椎名作品二次創作小説投稿広場


息子よ

4 完結編


投稿者名:NOZA
投稿日時:09/ 1/30

横島は謎の豪腕無免許医を心から呪った。完璧な仕事をしすぎだ!!
『縛』のせいでなすがままである。

「わーーー!とにかく離れろ!まだ話は終わってなーーーい!!」
横島が叫ぶととりあえず『彼女』は横島から離れる。

美しい夕映えの世界の中で『彼女』は寂しそうな瞳でジッと横島を見つめる。
うぅ・・・・横島は何も言えなくなりそうだがここで流されてはいけない。
頑張れ俺。超頑張れ。

「わかった・・・・お前が蛍太でルシオラの魂と記憶を持っていた今までの経緯は信じよう。認めよう。俺にとっては蛍太でもルシオラでも幸せになって欲しいから・・・・」
パッと『彼女』の顔が華やぐ。
「女性になったこともいたしかたない・・・・相談ぐらいして欲しかったが・・・・魂が女性のルシオラなら、それも仕方の無いことだったと思う・・・世の中、性同一性障害と言う不幸な事例もあることだし・・うう・・・・息子に言う言葉ではないのだが・・・蛍太、お前は若い。世の中に良い男は沢山いる。どうか幸せを掴み取って欲しい・・・」

「だから蛍太は最初からいないんだってば・・・・もー現実を受け入れて『ルシオラ』って呼んでよ、ヨコシマ・・・・・文珠で強制的に呼ばせちゃうわよ?」

文珠そんなことに使うな!!

「あとヨコシマ以外の男はカマドウマかフンコロガシだから」

・・・・・・嬉しいのか悲しいのか。せめて哺乳類ぐらいの扱いをするべきだと思う。

「ああ・・・・ルシオラ、お前が蛍太だったなら、わかるだろう。様々な問題があることを」

「歳の差とか?ヨコシマも意外と古風なのね。絶チルの皆本さんも言ってるじゃない、『愛に歳の差なんて関係ない』って」
「言っとらんわ!いずれ言い出すかもしれんが、09年1月時点では言ってない!!」

「あ・・・・私が元オトコノコだからね!それなら大丈夫よヨコシマ、新居はオランダ、アムステルダムよ!」
「・・・・なぜにオランダ?」
「結婚できるからに決まってるじゃない!自由主義万歳!!」
「ちっがーーう!!それ以外にも問題山積みだ!!」

「あ・・・・・やっぱり私達が・・・親子だから?」
「すまないルシオラ・・・・君の魂を救うには、この方法しかなかった・・・・・」
「戸籍なんて私にしてみたら安いものよ?」
「犯罪発言すんな!!」
「神話とかエジプトやローマの歴史なんかじゃわりとポピュラーだからそんな気にすること無いのに」
「気にするわ!!!」
「近年エロゲーでも解禁されたとかは?」
「関係あるか!!」

横島は肩でハァハァと息をついた・・・・つ・・・疲れる・・・・
ルシオラは美しい夕映えの世界の中で、横島の瞳を悲しそうにジッと見つめる。
横島の心は折れそうになるがここで負けてはいけない。彼女の幸せな未来のためにも。なんとか踏ん張れ。

「ルシオラ・・・・俺は君の魂を救いたかったんだ。君も最後に言っていたじゃないか。『今回は千年も待ってたひとにゆずってあげる』って・・・・」

「・・・・そんなふうに考えていた時期が私にもありました」

どこのグラップラーだよ。

「でもねでもね、生きて動いてる生ヨコシマ見たらそんな考え消し飛ぶわよ!!綺麗サッパリ!!!それにそんなことのたまってたのは私の幽霊みたいな存在じゃない!!そんな発言は無効無効!ついでに時効よ時効!!!」

いまさらだけどなんか転生前のルシオラと性格がだいぶ変わってる気がする・・・・・

「んーーー・・・・・どうしても横島とあの女の魂の影響も受けちゃうし、蛍太としての人生もあったし世の中もだいぶ変わっちゃったし・・・・・それにまさかここまでうまいこと転生がうまくいくとは思わなかったし。嬉しさのあまり私を狂わせたのだとした、それはヨコシマの責任よ。責任とってね♪」

うぅ・・・・・なんか何言っても無駄なような気がしてきた・・・・

「本当にすまない、ルシオラ・・・・・君も当然わかっていると思うが俺にはすでに妻と子が・・・って子供はお前なんだけど・・・・・愛する令子がいる・・・・・」

ルシオラは美しい夕映えの世界の中で横島の瞳を悲しそうに、胸に手を当てながら見つめる・・・・
うぅ・・・・・マジで罪悪感いっぱいだ・・・・・

「説得します」
「いや、説得とかそういう事では無いから・・・・」
「日本では2分ごとに1組離婚しているわ」
「離婚うんぬんじゃ無いから・・・・」
「方法なんていっくらでもあるわ」

そう囁く彼女の背後に無数の文珠が出現した・・・・・・えーと・・・・300個ぐらい?
「これだけの文珠を使えば宇宙意思と折り合いをつけながら世界の一部を改変できると思うの・・・私が文芸部室で一人きりで本を読んでいると、突然ヨコシマが部室に乗り込んで来る、なんて設定はどうかしら?」

「その世界の改変はイロイロとマズイんだ!!わかったから文珠なんてしまえ!!」

300個程度の文珠がサッとどこかへ消える。俺はこんなのと戦ってたのか。
初撃をまともに喰らわせたってかすり傷一つ付かなかったろう。
まいった・・・・世界の改変まで持ち出す奴にどうやって説得するんだよ〜〜〜

ルシオラは美しい夕映えの世界の中で横島の瞳を悲しそうに、涙を溜めた目で見つめる・・・・
うぅ・・・・・もうダメだ負けそう・・・心が折れる・・・・って

あぁ!!やられた!!!この場所にはやっぱり罠が仕掛けられていたんだ!!!
蛍太は俺が夕日を見て感傷に浸っていたところを見ていた!ニコニコと嬉しそうに!!

俺がルシオラに何も言えなくなるこの『夕映えの世界』!!霊的な罠じゃない!心理的な罠か!!
ズルイ!!卑怯な!!!

ルシオラがニヤッと笑ったように見えた。

「『女』は魔物なのよヨコシマ・・・・私は元々魔物だけど♪」

誰がうまいこと言えと!!あとオマエ元男だろ!!!

えいっ♪とばかりに彼女は横島を押し倒した。
『縛』の文珠は絶賛効果継続中である。逃がすつもりはこれっぽっちも無いらしい。

端から見れば美少女に押し倒される30代男と言う、実に羨ましい構図であるが横島の心中はいかばかりであろうか。

「困ってるに決まってるだろぉぉぉぉぉ!!!!」

ですよねー

「しかたないわよヨコシマ。子供は親の思いどおりには育たないものよ」

育たな過ぎなんだよ!

「『愛』の前にはどんな障害も無意味なの」

障害を乗り越え過ぎなんだよ!ブルドーザーみたいに障害を破壊しやがって!!

彼女は本当にやさしく、そっと横島の頬を撫でた。幸せそうに。

「でも、私はどうしてもヨコシマに謝らないといけない事があるの・・・・私は『記憶』を守るためと元の体を取り戻すために、ずっと『蛍太』としてあなたを騙してきたの・・・『蛍太』と言う息子は最初から存在しなかった・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・
「でもね、ヨコシマ、私はこの肉体に転生するときに、ハッキリと見たの。あなたとあなたの子供に関する無限の未来と可能性・・・・それは魂が再構築される際に選ばれる無限の未来の選択肢だった」
・・・・・・・・・・・・・
「無限の未来があったわ。ヨコシマの結婚相手もあの女以外にも様々な選択肢があり、それぞれに様々なあなたの子供が生まれる未来があったの。男の子女の子、霊能力を持つ子まったく持たない子、元気な子病気な子、勉強ができる子できない子、活発な子おとなしい子、エトセトラ・・・・そして私の魂持つ子、持たない子・・・
・・・・それこそ無限の組み合わせ、無限の未来」
・・・・・・・・・・・・・
「その中には当然私の記憶と魂を持たない『蛍太』が生まれた世界も必ずあるの。残念だけど、私が消えてしまった未来・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・
「未来の可能性は無限大。でもね、まったく存在しなかった未来もあったの。絶対に選ばれなかった未来の選択肢。絶対にありえない未来。それは『子供を愛さない横島』がいる未来・・・・」
・・・・・・・・・・・・・
「どの世界の子供たちもあなたのことが大好きよ・・・子供は自分を愛してくれる親が大好きだもの・・・・
だからどこかの世界にいる『蛍太』もあなたのことが大好きで・・・『幸せ』なのよ・・・・」
・・・・・・・・・・・・・

「こんな冗談みたいな今の状況すら、『可能性』の中にちゃんと存在していたのに・・・・・『子供を愛さない横島』は無限の未来の中で1人たりともいないの・・・・やっぱりあなたは凄い人・・・最高の『お父さん』よ・・・」

それは絶対、ルシオラのおかげだ・・・・俺は馬鹿だから、君の事を思い出さないと頑張れない・・・・

「ヨコシマはいつも蛍太の『幸せ』は何かと考えていた・・・私はルシオラだから、ルシオラの『幸せ』しか教えられないの・・・・・・私の『幸せ』はヨコシマ。あなたそのもの。『幸せ』だけじゃない。未来も、希望も、この命も、すべてあなたに向かっている・・・・・あなたがいれば、この力も、世界すらいらない
・・・・・」

夕映えの空の下、彼女の泣き出しそうな笑顔が彼を見下ろす。

・・・・・ああ、君はいつだって、嬉しくなることを言ってくれる・・・・

しかしいったい今後どうしたらいいのだろう。とりあえず令子にどう説明したらいいのだろう?
説明なんて可能なんだろうか?人間関係は神話レベルにややこしくなっている。
やっぱりしばかれるのは俺なんだろうなぁ・・・・・この歳になってもしばかれちゃうのかなぁ・・・・

彼女はそんな横島の考えを見透かしたのかニコリと笑う。

「あの女のことは私に任せて。ウフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ」

ヤンデレ?ヤンデレキャラなの!?いい話台無し?!

いいかげん横島は神を呪ってもいいような気がしてきた。とりあえず身近な神様の小竜姫をイメージしてみる。
彼のイメージの中の小竜姫は「むやみと神のせいにしてはいけませんよ?」とニッコリと微笑んでいる。
・・・・・・神を呪うのは止めておこう。絶対に神剣でしばかれる。

「あああ・・・・・ダンディなヨコシマってステキ・・・超カワイイ・・・・わたしはぁ、わたしはもぉ!!辛抱たまらないわぁぁぁ!!!!!!」


俺に似てるとこってそれ?!そんなところが俺に似てるの?!


彼女は宇宙の変換などにまったく興味は無い。
自己の存在意義にこれっぽっちの疑問も持っていない。
彼女の津波のような強力なベクトルは全て横島に向いている。
横島に何ができると言うのだろう?

宇宙は自己に危険が及ばない限りいつだってしらんぷり。
宇宙意思は横島の大ピンチなんて軽やかにスルー。
むしろ積極的に2人を祝福するだろう。
おかしなベクトルが自分に向いたらたまったものではないから。
悲しい現実だが世界は何かの犠牲の上に成り立っている。
その犠牲が横島だけで済むならば喜ばしいことだ。


「既成事実♪えいっ♪♪♪」

一万年と二千年前から愛してるかのごとく、『彼女』は横島の唇を熱く、情熱的に奪った。

なんと表現してよいかわからない絶叫が美しい夕映えの空を切り裂いていく・・・


《ん?・・・・・・》

日本GS協会会長の座を退いた唐巣は、再び一介のGSとして懐かしいこの教会に戻ってきていた。
夕刻、新しい家庭菜園に水を撒いていたのだが、ふと、遠い空の彼方から悲痛な叫び声が聞こえた気がして水撒きの手を休め空を見上げる。

空は本当に美しい夕映え。しかし唐巣は少し悲しそうに顔を曇らせる。

こんな美しい空の下でも、どこかで悲劇は起こっているのだろうか。
世界から悲劇が無くなるその日まで、私達GSは戦い続けるのだろう。


唐巣神父は真鍮製のジョウロをそっとに地面に置くと、胸の前で十字を切り、美しい夕映えの空に静かに祈りを捧げた。


     主よ。どうか迷える子羊達に憐れみを。アーメン・・・・


       
              【息子よ/終】


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