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息子よ

2 帰郷編


投稿者名:NOZA
投稿日時:09/ 1/28

ヨコシマ・・・・

ルシオラの幻影は横島に抱き付き、キスをする。
柔らかい、温かい唇の感触。あの東京タワーでキスをした感触が蘇る。
ルシオラは泣きながら、情熱的なキスをする。まったく横島の体を離さず、強く抱きしめる。
温かいルシオラの体温が伝わってくる・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・体温?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・唇の感触?

突然横島は抱きついていたルシオラを跳ね飛ばし、5メートル近く飛び退き、距離を取る。
跳ね飛ばされたルシオラの幻影は突然何が起こったかわからないようで、呆然としている。

幻影なんかじゃ無い!!!

「何者だ!!!貴様ァァァ!!!」
横島はとっさに右手に5個、左手に2個の文珠を取り出し、構える。

コイツは何だ?サキュバスか?織姫のような変身能力か?それともタイガーのような精神攻撃か?
なんでもいい、許せる存在じゃない!

その敵は横島にとって心の触れてはならない部分に踏み込んでしまったのだ。
ルシオラの姿をした敵は慌てたように横島に呼びかけた。

「私は『ルシオラ』・・・・・」

これがマズかった。
横島は完全にキレた。

「貴様ァァァァァ!!!」

横島は右手の5個の文珠を同時に敵を囲い込むように円形に投げつける!!!

敵を囲んだと同時に結界状に内側に向けて5個同時に炸裂し、結界内の敵を殲滅する、それなりの効果範囲があり攻撃力の高い、初撃に向いた技だ。現在の横島が得意とする技の一つ。並の敵ならそれで終わりか、ガードしても大きなダメージを喰らってしまう。

しかし、

ルシオラの姿をした敵は慌てたように右手を振ると、5個の文珠は炸裂する前に消滅した。

消された!?

敵がどんな技を使ったのか、横島にはまったく見えなかった。

マズイ!!

今の一撃でハッキリした。敵は強敵だ。間違いなく横島より強い。並の奴にあんな芸当は出来ない。
横島は左手の文珠を投げつけようと手を振り上げた。
左手の文珠は予備の文珠。トドメを刺すときにも使うし、万が一の場合・・・・つまりこの瞬間のような場合、閃光の文珠として使用しその隙に逃げるために使う。

自分より強い、正体不明の敵に対して正面から戦うなんて愚の骨頂だ。命がいくつあっても足りない。
横島の判断は正しい。しかし・・・・・

横島の左手はピタリとその動きを止めた。
左手だけじゃない。首から下がまったく動かない!!!

な・・・・?!

横島はそこで初めて気が付いた。敵の技に。なぜなら彼の目前によく彼が見慣れた丸いものが浮かんでいる。

『縛』と浮かび上がった輝く珠。

文珠?!俺以外の文珠使いだと言うのか?!まさか!!
初撃の5個の文珠は敵の文珠によって『打ち消された』のか!!

横島は目の前の敵の力量を完全に見誤っていたのだ。無理もない、サキュバスや変身能力者の戦闘力なんて大したものじゃない。
それどころか自分以外の文珠使いだなどとは夢にも思わなかったのだ。

しかも敵の文珠・・・・俺の文珠を打ち消したなら同等かそれ以上の力があるということだ!!

油断、と言えば油断だ。横島はキレて判断力を失っていたのだ。
本来なら横島は閃光の文珠を投げつけ、一目散に逃げ出すべきだったのだ。

もっとも、この力量差ではそれも無意味だったに違いない。
この敵に出会ってしまったこと。それが全てだった。勝ち目はまったく無かったんだ。どんなに足掻いても、一匹の蟻に象は倒せない。

横島はとっさに左手の2個の文珠を『開放』と書き換え発動してみたがまったくダメだ。敵の『縛』の文珠は綻びもしない。

ビクともしないのか!!なんだこの文珠は!?

文珠の使用には『投げつける』動作が非常に大事だ。この動作を封じられれば文珠の応用は著しく制限される。
霊力の消耗とコントロールの難しい時間移動や瞬間移動のような大技は戦闘中には使えない。敵が見逃してくれるはずが無い。長ったらしい必殺技を唱えている間に敵に倒されるギャグ漫画のマヌケなヒーローのような醜態を晒すことになる。

『防』『盾』などはどうだ?
ダメだ、敵の文珠の方が圧倒的に強い。たやすく突き破られる!
動けなければ防御をしても肉体を強化しても意味が無いじゃないか!なんとしてもこの『縛』の文珠を破らないと!!

そうだ!アシュタロスに使った反則技『模』はどうだ!!

同じ手を使おうとして2度目は『ジャミング』で封じられてしまったが、この敵がアシュタロスとの戦いを知っているとは思えない!
ならば有効!
敵と同じ能力なら敵の文珠を破壊できる!!
そして全力攻撃ですばやく敵を撃滅!!ダメージは帰ってこない!!
それでダメならまた敵の考えを読み取って隙を突いて逃げればいい!!!イケル!!完璧だ!!!!
『模』!!!!!!

シーーーーーーーン・・・・・

何も変化しない!なんでだ!嘘だろ!!

横島はルシオラそっくりの敵を見た。敵の周りを3個の文珠が並んでクルクルと回っている。

『模』『無』『効』と。

ズルイ!!と横島は自分のことを棚に上げて地団駄を踏んだ。そんなことを言ったら『模』だって十分反則もいいところだ。しかし『模』の使用を見破られるなんて・・・・・

文珠使い同士の戦いはこのように不毛だ。
幸い、横島以外に文珠使いなどいなかったからこんな不毛で異質な戦いが起こらなかっただけだ。

この戦いは明らかに横島が最初から圧倒的不利だったのだ。敵は横島が文珠使いであることを知っていて、横島は知らなかった。『情報』において敗北は必死だったのだ。先手は取ったが先手を取っただけに過ぎない。
有効な一手は通常の敵に対するものとは異なったのだ。
だがやむを得ないことだった。横島以外に文珠使いがいるなんて夢にも思わなかった。

「クソォォォォ!!!」

横島は自分の肉体が負担に耐えうる限界ギリギリの数の文珠を一度に錬成し、その力を一気に敵の文珠に対して開放した!!!

敵の文珠破壊のみを目的とした使い方だ。文珠の数が多くても難しいコントロールは必要無い。しかし・・・・
ものすごい衝撃が過ぎた後に彼が見たものは、今だ平然とその効力を発揮し続ける敵のたった一つの文珠であった・・・・・

嘘だろ!冗談じゃない!!!20個の文珠を使ったんだぞ!!!

単純に敵の力量が20倍以上、と言うことではない。文珠は同時使用による相乗効果で威力が高まる。
敵の能力が横島の何倍になるのか、想像もつかない。

現在の横島の経験と実力は半端ではない。間違いなく日本有数のGSの一人だ。
この敵は人間のレベルを遥かに超えている。魔族どころか魔神クラスだ!!!

もしこの場に美神がいたなら、究極の奥義であるあの『合体技』が使える。あの技ならこの眼前の敵を倒せる可能性がある。
しかし、しかしこの場に令子はいない・・・・
そもそも令子がいたらきっとこんな状況にはならなかっただろう。
横島はこの丘の上の公園にたどり着いたとき、いつもの習慣でグルリと周りを確認している。
罠や異常な霊気は無かった。油断の原因はその点にもあったかもしれない。
罠なんて必要では無かったのだ。こんなに力量に差があったのでは。
たとえ横島が周到に戦闘の準備と覚悟をしていたとしても、無意味だったろう。

結局俺は三流のままか・・・・

もはや横島が打てる手はたった一つ。
敵がこちらに近づいたら一気に大量の、肉体限界を大きく超える文珠を錬成し、同時に炸裂させる・・・・
冥子のプッツンに似た自爆攻撃だ。冥子との違いは、横島にも巨大なダメージが襲いかかってしまうこと。
腕が吹き飛ぶぐらいで済めば御の字だ。多分、死ぬだろう。
この公園丸ごと吹き飛ばすぐらいの威力を放てるだろう。それでもこの眼前の敵にどれほどのダメージ
を与えられるだろうか・・・・・

もうすぐここに蛍太がやって来る。
巻き込むわけにはいかない。
大爆発を起こせば異常に気が付いてくれる。近所の人たちも集まってくるだろう。
なぜこんな敵に狙われるのか、まったくわからないがこの敵の目的は間違いなく、俺だ。
俺が死ねば目的は果たせるはずだ。
衆人の注目をむやみに集めたくは無いだろう。敵は撤退する可能性が高い。

・・・・・最悪、蛍太だけは守れるか・・・・・・

少年は大人になる、男になる。だが男はそれだけでは終わらない。
もう横島は昔の横島では無い。愛する人を得て、守るべき人を得た。
幸せにする人を得た。命より大切な人を得た。
成長するのだ。男は変われるのだ。

ごめん、令子。ごめん、蛍太。ごめん、みんな・・・・

令子、蛍太のことを頼む。俺は本当に君に迷惑をかけてばかりだ・・・


さあ来いよ、俺にトドメを刺しに来いよ。一歩を踏み出せ、二歩目を踏み出せ。
笑いながらやって来い。余裕かましてやって来い。嘲りながらやって来い、見下しながらやって来い!
横島忠夫、人生最強の一撃を喰らわせてやる!!!!!


ルシオラの姿をした横島の敵は冷酷な薄笑いを浮かべて・・・・・などはまったくしていなかった。

端から見ていて可哀そうになってくるぐらい突如狼狽し、動揺し、泣きべそをかきはじめ、はわわーとか言い出しかねない様子でひたすら慌てふためきだした。

「ご・・・・ごめんなさいごめんなさいごめんなさいヨコシマ!!私ほんとーに嬉しくて嬉しくて嬉しくて見境つかなくなっちゃって感激のあまりいきなり飛びついちゃってキスしちゃって抱きしめちゃってあのあのあのあの・・・・文珠打ち消したのは変に炸裂してヨコシマ傷付けたら大変だと思ったからで『縛』で動きを止めたのは話を聞いてもらいたかったからで『模無効』を使ったのはヨコシマに逃げられちゃうと困るからであのあのあのヨコシマに危害を加える気なんてまったく無くてと言うかヨコシマに危害を加える奴なんて神族だろうが魔族だろうが綺麗サッパリ皆殺しよ!!!!!!!」

???そんななんだかよくわからない敵からの叫び声を聞いて横島は少し冷静になった。
そう言えばコイツは今までに俺を20回ぐらいは殺せていたハズだ。意図がまったくわからない。

「ああああああ・・・どこから説明したらいいのかしら・・・ああ!!そうだやっぱりここからね!
うん絶対ここからだわ!!!」
ルシオラの姿をした彼の敵は、こほんこほんと収録直前の声優のように喉の調子を整えた。
そしてやや低い声で横島に話し出す。

「・・・・・ただいま、お父さん」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「蛍太です」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「フ・フ・フ・フ・フザケんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

横島は愚弄されたあまりの怒りから文珠を大量錬成・・・しようとしてまったく文珠が錬成できないことに気が付く。

干渉!?

横島が文珠錬成の際に発生する霊波に違う霊波を織り込み文珠錬成を妨る・・・・
問題にもならなかった。横島の考えなどお見通しで、赤子の手を捻るように横島は敗北したのだ。
こんな技は横島には使えない。技も力も敵のほうが遥かに上だったのだ。

・・・・・こうして、横島の完敗で不毛な文珠使い同士の戦いに決着はついた。
あいかわらず『縛』はその効果を持続し続けている。効果時間も横島の文珠より遥かに長そうだ。

横島に打つ手は一つも無くなった。舌を噛み切るぐらいのことしか彼には出来ない。

自らを蛍太と名乗る敵はまた激しく狼狽した。自分の失敗を悟ったらしい。いったいどっちが勝利者なのかまったくわからない。

「どこまで人をコケにしたら気が済むんだクソ野郎!!!!蛍太は『男』だ!阿呆!!!!!!!!!」

彼の敵はああ、そうか、そこから説明しないとまずかったんだ、となにやらブツブツと呟いた。

「あのねヨコシマ、蛍太はヨーロッパに行った後モロッコに行って・・・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・なんだモロッコって?

「手術をしてね・・・・・・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・なんの手術だ?

「蛍太は・・・・・『女』になったの!!!!!!!!」

・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・


「蛍太こと『ルシオラ』!17年の時を経て!!今ここに完!全!復!活!よ!!!!!!!!!!」


まるで世界征服を成し遂げた直後の独裁者のように、『彼女』は高らかに、誇らしく、美しい夕映えの空の下で、そう、宣言したーーーーー

【息子よ 2 帰郷編 /終 息子よ 3 目明し編に続く 】


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