椎名作品二次創作小説投稿広場


混沌を追う

混沌さん、こんにちわ


投稿者名:ja
投稿日時:08/ 3/30

やがて、式典が始まった。
「まず始めに、今回の主役、GSミラーの入場です」
 舞台の中央から、床が競りあがってくる仕組みなのだろうか、ゆっくりと一人の女性が登場する。
 赤毛のロングヘアーを纏めるでもなく、ルーズに流している。その美貌はまさに天からの贈り物ともいえ、おそらく始めて見たであろう生の姿に男性陣は心を奪われる。服装は、今回の式典のために合わせたのか、淡いピンクのドレスを、身に纏っている。
「本日はこのような式典を開いていただき、ありがとうございます」
 まるで、言霊が宿っているのか、男性だけではなく女性までもが心を奪われる。
「へえ、やるわね?」
 おそらく、本当に言霊を宿しているのだろう。美神ほどの能力者であればこの程度の言霊は効果はなく、ただ冷静に見ていた。
「まあ、害はなさそうだし」
 言霊は霊力をさらに高めれば他者を洗脳することにも使え、大変危険なのだが、どうやらその心配はなさそうだ。
 ふと、横を見ると横島も同様に心を奪われている。
『まあ、こいつの場合は言霊にやられたというより・・・』
 若干呆れつつも、式典の行方を見守ることとした。

来賓が次々と挨拶をしていく。皆さまざまなことを述べているが、今回のGSミラーの人気にあやかりたいことが目に見えている。おそらく、それも見越しての先ほどの言霊だろう。
 そして、いよいよメインイベントの始まりだ。
「さあ、続きましてGS協会会長佐藤様よりGS免許の授与が行われます」
 会場が一気にヒートアップする。
 舞台中央にミラーと佐藤が立つ。
『茶番だね』
「え?」
 ふと後方で声が聞こえた気がして、横島は後ろを見る。しかし、そこには誰もおらず、誰も気にもしていない。しかし、空耳のはずがなかった。美神も同様に後方を振り返っているからだ。
「今・・・」
 声がしたあたりには出入り口が一つある。横島は何か危険なにおいを感じそこから外に飛び出す。
 美神もそれを追おうとするが、適わなかった。その時、悲鳴が沸き起こったからだ。
 一瞬、まさに一瞬であった。一瞬で舞台の中央に仮面をかぶった男が出現した。
「な、な・・・・」
 佐藤がその方向を見て唖然としている。
 会場には幾重にもガードが固めてあるし、いや、そもそも何故この男は一瞬のうちに舞台に現れたのだ。
 幻でも立体映像でもない。悪霊のはずもない。確かにそこには物理的な存在が感じられる。
「と、取り押さえろ!!」
 佐藤は一瞬で悟った。この男は危険だと!
 彼は立場上何人かの神族や魔族とも会ったことがある。しかし、彼らは立場こそ違えど、何かしらの信念を持っており、コインの表か裏の関係だ。しかし、この男は違う。
「おとなしくしろ!」
 オカルトGメンが数人飛び掛る。男は右手を軽く横に凪いだ。それだけで、数人のGメンが壁に吹き飛んだ。
その一部始終で十分であった。会場は一気にパニックに陥り、出入り口に人が殺到する。その様子をしばらく眺めた後、男はゆっくりと手を佐藤に向ける。
「ひ、ひい!」
 情けない声を出して、佐藤はその場で腰を抜かす。
「待て!」
 その前に西条が立ちはだかる。
「言っておくが、僕は彼らほど情けなくはないぞ!」
 壁に吹き飛ばされたGメンをにらむ。
「まったく、普段何をしているんだか?」
 西条は彼らの怠慢さを愚痴る。
「ふ・・・」
 男は両手を下ろして西条と向き合う。
「君、名前は?」
「アビス。無論、仮名だ」
「構わないさ。後でゆっくりと聞かしてもらうからね」
 霊剣を両手で構える。
「ゆっくりと本部で教えてもらうさ。なあに、お茶くらい出すさ。長い取調べになるかもしれないから、カツ丼もいかがかな?僕の驕りさ!」
 一気に間を詰め、上段から切りかかる。
 前回の大戦で、横島との差をまざまざと見せ付けられた。悔しいが、あの時は彼に一気に抜かれた。しかし、横島とて遊んでいてあれほどの力を手に入れたのではない。だからこそ、あの時から彼は陰で修行に明け暮れた。この一撃は、会心の一撃だ。受け止められうはずもない。しかし、その一撃はアビスを通り抜けた。
「え?」
 驚愕する。アビスはその場を動いていないからだ。
「くそ!」
 西条は続けざまに切りかかるが同様にすり抜けていく。
「すり抜けた?」
「違うわ」
「令子ちゃん」
 横に美神が立っていた。
「僕を、助け・・・」
「ふふふ。ここでこいつを仕留めれば、私の株は一気に!TVで中継もされていることだし、明日からは・・・」
 邪悪な呟きを聞かなかったことにして、西条はアビスを睨む。
「すり抜けたんじゃない?」
「ええ。かわしているの。紙一重の間合いで。しかも必要最低限の動きで」
「そんなことができるのか?!」
「可能よ。両者の実力に圧倒的な差があればね」
 西条はアビスの不気味な仮面を見る。そこには、無表情な顔が刻まれている。
「この、仮面の変態に?」
 西条は霊剣を左手に持ち替え、右手で懐から拳銃を取り出す。
「負けているはずが!!」
 素早い動きで連射する。しかし、アビスは微動だにせず、立っている。
「終わりだよ」
 アビスは一瞬で西条の懐に滑り込み、右手を凪ぐ。その一撃を霊剣で受け止めるが、あっさりと霊剣が弾き飛ばされる。
「そんな、まさか!」
「隙あり!」
 ここぞとばかりに、美神がアビスの後方から、神通棍で切りかかる。が、
「え?」
その一撃がアビスの後頭部にヒットするはずが、一瞬でアビスは姿を消し、挙句その一撃はアビスの目の前にいた西条の顔面にヒットした。
「あ、ごめん!」
 西条はあっさりと気を失った。
「おのれ、卑怯な!」
「ふふふ。広辞苑をゆっくりと眺めてくるといい」
 アビスは再び右手を凪ぐ。しかし、その一撃は美神に届く前に、受け止められた。
「お、お前は!」
「残念ね」
 そこには、いつの間にかドレスから着替えたのか、黒のパンツスーツに身を包んだ少女。GSミラーが立ちふさがる。
「せっかく、GS免許がもらえるはずだったのに」

 美神は両者を眺める。アビスは圧倒的な戦闘力を誇り、おそらく美神より遥かに上のレベルだろう。一流のGSにもなれば、相手の力量くらい解らなくてはならない。しかし、この少女は、その圧倒的な力を前にしても笑っている。
「馬鹿なのか?」
 アビスの右手が怪しく光る。
「邪魔だ!」
 圧縮した霊気の塊であろう。それをミラーに投げつける。
「!!」
 その圧倒的な霊気をミラーは左手で上方に弾き飛ばす。
「な?」
美神は驚きを隠せない。
当初美神は、ミラーをアイドル気取りの三流GSと決め付けていた。世間的にはどうあれ、本当の実力はたいしたことはないとたかをくくっていた。しかし、今の攻防で判断した。
「この子。できる!」
と、なると、美神は一つの作戦を思いつく。
 横目でミラーに合図を送る。彼女と共闘するのは、いや会うのも初めてだが、彼女なら美神の作戦に気づいてくれるだろう。
神通棍を下から振り上げる。
しかし、アビスはまたもや紙一重の間合いでかわす。
「その余裕が命取りよ」
 突如、アビスの後方から衝撃が走る。
「鞭?」
 美神は神通棍を鞭として使うことができる。棒のような直線的な動きはかわされても、油断している今なら・・・。
「それで?」
 大したダメージではないだろう。しかし、本命はそこではない。
「精霊石よ!」
 突如、精霊石が瞬く。ダメージは与えられないかもしれないが、これだけの至近距離で放てば、目くらましにはなる。
 そして、その後方より、ミラーが霊剣ジャスティスを手に切り掛かる。
「決まった!」
 バキィ!しかし、砕けたのは霊剣ジャスティの方だった。
「なるほどな。いい作戦だ」
 自身を挟んで前後に立つ、二人のGSに呟く。
「剣が折れもせず、これだけ見事に砕けたということは、今の一撃、強いてはお前の実力がすばらしいことの証だろう」
 アビスは上方を見上げる。先ほど、ミラーが弾いた霊気でできた大穴だ。そこからは星空が見える。
「目的は達した」
 ゆっくりと浮かび上がる。
「ちょっと!あなた、何がしたいの?」
「いずれ解る」
 やがて、その姿はだんだんと小さくなり、見えなくなった。
 後には二人が立ちすくむだけであった。


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