雨の中、ただ一人悲しみにくれるともなく。
雨の中、ただ一人上を見上げ。
ただ雨の中歩く。
「一体どうしてこんな雨の中?」
「なんでもない……」
ただそれだけしか返せず、ボクはただ黙って彼をみつめた。心が切り裂かれるような痛みがある。
このまっすぐな目を見るだけで心が痛い。
「…風邪ひくと思うけど、そんなところでいたら」
「雨に打たれたい気分なんだ」
ただ呟くのは贖罪ではなく、ただの拒絶。
愛している、愛してる、愛してる、愛している。
柔らかく優しく微笑むキミ。
この笑みをみられるのは俺だけだ。と思うと少し優越感がある自分も存在する。
その矛盾。
顔を背けて、そしてただ黙ってうつむく。
「待ってたの?」
「待ってなんかないよ」
ただ呟くのは苛立ち。ただ呟くのは悲しみ。
ボクは彼が差し出したかさを見た。
「…確かに僕たちは……」
「なんだい?」
涙、涙、涙。雨の中の涙が俺の中でリフレインした。
不二子さんの涙が蘇る。
「死んでしまえ…」
「兵部?」
「消えてしまえ」
消えてしまえ、この世界のすべて。
そう思ったのは、あの人がいなくなったときから。
「昔、何があったのかはきかないけれど、君が望んでないのを知ってるから」
決して多分ボクのものにはならない魂。
心配そうに傘を差し出しボクを見つめるキミ。
「…みんな心配してると思うけど?」
「何を?」
「君のことを」
俺はただ黙って笑った。その笑みを見たアレンが悲しそうに俺を見る
「兵部、ボクにどうして……」
消えてしまえ、消えてしまえ、消えてしまえ。
壊してしまえ、壊してしまえ、壊してしまえ。
狂気がボクを襲う。
「……死んでしまえ!」
消えてしまえ、目の前から消えろ。
会いにきたのはボクなのにこの矛盾。
何か悲しいことがやっぱりあるんだよね。と心配そうにボクをみるキミ。
あの人が消えた日も雨だった。
俺は雨が嫌いだ。
だから雨の中泣いている人間も嫌いだ。
「……この世界は悲しいな」
「そうです……」
かさを彼は放り出す。そしてボクをきつくぎゅっと抱きしめた。
その胸はとても温かい。
心の中にあるのは、吹きすさぶ雨嵐。
悲しい涙は、とまらなくて。
ただあるのは悲しみの湖だけ。
でも暖かい抱擁は遠い昔の何かを思い出す。
ボクがあばれても、強い抱擁をやめない。
ボクはあばれるのをやめ胸の中に顔をことん、とよせた。
でも多分いつかボクはこの人を殺すだろう。
女王を殺したこの人を。
多分……あの人のように。
壊してしまえ、壊してしまえ、壊してしまえ。
ボクの中の悪魔が囁く。