椎名作品二次創作小説投稿広場

絶対可憐チルドレン短編集

『悲しみと孤独と』（兵部）

椎名先生の最新作「絶対可憐チルドレン」の二次創作です。
一話短編の方式をとるので、このスレッドにしました。
何分、文章を書き始めて間がないので、至らぬところもありますが、よろしくお願いします。

　あの人がボクを殺す。
　その悪夢を繰り返し見る。
　パンドラは悪夢の箱、それをあけたら、でも最後にあるのは？
　ただ見るのはでも今は悪夢、あの人がボクを殺す悪夢。
　繰り返し繰り返し見る悪夢。

「京介どうしたの？」
「ああ、女王なんでもないよ」
　平静を装うために、ボクは二コリと、心配そうにボクを見つめる女王に笑いかけた。
　転寝をしていたなんて、不覚、と思う。
　ボクは遊園地のベンチでいつの間にかうとうとしていたらしい。
「うなされてたよ、京介」
「大丈夫だよ、女王、ありがとう」
　夢の中であの人はボクを殺す。
　それは間違いないけれど。
　でもそれは過去であり、もう過ぎたことだと思う。
「気分悪いんだったら帰る？」
「いやいや、せっかくこうして女王がデートにつきあってくれるんだから、帰るなんてもったいない」
　ボクは心配する女王に、大丈夫、大丈夫、と繰り返す。
　女王は小さい頃のボクにどこか似ている。
　強い能力故に疎んじられた、そしてようやく信じられる人に出会ったけど……信じている親代わりのあの人はボクを裏切った。
　だから多分あの皆本も……。
　ボクは頭をぶるぶると振った。このような考えは女王の前では出さないようにしたほうがいい。
　女王は割りと勘がいい。こんな考えをしていることを知ったら、すぐ帰ってしまうだろうから。
「……ねえ、京介」
「なんだい、女王？」
「辛い時は辛いっていったほうがいいよ」
「え？」
「悲しいときは泣いて、さびしい時は言葉にだして、そうすれば悲しいこともさびしいことも消えていくって……」
　ボクは優しい言葉を聞いて、少しうれしくなる。
　女王の口からこのような言葉が聞けるとは思わなかったから。
　誰もいない遊園地、今は女王とボクだけ。
　デートに誘って、来てもらえるとは思わなかったけど、また遊園地にはきてみたかったんだ。と女王はにこりと笑ってボクにつきあってくれたっけ。
「今日って八月十二日だろ、だからさ……」
「え？」
「誕生日おめでとう」
　女王は懐から何か取り出した。
　それは小さな箱、かわいくラッピングされていた。
「これ、ボクに？」
「……うん、誕生日おめでとう」
　多分バベルの不二子さんあたりから、誕生日きいてくれたんだなあ。と思う。
　とてもうれしくなってボクはにこりと女王に笑いかけた。
「あけていいかい？」
「うん」
　ボクは箱を受け取る。ベンチに座った僕は今は女王をちょっとだけ見上げる姿となっている。
「あ、写真立て」
「うん、結構これっていいかなって思って」
　小さな写真立てが、箱の中にははいっていた。
　ボクは、そういえば写真なんて何年もとってないなあ、と思う。
「京介、これからたくさん思い出をつくればいい」
「え？」
「泣きたいときは泣いて、悲しいときは悲しいっていえば、多分それは人に伝わるから」
　多分これは、あの皆本からの受け売りかもしれないなあ、と思う。
　でもとてもうれしい、とボクは思い、写真立てを懐の中へとしまった。
「ありがとう、大事にするよ、女王」
「おお、そういってもらえるとあたしもうれしいぞ！」
　小さな女の子は、いつか素敵な大人の女性になる。
　その時、できたら……幸せになってほしい。
　あの予知のような未来はできたらこないほうがいい。
　ボクは笑顔の女王を見てそう思う。
　あの悲しい未来が来ないことを、祈りながら。