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第三の試練!

〜母と娘と朝食と〜


投稿者名:ヨコシマン
投稿日時:08/ 5/18

『疲れているところ悪いけど、ちょっと出られるかしら?』

 二日目の朝、まどろみの中から横島を叩き起こした電話の主は、申し訳なさそうにそう言った。
 寝ぼけ眼で見た時計は、午前十時の辺りを指している。どうやら昨日小竜姫の来訪の後、ずっと眠ってしまっていたようである。
 そんな起き抜けのまとまらない思考のまま電話に出た横島が、その声が美智恵のものである事に気が付くには数十秒の時間を要する事となった。

「ごめんなさいね、無理を言ってしまって。」

 申し訳ない気持ちを眉宇に漂わせ、美智恵が運転席の窓から顔を出す。
 電話から約一時間後、美智恵の車は横島のアパートの階下に停まっていた。

「い、いえ、それは構わんのですが、何か俺に?」

 突然の電話と車での出迎えに少々戸惑いながら、横島は美智恵の顔色を窺った。

「ええ、ちょっと貴方に話したい事があって。でもこんな所で話すのもなんだから、取り敢えず乗ってもらえる?」

 横島の体から滲み出る微かな警戒心を解きほぐす様に、美智恵は優しく微笑むと助手席のドアを親指で指し示した。

「えーと・・・、それで話と言うのは・・・?」

 美智恵に言われるがままに助手席に乗り込むと、横島は恐る恐る本題に触れようと試みる。本題と言っても、実際のところ横島には美智恵が何のために来たのか、おおよその見当は付いていたのだが。
 問題なのは、どんな用件でここに来たのかは分かっていても、彼女が何を言いに来たのかは分からないという事だ。

「横島君、朝ご飯まだでしょ? 美味しい所知ってるから、まずは腹拵えしましょ。話はそれから、ね?」

 横島の疑念を分かっていながら、美智恵はその気持ちをいなすように笑顔を作る。完全にはぐらかされた格好となった横島はそれ以上何も言えなかった。











「どう? 美味しいでしょ?」

 やや自慢げな笑みを浮かべながら、美智恵は横島に一度視線を送ると同時にパンを一切れ頬張った。
 焼きたてのパンの香りとふわふわのオムレツ。取れたての新鮮な野菜のサラダ。濃厚なコーンのスープとソーセージがゆっくりと湯気を立てる。
 それらを眼前に並べて、夢中で口中に放り込む横島は送られた美智恵の視線に気付こうともしなかった。
 その姿に半ば呆れながら、美智恵は軽く苦笑いを浮かべると自分もパンをもう一切れ口に入れる。
 今は何を言っても耳に入らない様子の横島を見て、美智恵は取り敢えず目の前にある食事の始末を優先する事にした。

「満足してくれたかしら?」

 やや濃い目のブレンドコーヒーを一口飲んで、美智恵が笑顔で尋ねた。その視線の先には満足げに腹を膨らまして椅子にもたれる横島が映っている。

「いやー、焼きたてのパンがおかわり自由ってのは素晴らしーっすね。いつもは米だけど、パンっつーのも悪くないっす。」

 そう言って満足気に笑う横島につられるように、美智恵もまた微笑んだ。

「そう、良かったわ。ここは朝食が美味しいって評判なのよ。」

 何気なく横島が食堂内を見渡すと、なるほど殆どのテーブルは自分達と同じように食事をする人達で埋まっており、美智恵の言葉が嘘ではない事を証明していた。

「もういいの?」

 きょろきょろと辺りを見回す横島に美智恵が声を掛ける。もう食べないのか、という意味である。

「あ、はい。もう満足です。」

 周囲に気を取られていた横島は、不意に掛けられた美智恵の声に一瞬体を強張らせると返事と同時に頭を下げた。

「じゃあ、そろそろ本題に入りましょうか。」
「う・・・、お、お願いします。」

 先程までの温和な微笑から一転、真剣な眼差しで美智恵に見据えられた横島の体に緊張が走る。
 車に乗った時から覚悟はしていたものの、美味しい食事でつい心が緩んでいたようだ。横島はそもそも何故美智恵と食事をしているのかを思い出した。

「例の依頼、もう決めたの?」

 単刀直入、明瞭簡潔。いつものような遠回しな探りも揺さぶりも無く、美智恵は真っ直ぐに切り込んできた。
 その表情にはいつもの余裕のようなものは無く、かといって鬼気迫るといった感じでもない。
 横島に対して真っ直ぐに座り、その瞳は横島の視線から決して外れない。真摯、という表現は今の彼女の為にあるようにすら思える。

「あ、いや、それがその・・・。」

 あまりに直球でぶつけられた質問に、横島は逆にどうしていいか分からずにただ狼狽した。もう少し変化球的な事を言われたりするのだろうと思っていたのだ。
 そんなはっきりとしない態度の横島を見ても、美智恵はその表情一つ変えずに静かに頷いた。

「そうよね。そんな簡単に決められるものじゃないわよね。」
「す、すんません。」

 背中を流れる冷や汗を感じながら、横島は思わず謝罪の言葉を口にした。

「貴方が謝る事はないわ。お願いしなきゃならないのは私の方だもの。」
「お願い?」

 表情を緩めないまま、僅かに申し訳なさを瞳に滲ませて言った美智恵の言葉に、横島は片眉を僅かに上げて思わず聞き返した。

「そう、お願い。」

 横島の問いに短く一言だけ言葉を返した美智恵は、突然椅子から立ち上がると静かにテーブルを横にずらして横島の正面に跪いた。

「うわっ、ちょ、ちょっと何をしてんすか?!」

 唐突に目の前で正座をし、両手を地に付けた姿勢となった美智恵に驚いた横島が思わず立ち上がる。
 その異常事態に気が付いた周囲の食事客達からはどよめきが起こっていた。

「や、やめてくださいよ、ほら、皆見てますって!」

 ざわざわと細波のように他の客達の動揺がホールに広がり、そこにいた全員が美智恵と横島に釘付けとなった。
 横島はそわそわと辺りの反応を確認すると、美智恵の手を取って立ち上がらせようとした。

「いいえ、聞いて。いや、聞いてください。」

 美智恵は掴まれた手を振り払うようにしてもう一度その手を地に付けると、深々と頭を下げて静かにそう言った。
 その姿にどうすれば良いのか分からなくなった横島は、もう諦めたかのように両膝を地に付けて呆然とするより無かった。
 僅かな沈黙がその場を支配した後、ゆっくりと頭を起こした美智恵は横島の両目を見据え、震える唇をゆっくりと動かした。

「無理な事を言ってる事は重々承知しています。それでもお願いします。横島君、どうか令子を・・・令子を助けて下さい。」

 何か電気のようなものが、横島の頭蓋から爪先まで貫いたような気がした。
 言葉を巧みに使って依頼を受けさせようとするのではなく、少しづつ外堀を埋めて依頼を受けざるを得ない状況に持っていくのでもない。
 ただひたすらに恥も外聞も無く懇願する。あまりに愚直なそのやり方は、失礼な言い方ではあるが美神家の人間にはあるまじき類のものである。

「あ、あのその、そんな・・・ちょっと待ってくださいよ。」

 両手をブンブンと振り、しどろもどろにそう答えながら、横島は混乱しきった頭を何とか立て直そうと必死だった。
 ホールには怪訝な顔で囁き合う他の客の声が重なり合い、そこで働くスタッフ達もどうして良いのか分からずにただ様子を見る事しかできないようであった。

「ごめんなさいね、こんな卑怯な事をして。でも、もう私にはこれ以外あの子にしてあげられる事が無いの。
 私があの依頼を受けることが出来るのなら、今すぐにでも過去に戻って助けてあげたい。だけど私はもう過去には戻れない。
 よしんば過去に戻れたとしても、私ではあの大蛇にはきっと勝てないわ。」

 膝を折り、手を付いた姿勢のままで美智恵は横島に訴えた。そこには計算も画策も何も無い、必死の思いがはっきりと見て取れる。

「で、でも俺じゃもっと無理にしか思えないっすよ・・・。」

 謙遜でも嘘でもない。横島なりに真面目に自己分析しても、五年の修行程度であの大蛇を倒せるとは到底思えなかった。

「そんな事は無いわ。五年後、私たちの中で一番可能性があるのは貴方よ。決して冗談でも贔屓目に見てる訳でもないわ。」
「そ、そこまで買ってもらえるのはありがたいっすけど、可能性はあくまで可能性な訳で・・・。」

 困りきった表情を浮かべて横島が呟く。
 横島の言う通り、“高い可能性”は“確実”ではない。無論、最も可能性が高いと言っても、それは“令子の周りに居る人間達の中で”、という比較的な観点からの高さに過ぎないのだ。
 実際のところ、予測しうる全ての結果の中においての可能性の高さから言うならば、横島が大蛇の胃袋にすっぽり収まる可能性が最も高い事は言うまでも無かった。

「分かっているわ。私が今貴方にお願いしている事がどんなに危険な事なのか、言い換えれば貴方に死ねと言っているのと同じだものね。
 ・・・それでも、私は貴方にお願いするより他に選択肢が無いの。」

 そう言い切って頭を下げると、美智恵はそれ以上何も言葉を発する事無く微動だにしなかった。
 事の一部始終を小声で話しながら見ていた周囲の者達も、ここに至って咳き一つ漏らす事無く、ただ二人の動向を固唾を呑んで見守っている。

「お、俺は・・・、その・・・。か、勘弁してください・・・!」

 ホールを支配する異様な雰囲気と、目の前で土下座する美智恵の無言の重圧にどうしたらいいのか分からず、横島は捨て台詞を残してホールから飛び出して行った。












 横島が去って何分が過ぎただろうか。一人残された美智恵が静かに体を起こしたとき、美智恵の視界に細く白い脚が二本映った。それはやや短めのスカートを穿いた女性の脚である。

「良くここが分かったわね。横島君をストーキングでもしてたの?」

 その脚の持ち主を即座に思い当てた美智恵は、敢えてその相手と視線を合わせない。そんな彼女の顔付きは横島と居た時のそれとは全く違う、冷ややかなものになっていた。

「横島クンのアパートに行こうと思ったらママの車が停まってたのが見えたのよ。悪いけど後をつけさせてもらったわ。」
「あらそう。」

 自分で質問しておきながら、その答えに興味が無さそうに目を伏せて美智恵が呟く。

「そんな事より、どういうつもり?」

 静かな、しかし明確な怒気を含んだ声が美智恵の頭上から振り下ろされた。それは相手を威圧するに充分な語気であった。
 だが美智恵はその強い言葉を意にも介さない様子で立ち上がると、膝を軽く払って椅子に座りなおした。

「何が?」

 何を怒っているの、と言わんばかりに涼しげな顔で美智恵が問い返す。その視線の先には彼女の娘、令子が眼光鋭く母親を睨み付けながら立っていた。

「何が!? よくそんなふざけた事が言えるわね!」

 美智恵の態度が癇に障ったのか、令子は先程の静かな口調から一転怒りを顕にして一歩前に出た。

「誰がそんな事してくれって頼んだの?! 私の運命は私が決めるわ。余計な真似しないで!」

 先程美智恵が横にずらしたテーブルの端を、令子が激しく叩く。令子がここまで強い憤りを見せるのは滅多に無い事であった。

「馬鹿な事を言わないで。彼が依頼を受ければおまえを助ける事が出来るのよ。お願いする事の何が悪いの。」

 冷淡な表情で令子の怒りをいなす美智恵に余計に腹が立ったのか、令子はさらに一歩踏み出すと今までより少し怒気を抑えて尋ねる。

「じゃあ、どうしてこんな所でわざわざ横島クンを困らせるような真似を? お願いしたいなら彼の部屋でも出来るわよね?」

 この質問の答えは既に出ている。少なくとも令子にはその理由が分かっていた。ただ、万が一にも自分の予想と違う答えが出る事を令子は祈っていた。

「・・・効果的だからに決まっているでしょ。」

 つまらなそうな顔でそう美智恵が言い放った瞬間、令子の右手がどけられていたテーブルの上にあったグラスを掴み取ると、そのまま中の水を美智恵の顔に叩き付けた。
 横島が去ってから誰一人声を出さずに様子を窺っていた他のテーブルから、再びざわめきが起こる。
 水を掛けられ、顔を背けて眼を閉じた美智恵はその姿勢のまま動くことは無く、グラスを握る令子の右手は怒りに震えていた。

「最低。」

 一言。そう言い捨ててそれ以上母親と目を会わす事無く、令子は足早に出口へと歩き出した。その顔には怒りよりも悲しみが強く滲んで、まるで泣いているように見えた。

「嫌われちゃったわね。」

 レストランを出て行く令子を目で追うことも無く、濡れたままで静かに美智恵は呟いた。
 困惑した顔でウェイターが差し出したタオルを受け取りながら、美智恵は強く想う。

(たとえあの子に憎まれても、恨まれたって構わない。あの子を助ける方法が一つしかないのなら、私は鬼にだってなるわ。)

 拭き終わったタオルと迷惑料を笑顔でウェイターに手渡すと、美智恵はそのまま出口へと歩き出した。
 人として間違っていると言われれば、そうなのかも知れない。自分の娘と引き換えに他人の命を賭けようというのだから。
 だけれど美智恵には綺麗事を言うつもりは毛頭無かった。ただ、どんな事をしてでも絶対に娘を守るという強い意志の炎だけが、彼女の胸の中で燃え盛るのみである。













「何だってんだよ! あの人は!」

 額に巻いていたバンダナを引きちぎる様にして外すと、横島は怒声と共に雑草の茂る地面に向けて叩き付ける。
 美智恵との会話から逃れるようにしてレストランを飛び出して、気が付けばアパート近くの河川敷で座り込んでいた。
 その顔に怒りと言うよりも苛立ちを強く滲ませた横島は、小さく舌打ちをして午後の人気のない土手に乱暴に寝転がった。

「いっつもいっつも無茶苦茶言って来んだよな、あの親子はよー!」

 手足を広げ大の字に寝転がりながら、横島は投げ遣りな気分を隠す事無く独り言ちた。

「大体、俺がやらなきゃいけない理由がどこにあんだよ! 別にあの事務所に命捧げる義理はねーぞ!」

 やってられっか、と吐き捨てて横島は目を閉じると、大きく息を一つ吐いた。

(良く考えたら時給は酷いわ、労働条件は過酷だわ、何度も死に掛けるわ・・・碌な事ねーよ、このバイト。)

 心の中で呟きながら、今までの事をあれこれと思い浮かべれば、今までに受けた肉体的な苦痛の記憶がそれはもうリアルに思い出される。

(韋駄天の時も、狼王の時も、死津喪比女ん時も、アシュタロスも、あれもこれも・・・今まで生きてるほうが不思議なぐれえだよ。)

 これ以上この仕事をやっていく意味がどこに在るのだろうか。確かに、人の命を救う事は立派な事だ。真の男なら、美神令子を助けるのが正解なのかも知れない。
 しかし、助ける側もまた命の危険に晒される状況で、手を引いたとしても誰も責めはしないのではないか。
 ましてや、今日の美智恵のようにあからさまに断りにくい空気を作られては、逆にやる気が失せるのも仕方の無い事ではないのか。
 次々と横島の脳裏に否定的な考えが浮かび上がり、その一つ一つに心の中で頷く。
 繰り返されるその作業によって、横島の中で“依頼を断る為の正当性”が見る見るうちに積み上げられていった。

「決めた! もーあかん。断ろう。誰が何と言おうと絶対断る。例え美神さんにシバかれようとも絶対に断っちゃる!」

 自分自身に言い聞かせるように、横島は一人青空を睨んだ。
 澄み渡るような青空にゆったりと雲が流れ、初秋の風が川面を走り横島の頬をくすぐる。
 その風に触発されたかのように、大きな欠伸が出た。
 その欠伸と眠気が昨日今日とあまり熟睡出来ていなかったせいなのか、はたまたどんな形であれ結論を出した安堵感からかは分からないが、心地よい風を受けた横島の瞼は睡魔の誘うままに静かに閉じられていった。












「ぶうぇっくしょん!」

 夕暮れの河川敷に大きなくしゃみの音が響いた。
 既に辺りは薄暗く、沈みゆく夕日は殆ど建造物の陰に隠れている。
 くしゃみの反動で無意識に上半身を起こした姿勢のままで、横島は自分が土手の芝生で寝ていた事を思い出した。

「・・・さぶっ。」

 九月も終盤になると、日中の暑さとは裏腹に夕刻は涼しくなる。そんな秋の始めの風が、寝起きでまだ意識がはっきりとしない横島の体を吹き抜けた。
 反射的に体を震わせて、両腕を擦るような仕草を見せると、横島はもう殆ど見えない夕日を眺めながらおもむろに立ち上がった。

「帰るか。」

 ぼそりと小さく呟き、重い足取りで踏み出す一歩。
 アパートはここからそう遠くは無い。横島は夕飯をどこかで買って帰るか、それとも買い置きのインスタントラーメンで済まそうかと、そんな取り止めの無い事を考えながら黙々と歩き始めた。
 今日あった事は出来る限り思い出さないように、なるべく別の、出来るだけ他愛の無い事を考えるよう努めながら歩いていると、気が付いた時にはもう横島はアパートの前まで来ていた。
 やはり夕飯をどこかで買ってくれば良かったな、と軽く溜息がこぼれる。横島は気だるそうに階段に視線を移すと、もう一度溜息を吐いて歩きだした。
 見慣れた鉄階段を上りきり、俯いて視線を足元に泳がせながら進む横島の足が不意に止まった。

「・・・あ。」

 ずっと足元の辺りを見ながら歩いていた横島の視界に、日頃から見慣れた“脚”が映ったからだ。
 驚きと気まずさの混ざり合ったような微妙な顔付きで視線を上げる横島に、その脚の持ち主もまた、なんとも言えない複雑な顔付きで寄りかかっていたドアから体を離した。

「美神・・・さん。」
「ちょっと・・・話、いい?」

 横島に名前を呼ばれて、少し困ったような笑顔を作った令子がドアを指差して言った。
 横島は言葉を発する事無く二、三度頷くと、慌ててドアの鍵を開けて令子を招き入れた。

「ち、散らかってますけど。」

 慌しく部屋中に散らばるゴミやら雑誌やらを部屋の隅に追いやりながら、横島が令子に視線を送る。

「男の子の部屋って感じねぇ。」

 その視線を受けて令子は苦笑いを浮かべると、横島が応急的に片付けたスペースに腰を下ろした。
 暫くの間きょろきょろと室内を眺めていた令子の視線が、不意に卓袱台の下辺りで停止した。

「へえ、アンタこんなのが趣味なの?」

 ごそごそと卓袱台の下に手を伸ばし、目的のものを手に取ると、令子はそれを部屋の片付けに追われている横島に指し示す。
 それは所謂性的な写真の載った雑誌であり、令子がペラペラとめくっているページには、裸体の女性や様々な制服を来た女性がこれでもかと言わんばかりに現れる。

「ちょ、何してんだアンタ!」

 片付けを中断して飛んで来た横島が素早く令子の手から雑誌を奪い取ると、素早く押入れに投げ込んだ。

「何恥ずかしがってんのよ。別にアンタぐらいの子ならそういうの読むの普通でしょ。散々セクハラしまくってるくせに。」

 そう言いながら、胡散臭いものを見るような目で令子はじとっと横島を見た。

「それとこれとは別なんだよ! “そうゆうのを見てる事”を知られるのは意味合いが・・・つーか、アンタ何しに来たんだ?!」

 何か用があったんじゃないのか、と言わんばかりの顔で残ったゴミやがらくたの片付けを再開する横島にそっぽを向くようにして顔を背けると、令子は口を開く。

「あんたさ、今日ママと会ってたでしょ?」

 その言葉に横島はぎくり、と無意識に体を強張らせる。その気まずそうな表情に一筋の汗が流れた。

「な、なんでそれを・・・?」

 令子と同様に相手の方向に顔を向ける事無く、そのままの姿勢で動きを止めた横島には、令子の反応を待つより他に選択肢は無かった。


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