椎名作品二次創作小説投稿広場


初恋…?

そのきゅう。


投稿者名:hazuki
投稿日時:10/ 8/26




──そうして次の日


横島は、まだ靄のかかった街の中を眠い目をこすりながら歩いていた。


昨日はいろいろあって精神的に疲れた上に、自分が姉のように慕っていた人間が今悪霊に憑かれているというのだ。


寝ようと思ってうすっぺらいせんべい布団に身体を横にしても眠れなかった。



(……まぁ徹夜なんてしょっちゅうだから、いいけどよ)



と横島はひとりごちながら、事務所のドアを開けた。



「はよーっす」



時間にして、六時ぴったし集合時間の三十分前である。


この男基本的に時間には煩く予定の時間に理由がない限り遅れることがない。


(と、いうか一分でも遅れたら、恐ろしい雇い主に一時間の時給をさっぴかれるようになったせいという説もある)


しんとした、静寂のなか横島は目の前のソファに腰を降ろし目を瞑った。


事務所と併設されている、住居の方向から人が話しているであろう声やら聞こえてきており気配にふと口が緩む。



高校生の身で一人暮らしをしているせいだろうか、こんなふうに人の気配を感じることがとても安らぐのだ。


まぁそれもこの男が徹夜明けで少しばかり疲れているせいでもあるが。


このまま眠れてしまいそうな、心地よい空間であったが寝てしまってはもう数時間は何があっても起きないだろうなぁと苦笑して目を開けると、足元にしゅんっと耳をたれ下げた犬(シロ)がいた。



「………シロ」



げんなりと横島。




「せんせぃ」


ピンクのボーダのパジャマを着たシロは、ぺたんとソファの下に座り込んでおりきゅっと横島のトレーナーをつかんでいる。


上目づかいに涙目で見つめる瞳はかわいらしく襟元から見えそうで見えない胸元そしてぺたんと垂れ下がった耳に尻尾。


その声音はもう哀れっぽさ全開である。




「…………なんか用か?」


昨日の事は忘れてないぞといわんばかりに横島。

その言葉にシロは、びくっと身体を震わせじわあっと目に涙を浮かべた。


ぐすぐすと鼻を鳴らしながらも健気に横島を見るつぶらな瞳は反則的に可愛らしい。




「さ……さんぽ……は、本当に一ヶ月おやすみでござるか?」




耳はますますしょげ返り、いつもはぱたぱたと動く尻尾もしょぼんとたれさがっている。




「せっしゃは……せっしゃは……せんせんぃとさんぽをするのが一番の楽しみでござる本当に、本当に、本当にほんっとうに駄目でござるか?」





ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、途切れ途切れに言う声はか細く目の下に隈からも昨日寝ていないことがわかる。



横島は、ぐしゃぐしゃと髪をかき回し、ひとつ大きなため息をついた。


昨日は、あまりにあまりな出来事(?)のため散歩中止を宣告したがシロが可愛くないわけはない。


なにせここまで一心に自分を慕ってくれる存在など他にはいないのだ。


それにただでさえ女子供に弱いのに、こんな風に泣かれたら許さないわけにはいかないであろう。





「あーじゃぁもう仕方ねえなぁ今回の仕事が終わったら、散歩つれていってやるよ」




横島はシロに目を合わせ、笑った。



「ほんとうでござるかっ」




途端にぴんっと先ほどまでしょげかえっていた耳が立ち尻尾もゆるゆると左右に揺れる。


あまりに現金な反応に苦笑しながら、



─だから、おとなしくしてなよ




というつもりだったのだが、その言葉は口にすることができなかった。




「嬉しいでござるうううううううっ!!!!」





と、叫びながら飛びついてくる物体のせいで。




「先生やっぱり優しいでござる!!」



嫌がる横島を無視してシロ


言質さえとってしまえばこっちのものと言わんばかりの行動である。





「ぐあーっくっつくな!舐めるな!抱きつくな!」






──やっぱり、許さなければ良かった。







そんなこんなで(?)心温まる師弟の交流(ただし一歩的な)が一通りすんだ頃用意を済ませたであろうおキヌと美神がいた。



シロに抱きつきオバケのように引っ付かれている横島を眺めながらもちろん美神は呆れ顔、おキヌは微笑ましいと言わんばかりの微笑である。


美神は昨日遅くまで、書類と格闘していたのだろう目の下にうっすらと隈ができており、おキヌから栄養ドリンクを渡されている。


「どうにかしてくださいよ」


女性に助けを求めるとは情けない限りであるが、横島元々情けなさでは定評のある人物である。


げんなりと疲れたような声音でおキヌと美神に助けを求める。



が、美神は呆れた表情同様声音を隠すこともなく



「ま、今日は私とおキヌちゃんとあんたで行くんだから少しくらい別れを惜しませてあげたら」



と言ながら栄養ドリンクの蓋を開ける。




「あー今回夏子んとこの仕事は三人ですか?」



くっついてくるシロをはがしながら横島。



「知らなかったんですか?」

とおキヌは首をかしげながら言う。

どうやらおキヌは事前に聞かされていたらしい。



「ああもう何よこの騒ぎ」


そしてこの騒ぎの中眠ってはいられなかったのであろう、鈍い金色の髪をした少女があくびをしながら現れた。

もちろんパジャマである。(シロがストライプ柄のパジャマに対して水色のドットでこれまたシロの健康的な可愛らしさとは違うまた気だるげな、どこか目の離せなくなるような色っぽさを感じるものである。



「あ、シロ横島に許してもったんだ」


ごしごしと目を擦りながらも、横島にべったりとくっついているシロを眺めちょっと表情を緩める。



「うむ!!」


きらーんっと目には数分前までにはなかった生気が漲っている。



「そりゃ、よかったわ。昨日ずっと呪文のように『夏子殿には負けたくないでござる』って繰り返されて本当こっちも寝苦しかったし」



どうやら昨晩はずっと部屋の中で夏子に負けたくないと呟いていだ。


それは、タマモにしては大層迷惑であったであろう。



「うむ!!本日は拙者も仕事現場まで行くでござる!!」



ここぞとばかりに、声を張りシロ。



「いやお前今日は現場には行かなくてもいいし、美神さんも今言ってただろ?」



横島は、視線を美神に動かしながら言うが、もちろんシロはそんな横島の言葉にうなずくはずもなく




「ええっ!!拙者もいくでござるっ!!」



と美神がいる前で言い放った。


同時に栄養ドリンクを飲み終わった美神の米神に青筋が一本入り更に部屋の温度が下がっていく。




「シロ」



美神はふうっとため息を一つつき、静かな声でシロの名を呼んだ。


普段の美神に比べても、柔らかい、そして優しいと表現するに足りる声だろう。



だが、横島の顔は引きつり、おキヌはふっと目を逸らし、タマモに至っては身体の向きを変えてしまった。



そしてその名を呼ばれたシロは尻尾はくるんっと曲げてぱたんっと耳を下げた。


すでに本能がもう危ないと、逆らってはいけないといっている。


動物は本能に忠実な生き物であり、シロも普通ならその反応に逆らわない。


多少不服そうな顔はしても、ここで逆らうなどしない、しないのだが




「で………でもでござる、拙者、せんせいといっしょにいたいでござる」




とぷるぷると身体を震わせながらシロはそう言った。


じわっと目じりには涙が浮かんでおり、声も身体同様震えている。



そしてその言葉ににっこりと美神は、美しいのに何故か恐ろしいと言えないような笑顔で



「シロ?あんたの飼い主誰だかわかってるの? 私よね?その私が三人で大丈夫って言ってるのこれがどういう意味かわからないの?」



とこれ以上口答えしたらしばく!っという言外に言葉を含ませ美神。



その意味がわかったであろうタマモはなだめる様にシロを眺め、首を左右に振る。



「シロ……美神さんに逆らったら俺でも命の保証はできんぞ」


横島もくしゃりとシロの髪をかきまぜながら重々しい口調で言う。



ぐっと横島のその言葉に息が詰まる。


けれどもシロは、ぷるぷると耳を震わせてそのまま震える声で言った。




「でもっでもでもっ夏子どのは、先生の初恋の相手でござろう!!先生と一緒にさせたくないでござる拙者も一緒にいたいでござるっ」




それこそ、悲痛な叫びといっていいものである。



びきっという音を立ててその言葉に部屋の温度が氷点下まで下がった。


もちろん、こんな風に部屋の温度が下がった気配に気づかないわけはない。


横島は、ぞくぞくっと背筋に冷たい冷たいものを感じたが



「それがどうしたんだ?」



と言った。


どうやら、シロの発言に問題があったとは思わなかったらしい。


空気の違いには気づく割には、空気を変える発言には気づかないあたりがこの弟子にしてこの師匠である。


ちなみにタマモはそそくさとこの場から避難し、おキヌの表情も苦笑いのままぴたりと固まった。


美神は、それはもう、美しい笑顔で横島に微笑む。



「へぇ」



それはそれは穏やかな声で穏やかな笑顔だった。



「………み、みかみさん」






殺られるっ!!!そう思ったのはもう理屈ではなく本能でしかない。



が、しかし横島のそんなめったな事では外さない予感をにっこりとそれはそれはそれはもう美しい笑顔で




「じゃあそんな大事な夏子さんの依頼ですもの早くいかないとねぇ………シロもきたらどうなるか、わかってるでしょうね」


べきっと手のひらにあった栄養ドリンクのビンを粉砕しながら、美神はのたまわった。







「はい」

「はいでござる」



二人(一人と一匹)の声が震えていたのはここはもう仕方ないことである。









つづく


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