「不二子はね、昔……」
「はい?」
「兵部とここでよくお茶をしたの」
私達は向かい合ってそしてよく笑いあった。
あの時の屈託がない京介の微笑みは今でも鮮明に思い出せるの。
「お二人は義理の姉弟だったと……」
「……そうよ」
皆本クン、不二子はね昔ずっと兵部と一緒だったの。
だからね、ずっとずっとパンドラにいる子たちより彼のことはわかっているつもりなの。
だからねわかりあえると思うの。きっと、と私が言うと、そうですね。と皆本クンが頷く。
とても彼は優しい。
そう六十年以上もわかりあえない不二子たちのことを、わかりあえるといってくれる。
だから賭けてみたい。彼に。
『不二子さん』
声が聞こえてくる声が。
『どうして皆本クンが一緒なんだい?』
私が連れてきたから、と聞こえてきたテレパシーにテレパシーで私は返す。
声が聞こえるたびに切なくなる。
いつもいつもいつも、そういつも。
「……管理官?」
「……不二子はね、昔……」
「はい?」
「京介と寝たことがあるの」
「ね……寝たことって」
「まあ文字通りってことかな」
私たちは愛し合っていた。だから何度か肌を重ねた。
私たちはあの時わかりあえていた。
心と体、全てで。
今も思い出すのはあの時の優しい声。
愛してるという呼びかけ。
声をにごらせ、困ったように眉ねをよせる皆本クンをクスと笑いながら私は見た。
声が聞こえてくる。私はその声にこたえる。
『彼が一緒じゃまずいの?』
『二人きりで会いたかったのに』
『……そんな約束した覚え、不二子ないわ』
相変わらずだなあ。と苦笑する声が聞こえてくる。
私は皆本クンに伝える。兵部が近くに現れたと。
皆本クンは緊張をみなぎらせる。大丈夫よ。と私は柔らかく微笑みかけた。