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絶対特急提供〜可憐の小箱(短編集)

睦言3


投稿者名:みみかき
投稿日時:08/12/30

 私の中に流れ込むあなたの感情。
 手に入れて離したくない欲情。守り続けたい愛情。優しい過去の喪失感。
 女性に向ける好奇心。男性としての征服欲。そして、彼女達への罪悪感。
 それらがあなたに伝わる悦びと交ぜられて、私の同じものと同化する。
 力を使ってる訳じゃない。自分を解き放てばこういう風になるのが私だから。

 今、私が掴んでるシーツのさざ波を見れば、数十分間の私達が見て取れる。
 こうなっちゃったんだなぁ、手に入れちゃったんだなぁって。
 たぶんあなた以上の罪悪感。それ以上の達成感。

 安心したのか、それとも登り詰めたままなのか、まどろんでいるあなた。
 その寝顔に寄り添って私の額をくっつける。
 私はテレパスじゃないけれど、私の気持ちがあなたに流れ込んでいけるように。

 いつだったかな。
 あなたの部屋に初めてみんなで押しかけた時、あなたをからかう私にゲンコツくれて。
 あの時、ゲンコツの痛さより私の内側から湧き出てくる高揚感にどきどきした。
 パパも私の扱い方に困ってた。何をしてる時も、私を傷つけることを怖れてた。
 私はオバケだから。
 ノーマルでもエスパーでも、自分の心の底を覗かれて怯えない人はいない。
 そんなオバケをあなたは普通に叱ってくれた。
 それがあの時、どれだけ嬉しかったかわからないでしょ。
 あの時私の中で、きっと小さな革命が起こったんだと思う。
 知りたい気持ちより、遥かに大きな知って欲しい気持ち。自分を見て欲しい気持ち。
 オバケの私にあなたは、一人じゃないよって言ってくれたのよ。
 首のリミッターを改造してくれてるあなたは、ブツブツ文句を言いながらも、とても真剣だった。
 私が感電しないように。息が詰まらないように。
 私はあの日初めてあなたに出逢ったけど、あなたに自分を委ねて心地よかった。
 失敗しちゃってもいいよ。少しくらい苦しくったっていいよ。
 薫ちゃん、葵ちゃん、この人は安心していいよ。手があったかいよ。

 あなたが私達の主任に決まった時、私、忠告したのにね。
 サイコメトラーで、超度7だって。
 それなのにあなたって当たり前に握手なんかしちゃって。
 だから私みたいなオバケに取り憑かれちゃったのよ。
 でもね、知ってる?
 こんなに長く付き合ってるのに、私あなたを本気で覗いたことなんて一度もない。
 賢木センセイ、確かにそうだよ。嫌われてたら怖いもの。
 でもね、それだけじゃないの。
 私は皆本さんに知って欲しいの。
 私がここにいること。私があなたを好きなこと。あなたの役に立ちたいこと。
 あなたに寄り添ってることがどれだけ幸せかって。
 他の誰かが私を許してくれても、パパでも、ママでも、賢木センセイでも、薫ちゃんや葵ちゃんでも、こんなに自分を委ねたい気持ちにはきっとなれない。
 だから私は、あなたの心の底へは飛び込めない。
 どこかであなたに溶け込んでしまいたいと願っているから。

 身体にキスしてぼんやりしていると、あなたはいつのまにか私の髪をくしけずっていた。
 そんな優しい瞳なのに、きっと薫ちゃんや葵ちゃんに謝り続けてるのね。
 それでも私を選んでくれたのね。
 きっと私とあなたの罪は消えないのだろう。
 だったら、私はあなたの何にでもなるよ。
 銃でも剣でも盾でも。血だって流せる。命だって造ってあげる。
 オバケの私を、あなたは人にしてくれたんだから。
 出逢うまではつまらないって思ってた世界が、こんなにも愛おしく感じられる様になったんだもの。
 唇を重ね合い、耳たぶや首筋に触れていると、自然にあなたの鼓動が高鳴ってくるのがわかる。
 私の鼓動も早くなる。
 だから、とりあえずあなたの願いを今叶えましょう。
 それは私の願いでもあるのだから。
 精一杯あなたに身体を飛び込ませておねだりするよ。

 もう一度、しよ?


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