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横島のいない世界

第十一話 剣は燃えませんがプロポーズはお断りします!


投稿者名:あらすじキミヒコ
投稿日時:11/ 2/ 3

    
『うふふふふふふふふふ』

 しゃーこ、しゃーこ、しゃーこ……。

 狂気の笑顔を浮かべて、包丁を研ぐおキヌ。
 切れ味が悪くなったので止むなく始めたのだが、こうして刃物の手入れをしていると、なぜか気持ちが高揚してくるのだ。これも幽霊のサガだろうか。

(……うーん。
 これじゃいけない気がする……)

 気分を落ち着けるため、他のことを考えることにする。
 美神のことを思い浮かべてみた。

(今頃……美神さんも
 気持ちを高めてるんだろうなあ)

 美神は今、散歩に出かけている。厄介な除霊をするので、精神統一が必要なのだそうだ。

(いくら美神さんでも、
 危険な仕事は……危険ですからね!)

 ふと、少し前の事件を思い出す。
 夜の動物園で暴れる、邪悪な精霊。外国から紛れこんだもののようで、詳細もわからぬまま退治したのだが、不思議な吹き矢を使う相手だった。
 吹き矢を受けたのは幽霊のおキヌだったため、特に影響もなし。しかし、後で調べて判明したのだが、人間が食らうと背が低くなる――毎時10%のペースで身長が縮み続ける――という、恐ろしい吹き矢だった。
 もしも美神が受けていたら、どうなっていたことか……。

 バタンッ!!

 おキヌの回想を止めるかのように、勢いよくドアが開いた。
 美神が帰ってきたのだ。気合いが入っているために、ドアを開けるにも力が入ったらしい。

「さあ……!
 刀にとりついた悪霊
 ……退治するわよ!!」


___________


「ふーっ……」

 特筆すべき出来事もなく、無事、除霊は終わった。
 もしも美神が留守の間に、迂闊に妖刀に近づく者がいれば――誰かが妖刀に操られでもしたら――、話は違ったかもしれない。しかし、事務所に残っていたのはおキヌだけで、彼女は、しっかり美神から言い含められていた。トラブルの種になるわけがない。

「……もう大丈夫だわ!」
『この刀、どうするんです?』

 額の汗を拭う美神の後ろで、おキヌが、物欲しそうな目付きをしていた。

「依頼人に返すだけよ。
 ……どうして?」

 憑き物を落とされた以上、それは、もはや普通の良く切れる刀に過ぎない。持ち主に返却するのがスジである。刀そのものの処分を頼まれたわけではないのだ。

『いえ、なんでもないです……』

 おとなしく引きさがるおキヌ。
 こうして。
 妖刀として名を馳せたシメサバ丸は……。
 折れることも包丁にされることもなく、ただの名剣として、余生を過ごすのであった。








    『横島のいない世界』

    第十一話 剣は燃えませんがプロポーズはお断りします!








「あら、金成木財閥の……。
 いつも仕事まわしていただいて、どーも」

 事務所ではなく、美神の自宅にかかってきた電話。

「は?
 息子さんが?」

 これが、新たな事件の始まりであった。

「ケッコンをゼンテーとしたおつきあい?
 私と……!?」


___________

 
「なーんか知らないけどさー。
 私と結婚したいだなんて、
 バカじゃないの?」
『……』

 おキヌは、何も言い返せない。
 人の縁なんてわからないものだから、頭から決めつけるべきではないのだ。
 しかし、美神が結婚して他人のものになってしまうのは、おキヌとしては嫌である。

(それにしても……キレイですね!)

 今日の美神は、いつも以上にゴージャスな――いつもと同じ程度の露出度の――ドレスを着ている。少し見とれてしまうおキヌであったが。

「はい!
 おキヌちゃんは……これを着てね」

 美神から、何か渡された。
 また幽霊用の服かと思ったが、少し違うらしい。

「エクトプラズムスーツよ!」
『えくとぷらずむ……すーつ……?』

 幽霊専用服の材料にも使われているように、エクトプラズムというものは、GSにとって便利なシロモノ。

「おキヌちゃん、これはね……」

 GSが変装する際には、霊視にも耐えうる必要がある。特殊な薬を飲んでエクトプラズムで体を覆えば、男が女に化けることだって可能なのだ。
 今回は幽霊のおキヌが着用するので、服用型ではなくスーツ完成型を用意した。性別の変換は出来ないが、これならば幽霊独特の霊気も遮られるので、人間に化けることは可能。
 ……それが美神の説明だった。

「今日はおキヌちゃんに……
 私の恋人役をしてほしいの!」


___________


 金成木財閥当主、金成木三郎の私邸に着いた美神たち。
 美神の目でも凄い大邸宅に見えるのだが。

『うふふ……』

 隣のおキヌは、豪邸を見ようともしていない。ただただ笑顔で、美神の腕に抱きついていた。

「おキヌちゃん、わかってる……?」

 パーティーに招かれた美神だが、喜んで来たわけではない。ここの息子が美神と結婚したいと言っており、しかし上得意の機嫌を損ねるわけにもいかず、やんわりと断らなければいけないのだ。

「……フリだけだからね!」
『はい、美神さん!』

 恋人がいると見せつければ、向こうも諦めるだろう。
 それが美神の作戦だった。
 そして。

「美神さん!
 いらしてくださったんですね!」

 自ら美神を出迎える、一人の若者。

『この人が……?』
「そう。
 金成木財閥の跡取り息子、
 ……英理人さんよ!」


___________

 
「来てくれたからにはOKですね!?
 結婚しましょう今しましょう
 さあしましょう!!」

 美神の手を握り、まくしたてる英理人。

「金成木家は世界有数の大富豪ですが、
 僕はそんなことちっとも
 鼻にかけないいい奴なんです!
 おまけに身分を隠して現場の
 労働者と一緒に働いたりもする
 ナイスガイだったりします!!
 さあっ!!」
「お話の途中ですけど……」

 彼の話を遮って。

「私の恋人をご紹介しますわ」
『ど……どーも。
 ……おキヌです!』

 美神は、おキヌの存在を強調する。

「こ……恋人……!?」

 うまくいったようだ。英理人が黙ってくれた。
 だが、静寂は長くは続かなかった。

「あの、女性に見えるのですが……?」

 当然の反論。
 美神にもわかっている。人選に無理がある可能性は否めなかった。しかし、仕方がないのだ。美神には親しい男性などいないし、その辺で適当に見繕ってくるわけにもいかない。だからおキヌを恋人役に仕立て上げたわけで、これで押し通すしかなかった。

「そうですわ!
 でも、そこらへんの男性より
 彼女の方がよほどステキですから!」
『美神さん……』

 おキヌのウットリした表情が演技であることを祈りつつ、美神も笑顔を作る。

「……。
 ま、とにかく
 こんなとこじゃなんですね。
 どうぞ中へ……」

 英理人に案内される美神たち。
 おキヌ恋人説が受け入れられたのかどうか、まだ判断するのは難しい。

(とりあえず……これには
 ツッコミ入らなかったわね?)

 チラッと隣のおキヌを見やると、プカプカ浮かぶヒトダマが目に入る。
 何か聞かれたらヒトダマを操るGSだと言い張るつもりだったが、特に何も言われないのであれば、美神の方から話題に出す必要はないであろう。


___________


 会場でダンスを楽しむ、招待客たち。
 そんな中。

「お父上に仕事を依頼された時に
 二、三度お会いしただけなのに……。
 何でそんなに私にこだわるんです?」

 英理人と踊りながら、美神は問いかける。
 ホストの申し出ということで、仕方なく相手をしているのだ。彼女自身に、ダンスを楽しむ気持ちなど全くなかった。

「あなたのことは調べました。
 恋人がいたというのは初耳ですが、
 そんなことは問題ではない」

 ニヤッと笑いながら、英理人が説明する。

「財閥を切り回すパートナーとして、
 あなたのよーに頭がよく行動力があり
 根性の太い女性が欲しいのです!」
「つまり……
 ビジネスとして私が欲しいと?」
「私を愛する必要はありません。
 一言イエスと言えば、
 あなたは世界有数の大富豪です」

 踊るのを止めて、美神は考え込んでしまった。
 お金は大好きだし、これほどの富は自分にこそ相応しいとも思う。
 しかし、今の仕事を辞めたくない。その気持ちは、強いのだ。業界トップクラスの稼ぎがあるというだけでなく、GSという仕事には、特別なこだわりがある。今は亡き母親も、かつて一流のGSとして活躍していたのだ……。

「考えるまでもないでしょう?
 これであなたもサギ商売から
 足を洗えるんですから……!」

 美神の思考を遮った、英理人の言葉。それは、大きな冒涜の言葉であった。

「……サギ?
 サギってどーいうこと?」
「決まってるじゃないですか、
 あなたの仕事ですよ」

 眉を吊り上げた美神に対して、英理人は、平然と言い放つ。

「幽霊だの妖怪だの、
 本当にいるわけないじゃないですか」


___________

 
「あ……あんたね〜〜」

 気色ばんで両のコブシを握りしめる美神。
 だが、英理人の言葉に反応したのは、彼女だけではなかった。

『おまえはまだそんなことを
 言っているのかい〜〜!?』

 どこからともなく聞こえてきた、幽霊の声。
 ハッと後ろを振り返ってみたが、おキヌは、ちゃんと椅子に座って美神のダンスが終わるのを待っている。自分ではないという意思表示であろう、小さく手を振っていた。

「じゃ……誰!?」
「しっ……知りませんっ!!」

 ピキシッと固まった英理人をおどかすかのように。
 謎の声の主が姿を現す。

『英理人〜〜。
 おばあちゃんだよ〜〜。
 ほーらほら本物のユーレイだよ〜〜』
「うそだーっ!!
 これは幻覚だー!!
 幻覚じゃなきゃやだーっ!!」

 老婆の霊に背を向けて、英理人は、うずくまって泣きわめく。

『これは本当にあった話だけど、
 アベックが真夜中車に乗っていると〜〜』
「やだーっ!!
 怖い話なんかやめてよ、ばーちゃんっ!!」

 虚勢が剥がれた情けない男。
 このままにしておきたい気持ちもあるが、悪霊祓いの専門家としては、放ってもおけない。仕方なく、美神が介入する。

「あんた誰?」
『あ、あたしゃ悪霊じゃありませんよ。
 去年死んだ、英理人の祖母です』

 小さい頃から怖がりな孫が、大人になっても変わらないので、こうやって時々おどかしているのだそうだ。
 胸を張って説明する彼女。どうやら、わかっていないらしい。

「そーゆーのを……悪霊ってゆーのよ!」

 鬱陶しいが、これを退治したところでタダ働きである。

「おキヌちゃん、まかせたわ……」
『はーい!』

 幽霊の大先輩、おキヌの出番だ。

『ダメですよ、おばあさん。
 こういうことをしていると……』
『……ん?
 ジャマすんじゃないよ、
 今いいとこなのに……』

 老婆の霊の腕を取り、会場の外へと連れ出していった。一件落着である。


___________

 
「はっはっはっ。
 霊なんていないと証明されたよーだね!」

 悪霊が視界から消えた途端、英理人は、シャキッと立ち直った。

「さあっカモナマイハウス!!」
「あんた……まだ
 そんなこと言うつもり!?」

 呆れる美神。もう口調も、すっかりいつもどおり。
 これはやんわりと断るのも難しいと思い、彼女は、一つの提案をする。

「そこまで言うなら、今度……」


___________
___________

 
 カツーン、カツーン……。

 ハイヒールの音が反響する。
 下水道の通路を、美神が歩いているのだ。

『大丈夫でしょうか……』
「ん……何が?」

 声をかけるおキヌに、とぼけたような言葉を返す美神。もちろん、何の話なのか、ちゃんとわかっていた。

「……ああ、あれね」

 振り返る美神の目に映るのは、一人の男。見学者、金成木英理人である。

「気にすることないわよ。
 自分で来るって言ったんだから……。
 ……ま、何かあっても自己責任ね!」
 
 口ではそう言う美神であったが、実際には、ケガさせたら大変だと思っている。
 危険な工事現場でかぶるようなヘルメットと、機動隊が持つようなジュラルミン製の盾。それらを用意して装備させたのは、美神自身だ。

「……そんなに
 急いで行かないでください!
 ゆっくり行きましょう……」

 顔には笑顔を作っているが、膝はガクガクしている英理人。本心では、ここに来たくはなかったのだろう。

(でも、そういう約束だからね……!)

 パーティーでの一件を思い出し、心の中でニヤリと笑う美神。
 あの時、美神は、プロポーズを受ける条件として、彼女の仕事に同行することを提案したのだ。英理人がサギだと思う美神の業務を、キチンと最後まで見届けられたら、結婚してもいい……。

(ふっ、どうせ無理でしょ!)

 あの怖がりが、実際の除霊現場に耐えられるわけがない。これで、向こうが約束を破ったとして円満に断れるはずだ。
 最悪、今日の仕事を乗り切った場合には、例の老婆に協力してもらうつもりだった。あの幽霊は、おキヌに説得されて、近所の浮遊霊の集会(第八話参照)に仲間入りしている。美神が頼めば喜んで協力してくれるだろう。なにしろ、英理人をおどすという用件なのだから。

『……美神さん!』

 おキヌの言葉で、美神は気を引き締める。彼女にも感じられたのだ、邪気の接近が。

『死ねやあっ』

 絶叫と共に、下水の中からザバッと出現したもの。
 死ぬ時に胴体を真っ二つにされたのだろうか。上半身しかないが、手には金属バットを握り、顔も魔物と化している。これが、本日の除霊対象だった。

「出たーっ!?」

 ピューッ逃げ出す英理人。
 とりあえず、目的の一つは果たせたようだ。

「おキヌちゃん!
 一人にしとくと危ないから……
 一応あいつの後を追ってくれる?」
『はい!』

 この程度の相手、美神一人で十分。おキヌもそう判断したらしく、英理人を追いかける。
 そして、美神は。
 
「くらえっ!!」

 敵が金属バットを振り下ろすより早く、破魔札を投げつけた。
 見事、直撃。

「やーれやれ、片づいたわ。
 早いとここんな場所から……」

 しかし、その判断は早過ぎた。

 ドカッ!

 後ろから強烈なキックを食らう美神。
 上半身は倒したが、下半身は隠れていたらしい。それが襲ってきたのだ。
 いや。
 たった今やっつけたはずの上半身も、なぜか復活している。
 右手側に上半身、左に下半身。挟撃される形の美神ではあるが、かえって、気が引き締まった。

「ザコが……
 てこずらせてくれるじゃない!」

 元々は一つだった存在。どちらか一方でも残っていれば、もう片方も復活できるのだろうか。

「そういうことなら……
 両方同時に倒してあげるわ!」

 決然と言い放ち、神通棍を握りしめる美神。
 破魔札は使ってしまったが――荷物係のおキヌがいないので装備の補充は出来ないが――、切り札の精霊石は、まだ三つとも残っているのだ。油断さえしなければ、負けるはずがない……。
 美神は、そう思っていた。


___________

 
『美神さん……遅いなあ』

 下水道の出口で、美神を待つおキヌ。
 ここで英理人に追い付いたので、移動せず、その場に留まっているのだ。
 ちなみに、英理人は気絶している。どうやら、今頃になっておキヌが幽霊であることに気づいたようで、それがショックだったらしい。普通の状況ならばまだしも、除霊現場から逃げ出してきた直後だっただけに、限界を超えてしまったのだ。

『……あ!』

 待つことしばし、ようやく、美神が出てきた。

『ケガしてる……!!』
「かすり傷よ、気にすることないわ」

 慌てて駆け寄るおキヌだったが、美神は手を振って制止する。
 おキヌとしても、少し不思議である。あの程度の雑霊に手こずるような美神ではないと思うのだが……。
 そんな彼女の心の内を知ってか知らずか。美神は、ポツリとつぶやいていた。

「……修業が必要ね。
 妙神山へ行こうかしら……」



(第十二話に続く)
    


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