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GS六道親子 天国大作戦!

タマモの碁! (前編)


投稿者名:Tりりぃ
投稿日時:08/ 7/17


 いつもは、唐巣神父の下で修行をする日だったが今日は冥子のたっての頼みで六道女学院に来ていた。
 と、言っても土曜日なので目の保養達はまばらだ。
 
「ごめんね〜、ど〜してもって言われちゃってお仕事が来ちゃったの〜」

 冥子がすまなさそうに肩を落として上目遣いをする。その姿は20歳以上の女性と言うより10代の
学生と言っても通じるだろう。その彼女に周りの人間は手を振る。

「私はOKよ。どうせヒマだったし、ヒマを持て余すよりはお金稼いだ方が有意義ってもんよ」

 ニヤリという類の笑いを浮かべる冥子と似たワンピースを来たタマモ。彼女はどちらかと言えばカジュアル
服が好みなので、今着ている服は冥子のお下がりだろう。相変わらず借金が返せていないらしい。
 彼女は美神令子とは対面していないハズなのだが、雰囲気はミニ令子と言っても過言でなくなりつつある。
将来的にも令子とタメをはる体つきになるだろうから、このまま行けば令子2号とか美神タマモとか
業界であだ名されるかもしれない。

「俺も冥子ちゃんの弁と…いや、会えるだけで満足だって」

 満面の笑みを浮かべ、冥子というより彼女の後ろでふらふら浮いている弁当(メイメイが持っている
のだが横島の位置からは浮いている状態)を見ている横島。

「そうでござる! どーんとまかせてくだされ!!」

 そして、呼ばれていないが数分前に横島を三途の川まで運ぶ追突を見せ…

「「いや、お前(シロ)は呼ばれてないだろ」」
「ヒ、ヒドイでござる! 拙者だけ除け者扱いでござるか?!」

 タマモと横島にツッコまれて涙を浮かべる犬飼シロ。が、視聴覚室に集まっていた。











 GS六道親子 天国大作戦! 21  〜 タマモの碁! (前編) 〜






 昼食をたいらげ、やっと仕事の話しになった。
 時々冥子はその潜在的実力に見合った、つまり今現在の実力では任務完了ができなさそうな仕事を
持って来る事がある。
 彼女の成長を促す為なのだろうが、冥子の顔を見れば彼女自身は迷惑と考えている様だ。
 
 冥子は気落ち気味に被害者達の顔写真のコピーを机に並べ始めた。

「最近〜 霊能力者の間で〜 こ〜んなスタンプを額に当てられる事件が多発しているの〜」

 見ればスプラッタな現場写真ではなく、証明写真に近いものだった。その額に大きくスタンプが
押されていなければ。

「丸に僕…しもべって意味かしら?」
「多分〜 しもべって意味で〜 押されていると思われるの〜 被害者達も〜 時々〜」
「冥子! その持ってる資料をこっちに渡しなさい!」

 冥子のトロイ説明に、早々に切れたタマモが冥子が持っている書類をふんだくる。
 冥子はちょっと悲しそうな顔をしているが、概ねタマモと同じ心境に至っていた横島とシロもタマモの
後ろから書類を覗き込んだ。
 
 スタンプを押された者は、強制的に3日に1度のペースで何かをやらされる事。
 スタンプは、シンナーでこすろうが皮膚を削ろうが消えない事。
 (実際病院で切り取ったが、治癒後に浮かんだスタンプの写真も添えられていた)

 被害は東京都内に限定されており、加害者も都内にいるだろう事。
 能力的に、ほぼ標準値な霊力保持者が襲われている。
 霊力は標準でも、霊能力が検索向き、もしくは小手先が器用な者達は、危険を回避した。
 
 スタンプが押された被害者は、被害の全容を語れない事。
 回避した数少ないツワモノの1人の証言によると、襲撃者は妖怪で部下に人間を数人連れていたと明記されている。

 つまり今回は、加害者を探し出し、襲い来る人間達を無力化し、妖怪を退治するというややこしい案件
だったりする。

「…気のせいか? 冥子ちゃんをぷっつんさせて、街中を破壊させてGS免許を取り上げようとしている
策略を感じるのは」
「う〜〜ん。これは見事に匂うわね」

 横島とタマモが小声で話し合い、静かに肯く。
 横島もタマモも、冥子がGS免許を取り上げられたら反論はできない。歩く暴走娘に一番手を焼いて
いるのは彼等なのだ。
 だが、彼等の飯の種は冥子なのだ。
 冥子がGSでなくなったら、路上に赤貧で転がるのは2人なのだ。だから、2人とも血の汗までかいて
冥子を手助けするのだ。

 心の中で泣きながら強く肯き合う2人を尻目に、冥子とシロは先へと進む。

「まず〜 加害者を見つけないとだめなの〜」
「任せて下され! この人狼族の鼻に隠せるものはござらぬ!」

 胸を張るシロに冥子が目をキラキラさせて、証拠物件を入れたジッパーを取り出した。

「これが、犯妖怪の毛らしいの〜 お願いできる〜?」
「任せて下され! では先生と共に!!」
「………あら〜?」

 話の流れに疑問を持って、首を傾げた時には既に遅かった。
 シロはジッパーを開けて鼻を寄せると、すぐさま横島の足にローラーシューズを履かせ、横島の
胴と自分の胴を紐で結び付けて走り出した。

「では、しゅっぱーつ!」
「ヒギャァァ―――?!」

 声が急速に遠のいて、ついでにドカ、ベキ、バキと音をさせながら走り去る2人に、冥子は声も
かけられなかった。

「せめて〜、いってらっしゃい〜って言いたかったのに〜」
「…で、これを手がかりに追えばいいのよね。じゃ」

 シッパーを持って去ろうとしたタマモの腕が引かれ、渋々ながら振り返る。
 そこには、予想通り冥子がにこやかに笑って手を掴んでいた。

「こういう時は〜 2人1組が鉄則よ〜〜。だから〜 タマモちゃんと一緒に行くわ〜〜」
「い、いや、単なる調査よ? そこまで徹底しなくても…!」
「一緒に行きましょうね〜〜」

 悪気100%なしで、自説を曲げる気なし100%の笑顔を前に、タマモは折れるしかない。

「大丈夫です! 私も付き合いますから!」
「…じゃぁ、いざって時には身を呈して私を守って頂戴!」
「う! 持病のシャクが…!」
「………」

 いきなり逃げる魔族のメイメイに、タマモは口元を引きつらせるのを止められなかった。



 心で泣きながら、タマモはジッパーを片手に、一番最近被害にあった現場へと足を運んだ。
 タマモは勘働きを馬鹿にはしないが、科学的調査というのも馬鹿にはしない。
 最も、その科学的うんぬんは火曜サスペンス劇場にかなり毒されているが。

「フ、犯人はこの近くにいるわ! ジッチャンの名にかけて!」
「…じっちゃんって誰〜?」
「テンパっていますね。タマモさん」

 道の真ん中で仁王立ちしてどこかを指すタマモに誰も乗ってこない。
 道行く通行人もあからさまに目を逸らしている。

 なんとかストレスを発散させたタマモはしばらく目を閉じて立ち尽くした。
 冥子もクビラを出して辺りを見渡すが、さっぱりわからない。痕跡がないのではなく、痕跡があり
すぎて目が回るのだ。

「ふにゃぁ〜〜〜〜」

 目を回してふらふらする冥子を横目に、タマモは目を見開いて勢い良く人差し指でさした。

「あっちよ!」
「ふにゃ〜〜、あっちじゃない〜〜?」

 ふらふらしながらも、冥子はタマモとは違う方向を指す。しかし、タマモは頭を振った。

「そっちは生きていない。あからさますぎる! こっちの細い方は生きた匂いがするわ!」
「そう〜〜」
「じゃぁ行きましょー! れっつごー!」

 ガバっとタマモが指差した所にあったマンホールの蓋を開けた。さすがは魔族、力は強い。
 しかし…

「にょほ?!」
「臭っ?!」

 その開けたマンホールからの下水道の臭いでメイメイとタマモは瞬時に気を失ってしまった。

「メイメイちゃ〜〜ん? タマモちゃ〜〜ん?」
「う〜〜。もういっぱいですぅ〜。むにゃむにゃ〜」
「借金がいちま〜い、にま〜い、うう〜〜〜」

 慌てて冥子が2人を揺さぶるが、2人はダウンしたままだ。


 ここでタマモチームの足が止まったので、シロチームに視点を移す。
 シロはトップスピードで走りぬいていた。そして急激に止まった。それは横島にいつもの悲劇を呼んだ。
 そのまま前方に投げ出され、紐に勢いを殺されると思われたが要領よく、シロが霊波刀で切っていた
ので横島だけが地面に突っ込む形になった。
 シロが足を止めたのは、小さな社だった。人気はないが掃除はされている。

 横島の悲劇をシロも、そして目の前に座っている妖怪も目を向けなかった。いわゆる無視だ。

「そこの明らかに怪しい狸妖怪! 年貢の納め時でござる!」

 右手を左の腰辺りに構えたシロが、目の前の妖怪に声をかける。
 すると、妖怪は賽銭箱からゆらりと立ち上がった。そのお陰で今まで見えにくかった顔が見えた。
 丸顔で目の周りにクマがある。シロでなくても狸妖怪と言われる面だった。

「さぁ、尋常にしょーイタ!」
「勝負じゃないだろ!」

 いきなり決闘モードに入ってしまったシロに横島がド突いて止めた。

「見ろ! こいつの額を!」
「先生…あ〜」

 抗議をこめて横島を見てから狸妖怪を見て、シロはがっかりした声を出した。
 狸妖怪の額には丸に僕のスタンプが押されている…この妖怪は被害者であり、外れだ。

「お前等もわかりやす〜いワナにかかったもんじゃ」
「あう!」
「しかし、あながち外れでもない」
「「え?!」」

 狸妖怪に皮肉を言われて冷や汗をかくが、その次の言葉に驚愕した。

「って事はつまり!」
「俺はヒントを与えるように言われているんだ。じゃなかったら、こんな女人も幼女もいない
面白くない場所にはいない!」
「…また、サラリと問題発言を」
「おお!」

 狸妖怪の説明に横島は額に手をあてていると、シロがまた右手を左腰辺りに持っていく。
 その戦闘態勢を見た狸妖怪が慌てて手を振る。

「…待て待て待て! 言っておくが、俺は野蛮な妖怪じゃないんだ!」
「ヒントを言うか、霊波刀を味わうか、どちらが良いでござる?」
「俺は被害妖怪で、少なくともお前達の邪魔をしていない!」

 軽く殺気も放つシロに、狸妖怪が汗だくで後ろににじり下がる。その姿はカツアゲの現場にも
見える。この場合、シロが加害者だが。

「シロ、まぁまぁ」

 横島が鼻息荒いシロを羽交い絞めにして止めると、狸妖怪もホッと一息ついて額をぬぐった。

「で、どうやったらヒントを教えてくれるんだ?」
「それは勿論、しりとり合戦ジャァ――――――!!」
「「はぁ?」」

 いきなり熱血して拳を上げる狸妖怪に、横島とシロは気抜けした疑問の声を上げてしまうが
そんな事は気にせず、サっとシロを指差した。

「というわけで『や』からじゃ。ほれ、次」
「や、や、や?! ヤキソバ! 先生! 『ば』でござる!」

 思わずしりとりを始めてしまうシロに、横島も混乱しながら続けてしまう。

「バ?! バーモンドカレー! 『れ』だ!」
「れ、れ、れ、レモネード! 『ど』だ!」

 
 10分後

「レーズン! し、しまった!」
「や、やっと終った…」
「フ、先生と拙者の師弟攻撃の前では、井戸黄門の印籠の前に崩れる悪人がごとし!」

 3人とも、汗だくになって崩れ落ちた。気付けばしりとりに熱中してしまい10分もハイテンションに
怒鳴りあえばさもありなん。
 
 しばらくして息が整った狸妖怪が、ポケットからジッパーを取り出した。中にはやはり毛が入っている。

「これが、本当の犯妖怪の毛だ。これで嬢ちゃんでもわかるだろう」
「む、難しいでござる」
「そりゃぁな。じゃが、急がなければならんぞ」

 ニヤリと笑う狸妖怪に、シロと横島が首を傾げる。

「あの方も文明的な戦いが好きでなぁ。しかし、俺と違って絶対人質をとってから勝負に挑む。
それも野球拳が大好きなんだ」
「「……え」」
「俺も子供を質にとられてなぁ…野球拳の前に屈したが」

 涙ながらに渡されたジッパーを手にしながらシロは瞳を燃え上がらせる。

「なんとヒキョウな…! アレ?」
「ああ、なんて羨まし、いや、ヒレツな手段だ! ん?」

 横島も瞳を燃え上がらせている。こちらの燃料は正義心ではない様だが。
 ギリギリ拳を握り締めていた2人だったが、そこに前触れもなく小さなモノが落下してきた。
 驚く2人の前で地面に潰れた落下物がムクリと起き上がった。

「ヒドイです…せめて、私を受け止めて欲しかった」

 ヘロヘロになりながら、顔を上げたのは顔見知りのメイメイだった。

「メイメイ殿?! どうしたのでござる?」
「そうです! 冥子さんが、マンホールで人質に! タマモさんが勝負に打って出まして!
はっきり言って劣勢なんです! 助けて下さい!!」
「劣勢? あのタマモが?!」
「ハイ!」

 驚いたシロに律儀にメイメイが答え、勢い良く後ろを指差した。

「あっちにいるので助けて下さい!」
「………アバウトな」
「任せて下されぇ―――!!」

 シロが青筋立てて勢い良くメイメイが指した方向へと走っていく。というか、忍者もどきに飛んで行く。
 勿論、普通の人間である横島にそんなシロの後は追えない。

「で、やはりあの野球拳か、魔族の嬢ちゃん」
「ハイ! もうひたすら劣勢です!!」

 シロの姿が見えなくなった方向を見ながら確かめる様に話す狸妖怪に、メイメイはムダに力強く肯いた。
 そして、自身は戻ろうと飛び立とうとした所でムンズと捕まえられた。

「何?!」
「ヒィ?!」

 目を血走らせる横島に、メイメイが怯えるが横島は彼女を掴んだ手を放さなかった。

「誰だ!? 誰が野球拳をやっとるんじゃ?!」

 ほとばしる強気に、メイメイが青ざめながらも口を開く。

「いえ、賭け碁っていうんですか? 劣勢になった方が一枚一枚脱いでいくっていうか」
「誰じゃ?!」

 が、横島が知りたいのは状況ではなくて、被害者の名前だ。

「め、冥子さんです」
「冥子ちゃん―――!!」

 悲鳴を上げて頭を抱える横島のスキを突いて、メイメイが離れると、横島は数秒沈黙して佇んだ。 
 その間の彼の脳内煩悩映像は凄まじく、溜まっていく霊力に狸妖怪はともかくメイメイさえも
青ざめていく。そして

「うが―――!! 許さん―――! 天が許しても、悪魔が許しても、俺のモンじゃ―――!!」

 吼えたかと思ったら瞬時に消えた。それを見ていたメイメイと狸妖怪が瞬きをするが事実は変わらない。

「えっと」
「あの男、瞬間移動能力があるのか?」

 横島を知らない狸妖怪が怪訝に訊くが、メイメイはあやふやに首を横に振る。

「いえ、ないと思うのですが」
「そうか。まぁ、人間というのは凄いな」
「そうですね」

 必要に迫られて瞬間移動か。と、青ざめながら肯く人間外の2人だが、横島が規格外すぎるだけである。




 一方、感心されていた横島だったが彼は彼で路上に転がっていた。
 なぜ転がっているかと言うと、冥子の野球拳と聞き慌てた彼が、おっちょこちょいにも『超加速』
もどきを行ってしまったからである。
 超加速とは韋駄天という神様の技であるから、横島は使えない。が、彼は以前韋駄天に身体を貸した
為に身体は『超加速』の技を覚えていたのだ。
 が、所詮は神様の神通力を持って成し遂げられる技なので、今の横島の霊力では「もどき」となり、
1秒も持たずに霊力が枯渇し、身体が壊れてダウンしてしまった。

 突如空中から現れて倒れた様に見えた横島を気遣って、周りにいた人達が心配そうに寄リ始める。
 が。

「あかん―――! 今倒れたら冥子ちゃんとタマモとシロの野球拳がぁぁ―――!
白いみずみずしい(以下自主規制)」

 あまりに危ない事を叫ぶ横島に、周りにいる女性からは白い目で見られている。

「しかし、ここで、ここで倒れたらアカン! ウサギ追いしあの山もこの山も越えなきゃアカン!」

 更に意味不明になりつつある言葉を叫びながら、緩慢な動きで、しかし指だけは迅速に動かして
携帯電話を操り始めた。数秒後、通じるとフ、と苦笑いする。

「…すまん。1丁頼む」
『代金は着払いでっせー』
「わかった」

 携帯を切って数分すると、頭上から何かが落ちてきた。
 先程のメイメイとは違い、彼は綺麗に着地するとス、と丸いモノを突き出した。
 
「お待たせしましたぁー! 小鳩印のシメサババーガー1丁!」
「…悪かったな。代金はコレ」
「おおきに!」

 現れたのは小鳩の家にいる貧だった。
 貧は、横島から渡された千円札を握り締めると下手な口笛を吹きながら雑踏に消えて行く。
 その姿を見送り、決意を固めた横島はシメサババーガーの包装を開けた。

「ウ?!」
「オエ?!」
「何? くさっ」

 そこから流れるなんとも言えない悪臭に、横島はともかく周りにいた人達も悲鳴を上げる。
 視線が集まってくるのは感じていたが、横島は覚悟を決めた。

「なむさん!!」

 ハム!

 一口かぶりついた瞬間、バッタリ倒れた少年に周りにいた人達が慌て始める。
 それを尻目に、肉体という檻から解き放たれた横島は、その人には見えぬ魂のみの身体で
気合を入れた。

「待ってろ! 冥子ちゃん! 野球拳!」

 救急車が近づいて来たのも無視して、横島は己が信じる方向へと足を早めた。


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