「帰りなさい」
「僕はでも!」
「……今日は私は……見逃してあげるわ」
私はいつもいつも拒絶してしまう。
でももう一人の私は違う。
京介の腕の中に飛び込みたい。
京介が泣きそうな顔をするたびに慰めたくなる。
私は今でも貴方のことを……。
「不二子さんはいつでも僕に会うたびに泣きそうな顔をする」
そんな顔は見たくないのに、と京介が言う。貴方こそ泣きそうな顔をしてるわ。と私は思う。
私達はただ見つめあう。
こんな顔は見たくないの。
笑っていてお願いだから。
私はもう一人の私を必死で押さえこむ。
私は私、バベルの一員。
パンドラの首領とは戦いあう運命にある。
「私は信じてる、バベルの人たちを」
「絶対に女王たちはこちら側にくる」
「行かないわ、行かせない」
お願いお願いお願い、泣きそうな顔をしないでよ。
私はもう一人の私を押さえ込む。そして強い瞳で京介をにらみつけた。
「早く行きなさいよ。人を呼ぶわよ?」
「……もうすぐあの日だね」
「京介……」
「待ってる」
待ってる。とだけ言葉を残し、京介は姿を消す。
ちっと私は舌打ちする。テレポートの力まであるなんでほんと京介を捕まえるのは困難だ。と思う。
でも心が揺らぐ。まっすぐな眼差しを見るたびに京介の。
寂しげに笑うその残像が心に焼きつく。
泣かせたいわけじゃないの。
笑っていてお願いだから、笑っていて。
心の中でもう一人の私が囁く。
お願いだから京介、笑っていてと。
私は深いため息をついた。そしてもう一度寝台に身を横たえる。
そして目を瞑った。
残酷な夢をもう一度見る為に。