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絶対可憐チルドレン短編集

雨の中ただ歩く(兵部だと思います


投稿者名:ルカ
投稿日時:09/ 1/11

 雨の中、ただ一人悲しみにくれるともなく。
 雨の中、ただ一人上を見上げ。
 ただ雨の中歩く。
「一体どうしてこんな雨の中?」
「なんでもない……」
 ただそれだけしか返せず、ボクはただ黙って彼をみつめた。心が切り裂かれるような痛みがある。
 このまっすぐな目を見るだけで心が痛い。
 
「…風邪ひくと思うけど、そんなところでいたら」
「雨に打たれたい気分なんだ」
 ただ呟くのは贖罪ではなく、ただの拒絶。
 愛している、愛してる、愛してる、愛している。 
 柔らかく優しく微笑むキミ。
 この笑みをみられるのは俺だけだ。と思うと少し優越感がある自分も存在する。
 その矛盾。
 顔を背けて、そしてただ黙ってうつむく。
「待ってたの?」
「待ってなんかないよ」

 ただ呟くのは苛立ち。ただ呟くのは悲しみ。
 ボクは彼が差し出したかさを見た。
「…確かに僕たちは……」
「なんだい?」
 涙、涙、涙。雨の中の涙が俺の中でリフレインした。
 不二子さんの涙が蘇る。
「死んでしまえ…」
「兵部?」
「消えてしまえ」
 消えてしまえ、この世界のすべて。
 そう思ったのは、あの人がいなくなったときから。
「昔、何があったのかはきかないけれど、君が望んでないのを知ってるから」
 決して多分ボクのものにはならない魂。
 心配そうに傘を差し出しボクを見つめるキミ。
 
「…みんな心配してると思うけど?」
「何を?」
「君のことを」
 俺はただ黙って笑った。その笑みを見たアレンが悲しそうに俺を見る
「兵部、ボクにどうして……」
 消えてしまえ、消えてしまえ、消えてしまえ。
 壊してしまえ、壊してしまえ、壊してしまえ。
 狂気がボクを襲う。
「……死んでしまえ!」
 消えてしまえ、目の前から消えろ。
 会いにきたのはボクなのにこの矛盾。
 
 何か悲しいことがやっぱりあるんだよね。と心配そうにボクをみるキミ。
 あの人が消えた日も雨だった。
 俺は雨が嫌いだ。
 だから雨の中泣いている人間も嫌いだ。 
「……この世界は悲しいな」
「そうです……」
 かさを彼は放り出す。そしてボクをきつくぎゅっと抱きしめた。
 その胸はとても温かい。
 心の中にあるのは、吹きすさぶ雨嵐。
 悲しい涙は、とまらなくて。
 ただあるのは悲しみの湖だけ。
 でも暖かい抱擁は遠い昔の何かを思い出す。
 ボクがあばれても、強い抱擁をやめない。
 ボクはあばれるのをやめ胸の中に顔をことん、とよせた。
 でも多分いつかボクはこの人を殺すだろう。
 女王を殺したこの人を。
 多分……あの人のように。
 壊してしまえ、壊してしまえ、壊してしまえ。
 ボクの中の悪魔が囁く。


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