『ただ会いたくて、会いたくて、会いたくて……そのつもりで……僕は』
『不二子は、別に会いたいなんていったことないわ』
不二子さんって相変わらず天邪鬼だね。と笑う声が聞こえてくる。
ただ会いたくて、会いたくて、会いたくて、ただそれだけでずっとずっとずっとパンドラを捜していた。
そして出会えたら言おうと思っていた。
でもいえなかった一言。
会いたかった、ただ会いたかっただけと。
押し殺した感情が、解放されることがなかった。
愛してる。ただそれだけだったのに。
「……不二子は、バベルのみんなが大事だわ」
「……管理官……」
「でも不二子は、エスパーのみんなの存在も大事だわ。それがパンドラの組織という中にいる子であっても」
会いたくて、会いたくて、ただ会いたくて。
それだけでパンドラという組織を捜していたなんて言えない。
大好き。愛してる、ねえお願いだから抱きしめて。
言うことができなかった言葉は、心の中のパンドラの箱の中に存在する。
「皆本クン、あのね、過去はやりなおしはきかないの」
「管理官、それは……」
「でも未来はかえられる」
だからね、お願い、あの子達を導いてあげて。と私は囁く。
囁く声に耳を向けたら、多分私は私でなくなる。
お願いだから呼ばないで京介。心が揺れるから。
『兵部、不二子たちそちらにいくわ』
『兵部か……』
『不二子たちは敵同士よ、でもわかりあえると思うの。貴方だってパンドラの子たちが皆本クンを大好きなの知ってるでしょ? わかりあえるわ』
どうしてもどうしてもすれ違う心。
愛してる。という言葉はどこか遠い闇の彼方。
京介が笑う声が聞こえる。わかったよ。と頷く気配。
「行きましょ、不二子が連れて行ってあげる」
皆本クンに私は手を伸ばす。彼が頷くと、京介の気配を私は感じ取るべく目を瞑った。集中するために。
皆本クンの手を私は握り締める。それはとても温かかった。あの日の京介のように。