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GS美神異聞録

GS美神異聞録 Report 6


投稿者名:Kreutzer
投稿日時:08/10/30

横島の病室

「あ、あの、私…」
「………。え?」
「お花のお水くんできますね」
「お願いします…」
「はい…」

小鳩が病室を出て行く…。
横島の怪我は治りつつあったが、意識は依然戻っていなかった。

「横島さん…」
キヌが声をかけるが、反応はない…。

「あの人じゃないから…?」



「私じゃ、あの人の代わりにならないから…?」



コンコン

「どうぞ…」
「はいるよ」
小鳩と百合子、西条と唐巣神父が病室に入ってくる

「あ…横島さんのお母さん…」
「ついさっき、到着してね」
「規則だかなんだか知らないけど、身内でも立ち入り禁止だって言うじゃないか」
「申し訳ありません。此処は公的には存在していない施設ですから…」
「フン…まぁいいよ」

百合子が横島に近づく。

「まったく…どうしてこうなっちまったのかねぇ…」
「ご、ごめんなさい…」
「いや、アンタのせいじゃない事ぐらいはわかってるよ。大体は、神父さんから聞いたけど、ねぇ…」

唐巣神父と西条は空港まで横島夫妻を迎えにいっていたのだ。

「馬鹿なことをしちまって…」
「あの、横島さんのお父さんは…?」
大樹がいないことについて、キヌが尋ねる。

「主人?」
「ご一緒では…?(まさか、こんな時まで…)」
「あー。いつもの病気、じゃないから安心おし。今頃、馬鹿なブンヤをどつきまわしてるころだよ」
「ブンヤ…?」


空港に到着後、横島夫妻は記者からの取材攻勢にさらされて身動きが取れなくなっていたのだった。
結局、大樹のみが記者に対応をすることにし、百合子だけが病院に来くることになった。

「事件のことも、息子のことも知らないものは知らないと言ったんだけどねぇ…」
「申し訳ありませんでした。まだ公式に発表できる段階ではないもので…」
西条が謝罪する。

「政府の情報統制だか知んないけどねぇ」
「すいません」
再び西条が頭を下げる。

「別にアンタを責めてるわけじゃないさ」
「そういっていただけると…」
「で、美神さんは何処だい?」
場が凍りついた。



「ごめんなさい…。美神さん、此処のところ事務所から出てないんです…」
「はぁ?」
「自分のせいだからって…」
「………」
「あの人が生き返れなかったのも横島さんがこうなったのも、自分のせいだからって…」

「やれやれ…。この馬鹿息子が何を言ったか知らないけど…」
「すいません…」
「ま、いいよ。アンタが悪いんじゃない。ぜーんぶ、うちの馬鹿息子が悪いんだろうからさ」
「お母さん…」
「そんじゃ、まぁ…」
百合子が不意に立ち上がる。

「どちらへ?」
「ん…。アタシは美神さんに話を聞いてくるから、忠夫をヨロシクね」
「え…?」
「だって、起きないんでしょ?」
「は、はい…でも…」
「別にナルニアに帰るわけじゃないよ。あとで主人と一緒に来るから、ね?」
「はい…」

百合子がキヌを励ましながら横島のことを頼む。

「事務所まで僕が送ります」
「そうしてもらえると、助かるわ」
キヌに携帯電話の番号を渡しながら百合子が答える。

「小鳩君、君もついでに送っていくよ?」
「え…?でも、私…」
「横島クンが心配なのはわかるが、君のお母さんの事もある。泊まりの看病は我々に任せて家に帰ったほうがいい」
「………。はい…」
「ふーん…。(この娘も忠夫の事が好きなんだねぇ…大樹の息子なだけはあるわ)」

小鳩も残って横島の傍にいたかった様子だったが、百合子たちと一緒に帰ることになった。




「忠夫に何かあったら連絡入れるからね」
「はい…」
「しっかりするんだよ。あの子が元気になった時、笑顔を見せておやり」
「は、はい!」

(気丈な人だな…。自分の子供よりも人の事を気遣うなんて…)
西条は車内から二人の様子を見て、横島の母親の力を垣間見た気がした。


「やれやれ…。女を泣かすのだけは父親譲りだねぇ…」
戻ってきた百合子が苦笑しながら西条に尋ねる。

「ところで、ひとつ確認したいことがあるんだけど?」
「何でしょうか?」
「女の子の手前、黙ってたけどね。あの子の両腕をベッドに固定してたのはどういうわけだい?
場合によっちゃぁ、タダじゃおかないよ?」
「………。すいません」
そこで西条ははじめて、傷の原因が霊波刀による自傷行為だった事、一時的に意識を回復させた横島が錯乱状態にあった事を
百合子に説明した。


「そうかい…。それで廊下に監視役もいたってわけかい」
「すいません。酷い対応だとは思っていますが」
「いや、仕方がないね。そんな状態じゃ…」
「はい…」
運転しながら西条は、この人の強さは何処から来るのだろうか思うのだった。



事務所


「人口幽霊一号、僕だ。入れてほしい」
「了解しました」
「令子ちゃんは?」
「部屋にこもったままですが…」
「そうか…」


「令子ちゃん、僕だ。入るよ?」
「………。」
「入るよ」
百合子がドアを開ける

「うっ…酒臭い…」
「令子ちゃん、飲みすぎだっ!」
西条が令子の手からボトルを取り上げる。

「返してよっ!」
「だめだっ!おキヌちゃんからも聞いたぞ。横島クンのことで気に病んでいるのわかる。だけど…」
「なにがわかるってのよっ!」
「令子、ちゃん…?」
令子の気迫に怯む西条。

「怖いのよっ!横島クンに責められるのがっ…!私だけ助かったのよっ…あの娘を犠牲にして、自分だけが…!」
今まで見たことのない令子の取り乱した姿に動揺する西条。

「お願い、一人にして…」

パン!
それまで黙っていた百合子の平手打ちが飛ぶ

「しっかりおしっ!」
「横島クンのお母さま…」
「アンタは誰だい?」
「えっ…」
「アンタは私が見込んだ女なんだよ。男が錯乱したぐらいで気弱になるなんて情けないね!」
「お母さま…」
「私に喧嘩を売ったときの度胸は何処にいったんだい!」
「私…」
「本当に情けないねぇ…。アンタは美神令子なんだろっ!」
「私……」
「ほら、涙をふきな。それに、ロクに寝てないんだろ?」
「あ、あの…」
「西条さん、つめたい水の準備をお願いできる?」
「わ、わかりました」
百合子の迫力に気おされた西条が我に返る。

(なんて迫力だ…。とても彼の母親とは思えんな…)

「ほら、さっさと泣き止んで」
「ぐすっ…うん…」



「令子ちゃん、水を持ってきたよ」
「ありがとう、西条さん…」
「落ち着いてよかった」
「お母さまのおかげよ…」
「そ、そうか…」
(とりあえず、令子ちゃんの方は安心だな…)

自分ではなく横島の母が落ち着かせたことに軽い嫉妬を感じながら西条は安心していた。



病室


「おキヌちゃんも少しは休みたまえ」
唐巣神父が、このままではキヌが倒れると思い声をかける。

「私…ヒドイ女ですよね…」
「えっ…?」

「私…ルシオラさんがいなくなってホッとしてたんです…」
「おキヌちゃん…?」
「横島さんの隣は自分だって言いたかった…。
ルシオラさんよりも横島さんのことが好きだって、言いたかった…」

「横島さんに生きてくれって言われたとき、嬉しかった…。
横島さんにまた会えたとき、嬉しかった…。
生き返った事よりも一緒にいられることが嬉しかったんです」

「あのヒトよりずっと前から横島さんが大好きだって言いたかった…。
あのヒトがいなくなることを、私が望んだんです…。
横島さんが泣いているときも私が抱きしめたかった…」

「横島さんの気持ちより、自分の気持ちが大切だったんです…。
酷い女ですよね…横島さん、こんな女の子、嫌いになりますよね…」

「おキヌちゃん…」
「だから、横島さん、あんなことを…」

「それは違うと思うな…」
「神父?」

「横島君は君を責めたかい?」
「いえ…」

「もし彼がそんな風に思っていたら、君達を責めたはずだよ」

「唐巣神父…」
そういうとキヌは泣き出した。

(やれやれ…こういうのは私ではなく、横島クンの仕事だがなぁ…)
キヌにハンカチを差し出しながら神父は思うのだった。


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