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GS冥子?

龍・遊・戯 (下)


投稿者名:案山子師
投稿日時:08/12/15

 「それで一体どうするの?」
 「そうじゃ。行くあてはあるのか?」
 「横島クン〜〜〜?」
 ”三人“から疑問を投げかけられて、
 「そうだな・・・・・・てっ、なんで愛子がここに居るんだよッ!!」
 「あら、私は結構前から居たわよ」
 そう、横島がヤームとにらみ合いを続けている間に、愛子はすぐ後ろまで来ていたのだった。
 「そうじゃなくてッ! 今かなりやばい状況だって分かってんのかっ!?」
 「分かってるわよ。でも、何かあっても横島君が守ってくれるでしょ」
 ウインクと共に投げかけられた笑みに、横島は親切心を大盤振る舞いするのであった。
 「おっ、おお。任せておけ。こうなりゃみんなまとめて俺が護ってやるぜッ(いざとなったら龍童子を差し出して許して―――もらえるかな・・・・・・)」
 横島にとっては、竜族の一族よりも冥子や愛子のほうが大切なようだった。
 それを口に出さないのは彼の賢い所だった。
 「おいっ!! てめぇら待ちやがれ〜〜〜ッ!」
 「横島追ってきたぞッ!!」
 今後の対策も立てる間もなく、追っては背後まで近づいていた。
 「ここで戦うの〜〜〜?」
 いつの間にか東京湾沿岸。
 下は海、足場も、隠れる場所も無い、この場所であの二人と戦うのか・・・・・・横島がその判断をつけようとしたとき、目の前に黒い外装を羽織った何者かが現れた。
「冥子さん止まってッ!」
どうやら冥子も気づいたようで、空中に緊急停止する。
「ご苦労! イーム! ヤーム!」
「だんな・・・!? 来てくれたんでッ!!」
急遽現れた外装の人物。その霊力は、後ろの竜族二人を合わせたよりはるかに強大だった。
「な〜〜に〜〜、この人〜〜〜〜!?」
「こりゃあ、ちょっとしゃれにならんのとちゃうかッ!?」
四人とも圧倒的な霊圧を感じて、恐れを抱き始める。
「ちょっと聞いとらんぞッ!! こんなやつが居るなんてッ!」
「だんな、それじゃあ約束の礼のほうは・・・・・・」
ヤームの言葉に目の前の人物は何かを放り投げた。
 手に収まるほどの小さなものだが、よくみるとそれは将棋の駒のように見える。
 「ああ。受け取れ」その言葉を最後に周囲の状況が変化する。
 それまでおとなしかった海面が、大きく競りあがってきたのだ。
 「やばいッ! イーム――――」
 何が起きたのかを瞬時に理解できたのかはヤームだけであった。
 とっさに逃げ出そうと全員が霊力を振るうが、そのときには360度が水に覆われていた。
 「水角・・・・・・がばぁああああ――――――――――――――」
 圧倒的な水の質量が『水角』と書かれた将棋の駒を中心に集まってくる。駒はゆっくりと自然落下しながら、海水を取り込んでその質量を増していく。
 これは『水角結界』と呼ばれる代物で、同じようなものに『火角結界』、『土角結界』などが存在する。この水角結界は本来拷問用に使われるもので、一定範囲に存在する水の中に対象を取り込み水攻めを行うものである。水が無ければまったくの役に立たない代物であるが、水の量を調節することが出来れば、他の二つ以上の効力を発揮することもある危険なものであった。無尽蔵に近い海の圧力が、核である駒を中心に集まり、やがてその圧力に駒が耐え切れなくなったとき、取り込んだもの全てを圧壊する。
 静かに水底へと沈むにつれて、その力を増大させていく水角結界。
 たとえ上位神族であっても、海の全質量に対抗することは不可能である。
 これで、目標は達成された。
 後は、この近くに居るであろう、殿下に付きまとっている、竜神族のお目付け役から逃げるだけ。
波もすでに落ち着きを取り戻していた。
もう一度だけ静かになった波を見下ろし、興味をなくしたように視線を上げる。
「!?」
 結界は完璧だったはず。
 あそこに居た者たちの霊圧では、決して避けることも、逃げ出すことも出来ないと確信していたのに。
 水の中から一筋の雷が這い上がってきた。
 「馬鹿やろうッ! 何いきなり攻撃してるんだよ。相手が帰ってくれるまで隠れときゃいいものをッ!」
 「どの道、結界を破ったことはすぐにばれる。そうすれば、またすぐに殿下の命を狙ってくる。殿下すみません、だまされているとも知らずに。こんなことで許されると思いませんが、俺たちが何とか食い止めるからあなた様は逃げてくだせぇ」
 「がっ、がんばるんだな〜〜ぁ」
 二人の竜族が空へ向かう。
 「………よしっ! 殿下、今のうちに逃げましょう」
 イーム、ヤームの身を挺した行動にわずかに感謝し、横島は早くこの場を去ろうと必死だった。
 「じゃが・・・・・・あいつらは」
 「あいつら殿下を殺そうとしたんだから、別に気にしなくてもいいじゃないですか。それに、自分から行ったんだから気にする必要ないですって」
 「もうよいではないか。余の結界破りがあったとはいえ、あの水圧の中、あやつが動いてくれなければ、脱出できたかどうか分からん。それに、二人は先の戦闘と、結界の中でかなり霊力を消耗したはずじゃ。少しの霊力も残っていないのに・・・・・・」
 「そうは言っても自分の命を懸けるほどのものでもないだろうがッ! 冥子さんも愛子も何とか言ってくださいよ」
 「助けて〜〜、あげましょうよ〜〜」
 「ほら、冥子さんもこんなに・・・てっ! 本気でいってるんですかッ!?」
 「あの二人もきっと根は悪い人じゃないわ〜〜〜」
 「冥子さん。あなた殺されかけて、いい人過ぎますよ・・・・・・」
 「共通の敵の出現にライバル同士が手を組む。まさしく青春じゃない」
 「愛子までそんな―――……分かったよッ! ちきしょう。やればいいんでしょう! やればッ! その代わり約束忘れんなよ」
 「もちろんじゃ」と答える龍童子の言葉を聴き、涙を流しながら横島はヤタに捕まり一直線に空へと浮かび上がった。
 「愛子は殿下を頼む。いきましょう、冥子さん」
 本体である机につかまり、ただよう愛子に龍童子を預け横島と冥子は、戦いが広がる空へと舞い上がった。



 「まさか、裏切るっていうのかい?」
 「うるせぇ! 先に裏切ったのはお前だろうがッ!!」
 「でっ、殿下には指一本触れさせないんだな」
残った霊力をありったけ絞りながら、攻撃するが、そのほとんどは簡単にかわされてしまう。
 「まさか、お前たちの霊力で私に勝てるとでも」
もっともな意見。それでも二人はあきらめようとしない。
 「うるせぇ。俺たちが少しでもあんたをひきつけられれば、それだけ殿下が安全に逃げられるんだ」
 今にも途絶えそうな意識を叫び声で奮い立たせる。
だが、後一分も持ちそうも無かった。
 「……雑魚がっ」
ちょっとだけ本気を出そうとした外装の人物だが、それをさえぎるように横島の声が響く、
 「横島スペシャルサンダーハリケーンッ!!」
 ヤタの口に『貫』とかかれた文珠を銜えさせ、全ての霊力を持って特攻する。
 意外に早い、それに伴う威力。
 外装の人物は、紙一重で交わす。
 それで十分と判断したようだが、その判断はわずかに間違っていた。
身体に纏っていた外装、それが横島攻撃によって剥ぎ取られる。
 「おっ、女ッ!?」
 「しかも、ええチチしとるやないかッ! 意外だった・・・・・・!!」
 「「横島クン(君)どこ見てるのよ〜〜」ッ」
 さっきまでの逃げ腰はどこへやら、早々にボケをかます横島に、女性人から突っ込みが入る。
 「ちっ、まさかこんな雑魚どもに姿を見られるとは。仕方が無い、苦しむ暇も無く殺してやるから覚悟しなッ」
 
 
 「・・・・・・もしかしたら、余の判断は間違っていたかもしれん」
 女の外装が脱がされたことで、一番驚いたのは龍童子だった。愛子がその人物を知っているのかと尋ねると、
 「全国指名手配されている凶悪犯。竜族危険人物ブラックリスト『は』の五番、メドーサッ!!」


 「一人の女性に対して、四人とはいささか卑怯じゃないか。ならば、私も頭数をふやそうかねぇッ!!」
 四人がメドーサに対して波状攻撃を加えるが、そのことごとくを退けていく。
 さらにメドーサの髪の毛が、まるで生きた蛇のように動き出して、複数の目を持った蛇のような、奇怪な生き物が生まれだした。
 「あッ! あれは、下等な魔竜の一種ですぜ」
 のこぎりのように鋭い歯をちらつかせながら、四方を飛び交う魔竜の数々。
 「マコラちゃんやっておしまい〜〜っ!」
 シンダラに乗る冥子の背後に、グレイ型宇宙人のような式神が呼び出される。そいつは、ゴムのように両腕を伸縮させながら、魔竜を叩き落していく。
 「しょうがねぇ。残り少ないけど、文珠ッ!!」
 『滅』と書かれた文珠が横島の周囲に群がる魔竜を一斉に消し去った。
 イームとヤームも、それぞれ角から雷を放出して、魔竜の攻撃をかいくぐっていく。
 それをみていたメドーサは、驚いたような、面白いものを見つけたように笑った。
 「人間の癖になかなかの力を持っている。面白い力だ。特に男のほう、横島といったな。その力は文珠じゃないか。それは天界、魔界においても使えるものは数少ない。まさか人間でその力を使うとは、なかなかやる。どうだ、私の部下にならないか?」
 魔竜の攻撃を右手から霊波を放出しながら回避する横島は、
 「いくらいいチチでも、お前の仲間なんてごめんじゃぁ〜〜〜」
 と、即答した。
 「そうか。だが、お前たち大切なことを忘れていないか」
 メドーサは一刻の間をおいて視線を移す、その先にあったのは、
 「龍族のガキが無防備だぞッ!!」
 自分に向かってくる魔竜の対処だけで精一杯だった四人の気づかぬ間に、一匹の魔流が龍童子、愛子に向かって飛んでいく。
 「でっ、殿下〜〜〜ッ!!」
 真っ先に動いたのはイームであった。
自分に対する攻撃の回避、防御を全て捨て、傷だらけになりながらも一直線に龍童子に元へと走る。
 脇、肩、ももに、魔竜の牙が食い込む。
雷は殿下の目前の魔竜を焼いた。
 「イームお前ッ、体が・・・・・・」
 「殿下、無事で良かったんだ・・・(な)・・・・・・」 
 イームの身体は、最後の言葉を言い切ることなく、物言わぬ石像へと変わり果てた。
 「イームをよくも〜〜〜〜〜ッ!!!!」
 加減などまるで考えずに放たれた雷によって、メドーサを護る魔竜の数が一気に減っていく。
 「足元がお留守だッ!」
 怒りに精神を奪われたヤームの目の前に、メドーサが現れたかと思うと、海面に向かってその体をたたきつけた。
 数メートルのしぶきを上げてヤームの体は水没する。
 「なっ、なんだよ。あいつら全然役に立たないじゃないかッ!!」
 あせったのは横島達だった。
 魔竜のほとんどは倒すことが出来たが、もっとも凶悪なメドーサと二対一。四対一であっても勝てる見込みはほとんど無かったというのに、これではもう死にに行くようなものだ。
 「マコラちゃん、アジラちゃんお願い〜〜〜ッ!!」
 横島が尻込みしている間に、冥子が動く。
 マコラの姿が、自分が乗るシンダラと同じに変化し、その上にトカゲのような式神が飛び乗り飛行する。
 アジラと呼ばれた式神の口が開いて、燃やすための炎が吐き出された。
 即席軍用機のように縦横無尽に飛来しながら、メドーサに向かって、炎の攻撃を仕掛けていく。
 さすがのメドーサも素手での回避が困難だと考えたのか、手元の空間から刺又を取り出して、炎を払う。
 炎の合間を縫って、指先から一筋の閃光を放つメドーサ。
 シンダラは必死にそれを回避するが、いつまで避けられるだろか。
 「くそうっ、こんなやつにどうやって勝つんだよ。文珠を投げてもこの距離じゃ絶対避けられる。なんとか隙を作る方法はッ!?」
 そのとき横島頭の中に一つのヴィジョンが浮かび上がる。今まで使ったことの無い方法だが、確かにそれは成功すると実感していた。
 後はタイミングの問題。
 メドーサの攻撃を避けながら、必死に考える。
 一撃、横島に攻撃がかする。
 二撃、シンダラの羽に光線が当たる。
 三撃、愛子と龍童子の近くに光線が当たり、水が蒸発する。
 横島は覚悟を決めてメドーサに大声で叫んだ。
 「メドーサ行くぞッ!!」
 メドーサの斜め頭上から迫る。
それは、メドーサにしたら格好の的であった。
指先から光線が放たれると同時に、横島はヤタから手を離して分離、何とかそれを回避する。メドーサまで後わずかな距離。
横島は全霊力を両手に集め
「サイキックッ!!」
 輝きだすその手をメドーサに突き出し、
 「猫だましッ!!」
 驚いたのはメドーサだった。目の前から馬鹿正直に突っ込んでくる横島を凝視していたせいでもろに視覚を奪われてしまった。
 「めっ、目がぁああッ!」
 「さらにこれを食らえ〜〜〜ッ!!」
 あわてるメドーサの口の中に無理やり文珠を押し込む。
 反射的にそれを飲み下すメドーサ。
 「………ヤタッ!!」
 そのまま落下する体を式神を操って再び飛行。
 「すごいわ横島クン〜〜。でも〜、何を飲ませたの〜〜〜?」
 「きっ、効くかどうかわからんが、どうだろう・・・・・・」
 目を開けずに苦しんでいたメドーサに視力が戻っていく。ゆっくりと瞳を開き、
 「横島・・・・・・好きだ〜〜〜ッ!!」
 メドーサがその豊満な胸を横島の顔に押し付けながら抱きついてきた。
 「おっしゃ〜〜〜〜ッ!! 成功〜〜〜!!」
 横島テンションと霊力は限りなく上がったが、残った女性二人からは、横島に対する殺気だけが膨らんでいた。
 「横島クン〜〜〜ッ!! 一体何を〜〜〜ッ」
 冥子が横島に対し怒りの声を上げようとしたとき、メドーサの顔が振り向き冥子を見詰める。
 その視線が重なるとき、冥子はこの世でもっとも凶悪な笑みを直視した。
 「ジャマだッ!!」
 冥子にむけられた指先から霊力が放たれる。
とっさに気づいた横島がその手を押さえて、強引に光線の方向を変える。
 冥子の髪先がこげ落ちた。
 「メドーサ一体何を・・・・・・。私がほしいのはお前だけ、お前に話しかけていい女も私だけだ、さあ横島。私と共に行こう」
 「ちょと待てッ!!」
 いつの間にか、メドーサの長い髪から魔竜が生まれて横島を拘束していた。
 
 
 
 「あのおばはん、私の横島君に向かって一体何を〜〜〜ッ!! 今すぐ後悔させてやるわっ」
 「待てっ、待つのじゃ。お主のような下級妖怪が行っても何も出来ないのがオチじゃ」
 今にも飛び出して行こうとする愛子を必死に龍童子が治める。
 「じゃあ、このまま見てるだけのつもりッ!! 横島君はあなたのために戦っているのよッ!!」
 愛子の言葉に龍童子もまた、悔しさを噛み締めていた。
 「そうじゃ・・・・・余が、余が子供で、まだ何も出来ないから、あいつら。ちくしょう・・・!! ちくしょう・・・!! ちくしょぉおおおおおおおお!!!」
 無念の言葉だけが吐き出される。
 ただ何も出来ずに、それだけしか出来ない自分に腹が立った。
 悔しい。悔しい。悔しい。
 怒りによって頭に血が上る。
 ドクンッ!
 それは最初幻覚かと思った。
 抜け落ちていく古い角。
 生え変わり、新たに生えて来た少しだけ立派になった角。
 子供であった龍童子から、童子が抜け落ちた瞬間であった。
 「!!・・・・・・大人になったしるしじゃッ! これで神通力が使えるッ!! やったぞッ、お主、一緒に戦ってくれるか」
 一瞬前の龍童子とは比べ物にならない、表情でを向けられ戸惑いながらも、愛子は頼もしくうなずいた。


 「冥子さん逃げてッ!!」
 横島の体は魔竜によって完全に拘束されており、指一つ動かせない。
 そんな横島助けようと冥子も必死で食い下がるが、囚われたその身を気にしてか攻撃の威力が落ちている。
 それにもかかわらずメドーサの攻撃は、先ほどよりも過激になってきていた。
 「横島の目に映る女は私一人でいい。貴様は、さっさと消し炭になっちまいなッ!」
 女の嫉妬というものだろうか? 強制的に作られた恋心は、メドーサの拒絶心とせめぎあいながら、ゆがんだ形で具現化してしまった。
 こうなることは完全に計算外であった。
 メドーサほどの霊圧を完全に制御できると思ったことが間違いだったのだろう。
 横島は霊力が残っている間に冥子に逃げることを必死に進めるが、彼女はそれをよしとはしない。
 打つ手をなくした横島は、海面に漂っていた二人の姿に視線を落とすが――――いない。
 どうやら自分たちが戦っている間に逃げ出してくれたようだ。
 愛子が無事に逃げ出してくれたことを知り、少しだけうれしく、少し悲しかった。
 だが、その感情も次の一声で消し飛んでいた。

 「おばさん。私の横島君を返してくれるッ」

 メドーサを挑発した声の主は、聞き間違えることの無いクラスメートの声。
 いつの間に着替えたのか知らないが、白い特攻服に身を包み、両手と額には先ほどまで龍童子がしていたバンダナとリストバンド。机の上に乗って空を飛ぶというシュールな構図ながらも、その姿は自信に満ち溢れていた。
 竜神の剣をメドーサに突きつけ再び、
 「お・ば・さ・ん。そのたれた胸を横島君から離してくれる」
 笑顔と180度マッチしない毒を吐きながら、愛子が告げる。
 その目はまるで笑っていない。
 ブチッ!!
 音を立てて何かが崩壊した。
 「たかが、小妖怪の分際でこの私にケンカを売るとは、どうなるか分かっているのか・・・・・・」
 魔族である自分が、こんな弱小妖怪にここまでコケにされて、引っ込みが付くわけが無い。
魔力だけで言えば、愛子などメデューサに傷をつけるどころか、近づくことも出来ずに殺されるだろう。
 横島を手放し、冥子に向けていた一切合切の殺意を愛子に向けて放ち、手にした刺又を大きく振りかぶった。
  愛子はそれを最初から読んでいたかのように、すばやく一歩下がる。そこには、足場にしていた机は無く、愛子の体がふわりと空中に投げ出される。
 自由落下で避けるつもりか……愚かだな。
自分の刺又を、それだけでかわせるはずは無いと考えて、愛子の体を貫くことを確信し メドーサの口元が、狂喜にゆがんだ。おそらく数分後には霊片をぶちまけながら無残に転がるはずの小娘の姿を想像して。
だが、愛子の顔からはまだ、敗北を感じることは出来ない。
 愛子は剣構えてメデューサの矛を迎え撃つ構えを見せる。
 素人の剣術に私の突きが防げるはずが無い。
 勝利の咆哮を挙げて突き進む。
 「死ねぇええええええええええええええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜「いまよッ!!」」
 その咆哮をかき消すほどの大きな声で、愛子は叫び剣を振り上げる。
 互いの刃はいまだに触れ合っていない。それなのに悲鳴をあげたのはメドーサであった。
 「なっ! ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああ」
 机の中から、強大な雷がメドーサに襲い掛かる。
その威力は、その周辺に居る弱小妖怪に出せるものではない。
メドーサの頭に混乱が走り、何が起こったのかと状況把握をするために脳を最大限に動かす。
 そのため体を動かすことを一時的にやめてしまった。
 「とどめよッ!!」 
 先ほど振り上げた剣を一直線に振り下ろす。
 刃を受け止めようとするが、体中が麻痺して動かない。
 悔しげに唇をかみ締める、完全に積みの状況であると誰もが思っていた、
 「―――あれ?」
 振り下ろした先に手ごたえが無い。
 あたりを見渡すと、瞬間移動でもしたように、さらに上空で息を荒げるメデューサの姿があった。
 「愛子どうしたのじゃ!?」
 机の中から顔を出したのは、龍童子。
 「はぁ、はぁ、はぁ、そうかあのガキ・・・・・・覚醒したのか。目覚めたばかりだというのになんて力だ」
 かなり疲弊した様子で、すぐに攻撃に移ることが出来ない。
 はるか下降からからこちらを見上げる四人を見下し、メデューサはプロとしての意識を持ち直す。
 「まさかこの状況で覚醒するとは。それにちょっと遊びすぎた・・・・・・気づかれたな」
 メドーサはこの場所に近づいてくる馬鹿でかい霊圧を感じながら、静かに目を閉じた。
 次に目を開いたとき、横島の姿は冥子の式神によって開放されていた。
 「お前達、感謝しな。ここは身を引いてやる。ただし、そこの女達、次にあったら一片の霊片も残さずに嬲り殺してやるからな―――横島、すぐにまた会いに来るよ」
 恋焦がれる最高の笑みを横島に送り、メドーサの姿は一瞬にして消えていった。
 戦いに終止符が打たれた瞬間であった。
 
 
 
 「はぁ〜〜〜。本当にみんな無事で・・・・・・良かったの・・・えぇええええええ江えええええええええええええええええ江ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええんんんんんんんんんんんんんんんんんん」
 メドーサの撤退を確認すると、冥子は張り詰めていた神経が途切れたようにいきなり泣き出した。
 「本当に怖かったの〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
 それにあわせて、式神たちが暴走を開始する。
 「ちょっと、あなたやめなさいッ!! 」
 「冥子さん頼むから泣きやんでくれぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」



 その後の事態は、駆けつけてきた小竜姫によって致命傷の一歩手前で治まった。
龍童子はこっぴどく叱られ、見るも無残な姿で妙神山へと帰還した。
 このとき、横島が小竜姫をナンパしようとして、見事なコンビネーションコンボを決めた、冥子と愛子については記述する必要も無いことだろう。
 
 
 
 その後、美神事務所に忘れられた鬼門が妙神山に帰れたのは、この日から三日後であり、その間鬼門たちは、美神によってこき使われていたことと、イーム、ヤームが回収されて殿下の家臣になったことを知ったのは結構後になってからであった。



 最後に横島の恋愛運が上昇したのか………それはこの先の物語を読んでもらうしかないだろう。


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