31 山の上で、決戦!・後前編
「大丈夫‥‥ だよな?」
そうつぶやく横島が居るのは死津喪比女がれいこの魂を取り込むために設けた祭壇に近い岩陰。そこに身を隠し様子を探りに出たおキヌを待っている。
彼女が出るにあたり、危険だからと止めてはみたが、情報がなければ始まらないという点とそれができるのは”堤”側壁に沿って飛ぶことで見つからずに近づけるおキヌしかないという点。加えて、『できることはさせてください!』という当人の強い意志を前にしては他に選択肢はなかった。
心配を紛らわせるため、ここまで自分たちは運が良かったのだからこれからも運は良いはずだと根拠のない楽観を自分に言い聞かせる。
実際、ここまでそれに恵まれていたのは間違いない。何と言っても、敵に見つかるどころか姿すら見ずに済んだのだから。
智恵たちの陽動があったにせよ、運命の女神が向こう十年分の幸運を一括先払いしてくれているとしか思えない。願わくば、さらに十年分の幸運を全て失っても良いから、もうしばらくこの幸運が続いて欲しいものだと思う。
「とは言ってもなぁ」とため息と共にグチが漏れる。
運が良くてもどうにもならない問題が控えている。
どうやって祭壇に近づくか? 今隠れている場所から祭壇までは平坦な回廊になっていて身を隠す余地はまったくない。
唯一の死角は側壁だが、そこはほぼ垂直に切り立った岩の壁。それ用の器具でもあれば別だが、人という生き物は素手で岩肌に貼り付き移動するという芸当はできないようになっている。
そもそもおキヌが(偵察に)出たのは、そこが通過不可能と判断したからだ。
何となく掌をかざし霊力を生み出す。ここ数日で霊力を強め形成するコツを覚えたが、それが何の役にも立たない‥‥
‘待てよ?! 本当に使えないのか、これは’
ふと考えついたことに僅かな光が見えた気がする。
”堤”の下からほの明るい陰火を従えたおキヌが浮かびあがる。
それを安堵で迎える横島。未だ何も始まっていない状況で『安堵』もないのだが。
一方、おキヌは小さく微笑みその気持ちに応えてから口元を引き締め
「横島さんの予想通りでした。ちょうど智恵様と犬塚様が死津喪比女さんと向かい合ったところです」
「やっぱり置いてきぼりにするつもりだったんだな」
間に合ったのを喜ぶ横島だが、智恵と人狼の少女だけという事は‥‥
浮かんだ不吉な想像を頭から追い払う。姿がないからといって最悪の状況(例えば、死)とは限らない。それに、今はれいこの救う事が最優先だ。
「それで”美神”さんは?」
「祭壇に寝かされています。意識はありませんが特に怪我をしている様子とかはないみたいでした。それと死津喪比女さんは残る相手は智恵様と犬塚様だけって思っているようで他に注意を向けている様子はありません」
そう言い終えたおキヌは自分の掌に目を落とし、
「この手が届く側ところに”美神”さんがいたんです。でも私には見る以外にできることはないんですよね。もし私に体があれば助けられたのにって、残念です」
むろん、実体がないからそこに近づけたのは解っている。しかし、それが精一杯の自分が悔しい。
‥‥
気持ちを察するに余りある横島だが、今の自分に彼女の有り様を変える力はない。小さく頭を振ると明るい声で、
「よし、行こうか、おキヌちゃん! 今が”美神”さんを助ける絶好の機会だからな」
「はい!」おキヌも気持ちを切り替える。
ここで嘆いたところで何の益にもならないことは承知している。
「それで”美神”さんのところにはどうやって行きます?」
「これを見てくれ」と手を差し出す横島。薄く目を閉じると集中を高めていく。
それに合わせるように両の掌に光、掌に広がるとある種の実体を備え始める。
「それって霊力が形になったものですよね」
「そうさ。それで感じは? 眩しいとか肌にひりひりするとかはない」
「特にそういった感じは(しません)。でもどうしてそんなことを尋ねるんですか?」
「ほら、霊力って、それを感じる人やモノはけっこう遠くから判るみたいだろ。近くのおキヌちゃんでそれなら、よほど近づかない限り死津喪比女がこれに気づくことはないと思うんだ」
「それは‥‥ たぶん大丈夫だと思います」
と答えつつも意図が判らないと首を傾げるおキヌ。
それに対して『これが答えだよ』と横島は側壁に降りるべく身を屈めた。
「本当に凄いですね! こんなことができるなんて思ってませんでした」
「だろう! こう上手くいくとは自分でも思ってもいなかったけどね」
と少女の賛嘆に似合わない自信を見せて横島は応える。
たしかに、霊力で作った”手”を吸盤のようしてほぼ垂直な岩肌に張り付くことも、それを操り動く事も並の人間にはできない芸当だ。
余談ながら、上手く行っている大きな理由に日頃から覗きなどで壁に張り付いたりよじ登ったりした経験があるというのは”らしい”といえばらしい話だったりする。
途中、”滝”−”堤”から溢れた水が落ちる場所−で手こずりはしたが祭壇のほぼ真下に到達。
そこでしばしにやける横島。事前に霊力回復に必要と説明されてはいるおキヌだが、どこか納得がいかないという風なのはご愛敬というところか。
ややあって霊力を持ち直したところで登りに入る。”美神”の元までまであと少しだ
‘不覚!!’
焦りさえ感じていなければどうと言うことのないほどのわずかな凸凹にシロは躓いてしまった。人狼としての反射神経によりよろめくだけで済むがそこに見逃されるはずのない隙が生じる。
案の定、父の刀がその”隙”を切り裂く。
さっ 鋭く風を切る音の後、身を翻したところでよろけるシロ。
かすめただけで済んだ形だが、その切っ先は踵の腱に届き断っていた。
ふっ シロは自嘲めいた笑みを漏らすと霊波刀を消し構えを解く。
‥‥ まるで悟りを得た僧が佇むような無防備さにかえって怪しむ犬塚。
切っ先を娘の胸元につきつけ、
「いったいどういうつもりだ?」
「動きの要となる足がこうなった以上、父上を助けるなど夢。であれば、”もののふ”として潔い最後を、という事でござる」
諦観した台詞にも警戒を解かない犬塚だが先の一振りの手応えから状況に嘘がないのは解っている。
「よかろう。除霊師が娘の魂を取り込めれば”肥やし”の必要もない。父としての情け、ひと思いに死なせてやろう」
それが望む答えとシロは胸を張る。その際、おそろしくさりげない動きで小さく跳躍、自分の胸をかざされたままの切っ先に押しつけた。
次の瞬間、
「何だ!!」と犬塚の驚きの声。
触れたところで服が裂けると十を越すだろう霊体−いずれも雑魚霊と言われる自意識を失ったものだが−があふれ出した。
「シロちゃん、こっちに」寅吉の屋敷を出る直前、智恵が人狼少女に手招きをする。
「何でござるか?」やってきたシロに智恵は一枚の”符”を取り出す。
「時間を止める技を教えられなかった代わり‥‥ というにはケチくさい代物だけど、これを使って」
「破魔札‥‥ 吸引札の方でござるな」
描かれた呪からそれが何かは理解するシロだが声に不審が含まれている。これから戦う敵はいずれも実体を有しておりこれが役に立つとは思えない。
その声にはならない疑問に智恵は、
「これは、一昨日、ウチのバカ娘が罠を張るために用意した”符”の一枚。すでに雑魚霊が入るだけ詰め込まれていて、封印に傷をつければ霊が飛び出すようになっているの。あなたの戦い方の場合、一瞬でも注意を逸らせれば効果は大きいでしょ。だから使えるんじゃないかって」
「智恵殿のせっかくの心遣いながらけっこうでござる。未熟とはいえ拙者も誇り高き犬神の末! そうした目くらましに頼るつもりはないでござる」
『姑息』とまでの言葉にも智恵は気を悪くする様子もなく
「犬神族は人と交わるのを嫌って隠里に移ったって聞いていたけど正しい判断ね。こんな風に単純に人の世の悪風に染まるんだから」
「どういう意味でござる?!」挑発とは分かるがシロの声音が厳しくなる。
「『どういう意味』も何も、人の世には自分のささやかな矜持が何より大切だって、できることをしない愚か者が普通にいるけど、犬神のあなたまで同じような事を言うもんだから。本来の犬神は何よりも仲間を大切にする一族なんじゃない」
‥‥ 淡々と語られるだけに余計痛烈な響く言葉に唇を噛むシロ。
別に議論するつもりはないと智恵は軽く手を振り
「まっ、持って邪魔になるものじゃなし。終わったらどこかに捨てておいて」
とシロの胸元、巻き付けてあるさらしの隙間に”符”を押し込んだ。
「小賢しい!!」
短く叫んだ犬塚は全身から高圧の霊力を発しまとわりつく雑魚霊を追い散らした。
その隙に乗じ躍りかかる白い影、獣形態となったシロ。そのまま折り重なって二人は倒れ込む。
倒れた拍子に刀を手放した犬塚だが、『逃がさぬ!』とばかりに霊力による”爪”を指先に作ると肋の辺りに打ち込む。
その痛みをものともせずシロは大きく息を吸い込むや
うおぉぉーん! と声を限りの一吠え。
その声に乗せ放たれた霊波弾は見事に”蔓”を捉え切断した。
ぐわっ! ”蔓”切られた瞬間、大きく身を震わせたる犬塚。
いったんは腕が緩み”爪”が消えるがすぐに元へ。未だその目の色は濁りと凶気を伴っている。
「雑魚霊を使っての目眩ましなど姑息な手を使いおって! ”もののふ”として、いや犬神として恥ずかしくはないのか?!」
「仲間を助くるは犬神の本性! まして今は父を想う娘! であれば、どんな手も認められるはずでござる!」
誇り高く応じたシロは霊力を込めた牙で首筋に噛みつく。そして残り僅かな霊力のありったけを父の体に送り込む。
意識さえ奪えば、なお父の中に居座る”死津喪比女”は消えると本能が告げている。
時間にして数呼吸分ほどの我慢比べ。
がくり シロの意識と”力”が尽きる。しかしそれは犬塚の意識と”力”が消えるのとほぼ同時であった。
‘‥‥!’シロに意識の灯が点る。
それがこんなにも重労働であったのかと思いつつ瞼を上げると視野の下に意識が途絶えたままの父の顔。その憔悴した様子を間近に心を痛めるが、同時に生きている事に深い安堵を覚える。
その気の緩みに再度意識が遠のくが何とか踏みとどまる。まだ、戦いは半ば。死津喪比女を滅ぼさない限り終わりはない。
すぐさまにでもと四肢に力を入れ愕然とする。ここまでの高揚で気づかなかったが、体力と霊力の限界はとうに踏み越えていたらしい。いくら意識で体を叱咤しても四肢は弱々しく震えるだけで応えようとはしない。
沖天に差し掛かろうとする満月の元でもこの様という事で今の戦いがどれほど薄氷を踏むものであったかを実感。自分の不甲斐なさに歯がみをしつつ寸刻でも早い回復を心に念じる。
「向こうのケリがついたようじゃ。まず相打ちというところか。妾の”僕”も小娘も意識を失い動けぬ様子よ。あんな小娘に”遅れ”を取るとは、犬神一の遣い手が聞いて呆れる」
呼吸を整えるために下がった知恵に死津喪比女は世間話ような気安さで嘆いてみせる。
「そう? 私は大したものだと思うけど。何たって、あなたの支配に抵抗して勝負を譲ることができたんだから」
「都合の良い解釈だな。人狼風情にそのような気の利いたマネが抵抗ができるはずはあるまい」
「それはどうだか、まっ、私にはどうでもいいことだけど! ただ確実なの、シロのお父さんがあなたの手を離れた以上、娘の魂を取り込むのは無理ってコト! つまり、私たちに負けはなくなったわ!」
「思ってもいないコトを」死津喪比女は冷ややかな言葉で切って捨てる。
「お前を殺せば取り戻すのに造作はない。それどころか娘も手に入る今、結界に必要な霊力は十分。月の動きに制約されなくなった分だけありがたい話よ。そうそう、霊力ということでは、お前も足しにはなろう。楽しみにしておくがよい、霊力を絞り上げる際の苦しみを。たいていの者はすぐに殺してくれと泣き叫ぶほどじゃからな」
「これまで何度となくそうした声を聞いたんでしょうね?」
「そう多くはない。たいていはそんな余裕もなく心の臓が止まるか心が砕けるからのう」
「ありがたいわねぇ そういう”良い”話を聞かせてくれて。あなただけは生かしておけないって気力が湧いてくるから」
「とはいえ、気力だけで妾には勝てぬわ! まして、お前一人しかおらぬとすればな」
「心配はけっこう! 私の側にはちゃんと心強い味方がいるから」
「ほう、妾には霊体も含めお前の側に何も見えぬが?」
「まっ、あんたの”節穴”じゃ、そうでしょうよ!」
話の間に息を落ち着かせた智恵は攻撃を再開すべく身を沈める。しかしそこで止まる動き。急に覚えた息苦しさと手足にまとわりつく妙な重さのせいだ。
「何、これは?! ‥‥ 何か仕掛けてたわね!」
「そういことだな。お前が妾の前に立った時より”花粉”を蒔いておいたのよ。咲いて間がないゆえ量は僅かだがそれで十分であろう」
「たしかに! 動くには困らないとはいえ、ここまで全力で互角だった事を考えれば、勝負は見えたってところかしら」
「そう、お前が引き裂かれて終わりだ」
「あははは! この”美神”がこの程度で終わりだって思っているなら、あんたも大したことはないわね」
自信たっぷりに智恵は手を背後に回し軽く力を込める。
あらかじめそういう仕掛けになっていたらしく簡単に引きほどかれる帯、そして脱げ落ちる服。下は胸回りと腰回りを隠しただけの半裸に近い出で立ちだ。
「何のつもりだ?」珍しく呆気にとられる死津喪比女。
以前、追っ払った蜘蛛の精が似たような格好をしてはいたから、何らかの例はあるのだろうが、およそ女性の格好としては一般的とは言えないはず。
『まさか色仕掛け?』と思いつくがあまりにバカバカしい発想に自分で自分を笑う。
たしかに子供を持った女性特有の柔らかさと鍛え上げられた戦士としての鋭さを併せ持った体の線は、そのメリハリの利いた体型と相まってたいていの男性を魅了して止まないだろう。しかし、魔のモノである自分に取り何ら意味は持たないことは言うまでもない。
そんな当惑をニヤニヤと見る智恵。抜き取った帯を手にしたまま
「動きやすい格好になることで鈍った分を補おうってわけ。知っている? 脱いだ服には修行のために十貫(約40Kg)ほどの錘が仕込まれていてね。それがなくなった今の私は三倍の速さで動くことができるの」
「何、本当か?!」警戒を強める死津喪比女だがすぐにからかわれた事に気づく。
怒りを発しようとした時、いち早く除霊師が投げた帯が蛇のようにのたくり宙をこちらに向かってくるのが目に入る。
‘生きている?!’反射的に払うがかえってそれで手に絡みつく。
そればかりか、絡まったところを始点に帯が腕から首の辺りへ吸い付くように巻き付きにくる。
「うっとうしい!」と力任せに引きちぎるが、それが決定的な”隙”に。
帯を投げると同時に行動を起こしていた智恵は掬い上げるように手にした服を死津喪比女に被せるように叩きつける。
どどどごぉん! 服の内に起こる続けざまの爆発。
数瞬、身を強ばらせ立ちつくす死津喪比女。
被せられた服を払いのけるとそこから風穴が幾つも穿たれた体が、穴の周囲は爆発の熱で燻っている。
「‥‥ 服に破魔札を仕込んでおったか?!」
「その通り! 霊能力では私を上回る娘が用意した”特製”、それもそれだけまとめて喰らうとずいぶんと効いたんじゃない。ああ、あと、帯には吸引札、こっちも娘が用意したものよ」
快心の笑みで種明かしをする智恵。
「言ったでしょ『誰が一人だって!』 娘が側にいてくれる以上、あなた如きに負けるはずないのよ」
「このままでは済まさぬ!」
やりとりの間に体を本体から切り離した死津喪比女が躍りかかる。
しかしそれは予想の内と最小の動きで避ける智恵。
「除霊師、”美神”智恵! あなたを極楽へ逝かせてやるわ!」
とすり抜け様の一閃を放つ。
それをまともに喰らう死津喪比女。前のめりに倒れ込むと燻っていたところから火が。それはあっという間に全身に及び体を炎の塊とする。
「これで終わりなら万々歳なんだけどね」
智恵は毒消しを含み霊力を体に行き渡らせる事で”花粉”の影響の軽減を図る。
つぶやいた通り本番はこれから。
ここまで何ら動きらしい動きを見せなかった本体−高さが三間に達する歪んだ球体の”瘤”−が動きを見せ始めた。
すなわち”眼”のある円周に沿ったあたりからは幾本もの大男の太股ほどの太さのある”蔓”が伸びだし大蛇のようにうねくり、それまで体を支えてい大男の胴体ほどはある十数本の”根”が連動した動きで体を運ぶ。
その悠然した様は”花”を失った事も自らが乗り出す事も余興の一つと確信していることを物語っている。
「動くのを見るとさすがに迫力ねぇ」と智恵。
如何にも気楽そうなつぶやきだが、それは空元気。戦士としての冷静さはこれから自分が著しく不利な、ほとんど勝ち目のない戦いを演じなければならないことを理解している。
相手の最大の武器は大きさそのもの。自分の霊力では霊波弾や霊力を込めた杖を何発打ち込もうと上っ面を傷つけるのが精一杯。手持ちの攻撃手段で最大の威力がある精霊石を使ったとしても致命傷には遠いだろう。
‘なら、やっぱりバカになるしか手はないようね!’
とうに下していた決断を再確認。足下の水筒を取り上げると半瞬の躊躇を経て中身を喉の奧へ一気に流し込む。
じわりと胃の腑の奧から広がる”熱”を意識しながら霊的中枢を全開。『これが最後!』とばかりに出せる以上の”力”を振り絞る。
そしてその”力”を後の世であれば超能力中枢と呼ばれる部位へ、活性化したそこが発する”場”は彼女に対する時の支配を(一時的に)解消する。
同時、智恵の視野から自分以外の全てが色を失う。どういう理屈かは見当もつかないが時間が止まった事を示す視覚的表れ。
そのモノトーンの世界を出せるだけ、いや出せる以上の速さで疾駆する。止まっている間にどれだけ走れるか、勝負はそれにかかっている。
「ほう、出し惜しみはせぬというところか」
死津喪比女は小賢しくも自分の手を煩わせるまでに至った除霊師が霊圧を限界にまで高める様を見下ろす。
たぶん人狼の超感覚ですら捉えられなかった”技”を繰り出すのだろうが、何ら恐れを感じない。なぜなら、その”技”が娘(もしくはそれに代わる霊力供給者)がいない以上、使えるのは一度、かつ、その一度でこの巨体を壊せるほどの力を持たないことは判っているから。
ふっ と消える除霊師の姿。落ち着いて待つが来るはずの攻撃が来ない。
‘どこにいる?!’と焦りに近い感情を抱く。
というのも、地中に身を潜め”花”を感覚の端末にするという存在形態から自身に備わった感覚器官は貧弱な上に死角も大きいため。一度相手を見失うとけっこうやっかいだ。
もどかしくも体の動かし除霊師を探す。そして捉えるその姿、除霊師は全速を持って祭壇へと走っていた。
‘おのれっ! 娘を害し魂を得られぬようにするつもりか!’
その予想外の行動の意味に思い至る死津喪比女、本物の焦りを感じずにはいられなかった。
ということで(前回同様)残り二編、「後後編」と最終話「旅は終わりに(仮題)」の予定(さすがにもう一編増えることはないと思いますが)。今少しおつきあい下さい。 (よりみち)
構成ミスと仰ってますが、戦闘シーンが長く続き話の展開が緩むのを避けるためには必要なことだと思います。
徐々に決着がつき始めていますが、メインイベントは未だ始まらず。
次話が後中編にならないことを祈りながら、静かに最後の戦いを待ちたいと思います。 (UG)