「まったく、恥よね。GSの恥」
その後、外に出たはずの横島は何も発見できず戻ってきた。そして、こんな失態を晒してしまったGS協会への辛辣なコメントだ。
何しろ、全国ネットで恥を晒してしまったのだ。不法侵入した男に、GSが数人がかりで返り討ちにあい、会長は腰を抜かすし。おまけに最終的には逃亡される。
向こうの方では、西条が警察関係者と話し合っている。そのうち、西条が驚きと喜びの表情を浮かべた。
そして、足早にこちらに近づいてくる。かなり嬉しそうだ。
「さて、今回の件だが、警察当局とオカルトGメンの意見が一致した」
ニヤリと笑い、
「横島忠夫。君を逮捕する」
「は?」
呆気に取られる横島と美神。
「ま、待て!!」
「今回の件はうちの事務所とは無関係よ!だから彼が逮捕されても『自称GS』ということで」
「そっちも待て!!」
横島は、美神にも一応突っ込んで、西条に向き直る。
「証拠は、証拠はあるのか!?」
待っていましたとばかりに、西条が答える。
「ある。
まず、第一に仮面の男、アビスが現れた時間帯、君は会場にはいなかった」
「それはだな、声がしたから外に見に行っていたんだ」
「証人がいない。
何より、アビスの霊能力。はっきり言って桁外れだ。あれほどの霊能力がある人間。そうはいない」
少し、説得力がある説明だ。だが、
「はん。それだけで、俺が犯人扱いか?」
そうだ。横島を犯人と同定するにはいささか勇み足だ。
「そうね。それだけでは到底無理ね」
「いや、まだある。防犯カメラで確認した所、彼は圧倒的な力を示しただけで、最後は令子ちゃんとミラーには危害を加えずに去っていった。そして、最後にこう言い残している。
『目的は達した』
この言葉の解釈には迷ったが我々はこう解釈した。アビスはミラーを間近で見たかった、と」
盛大に横島はずっこける。
「あ、アホかー!誰がそんなことのために、危なっかしいことやるんだよ!」
「ふん、君ならあり得る!
そもそも、君は何しにこの会場に来たんだ?」
「それは・・・」
横島は事情を話した。
「招待状?見せてくれるか?」
招待状を差し出す。
「ふん、物的証拠だな」
「え?」
「招待状?そんなものを出していない」
ヒラヒラとその紙を振る。
「せめてもの慈悲だ。一応鑑識にはかけてあげるよ。ん?」
と、懐から霊視ゴーグルを取り出す。
「これは、霊視ゴーグルに改良を加えた物なんだが、変だな」
何度も凝視する。
「何が?」
「これが令子ちゃんの家に届いたなら、郵便などだろう?しかし、この招待状からは君たち以外の誰の霊気も感じられない。
ふ、やはり、偽物か」
大した事はないと判断したのか。
「連れて行け」
「あ、待って!」
二人の声が重な。
「どうしたんだい、まだ何か?
「そうえいば、私たち受付を通っているわ」
それを聞いた西条は後ろの警官に話しかける。
「今、監視カメラの映像を持ってくるよ」
数分後、テレビに映像が映し出される。
「何も、映っていないが?
映像には横島と美神の姿は確認できたが、肝心の受付にいた少年の姿はない。
「え、どういうこと?」
「安心したまえ、令子ちゃん。今回の件は君とは無関係だとしておくから」
と、横島に向き直る。
「連れて行け」
「うーん。変よね」
事務所に戻り、自分宛に来た招待状を眺める。横島宛の招待状は証拠物件として取り上げられた。
「あ、そうだ」
あの時間帯の事務所周りの映像を確認すればいいんだ。人口幽霊壱号が、自動的に事務所周りの映像を記録している。
「人口幽霊壱号、昨日の映像を出して。郵便が届いた時間帯よ」
間もなく映像が映し出される。
「・・・・・。あれ、変ね?」
事務所の郵便受けに近づいた人間は何人かいた。しかし、肝心の招待状を郵便受けに入れた人間がいないのだ。
美神は何回も見直す。
「おかしいわね」
これでは、やはり横島の自作自演と疑われても仕方がない。まあ、自分とは無関係だと言い切れる自身はあり、損は被らないようにはするが、いい気分ではない。
「美神さん。何かありました?」
おキヌがお茶と新聞を運んでくる。
「何にもないわね」
そう言って一口すする。
新聞には昨夜の事がデカデカト載っている。容疑者として少年Yを逮捕と書いてある。そして、アビスに対峙する自分とGSミラーが。
「まあ、うちの評判も。あ?」
映像に急いで向き直る。
「人口幽霊壱号。おキヌちゃんが郵便受けに取りに行く一時間前からの映像を」
やはり、郵便受けに怪しい動きをした人間はいない。しかし、そこには映っていなければならない人間も映っていない。
「昨日ここにGSミラーの助手が挨拶に来たわよね?彼女が映っていないわ」
この建物に入るには、必ず映っていなければならない。それこそ瞬間移動でもしなければ。しかし、強力な結界が張ってありそれは不可能だ。
「容疑者発見!!」
美神は掛けてあるコートを羽織る。
「さあ、行くわよ」
「はい」
おキヌも後に続く。
「うふふ」
「どうしたの?」
嬉しそうに笑うおキヌに問いかける。
「だって、横島さんの無実を証明するために必死に・・・」
「何を言ってるの」
美神は呆れ気味に呟く。
「真犯人を捕まえて突き出す。ついでに一応うちの事務所の関係者少年Yが無実である。
私のためよ」
「ふーん、ここか」
隣のビルの6階にそこはあった。
「さあ、突入」
扉を勢いよく開ける。
「いらっしゃいませ。あら、昨日はどうも」
そこには、スーツ姿のミラーがいた。
「ええ、どうも。
ちょっと、聞きたいことがあるのよね。いいかしら?」
「どうぞ」
と、応接席に勧める。二人が座るとお茶を持ったミラーがやってきた。
中は綺麗に片付けてあり、GSの事務所というよりは、インテリアデザイナーの事務所といった感じだ。
「それで、ご用件は?」
目の前に座り笑顔を絶やさない姿勢だ。
「まず、あなたは何処でそれだけの霊力を身に着けたの?
私には解るわ。あなた、昨日でも実力の一部しか出してないでしょう?」
自分ほどの霊能力者にもなれば、相手の力量くらいは読める。
「そうですね。その質問にはお答えできません。でも、後半部分は正解です」
やはり笑顔は絶やさない。余裕なのか?
「じゃあ、質問を変えるわ。目的は?」
「それもヒミツです」
溜息をつく。底がまったく見えないが、悪意は無いのだろう。
「なら、本題に入らせてもらうわ」
カバンから例の招待状を差し出す。
「これに見覚えは?」
ミラーは受け取り眺める。
「いいえ。まったく」
嘘発見器でも持ってくればよかったか。知ってますとは言わないだろう。
「昨日、これがポストに入っていたのよね。まあ、早い話がこれが物的証拠となって、うちの事務所のGSが少年Yになっちゃったわけよ」
「でも、見覚えがありませんわ?」
美神に招待状を返す。
「そう。でもね、こっちにも引っかかる事があるのよね」
「何です?」
「昨日、うちに来たおたくの助手が映像に残っていなかったのよね」
かなり核心を付いた質問のはずだ。
「何が言いたいのですか?」
「私の結論はね。貴方の助手、まあ、ぶっちゃけ貴方が犯人だと思うわけよ。貴方の助手が挨拶ついでに郵便受けに招待状を入れて行ったとね」
「ふふふ。それで貴方の事務所の監視をしている霊にアクセスして映像を消した?」
「ええ。どうよ」
何かドラマの刑事にでもなった気分だ。
「そうですか。なかなか楽しいフィクションでした」
やはり笑顔は絶やさない。
「え?」
「残念ですが、うちはまだ駆け出しのGSでしてね。助手は雇っていませんの」
そうえいば、助手が入ればお茶を出すくらいはしてくれるだろう。
「それじゃあ」
「ええ、無関係です。何ならご近所に尋ねていただいてもいいですわよ?」
その後、二人は肩を落として出て行った。
ビルの外を並んで歩いていく姿を眺めながら、ミラーは嬉しそうに呟く。
「なかなか優秀ですね。もうここまで辿り着くなんて」
その姿がゆっくりと薄れ、昨日美神の元に現れた助手、玉置の姿に変わる。
「でも、これくらいのトリックは見破れないとね?」