揺らぐ揺らぐ心。
でも私は己をいさめる為に、京介を強い瞳でにらみつけた。
「呼ばないで」
「不二子さん」
僕たちはわかりあえるはずだ。だからお願いだから……。
私は絶対にパンドラには行かない。と強い決意を私は京介へと返した。
懐かしい昔、私達は一つだった。
私は京介が世界で一番で。
京介も私が世界で一番だった。
でもそれは遠い記憶の残滓で。
今は私達は敵同士。
でも揺らぐのだ。どうしても揺らぐのだ。
あの残酷な遠い昔の夢を見るたびに。
「今日、夢の中で昔の僕たちがでてきた」
「そう」
「不二子さんが僕に無理やり自分の白いワンピースを着せて……」
「そう」
「僕が泣き出したら面白そうに笑ってそれを見てるんだ」
「そう」
私はただうなずく。
遠い昔に捨てたはずの感情が戻ってきてしまう。
「不二子さん、僕たちは……」
「私はバベルの人々を信じてる」
「坊やでは無理だ」
「私は大丈夫だと信じてる、彼らのことも、あの子たちのことも」
私は信じてるバベルの人々を。
「どうして京介、殺したの? 昔バベルの……」
「あいつらは裏切り者だ。不二子さんをただバベルという組織のために利用しようとしていただけだから」
でも殺すことはなかったじゃないの。と私は京介に怒鳴りつけた。
どうしてもどうしてもわかりあえない。
京介はそうするしかなかった。と繰り返す。
私達はわかりあえない。
でも聞こえる。呼ぶ声が。
そのたびに私は揺らぐのだ。
「不二子さん」
どうしてもどうしてもどうしてもどうしても……呼ぶ声が聞こえるたびに揺らぐ。
私は己を律する為に黙り込んだ。