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続・まりちゃんとかおりちゃん

第四話 xxxじゃないモン!(前編)


投稿者名:あらすじキミヒコ
投稿日時:08/ 6/16

  
「そう、妙神山へ行きたいんだよ……!!」
「修業が必要ですからね。
 ……未来へ戻るためには!!」

 妙神山へ連れていって欲しいと懇願する二人の女子高生、まりとかおり。
 彼女たちの前には、美神と百合子がいるが、二人ともすぐには返事をしなかった。
 これまでの短い会話から、百合子も、妙神山が霊能力の修業をするところらしいということは理解している。だが、詳しいことはわからないため、百合子は、美神の顔色をうかがったのだ。
 その美神は、眉をしかめて、難しい表情をしていた。少しの後、彼女は口を開く。

「おキヌちゃんと横島クンの娘だからね。
 あんたたちだって、それなりの霊能力は
 持ってるんでしょうけど……」

 美神の直感は、すでに、霊能力者としての二人のレベルを感じ取っていた。そして、それを確認するために、

「とりあえず、あんたたちの力、
 見せてくれないかしら……?」

 と促す。
 まりとかおりは、やや緊張した表情で互いの顔を見合わせ、黙って頷いた。




    第四話 xxxじゃないモン!(前編)




「……そんなんじゃダメね」

 まりとかおりは、ネクロマンサーの笛も吹き、霊波刀も出してみせたのだ。それなりの手応えは感じたのだが、美神には、あっさり否定されてしまった。

「なんで……?
 おやじだって……
 霊波刀くらいしか使えない段階で
 妙神山へ修業に行ったんだろ!?」
「成長のピークをすぎないほうがいいんでしょう?」

 なおも二人は食い下がる。
 しかし、かおりの言葉を聞いて、美神が呆れ顔になった。

「あんたたち……まさか
 最難関コースを受けるつもりだったの?
 成長のピークどころか
 ……全くのヒヨッコのくせに!?」

 あまりに無謀なことを二人が考えているものだから、美神は、息巻いてしまう。
 まりとかおりは、返す言葉もなく、小さくなっている。
 美神の口調に含まれる小さな怒気は、百合子も感じ取ったようだ。だが、自分の立場を心得ている彼女は、

「なんだか話がキナ臭くなってきたわね。
 霊能のことは専門外だから……」

 と言って、キッチンから出ていった。
 赤ん坊のまり・かおりの世話をしにいったのだろう。代わりに、横島とおキヌが戻ってくる。

「どうしたんスか、美神さん!?」
「この二人、身の程知らずもいいところだわ!
 ……親の顔が見てみたいわよ、まったく!!」

 あてつけのつもりはないが、美神は、そんな発言をしてしまった。


___________


 キッチンテーブルを囲む五人の若者たち。
 美神は、いつものようなボディコン姿である。そして、他の四人は、除霊仕事から戻った後、まだ着替えていない。つまり、おキヌ・まり・かおりの三人は、巫女服を着たままだった。
 そんな環境の中、

「……それは美神さんの言うとおりだな」

 話を聞いた横島も、まりとかおりの妙神山行きに反対した。
 横島自身、最難関コースは受けているし、また、美神が別の修業を受けたのも見学している。だから、妙神山の修業が死と隣り合わせだということを理解しているのだ。

「あーあ、おやじにも止められるようじゃダメだな」
「おとうさまなら……味方してくれると思ったのに……」

 ついに観念したようで、二人の顔に、あきらめの色が浮かぶ。
 
「あら、ずいぶん素直なのね?」

 美神が説得してもハッキリした態度を見せず、横島の一言で陥落したのだから、美神としては面白くない。そもそも、まりとかおりに対しても少し腹を立てていたのだ。しかし、

「これが父親としての威厳っスよ!」
「……『威厳』なんかじゃなくて
 『娘に甘い父親』だからこそ……
 反対意見に重みがあるんでしょうね」

 なんだか誇らしげな横島を見ていると、滑稽に思えてくる。そして、心の中にあったモヤモヤも消えていくのだった。
 二人の会話を聞いて、まりとかおりも苦笑している。
 横島も何か言おうとしたが、そんな彼の前に、お茶が一杯差し出された。

「まーまー。
 ……よかったじゃないですか」

 おキヌが、自分と横島の分を用意していたのだ。
 彼女は横島の隣に座り、自分の湯呑み茶碗に口をつける。そして、まりとかおりに対して微笑んだ。

「今のまりちゃんとかおりちゃんでは、
 まだ妙神山は無理でしょう……?
 きっと鬼門さんにも負けちゃいますよ」

 おキヌとしては何気ない言葉のつもりだったのだが、まりとかおりは、過敏に反応する。

「鬼門……!!」
「鬼門なんですね!?
 この時代ならば……
 まだ鬼門が門番をしてるんですね!?」


___________


「そういうことだったね……」

 美神が小さくつぶやく。
 まりとかおりが妙神山で修業したい理由を理解したのだ。
 最難関に挑戦したいというのだから、文珠を獲得して、それで未来へ帰るつもりだったのだろう。しかし、それだけではなかったのだ。二人は、この時代の妙神山の方が未来の妙神山より簡単に入山できると考えていたに違いない。

「未来では……もう鬼門はクビになってるのね?」
「クビだなんて……」
「美神さん……そんな身も蓋もない言い方を……」

 おキヌと横島は軽く突っ込むが、まりとかおりは首を縦に振っていた。

「そうなんだよ。
 一応、まだ門に貼り付いてるけど……」
「実際に出てきて相手するのは、鬼門じゃないですからね」

 二人が説明し始めたが、美神は、手を振ってこれを制止する。

「……もう手遅れよ。
 この時代でも……だんだんそうなってきてるわ」

 美神は、小竜姫から聞いた話を思い出していた。
 アシュタロスとの戦いが終わってから再建された妙神山は、外観は同じでも、中の構成メンバーが微妙に異なっているのだ。パピリオとルシオラが加わったのである。
 その姉妹が、最近、鬼門たちの代わりに通行テストの試験官になっているらしい。並の霊能者が勝てる相手ではないため、

『これじゃ誰も来てくれないじゃないですか!』

 と、小竜姫は嘆いていたのだ。
 ただし、世の中には、敵が強ければ強いほど燃える男もいる。そんなバトルマニアは、この二人と戦うために、すでに最難関コースをクリアしているにも関わらず妙神山に通いつめてしまうのだ。
 パピリオは彼のことを『ルシオラちゃんが相手すると喜ぶ』と揶揄し、

『戦闘狂みたいでちゅからね。
 戦いを通じて、友情とか……
 愛情とか育てちゃうんでちゅよ!』

 とまで言っていたのだが……。


___________


「管理人のダンナがみずから出てくるなんて
 ……反則だよな。
 管理人と二人で仲良く、奥に引っ込んでればいいのに」
「こら、まり!
 そういう未来情報を具体的に言っちゃダメでしょ!?」
「いいじゃねえか、これくらい」
「よくありません!
 あなたは、いつも……」

 美神が短い回想をしている間に、まりとかおりは、言い争いを始めそうになっていた。
 二人の会話を耳にして、美神はハッとする。

(『管理人のダンナ』……?
 『管理人と二人で仲良く』……?
 パピリオとルシオラではないのね!?)

 そう、美神の知る現状とは違うのだ。詳細を聞きたい気持ちにもなったが、美神が口を開く前に、横島が割って入った。娘たちの仲裁するのかと思いきや……。

「どういうことだ!?
 小竜姫さまにオトコが出来るのか!?
 ……おい、それは誰なんだ!?」
「横島クン……?
 あんたが興奮することないでしょ?」

 美神は、横島にジトッとした目付きを向ける。
 今度は、横島がハッとする番だった。横島は、隣に座るおキヌに目をやる。彼女は笑っていたが、その笑顔の裏に別の感情が隠されていることを、横島は十分理解していた。


___________


「おやじは……あいかわらずだな」
「……ほんと。
 でも、そこがおとうさまの魅力ですわ」

 未来での両親の姿を思い出したのだろう。まりとかおりが笑っている。
 どうやら、横島の迂闊な発言は、期せずして二人の諍いを止めることになったようだ。
 顔を見合わせた二人は、どちらからともなく頷いた。

「小竜姫さまは出世したんだよ」
「まだ妙神山にいらっしゃるけど……
 もう管理人ではないのです」

 まりにあわせて、今度は、かおりまで情報を漏らす。口をすべらした以上、ここまでは伝えておこうと決めたのかもしれない。
 妙神山には行ったことがない二人だが、育ちが育ちだけあって、霊能業界の噂には精通していたのだ。

「だけど……
 『じゃあ誰が管理人?』とか聞かないでくれよ!?」
「キリがないですからね」

 二人は、ここで止めようとしたが、横島が少しだけ食い下がる。
 
「具体的な名前までは聞かないが、
 一つはっきりさせたいんだ。
 新しい管理人さんにはダンナがいるんだろ。
 ……ということは、また管理人さんは女なんだな?
 美人の管理人さんが面倒みてくれるんだな?」
「そんな……どこかのアパートじゃあるまいし」

 『美人の管理人さん』にこだわる横島に対し、軽いツッコミを入れるおキヌ。
 横島は、再びハッとしておキヌのほうを向いた。彼女は、さきほどと全く同じ笑顔を浮かべている。
 
「まあ……いいわ。
 だいだいわかったような気がするから」

 放っておいたら堂々巡りしそうだったので、美神が口を挟んだ。
 まりとかおりは、妙神山へ行かないことを納得したようだし、また、未来のことを詳しく話すつもりはないようだ。それならば、もう、この話題は終わりである。
 これ以上話を続けるのだとしたら、妙神山修業の代案なり、未来へ帰還する方法なりを検討するべきだ。
 美神が、そう考えた時。

 ピンポーン。

 来客を示す音が聞こえてきた。


___________


「……誰が来たんだ?」

 横島が立ち上がり、玄関へ行く。
 ドアを開けると……。
 しっぽを生やした少女が立っていた。

「先生、ひさしぶりでござる!
 先生とおキヌどのの御息女を見に来たでござるよ」
「……シロ!?」


___________


「あら……シロちゃん!?」

 キッチンに連れて来られたシロを見て、最初に声を上げたのはおキヌだった。

(そういえば……)

 出産後まだ病院にいた時期に、おキヌは友人たちへ報告の手紙を書いていた。シロに対しても『赤ちゃんが生まれたので、そのうち見に来てね』と連絡してあった。
 しかし、半ば挨拶として書いた文面である。まさか、シロが早速やってくるとは思っていなかったのだ。

「あっ!
 シロねえちゃんだ!」
「シロおねえさま!?」

 おキヌに続いて、まりとかおりも反応する。
 だが、シロから見れば、見知らぬ二人だ。シロの視線に気付き、美神が二人を紹介した。

「まりちゃんとかおりちゃん。
 ……横島クンとおキヌちゃんの娘よ!」
「おお!
 人間の子供が……
 こんなに早く大きくなるものだったとは!!」

 シロ、勘違い。
 ここへ来た用件が用件だっただけに、仕方がないだろう。

「違うのよ、シロちゃん。
 この二人はね……」

 苦笑しながら、おキヌが、まりとかおりについて話し始めた。
 時間移動などしたことないシロが混乱しないよう、ゆっくり噛み砕いて説明している。
 おキヌが語る横で、

「ちょうどよかったじゃない。
 妙神山へ行くんじゃなくて……
 シロに修業つけてもらいなさいよ!」

 美神が、まりとかおりに話しかけた。

「せめて……
 人並みサイズの霊波刀を出せるようにしなさい!
 それも、二人がそれぞれで出せるようにね。
 それくらいできないと妙神山最難関は無理よ!?」

 理にかなった提案だが、まりとかおりは、渋い表情をしている。

「シロねえちゃんは……。
 トレーニングと称して
 ひたすら走らせるからな」
「あっ、馬鹿!
 それを言ったら……」

 まりの失言を聞き咎めて、かおりが注意したが遅かった。
 シロにとっては、おキヌの話は難しく、右の耳から左の耳へ抜けていく始末。その分、彼女は、修業やトレーニングといった言葉に反応してしまったのだ。

「おう、サンポがしたいのでござるな?
 では、さっそく行くでござる!」
「えっ!?」
「ちょっ、待っ!?」

 左手でかおり、右手でまりの腕を引っぱり、シロが出かけていく。
 こうして、一時は六人に増えた人数も、三人に半減した。

「シロちゃん……
 私の話、わかってくれたかしら?」

 ポツリとつぶやくおキヌだったが、美神は、おキヌの言葉もピント外れだと思う。

「そんなことより……
 止めなくてよかったの?
 あんたたち今日は
 仕事帰りで疲れてるんじゃないの?」
「止める暇なんてなかったっスよ、美神さん。
 そもそも美神さんが
 『シロを師匠に』なんて言い出すから……」
「……私のせいじゃないでしょッ!?」

 余計な一言のために、美神に叩かれる横島であった。


___________


 上は袖を切った短めのシャツで、下は片脚しかないジーンズ。つまり、シロの服装はいつもどおりである。
 一方、まりとかおりは、依然として巫女服姿。走りにくいことこの上ない格好だったが、それでも、シロに引きずられるようにして駆けていく。
 夕方にマンションを出た三人は、真っ暗になった頃、東京から離れた高原地帯まで辿り着いていた。

「森の中なら危ないけれど……
 これだけ開けた場所なら大丈夫でござる!」
「大丈夫じゃないですわ!」
「どうやって帰るんだよ!?」

 シロは、まだまだ体力が有り余っているように見える。しかし、まりとかおりは、いくら横島の娘とはいえ、すでに肩で息をする状態だった。

「帰る……?
 何を言ってるでござるか?」

 速度は緩めたものの、まだ脚は止まっていない。
 今、三人が歩いているところは、緑の山々に挟まれた谷間であった。ただし、たいらで広い場所というわけではなく、石や岩がゴロゴロしている。
 ちょっとした名所旧跡のようで、何やら表示も出ているようだ。しかし、暗いので三人とも書かれている内容までは読んでいなかった。

「では……霊波刀の修業を始めるでござる!」
「え〜〜っ!?」
「今から……!?」

 まりとかおりの抗議も聞かずに、シロは、周囲を見渡した。

「あの岩……普通じゃないでござろう?
 あれが斬れれば……凄いでござる!!」

 大きな石に心惹かれ、そちらに向かう。
 柵で囲まれているが、シロは、気にせずに入っていった。

「『凄いでござる』って何よ!?」
「まったく……シロねえちゃんもあいかわらずだな」

 文句を言いながらも、ついていく二人。
 先に岩の前まで来たシロは、二人のほうを振り返り、霊波刀を出現させる。

「……ということで、まずは例を!」

 シロが斬りつけると、石には、一筋の大きな傷がつけられた。

「今度は御二人の番でござる!」
「はいはい、わかりました」
「それじゃ……いっちょやるか!」

 満足げにしっぽを揺らすシロに促され、まりとかおりが手を重ねた。
 二人の顔から疲れたような色が消えて、合わさった手から短い霊波刀が出てきた。 
 シロの斬り跡に重ねる向きで振り下ろそうとするが、

「……向きが違うでござる!
 ちゃんと修業の意味を考えてくだされ!」

 これを、シロが慌てて制止した。
 二人の体を引っぱり、立ち位置を移動させる。

「修業の意味!?」
「……『十文字石』のつもりかしら?」
「なんだい、そりゃあ!?」
「昔の中国のお話よ。
 ま、気にすることないわ。
 ……シロおねえさまも、
 ちゃんと理解してないみたいだし」

 コソコソと言葉を交わしながら、二人も霊波刀を振るう。

 ガツンッ!!

 シロのつけた跡にクロスして、一本の線が刻まれた。十字状の傷が出来上がったのだ。
 しかし、シロは満足していなかった。

「まだまだでござるな。
 これでは……。
 ……ん?」

 言葉の途中でシロが顔をしかめたのも無理はない。
 石が巨大な妖気を発し始めたのだ。

「なんでござるか!?」
「なんという強力な霊的プレッシャー!」
「まぶしいくらいだわ!?」

 ものの例えではなく、その岩は、本当に発光していた。
 その輝きは、グングン増していく。
 そして……。

「……あんたたちなのね!?
 私に霊力を流し込んでくれたのは!?」

 光が収まったとき、そこには、一人の少女が立っていた。
 年のころはシロと同じくらいだが、雰囲気は全く違う。
 短めの茶色いスカートをはき、白い長袖ブラウスに紺色のベストを重ねていた。
 色気とは違う魅力を醸し出す服装であったが、それは、夜の暗さのために三人には伝わっていない。三人の視線は、少女の首から上に向けられていた。
 最も特徴的なのは、美しい長髪だったからだ。黄金色に輝き、後ろ髪などツインテールどころか九つに分かれている。
 また、大きめの目をしているのに、目尻が上がっているために、キツネ目という印象も与えていた。
 その目に敵意を込めて、少女は、三人を睨む。

「おかげで復活できたけど……
 でも今のは痛かったわよーッ!」
「……おまえは!?」

 シロの感覚は、目の前の少女が人間でないことを察知していた。
 そして、まりとかおりは、少女の正体まで知っていた。

「……タマモねえちゃんじゃないか!!」
「ということは……。
 わたくしたちが斬りつけた岩って
 ……殺生石だったのですね!?」



(第五話に続く)
 


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