〜?
 呼び出すことしか考えてなかったわ〜〜」

 結局……。

『ほう、ぼでこんとな?
 ……今の若い娘には
 そーゆー着物がはやっておるのか』

 ヒミコも交えて、キャッキャッとおしゃべりに興じる美神たち。

「あ、そーだわ、ヒミコさま。
 私の男運、占ってくださいな」
「また……エミったら……」

 庭の芝生にピクニックシートを敷いて、即席の野外パーティーだ。
 冥子の母もやってきて、のんきな声を上げる。

「ま〜〜楽しそうね〜〜」
 
 ……と、ここまでは、うららかな春の一日であったが……。








    『横島のいない世界』

    第十四話 魔女たちの教室です!








『はて……あれは何かな?』

 ふとつぶやきながら、ヒミコが庭の一角を指さした。
 木陰に隠れるように、ひっそりと置かれたのは、古ぼけた木の机。
 一人用の勉強机だが、デザインからして現代の物ではなく、明らかに場違いであった。

「あら〜〜変ねえ?
 いったいどこから紛れ込んだのかしら〜〜」

 冥子の母が、首を傾ける。
 机の方からやって来たかのような口ぶりだが、まさか机が勝手に歩いてくるわけもあるまいに……と、おキヌも小首をかしげている間に。

「ちょっとフミさんに聞いてくるわ〜〜」

 言って彼女は去っていったので、その場に残されたのは、当初のメンバーとヒミコのみ。

『何なんでしょうね?』
『いや、わらわに聞かれても……』

 おキヌとヒミコ、人外の二人が言葉を交わす傍らで。
 三人のGSは、机の近くまで行き、様子を観察し始めた。

「……怪しいわね」
「妖気を感じるワケ」
「え〜〜妖怪なの〜〜?
 冥子、こわい〜〜」

 気を引き締める二人と、腰が引け気味の冥子。

「あんただってGSでしょ!?
 怖がってどーすんの!」
「だいたい、ここはおたくの家なワケ!」

 思わずツッコミを入れる二人であったが、これが一瞬の隙となった。
 机の奥でギンッと光る二つの目。中からビロッとのびてくる巨大な舌。

「しまっ……」
「わあっ!!」
「きゃっ!?」

 あっというまに三人は、机の中に引きずり込まれてしまったのである!

『美神さんっ!?』

 驚き叫ぶおキヌの横で、ヒミコは感嘆の声を上げていた。

『ほう……いまどきの机には、
 変わった仕組みが備わっておるのだのう』

 ヒミコには、これも余興の一種に見えたらしい。


___________


 机に飲み込まれた三人は、真っ暗な空間を抜けて……。

「……へ?」

 着いた先は、学校の教室だった。

「ここは、いったい……」
「え〜〜? どうして〜〜?」

 すぐには状況が把握できない美神たち。
 三人は教壇に並んで立つ形となっており、目の前には、きちんと着席した生徒たち。制服は揃っていないが、皆、高校生のようである。
 その彼らが、ガタッと一斉に立ち上がり、駆け寄ってくる。

「先生! 先生ーっ!!」
「先生だーっ!
 この学校にもついに先生がっ!」
「しかも、いっぺんに三人も!」

 口々に叫ぶ生徒たちの中、美神たちの戸惑いを見て取って、髪の長い少女が説明する。

「これで授業ができますわっ!
 学級委員長として、
 クラスを代表して歓迎します!」

 彼女は愛子と名乗り、自分も同じようにこの空間へ閉じ込められたのだ、と語った。
 愛子だけではない。このクラスの生徒全員が、さまざまな時代や場所から、同じ机に取り込まれた仲間たちなのだ。
 脱出の方法もないので、この不毛な学園をより良い場所にするため、皆で力を合わせて頑張ってきた……。

「……学生ばかりだったので仕方なく
 ホームルームを続けてきましたが……。
 いつの日か教師が現れることを、
 私たちは待ち望んでいたのです!」

 そう言う愛子の瞳には、キラキラと星が輝いていた。


___________


 一方、六道家の庭先では。

『どうしましょう!?
 美神さんが……美神さんが……!』
『ん……?
 これは、こういうものではないのかえ?』

 驚き慌てるおキヌと、あくまでも悠然とした態度のヒミコ。

『違いますよ!
 普通の机は、人間を飲み込んだりしません!』
『ほう?
 では……これは妖怪か何かの類いかの』

 ヒミコが、ようやく事態を理解し始めた時。
 おキヌの耳に、聞き覚えのある男の声が入ってきた。

「先生! ここです!」
「うーむ。
 よりによって……
 六道さんのところに逃げ込むとは……」

 おキヌがそちらを振り向けば……。

『唐巣神父!? それにピートさん!?』

 そう。
 こちらに向かってくる二人は、唐巣とピート。
 美神の師匠でもあるGSと、彼に師事するバンパイア・ハーフであった。

『ああ!
 ちょうどいいところに来てくれました!』

 自分一人ではどうしようもないし、よくわかっていないらしいヒミコもアテにならない。
 今のおキヌにとって、唐巣とピートは、美神たちを救出するための最良の助っ人であった。

『実は……』

 机を指し示しながら、事情を説明するおキヌ。
 彼女の話を聞くうちに、二人の表情が引きつってくる。

「先生……どうやら……」
「うむ。
 美神くんたちまで、取り込まれたか……」

 唐巣の言葉に、おキヌが敏感に反応した。

「……へ?
 美神さんたち『まで』って……。
 この机のこと、何か御存じなんですか?」

 ちょっと天然ボケの幽霊ではあるが、これでもおキヌはGS助手。気づくべき点には、ちゃんと気づく……こともあるのだ、たまには。

「ああ。
 そもそも私たちは、この机を追って……」

 厳しい表情で、妖怪机に目を向けながら。
 唐巣は、ポツリポツリと語り始めた。


___________


 唐巣の教会に話を持ち込んだのは、とある高校の校長先生だった。
 生徒が机に飲み込まれるという怪事件が発生した。事件が大っぴらになれば学校の信用にも影響するので、騒ぎが大きくならないうちに、なるべく早く生徒を助け出して欲しい……。
 話を聞いて、唐巣は思った。学校には多かれ少なかれ、霊的存在が住み着いているものだ。しかし、この机はどうも別格のような気がする……と。

「以前……似たような話を
 聞いたことがあったのだよ」

 見覚えのない机が教室に現れ、生徒が消える。
 そんな事件は、もう三十年以上前から、何度も発生しているのだ。
 同じ妖怪机が犯人ではないか、という噂も、唐巣は耳にしたことがあった。

「ともかく……直接その机を
 調べてみないことには何も始まらない。
 だから問題の高校へと急いだわけだが……」

 唐巣とピートが駆けつけた時。
 すでに机は消えていた。

「どうやら……
 うちに校長先生が来た時点で、
 事件が起こってから
 かなり時間が経過していたようです」

 ピートが話を補足する。
 校長は『なるべく早く』などと言っていたくせに、結構モタモタしていたらしい。GSに支払う経費をケチって、とにかく安く請け負ってもらえるところを探し、それに手間取って無駄に時間をくっていたのだ。

「まあ、それでも、
 なんとか霊気の痕跡を辿って……」

 そして二人は、ここに辿り着いたのであった。


___________


「本来は学校を転々とする妖怪のはずなのだがね。
 私たちGSの接近を察知して、学校以外の場所……
 それも敷地の広い、大きな屋敷ということで、
 ここに逃げ込んだようだね」
「ところが偶然、そこに美神さんたちが来て……。
 ……先手必勝とばかりに、
 飲み込んでしまったようです」

 唐巣もピートも、妖怪机を警戒し、やや遠巻きにしながら意見を述べる。
 まとめて三人もGSを取り込んだのだ。さすがの妖怪机も、今は三人の対処に手一杯のはず。唐巣やピートと戦う余裕はないであろうが、だからといって、用心を怠ってはいけなかった。

「さて……
 机に追いついたのはいいとして、
 外からでは、どうしたらよいものか……」

 ちょうど唐巣がつぶやいたその時。

「あら〜〜!
 唐巣クンじゃないの!
 久しぶりねえ〜〜」

 メイドを一人連れて、冥子の母が戻ってきた。

「……あ。
 ごぶさたしています、六道さん」

 神妙な顔つきで挨拶する唐巣を見て、おキヌが尋ねる。

「お知りあいなんですか……?」
「そーなのよ〜〜。
 ねえ、唐巣クーン?」

 こんな状況だというのに、のほほんとした口調で、唐巣にパス。
 唐巣は態度ではなく、言葉だけを受け取り、

「そうですね。
 六道さんとは、長いつきあいで……」
「唐巣クンには、弟子を預けたこともあってね〜〜。
 冥子ができちゃって、私が面倒見れなくなった時よ。
 それが令子ちゃんのお母さんなの〜〜」

 昔話に花が咲く。 
 ついつい、おキヌも引き込まれてしまった。

「まあ!
 じゃあ美神さんって……親子二代で、
 唐巣神父のお弟子さんだったんですか!?」
「そーなの〜〜。
 でも唐巣クンのところに預けていたら、
 彼女にも子供ができちゃって〜〜」
「……え?
 もしかして、美神さんのお父さんって……!?」

 ……今あかされる出生の秘密……!?
 驚きを顔に貼り付けて、ギギギッと首を唐巣に向けるおキヌ。
 しかし。

「困りますよ、六道さん!
 誤解を招くようなこと言わんでください!
 私は……ただ、
 二人が出会うきっかけを作っただけです!
 そもそも、彼女が身ごもったのも、
 私のところから出て行った後です!」

 慌てて否定する唐巣であった。


___________


 一方、妖怪机の腹の中。
 美神たち三人は、教卓の陰に隠れるようにして座り込み、背中を丸めて作戦タイム。

「……ここの生徒たち……
 ちょっと雰囲気おかしいわね。
 何かに取り憑かれてる感じだわ」
「ヘタに刺激するとヤバいワケ」

 ひそひそと言葉を交わす美神とエミ。
 実はヤバいのは生徒だけではない。
 ゆっくりと二人は、視線を残りの一人に向ける。

「ねえ〜〜どうなっちゃうの〜〜?
 私たち……もう戻れないの〜〜?」

 目に涙を浮かべる冥子。
 ……式神暴走の前兆である!

「大丈夫よ! 大丈夫だから!」
「心配することないワケ!」
「令子ちゃんたちが〜〜そう言うなら〜〜」

 こんなところで暴走されたら、何がどうなるか、わかったもんじゃない。
 二人は必死に冥子を宥めながら、アイコンタクトで方針を決定する。
 そして。

「はーい、それじゃ授業始めるワケ!
 みんな席について!」

 ガタッと立ち上がり、雄々しく宣言するエミ。
 いよいよ待望の授業がスタートするということで、生徒たちは各自の席へと戻っていく。

「……はあ。
 じゃ、私たちも行くわよ」
「どこへ〜〜?」

 冥子の世話係は、当然のように美神である。
 だから、まずはエミが授業を受け持ち、その間、美神と冥子は職員室で待機。
 エミが生徒たちを引きつけている間に、美神は冥子の相手をしながら、具体的な対策を考える……。
 これが、美神とエミの、とりあえずの作戦であった。


___________


 やがて。

 キーン……コーン……カーン……コーン……。

 終業のチャイムが鳴る。

「では、この時間の講義はここまで!」

 言ってエミは、充実した生徒たちを残して、教室を飛び出した。
 十五分の休憩である。
 廊下を走らない程度に、足早に職員室へと向かい……。

「さあバトンタッチよ、令子!」

 ガラッと職員室のドアを開け、勢いよく叫ぶエミ。
 机がズラリと並ぶ職員室の真ん中辺りで、美神と冥子が、ポツンと二人並んで座っていた。
 入ってくるエミに対して、冥子はキョトンとした顔を見せて、一方、美神はゆっくりと首を横に振った。

「いいえ、次の時間も頑張ってもらうわ」
「……?
 それはちょっと話が違うワケ」

 エミが顔をしかめる。
 美神は、誤解だと言わんばかりに、軽く手を振りながら、

「そうじゃないの。
 私も今度は『先生』するわよ。
 ただ……教師が二人必要なの」

 つまり。
 生徒を二つに分けるのである。
 保健体育とでもいうことにすれば、男女別々にしても不思議ではあるまい。

「……どう考えても、妖怪本人が
 生徒たちの中に紛れ込んでるでしょ?
 今のままじゃ、誰なのかわからないけど、
 二つのグループに分けてしまえば、
 どちらに含まれているのか、
 少しはわかりやすく……」

 エミは、美神に最後まで言わせなかった。

「何よ、その稚拙なプラン!?
 おたく一体、今まで何やってたワケ!?」
「仕方ないでしょ! 私だって……」

 言い争う二人の傍らで……。

「ああん〜〜二人ともケンカしちゃ嫌ぁ〜〜」

 冥子の目が、また潤み始めていた。
 それに気づいて、ハッとする美神とエミ。
 そう、ケンカしている場合ではないのだ。

「わかったわ。
 それじゃ……こういうのはどう?」

 瞬時に頭を切り替え、美神は、新たに別の作戦を提案する……。


___________


「では、この英文を訳してもらいます!
 各自……始めて!」

 美神の担当は英語の授業。
 彼女が黒板にズラズラと書いた長文を、生徒たちが頑張ってノートに書き写し、日本語に変換していく。
 シーンと静まりかえる教室の中、カリカリという鉛筆の音だけが響き渡った。
 ……いや。
 それだけではない。
 教室の後ろ、窓側の隅に設けられた見学席。そこから、怪しげな声が聞こえてくる。
 そこには、教育実習生役の冥子と、彼女の指導教官役のエミが座っていたのだが……。
 そのエミがいつのまにか立ち上がり、何やらブツブツつぶやきながら、不思議な踊りを踊っていたのだ。踊りは三分間続き、そして……。

「霊体撃滅波っ!」

 エミの霊力が教室中に放たれ、勉強していた生徒たちをまとめてノックアウトする。
 あとに残ったのは、打ち合わせどおり教卓や机の陰に隠れていた二人――美神と冥子――と、技を放った張本人であるエミ。
 そして、もう一人。

「体罰はいけないわ、先生」

 ユラリと席から立ち上がったのは、学級委員長の愛子であった。
 
「あら、あんたずいぶん頑丈なのね。
 ……ただの人間にしては」
「要するに、人間じゃない……ってワケ」

 教室の前と後ろから。
 美神とエミは、愛子を挟み撃ちするかのように、ジリッジリッと歩み寄る。

「何のことでしょうか?
 お二人こそ……
 教師が生徒にこんなことをしたら、
 教育委員会が黙っては……」
「バカ!
 なーにが生徒よ!?
 生徒ならのびてるわ!」

 愛子の言葉を遮り、ビシッと一括する美神。
 エミはエミで、美神の言葉を補足して、

「……でも彼らは大丈夫なワケ。
 ちゃんと威力は抑えておいたから。
 それに……」

 エミが視線を動かした先には、式神のショウトラで生徒たちのヒーリングをする冥子の姿が。
 そう。
 冥子の式神の能力があるからこそ、美神たちは、こんな乱暴な作戦を実行したのである。
 ……まあ、冥子の式神がフル活用できるのであれば、もうちょっと色々と便利な使い方もあったはずだが、こんな不安定な状況で不安定な冥子にそこまで頼るほど、美神もエミも愚かではない。

「あれを受けてピンピンしてるなんて、
 しょせんあんたは妖怪なのよ!」

 エミが目を逸らしている間も、美神の説教は続いていた。

「あんたは机が変化した妖怪みたいね。
 ……おおかた学校に憧れて、
 こんなことしたんでしょうけど……」
「……うっ……」

 一瞬、怯んだ態度を見せる愛子。
 美神の言葉が、図星だったのだ。

「……あんたに取り込まれて、
 みんな普通の生徒じゃなくなっちゃってるわ!
 腐ったミカンが他のミカンを腐らせるように、
 あんたのせいで……
 生徒みんながバケモノになっちゃってるのよ!」
「……いや令子、
 それは言い過ぎのような気が……」

 エミが小声でつぶやいたが、幸か不幸か、それは愛子には聞こえていなかった。

「……私のせいで……みんなまで……」
「そうよ!
 あんたが経験したかった学園生活って
 ……こんなイビツなもんだったの!?」

 不良少女に対する熱血教師のノリで怒られて……。

「う……うわーん!」

 ボロボロと泣き出す愛子。
 こうやって叱られるのも、愛子にとっては、憧れていた青春の一ページなのであった。


___________


 結局。
 反省した愛子は、生徒を全て解放することになった。
 ……しかも。
 彼らは、愛子の正体を知っても、彼女を責めはしなかった。

「操られていたとはいえ、
 君との学園生活は楽しかったよ」
「みんな……!?
 私を許してくれるの……!?」
「当然さ!
 みんなクラスメートじゃないか!」
「あ……あ……。
 ごめんなさい! ごめんなさい!
 私……私……」

 なんだかんだいって、取り込まれた生徒たちは、すっかり愛子のノリに感化されていたのである。
 時空を超えて、彼らは皆、ちゃんと元の時代に戻っていったが……。
 帰還した彼らが皆、元の性格に戻れたのかどうか、それは不明であった。
 そして。
 騒動の原因となった妖怪愛子は……。


___________


「うーん……。
 こうなってはもう、
 退治する必要もなさそうだが……」

 とらわれていた生徒たちが、本来の居場所に送り返されたということは。
 救出を頼まれた唐巣の仕事は、ある意味、無事に成功したと言えよう。

「……だからといって、
 放置するってわけにもいかないわね」

 唐巣の言葉を引き継ぎ、美神が、少し困ったような表情になった。
 ……場面は再び、六道家の庭である。
 机の周りで、愛子の処遇を考えるGSたち。
 唐巣や美神だけではない。
 ヒミコは帰ってしまったが、おキヌや冥子やエミ、それに冥子の母や六道家のメイドたちまで愛子を取り囲み、ワイワイガヤガヤ。
 今の彼女は、机の上に人型『愛子』の上半身をのせた状態であり、まるで机から抜け出してきた幽霊のようだとおキヌは思った。

「じゃあ〜〜こうしましょう〜〜」

 冥子の母――六道家当主――の言葉で、一同が静まる。
 彼女が提案したのは……。


___________


 数日後。
 美神と共に六道家を訪れたおキヌは、出迎えた冥子に問いかける。

「愛子さん……元気にやってます?」
「もちろんよ〜〜」

 朗らかに答える冥子。
 そう。
 愛子は結局、六道家に引き取られることになったのだ。
 ただし、今さら古ぼけた勉強机など必要はないので……。

「……あ!
 皆さん、いつぞやはお世話になりました」

 ちょうど庭を通りかかった愛子が、ペコリと頭を下げる。
 容姿は以前と同じ、長髪の十代少女であるが、服装は大きく変わっていた。
 メイド服である。
 学校妖怪からメイド妖怪へ、愛子は、華麗なる転身をとげたのであった。

「似合ってますね、愛子さん」
「ありがとう、おキヌちゃん。
 迫害されつつも召使いとして働く、
 うら若き乙女……これも青春よね!」

 瞳をキラキラさせ、空を仰ぎ見る愛子。
 こういうところは、変わっていなかった。

「……誰が迫害しましたか!?
 そういうこと言ってると、
 ホントに祓ってしまいますよ!?」

 庭の向こうから、冥子の母の声が聞こえてきた。
 美神も小声でツッコミを入れる。

「あんた……うら若きじゃないでしょ」

 そんな中。

「……で、愛子さん。
 いったい何をさせられてるんですか?」

 おキヌは、愛子の仕事内容を尋ねていた。

「……普通の召使いよ。
 御飯を作ったり、掃除をしたり、
 買い物に行ったり……」

 返ってきたのは、ごくごく平凡な業務内容。
 しかし。

「じゃあ……
 冥子さんの助手になったんですね?
 ……私と同じだあ!!」

 おキヌは大げさな反応をする。
 それを見て美神は苦笑するが、

「いや、おキヌちゃん……
 GS助手って家事するもんじゃないから」

 彼女の声は小さく、おキヌの耳には届かなかった。
 おキヌは美神のところで家事も任されているので、家事はGS助手の仕事のうちだと思っている。つまり『GSのところで家事をする人』イコール『GS助手』という図式が、彼女の頭の中では成り立っていたのである。

(GS助手の妖怪さん……!)

 仲間が出来たような気分で、ちょっと嬉しいおキヌであった。



(第十五話に続く)
   


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