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GS冥子?

速き神、古の美女 (前編)


投稿者名:案山子師
投稿日時:10/ 2/15

 『こちらテレサ。悪霊の走行予測進路に結界トラップを設置完了』
 「ありがとうテレサちゃん。もう少しで、そこまで追い込めると思うから、もうしばらく待っていてねぇ」
 首都高速の遥か頭上でシンダラから地上を見下ろしながら冥子はのんびりとした口調で答えた。
 『……―――ッ! ……ぃ………ッ!!!』
 時折こぼれてくるトランシーバーから聞こえる雑音。地上のカーチェイスをゆっくりと眺めて……。



 「テレっ、サぁぁあああああッ!! 何でッ! 俺がッ! こんなことをしなきゃならんのだッ!!」
 高速道路を超光速で駆け回る悪霊を追い込むため、インダラの背に必死にしがつく横島が悲鳴を上げる。
 『しっかりしなよッ。高い給料もらってんだから、身体はってがんばりな』
 「ふざけんなッ! お前だって似たようなもんだろ。むしろこんな悪環境お前の出番だろッ!」
 だが、首から垂れ下がるトランシーバから聞こえるテレサの口調は冷たい。
 インダラの首に必死でかじりつきながら反論する横島にテレサは、
 『毎回風呂を覗こうとして蜂の巣になっているお前なら大丈夫さ』
 と、言い切ると、ブツリという雑音を最後に、一方的に通信を切る。
 「くそっ、なんでこんな面倒なことをせにゃならんのや! 目の前悪霊の速度ならインダラで十分追いつくから、とっとと除霊すればいいじゃねぇか」
 実際前方を走っている悪霊は、はっきりいってインダラが追いつけない速度ではない。
 悪霊が本気で走っていないことを考慮したとしても、文珠で加速すれば十分に追いつくだろう。
 『だめよ。あの速度で近づかれたら私達が対処できないわ。安全に罠に追い込みましょう』
 割り込んできた冥子の意見に、横島は若干の不満を残しつつも納得し、吹き付ける向かい風の向こう側を睨み付けた。
『あと少しだからがんばってねぇ……? あれ、何かしらぁ?』
 突然の沈黙の後に、冥子は何かに気が付いた。
 「どうかしたんですか?」
 『横島クンッ! 気をつけて。後ろから何か近づいてきているの〜〜!?』
 振り返えるとそこには、もう一体。前方を走っている悪霊と似た何かが近づいてくる。
 「首都高速荒らしは二人居たんですか〜〜ッ!!」
 『テレサちゃんどうしよう。後ろからもう一体が走ってきたのっ』
 予期せぬトラブルに、通信チャンネルをテレサへと繋ぎかえる。
 『もう一体……、トラップは一体分しか用意していない。もう一つ作るから多少時間を稼いでくれるッ』
 『分かったわ。私が引き離すから横島クンはそのまま悪霊を追い込んで』
 「了解しました。このまま追いかければいいんですね」
 横島の返事を聞き終えると、冥子はシンダラに下へ降りるように告げる。
 そして、自身の頭上に目玉に尻尾の生えたような式神クビラを、自分の身体に巻きつくように蛇の式神サンチラを召喚する。その瞳は、若干の恐れを含んでいながらも、しっかりと横島達に迫る悪霊の姿を見据えていた。
 
 
 
 (くそう。奴か……)

 この時点で前方を走る首都高速荒らしの悪霊は、横島達のことをさほど危険視していなかった。先ほどから一向に自分に追いつくそぶりが無かったからだ。
 もしここで、第三者の乱入が無かったなら、確実に首都高速荒らしはテレサが設置したトラップに捉えられていたことだろう。
 だが、運の悪いことに首都高速荒らしは、背後から近づくもう一人の存在に気づいてしまった。
 そのために悪霊は行動する。わずかに減速すると、横島とインダラが悪霊に追いついてしまい、両者は並走するような形になった。
 それに驚いたのは横島だ。とっさの出来事にどう対処をするのか判断が鈍る。
 目に映る姿は、物語の鬼よりも不気味な姿。目が四つ、大きくとがった耳と、ぼさぼさに伸びた髪。悪霊は、爪の伸びた右手を横島に向けて差し出してくる。
 とっさに横島は、文珠を使って防ごうとしたが、それは失敗に終わった。
 危ない……。そう感じたときには、インダラが鬼から回避するために大きく跳躍してしまっていた。
 片手を懐に入れていた横島は突然の振動に耐えられずに、高い上空から硬いコンクリートへとたたきつけられていく。
 「なっ! 落ちる〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
 「横島クン〜〜〜ッ!」
 「いかんッ!!」
 それを目撃した冥子の行動は以外にも早かった。
 背後から迫ってくる悪霊を完全に無視して、シンダラを反転させると全力で横島のところへ翔る。
 インダラも横島を追うように下降するが間に合わない。
 その横で、誰よりも速く動いたものが在った。
 冥子が認識する速度より速く、それは、横島の身体に近づく。
 もう一人の悪霊だった……。
 そして悪霊が、横島の身体に触れるか、触れないかのその瞬間。横島が地面に叩きつけられる刹那のときに、激しい閃光が、その場所に居る全員の視力を奪った――。
 


 「よっ、横島クン。誰なの? その人?」
 「あっ……。死ぬかと思ったッ!?」
 「こ、これは一体!?」
 横島の手には『軟』と書かれた文珠。地面は溶けたチョコレートのように、ぐにゃりと歪んでいる。
 九死に一生(横島にとって、割りと日常的な)を得た横島は全身の力が抜け落ちたように、地面にのめりこんでいた。が、それよりも、目を引くものが目も前に一つ。
 横島と冥子の視線は、地面に埋まりこんだ照る照る坊主に似た、奇妙なそれに注がれている。
 痛い沈黙が三人に流れた。
 

 
 「偉駄天は善き神です!! 今度の件も責任を持って収拾します。だからこの話はやめましょう!!」
 しばらくして、テレサに首都高速荒らしに逃げられたことを聞かされた三人は、後方を走っていた偉駄天を連れて事務所にやってきたのだった。
 「首都高速荒らしの正体は偉駄天と……」
 事務所の机で報告書を書いていた日向に、
 「お願いします! 私が責任を持って奴を捕らえますから表ざたにだけはッ」
 もはや、神族のプライドそっちのけで拝み倒す偉駄天『八兵衛』に、神様のプライドなど存在しなかった。
 「でも、あなたが乱入しなければ確実に彼は捕らえられていたわけですしねぇ」
 神様相手にここまで強気でいられる女性はそう多くないだろう。
 「日向さんって敵に回さんほうがいいよな……」
 「怒らせると、とっても怖いの……」
 背後で震える横島と冥子。その囁きは日向の耳に届いているが、この場はあえて無視することにした。
 「今回のマイナス分働きなさい。そうすれば今回の一件、良しなに計りましょう」
 「ありがとうございます! ありがとうございます!」
 もはや、涙を流しながら感謝を述べる八兵衛だが、背を向けた日向の顔が、悪魔的にゆがんでいたことに気づいたものはいなかった。
 (神様に恩を売れる機会なんてめったにないものねぇ――)




 得に語ることの無い除霊。
 「いやぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
 霊的物件の除霊に来ていた冥子達は大量の悪霊を前に、暴走しようとしていた。
 「ここは私がッ! はっ、早い……ッ!」
 インダラとヤタの意外な速度に驚く八兵衛。
 「カァー、カァー(なんや偉駄天いうても、そんなもんかい)」
 「ヒィヒィイイーーン(ちょっと拍子ぬけやな)」
 注意:これは八兵衛の主観です。
 「まっ、負けるものか〜〜〜〜〜ッ!! 偉駄天一族の名にかけて〜〜〜〜ッ!!」
 「おお。今回俺たちほとんど、出番ないですねぇ」
 「みんな〜〜、がんばってね〜〜〜」
 文珠の結界に守られながら、外でがんばるインダラ、ヤタ、八兵衛の活躍を応援する。
 「偉駄天は〜〜ッ! 偉駄天は最速なのだ〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
 20階建てのビルであるにもかかわらず、三鬼の活躍により、ものの数分で除霊が終了した。


 「ジャスト380秒。おお! ついに新記録達成だな」
 なぜかタイムを計っていたテレサが感歎を漏らす。
 「俺たち最近ひまですねぇ」
 「別に、いいんじゃない。給料は出てるし、冥子の暴走はめっきり減ってるし」
 テレサは何気なくそう答えた。


 ここ数週間の中で、最速の除霊時間を更新した一行は特に、それ以外の仕事もなかったので、日の暮れる前に事務所に戻ってきていた。
 「あら、皆さん今日も早かったですね」
 書類仕事をしていた日向が、手を休めて横島たちを出迎える。
 「八兵衛さんのおかげで今日も早かったの」
 「銀の弾丸の消費もなかったし、どっかの誰かとは大違いだったな」
 横目で横島を見つめながら、明らかな皮肉、
 「日向さ〜〜〜ん、みんながいじめるんで、ぶぎゃッ!!」
 うそ泣き状態で日向に抱きつこうとする横島の額に万年筆が刺さって、床に転げ落ちる。
 「しかし、ココ最近はお仕事が順調ですね。でも、このままでは少し困ったことになりそうですね」
 ほがらかな表情から、真剣な表情で何かを悩むように視線を落とす。
 「何かあったの〜〜〜?」
 冥子がなんともなく尋ねると、日向は少し考えた表情見せた後、
 「実は……、経費が余ってるんです」
 真剣な悩みかと思っていたのに、あまり切羽詰った用でもない悩みに、一同は気が抜けたようになるが、
 「これは重要なことですよ。今月大幅に経費が余ったからといって、来月もそうとは限りません、もともと式神使いは戦闘での必要経費を考えなくても良いですから、私たちの事務所の予算はほとんどが、テレサの弾丸と充電代で消えています。しかし、あまりに経費が余ると、来月から、予算が減額されることも予想されます。今回の経費削減は八兵衛さんの力あってのこと。それなのに八兵衛さんが来月から居なくなられたら、これまで使用できた弾丸が半分に減ってしまいます。そこで、私からひとつ提案があるのですが、旅行に行きませんか?」
 「旅行ッ! 温泉ですかっ? 水着ですかっ? 混浴ですか、……ぐぎゃぁああああッ!!」
 復活した横島はテレサからの背後の一撃を受けて再び沈黙した。
 「皆で遊びにいけるのねぇ」
 無邪気に、両手を組み交わして喜ぶ冥子だが、
 「ですが、ただ遊びに行くわけではありません。いくらあまっているからといって、まったく事務所と関係のないことに使ってはまずいので、これを見てください」
 日向から手渡されたのは、事務所の仕事の依頼書だった。
 あまり、有名ではないがどこかの観光名所からの以来であった。
 「しろめんきんけきゅうお? 何なのこれは?」
 「白面金毛九尾。つまり九尾の狐ですね? これが一体どうしたんです?」
 冥子の間違いをテレサが訂正し、日向に尋ねる。
 「無論九尾の狐に関する依頼です。しかし、それは別に除霊を求めるのではなく、近くに殺生石らしきものがあるので、調査してほしいそうなんです。もっともその場所は過去に残る文献に示された位置からも大きく離れているために信憑性は低く、さほど重要ではないのですが。私独自の簡単な調査では、最近めっきり観光客が遠のいたために、それを使ってイメージアップを図りたいというのが向こうの本音でしょう。GS界として有力な六道家が調査に来たとすれば、調査の内容がどうであれ、後は向こうの都合のいいことだけを公表し、村おこしにも使える。殺生石が本物だとしても、報告の内容では、すぐに復活するようなこともないでしょうし、当初の目的が果たせる。ほとんど無駄足の調査うえ、料金も安く、普段なら受けることもないのですが、せっかくですし行ってみませんか?」
 「はいっ!! 行くッ! 行きますッ!! 行きましょう、冥子さん。日向さんと、ついでにテレサ」
 「おいっ、なんで私がついでなんだ」
 「別にいいじゃないかっ、温泉だぜッ、混浴だぜッ!」
 依頼書をいつの間にか覗き込んでいた横島は両手を上げておおはしゃぎ、冥子も同じように、うれしそうでそれを承諾した。
 「それでは、慰安旅行。もとい、九尾の狐の調査の依頼を受けることでいいですね」
 「いきましょうッ!」
 「おうっ! 絶対いくぜッ!?」
 「ちょっと待ってください! そんなことよりも九兵衛の方はどうなっているんですかッ!!」
 突然の発言に、八兵衛が割り込む。
 「なにいってるッ。怪しげな偉駄天を探すよりも、男にはやらなければならないことがある。お前も男なら分かるだろう」
 「そうよ。八兵衛さんも一緒にいきましょう」
 「旅行よりも九兵衛が地上で何をたくらんでいるか。日向さんそのあたりはどうなっているんですかッ!!」
 日向に詰め寄る八兵衛だが、
 「そうですね。あの時誰かが乱入してこなければ、全て片付いていたでしょうね。そして、せっかくの好意を、神様が人の好意をそんな風に言われるなんて」
 笑顔の裏に120%のとげを含ませながら、八兵衛に切り返す。
 「いっ、いや。別に私もいかないとは」
 「国からの依頼、失敗したときにイメージダウンは簡単に回復できないんですよ。祈るだけで、暮らしていけるんでしたら会社なんて要らないですよね。せっかく汗水流して働いているのに、一体神様ってどうやって暮らしているんですか?」
 「いっ、いやそれは……」
 鬼か、阿修羅か、それ以上のプレッシャーを受けてすごすごと引き下がる、八兵衛はそれ以上何も言うことが出来なかった。
 「それじゃあ、今度の休みに出かけるので遅刻しないでくださいね。後横島君、学校は、」
 「学校ッ、追試が何ぼのもんじゃぁ、絶対にその日はいきまッ」
 ゴンッ! という音がして、日向の拳が横島の頭に振り下ろされる。
 「追試になったらおいていきますから、分かってますね」
 「……はい、わかっていま、す―――――」
 つぶれたカエルのようになりながらも最後の言葉を残した横島であった。
 
 
 
 そんなこんなで、すぐに旅行の日がやってきた。
横島が旅行に行くことを聞いて、その間、愛子の機嫌が悪くなり、机(本体)を抱えて、どこかに出かける準備をしていたのはまた別の話。



「よっしゃ〜〜っ! 早速でかけよう、てっ! どうしてお前がココに居るんだ?」
スポーツバックを抱えて意気揚々とやってきた横島の前には意外な人物が立っていた。
「いぁ〜〜、このところ研究詰めでめっきり外に出ておらんかったが、たまには温泉でのんびりするのもよさそうじゃな」
時代錯誤の黒いマントを羽織って、マントと同じ色の大きな鞄と居たのはドクターカオスであった。
「お久しぶりです。横島サン」
カオスの背後で、感情の乏しい表情のマリアが小さく会釈した。
「私が呼びました。最近開発中の“電脳見鬼くん”試作型のテストがしたいということでしたので、ついでにと思いまして」
「へぇ〜〜〜」
あんまり興味をなさそうにつぶやく、
「まぁ、そういうわけなので、横島君もがんばってくださいね」
「はいっ、がんばります―――えっ、何を?」
いやな予感を感じて、横島首が壊れたロボットのように、錆びた音をたてながらカオスに向けられる。
「いぁ〜〜、わしの試作機の実験に付き合えるとはお主運がいいぞ、歴史的瞬間に立ち会えるようなモンじゃ。いろいろと仕込んできたから、後でバッチり頼むぞ」
「いっ、いやじゃぁああああああああああああああああああああああああああ」
来るべき未来を想像して、横島の叫び声が青空に響き渡った。
今日は快晴。
絶好の旅行日和だった。



 依頼先に着いた一行だったが、調査の為に早速新型の見鬼君を使用して、横島とカオスが大爆発に巻き込まれた。
 冥子と日向は、テレサとマリアが身を挺してかばった。
 そのために、二人が復活するまで調査は一時断念ということで、指定された旅館に向かうことにしたのだった。
 「……ちょっと冥子さん。俺達を忘れてますよ」
 「まっ、マリア…・・・」



「ううう。死ぬかと思った。なぜにあんな装置で爆発が、絶対にこれからはあいつらの実験なんかに付き合うもんかッ」
全身ボロボロ、疲労困憊の姿で何とか旅館に戻ってきた横島だったが、当初の目的を達成するために内ポケットにしまっていた虎の子の文珠を取り出した。
「ふっ、ふっ、ふっ、旅館といえば、温泉。卓球。女将さん。それについで、絶対に欠かせないのが、これだ」
今までの疲労がうそのように見る見るうちに回復して、握り締めた文珠の中には『覗』という文字が浮き出てきた。
「普段ガードの固い日向さんも、こんな日くらいは解放的になり、ついつい油断が重なり、その神秘のベールの隠された秘境を俺の前にさらすときが来たのだッ!! ついについに」
ぽんぽん。興奮する横島の肩を軽くたたかれる。
「そしてあの、」
ぽんぽんぽん。今度は三回。
「さっきからなんだってんだ。俺はいまから――ッ!!」
振り返ろうとした矢先に掛けられた声に、血の気が引いていく。
「何をしているのかなぁ」
背中に伝わるすさまじい殺気に身体は一斉に硬直する。振り向きたくない、それでも振り向かなければと思い、嫌がる首を無理やり180度回転させてみると。
「……て、テレサ―――――ッ」
修羅が居た。
手元からこぼれた文珠を拾い上げ、テレサはそこに浮き出た文字をまじまじと見詰めて、
「横島、これはなにかなぁ」
『覗』と一文字かかれた文珠を眼前に突きつけられた。
今にも砕け散りそうなほど、文珠は痛い悲鳴を揚げでいる。
「テレサってやっぱりすごい握力だねぇ……」と現実逃避をしてみるが、それはテレサの怒りを増徴させるだけであった。
「いやっ、これはですね、もし万が一のことがあったらと思いまして、かげながら所長たちの無事をお守りしようと」
そこまでいったところで、テレサの顔から全ての感情が消え去った。
視線を文珠に移すと、突きつけられていた文珠の文字が強制的に書き換えられていく。
『覗』の文字は上書きされて、『生』の文字に書き換えられた。
「横島……」
突きつけられた文珠は人差し指と親指で挟み込む、鉄砲よりも恐ろしい、テレサも指弾が横島の顔面に向けられ、
「いっぺん………、」
これ以上ココに居ることは、冗談抜きで命にかかわると判断した横島の判断は早かった。即座に身体を反転するとテレサの脇を抜けて一目散に、ゴキブリのごとくその場を後にした。
だが、そんなことでテレサを射程から逃れきることは不可能だった。
「生まれ変わって出なおしてこいッ!!!!」
音速を超えて発射された文珠は、横島の後頭部を直撃するコースで飛来する。
 「しっ、マジでそれは死ぬって〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」
 対する横島は野性のカンや、己の中の潜在能力やら、蛍の化身やらのありとあらゆる力を使って全力で回避にかかる。
死んだか? 一瞬走馬灯が脳内によぎった直後、文珠は横島のバンダナをわずかにかすりながら、遠くかなたへととびだっていった。
「マジで死ぬとこやったじゃない、か……ッ」
生死の境を潜り抜け、再びテレサに向き直るが、横島はさっさとこの場を逃げ出せばよかったと大いに後悔していた。
「銃器の安全装置を解除。システムの再起動まで0.5秒……モード『バーサーカー』」
カチリ。軽い音がして、テレサに内臓されていた全ての銃器の安全装置が一斉に解除された。
体中からフル稼働した冷却装置の煙が立ち昇り、普段体中に仕込まれている銃器の全貌が白昼の元にさらされた。
「い―――――――ッ」
「往生してこいやぁ~〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」
「いややぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
 爆炎、硝煙をまきちらした死をかけた鬼ごっこは、この日の日付が変るまで行われたという。
 
 
 
 
 『い……きた…、いきた、、、いきたい、いきたい、行きたい? 逝きたい、往きたい? 活きたい、イキタイ? 生きたい。生まれる? 生き返る、蛙? 返る、変える、換わる、代える、替る、代わる、変る………生まれ、変わる』
 ちりばめられた破片。
 すでに死に絶えた肉体。そぎ落ちる、記憶と、霊力、それが急速にまとまりつつあった。
 周囲に散漫する強大な霊力の塊、それだけでは、けっして生まれることはなかっただろう。
 最後のカギとなるのは、圧倒的に生を後押しするその霊結晶の存在。
 周囲に敷き詰められた、霧散していくはずの霊力が一点にかき集められている。
 この地に集まった、巨大な霊力を持ったものたちの力が、冥子、カオス、横島、日向、八兵衛、放っておけば、数日で消えてしまう霊力の残滓は、一つの場所に集まっていく。
 これは彼女にとって必要なこと、生まれるために必要な霊力の吸収、十分に満たされた大量の霊力の中で、その力は生き返るベクトルへと変換されて、急速に力を与えていた。
 『もうすぐ、もうすぐ、もうすぐ。集まる、集まる、集まる。私の身体、私の両手、私の手足、私の髪の毛、私の心臓、私の唇、私の瞳、私の鼻、私の名前……』
 「タマモ」
 自身の名前を思い出したとき、少女この世界に再び命を授かった。
 


 この事態、最初に異常を感じ取ったのはカオスだった。
 昼間に試験を行った見鬼君の調整をしていたとき、異常な霊圧を感知したからだった。
 最初は、また失敗か? と考えたが、霊力を研ぎ澄ませてみると確かに、見鬼君が反応する方角から、これまで感じなかった霊圧が存在していた。
 徐々に霊力を増していくその存在に、寝静まっていた鳥たちが、急にざわめきだす。
 すでに何人かは行動を開始していた。
 「ドクターカオス、これは一体?」
 「わからん。じゃが、急速に霊力が増大しとる、こりゃひょっとすると、ひょっとするかもしれんぞ」
 「今朝の段階では、このようなもの発見できませんでしたのに」
 こうしている間にも、霊力は着々と増大している。さすがに、この段階まで来ると、横島や冥子も気づいたようで、浴衣姿のままだが起きだしてきた。
 「この霊圧って一体なんなの……?」
 「分かりません。ですが、すぐに戦闘準備をして出発します」
 横島と冥子に急いで着替えるように言いつけると、カオスともども自分たちも準備を始めた。
 「テレサとマリアの装備は?」
 「補充と調整は終了しとる。だが、予備分はすでに尽きたから、撃ち尽くしたらそれで終了じゃ」
 「いいでしょう。もしかしたら、私も久しぶりに前線に立たなければならないかもしれませんねえ」
 ほほを伝う汗、久しく忘れていた緊張感が駆け巡る。
 「それでは行きましょうか」
 戻ってきた二人と合流し、霊圧が収束しつつある一転を目指す。
 テレサと八兵衛、そしてサンチラが先行する形で、走る。
 「この異常な霊圧は一体?」
 「さあてね、まさか本物の殺生石があったんじゃないだろうねぇ」
 「マリア、本当に九尾の復活が見られるとしたら、貴重なデータじゃ情報収集を怠るな」
 「YES。ドクターカオス」
 「て、いうか。本当に九尾なんているんですか? この前の話じゃ、このあたりに殺生石はないって」
 「殺生石といっても、ある程度の霊力が蓄えられるまではその辺の石ころと変わりありません。何らかのきっかけがあったと見るべきでしょう」
 森の中の一角、今朝見たときにはなんの変哲もない、地面に転がるだけの石だったが、それは青白く光り輝いていた。
 「わぁ。きれい」
 神秘的な光を放つ石に、思わず見とれる冥子。その横で日向が指示を飛ばす。
 「もう押さえ込める段階は過ぎましたね。横島君、文珠の結界を発動してください。それと蝉丸さん」
 日向の問いに、久々に横島の影から赤銅の鎧武者が飛び出してきた。
 「感謝しますッ。よもや、すでに拙者の存在が忘れられていたのかと。思えばここ数話、遊園地には連れて行ってもらえず、ポジションの被りそうな偉駄天にセリフをとられるはで、まともな活躍がありませんでしたからな。骨身に惜しまずがんばりますぞッ」
 「霊剣の状態で横島君のフォローをしてください。後、余計なセリフはいりませんので」
 「久々に会話が出来たと思えば……」
 涙ながらに霊剣の状態になり、横島がそれを握り締める。
 そのとき、青白く輝く石の横で小さな何かが光って弾ける。その光に呼応するように、殺生石が、周囲を覆う光を放った。
 「「「「「「「なっ」」」」」」」
強烈な光に視力を奪われる。ただ、ほとんどの霊力は石に吸収されたようで、衝撃を含んだエネルギーは皆無だった。
「いったい何が……「かわいいっ」」
視力が戻った日向のセリフを割って、冥子がなにやら奇声を上げる。
光の中心にいたものは、狐のようなぬいぐるみ、ではなく。ぬいぐるみのような狐が、目を細めながら、こちらをのぞいていた。
「きつねさんっ」
「ちょっ、いきなり近づいたら危ないんじゃッ」
何のためらいもなく、近づいていこうとする冥子を横島がとめようとするが、冥子はとまらない。
狐は、冥子に気が付いたようで、その方向をぼんやりと眺めながら、なにやら口を動かしていた。
冥子の両腕が狐に触れるかどうかというときになり、狐は、
「きゅぅうう〜〜〜〜〜」
「………あっ、欠伸―――――」
「かわいすぎるの〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
瞬間に、狐は冥子の腕の中に納まっていた。
あまりのあっけなさに、全員の力が抜ける。
胸の中で、もごもごと動き続ける九尾をみなつめながら、誰もが思っていた言葉を横島がもらす。
「なんか、ぜんぜん脅威にかんじないんですけど」
「確かに九尾による文献には、時の権力者に近づき国を乱したとありますが、利口な妖狐が安全を求めて、権力者に愛されようとしただけという見解もあります。政治の混乱の火種はどの事例でも、妖狐の出現以前からくすぶってますし……」
マリアとテレサも銃器の安全装置のレベルを落とさずに、その様子を観察する。
「あっ。きつねさんッ」
散々もみくちゃにされていた九尾は、やっとの思いで冥子の腕の中から抜け出すと、その場で一回転してみせた。
「苦しいって、言ってるでしょッ!!!」
「ばっ、化けたの〜〜」
中学生くらいの体系に代わった九尾をまじまじ見つめながら、横島が口にした言葉は、
「……でも化けるならもうちょい、年上のボインの姉ちゃんになってくれれば」
「「「横島君何か言った」言いましたか?」の」
「いっ、いえ別に何も」
その場の女性全員のひんしゅくをかった横島だった。
「あんたたち一体なに?」
周囲を取り囲むように集まった人間の霊力の高さを感じ、なるべく警戒を悟られないように九尾が質問する。
「わたしたちは、狐さんを探しにきたの」
なんの毒気もなく、再び九尾に抱きつこうとする冥子の腕を交わして、話の通じそうな日向とカオスに向かってもう一度質問する。
「私の名前はタマモ。あんたたちも尋常じゃないほどの霊力を持っているみたいだけど、私を殺しに来たの」
「殺すといいますか、探しにといいますか。正確には見つけてしまったというべきでしょうか。実際に見つかるとは思っていませんでしたから。しかしながら、見つけてしまった以上何らかのかの処置をしなければならないでしょう」
処置という単語に、タマモは過剰に反応してあらためて冥子から距離をとる。前世の自分は人間に殺された。僅かに残った記憶が警告を放つが、これだけの除霊屋に囲まれて、逃げ切れる自身はなかった。せめて、もう少しだけでも前世に近い妖力が残っていれば話は別だろう。
「まあ、そんなに緊張しないでください。とりあえず六道家に連絡して、支持を仰ぎますので。たぶん保護という形で、しばらくは監視することになると思いますがご容赦ください」
 日向は、自分の言葉に対するタマモの反応を注意深く観察し、あからさまな反抗心がないことを感じ取ると、本家へ連絡を取るために一人列を離れた。
「六道……。どっかで聞いた名ね」
「六道家もかなり古い名家だから、タマモちゃんの前世の時代にもあったと思う。でも、私の家に九尾がかかわったって話は聞いたことがないわねぇ」
「六道家は女系家族じゃから、九尾が取り入るには、ちと面倒じゃったんじゃろうな。そのころの時代なら、鬼道家という式神使いの家系もあったみたいじゃが、そっちの家系は聞いたことがなかの?」
カオスが興味心身で九尾に近づいてくる。
「きどう? それもあんまり覚えてないわね。九尾が生まれ変われるといっても前世の記憶なんてほとんど残ってないわ、日常に必要な知識以外は、夢の記憶のようだわ」
「へぇ〜〜。ところでお前人間になっているとき尻尾ってどうなってるんだ。その頭のやつがそうなのか?」
なぜか質問攻めに合うタマモは、改めに目の前にいる男に問いかけた。
「それよりも、私は名乗ったのだから、あなたたちも名乗りなさいよ。あんたは、いったい誰?」
「俺は横島忠夫。この冥子さんのところでGSの助手をやっている。あっちで電話してるのは日向さんだ」
「六道冥子で〜〜す。冥子ってよんでね」
「わしはヨーロッパの魔王ドクターカオスじゃ。この二人は、わしが作った人造人間のマリアとテレサじゃ」
軽く会釈するマリアと、「よろしく」と一言答えるテレサ。
「横島殿、拙者を忘れておりませんか」
霊剣の姿から戻った蝉丸に横島が、
「ついでに、幽霊の蝉丸だ」
付け足すように紹介する。
「ふ〜〜〜ん。その二人って結構変わってそうね。でも、それより不思議なのはあなた。ただの妖じゃないでしょ」
横島の隣に立っている偉駄天を指差して言う。
「偉駄天の八兵衛。訳合って、今は、の人間達のところで厄介になっている。しかしまさか、こんなところで九尾の誕生に居合わせることになろうとは」
「なんだよ、まさか神様は妖怪を見つけたらすぐに消滅させろとかいうんじゃないだろうな」
 「えっ! そうなの八兵衛さん」
 確認の意味で聞いた横島の言葉に、冥子が慌てて八兵衛に詰め寄る。
 「いや、神界にそのような決まりはない。悪をなすものがいれば、個人の采配である程度の対応は認められているが、それ以外はあまりかかわりあいにならないことが暗黙のルールとなっている」
 八兵衛がそう答えたところで、日向がこちらへと戻ってきた。
 「話がまとまりました。ひとまず敵対することはなさそうなので、私のほうで適切に対処するようにとのことです」
 「お母様らしいわね」
 「ひとまず、村長に説明した後、うちの事務所で保護観察とう形になると思います。タマモさん、よろしいですね」
 「私に拒否権はないんでしょ。(まぁ、手荒にされないならしばらくはそれでもいいわ)」
 タマモは特に反論のないことを示し、おとなしく彼らについていくことに結論付けた。
それは、もし彼女らがこの時代の権力者ならば、その庇護の中にあったほうが安全であるかもしれないと考えたからだ。



 一夜明けて次の朝。
 狐の好物イコール油揚げという単純な思考の冥子によって用意された油揚げ尽くしの朝ごはん(タマモ専用)を平らげた後、依頼主の村長に会いに来た。
 「こっ、この娘がタマモ様?」
 明らかに信じきれていない尊重の目の前で、狐に化ける姿を見せてやり、信用したらしい村長は、涙ながらに喜んでいた。
 「まさか、本当に、この村に殺生石があったとは、あんまり期待してなかったんが、これで村も救われる。これを前面に押し出して、この村をタマモ村として、一躍観光名所に押し上げるのだ〜〜〜〜っ!!!」
 まさか、村をあげて歓迎されると思っていなかったタマモは、若干引いていたが、村人のもてなしにまんざらでもない雰囲気で、夕方には村中から油揚げが届けられていた。
 結果としてタマモは、しばらくは村の守り神的なポジションで滞在することになり。テレサが監視役に残ることになった。



 全てが順調に解決していく中で、夕日に向かって一人叫ぶ偉駄天の思いを知るものは誰一人居なかった。
 そして同時刻。もう一人の偉駄天が新たな技を取得したことを知る者もまた、誰も居なかった。


 「これで俺が最速だ。待って居ろ……、八兵衛」
 
 
  


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